ep.21:愛の象り
生残の女によるモノローグ。
[#21-愛の象り]
見たことも無い。
想像したことも無い。
感情が抉れるような酷い光景が視界に広がる。
瓦礫によって押し倒された身体を振り絞った力によって元に戻す。
まだ自分にそこまでの力があったんだ…と誇らしく思う。
私は生きている。
一人残された私は、“最後の生存者”として歩く。
歩く。
歩く。
途方も無い場所を歩く。
原型を留めていない姿となったツインサイドに、若干の涙をうかべる。
怖くなった。
そして、憎くなった。
セカンドステージチルドレン。
知ってる。
アイツらか…。
勝手に思ってしまった“最後の生存者”というレッテル。
歩く前からそう思っていた。
だけど…歩いてわかった。
見る限り、生きてる者はいなかった。
倒壊した建築物が無数に倒れ、血腥い場所もあった。
人が沢山死んでいる。
兵装備の人、カップル、男友達、親子連れ、抱えられた赤ちゃん。ベビーカーに眠る赤ちゃん。
ダメだ・こんなものを見てしまうと…おかしくなる。
破滅的大敗。
人間は負けた。
恐ろしい。
花の都ツインサイドは都市機能を完全に失った。
涙が出てくる。
こんな自分でも、なにかの役に立ちたかった。
小さい子供を守りたかった。
未来ある子を守りたかった。
誰も居ない。
“見えない”だけと思いたい。
この先に、、誰がきっといる。そう信じる。
…
いるのかな。
瓦礫によって身体の損害を免れた私。
こんなのまぐれだよね。
私以外、生きてる人、いるかな。
99%の人工量死んでると思う。
一区画しか目に映って無いけど、この有様は他も同一だと思う。
1%の希望は残しておく。
まだ生きたい。
死にたくない。
けど、私以外にも生き残るべき人がいたよね?
申し訳ない。
その人たちの為にも頑張りたい。
精一杯生きて、みんなの遺志を継ぎたい。
神は私を守護してくれた。
許さない。
こんな目に合わせたヤツらを許さない。
殺してやる。
違うでしょ?
あんたらが怒っているのは明確なんでしょ?
私達じゃない。
なんで関係ない人を巻き込むの?
空から降る轟音を忘れない。
虐殺したアイツらを忘れない。
皆の死骸を忘れない。
心の中に寄生する気持ちの悪い物質。私にはどうしようも無く、受け入れる…迎え入れるしか無い。今の私にはそんなものに対抗する気力すらない。私はこのまま飢え死になのかな…どうやってもここから生還できるとは思えない。自分の現状をどうやったら打破できるのか…。ここから先に待ち受けるのはどう考えても、暗黒に塗り固められた救いの無い世界。コーティングが剥がれないガチガチに強固な素材で制作された人権の無い世界。
消えてしまった…人が…消えてしまった…消し去られた。無情にも自分だけが残っている。あんな所に立て掛けてあった壁が一切の倒壊も許さず、私を守護した。生かしてもらった命を大切にしたい。
そんな想いが拭われる前に、私は人と出会いたい。どうしても…私は人の力を借りながら生きなきゃダメなんだ…。私一人じゃどうしようも無い…私は何も出来ない。誰かの力を借りてここまで生きてきた。自分で何かを成し遂げた事なんて、指の本数にも満たない。
過去を呪う。自分なんてそこら辺に落ちるゴミみたいな存在なんだ。今ではそうやって責めているけど、当時なんて何も思っていない。ただ、現実を嫌い、多幸に満ちた人を妬み、幸せを勝ち取った人へ殺意を向ける。そんな全ての事象をマイナスに捉え続ける人生。
そんな人生の何が面白いんだ。今こうして自身の穢れた過去と対峙しなくてはいけないぐらい、何もやる事がない。だからといって想起させる内容がこれでいい訳が無い。
私はこの大地を愚直に前進している時に、何かを感じる。細胞レベルで引き寄せられるようにそれに近づく。目に映ったのは瓦礫が覆い被さる大地。でも何かが付着している。なんだろうか…これは。その何かに向けて手を差し出した。直接。すると脳内に無数の視界映像が駆け巡る。
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Abscheulich Ritter/Ewig Liebe Wachter/Extremer Traurig Drachen.her heart is overcome by a world awash in cruelty,harshness,hatred and loneliness
But that is the way of the world
Each of us fears its absurdity, and curses it
And yet, the world is immeasurably vast,
and gentleness, mercy and empathy linger in our hearts.I desperately wanted her.have you ever killed someone?why are you still here? i told you to go?
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10秒ほど、癲癇を起こす。その後は暫く身動きが取れなかった。この視界映像を理解した。記憶消去の外汚染プロトコルは現時刻を持って削除。これより自我データによる行動を開始する。
自分が本当は何者なのか…理解した。
自分が接触したのは…理解した。
主君からのメッセージを私は受け取った。
任務を遂行しよう。
でも、どうやらこのメッセージを受け取ったのは私だけじゃ無いみたいね。だから、余計なものも見た。私が見るべきでは無い記憶。
不敵な笑みを浮かべ、彼女はその場から立ち去った。
◈
私の名は、エリヴェーラ・スカーレディア。
◈
この血を与えた主君への忠誠を誓う。私は必ずあなたの元へ辿り着く。他とは違う。私は汚染に負けない。汚染に打ち勝ち、あなたが待つ聖域へ向かう。
きっとあなたはこの街の全てを転化させようとしたんでしょうね。
けど無料よ。
残念ながら私にはそれは効かない。
無効力。
読みが外れたわね。
サリューラス・アルシオン。
アルシオン…か。
まさかまだ生きているとはね。
あなたの遺伝子に触れた段階で見えたんじゃなくて、私は元々あの事件を知っていたような気がする。誰かに編集されて…誰かに改竄されて…私を私で無くしたやつがいる。それが誰なのかを知りたい。私は知らなきゃいけない。
サリューラス。あなたは私を何故生かしたの?
臣下になってほしいの?
悪いけど、あなたの下にはならない。
あなたと対等な立場しか私は認めない。
それがダメなら、私は私の疑問を解消する旅に出る。
それは多分とてつもなく厳しい旅になるよね。
干渉の際、私はとある人の記憶に触れた。
錯綜とした“遺伝子情報の海”を行き交い、辿り着いた先には巨石とも取れる壮大なスケールで形成された一つの記憶の塊に行き着く。それはあまりにもデカく、この《螺旋の海》のランドマークに指定できる。
数多くのセカンドステージチルドレンが集結し、「どこに集合する?」ってなもんを言えば、筆頭株として打たれるのは絶対にここだろう。
螺旋の海に流れる悠久の遺伝子。
歴代のセカンドステージチルドレンが右往左往する異空間。遺伝子としてその身を成しており、個体としての生命は完結している。遺伝子情報とそれに追従する形で細胞粒子がビットのように主体を追い掛ける。“歴代”ともあってその数は多い。
しかもこの歴代という言葉には過去だけに囚われず、《未来の疑似進化セカンドステージチルドレン》も登録されている。疑似進化セカンドはランドマークに収束する隊列行動を定型としているが、時折別のルートに参画する隊列もある。
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それは巨石とはまた違う“大樹”のような形を成すもの。
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過去と未来。
それぞれの時代で生きるセカンドステージチルドレンの違いは螺旋の海の中では完全なまでに判明できる。
簡潔に言うと、これまでの者達の《Sゲノムノイド》は不透明で薄く影のような見た目。
ここから先のSゲノムノイドは形がクッキリしているんだ。
単純に死んだ者と成す者の違いがこの海でかなり把握できる。
未来のセカンドステージチルドレン。
その情報を開示されたからには、気になる事は多い。
まず気になる…という以前にまだセカンドステージチルドレンが生きる時代が続いていくのか…と不自然ながらそう思う。凶器は終わらない。
いつの時代も超越者は人類の前に姿を現し、攻撃を継続しているという事か。
いや、判らないぞ。
未来の超越者が人類を攻撃しているとは限らない。ましてや、“セカンドステージチルドレン”と呼ばれているのか…?
死語として現在が抹消されているんじゃないか…?
そうした面に於いても未来…子孫にあたる者達がどのように時代を形成しているのかを知りたい。
私は根っからのセカンドステージチルドレンでは無い。今日この日を持ってサリューラスからの祝福を受けて新たな命を吹き込んでもらった。これは稀な正良品であって、不良品が生まれるのが常である。
恐らく、もうそろそろツインサイドに異変が生じる。倒れ込んだ生命が新たな時代を彩る玩具に成り果て、暗黒への系譜を闊歩させる。
強制性を孕むフェーダの転化攻撃に、私は不良品になる事は無かった。
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螺旋の海で暗示される未来
不良品としての進化。
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現在と未来をここまでこういった形で提示されても推測の域をどうしても脱しない。
単純な仮説を立てるとするなら、不良品として進化したものの、何かの反動…或いは《フェーダの祝福》のように遺伝子情報への変革が発生するイベントにより未来には今日までのと同様の超越者が再び誕生するようになった…という事だろう。
ツインサイドで起きる異変への対処。
私にはどうすればいいのか。
これに関しての情報が記載されていない。無数の情報が脳みそに書き加えられたのに、現状への打開案は一切の提供が無い。
正味、未来とか過去の事とか、今はどうでもいい。
過去は兎も角、未来なんてどうせもう決められたもんでしょ。”未来を知っちゃう”っていうのがもう未来になっているんだから、ここからどう修正しても結果は変わらないんだよ。
どう足掻いたとて私が見た生き生きとしたセカンドステージチルドレンは必ず産まれてくる。
今もそうだ。こうやって愚痴に似た、現在へのデトックスは、シナリオ通りの展開なんだよ。
なんだって最初っから決められたルートをずーーっと走らされる。
生物っていうのはそういうもん。
世界っていうのはそういうもん。
もう変えられない。
軌道に乗った放物線を湾曲させるには、かなりの固まった未来情報を持ち合わせ、シナリオ通りに展開される直前に未来の行動を誤差修正させなければならない。
信用される未来情報。
時渡りでも存在しなければそんな事知る由もない。
予測の可能性として考えられるのは、未来のセカンドステージチルドレンに備わっているであろう逃避夢の使者。
つまりドリームウォーカーが未来にも存在しているかどうかだ。何故未来にドリームウォーカーの存在が懸念されているかと言うと、戦争が起きているか判らないからだ。
今、セカンドステージチルドレン及びフェーダは人類との戦争を行った。正史上、ここまでの戦争は現時点では無い。この戦争は間違いなく次の世代に被害を引き継ぐ、災厄の始まりとなった。この災厄がセカンドステージチルドレンの逃避夢に悪影響を及ぼす可能性がある。超越者に逃避夢現象が現れるワケに、“自らの生存理由を解くため”というのが有力視されている。
──
一人が嫌なんだ。
──
結局は誰しもが一人を嫌っている。
強がって反対の事を言うだけで深淵を覗くと誰もが同一の意見を訴え続けているんだ。そんな者に力を貸すのがドリームウォーカー。彼等の存在は非常に大きい。
正史に“異物”として書き込まれたツインサイド戦争。この戦争が後の世代にプラスベクトルに働く事は無いだろう。
そんなドリームウォーカーが未来にいない可能性を考慮すると時渡り紛いの未来を予測する機能を損失する事になる。
セカンドステージチルドレンを裏で支えてきたフォロー予備軍の功績は大きい。
フルに活用出来ない遺伝子能力。
今後どのような展開を左右し、どんな結末へと駒を進めるのか。全ては個人の力量と集団の結束力に深く関わってくる。誰の提案も受けず、誰からの助言も受けない、創世される未来は現在を生きる者の回路から全てが生まれる。
新たな理を提示し、その理を我が物とするならば、世界を掌握する“皇帝”が誕生。世代交代と言わんばかりに様々なリーダー達が覇権争いに参戦する事で、時代は終局を繰り返す。
繰り返される争いは、回を増すごとに惨さへの磨きがかかり、展開をエスカレート。
それに飽き足らず…それに飽き足らず…あれにもこれにも飽き足らず…次々と非道への着手を始めていると、待っているのは原罪の浄化。
浄化者の儀が執り行われ、待ち受けているのは処罰への道。道には“逸脱の門番”が左右に出現。対象となる浄化者に対して、自我境界を天越した《ユメクイ》を起こす。
あの情報が欲しい。
あの情報が欲しい。
あの情報が欲しい。
あの情報が欲しい。
あの情報が欲しい。
あの情報が欲しい。
いつになく上機嫌になる逸脱の門番らは、これまで以上の浄化者が現れた事が何よりも嬉しい。これで新たな文明を記憶領域に書き加えた。
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これで、ドリームウォーカーに出会える
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現代に生きる者の情報は新鮮。
色褪せないカラーバリエーションが豊富な現像は、過去に生きた者達にとって有益な情報。それと共に生育されるユメクイ機関。
ユメクイは個人から生まれでたものでは無い。新たな“創世の英雄”が誕生する際に、持たない者だけに授与される生涯一つ限定の代替の効かないもの。
新参者に待ち受けるユメクイの魔の手。
皆がユメクイの餌を求めて、日々やってくる人達を睨みつける。
この現在と未来に、安寧が約束出来ないままの状態が確約されている状況を私はどうにかしたい。
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・私だけが生き残った理由
・ドリームウォーカー正規進化へのユメクイ大量繁殖
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私はセカンドステージチルドレン。だけど今までの種類とは違った存在かもしれない。人間を殺そうとも思わない。てか、まだ私自身“人間”だと解釈している。だから超越者を人間とも思っている。そんな人間が、これからのロードマップを思い描く。
色々と考えては見たものの、一人でこの先を出歩くのは危険だと判断。
仲間が必要だな…。
私一人ではどうにも出来ない旅になると思う。
誰か…居ないかな…まぁ居ないかなぁ…こんな所に私だけしかいなかったし…。
天を見上げると、雲を切り裂くように航行するエゼルディの姿。
「あの中にいるんだね…」
私は決心した。土産話のために仲間を引き連れて、ちょっとした覚悟の旅路を歩もうと…。
「大好きだよ、待っててね…サリューラス。あなたのおかげで、私は生きれている。この御恩は忘れません…」
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『Lil'in of raison d'être:Chapter.1/第一章 夭折の叛逆』
when my wish comes true,i can disappear completely.
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第一章完結。
御読了、ありがとうございます。
━━━━続劇。




