[#31-私、祝福に踊らされたの]
最も恐ろしい武器は感情だ。
[#31-私、祝福に踊らされたの]
「…、、、、、はっ…!ここ、、、どこ??…、、、、あ!アルマーレ!ラルース!起きて!」
「、、、、痛っ…、、もう、、なに、…、、」
アルマーレが目を覚ました。と、同時にラルースを目を覚ます。3人はどこかも判らない場所で、横たわっていた。
下には草原が広がる。
先程とは異なった“生きた自然”を視認した。視界が聡明になる。血と灰色と廃れた黄土色のみだった時に比べたら、こんなに目配りをするのが楽しい事なのか、と思う。でも…一体何故、こんな所にやって来たのか…思い出せない。
何か、、、非現実的な出来事の後に、ここへ来た事だけは覚えていた。その、出来事とこんなとこに寝そべってる理由が判らなかった。
「荒野…か?」
「でも…ほら、あそこ。」
「緑…」
「久々に見たなぁ…!あそこに行こうよ!」
アルマーレが、笑顔になり指を指して、自身の興味の対象を示した。
「ちょっと待って!私達…なんでここにいるんだ?」
アルマーレの意気揚々とした感情の起伏を止めるかのように、疑問を呈すファウンス。
「確かに…うん、、全然思い出せない…」
頭を悩ませるアルマーレ。
「私もだ…くり抜かれてるみたいに、どうしても思い出せない」
「くり抜かれてる…」
独特の表現で現状を形容するラルースの語学に、アルマーレは微笑む。
「ねぇ…あそこに…」
アルマーレが指差す方向には、大樹があった。
「エリヴェーラ…」
「《ユグドラシルの為政者》って知ってる?」
「…」「…」「…」
「むかしむかし、この世界に幽玄樹の種を植えてこの世界の自然の均衡を保ったと言われている創造主だよ。」
「…」「…」「…」
「でもその神々は、裏切った。この世界の原住民族へ、攻撃を仕掛けてきた。理由は不明。この世界の原住民の態度が気に食わなかったのか、思っていたモノとは異なっていたのか…今では解を導き出す事はできない。」
「…」「…」「…」
「でも、ここ最近で判った事があるんだ。それが…ユグドラシルの種を植えたのは…“セカンドステージチルドレンである”んだって!ねえ!それってさぁ、すごくない?セカンドステージチルドレンは、人を恨んでないんだよ!憎んでないんだよ!共存したかったんだよ!自分達の居場所を見つけたんだよ!ユグドラシルのおかげでこの世界の色彩豊かな環境は成り立ってるんだ。今でもそうじゃない!こうやって、さっきとはまっっったく違う、目のやり場に困るぐらい楽しい景観でしょ?目の保養になるよねぇ…。」
「…」「…」
「エリヴェーラ…」
「でも、今はこうして戦争が起きた…なんでか判る?、、、、、、、、
───────
人間達がふっかけてきたからだよ。」
───────
「“セカンドステージチルドレンの心醒”を見た人間は、自分の中では処理する事ができず、人を伝い、現状を書き換えようとした。人間は超越者を、野ざらしにするのは不適格と考え、奇襲を仕掛けた。
人間は…、、、、“人”…うん、その時は、そう思ってた。とても人以外の生命体とは思えなかった。だから、躊躇う者もいた。子供も殺そうとした。でもその子供から天明が走る。同様の件は、全ての《為政者暗殺部隊“セブンス”》が目撃。光源体を発生させ、どこかへ消えたんだ。でも、こうしてユグドラシルの力は衰えていない。どういう事か判る?
「…」「…」
「ねぇ…」
「セカンドステージチルドレンは、、、人間を本当に嫌ってないんだよ!まだね。共存できる可能性があるんだよ!」
「…」「…」
「エリヴェーラ…」
「でね!今からその過去を変えるために飛ぼうと思う…」
──────
「エリヴェーラ!!!!」
──────
ファウンスが、激昂した。
「なに。」
「さっきから、何言ってんの?ねぇ、、、私達に何をしたの?皆の事は覚えているのに…全然何があったのかが、思い出せない…アンタでしょ!?あんたがなんかしたんでしょ!ねぇ!そんな訳のわからない事話す前に、いまさっきの事を話しなさいよ!!」
「ごめん…怒んないでよ…。うん、、、じゃあ…話すね…というか…“思い出させるね”」
──────
「リバイバル」
──────
「どう?ちょっと目チカチカしたよね。」
「そんな…私達…兵士を、、ころ、、、したの?」
「そうよ。殺した。だって急に正体バレたんだもーん。それに、今は都合が悪い。」
「都合ってなにさ…」
「ん?」
「人間が、殺しに来たのは…?」
「あなた達を能力者だと識別した。」
「そんな…人間が私達を殺そうとしてたの?」
「当然でしょ?害悪だもの。」
「君がやったの?」
ラルースが、云う。
「何を?」
「私達を、能力者に変えたのか?」
「そうね。」
「君は…フェーダなのか?」
「…、、、違うね、フェーダでは無い。ただ、セカンドステージチルドレンではある。人間達が、私の事を最初はダスローラーだと認識していたけどぉ…理解したのが遅かったね。爆撃機もツインサイドごと焼き尽くすために出撃したけど、そんなんじゃ私は倒せないよ。あ、うんそうだよ。“ごと”だから貴方達の事も殺すつもりだった。最初は本当に救おうとしてたみたいね。でも気が変わったのよ。上からの指示でね。ツインサイドエリアは高濃度な《ダスゲノム》が充満していて、人間が生存している可能性はゼロに近しかった。貴方達が生きていた事には、心底驚愕していた。そんな貴重な生存者を見放すわけが無い。もしかしたら、この世界に“蔓延しているウイルス”を無くすきっかけを作るかもしれない…。きっと貴方達は、被検体にされて数々の実験に使われる毎日を過ごすに違いない。でも、、、現実はそう上手くいかない。
──────
“私がいたから”
──────
さぞ、ガッカリしたでしょうね人間さん達は。でもそれと同時に幸運だとも思った。セカンドステージチルドレンの前進形態であるダスローラーだから。勝てると思ったんだろうね。いや、決心かな。凄い息巻いてたから。でも残念。歯が立たなかったね。私、つよい。強いの。つよいよねー!ねぇ!ねぇ!でも…私だけが戦犯じゃないよ?見てもらったから判ると思うけど。」
「…」「…」
「アルマーレ?」
「なに…私達を殺す気?」
「んな事する訳ないじゃん!もしそうだったらとっくに殺ってるよ!貴方達が本当に必要なの。助けに行かなきゃ。」
「“暗殺部隊”という奴らからか?」
「そう!もう何?ラルースはしっかり聞いてくれてるみたいだけど…。2人も!いい?貴方達、もうセカンドステージチルドレンの仲間なんだから、後には戻れないわよ。」
「誰がお前みたいなクソ女と一緒になるか!」
アルマーレは憤慨した。
「クソ女って…。」
「クソ女じゃないか!殺す事までしなくてよかったのに…」
「ごめんって…私も最近なったんだから、制御がうまくできないんだよ、この力。」
「最近って…いつだ?」
眉根を寄せて、一文字一文字を強い口調で言うファウンス。
───────
「ツインサイドでの戦争以降だよ。」
───────
「なんだって…!?」
「フェーダの中では、《オペレーション・プラクセディス》と呼称している。人間では、ジェノサイドフェーダって言ってるみたい。」
「…はぁ?」
「どうやって力を発揮させればいいのか…よく判らなかった…。私は一度は死んだ身だった。死の淵を歩き続けていた。痛いとか…そんなものは無かった。閃光が一気に街を照らした時、私はもう、生きる希望を失った。何かを感じる前に、その閃光は命を奪い取った。でも、私は生きた。生きている。目覚めた時、私の上には無数の鉄骨が重なっていた。両脇には煉瓦があった。煉瓦と煉瓦の間…凹っと空白になった溝に私はスッポリと収められていた。自分でも判らない。奇跡としか言いようがない。覚えてないんだ。誰かがあそこに嵌め込んだんだ…と思ってる。誰かなんて知らないけど。そのおかげもあって、私はジェノサイドフェーダの被害には遭わなかった。そして、ご褒美なのか…この力が付与されていた…。この力は直ぐに私の、生存方針を示唆してきた。《ヴォイスノイズ》。“彼女”の声は、私を支えてくれた。“ごめんね”って言ってくれたんだ。この人、大事にしたいんだ…。神様でも女神でも無い…“原初の楔”。彼女は、エマージェンシーを出していた。その信号を探そうと思い、動き出した。私は彷徨った。途方も無い…荒廃に満ちたあのツインサイドを…。その時、再び彼女の声が聞こえた。
──────
“3人を仲間にしなさい”ってね
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なんの事だろうと思ったよ。最初は。でもこれまたビックリ…直ぐに理解したよ。貴方達3人の信号を。随分ともまぁ、人格概念の異なる3人だなぁと思ったよ。あの日、私と3人は接触した。辛く厳しい毎日を過ごしたと思うのに、優しく手を差し伸べてくれたよね。なんか、、、単純に嬉しかったんだ。私は、セカンドステージチルドレンではあるけど、人間には恨みは無い。ただ、あの人を…彼女を追い求めてる。聞こえた…あの声…“ユグドラシルの為政者”の元へ。」
「行こ、2人とも。」
アルマーレは2人の手を引き、エリヴェーラから離れた。
「ここが何処か判ってんのー?」
「…」
「あんたら…私から離れられると思ってんの?」
「はぁ?」
エリヴェーラから離れていた3人。だが、各々が瞬きをしたその刹那、エリヴェーラの元に来ていた。
「…え、、、なにこれ、、」
「《スレッドコール》。」
「…は?」
「貴方達は私から離れる事は許されない。どこに行っても、直ぐ引き戻される。貴方達は、私の“使徒”なの。これからはずっと一緒よ。」
「…」「…」「…」
エリヴェーラの方を見続けるが、3人はジーッと見つめる他なかった。
困惑、憎悪、憤怒。
ネガティブとして捉えられる負の感情が、3人の心の蓋から今でも溢れそうにグツグツと煮える。特にアルマーレの憤怒のバロメータは臨界点を超えている。
「だって、もう、貴方達って…
───────
“死んでるんだよ”?」
───────
もう何回、戸惑えばいいのか、判らない。
「使徒となった貴方達は、私に従事するしか無い。」
「ねぇ、、なんなの、、、、、あんた…いい加減にしてよ…全くもって意味わからない……、、なんなの、、」
「アルマーレ…」
「いい加減にしてよ…、、ねぇ、、ファウンスも、、、そうでしょ?ねぇ?、、なんなのよ…、、」
アルマーレの慟哭に呼応する謎の力。アルマーレから発現される円環の高エネルギーが加速し、凄まじいパワーを発生させる。
「これは…。」
「おい、、、、なんだよ…お前…、、何言ってんのだ?」
「ねぇ!ちょっと!アルマーレ!どうしたの?」
「ファウンス…あんたも…ヤッてみなよ…この力…凄いよ…?あの女への怒りの感情が、私の身体を変えてる…、、」
「アルマーレ、、?」
「おい…ちょっと、、顔貸してよ…。」
アルマーレが、エリヴェーラに接近する。
「なァ…あんた…セカンドステージチルドレンなんでしょ?じゃあ、、、殺ろうよ…」
「あんまりそういうの、好みじゃないんだよね…私も最近なったんだから。」
「フン…なにそれ、、、案外私…嫌いじゃないからもしれないんだよね。それに、、、今あんたのこと、ぶん殴りたい気分なんだよ」
「へぇ…こわいね。」
「もういいかな?」
「私を殺したら、あんた達も消えるんだよ?」
「はァ?」
「《使徒》はそういう決まりになってる。主である母体が死んだ時、それは使徒の絶命も同様の影響となる。」
「じゃあ…死なずに殺してあげるよ」
「フハハハハハ!何言ってんの?本気で手上げる気ぃ?」
────
「…………………死ねよ」
────
大きく息を吐き、首を曲げ、手と足を解す。
アルマーレは鬼の形相で、相対するエリヴェーラを睨みつけながら上記の醜い言葉を掛けた。その発言をした時のアルマーレは悪に満ちた、誰への心の介入も許さないような、別人格を見せていた。でもその格好には、美しさがあった。
女として。
「あんま宿主に対して言うセリフでは無いかな…。」
「、、、、いくよ?」
「…、、、生意気な。」
アルマーレはエリヴェーラへの攻撃を開始。アルマーレの息をもつかせぬ高速に繰り出される拳の連打。エリヴェーラは、それを全て受け止める。三百発突かれた拳。
「もういいかな。」
「殺しテやる…」
連打攻撃にスキを見せてしまったアルマーレ。だがそのスキと言っても決して肉眼では目視できるような明確な空白では無い。スキにできた直後の攻撃にはほんの若干の弱さを垣間見せた。それが、この後の惨劇を生むことになる。アルマーレの拳を横に流し、より彼女を自身の前に近づかせる。受け流された拳は、エリヴェーラの右肩へと行き、肘関節がエリヴェーラの胸を掠める。
──
「折っちゃお。」
──
エリヴェーラは、アルマーレの肘関節へアッパーカット。それが見事に命中…したかと思えば、アルマーレは緊急回避。ここまで受け流しからの、緊急回避までの所要時間は、0.4秒。
「へぇー、やるじゃん…まぁそりゃあ私の血が入ってるからね。」
「お前の血で、お前ヲ殺してやルよ」
2人は一瞬にして距離を保ち、睨みを利かせる。
──
「もうやめろ!」
──
「なに、ファウンス」
「もうやめるんだ2人とも。啀み合っててもしょうがない。起きてしまった事はもう元には戻らない」
ファウンスが二人の間に入る。この戦いに休戦を提案した。
「でも、ファウンス!この女が…私達を変えたんだ…!」
「アルマーレ…?彼女が居なかったら、とうのとっくに死んでたんだよ?それも踏まえて考えて…お願い…」
「私だって判ってるよ!でも!…でも、、、、納得できないよ!!私達の手は汚れたんだよ?この手じゃ…もう、、なにも触れない…」
──
「変わればいい。」
──
「え…、、?」
「変わればいい。今、そのユグドラシルの為政者達が大変な目に遭っている。為政者が殺されるんだ。その殺害を防衛しに行く。」
「その…ユグドラシルの為政者ってのは、どこにいるんだ?」
ラルースが、エリヴェーラに問う。
「《原世界》。」
「なんだって…」「そんな…」「うそ…」
原世界。それは今いる《戮世界》では無い次元の先に広がる無限の世界。戮世界の住人達は、原世界の存在を神話として語り継いでいた。まさか…そんなもう一つの世界があるわけない…皆、そう思っていた。そんな原世界に言及したエリヴェーラ。
「ふっ、バッカじゃないの…原世界ぃ?ンなもの信じるわけないじゃ…」
「信じてみよう」
「はぁ?」
「アルマーレ…信じてみよう」
「ファウンス!あんたちょっと何言ってんのよ!」
「なんだか…判らないけど…呼ばれてる気がするんだ…」
もうなんなんだ…聞こえてくるとか…呼ばれてるとか…こいつと会ってから全てがおかしくなった。変な事ばっか起きてる。んで、、、今、己の行動に理解できなくなる。確かに彼女は、私達に対して酷い事をした…。その報いとして私は力を奮った。でも、なんだろうか…やるせない気が沸き起こる。もう判らない…。なんなの…。もう…、、
「行こうよ、エリヴェーラの言う…原世界へ」
ファウンスは、アルマーレに優しく言う。相手を尊重し、抱擁するように。アルマーレの心の内にある全ての感情へ手をかける。アルマーレは、ファウンスの心の介入を許す。
一人の心。
自分の力のみで、解決しようとしていた。だけど、この問題は自分だけの事では無い。
「判った、、、、、あんたに従う」
「うん…ありがとうアルマーレ」
「ファウンスが止めなかったらあの女、殺してる」
「なんか随分と性格変わった?」
「ううん、、、元から私はこうなんだよ」
「そうか…」
「別に偽ってた訳じゃないよ?でも…傍から見たらそう捉えられてもおかしくないと思う。そうじゃなきゃ…人って近づかないでしょ?好きにならないでしょ?可愛げがないと、女なんてなんにも無いでしょ?」
「そんな事ないよ。私は、アルマーレと会えて、嬉しい。確かに変なやつだとは思ったけど、その偽ってる部分は勿論、今のアルマーレも好きだよ」
「え…ほんとに?」
「うん!個性なんてバラバラなんだから。それを尊重するのが、相手をする人間の役目なんだから。非がある場合もあるけどね。どうしようもない奴とか。そういうのは捨てちゃえばいい。でも…私はあなたを捨てない。捨てたりなんかしない。それは、ツインサイドにこの2人しかいなかったからじゃない。私は…2人を大切にしたい。こんな運命的な出会い…何かの縁があるとしか思えないんだよ」
「ファウンス…」「(口角少し上がる)」
「だから、この意味の判らないバッカみたいな世界から一緒に出よう」
「うん!ンで!この気持ち悪い力もとっぱらいたい!」
「私はこの力、ちょっと気に入っている」
「ラルースぅ?今、私達能力者なんだよ?こんなままで、戻ってみぃよ、また面倒な目に会うだけなんだから!」
「…、、、、」
「そんなにオキニになったのね…」
─────
「もういいかなぁ?」
─────
エリヴェーラが、3人の元へ。
「いいよ、ノってあげる。私達を元に戻すならね。戻せなかったら殺すから」
「ほんとアルマーレって、性格変わったよね。付与しなきゃよかったよ…。」
この言葉を聞いてアルマーレが、一つ気づく事があった。
「…という事は、あんたに私達を戻す力は無いのね」
「あったりまえでしょ。だから行くのよ。」
エリヴェーラの人をバカにした時になる顔のパーツの歪みに、アルマーレは殺意を灯す。
「あとさぁ、アルマーレちゃん?あなたもう、使えないよね?」
「はァ?、、、、うっ、、……、、あぁぁ、、、、な、、ンンン…、、ハァハァハァハァ…アンタ…ナン…カシタ…、、、ノ?」
下半身からアルマーレ自身に鈍い痛さが突き通る。それは神経を伝い、身体全身へと発生。とても立てるような状況では無い。内側から蟻の軍団が蝕むかのような、激痛がアルマーレを襲う。
「これは…単純に、“使いすぎ”。あなた、まだなったばっかなのよ?なのに、あんなにまでセカンドステージの力を行使しちゃって。現時点では幼虫って所ね。変態するには時間がかかるのよ。後天性の能力者って言うのは、先天性の者よりも圧倒的にセカンドステージの力を受け付けるのが遅い。だから、しょーがないのよ。こればっかりは。それなのに、アルマーレは、あんなにもの細胞粒子を私にぶちまけてきた。まぁ罰ってとこね。何でもかんでも、“報い”が伴うものよ。生きるってのはそういう事。面倒よね。」
憮然になる3人。
「とにかく、今は生きてる。本当だったら死んでるんだから。あんな場所に半年間もいて、普通の身体なわけが無いでしょ?」
「じゃあ、私達がこれまで…あなたと会う前まで…生きていたのは…?」
ファウンスが、不安な顔を見せながら、そう言う。
「人としては死んでたよ。それを能力者として転化させた。先の戦争の被害を辛うじて、免れていたとしても、やっぱり体内には変異ウイルスが侵入してしまっていた。血液量が足りなくなっていたの。偶にクラクラする時があったんじゃないの?ただの貧血じゃないわ。失血症に近いものだけど、それとは異なる病原ルートを辿ったと思われる。」
「なんでそんな判んの?」
「いま、あんたらは私の血が含まれてる。混血児ね。戦争時に侵入した変異ウイルスが、自身の血を吸い取り、乗っ取ってる。そこで私の血液が入った事により、上乗せされた。生物っていうのは“血液指数”が決められている。生物それぞれの、時間の生き方と生存空間は面白い程に変わっている。だから個体差が生じる。でも差が面白いよね。」
エリヴェーラが放つ文言には、いつも、覇気があった。“生きてる”っ感じがする。よくわかんないけど、なんか、そう思う。その彼女の生きてるって感覚に、私達は踊ろされてるんだと思った。彼女が作り出すステージの上で、私達は生きている。そうやって、私達は彼女に救済の一手を差し出された。私達は、彼女から“祝福”を齎されたんだ。
私は、信じる。
──────
彼女…エリヴェーラ・スカーレディアを。
──────████
あれ…なんで、、、、?
なんで、、私…名前知ってるんだろう…。
スカーレディア…?めずらしい…。この感覚…良いかもしれない…私が今まで体験した事の無い、深淵からの誰かの手。エリヴェーラ…?エリヴェーラなの?ねぇ、、、、だれ?あなたは…誰なの?ねぇ…、、、いつか会える?、、、、、、、、、そう、、なら、いい。
「ねぇ聞いてたァ?」
「ごめん…ちょっと、誰か判らない人がいて…」
アルマーレが何回も何回も応答を要請していたのに、全然答えなかったラルース。下を向くわけでもなく、ただ真っ直ぐ…向こうにある海を見ていた。そこまで綺麗なわけでもないのに。少なくとも、アルマーレにはそう映っていた。
───
「…。」
───
「じゃあ、行こう。手を繋いで、私と。」
4人は手を繋ぐ。正方形を形作る4人の繋ぎは、エリヴェーラの魂へと通わせる。やがてそのエネルギーは可視化され、一つの集合体へと結実された。
「なんなの!コレ!!」
「3人の力が、私に集まってるんだよ。」
「これ…私達から出てるの…!?」
虹色のエフェクトが煌びやかに円を周回する。その周回速度はスピードを増していく。円環の元となっている4人に浮遊能力を発生させた。円環となった虹色の《テクスチャー》と呼ばれるものは、セカンドステージチルドレンが発現させる事ができる人の知識と学識を超越した神の理を担う、“扉”とも言うべき能力。テクスチャーは、様々な出来事に擬態し、その際に必要な力をテクスチャー発現者に提供する。
「その…テクスチャーってヤツが…私達をゴールに導くの…ねぇ!!?」
周回する円環の加速度が、次第に上昇。並大抵の声の音量では相手へ言葉を伝えづらくなっていた。
「大丈夫だよ。聞こえてるからそんなにハキハキとしないで。」
エリヴェーラは、今のアルマーレのボリュームより97%以下の音量で話した。
「あ、聞こえる…」
「耳元で喋ってるみたい…」
「これも、テクスチャーなのか?」
「何でもかんでもテクスチャーの機能にしないの!まぁできるけど…これは…デフォルトのやつ!」
4人は、テクスチャーにより開かれた門へと引き上げられた。地上より離れた足は、いつの間にか、遥か上空の彼方へ。そして、4人はこの世界から姿を消した。
「ちょっと!ここどこなのよテクスチャーオンナ!」
「時と空間の狭間…我々の世界と“アッチ”側の世界を支えている《デスターズセイン》。」
「デスターズセイン…」
今まで人生で目にした事の無い景色が広がる。黒色に埋め尽くされ、時折目に見える白の差し色とも言える“うねり”のようなものがとても美しい。黒のキャンパスで、白のうねりが踊り狂ってるようにも認識できた。黒に染まった絵の具のとき水へ、白を混濁させた筆が入刀する差し色としての機能を全うしているからなのか、全体へ広がっている黒には、あまり干渉はしていないようにも見えた。規則的な動きを見せるうねりにアルマーレは、息を呑む。
デスターズセインの虚数空間。どこまで続くか判らない曖昧な境界。今、自分達が進んでいるのが道なのかすら…傍らを進んでいるのかもしれない…と思ってしまうほどに、独立した存在が無い。何か突起というか、目印…マークというか、リポートしようがいのある部分をキャッチする事ができたら良いのだが、進んでも進んでも景色は変わらない。浮遊をしたまま、足を使うこと無く、自動歩行機の上を進んでいるようだ。力を下半身に加える必要性は無い。
「飽きてきたでしょ?この感じ。」
「はよ着いてーって感じなんスけど」
「もうそろ、好きそうな景色に変わるよ。」
「あわ…?」「泡?」「あわぁ?」
4人の前に、虚数空間から新たな部分が解放的なまでに発生する。3人が発言したその通り。気泡状の物が等間隔的に配置されている。配置と言っても、土台となるものは無いので、一定の部分を揺らぎ、微動を永続させている。
「なにこれぇ…!すっゴイかわいいじゃん!…、、、、んん?なにこれ」
「触れちゃダメだよ!」
「え?」
気泡に触れようとした、アルマーレをエリヴェーラが静止させた。
「これ、よーく見てみよ。」
3人は言われるがままに、気泡を凝視する。
「なにか映ってる」
「そう、原世界の住人達。その生活風景よ。」
「え…」
デスターズセイン。虚数空間で形成されたこのディラックの海ともタイトルできるこのカオスは、原世界と戮世界の峡谷に位置する架け橋。多次元に存在する全生命体が紡いできた創造性と時間をコントロールしている時と時の狭間の世界。創造性のある物質には、全てが生命体の粒子を付着させている。
それは目視しえないヴァーチャルフィールド、《インフィニティネットワーク》を通じて、限定された生命しか立ち入ることのできない場所へと集約される。集約された物質はヴァーチャルフィールドに存在するための形態変化を遂げ、《ヴァーチャルホムルス》という多次元世界移行中間形態へと、様を変える。
原世界と戮世界。または、それ以外。どこか、遠く…或いは、すぐ傍にあるかもしれない未知の世界。《多次元の特異点》というものには、生命が起こす“起点”により、特異点の兆候が発生する。起点というのは、“生命の感情が臨界点を超えた場合”で発生する事案が多く確認されている。
─✣✣───
怒り、悲しみ、慈しみ、楽しい、苦しい。そして、触覚的な問題でもある、痛み。
─✣✣────────
感情は生命の機動を動かす大きな要因となる。その機動オプションは、その場での活動では収まらず、自らの世界を超え、渡り歩いていく。感情は能動的なものとは判別できない、突拍子も無いものと言える。顔面では偽っていても、内面から滲み出てくるオーラには逆らえない。特に人間はわかりやすい。それに酷似した存在である、我々も。
黒を基調とした亜空間を抜けた4人。
「さぁ、着いたよ。」
「港?」
「港湾か?」
海。4人が亜空間を抜けた先に待っていたのは、眼前に海を広げた世界。岸壁の上に立っていた。
「何ここ…荒廃してる…」
アルマーレが、海と逆側のエリアを一望した。
「高っ…ツインサイドにもあんな高いの無いよ…!」
「エリヴェーラ…ここが…、、?」
─────────────
「そう、原世界3717年。国名・日本。旧神奈川県横浜市みなとみらいだよ。」
────────────┨
to be continued…




