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[#32-私、地獄の島より報を授かる]

新編。

[#32-私、地獄の島より報を授かる]



季節は冬。

ユレイノルド大陸の2月は、冷え込みが激しい。まさかここから1ヶ月で半袖を余儀なくされるなんて、未だに信じられない。気候の変動が激しいのはもういいんだけど、いい加減な情報の垂れ流しは、よしとしてほしい。

《セントエルダ》。当大陸で有数の大都市。ユレイノルド大陸は比較的、他の大陸と比べても街の繁栄が乏しいのが印象的。特にこの大陸は気候変動が劇的なので、無闇に都市を開拓するのはあまり出来ない事になっている。だからといって、そこまで都市の非拡大がネックになっている訳では無い。

気候変動の代償としてユレイノルド大陸は、この世界で最も食糧の生産量が高い事で有名。海沿いには貿易港が約10km等間隔で設置されており、その交易力は十二分な機能を果たしている。大量の食物生産品が貨物船に積載される様、それを運搬する様を見た事ない当大陸民はいない。

話があまりにも、大人のする事で申し訳ない。

私の話をしよう。

セントエルダ郊外プレードサークルエルダに住居を持つ私には、二個下の双子の弟がいる。家庭環境は恵まれていて、不自由の無い安定した生活を送っている。あ、なんか親みたいな言い方したけど私は学生。まだまだ大人にはなりたくないっていう感性を持つ、夢の無い女。



去年10月20日。

あの時、私は弟達から衝撃の言葉を聞いた。

「マスターデライトに参加したい!」

《マスターデライト》に参加する…。これはこの世界の子供達がこの時期になると、同時多発的に起きる現象だ。そもそも、このマスターデライトとは何なのか。長〜くなるけど、これは別に初めての事じゃないだろうから、勘弁してほしい。


今、この世は戦乱の嵐の中にある。と言うよりも、圧倒的な戦力の前にただただ疲弊し尽くしているいるとも言える。《フェーダ》だ。フェーダが私達の生きる世界を嫌っている。呪っている。怒っている。だから、人間を攻撃している。

律歴4088年7月17日。

セカンドステージチルドレンの暴動は止まることを知らない。そんな中で超越者達はチームを結成した。それがフェーダ。この集いを皮切りに超越者の行動は激化する。テロ活動によって、人々は蹂躙。日々彼等から逃れる事しか、対策の術は無かった。

その影で、とあるプロジェクトが動き出している事を、民は誰も知らなかった。それが《マスターデライト》。

フェーダのテロ活動に危惧し、発足したこのプロジェクトの統括責任者はセントエルダに位置する意思決定機関イサキオスに所属する《テキスパンド議長》。

このプロジェクトをきっかけにイサキオスが所在するセントエルダには再計画工事が成された。これはマスターデライトが行われるからでは無い。マスターデライトプロジェクトは、《パノプティコンアイランド》と呼ばれる剣戟軍前線基地がある場所で行われる。セントエルダ再計画工事の裏には、テキスパンド議長の豪腕さが見て取れる。この世界の最頂点に君臨する組織として、ツインサイドを根城に持つ《首の賢人》達がいる。この首の賢人とイサキオス上層メンバー複数が何らかのパイプで繋がっているという噂がある。噂程度だと思ってはいたが、不自然な点がこの噂を強固にする。

テキスパンド議長の功績は華々しい。新軍事兵器開発を始めとする科学技術を応用した様々な企画のプレゼンと実行、熱核エネルギー理論の提唱、セカンドステージチルドレンの中に宿されていると言う細胞粒子から作られた特殊兵器の源“レッドシード”の開発を担当した班の一員でもある。あらゆる功績が讃えられ、この座にいる。


ユレイノルド大陸は先に記した通り、大都市を開発するにも意味が無いのが、大陸民の総意にある。別に人口も多い訳じゃないし、食品生産のためだけにラティナパルルガ大陸から保持されていると言っても過言では無い。金があるから…あまりあまってるから…単純な理由で、ユレイノルド大陸にドカンと建てられた…多分この理由が適切なんだろう…。ツインサイドの他に、機密情報を管理する保管庫としての役割もあるセントエルダ。その都市再開発計画は、急ピッチで進められ一日で2万平方kmもの敷地面積を建造した。勿論、一切の妥協も許さない事を重点的に、完全なプロテクター要素を含んだ最高レベルの耐震設計を決行。

だがこの安直な建設理由で、ユレイノルド大陸は過去に類を見ない程に全体的な盛り上がりを見せた。まるで、ツインサイドかのよう。人口もここ数年で、圧倒的に増えた。セントエルダ内にも住居エリアとオフィスエリアがある。中央に所在するのが意思決定機関イサキオスのタワーヒルズ。交通網も発展し、ユレイノルド大陸の端々に位置する港と街を繋ぐ鉄道と幹線道路も設置された。

見るからに多額の予算がこの短期間で注ぎ込まれたと言える。ツインサイドの連中が絡んでいるとしか思えない理由はここにある。

そんな交通網の大発展で、人々はセントエルダに移住。今までの大陸状況では経験できずにいたであろう豊かな暮らしに、感動を覚えた人は数知れない。複合施設も日に日に増えて都民の快適な生活をサポート。利便性のある整備に満足の評価が顔に現れる。

私達家族も、元々はユレイノルド大陸の末端に住居を構えていたが、今ではこのように“郊外”に住んでいる。


フェーダの行動で判明した事がある。世界の重要施設をターゲットに置いている…という事だ。そのためには殺しなんて当たり前。奴らは直ぐに手を下す。容赦の無い攻撃はやがて、世界を破滅に追い込むきっかけになる。その残虐行為を阻止すべく、マスターデライトが発足。

テキスパンド議長が夢見る最後の創造品。思い描く最高戦力として企画書を書き続けた軍事部隊プロトコルオメガ。今あるパノプティコンアイランドは元々、剣戟軍の大規模兵器貯蔵倉庫として運用されていたが、テキスパンド議長が巨額の予算を投じて、マスターデライトのために再開発。島全体を強化人間開発訓練場に仕上げた。これによって、マスターデライトの準備が整い、律歴4089年4月1日。第1回マスターデライトが始まった。応募資格は男女問わず、年齢は13歳から15歳。それ以外の項目は無い。書類選考なし。来る者を拒まず。家庭環境に問題有、前科犯、彫り有、年齢内であれば誰もが参加可能な当該プロジェクト。持病持ちも自らの判断ならばどんな健康状態でも構わない。主に中学生を対象にした年齢制限の意図は、テキスパンド議長曰く、人が覚醒する兆候を見せるのは大人になる直前である中学生の発育期間中である…と考証したから。

この第1回マスターデライトには、多くの少年少女が参加した。理由は他でも無く、プロトコルオメガに選ばれた暁には、セントエルダでの優遇措置権利を獲得できる。これは参加プレイヤーの血族を対象としている。資金援助、豪華ペントハウス、食事、衣服、消耗品…人が生活するに必要な物資を全て、ユレイノルド政府が負担する。このサービスがマスターデライトの最終選抜特典として付いていた事が、多くの参加者を呼び寄せるトリガーになった。

マスターデライトに参加したら、パノプティコンアイランドに送還されそこからは一切の外出は許されない。外界との通信や交流は完全にシャットアウトされ、檻のような空間で、1年間を過ごす。

だからと言って、マスターデライトに参加しても必ずプロトコルオメガに選抜される保証は無い。マスターデライトには各レベルセクションが用意され、そのレベルセクションで優位な行動を取ったプレイヤーが、最終選抜に上がる事ができる。

第1回参加プレイヤーは1342人。

多くはユレイノルド大陸からの参加、他大陸からの参加者も大勢いた。

当時のプレイヤーは殆どが問題児。それが故に参加者間の抗争がレベルセクション以外でも発展。メディアで問題視されるケースも過去にはあった。

マスターデライトの内容は、地獄と言われている。第1回第2回第3回と参加したプレイヤーは、口を揃えて言う。その口が開かず、筆でその思いを伝えた者も存在している。1年間で通常の人間を“強化人間”、つまりセカンドステージチルドレンと対等になれる存在になるには、それ相応の訓練が必要となるのは百も承知していたであろう参加者。中には、安易な理由での参加者もいたが、そういった者はレベル1で直ぐに落ちるのが常。


先ず無傷で1年間を貫いた者はいない。訓練期間終了の1年後には、瀕死状態の者もいた。そのプレイヤーは折角、最終選抜に必要なポイントを補填できていたのだが、この状態では選抜にする意味が無いとの事で、無効となり処理された。

マスターデライトに参加したら、そのレベルセクションにて提示される課題を達成しなければならない。拒否権は無い。もし、マスターデライトからの指示を無視した場合、法的措置が下される。このプロジェクトにはそりなりの覚悟を持って取り組んでほしい…という事だ。


マスターデライトの各レベルセクション、訓練内容を説明しよう。レベル1《ダイレーターケージ》。各レベルセクションとは言っても、レベル1と2しか公には発表されていない。それ以外は守秘義務として公開されないことになっている。そもそもレベル3以降が存在するかどうか…そんな所までネットでは話題になっている。事の真相は参加者しか知らない。

レベル1ダイレーターケージ。参加者が言うには、序盤にして最大の壁として待ち構えるのが、レベル1だと言う。その証言通り、レベル1からレベル2へとステージアップさせている…つまりダイレーターケージの内容をクリア、合格したプレイヤーは参加者のうち25%のみ。半分以上がここで敗退しているのだ。過去13回のマスターデライトでレベル2に進めるような人材は居たが、その訓練兵の身体は壊滅的で精神も崩壊寸前、無理に試練を耐えてきたのが、自身の身体を追い詰めた。彼はこれ以上の地獄を予想したとし、棄権したとか。後にその訓練兵は外界とのコミュケーションにバグが発生し、精神科医にて定期的な検診を行っているという。


セカンドステージチルドレンには、無限の可能性を秘めた存在として非常に価値の高い生物として位置づけられている。この未知の力を有効利用しようとして、開発されたのが《ユベル・アルシオン》の血から精製されたアンチSゲノムブッシュ。この方法論を提唱、立証させたのもテキスパンド議長。見事アンチSゲノムブッシュは効力を成し、能力者を無力化させる力を持つ事に成功。ここから人間達の逆襲として、強化人間開発育成企画が始動。

律歴4089年4月1日──。

第1回マスターデライトが始まる。プロトコルオメガに該当する候補者は、無し。レベル2へ進行すること無く、プレイヤー全員が重傷で幕を閉じた。今までのフェーダの襲撃記録を転用して、それに近い存在を作るのが、マスターデライトの目的。だがテキスパンド議長の理想地点は生半可なものでは無く、中々該当者が生まれない。企画成功に至るまでの検体を発見できずに時間と血液だけが島に流れる。今日までにプロトコルオメガに選ばれた者は過去13回で8名。初期、4月と10月に行われ、4月に該当者ありのプレイヤーが現れた場合はダイレーターケージ以降のレベルセクションが執り行われる。よって、10月の開催が無くなる。だがその年は少ない。該当者有りにも変動がある。1人の時もあるし、2人以上の複数人が選抜になったケースもある。

そんなマスターデライトに私は参加する事を決意。

弟達が参加する…と言ってから2年が経過した。

今でも2人のあの顔を忘れない。

律歴4107年4月1日、第15回マスターデライト。

フェーダの攻撃が活発化したこの数年。更なる人材を求められた今回は、史上最多の応募者数を記録した。それもそのはず、唯一の参加資格である年齢制限を引き上げ、18歳までを対象に訂正したからだ。フェーダの攻撃を原因となり、参加の激減が危惧された事による緊急措置だったが、爆発的に参加者を増やした。今回は特に血に飢えた者が多い事が伺える。

─────

彼等の目的は、己の力の解放、認められたい、自己顕示欲、フェーダへの復讐…様々な想いが宿っている。

─────

私もその内の一人。

全てを葬り去られた。

最愛を失い、失意のどん底を経験した。

2人の仇を討つため、《ティザーエル・ロストージャ》の憤怒が炸裂する。


「私は、何も無い。何も無い人間だった、だから…何か、価値を見つけたい。付けてほしい。私が動くと、世が変わるようにしたい。不要物は殺処分する」


第二章から新たな物語が複数始まります。

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