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[#40-双星の英雄、と私]

引き続き、「マスターデライト編」前章

[#40-双星の英雄、と私]


**05年の2月1日──。

弟達からの衝撃には、酷く引き摺っていた…。


弟達が、、、あの、マスターデライトに行く…だってぇ…?信じられない。


私も母も大反対だ。何されるのか判ったもんじゃない。他の家庭もこのような光景が盛んだと思う。思春期の男子にとって、マスターデライトは通るべき道だと、どこの情報筋なのか定かではないが、そう刷り込まれているよう。

プロトコルオメガに選ばれたら、英雄視される…街のヒーローになれる…男が考える事はこんな低層な事。少年達は希望の星として、マスターデライトに参加する事を生きる糧としていた。少女も参加資格を持っているが、あまり外界でのそういった様子を見た事は無い。参加資格を持つ事のできる年齢から3年前より、自主訓練に励む者も少なくない。街でトレーニングをする少年が多発するのは、新春と初夏。


そのトレーニングが功を奏するのかは…判らない。


私の家庭ではマスターデライトは否定的だった。


未だ開示されていない事が多い謎の場所。傷だらけで帰還する様子はよくテレビで流されている。初期のマスターデライトはテレビでよく特番を組んでいた。フェーダへの対抗策として、企画された強化人間開発育成プログラムって…。いつしかそんなものもやらなくなり、賛否両論の意見が政府にまで届く。

政府の意見を要約すると…


「だったら、親が子供を止めればいいだけ」

という意見。至極真っ当な正論ではあるのだが、納得はできない。まだ、子供なんだ…高校生でも無い…まだ中学生。ちゃんと発育途中の人間が3ヶ月後、傷だらけになって家に帰ってくる…パノプティコンアイランドから船で帰ってくる様は、親にとって命を削り取られるような痛々しい記憶。この口論は両者の“誰もが理解できる内容”で延々に続けられ、遂には世界国家首脳会議にまで持ち出される案件になった。

弟達は母親の否定を無視して、リビングを後にした。

私は2人の意見をちゃんと聞きたい。私も母と同様、2人がマスターデライトに行くのは否定的だ。

「どうして、そこまでマスターデライトに行きたいの?」

「街の英雄だよ!チヤホヤされたいんだよ!俺が強いんだって事を証明するには一番最適な場所だよ!国からの援助も特典にあるし、一生安泰した生活送れるんだよ!?それにねお姉ちゃん、大した事でもないらしいんだよ?だから、とりま行くの!」

「うん、そうだよ。姉さんも来たらいいのに」

「そうだよ!今年で年齢制限でしょ?お姉ちゃんは!」

「姉さんも一緒に行こうよ」

「んね!お姉ちゃんの事、俺が守ってやるから!」

「姉さんを守るのは俺だ」

「はぁぁぁ??お前に守れるわけねぇだろ!」

「またそれか…お前なんて泣いて終わりだろ。ちょっとデバイスを隠されたからってムキになって…そういう感情のアンコントロールさが、命の差し引きに繋がるんだよ」

「長々とめんどくせぇこと言ってンじゃねぇ口説い野郎が!」

「はーーーーい!!そこまで!!」

終わり所はいつも私がきっかけを作る。それがいつもの言い合いの終焉になっている。

「だってコイツが!」「だってこの男が!」

「アァん?終わリだっつっテんだロうガ…」

「う、、うん!ごめんお姉ちゃん…わかったよ…」

「姉さんごめん、、、」

「うん!判ってくれたらいいのよ」


2人の言い分はよくわかった。けど、賛成はできない…私の可愛い可愛い双子の弟なの…簡単にどっかに行ってほしく無い…2人は強い…それは私が判る。でも仮に最終選抜に行けたとしても…ここからは…?どうなるの…?ずっとセカンドステージチルドレンと戦う兵士として生きるってこと?

そんなの…嫌だな…。

いや。

凄くいや。

でも2人の意見を尊重はしたい。

それに最終的には、2人が決めた道を応援したい気持ちもある。

だから、、、、うん。しょうがないのかな。。


この日の翌日は、学期末テストの結果が発表された日。全教科安定の98点以上をマーク。

私は成績優秀、運動神経抜群、クラス…いや、学校イチのパーフェクト生徒として知られている女の子。もし?仮にぃ?マスターデライトに参加するような事があったら、他の参加者イチコロにしちゃうぐらいの力を発揮できるんだろうなぁ…。

ただ…単純にマスターデライトみたいに誰かと競って、それを明確な数値化をするのが嫌。テストも数値化されるってぇ?違うよ。テストは数値化するけど、それを公には発表しないでしょ?(そんな学校もあるんだろうけど…)。

「 はい!今回はよく頑張りました!」

とか、

「全主要教科、500点は君だけ!おめでとう!!」

とか、

そういうのがこの学校には無いからいい。でも運動神経を競うのはありすぎる。表彰台…表彰式…メダル付与…もうどういう事だよ…本当に恥ずかしいよ…このシステムがあるから、私はスポーツ面に於いて、本気で取り組んだ覚えが無い。

チャレンジ精神が無いんだ。

自由意志が無い。

親から言われた事をそのままこなしてきた。どんな事も取り敢えずはやってみて、駄目な方向に転んだら直ぐにでもリタイアする。それが私のモットーにある。

私は効率重視の女。自分に不必要なものはどんどん削ぎ落としていきたい。

回るケバブ。回るチャーシュー。

あれは、要るやつ。私のは要らないやつ。最後に残った肉が、“私の魂レベルで必要”と嘆いているもの。

時間を有意義に使いたいの。

だから弟達にもそんな事に時間を使わないで、もっと自分の…自分の今に役立つ事をしてほしい。別にそんなに未来の事まで考えなくていい。弟達には、幸せに暮らしいてほしい。いつか、嫁ができて結婚する。そんな幸福な暮らしを私は全面的にバックアップしたい。

ロードマップを作成する。弟達が安心安全快適に、大人になるための道を舗装する。

「お姉ちゃんありがとう!」「姉さん嬉しいよ!」

そんな声が聞けたらいいな…私の前でなんの嫌味スパイスの無い、サラの状態の顔面から形成される“笑顔”。

それを求めている。

引き出したい。

でも中々に掴みどころが無いのが現状。弟達の可愛さが薄れてきたのは、マスターデライトの原因が大いにある。

最終選抜まで行ければいいけど、行けなかった場合の事を考える。3ヶ月間のダイレーターケージで何を学びに行くの?何をするの?何をできたらいいの?私は知らない。知りたくもない。未知すぎる世界。その3ヶ月で何ができると思っているの。知恵を蓄えるには申し分無い時間。弟達の今は、一番大事な時期なんだ。次第に大人に近づいて、脳と身体が成熟していくシークエンスに突入している。私は2人に様々なアプローチを持ち掛けた。

◈─────

「あれ、やってみない?」「これやってみない?」「ねぇ!これなんて似合うと思うけどなぁ…うん!絶対似合うよ!」「うん!かっこいい!私受付されたいもん!」「ぜんっぜん違和感ないよ!1回やってみたら?」

◈─────────────────


「うん、ありがとうお姉ちゃん。考えとくわ!」

「ありがとね、少し考えてみるよ!」


この、、、一点張り!!!!!!!

大丈夫かな…嫌われてないかな…私は毎度話しかける際に不安になる。すると2人の方から話し掛けに来た。

「姉さん…友達のお父さんがね、ホテルマンやってるらしいんだけど、確かに俺の感じだとホテルマン似合うんだって…姉さん凄いね!」

ええええええええええ!!!!!!考えてくれてたん!!!しかも、友達に相談してるやんけええええええええええーーーー!!!!!マジかよーーー!!!!!

「ね!?言ったでしょ?私に任せておけば、大丈夫だから!」

「うん、でも、ホテルの人とかよくわかんないし、うーん、、興味無いから…ナシかな…ごめんね姉さん」

「ううん、ありがと、少しでも考えてくれて…!またなんか合いそうなのあったら、教えるからさ!」

「うん!ありがとう」


かあぁぁぁぁあ…ってこう、もう少しのパターンもたまにある。だけどこうして、弟達は私と向き合ってくれるんだ。一度は考えるけど、結果的には自分に合わない…っていうしっかりと結論付けた上で、私の意見を否定している。これはとっても嬉しい。勿論、手を上げられた事も無い。


そんな事されたら…私…どうしていいのか…わからない…私は2人への対応の仕方は変わらない。


だから、2人が私に対して変わる…っていう事かな。でもそれは“成長”として捉えなきゃいけないよね。まだ、来てほしく無いな…それは。

どんなに執拗な提案でも受け入れてくれる2人には感謝しかない。なんと愛おしい事か…

でもさすがに、2人の表情が曇り始めているのも感じた。なにか他に言いたい事がある様子の虚ろげな顔。

「なんでそんなに俺達の事が大切なのに、わかってくれないんだ…」的な事かな…。

2人への無理問答はマスターデライト出発前夜まで続いた。


第三章もよろしくお願いします。

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