[#34-私、聞こえた時の声が知らない声だった]
[#34-私、聞こえた時の声が知らない声だった]
西暦2997年9月2日───。
未だに戦争は終わっていない。特筆すべき戦争は終わってはいるが、小規模の戦争が各地で起こっている。それが引き金となり、再び、大規模な抗争に発展する可能性もある。世界に緊張が途切れる瞬間は1秒たりとも無い。更には、再発したセカンドステージチルドレンの成り損ないの存在は記すべき事案と言えるだろう。
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西暦2596年01.02。
最後のセカンドステージチルドレンが死亡した。
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セカンドステージチルドレンは、20歳で一生涯を終えると聞いた事がある。だが、それは大昔の事。最後のセカンドが死亡した近時代ではその呪縛は克服されていた。20歳という死線を乗り越え、能力値はそのままに普通の人間として生活をしていたという。最後のセカンドは、生きる…という至極真っ当な生命としての役割を多分に果たし、貧困層への生活支援物資を率先してボランティア活動していた。
《ハデスポネ・ジャセリア》。
彼の名前だ。ハデスポネはみんなに優しく、よく慕われていたという。彼のようなセカンドステージチルドレンは珍しかった。セカンドステージチルドレンは皆が、それぞれの思惑を持っているが終着地点は“暴虐”にある。
ハデスポネには、攻撃的な部分が無かった。残酷なまでに優しかった。セカンドステージチルドレンを書き記す文献にはハデスポネ・ジャセリアの素性が事細かく記載されている。この男が、悪魔の末裔として描かれていたセカンドステージチルドレンという存在を変えた。かつて、《月の裏側“ダークサイド”》での戦争で、セカンドステージチルドレンの評価が大きく変わった。だが、最終的には危険因子という判断に至った。ハデスポネの功績は非常に大きい。
彼の偉業はまたの日に、語るとしよう。
再び、西暦2997年───。
セカンドステージチルドレンの成り損ない《ダスローラー》は戮世界だけの存在では無い。元となる分岐路のAルートである原世界にもダスローラーは発生している。戦争による大気汚染物質の蔓延、争いによる人類進化の凶兆と適応能力の覚醒。戦争は人類進化の要因となった。
進化系統には2つあった。
一つは、セカンドステージチルドレンの成り損ないであるダスローラー化。
二つ目は、《セブンス》化。後者にあたるセブンスという進化が、人類文明未来の発展としては適当な進化型と解釈されている。セカンドステージチルドレンには、やはり昔から伝えられている“残虐な過去”がある。人類が誤った実験によって、セカンドステージチルドレンというものが確立化。数々の事件を起こし、人類との対立を繰り返してきた。取り返せない命と経済は、今の人類に多大なる損害を与えている事だろう。ハデスポネ・ジャセリアが力強く提唱し続けた「人類とセカンドステージチルドレンの共生締結」は、叶う事は無かった。
そんなセカンドステージチルドレンとは相反して、誕生したのがセブンス。
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セカンドステージチルドレンは大昔の小惑星落下による、変異種物質のパンデミックが“大元の原因”。
セブンスは356年間に渡って起きた大戦争によって、誕生した人類の進化。誕生した起源について、多くの謎が解明されないままでいる。最も有力な仮説としては、が投入し出し、殺戮兵器から放出された《ロストライフウイルス》。上空から散布されたロストライフウイルスは、兵士を始め、民間人にも悪影響を与えた。“悪影響”という言葉に留めたのは全員が全員、ロストライフウイルスの悪性の部分を受信した訳では無いから。
《祝福》だ。
ロストライフウイルスにかかった人類は地球上に現存する6割。その6割の内訳で、90%で絶命。残りは、生存を遂げた。それを、祝福と呼んだ。選ばれた者なのか…奇跡としか、その時は言いようが無かった。
ロストライフウイルスには人類を次のステージへ、進化させるエネルギーがあった。《フォースステージチルドレン》と解釈する者もいるが、セカンドステージチルドレンとは別種個体である…と、学識研究者チームは断定。何故なら、“理性”があるから。
そしてこれも仮説によるものだが、ロストライフウイルスの祝福を受けた者は“セカンドステージチルドレンの血盟者”である事も唱えられた。
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そうなると、祝福を受けた者に待ち受けるのは、“被検体”としての器だ。
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歴史は繰り返される。よくそんな事を聞くが、時代というのはそんなものなんだ…と、私は理解した。セカンドステージチルドレンの血盟者と疑われた人間達は各国がそれぞれの技術力を使い、新たなる殺戮兵器として、他国を脅かす存在を制作しようと息巻いていた。だが、祝福を受けたセカンドの血盟者達からは、中々、攻撃性のあるシーン、エッセンスを採取する事ができなかった。セカンドステージチルドレンの血はもう、何年も前の話。血統が絶えているのは当然なのかもしれない。
どの国もそう思った。そんな中で、日本が多くの国から先方を決めた。
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日本で発見されたセカンドステージチルドレンの血を持ち、ロストライフウイルスの祝福を受けた“進化した人類”の第1号は《ポイトネス・アシリア》。
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2997年9月2日、ポイトネスの誕生日。これをきっかけにこの誕生年月付近の赤ん坊が、セブンスの対象者として能力者探しが始まる。病院では異様な男達が増えた。各国にて迫られる能力者の末裔。公私病院連盟は政府へ協力の委任を受諾。この政府の行動に対して、反対する病院もあった。でも、そんな声が届くわけが無い。
病院は産まれた赤子がセブンス予備軍だと判断された場合、速やかに政府監査役へ伝達。容赦無く、子供は国政府管理の下、強化人間隔離施設へ送還される事となる。
かくゆう私も、産まれて間もない頃に施設へ送られた…という事では無い。
ポイトネスは日本で産まれた純正日本人。ポイトネスの力は日本軍の戦力へ、大きな影響を与えた。ポイトネスの身体から発現される高エネルギー粒子が、開発途中だった特殊兵器を魔改造兵器として完成、完成系としての形を上回るグレードアップをさせた。ポイトネスには言語感覚の学習能力も長けているように思われる。産まれてまだ、1年も経っていない。恐るべき、この人智を超えた能力は間違いなく、セブンスと判断するに相応しいもの。
この子が、もし、戦争に参加する…兵器として活用に値する歩行性を持った時、日本はこの世界を掌握するに等しい事となったであろう。
流石に、セブンスといっても、セカンドステージチルドレンと同様、外見は完全な人間。自立は勿論不可能。ただ、兵器へ齎すこの“祝福”は、一体何なのか?ポイトネスが意志を持っているようにしかとても思えない。次第に、ポイトネスは自身の行動で、祝福の対象を日本軍へ意思表示する。
ポイトネスを筆頭に、少しずつ日本でのセブンスが発見されていき、世界を見比べてみても、その数は歴然たるものだった。そこで発足されたのが《3年契約》。
ポイトネスとその他のセブンスが、日本軍に齎した功績により、日本はブラッディローメイ戦争にて、優位な立場についた。その結果、日本政府は赤子へのセブンス精査を一時中断。
西暦3703年7月7日───。
親と子供に紡がれる大切な日を大切にしてほしい…という想いで政策された《3年契約》が施行された。赤子が産まれてから3年間は、赤子が引き取られること無く、親との時間を過ごしても良い…悪魔的な考えではあるが、親としては折角、生まれてきた子供が直ぐに親から去るのは許せなかった。この政策には賛否両論。真っ二つの意見で民間人と日本政府はそれぞれのグループを築き、対立関係にあった。
3年契約を経た後…3年間一緒に過ごしていた愛する子供。その元に突如、誰かも知らない人間が家に押し入り、子供を送還する事となる。そんな地獄みたいな光景は、親からしてみれば戦争以上に味わう傷だった。
賛否両論という事もあり、3年契約を無視し、これまで通りに出生直後、施設へ赤子を送還する親もいる。
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3年間、共に過ごせる幸せをとるか。
3年後の、奪われた地獄を予測して預けるか。
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最終的にこの時代の親は、子供を持つ事はあまり適当な考えでは無いように思われる。
だが、親は子を産み続ける。
何故なのか。
それは決まっている。
皆が、戦争に勝ちたいから。
“勝利”、“勝利”、“勝利”、“勝利”。
快楽に溺れ、肉欲としてのセックスは彼方へ。愛を形作るものとしての目交いは、もう無かった。
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始終。




