[#3~5-Arcana=20]:1.111+0.1-9/4119
サリューラス誕生。そして来訪者。
[#3~5-甘く儚い黒紅と敗れ喚く翠蒼]
〈36.06.27.04:be happy*/Maybe I only...thought about myself. Maybe I couldn't really love you〉
ペンラリスの思惑通り、サリューラスはSSC遺伝子を覚醒させた状態で誕生。元々サリューラスの身に宿っていたであろう微量のSSC遺伝子が、ペンラリスの追加ワクチンとペイルニースのSSC化ワクチン投与によって完全覚醒を遂げた。原初の血がこれでもかと、サリューラスの中で暴れ狂っている。
「この子は…悪魔だ。俺たちは…悪魔を創成したんだ」
「ペンラリス……あなた…」
ペンラリスは、私たちの子供を軍事目的として扱うことを画策している。復讐の道具としてしか見ていない。
ただ、私は違う。ペンラリスの願いも叶えたい。叶えたいけど、まず第一に…子供が出来たんだ…。可愛い可愛い男の子。こんな可愛い子供が…悪魔なんだね…。そうか…悪魔かぁ…。
サリューラスに原初の血を確認した日から、ペンラリスの感情は錯綜していった。自分を取り戻してほしい。自我境界から逃げないで。ペンラリス…、、、私達の子供なのよ。道具みたいに扱うのはやめて…。そして…、、、
───────┤
私を見て…。
───────┤
◈
律歴4112年5月2日──。
14年という歳月を必要としたのは、サリューラスの能力覚醒に対して、ペンラリスが不満を抱いたからだ。
「どうして…何故…どうしてもっと力が出せない…!!何か!なにか出せないのか!殴る、蹴る以外に…。サリューラス、聞け。いいか、お前は特別な子供だ。他の子とは全く違う血を継いでいる。だから、必要以上のスキルを
俺は求めている。それに応えるんだ。いいな?」
「……うん…わかった」
こんなの、絶対にダメ…。サリューラスの笑顔なんて、赤ちゃんの時以来見た事が無い。
「ねえ、ペンラリス。流石にやりすぎなんじゃない?サリューラスの顔を見て」
「…すまない。今日はもうやめよう…」
『今日はもうやめよう』
このセリフに意味は無い。明日も明後日もその先も、ずっと毎日、彼はサリューラスの“もう一段階先”を求めた。
その結果、サリューラスの力は彼が求める最高レベルに到達。到達点の基準を聞いたが、深く詳細は教えてくれなかった。感覚的な問題では無いのだろうと思う。きっと…見たんだよね。サリューラスの限界を。
そして、私は彼に強く物を言えない。
約束してしまったから。
『あなたの言う事を聞く』…と。
それは真実だ。紛れも無く、私の口から発せられた文言だ。後悔もするつもりも無かった。だけど…サリューラスの顔と心は…もうボロボロだよ。こんな小さい子供にやらせる事じゃない。そんな事は判ってる。判った上で、私はあなたの願いに応え、サリューラスを産んだ。
私は、どっちなの…。
ペンラリスの今を肯定しているの?拒絶してるの?
分からなくなる…。自分の場所が分からなくなる…。
ごめんなさい、サリューラス。私、あなたのことを守れないかもしれない。
律歴4112年6月19日──。
時が満ちた。
3人はラティナパルルガ大陸の四大陸総統府政府機関を襲撃した。サリューラスは勿論だが、ペンラリス、そしてペイルニースもSSC遺伝子を搭載しているため、3人の襲撃内容は甚大な被害を生み、戦火となるにそれほどの時間をすることは無かった。
加えた攻撃はソニックブーム型スペクトル粒子砲、大出力指向性レーザーブラスト、荷重多展開シフト式暴風圧サルガッソー。その他は肉弾戦。
右ストレートを決めたり、大振りな蹴りを決め込んで身体の内部、骨まで届く絶命必至のダメージを効かせた。剣戟軍からの攻撃は全て回避が可能だった。
「遅い」
「なにぃ!?」
「全て避けただと!?」
「一体どこに…消えやがった…、、」
サリューラスは異常だった。超高速で移動し、敵の視覚を撹乱。一瞬で背後をとる事に成功するとそこからは所持していた小型ナイフで、兵士の首を掻っ切っていった。6人もの編隊を構成していた相手にも同様の攻撃方式を用いて殺しの限りを尽くした。
「これ、好きかも」
サリューラスが手を加えた相手は殆どが喉元を切り裂かれていた。時たま発生させるのは指向性レーザー。だがそれも直ぐに攻撃行動を停止させ、ナイフを使用した撹乱と掻き切る虐殺行動に移行する。
「サリューラス、あなた…殺しを楽しんでるの?」
思わず私はそんなことを戦闘中に聞いた。虐殺を一時終えたサリューラスは私の方を振り返り、こう呟いた。
「お母さん、これが復讐なんでしょ?」
そして、また虐殺を起こしていった。
「ねえ、ペンラリス。あなたサリューラスに…」
「ペイルニース、これが俺の望んだことだ。最後の最後まで、この世界の均衡を根こそぎ潰すぞ」
「……うん、、、」
畏怖。
戦慄。
傲慢。
蹂躙。
拒絶。
敗北。
憎悪。
被虐。
破滅。
もう戻れない。私も力を大いに振るった。するとなんだろう。少し力を加えて腕を払っただけなのに、ハリケーン状の風が巻き起こる。これだけでも何十もの兵士が出で立ちを崩し、転倒。転倒した相手の元へ高速移動。転倒した剣戟軍兵士は直立を余儀なくされている中で、私を探すフェーズに移る。しかし、どこを探しても私の姿は見えない。やがて、姿を現した刹那の速さで手持ちのダガーポイント式ナイフで心臓をひとつき。一突き。一突き。次々と死に追いやっていった。楽しむつもりは一切無かったのに、なんだかリズミカルに人を切り刻む行為に快感を覚える。
そうなんだよね、ペンラリス。あなたのご両親は大変な目にあわされたんだよね。それが、ここにいる人達へ一矢報いれば、復讐は果たされるんだよね。じゃあ、私の行動は間違ってないんだよね。いいんだよね、これで。
「緊急避難警報発令、繰り返す、緊急避難警報発令。セカンドステージチルドレン侵入を確認。標的、《オリジン》。大臣並びに閣僚会議関係者の皆様は速やかな待避をお願いします。」
「全攻撃部隊、交戦行動を維持。生死は問わん!反乱分子を潰せ!」
「《赤い鎖》はどこにある!アンチエネルギーが付与されてる全ての武器をかき集めろ!」
「第87ミリタリースクエアを開門!他に開けられるゲートはあるか?」
「政府機関周辺への戦闘員配備を開始。」
「損障壁の応急処置はいい!今は白兵戦を避けるんだ」
「隊列を組め!奴らはサイコパワーを使用できる!」
「ZAステーション壊滅。ナンバー87システムに移行するには、SSCマグナムへの対処が必要です。」
「クソ!さっきまでサウスゲートに居たはずだろ!何故ここにいるんだ!」
「目標は空間転移を使用可能。ワープポイントの探知を可及的速やかにお願いします。」
「非戦闘員、屋上エリア待機中の輸送ヘリに乗員完了。」
「ブラックルームからの動線をあぶりだせ!」
「能力者から発生するウェポンエアーに注意しろ!」
「各ルームからの火災発生、繰り返す、火災発生。」
「Sゲノムダメージによる、効果は生命維持への危険を意味します。」
「ダメージコントロールを最大レベルにて放出」
「アキレス隊、ランディングポイント06進行 異常なし。」
「機密情報漏洩の可能性あり!ユレイノルド大陸直属のホワイトハッカーが、当施設に向けてのサイバーウォールを展開。」
「ウォーリアー隊、アマゾネス隊、能力者と交戦中。」
「電圧源ダウン、メインコアへの損傷は見当たらず。指揮機能は依然問題無し。」
「汚染濃度増加中!エアロックシステム作動の承認を!」
「セカンドステージチルドレン!止められません!」
「目標に、異常な可視波長磁場が発生!」
「ジオイドマイナス極度レベル、プラス14。」
「フェンリル隊、パンドラ隊、ペルサー隊、全滅。残部隊4。」
「Sゲノム反応を検知!隔壁を展開!放射能汚染を除去しろ!」
「エアロックフィルター開閉機能損失!Sゲノム汚染の可能性極めて大!」
「Sゲノムを吸うな!セカンドの成り果てになるぞ!」
「監視ドローン、汚染区域内の全部隊にマスクの支給に向かえ!」
響き渡るアナウンス。怒号と悲鳴と絶叫が飛び交う修羅場。武器を構えてくる者は抹殺。考える暇があったら、無差別攻撃を尽くす。向かってくる者も、怯えて震えて離脱したい…と立ち尽くすしかない者も関係無い。
「やめて…もう…止まって」
死ね。
「分かった…もうやめるよ…だから」
死ね。
「目的はなに…」
死ね。
『いいか、サリューラス。俺とママ以外は全員が敵だ。倒さなくてはならない敵だ。サリューラスの中にある力を解放させるんだ。いいな?』
『うん』
サリューラスは襲撃直前にペンラリスから言われていた通り、向かう敵…いや、眼中に現れた人間を全て血溜りにしている。人が、血と骨と水で出来ている事が容易に確認できる。私とペンラリスに出番は用意されていない。
完全なサリューラスによる独壇場。
「これが…新核の悪魔…」
「サリューラス、いいぞ」
「うん。殺す」
政府機関、どんな構造なのか判らないが、次々と兵士が私達に向かって現れる。どんだけ向かって来ようが意味は無い。流れる血が増えるだけ。こちらに労力は全く無い。サリューラスに疲弊した様子も見えない。
向かう敵が来なくなった。
「ちょっと行ってくる」
「え、、サリューラス!ちょっと待って」
「ママは待ってて」
「サリューラス…」
「任せてみよう」
「うん…」
その瞬間、サリューラスが超高速で走り去り、2人の前から姿を消した。
10秒も経たないうちに、サリューラスは姿を現した。
「地下にいたんだ。僕たちを待ち伏せしてたみたい」
この10秒間で一体どれだけの人間をどんな方法で殺したのか…。全身へ浴びせられた血がその残虐性を物語る。
「サリューラス、ここにいて、下に兵士がいっぱいいる事が分かったの?」
「うん、そうだよ。探知した」
私達は言葉を失った。
政府機関建造物は崩壊。
「よし、もう行こう。終わりだ、サリューラス」
腕が吹き飛ばされた死体を見つけては、断面部位を確認し、血を自身の指と指の間に練り込ませ、クチャクチャネバネバと糸を発生させている。
「血…、、、」
「サリューラス?」
「なに?」
「もう行くぞ」
「待って」
他の死体を見つけ、同じ行動を繰り返す。今度は右足だった。断面部位からは骨が露出しており、その骨を引き抜こうと死体の胴体を足で抑え、一気に引き抜いた。とてつもなくグロテスクな血飛沫が辺りに飛び散る。
「もう死んでるのに、まだこんだけ血が溢れるんだ…おもしろーい」
サリューラスの顔に死体の血がかかり、狂気の顔面は深紅へと赤色の色素度数を低くさせる。
「あ…」
「あ……」
◈
「もう十分だ。サリューラス、帰るぞ」
「………うん」
「何人殺したんだろうね。私達」
「判らないな。ざっと90かな」
「ペンラリス、私達…この後どうするの?顔、直ぐにバレるよ」
「安心してくれ。別世界へ移る方法がある」
「それって…ペンラリスのご両親がいた世界?」
「そうだ」
「それも“記憶”?」
「おそらく」
先頭を歩いていたサリューラスが動きを止めた。後方の私達を振り返り、「来て」と言った。
瓦礫によって崩れた先を掻い潜り、外に出るとそこは政府機関前広場。夥しい数の剣戟軍兵士が広場外周を包囲していた。兵士、武装トラック、武装トレーラー、私が重装歩兵、攻撃ヘリ、上空旋回中の戦闘機。ありとあらゆる方法を用いて可能な限りの剣戟軍戦力を投入していた。
政府機関から出た私達。
「貴様らを完全に包囲した。もう逃げ場は無い。今すぐ投降しろ」
「セレニティ隊、そのまま現在地にて待機要請」
「了解、待機維持する」
「ウィングカスケード、中空警戒態勢」
「マザーシップ、雲海にて投下爆弾の誤差修正完了」
「ダメージコントロールのシグマノイドを63%に落とせ」
「滅却処理ナパームロケット、ホーミング軌道を確保。障害物なし。いつでも撃てます」
「スティンガー隊、三脚戦車の調子は?」
「SSCワクチン搭載、最新式です」
「超弩級駆逐艦に繋げ」
「こちら、スペードシックス応答願う」
「通信確認、こちら海上部隊」
「合図と共に、巡航ミサイルで陽動だ」
「了解」
「クローバーエイト、攻囲位置を計画時よりプラス25」
「全部隊へ通達。《サイトカインチャット》を切る。作戦行動開始」
「今までの僕たちを見てこなかったのかな…」
先頭に立つサリューラスが濃いため息をついて、吐き捨てるように言う。
その直後、サリューラスから黒と白が混在する熱源物量が発生。その熱源は次第に膨張し、母体を形成。サリューラスから飛翔体群が発現され、母体を目指し収束される。次々と次々と飛翔体は、母体への収束を始める。
「全部隊、射撃開始!」
包囲している剣戟軍が3人に向けて攻撃を開始。
しかしその攻撃が放たれた刹那、サリューラスが産出した母体から防衛本能が活動。母体へと収束していた飛翔体が、射撃された弾頭全てをインターセプト。
「な…、、なんなんだ…あいつ…」
「おい!レッドシードは搭載済みなんだろ?!」
「はい!間違いないです!全ての攻撃兵器に搭載してあります!」
「じゃあなぜ効かない!」
「怯むな!!撃てぇー!」
剣戟軍の攻撃が激化。地上はもとより空からも、ミサイル攻撃が発射された。目標地点は当然3人がいる政府機関広場。爆撃は、全てが撃ち落とされた。
「そんな…おい、、、あいつか…」
「あの真ん中にいるやつを狙え!」
───────└└└
「あー、あのさぁ…、、、空…嫌いなんだよね」
────┘──┐┐┐┐
「なんだ…今の…」
「聞こえました…?」
「俺も、聞こえた…」
「気味の悪ぃ」
────────
「そんなこと言わないでよ」
────────❈
爆発が発生。剣戟軍攻撃位置に向かい、サリューラスは不可侵シールドを発生。多重層のシールドが剣戟軍攻囲チームを押し潰した。
「こっち。あっちも。あと、そっちもだよ」
サリューラスの言葉に呼応するように、多重層シールドが爆殺を発生させながら、大地を鳴動させる。酷い地鳴りが起き、大陸プレートに溝が発生するかのようだ。
「こっちも…そっちも…ンフフフ…あっちも…こっチもだ…ソっちも…あっちにも…ねえどんどン殺ってよ…これ止マんないデよ…ンフフ…ねえたのしイなぁ…ンハハハハ…こっちも…そっちは…ちがウ…ちがワない…ミてるものぜんブ…とんできたトこロも…ンフフウウフ」
多重層シールドの連打。連打が止まらない。自分で制御できているのか定かではない程に。威力が増大。大陸が切り裂かれそうだ。大陸への負荷ダメージによって、海側からの津波が確認された。
既に剣戟軍は全員死んでいる。
にも関わらず、攻撃の手を緩めないサリューラス。
悪魔の囁きは、純血としての本能を開花させた。
◈
「お母さん…、、、お父さん…、、、、ねえ、、、どこに行ったの…、、、ねえ…お父さん、お母さん……ねえ、やったよ…言われてたとおりにやったよ…、、あれ…ねえ…お父さん…お母さん…」
サリューラスの周辺は真っ平らな大地。大地上に瓦礫や掘削された大地。裂かれたプレート。数え切れない数の死体。多重層シールドに押し潰された死体の肉片。シールドを受けた死体から飛び散った肉片と骨。骨は砕かれ、白い粉末状のものが点在している箇所が多くある。
全員死んだ。
全員殺した。
サリューラスは、一人だ。
ペンラリスとペイルニースの姿が無い。
「どうして…、、、」
全く分からなかった。何故2人がいないのか。
言われていた事を果たしただけ。
なのに…。気に触ったのかな。
何か、いけないことしたのかな。
やっちゃいけないことやっちゃったのかな。
政府機関跡地にしばらく直立した。
足を一歩も動かさず、現在自分に置かれた状況を今一度確認した。
「そうだ…多重層シールドを発現させて…、、四方八方にいた敵を殺し続けたんだ。それで…」
うそ…
❈────────
「殺したの…?」
❈────────
直立をやめた。サリューラスは2人を探した。
「お父さん…お母さん…!」
いない。広場…変わり果てた広場を探すが、状況が状況なだけに、捜索が難しい。
「どこ…!どこにいるの!お父さん!お母さん!」
機動車体の廃材化した姿。
「自分がやったのか…。この下に…!」
いない。
どこを探してもいない。
サリューラスは最後の選択に出る。
自分の右腕をナイフで傷つけ、流血を施し、その血を眼球に直接塗りたくった。この際に傷を負った右の前腕は、サリューラスの意思を理解し、直ぐに蘇生処置が行われた。
「《スレッドコール》開始」
SSC遺伝子のシグナル感知を開始。周辺に自分と同じSSC遺伝子の信号を受信すると、身体に電気が走りシグナル発信元の所在地を特定することが出来る。今までこれを使わなかったのは…、、、最悪の事態を想定したくなかったから。
「いる…絶対に…いる。お父さん…お母さん…いるよね…?死んでないよね…?巻き込まれただけだよね…?」
シグナルを感知した。
感知場所は直ぐに視界映像にエントリー。
サリューラスはその場所に直行した。
その場所は…広場だった。
「え…ここに…、、、いるの…いや…そんなはずは無い…何度も何度も何度も何度も確認した。探したよ…」
だが、SSC遺伝子シグナルは広場をピン止めしている。
ピン止めされている箇所の真上に立った。
「てことは…、、、この血が…、、、」
匂いを嗅ぐのを躊躇った。
嗅ぐと…現実を直視しそうになるから。
でも、前を向かないと解決には至らない。
この流血が本当なら、両親は死んだことになる。
そして、殺したのは…僕だ…。
こんなにも身体がグチャグチャになっているんだ。
僕に決まっている…。
匂いを嗅いだ。
❈────────────
うそ
やめて
ぼくが
ぼくが
うそ
ぼくが
ちがうよ
ちがうって
そんな
ぼくが
だって
いわれてたことを
ちがうよね
ぼくじゃな
ぼくしゃない
え
うそ
ころした
❈─────────────
10分後──。
「こちら調査部隊ダイヤセカンド。総統府政府機関に現着。現地の状況は…酷いです…」
「生存者は?」
「確認できません。死体すらも…」
「了解した。そのまま現地の調査を続行せよ」
「了解」
「クソ…なんていうことをしやがったんだ…」
「部隊長。あれを」
「なんだ?」
「なんだあれは…」
「セカンドステージチルドレンですよ…」
「なんだと…」
政府機関襲撃事案報告を受け、調査部隊は現地へ直行。
視界に広がったのは、この世の光景とは思えない、平行線の世界。凹凸、角張り…その全てが綺麗に消失され、真っ直ぐな…なんの当たり障りも無い世界が生まれていた。
ここが四大陸を統べる総統府政府機関が所在していたとはとてもじゃないが思えない。
そこに一人の男を見つけた。
「SSC遺伝子信号を確認」
「こいつ、間違いない…。こいつの力で全てを葬ったんだ…」
男の周りには規則正しく謎のエネルギー収束ウィップが周回軌道をしている。纏っている…とも解釈出来る。
「これ…近づいたら…」
「まぁ…俺ら終わりだろうな」
その後、時間を置くと、そのエネルギー収束ウィップは矮小化。消失した。
消失と共に、セカンドステージチルドレンは意識を失ったように地面へ倒れた。
剣戟軍はSSCを拘束。
「これは…《オリジン》の血があるやつだ」
「分かるんですか?」
「ああ、まぁな」
「では《ニゼロアルカナ》への送還は…」
「いや、ニゼロアルカナ“本部送り”でいいだろう。この子には聞きたいことが山ほどある」
「了解」
「パノプティコンアイランド特別管理機構にこう伝えろ。『そっちには送らない』とな」
「りょ、了解…」
「マスターデライトも機能停止状態にある。あんなところにこんな素晴らしい検体を持っていく意味が無い」
「隊長、ですが…ニゼロアルカナ本部の収容人数は規定数を超えています。それにオリジンともなると、感情の起伏が激しい事が予測され、問題が起こされると深刻な状況が…」
「安心しろ。そのための、拘束器具だ。虎の子を舐めるな」
「はい、了解しました」
「それと、旧人者は処分しろ。遺伝子情報を抜き取ってな。リサイクルだ、リサイクル」
◈
◈────────────────┨
アルシオンの新たなる福音が齎す世界への号砲。
覚醒の兆候が見え、特異点を複数確認。
それがいかなるものでえ、“新核の悪魔”が与える過去と未来には大きく関係するシナリオ。
様々な種子が芽生え、それぞれの環境で育った者が、自らに敷かれたレールを走行。
生まれて、滅び、再生して、無へと還る。
器を借りた生命だから。
終着駅を選ぶ権利などは無い。
“セカンドステージチルドレンは魂の輪廻”。
その中心に存在するのが、サリューラス・アルシオン。
神々、爆撃機、核兵器。
全ての要素を注ぎ込まれ、最終フェーズへと進化された、最高傑作。
サリューラス・アルシオンには、構成されていない感情があることを確認。
情欲。
彼の心には未だに多くの謎がある。感情をコントロールし、神経接続血管を通して行動へと移す、人の器を借りた存在として普通の理念。
彼にはそれが無い。一つ、重大なものとして確認出来たのが、情欲。
彼の遺伝子を後世に受け継ぐためには、その感情が欠けていては嫡出発生が不可能。
相手となる存在にも、サリューラスと同等の能力が必要不可欠。
対にならないから。
アルシオンの血統を遡る。
興味深い歴史の確認。
近親相姦。
しかもその歴史は深い数歴の出来事じゃない。
サリューラスと同じ血液を持つ者と結婚させる…。
このビジョンは果たさなければならない。
❃✾❃✾
◈────────────────┨
律歴4119年12月4日──。
サリューラスが復活。
この7年間、彼は微動だにせず昏睡状態に陥っていた。
サリューラスの保管は剣戟軍が行い、その際に彼の遺伝子細胞粒子を採取。
彼の動きは、SSC能力物理的封印システム《レッドチェーン》で封じられている。いつ、目を覚ましてもいいように常時固定。食事は《カテーテルワーム変異人対応型》を身体に通して、強制的に与えた。
ここで死なれてもらっては困る…というケースが新実験が通達される度に何度も政府に釘を刺さたからだ。
突如の復活には研究員が度肝を抜いた。訪れた復活の日。
なんの予兆も無かった訳では無い。カルジオタコメータースコープ・超々マイクロ対応望遠脳波測定顕微鏡にて、10分前に覚醒が確認されていた。
「見かけは普通の少年なのに…筋肉質な体型へと変貌し、攻撃性の高い姿へと形態変化を遂げる」
研究員が、日々行って来た実験。これがこの世界の将来にどんな影響を与えるのか。彼等には知らされていない事だ。
気にはなる…。だが、どうしてもそこには恐怖が寄り添う。日々実験を行い、更新される解析結果を報告する毎日。
研究員は、何を夢みているのか。
発語は無い。ただ目を覚ましただけ。
一切の運動もしてないのに、身体の発達が著し事に関しては、説明は要らないだろう。カルジオタコメータースコープにて確認された脳波微振動は、直ぐにニゼロアルカナ本部総員へ緊急連絡が伝わった。
「オリジンが復活した。予定通り、公開処刑を始めてもよろしいでしょうか」
「舞台を整えろ。30分以内に執行だ」
復活したサリューラスは、拘束器具を装着され、担架で拘引される。行き着いた場所は、巨大なドーム空間。
「………なんだ、、、、ここ、、、」
「オリジンが言葉を話しました。意識が完全に戻った模様」
「そのまま、杭に移せ」
「了解」
4本の杭で繋がれた鎖が、四肢それぞれを拘束。ドーム空間のセンターにX字の形で磔にされた。
「はぁ…はぁ…………なんだここ…」
ようやく言葉を発することが出来た。
自分自身では久々に肉声とは思っていないが、サリューラスが言語能力を有したのは7年ぶりだ。
サリューラスは周りを見渡す。そこには大量の武装した兵士がサリューラスに銃を向けている。
「…………殺してやる」
「おい…今…殺すって言ったよな…」
「ああ、聞こえた…」
「そうだよ…殺すって言ったんだ」
「……あいつ、どうしてあんな動けるんだ…」
「どうやら、かなり時間が経過しているみたいだね」
「おい…装着してあるんだよな…」
「そのはずだ…拘束器具、そして四肢拘束の鎖にも、《アンチSゲノムブッシュ》は搭載されている…」
「なのに…なんで…あんな抵抗を示せるんだ…、、」
「覚えてるよ…あんた達のこと…あー、正確にはあんた達の仲間かな…」
「……」
剣戟軍兵士全員に怒りが込み上げられる。
「あの日…ぼくが殺したんだよね」
「お前…」
「おい、アンチエネルギー最大出力だ」
「もうやってます」
「なんだと…?」
SSC遺伝子能力物理的封印システム《レッドチェーン》。その名の通りSSC遺伝子の能力を封じ込める兵器。レッドチェーンは、アンチSゲノムブッシュ内蔵ガジェットの一部に過ぎない。
特定の兵器にアンチSゲノムブッシュを含有させ、通常兵器からSSC対応型兵器へと進化。これがあれば、SSCを制することが出来る。SSCへの唯一の対抗策だ。
人間が、セカンドステージチルドレンと対等にやり合える科学の粋が結集した絶対兵器。レッドチェーンが装着されたSSCは能力を完全に封じられ意識を失うまでに至る。
だがこの現状。
有り得ない。
サリューラスは普通に言葉を発し、脅しにまで掛かっている。それでも能力は発現出来ないようだ。もし、能力を発現出来ているとするならば、もう既にこのドームは吹き飛ばされ、我々は死んでいる。
「さすがは、オリジンの力」
「………なに、そのオリジンって」
「お前に説明する義理はない。もう用済みだ」
「へぇー、じゃあ説明してくれてもいいんじゃないの?」
「それはできかねるな。お前たちセカンドステージチルドレンは、そういうやつらだろ」
「んん?言ってる事がよく分からないよ」
サリューラスにはSSC遺伝子能力のみが取り除かれた状態。
我々剣戟軍の前に映るのは、政府機関を戦火に染め上げた時に洋装していたであろう顔のみ。鎖をジャリジャリと鳴らし、拘束を解こうとしている。
「やめたまえ、そんなことやっても無駄だよ。いくら君でも、この呪いから逃れる事は不可能だ」
「………殺す」
「ただ、これは凄いよ。普通、動くことも出来ない…なんなら、意識も失うのに、君は、キビキビと動いている。素晴らしい検体だよ。そんな君を…今日殺そうと思っている」
「ンンンアアアアアアアアア!!!!!」
突然の轟音に耳を塞ぐ動作すら、与えられなかった。鎖の響音が、地面と杭の根元に位置するチェーンストッパーに振動する事で、非常に不気味で不快な嫌な音が剣戟軍兵士の聴覚を壊しに来た。
「…、、、あの野郎、耳から出血させる気か」
「凄いな、あの子は…」
「大佐、サリューラス・アルシオンの採血データの更なる遺伝子情報を解析することが出来ました」
「今になってか?」
「はい、原因は不明ですが、急に解析データが踊り狂うように数値化されていきまして…」
「今の怪音と何か関係が…それで更新された解析結果は?」
「どうやら、サリューラスの親は、純血と純血のようです。そして…両者にはSSCワクチンが投与されてる事も確認されました」
「元からセカンドステージチルドレンとして生まれたっていうのに、どんだけ力が欲しかったんだか…ちょっと待て…それは…!」
「はい、そのまさかなんですが…眠っていたオリジンの力を再生するために、両親がワクチン投与をした…という可能性が浮上してきまして…」
「両親のどちらかに、明確な復讐心が芽生えていたんだな…なるほど。相変わらず、SSCは穢らわしい心を持つ者だ」
「大佐…他にも証明された事が…」
「まだあるのか…なんだ?」
「サリューラスの遺伝子には多数の遺伝子情報が書き加えられています。その中には純粋な人間の遺伝子も…」
「……分かった。このオリジンは、生まれてきてはいけなかったんだな。処刑台へ」
「了解」
その刹那、ニゼロアルカナに爆音が巻き起こる。一つの爆発音に誘発されるように次々とニゼロアルカナの各所で爆発が発生。
「状況は?」
「セカンドステージチルドレンです」
「……奪いに来たか」
施設内には警報音が鳴り、剣戟軍は厳戒態勢へと移行。
喧騒するドーム。そのセンターに拘束されたままのサリューラス。
「何が…起きたんだ…?」
───
「いるの?」
───
「え…?なに…」
今、何かが脳に直接語りかけてきた。耳じゃない。感じたのは聴覚じゃない。意識的にもそれは判る。なんだ…?誰かが…女の人の声だった…。掠れたような覇気の無い声色だった。
───
「待ってて」
───
また聞こえてきた。なんなんだ…どこかで見てるのか…?意図が全く判らない。僕を救うものなのか…?
声の主に迫ることで思考が埋められた中、サリューラスの直情に位置するドームの天蓋が全壊。
轟音と降り注ぐ鉄の破片が、兵士を襲う。
「どこにいるんだ!さっさと探して殺すんだ!」
「しかし…奴らの姿を捕捉することが出来ないんです!」
「クソが…エゼルディめ…」
天蓋全壊からの鉄の破片の落下運動単なる上から下へ降り注ぐものでは無かった。破片が不規則な動きを開始し、地上兵へ迅速なスピードでロックオン刺殺。次々と血飛沫を上げながら、兵士が倒れていく。顔面、首、胴体、足、手。破片が刺さる箇所は兵士それぞれ。殺戮という明確な目的を実行するため、天蓋の破片は人体の部位を破壊するよりも、とにかく絶命させる事を優先的に実行。外耳道へ破片が侵入し、内部から頭を破壊、神経回路をズタズタに壊死させた。眼球に突き刺さり、多量の出血が放尿のように放物線を描き流出するが、そんな光景は珍しい。ほとんどの兵士が一瞬で絶命。苦しまずに殺されているだけ、有難く思え…と嘲笑っているような屈辱的な戦場が構成された。
「なんなんだ!この破片は!?」
「大佐!ここは危険で…ブハァボフォ…」
大佐の前で破片が首に突き刺さり、息絶える兵士。
「ちっ…」
逃げ場など与えない。このドーム空間にいた者全てが殲滅対象。落下運動が終わっても、兵士を殺しても、破片が地上に触れることは無い。浮遊能力を展開させ、虐殺行動に出る。
そんな阿鼻叫喚となった地獄で、サリューラスは一切のダメージを受けずに杭に固定されたまま。
「……なんだよ、これ」
サリューラスの周りには円形状の薄膜フィールドが発生。この薄膜フィールドがサリューラスを破片から守っていた。と言うよりも、破片も薄膜フィールドへの直撃を避けていた。
「守ってる…のか」
破片散乱ゼロポイント、今は無きドーム天蓋から大翼を広げた巨大航空機が現れた。
「光学迷彩コンタクトアウト!《エゼルディ》出現!」
「エゼルディ…ようやく姿を現したな…。おい!ニゼロアルカナ外周警備部隊!おい!連絡が聞こえてたら返事をしろ!おい!クソ…なんなんだ…、、、」
陽光を前に、射す光をシャットアウトするかのようにエゼルディが地上を見下ろす。
「能力者多数接近。SSC対抗特殊部隊クイーンズスペード交戦中」
「ダメです!クイーンズスペード、撃滅されました!」
◈
ドームに2つの飛翔体が舞い降りて来る。
「SSC遺伝子反応極大観測。《マスターコマンド》、攻撃コネクト移行準備」
「マスターコマンド、アンチSゲノムブッシュ最新式含有完了」
「天空交戦部隊以外は速やかに《コンプレックスドーム》へのワープを開始。仮説ワープポイントは…」
────────
『うるさいよ、あんたら』
────────
「もしもし!聞こえてますか!」
「こちら剣戟軍本部。通信が途絶、通信が途絶。サイトカインチャット不可」
『これでいい』
エゼルディから発生した2つの飛翔体が、超高速で空から一気に落下を開始。地面スレスレの間一髪の所で飛翔体2つが浮遊状態へと移行。奇怪な音曲を発生させ、飛翔体が薄膜フィールド、つまりサリューラスへと近づく。
『アルシオンだね』
「え…?」
『アルシオンなのよね』
『もう大丈夫だ』
「誰だ…?」
『詳細は後で。ここを出るよ』
飛翔体2つが薄膜フィールドを突破。そして直後に飛翔体2つから人が現れた。男と女。僕と近い年齢。その飛翔体発現機能が解かれ、サリューラスの目に飛翔体の主が姿を現す。
そこでサリューラスは事の一部分を悟った。
「セカンドステージチルドレン…なんだな」
「さすが、アルシオンだね」
「うん、アルシオンの血だね」
「これを…」
「もちろんだ、外すよ」
セカンドステージチルドレンに、拘束器具を解除してもらい、動きの制限を解いてもらおうと促す。
「だが…それはまだだ」
「え…?」
「ごめんね、アルシオン。それは、ちょっと待って」
「なんでだ?お前達は僕の敵か?」
「ちがうよ。味方だ。だから、もう少し時間をくれ。いいな?」
「……」
判った…と素直に言えない。この2人は何かを企んでいる。だが、この状況から退避出来るのであれば、今はこの2人に従うしかない。
「こっちへ…」
女の方がサリューラスを誘う。導こうとする。
「まずい、セカンドステージチルドレンにサリューラスを奪われる。殺すんだ!殺せ!アンチSゲノムブッシュ、粒子状物質のままでいい。コンプレックスドーム内に放出しろ!」
「本部長、ニゼロアルカナからの通信で、コンプレックスドーム内へのアンチエネルギー放出を要請しています」
「通信相手は?」
「ニゼロアルカナのベスリッチ大佐です」
「分かった。アンチSゲノムブッシュ放出」
「了解」
「航空機は?」
「たった今、ニゼロアルカナ空域に到達」
「よし、爆撃航空船団からSSC遺伝子攻撃艦載機を出撃。落下傘兵はウェポンモジュールをコンバットへ。リサーチなどの攻撃目的以外のモードは認めん。排除だ」
剣戟軍本部が観測衛星の映像を通して、模様を確認。ベスリッチ大佐からの報告で状況が遠方からでも可視化された。
「来訪者に高エネルギー反応!原子プロトコルがサークルを形成、ドライブ軋轢を生んでいます」
女のセカンドステージチルドレンが、黒の爆風波を発生させ、コンプレックスドームを滅却。コンプレックスドーム空域に爆撃待機をしていた船団も、サークルドライブの餌食に。爆風波が齎した攻撃範囲は、主に縦方向の伸びている形。逆に言えば、ニゼロアルカナ領域外への攻撃影響は確認されていない。サリューラスを取り囲む薄膜フィールド以外を全て無きものとした。
「見てた?凄いでしょ??」
「あ……」
サリューラスに向けて、“自身の攻撃”だということをアピールする女。『ンヒィー』と微笑みながら言った。
「行くぞ」
男の発言と共に、サリューラスを含む3人はコンプレックスドーム跡地から消失。
「来訪者はオリジンを強奪。追跡の是非を問う」
「やめておけ、追跡に意味は無い。どうせまた撃ち落とされるだけだ。ダスゲノムの新規細胞は採取した。取り敢えずは…ここまでだ」
───────┤
「悪魔の末裔セカンドステージチルドレン。この星に於いて最も不必要な異分子。人間が生んだ大罪だ。この贖罪は容易なものでは無い」
「やはり、行くべきだと思われます」
「オリジンが住む世界へか?」
「はい。これを終わらせるには…それしか方法がありません」
「航宙警戒中の観測衛星から情報は?」
「先程、第一宇宙速度にて高速移動中だった小惑星を確認。テクフルへの接近は未だに確定とは言えません」
「反物質エネルギーの有無は?」
「いえ、研究データ外の個体数値が検出されました。これが何を意味するのか…」
「大体は予測出来る」
──────┤
はい、詳しくは後で書きますって。本当に。