[#21.5-“don't abandon me”4119-00/25]
「Lil'in of raison d'être」からは少し外れた物語。
本編で語るべきでは無い、特殊な視点で描かれる異色シリーズ。
「Lil'in of raison d'être:4119」EPISODE:1
[#21.5-“don't abandon me”4119-00/25]
簡単に言うな…と言わんばかりに毎回毎回高度なミッションを与えてくる。
ラティナパルルガ大陸政府直轄の第一大陸国士官学校。剣戟軍の兵士を育成する場所として政府機関が設立したテクフル唯一の兵士育成システムを持つ場所。その一つ目の学校だ。王都ツインサイド領域内に校舎を構える。後者の近くには剣戟軍総合指令所も建っており、育成カリキュラムも剣戟軍上級員が教示を行う。育成名に於いてこの上ない教育システムが備わっていると言えよう。いつなんどきも、剣戟軍は思っている。
「人材育成に不満がある…」と。
毎年毎年と新入りを迎えては士官学校での育成の末、本隊への入隊を果たす。人材育成に不満があるというのは一種の嘘とも取れる。つまり、去年の実力者達を今年も必ず塗り替えろ…と遠回しに言っているのだ。
政府の肝煎りで開始された育成プログラム。それもそのはず、最近はセカンドステージチルドレン、及びフェーダの攻撃が活発化しており、破壊活動を許す事態も多くなってしまっている。フェーダとの小戦争によって死傷者も多数。剣戟軍としては最悪のリザルトを連続的に記録していた。
《テクフル連盟》はこれ以上の敗残は許されない…とし、士官学校の課題をこれまで以上にパワーアップ。更なる協力な兵士を生むために、あらゆる身体面と精神面を鍛え上げる科目を組み上げる。潤沢な予算を注ぎ込み、完璧なまでに兵士育成プログラムの究極型が完成。
それが完成したのが律歴4118年の10月。
兵士としての規律と実行と身体の中に叩き込み、《七唇律》の根っこから全ての膿をリセット。新たに兵士としての七唇律の改正を目指す。
┠────────────────────┨
◈《暴虐》
それは人の心を抑えつつ、怒りに身を任せながらも、己の業を貫く意志を高める。誰かに昂られて相手の思うツボへと戦闘状態へ陥ると、兵士は自我を失う。自分間でコントロール出来ていると錯覚するのだ。暴虐を鍛錬するのは自制御を許す事になる。各セクションに於いて、“人間”をどうあしらうか。能力の基盤である力の源はこの七唇律から携わる。
◈《喜劇》
人を騙す…という事は、それほどに人からの信頼を置かれ、任されたミッションを遂行する多大なる可能性を秘めたプレイヤーにしか与えられない特殊なポジションを秘めているという事になる。喜劇という言葉は七唇律にすると、人を喜ばせる、オンステージを展開する、スポットライトを向けさせ皆からの集中心を奪う…そういったフィールド掌握力を意味している。士官学校では人からの信頼を意味し、そこから派生して道化師になれる兵士を育成する事を徹底している。
◈《欺瞞》
人を騙す喜劇と弱冠似通ってはいるが、七唇律の全てを搭載する士官学校としては新たな試みが必要となる。欺瞞から展開される感情の働きは、自我を尊重し、相手を葬り去る。境界を許し、相手との対人関係を最優先にする事で各セクションをスムーズに実行する。喜劇が道化師なら、欺瞞は“嘲笑”。相手を自らの支配下に置く事は、選ばれた“戦士”にしか出来ない。欺瞞を自分間でコントロールするのは非常に至難の業だ。
◈《慟哭》
人は泣く生き物だ。自我に責め立てる刺激的な出来事を真っ向から受け止め、それに反応して脳への伝達を行う。慟哭は自己理解を深め、安全弁としての作用を果たしている。他者との境界を曖昧にし、カタルシスが生まれることで新たな成長過程に繋がる。士官学校でコントロールする七唇律としての意義は、“曝け出す勇気”。自己を律せず、襲い掛かる不要だと思われる感情、実際は不要でも何でもなく兵士としての極意を教示する。涙を流す…それは恥部を外界に晒す、対人関係に新転を齎す感情プロトコル。自身の認識を再確認する為には重要な役割だ。
◈《機知》
作戦展開に支障をきたす、緊急事態に陥った際にこの七唇律は深い部分で役割を果たす。クレバーな要素を持つ兵士系統を担う者は、機知を存分に発揮出来るだろう。誰もが平等な形で人に宿る“暴悪”。これをどうコントロールするかは機知のレベルで大きく変わる。大雑把に扱う者は達者に扱う者と比べれば、慚無い結果を生む。機知を高められるのは暴悪を制御できる戦闘情報を書き加えるのが必要不可欠。実戦あるのみ。
◈《博愛》
好意を寄せる。兵士も人間だ。人の尊厳を失うまで訓練、実戦に投入させる訳では無い。時には自分の好きなものに没頭する時間も必要だ。それが兵士としての実力に深く関係する事も多分にある。愛を感じた人間程、現実世界を優雅に過ごす。だが七唇律は“博愛”。全てを平等に愛する心得を目的とする定め。懐柔を豊かにし、感情コントロールもフラットな状況下で収めることができる。強い博愛を精神に持つ者は、“偽善”が制御プロトコルに記載され、各セクションを対等に、広い視野で実戦が可能。それを相手にした者は、小賢しいことこの上ない、面倒な戦闘を強いられるだろう。
◈《神算》
神の理に背信する。作戦展開を見据え、全ての事象に対して、様々な成功の可能性がある事案を提示する。神算を強く持つ者は、神からの系譜が色濃く反映されている、と逸話がある。神からの“告解”をそのままの形で実戦に受け継ぎ、作戦系統を思うがままにする。神算は士官学校における七唇律の中で、最も会得するのに時間が必要。神算を会得するのは選ばれた者。どう足掻いても会得することが出来ない。士官学校にて学習を強制される七唇律特別授業。神算の時にはそんなマイナス意見が新人の中で飛び交う。戦闘にて、より優秀な立ち回りが可能な七唇律ほど、マスターするのは至難の連続だ。
┠─────────────────────┨
テクフルは危険に満ちた世界では無かった。だが世界を再編せざるを得ない出来事が起きた時、それは新たなる軍事国家を生む事になる。
119年前。
律歴4000年──。
突如として発生したセカンドステージチルドレン。彼等の極大なまでに成長した人外の力。彼等は突然生まれ、姿を現した。
通常の生活を送っていたであろう、人間達がなんの前触れも無く、人を襲う様は見るに堪えない非現実的な光景。テクフルを再編するには十分な理由であろう。セカンドステージチルドレンを駆逐するのが、残された人類に託された最後の課題なのだ。世界を席巻する小戦争に投入される剣戟軍。しかし、容赦の無い遺伝子攻撃は、迎え撃つ人間達を叩き潰す。
ゴミのように扱われ、ぞんざいに処理される。混迷を極めた地獄の時代は長く続き、30年以上もの間は、人類に安寧は訪れなかった。安らかに眠る一夜なんて、考えられなかった。
来る日も来る日も、超越者に脅かされる拠点の情報が報道される。
最悪は、日常を制圧した。
終わりの見えない過酷な現実。
戦況は悪化し、人類は激減。平民までもが戦争に出会し、全ての最終結果は全セクションが一律。
街、拠点、機関は決壊。多くの人類が死亡。
経済的な損失は説明不要。多くの作戦が立案され、物量を増やし多様な兵器を使用した、戦術で足掻き続ける。
全ては、生存を確約させるため。
この世界から不要な異分子を抹殺するため。
だが、我々の願いを簡単に叶えるほど、生易しい相手では無い。
─────
律歴4000年8月10日──。
《第一次SSC駆逐作戦》、失敗。
その後も繰り返される彼等の攻撃に対して、我々人類は出来うる限りの応戦は行った。だが…結果は虚しいものばかり。報告をするに値しない結果。いや、報告をしなくても結果は見えていたであろう。何故に、人間はセカンドステージチルドレンに歯向かうのか…。どうして奴らを許せないのか…。
まずそもそも、何故、セカンドステージチルドレンは…我々人類を攻撃するのか。
何が目的で何のために、誰のために、何の信念を持って実行に移しているのか。
─────
律歴4000年から始まった対セカンドステージチルドレン作戦。その全ては失敗の連続。国力、資金も底を着き、もはや、この世界の制御は彼等の思いがままにあった。
だが、彼等の攻撃は忽然と停止。
律歴4014年5月──。
正史上は5月5日と記載されている。彼等の攻撃が止まったのはこの頃から。最後に攻撃を受けた《ブラーフィ大陸》の北方軍事基地。4月の16日。そこからも所々での攻撃はあっものの、今まで行われて来た経済拠点の破壊といった人類を脅かすまでの行動では無かった。
5月5日から、攻撃行動はピタリと止まった。
テクフル全世界で急に止まったのだ。全員の意向が一致しているとしか思えない怪現象。だがこの膠着状態が、人類に久方ぶりの安らぎを与える事になった。
勿論、油断は出来ない。
いつセカンドステージチルドレンが再び行動を起こすか判らない現状。満足な休息が送れない。
世界政府は、大陸間政府への国家軍事力を増強させるよう進言。様々な兵器を製造し磐石の構えを今のうちに作る。彼等の数を少しでも減らす事が人類の総意。絶滅は難しくても、多少なりとも攻撃を加える事が今できる精一杯の成果となる。
そんな一時も休めない休息時間は、9年も続いた。
この間、我々人類は目まぐるしい進化を遂げた。国家予算は可能な限り、生き残った人類を未来に繋げるための生存誓約として使用。
残存する生命のみで、この先の未来を必ず生きる…。
絶対に果たす事項だ。
軍事力も最高レベルへ。様々な襲撃作戦に対応可能な作戦を立案し、状況に応じて直ぐに対応可能なオペレーションも兵士一人一人に叩き込んだ。それは決して簡単な事では無い。だが兵士みんなが必死で、“生きたい”と願う。この願いが具現化された形が即座に対応可能なソルジャーへと進化したのだ。
┠──────┨
律歴4025年10月30日──。
セカンドステージチルドレン、行動再開。
┠─────────────────┨
彼等はまたしても突然、行動再開。まるでこの9年間も世界のどこかで…我々の知る由もない所で襲撃活動を行っていたかのように。そして9年前とは明らかに違う面を確認した。
彼等は元より、個人での活動を主としていた。だが9年もの間で、彼等の認識に変化が生じる。
集団行動。
彼等は単独での行動を殆ど取り止め、集団での行動をメインにし、人類への攻撃を再開させた。やはり、彼等はこの9年間、何もせず生活を送っていた訳では無い。何処かで他者との絆を深め、同じ思いを繋げ、脈を広げていったのだ。
9年前…。セカンドステージチルドレンが発生してからの14年間、単独での攻撃を主としていたが、襲撃ポイントは同じだった。
セカンドステージチルドレン単体が襲撃ポイントに降着すると、そのポイントに他の超越者が降着。次第に数は増え、人類は撤退を余儀なくされる。
これを“集団行動”と呼んでいなかった理由は、個人の中に緻密に計算された作戦が垣間見えたからだ。
一人が登場し、やがてそこは複数のセカンドステージチルドレンで群がる場所となる。この場合、個人個人で果たしている内容が全く同じだったのだ。
普通、集団行動をとる場合は意思疎通を明確にし、担当分けをする。攻撃、防御、彼等には要らないかもしれないが、応急処置。他にも戦闘行動には様々な役職がある。彼等の当該行動を“戦闘行動”と称さないのは、全員が“攻撃”を実行しているから。しかも、殺された人間に対して、“殺した超越者”と全く同じ攻撃行動を取っていたのだ。
客観的には、死体蹴りとしか思えない。脳で思考した行動は必ず実行に移さなければいけないのか、目標を殺す…と認識すれば強い信念でそれを果たそうとする。
思考機転性が欠如している…と解釈するのが今は妥当だ。
そういった理由もあり、彼等は単独行動を取ると判断されていた。それが今は完全に無くなり、戦闘行動が大幅な変化を遂げている。
毎度彼等が現れるのは6人以上で構成された小グループ。これが異常なまでに編隊構成を成していた。この9年間で彼等が他者と結束したのは間違いないだろう。
その集団行動共に、新たに判明したのが必要以上の攻撃を行わない…という事。
9年前までは、彼等の攻撃行動には残虐そのものが備わっていた。だが今回の行動再開を皮切りに、彼等の攻撃には大きな改革があったと見られる。
これは仮説の段階にすぎないが、力を温存していると見られる。これが何を意味するのかは不明だが、一つ一つの襲撃に対して、フルパワーでの戦闘が行われていない事が再開以降確認されている。比較対象は9年前までのセカンドステージチルドレンの行動を数値化したデータ。
それから算出される数値と現在の攻撃を数値化した場合、エネルギー物量指数が圧倒的に激減している事が判明。だからといってこの激減指数が、人類の脅威にならないか…と言われたらそういう訳では無い。現在もその攻撃には油断出来ない。
だがこれは非常に気になる数値。温存している…という事は、彼等にも限界がある事を示唆しているとも見受けられる。
セカンドステージチルドレンにもリミットがある…。この仮説は人類にとって数少ない希望。たとえ仮説であってもセカンドステージチルドレンに“弱点があるかもしれない”というのはとても興味深い。
テクフルはかつてないほどに、混沌と化している。大陸政府の力は衰退の一途を辿り、政局は混乱を極め、大陸間での外交も手詰まりになっている。現状では可能な限りの交易によって、資材や食糧といった面を協力し合い、カバーしている。その交易がセカンドステージチルドレンの奇襲に遭遇しなければ…の話だが。
経済も急降下、更には現代を今から生きる若人達の気力、闘争心、挑戦する意志、勝利への反乱、等といった執念が喪失している段階にある。人々はもうこの時代に疲弊している。生存を諦めてしまっているんだ。
それもそうだ。
いつ死ぬか分からない。
明日死ぬかもしれない。
もしかしたら、一秒後。急にセカンドステージチルドレンが頭上に現れ、極大エネルギーによって家ごと、街ごと、都市ごと吹き飛ばすかもしれない。
そんな憂鬱なムードのまま生活をするなんて、剣戟軍兵士は兎も角、平民である男、女、子供、老人にはキツい現実だ。
争う事を恐れている。
勝てた事なんて一度もない。もうセカンドステージチルドレンに投降したい…。
こんな生活が続くのなら、彼等の言いなりになった方がいい。
彼等に立ち向かうからこんな事を続けているんだ。
畏怖。
苦しい。
助けて欲しい。
そんな願いは、虚しくも叶うことは無い。
政府、剣戟軍は戦いを挑むつもりだ。
望むつもりだ。
結果がどうあれ、我々にはセカンドステージチルドレンの情報が欲しい。仮説が次々と有識者会議で提示される中で、戦闘に役立つ仮説は中々に絞り出されない。出てくる仮説と来たら、彼等の発祥原因。
テクフルに生きる人類が突如、超越者化し、反抗を顕にした。
先ずそもそもの起因として、何故、暴動事件が起きたのか。
◈────────────◈
律歴4000年8月20日──。
《テクフル同時多発少年少女暴走事件》
セカンドステージチルドレン、テクフルに発生。
原因不明。突如若者が暴走を起こし、死傷者を多く生む。
◈────────────◈
いつも通りの日常は、突然に葬られる。
何かの繋がり…いや、そんなものどう説明が着くのか、どう理解出来るのか…この原因不明の事件への仮説が多くを占める。それが戦況を変える切っ掛けに繋がるかは、分からない。
やはり彼等とコンタクトをとり、動きを視察するのがセカンドステージチルドレンを知る近道。それには戦闘を起こす事が必然的にやってくる。
多くの死者を生み出す可能性も、考えなければならない。
9年間の沈黙後、セカンドステージチルドレンは力を温存している傾向がある…という事は上記の通り。それが明確に反映したのが、人を殺す数の減少傾向にある。
彼等はこの沈黙期間を経て、考えが明らかに変わっている。人間を殺すのが目的だと思われても不思議では無い位に虐殺をし尽くしていたのに反して、人類の拠点を破壊したら直帰している。無駄な行動はしない…と判断出来るのか…グループで行動する事によって指導者が台頭したとも推測できる。
セカンドステージチルドレンがどういう意見の合致で、こうなったのかは知らないが、人類として見ればこれは生存の希望が持てる。彼等が虐殺を停止し、拠点のみを破壊する存在になったのはチャンスと見込んでいる。
これを隙に彼等の息の根を止める。
彼等はきっと甘えている。
─────────
もうこれ以上の攻撃はして来ない…。
人間が俺らに勝てるわけが無い。
生存は約束してやるから、重要拠点は壊すぞ。
─────────
共生を望んでいるのか、彼等の思考を完璧に読み取る事は不可能だが、我々は彼等の行動を“退化”と断定。
必ず殲滅する。
彼等に攻撃の意思が低下している今が絶対的なタイミングだ。この期を逃し、また新たな指導者によってセカンドステージチルドレンの動向が変わると、また地獄が始まる。9年間、安寧とまではいかなかったが、テクフル全世界に争いが無かった。
みんなが思い思いに大切な日を過ごした。
そんな日が来るとは思ってもいなかった事だ。
今度こそ、“安寧”を本格的に齎したい。
安心して暮らせる世の中を作る。
剣戟軍に任された正史上、最後の任務。
この任務は完遂する事が無いと思っていた。
そんな時、予定外の出来事が発生。
◈────────────◈
律歴4038年1月16日──。
ラティナパルルガ大陸政府直轄剣戟軍兵器開発研究機構のインフィニティネットワーク上に、謎のロストアーカイブが出現。
◈────────────◈
発見した研究員がロストアーカイブを発掘、解析し無数の数値化された暗号を解読。難易度の高いものではあったが、無理難題では無かった。一体何故こんなものがインフィニティネットワークに残置されていたのか…。昨日までにこんなものがあったという報告は受けていない。普通、インフィニティネットワークに残す情報というのは解析不可能な物か、タイムカプセルのように今開けるものでは無いと判断されたものがネット世界にアップロードされる。このロストアーカイブは…どちらにも該当すると言える。
解析不可能では無かったが、暗号化は施されていた。
タイムカプセルに該当するかと言われたら、素直に頷けないが…そうだとも言われたら頷けるかもしれない。
兎に角これは、昨日までには存在し得ないデータ情報だったのは事実。となると、
─────────
「今開けるべきでは無い、簡単な暗号化されたデータをアップロード翌日に簡単に開けた」
─────────
と…なる。
怪奇すぎる。何はともあれ、インフィニティネットワークに残すデータには興味が湧く。研究員は、ロストアーカイブの内容を確保する。
この内容に驚きを隠せず、プラゲスは直ぐ政府関係者に話を繋げるよう研究所に申し出る。
「ここに書かれている内容、間違いないんだな…?」
「間違いありません…」
「どこにこんなものが?」
「インフィニティネットワークです」
「一体誰が…こんなものを遺したんだ…」
「理由はどうであれ、これは希望です。これを復元出来さえすれば、セカンドステージチルドレンに一矢報いる事のできる…最後の希望。と同時に、絶望も同時に孕んでいます…」
「希望と絶望…“ブラックボックス”か…」
「はい、このブラックボックスを《ゲッセマネプロトン》と呼称し、サルベージ作業に入ります。宜しいでしょうか?」
「反対する理由は無い。やりたまえ」
「はい」
ゲッセマネプロトンに書かれている内容。
それはセカンドステージチルドレンと同様の遺伝子情報が記載された細胞粒子と細胞粒子のサルベージ方法だった。
そのサルベージ方法の詳細を確認した時、プラゲスは目を疑った。
『これを受け取った未来の人間に託す。方法は記載した。この素体から抜き取った血液から新たなる兵器を製造出来る。だがその算段は私が居る西暦2137年には存在しない。いつこれを誰が発見するのかは分からない。いつこれが具現化できるのかも分からない代物だ。何百年後の可能性も考えられる。この遺伝子情報は人を超えた能力を持つ《ユベル・アルシオン》から抜き取った細胞粒子を精製化した原型だ。これを使えば、ユベルの力を我が物にする事が可能だ。きっと役に立つはずだ。今、役に立つものとして機能出来ればいいんだがな…残念だ。では、頼むぞ。能力者が今以上の暴走を遂げていない事を祈る──。』
能力者…この言葉に引っかかる。
ユベル・アルシオン…?
誰なんだ…?
プラゲスの整理がつかない中、やはり注目すべき言葉は、能力者もそうなのだが“細胞粒子”。
プラゲスが呼んでいるゲッセマネプロトン。この中にその細胞粒子は残されていた。手紙の内容から察するに、書き手はこの世界の住人である事が判明している。
だが、ここに記載されている能力者という文言には目がいく。我々は彼等のことを“超越者”と呼んでいる。この手紙では能力者。確かに意味的には間違っていないが、このようなインフィニティネットワークにデータを置くような者が間違えるとは思えない。インフィニティネットワークを使用するにはかなりの学力と掲出許可のライセンス取得が必要だからだ。
そのような者が、世間を知らないはずがない。
ただ単に、書き間違え…?
予想としては範疇にはあるが…。
ゲッセマネプロトンをデジタルサイネージの下に記載されている通りにサルベージ作業を行った。自らの手でも作業過程は可能だとも思ったが、滞り無く行うにはこの方法が最適解だと思った。これで失敗してしまったら元も子も無い。
ゲッセマネプロトンのサルベージ作業は2時間足らずで終了。サルベージされたものには、確かに何者かの遺伝子情報が映し出された。
「これが…ユベル・アルシオンの遺伝子情報…」
これを復元させたワケ。
セカンドステージチルドレンに一矢報いる…と判断出来たのは、ゲッセマネプロトンサルベージ作業前から漏洩していた遺伝子情報にある。ロストアーカイブから発掘した際に、ゲッセマネプロトンは既に外部へ情報を漏らしている状態にあった。液体物では無い。デジタル化された情報というのは蓋が閉まっていても、100%封印出来ているとは限らない。
ロストアーカイブが、100%ロック状態であり続けるには、《“蚕網”シルクワームキャリバー》を使用する必要がある。ゲッセマネプロトン搭載のロストアーカイブには、シルクワームキャリバーの使用がなかった。
そういった事象もあり、インフィニティネットワーク宙域には細胞粒子が微量ながら垂れ流されていた。
この漏洩していた遺伝子情報を先行して、解析した結果、【セカンドステージチルドレンと同様の遺伝子情報】が確認されたのだ。セカンドステージチルドレンの戦果を浴びた跡地にて超越者の遺伝子は採取済みだ。
プラゲスは目を疑った。超越者と同じ能力を自分は今、手にしている…。この遺伝子情報をサルベージすれば、セカンドステージチルドレンと同様の力を保持する機関として軍事力は格段にアップ。もしかしたら、相手の力を制圧するのも可能かもしれない。
先行して漏洩した遺伝子情報を読み取るのは容易だ。採取済みの遺伝子と照らし合わせればいいだけ。その数値とロストアーカイブ漏洩物が酷似している事態。
当初、セカンドステージチルドレン対策本部が作戦として立案していた、【セカンドステージチルドレン捕縛作戦】。超越者を捕縛し、彼等から遺伝子を抜き取るという作戦なのだが、どうやらこの作戦を展開する必要は無くなったようだ。
◈──────────◈
律歴4038年1月25日──。
《赤い鎖プロジェクト》第一段階完了。
ゲッセマネプロトンから精製されたデータを元に、特殊兵器のプロトタイプを製造。完成。
セカンドステージチルドレンの遺伝子攻撃を無効化が可能な兵器。
◈──────────◈
赤い鎖プロジェクトが発足し、可決された。政府は最後の希望と題し、予算を注ぎ込む。結果的に見事、開発は成功し、プロトタイプとしての形を成した。
SSCにはSSCを。人類が手にしたSSC能力は前者の反対“マイナスエネルギー”に相当する精算攻撃。
セカンドステージチルドレンの遺伝子攻撃を無効化するという夢のような兵器だ。
しかし、これはプロトタイプであり本来の完成系へと進化を遂げるためには実践が必要不可欠。のため、SSCと交戦するために剣戟軍はSSCの襲撃を待機した。
こんなにもSSCの攻撃を待ち望む瞬間が来るとは…。
そしてやってきたSSC襲来の報せ。我々人類はいつも通り、SSCの襲撃を止めるべく攻撃ポイントへと向かう。
──────
律歴4038年2月20日──。
《第94次SSC襲撃事案報告》
攻撃ポイント:
トゥーラティ大陸 ザーカッズウッド/ピルシー
──────
SSCの攻撃は通常通りの展開。最近は人類の生活基盤としての役割を果たさない普通の街も攻撃の対象となっている。ピルシーは小さな街。高層マンションも、複合施設も無い、限られたインフラ整備と防犯防災機能が小規模展開されているぐらいの普通の街。
SSCの攻撃際に、剣戟軍も航空機にて現着。やはりそうだ。航空機を攻撃して来ない。9年前なら航空機で現地に接近する前に撃ち落とされていた。今ではこうして、ピルシー前まで接近し降着も出来ている。
今回の目標はSSCの襲撃を止めることでは無い。優先すべきはプロトタイプの性能。果たしてこれが本当にSSCに効力を成すのか。相手の遺伝子攻撃と相殺し、マイナスエネルギーが上回る事態に展開することが出来るのか。
行動開始。
ピルシーに突入。今回SSCは3名のグループで動いている。住民らは退避済み。ここを攻撃する意図は未だに判明していないが、そんな事はどうでもいい。
女が一人、男が二人。マシンガンに似た武器を所持している。
剣戟軍は彼等の前に立ち塞がる。
「あれ、人間さん達、逃げなくていいの??」
「せっかく、痛い目に遭わないで済むんだから逃げたらいいのに」
「おい、よせ。攻撃はやめるんだ」
「分かってるって…もう、うっさいな」
「人間。ここから立ち去れ。さもなくば、この街を葬り去らねばならない」
「そだよー?さっさといったいったー、しっしっ」
────
「受けてもらいたいものがあってね」
────
「はぁ?何言ってんの?」
「どゆことー?あの人間何言ってんの」
「どういう事だ」
用意したプロトタイプを三人の前に顕にした。
「なにそれ、鎖ー?ウケるんだけどー、そんなのでどうしよっていうのよー」
「それで?なんか俺たちに一矢報いる気?」
「無理な願いだな」
三人は笑った。嘲笑った。
──
「いけ、《レッドチェーン》」
──
プロトタイプが箱から浮遊し、赤く染め上がる。鎖が周期的に回転を開始し、エネルギーが集約。高められたエネルギーが沸騰するようにグツグツと怪音を発生させる。その様を見たSSCの男が一言を発する訳でもなくて、眉間に皺を寄せて光景を見ている。
「ね、ねー、、、、何よこれ…なんか…」
「感じるか?」
「うん…私も感じる…何この変なキモチ…」
「ああ、俺も感じる…なんだよこれ…おい…なんだよ…」
やがてその回転スピードは、周辺に風を作り突風を辺りに起こすまでに急激成長。静まり返っていたピルシーには、信じられない程の異常気象が発生。プロトタイプの力に剣戟軍兵士は言葉を無くす。
「おい!ここからどうするんだ!?」
「分からねぇーよ!使ったことねぇんだから!」
「おい!やべぇぞこの風!ハリケーンだ!」
「マズイな…おい!早くSSCをどうにかしろ!!」
「あのクソ野郎ども!逃げてくぞ!!」
SSCがピルシーから離れた。
「危険だ、退避しよう」
「了解」
「う、うん、、なにあれ、、キモすぎ…」
「おいおいおい!逃げるぞ…何とかしろよ!頼むから!!」
その刹那、ハリケーンが止まった。一瞬にして暴風が止まり、極大な音も、荒かった気象も通常に戻った。上空には逃走しようとしていたSSCの姿が。浮遊能力を有し、ここから去ろうとしていた。そんなSSCもこの急なリターンに驚きを隠せない中、プロトタイプがまたもや不穏な行動を起こす。
ハリケーンが終わっても尚、未だに継続される回転が更なる速度で高速回転。
そして一つの飛翔体がプロトタイプから放たれた次の瞬間、プロトタイプが浮遊するSSCに向かい急速接近。
「なんだこいつ!!」
「なに!?」
あまりにもな迅速に対応が出来ないSSC。そのプロトタイプがサイズを大きく変化させ、SSC三人を包囲するサイズにまで急激な成長を遂げる。その際にも回転は停止していない。寧ろ、スピードを上げている。モスキート音のような奇怪な音が地上にいる剣戟軍に聞こえる。
ということは、上空で包囲されるSSCからしてみれば…
「おい!!なんだよコレぇぇぇぇーーー!!!」
「ヤバい!!!痛いってええてー!!いてぇんっだよ!!!!」
「あああああぁぁぁアアあああ!!!!耳無くなっちゃう!!!切り落としたい!!!痛い!!!イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!」
阿鼻叫喚。地獄から手を出す尖兵のように、為す術無くプロトタイプの回転奇怪音を受けるSSC。
回転は止まることを知らず、そのまま速度を維持し、SSCを壊しにいっている。
「これ…凄いな…」
「ああ、まさか…こんなものが…」
「これが、ゲッセマネプロトン。赤い鎖プロジェクトのプロトタイプ、型式No.零壱+α正式名称“レッドチェーン”だ」
「あれは、遺伝子攻撃ですか?」
「恐らくそうだ、その証拠として、今、我々はあの奇怪な音の餌食になっていない。幾ら上空で発しているであろうとも、相当な音量のはずだ。だが、我々には小さい小さい音としか捉えられない。レッドチェーンから発現できる遺伝子攻撃は“対セカンドステージチルドレン専用”という事だな」
「あれ、死ぬんじゃねえか?」
「あぁぁぁぁあアアaaアァァァああああ!!!!!!!」
「イタイイタイ!!…イタイ…アアァァアaア!!!!イタイ!!!」
「もう!!!やめてくれェエェエ!!!アaアアア!!!」
「ほら、あれ、ヤバいだろ?」
「あの叫びは声飛ぶヤツだな」
「もう一生分の声出しとるな
「どうすんのよアレ」
「とは言っても、ここからはどうすることも出来ん。生かすも殺すも…レッドチェーン次第だ」
「恐ろしいな…」
「恐ろしいも何も、我々が受けてきたものに比べればこんなの容易いものではないか!見ろ!あのセカンドステージチルドレンの惨めな姿を!!あんなにも泣き叫ぶセカンドは初めて見ましたよ!!」
SSCから涙が…穴という穴から血が吹き出していた。頭部も爆発寸前かと思われていた矢先、突如レッドチェーンが動きを停止させた。
「おいおいおい、ここからじゃないのか…??」
「止まったか…おい、SSCは?」
上空に浮遊していたSSC。レッドチェーンの行動停止によって、完全に沈黙。地上に落下した。
「男二人は死んでるな」
「女の方は?」
「それが…これ、息してるよな?」
「ふん、良いじゃねぇか。持ち帰ってやろう」
「たっぷり聞かせてもらおうじゃねえの」
「こんなに可愛いのに、残念なこったァ」
「……、、、、コロス…、、、」
「簡単に死んでくれなくてよかったよ。君には聞きたい事が沢山ある」
「…シネ…、、、、、オマエら、、、ゼッタイに、、、」
「おい、行くぞお前たち。せっかく生きたんだ。大事に扱え」
「…、、、コ、、ロス、、、ユルサ、、ナイ…、、……」
「死に損ないが…今まで俺らが受けてきたものに比べればこんなの屁でもねぇよ」
「いい胸してんじゃねぇか、残念だなぁ。お前さんがセカンドステージチルドレンで」
「名前を教えろ」
「、、、、、、、、」
「名前だよ、名前を教えてくれ」
「、、、、、、、、、」
「《メティア》」
「ん?」
「この女の私物を確認した。この女の名前はメティアって言うらしい」
「、、、、、、、、」
「メティア、ちょっと長旅になるよ」
「ゼッ…、タイ、、、、コロ、、シテ、、、ヤ、、ル」
…
…
…
…
…
-7時間後- 同日夜7時19分──。
ラティナパルルガ大陸 王都ツインサイド剣戟軍総合本部
対拘束者隔離面会室
メティアの四肢を拘束。その拘束部位はゲッセマネプロトンから精製したマイナスエネルギー《アンチSゲノムブッシュ》を含有させた磔の拘束具。
透明な壁の向こうには、先程の作戦にも参加していた剣戟軍特殊作戦部隊隊長。剣戟軍防衛事務官が彼女の目覚めを待っている。
「バラードよ、君達は何を連れてきたんだ」
「あの実は…」
「状況は聞いているよ、連れてくるなら生きてるものを連れて来るもんだろ?」
「いや、先程まで生きていたんです」
「ちっとも動かないじゃないか…」
「起こしますか?」
「出来るのかね?」
「おそらく可能かと思われます」
「そのー、プロトタイプとかいうやつかね」
「はい、我々はレッドチェーンと呼んでいます」
「…、、赤くないぞ…」
面会室。ガラス張りの向こう、磔されているメティアに7時間前に受けさせたレッドチェーンと同等の威力を発揮する赤い鎖プロジェクトの試作途中段階の代物を干渉させてみる。
「あぁぁぁぁあアアアアアアああああああ!!!!!」
「起きた起きたぞ!」
「はぁハァハァハァハァ……、、、」
「おい、君、起きてくれ…もうこれ以上寝るのはよすんだ。人間の姿をしてるんだ。7時間なんて寝すぎだとは思わないかい?」
「しらねぇよ…」
「ほう…言葉を発せるまでに蘇生してるな…」
「あたりまえだろ??かんたんに人間なんかに殺されるかよ…」
「随分とハキハキ喋るじゃないかー、報告書に書かれてる記載事項と全然違うな」
7時間前に捕縛した時からこの目覚める前までに、メティアは自己再生を行った。身体の穴という穴から出血をしていたのに、今では完全に回復している。レッドチェーンの回転集約エネルギーによって部位破壊と骨の屈折も確認出来たのに、今では出会った時と同じ容姿となっている。これがセカンドステージチルドレン。簡単には死なない。
「メティア」
「あんたなんかに呼ばれる筋合いは無い」
「クソガキが、あんまり調子に乗るなよ?またあれを食らう羽目になるぞ?」
「殺ったら?もう一回やってみなよ。なんであの時、殺らなかったのよ。ビビってんじゃないの?」
「お前にか?アッハハハッハハ!!ビビってる訳無いじゃないか!今の君達に私がビビる訳が無い!君達も驚いていたようだな…まさか人類がこんなものを作っていたなんてな!!」
「…、、、」
「どうだい?痛かったよう?苦しかったろう?仲間はどうなったんだっけ?死んだらしいなぁ?」
「うるさい…」
「ぇえ??なにィ?なんですかー??ナーニも聞こえませー〜?んー」
「うるせぇんだよ!!死ね!!クソジジイが!!」
磔状態からメティアは力を振り絞り、ジャリジャリと拘束されている金具を鳴らす。だがその力は一気に衰退する。
「あっーHAHAHAっハハッははっ!!!どうだー?その金具には君達が悶絶した遺伝子情報を塗り込んでいるー!君はもう私の支配下にあるという事だな!」
「力が…、、なによ、、、これ、、、、」
「君はもう終わりだ」
「死ね…」
「多分君の方が早く死ぬんじゃないかな…?」
「来るよ?」
「何がァ?」
「私をこんな目にあわせていると来るからね…」
「だからー何がァ??」
不敵に笑うメティア。
「これ…私達と同じ遺伝子から作ったらしいけど…どうやって作ったのよ」
「そんなものを聞いて何になるんだい?数時間後に死人になる女に何を言っても変わらんだろー?」
「あっそ」
「メティア、君に一つ聞きたい事がある」
ここでしばらく二人の問答を傍観していたバラードが口を開く。
「あんたを先ず最初に殺す。あそこにいたやつから順に殺してあげる。んで最後にお前。お前絶対に許さない」
「フンっ、良い女だが頭は良くねえな」
「メティア、君に聞きたい事があるんだ」
「うるさ、正義ぶってんの?マジきもいんだけど、あたし、お前みたいな偽善者大っ嫌い。次口開いたら殺す」
「君に一つ、聞きたい事がある」
「…、、、、、、、、」
彼女が黙った。ここから足掻いても体力を消耗するだけだと思ったのだろう。アンチSゲノムブッシュ、SSCを無効化する装置が常時付けられているのはかなりダメージになってると、彼女の顔色を見たら疲労を伺える。
「なに」
メティアが頭を上げず、顔面を下に向けたまま、話者の受け手を視界に入れずに返答した。
「何故、人類を攻撃するんだ?」
沈黙。
「任されたから」
「任された?誰に?」
「あっちの住人に」
「どこの住人だ?」
「ちっ、うるせぇな…あっちだよ…アッチ」
ようやく顔を上げて言った。怒号を上げそうな血の昇った赤い顔をしながら、彼女は強く言い放つ。
「アッチ…とはなんだ?もうそれは人類には言えない事か?」
「“アッチ”って教えといてあげる。もうこれ以上は言わない」
「何故だ?」
「うるさ」
「もう一つ質問していいか?」
「一つじゃないんですか〜?」
「君達は元々人間だったはずだ、人間の時の記憶はあるのか?」
「さぁね、良く知らない」
「知らない…?自分が何者か分からないという事か?」
「あ、それ、そうかもね。てか何あたしから引き出そうとしてんの」
「もしも、君達セカンドステージチルドレンが我々人類に対してよく思わない部分があるなら、我々はそれを直したい」
「おい、、 バラード、お前何を言っている?」
「共生するんだよ。セカンドと人類。共生する道があるとは思わないのかい?」
「君達の指導者は誰だ?」
「…、、、、、言ってどうなるんだよ」
「君達の事が知りたいんだ。律歴4000年、君達突如現れて暴走を始めた。そして、その暴走を始めた…我々は“第一次”の初期メンバーは現在確認されていない。時代が変わる度に、戦闘相手が変わってるんだ。なんだ、君達は一体何人いるんだ?繁殖方法は我々と同じか?」
「あんたたちに言っといてあげようか…セカンドステージチルドレンは、全てを食う」
「“全てを食う”?それは、我々を殺すという意味に該当する発言か?」
「低脳だな…そんな上辺だけの意味では無い」
「もう教えない気か?」
「質問ばっかでウザイんだよねー、女の子だよ?あたし」
「お前など性別で区分け出来る生物では無い。お前達は悪魔だ」
「へぇー、悪魔か…サキュバスって事でいいのかなー??!」
「またこれを食らいたいか?
「分かったわかった、もう降参、降参するよ」
レッドチェーンの遺伝子攻撃をもう二度と食らいたくないのか、降参の意思表示を見せるメティア。
「我々の言う通りに従うんだ。質問に答えろ。“セカンドステージチルドレンは何が目的なんだ”?」
先程の沈黙よりも長く感じる。
彼女の黙り込む姿は、何かを言おうか言うまいかを迷ってるようにも取れた。
しどろもどろな姿に嫌気が差したティラントは、再三の遺伝子攻撃をお見舞いする。
悶絶する彼女の姿を狂ったように笑うティラント。
その姿には、同意する気にはなれないバラード。
「もうやめましょうよ」
「何故だ!なぜ止めようとする!フッフッフハハハハ!!見ろ!このどうしようも無い、抵抗のしょうが無い哀れな姿を!女だから余計に刺激的に映るなぁ!!良いじゃねぇか良いじゃねぇか!!」
遺伝子攻撃を停止。
メティアの抗いは二人の視界には届かない。力を出そうと思っても出せない。セカンドステージチルドレンの力を無効化するアンチSゲノムブッシュが強く作用しているからだ。
「おっとー、こんな所で死んでもらっては困る。それに幾ら自己再生能力があろうとも、これ以上の時間を割く訳にはいかない。このぐらいで止めておこう。あっ、そうだそうだ…その君の自己再生能力は他のセカンドにも備わっているのかな??どうなのかな…?もし有しているんだとしたら、もう一人捕まえればいいだけなんだし、ここで君を殺処分しても構わないんだがぁー…」
「やめろ!!!やめろ!!やめろ!!!ヤメロ!!ヤメロ!!」
「じゃあどうするー?ここで君は死ぬか?大人しく、私達、人類に投降するかぁー??早く選ぶんだな。私は忙しい。おい、バラード。少し様子を見といてくれ」
「どちらにいかれるんですか?」
「決まっているだろー?ゲッセマネプロトンを大量生産する《赤い鎖プロジェクト》の進捗報告だよ。剣戟軍上層部は喜んでそれに合意し、大陸間政府も大歓喜だからな。私はそれで昇進間違いなしだ!じゃあ、あのクソ女と上手く絡めよォー。おっと、手を出すなよ?処理するのはこの私だ。性処理もするな?案外あーいう女、お前さんは、嫌いじゃないだろ??」
セカンドステージチルドレンへの勝利を確信するような高笑いをしながら、ティラントは隔離面会室から退出した。
セカンドステージチルドレンと二人っきり。このどう表現していいのか判らない現状に戸惑う。
これはコミュケーションを図る絶好の機会だ。このシチュエーションを利用して、巧みに会話を続けられたら、この女から超越者について、何か聞き出せるかもしれない。バラードは言葉を掛けた。
to be continued… NEXT EPISODE -+0.5-
「Lil'in of raison d'être:4119」シリーズ始動。
今回は“ダブルオースラッシュツーファイブ”という物語。
今後、どこかのタイミングで、剣戟軍兵士プラゲスとゲッセマネプロトン《レッドチェーン》について描写します。
プラゲスの物語は保留です。少しお待ちください。
次回のタイトルは、
「Lil'in of raison d'être:4119-00/38」
第三章以降に更新します。
リルイン本編では無く、〈0.5〉という小数点刻みで送るには理由があります。是非お楽しみにしてください。




