[#39-薔薇の暴悪]
[#39-薔薇の暴悪]
5月9日──。
私が、家にいる最後の日。母と父が揃っている。
色々あった2人だけど、なんとか最悪の結果にはならずに、全ての膿を出し合った。そうしていくうちに、お互いの存在が、私を施設に送った後でも必要…だと言う事を知ったから。案外、歪な関係にはなっていなかった。
それは、私の前だから?ううん、違うと思う。2人は本当に、私の“直視”できない所で、両親の間に不要な感情を削ぎ落としていた。
3人がこうやって揃う事に、私は普通に嬉しかったんだ。
「ママ、パパ、もうわかれわかれしないでね…」
「うん、そうだね。パパが100%悪かったんだよ…本当にごめんなさい。ママには何回も何回も謝って許してもらおうとも思ってないし、どうしたって許される事じゃ無いのはわかってるんだ…だから罪を償っていく。そう決めたんだよ」
「つみ?」
「そうだよ、罪…僕が全部悪いんだ…」
「いや…私も悪かったわ…」
「…そんな…」
「いいや、そうよ、私…妻として…夫への成すべき事ができて無かったのよ…話し合ってわかったわ…私にも非がある。そう、落とし込んだの」
「ほんとうに、ごめんなさい」
「さぁ、フラウドレス?もう私達は大丈夫。明日、あなたはこの国のために沢山の力を使うの。だから、それに備えてたっくさん栄養をエネルギー補給しなきゃね!」
「ロリス、フラウドレスはまだ、そんな言葉わからないよ!もっとわかるような言葉で言わなきゃ!」
「そうだったそうだった!そうだよね!フラウ?要はね…えぇ〜と…“力”は判る…よね…?」
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嘘つき
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「なに、今の…?」
「君も聞こえたのか?判らない…何か…頭にズキンと突き刺されたようだ…」
「フラウドレスは大丈夫?」
「…」
「どうしたの??ねえ!フラウドレス?フラウドレス!?ねぇ、、!!この子どうしたのよ!なに!?何が起きたのよ!ねぇアナタ!!これなんなのよ!!なんでこんなにヨダレ垂らしてるの!」
「癲癇だ…」
「なんでこの子に癲癇が起きるのよ!!なんで!?」
「そんなの僕にも判らないよ!でもこんなの……」
顔が変わる。見たことも無い…見たくもない…受け入れたくないフラウドレスの表情が、両親である2人には確認できた。
「嫌だ…そんな…フラウドレス!しっかりして!」
止まらない。手と足の震えは激しさを増していき、大人の抑えが効かない。
「取り敢えず救急車呼ぼう…!!」
「そうね…」
───
何してるのよ⋯私の娘に⋯何するつもりなの⋯。
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───────◆◆◆──────
凄い心配してくれるんだね…あんたの方って。なんか凄いムカつくんだよなぁ、、、って、、アレ?ちょっと、、嘘でしょ?あんたほんとうに気絶しちゃったの??えええええーーーーー、勘弁シテよ…。なぁんか、ウザったくなっちゃった。ママとパパも、なんでこんなに仲良くなってんのよ…意味わかんない…意味わかんない…意味わかんない…意味わかんない!!!殺してよ。殺して。殺してよ。この2人を、八つ裂きにするのよ!!
───────◆◆◆──────
やめて!私を犯さないで!私のなかに入って来ないで!私に溶け込まないで!私はわたしでいたいの!せっかく戻れたのに!お願い!お願いだから、私でいさせて…。おねがい…。
──◆◆◆──
嫌。
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衝撃を感じた。
自らが振り下ろした蹴りは、強い風が出てた。
何も感じない。
何かを感じたい。
何も感じさせてくれない。
身勝手に守るお前はなんだ?
どうして、願い無くそういう事をする?
、、、、、、感じる。
血を感じる。
視線を感じる。
熱を感じる。
声を感じる。
聞こえる。
泣いてる。
喚いてる。
叫んでる。
哭いてる。
誰の声か、判らない。
聞き馴染みのない声。
特定しようがない声。
すると、一つの機能が突然回復し出した。
視覚。
黒幕に覆われていた視界に一筋の光が差した。
無邪気な笑顔を見せるように、私の感情を無視し、己の行動を最優先事項としたあまりにも複雑なもの。
母親と父親。
2人が、寝込んでいる。
先程までの状況とは全く違う。何時間も時が経過しているかのような世界。
粒子上の視界であるため、2人の現状が明確に把握出来ないのが、私の鬱憤に繋がる。
だがその願いを脳内に組成させた途端に、鬱憤は晴らされた。
腕が無い。
2人、それぞれの右腕が無かった。
腕は部位切断されていて、酷い出血。
なんでこんな事が起きているのか。
判らない。
聞いた事も無い、声色が飛ぶ。
胸を裂く。
心を貫く。
「どうシて…、、どうし、、、て、、こんナことするの、、、?」
「ママ?」
「フラウぅ?アナタ…なんでコんなことをシたの?」
「ママ…」
「ねェ…フラウ…、、、フラウドレス…?」
「ママ…」
「フラウ…ナノヨネ…?手ェ…ナインダケド…、、」
「ママ、、違う…私じゃない…」
「ナンデェ…?ナンデ、、、、ワタシタチフタリヲコンナメニアワセラレルノハ…アナタダケヨ…」
「ママ…違うの、、違う、、、違うって、、、、、判らないの…本当なの…、、、、なんで、、」
「フラウ…」
「パパ…」
「、、、、、、ごめんね、、、僕がぜんぶ悪いんだ…そうだよ…、、うん、、そうなんだ、、、そうだよ…でもネ、、、、僕は、、フラウドレスを産むことにハンタイした…」
「……」
「わかってたんだ…君が能力者として…産まれることを…でも、、、いいんだ…、、、、こうして、、僕を贖罪から解放してくれた…」
「違う…」
「違うんじゃない…違うんじゃないんだよ…君はこれでいい。これでいいんだよ。これから…頑張るんだよ…ほんとうに…フラウドレスは、、、僕の誇りだよ…それは…僕が一番に、、りかいしてるつもりだ…」
「…ねぇ…しぬの?」
「…そうなりたいな…ほら、ママはもう…喋んない…」
「いつか、こういう日が来るって、わかってた?」
「、、、、、、、、、、、、、」
父親は私の問いに答えること無く、息絶えた。それが私からの問いに対して、回答する事が難しいから…という愚かな終局を迎えたとはとてもじゃないけど、判定したく無かった。
この結果が、どうであれ、私には十字架が取り憑いた。軽いのか重いのか、よく判らない。自分で下した選択じゃ無いからだ。多元世界からの攻撃。一体どうして、このタイミングで起きたのか…私にはそれを鮮明にするべく、行動を起こそうと思う。
どこに行けばいいのか。
誰に会えばいいのか。
どうやったら、その“線”が並べられた多元世界に辿り着くのか。
だが、そんな私の生存理由を犯す出来事が発生する。
マーチチャイルドから、能力者捕捉調査班が出動。ラキュエイヌ家に訪問した。惨劇から1時間も経過していない…いや、これに関して私は判らない。
知らない大人。
家に来る。
何か喋っている。
さっきまで機能していた聴覚は、どこへやら。
何も聞こえない。
視覚はボンヤリ、不全では無い。
後に「あの時いた人物はこの中の誰でしょう」と問い質されたら、私はそれから逃げるだろう。
そうして、私は、連れて行かれた。
「この子だな」
「はい、間違いありません。能力者シグナルが3桁パーセントを突破しています」
「この子が、フラウドレス・ラキュエイヌ…この2人は…?」
「両親でしょう…」
「酷いな…これは…」
「はい、また腕を狙っています」
「、、、よし、遺体から採取される遺伝子エネルギーを回収したら、警察に引き渡す」
「この子は…」
「当然、連れて行く。明日から我が国の絶対力として活用させてもらう」
西暦3703年5月11日──。
フラウドレス・ラキュエイヌ、マーチチャイルド収容。
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西暦3714年4月7日──。
ヘロディシガ・プロセルピナ=ネロヴー 制御管制ルーム“花弁の胎盤”
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「姉さん?」
「う、、うん…」
「どうしたの?大丈夫?凄い厳しい顔してたけど…」
「大丈夫よサンファイア」
「寝癖…可愛いよ」
「フン、あなたはもうちょっと私を敬う事ね」
「“可愛い”って敬ってないのかな…」
「ええ、そうよ。敬ってない」
「そうですか…」
「フラウドレス、着いたぞ」
「うん、アスタリス」
「着いたよ。目標ポイントの座標地点だ」
「へぇ、凄い所だね…」
「これが過去よ。私達が生きてきた場所の何年も前の姿」
「フラウドレス、ここで…始めるのか?」
「ええ、もちろん。ここから殺る意味がある」
「無理しないでね」
「無理はするな」
「ありがとう。全てをゼロに戻す、《パーフェクトワールド》の始まりだよ」
第二章、終幕。




