ep.20:Twin Side Khaleesi
肉片。
フェーダは、サリューラスを先頭に置き静かに行軍。
たまに発見する剣戟軍の残兵を見つけ次第、殺していった。これは、サリューラスの命令では無い。フェーダの根幹にある“憤怒と憎悪と絶望による陽動”。
その残虐行為がギリギリのところでスフィアシュバルツの分断を受けなかった離れ地にいるテレビクルーによって生放送された。
「現在、我々はツインサイドでの戦闘を目の当たりにしております。非常に、、、凄惨な光景です!とてもこの、、状況を表す言葉が見つかりません。誰も止められないのでしょうか。彼等は何が目的なのでしょうか。それを知る由はどこにもありません!あ!今、ツインサイド・カリーシ前まで侵攻中です。兵士は、、、もう、、誰も、、」
言葉を失うアナウンサー。見るに堪えない苦しい光景。
見るに堪えない禍々しい結末を目撃する。連鎖的に侵攻中のフェーダメンバーが、起き上がろうとした剣戟軍兵士を捻り伏せた。涙が出そうになった。
なんだか、生きてる…という当たり前の概念を否定されたように感じる。
無慈悲な鉄槌が繰り出される所業は、テレビクルーに深く刻まれた。
そのテレビクルーの傷負った記憶を上書きするように、突如としてノイズが走る。
「すみません」
「どうしましたか?」
「一旦中断した方がいいかと…」
「いや、いいよ。中断なんかしなくても。」
テレビクルー間での会話から発せられている声色とは違う、何者かの声がした。
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「これでいいかな…うん?声入ってんのコレ??あー、聞こえますかー?どうですかー?ゴミの分際さーん。あなたたちに言ってるんですよー?」
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人間を軽蔑するような声の主は、フェーダの一員だと直ぐにわかった。
その現象は、《ラティナパルルガ大陸》《ユレイノルド大陸》《ブラーフィ大陸》《トゥーラティ大陸》、各大陸の全土のメディアネットワーク、即ち電波塔をハッキング。
強力なハイボルテージウイルスが主電波使用局を中心に感染。テレビクルーに感染したハイボルテージウイルスが、音、動画の順番に強制性を見せる。テレビクルーの意図しない映像が流れる。そこに流れる人影は、サリューラス・アルシオン。エゼルディから射出されたカメラアイ搭載ドローンが、サリューラス・アルシオンを投影。
その映像が4つの大陸の電波局にウイルス侵入。ノイズだった全エフェクトがクリアになる。
このサリューラス・アルシオンは今、4つの大陸にある全ての電波受電モニターに映し出された。SNSの情報共有システムにもそれは、統合映像としてブラウザライブされた。サリューラスは、一人で立っている。
何もせず、無言の空間が10秒はあった。その目つきには、奥に潜む憎しみが伝わる。
サリューラスは何も言わずに、このカメラをオフにした。
「ええー、サリューラス何も言わないの?」「そんな気分じゃなくなった。」「何が見えたの?」「え?」「見えたんでしょ?サリューラスには、閲覧者が。」「ああ。」サリューラスには、奥が見えていた。「十分な罰を与えた…と思ってね。」「足りないよ、サリューラス。殺れるんでしょ?あんたなら。モニターを見つめる奴を殺すぐらい。やってよ。」「ニケ、もういい。」「わかった…。」フェーズ3突入。フェーダ選抜メンバーは、首脳陣を幽閉している《ツインサイド・カリーシ》城塞に侵入。内部は誰もいない。
ニケ・「誰もいないね、音も全然聞こえない。」ギリス・「当然だよ、慄いて逃げたんだ。」メイア・「そして、殺された。」メイア&ギリス・「笑っちゃうよ。」スターセント・「だな。」
左右に一人一人が広がった全翼フォーメーションをとり、当たりを見回しながら侵攻する。白一色で構成された大小異なるサイズの塔が、中枢区域に存在する城の周辺に聳え立つ。
ツインサイドのインフラ整備を始め、国際ハブ施設の統制を担うターミナル的役割を持つ世界的最重要施設。フェーダは、城の中へ入る。フェイ・「あれって、、、」─「もう、やめてくれ。」─人間だ。剣戟軍の兵士。重装備。
小銃を所持しているが、我々に構える事は無かった。
「まだ、いるんだ」と思った。
もういちいちめんどくさい…と喉の奥から大きくため息をついた。あえて攻撃行動をみせまいと、止めていた歩行を再開させる。その人間は射撃することも無く、戦きながらその場を退いた。人類には、決断力が無い。
最後まで己の職務を全うしないんだ。他人に押し付ける。
だけど、その手柄を自分のモノにしてしまう。そういった人格性の成長に繋がらない生命体の輪が大っ嫌いだ。その割に最後までやり遂げようとしないんだ。気概を感じない。こういった近くにいないと知らないような現実を熟知している。フェーダネットワーク班が昨今の戦闘データを基に、人間に関する自我境界と神経回路のアルゴリズム方式を編み出した。
この回答は間違いないもの…“確定”だと断言された。ただ僕はこれを不確実なもの、デリート要素を含んでいるもの…つまり人間に対して、内的宇宙への介入は不要だと思った。僕達があえて攻撃しなかったその者が、後、どうなったのか知らない。月の臍に辿り着いた。
人間が造形する建造物はもっと簡略化した方がいい。要所要所に不要な物が多すぎる。そういう思考を働かせていたら着いていた。
スターセント・「着いた。ここが会議の場所。」ニケ・「フェイ?扉のアンロックお願い。」フェイ・「わかったよ。エゼルディ?聞こえるか?」ジャイラル・「こちらエゼルディ。フェイか?」フェイ・「ジャイラル、月の臍に着いた。扉の解錠をお願い。」ジャイラル・「了解。」月の臍の扉が開いた。何重ものロックが重厚なサイバー音を発生させながら、軋むようにゆっくりと開く。
扉の向こうから光が射し込むことも無く、憂鬱な雰囲気が漂う。
そして、円卓テーブルの先。
この扉が開く音に逃げたのか、複数名が奥に集合。身体を寄せ合いながら、頭を震わせている。
「お前達…何をした?」
サリューラス・「君達が、会議をするオッサンたち?」
「そうだ」
サリューラス・「へぇ、君達が僕達の運命を変えた張本人って事ね。」「そうせざるを得なかった。仕方なかったんだ。」
メイア・「よくそんな言葉で片付けられるね。」ギリス・「僕達がどんな想いで今日まで生きてきたか、、お前にはわからないだろう。」「それはこっちも同じだ。」「お前達のせいで、どれだけの経済的損失に見舞われたか!」「お前たちは異分子だ。のうのうと暮らしていればよかったんだ。」「私達に預ければ、全てが安寧であった。」「これは、君達が始めた物語だ。」
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ニケ・「あ、殺しちゃった。」メイア・「ちょっとお!サリューラス?もっと痛ぶってやった方が良かったんじゃないの?」スターセント・「お前ぇ、なにやってんだ?」サリューラス・「ウザくなったんだ。帰るよ。」
直ぐに殺した。
サリューラスは首脳陣の臓物を露出、爆殺させた。フェーダメンバーは呆気に取られる。サリューラス・「オペレーションプラクセディス完遂。これより、帰還する。」
皆がサリューラスの即殺に反対した。
だけどもう済んだこと。
それに殺す事が目的だったから、あまり深く考えても意味が無い…という結論に至った。
ツインサイド・カリーシを後にし、フェーダ選抜メンバーは、エゼルディに帰還。
帰還時は有り余った遺伝子能力を使い、飛行能力を有し、そのまま個々に帰還。サリューラスは、スターセントと横になって帰る。
話し声は聞こえなかった。声に出さず脳直結での送受信を果たしている。
大した会話も行わず、各々がエゼルディに帰還。スフィアシュバルツ外周には無数の対戦ヘリとガンシップが待ち構えていた。
サリューラスはスフィアシュバルツを構成する遺伝子細胞粒子の飛翔体群を敵めがけて解放。
暗黒バリアの力を失いつつも、スフィアシュバルツの飛翔体群が波状攻撃となり襲う。為す術も無く相手は撃沈。
エゼルディは、ステルスモードとなり彼方へ消えていった。スフィアシュバルツが消失したツインサイドに久々の太陽の光が射し込んだ。こんなにも青空が広がっているのに、光景は虚無だ。何事も無くいつも通りに生活していた人々、その何気無い日常はセカンドステージチルドレンによって、奪われた。エゼルディ仮設会議室───。スターセント・「皇帝、次はどうするんだ?」サリューラス・「姉さんは、何を望んでる?」スターセント・「私か?うーん、、、、そうだなぁ…、、」サリューラス・「僕は、、姉さんの為に動くよ。」スターセント・「はぁ?私は私が守れる。お前は皆の為に動け。」サリューラス・「姉さん。」スターセント・「なんだ?」サリューラス・「もう強がるのは止めよう。楽に生きてよ。」スターセント・「性にあわん!そんなの。」サリューラス・「父さんに似てる。」スターセント・「誰が、、あんな弟と…サリューラスには申し訳無いが、ペンラリスとは違う。違うんだよ。」
「んで、これからはどうする?」
「僕達を求めているヤツらがいるんだ」
「また何か見えたのか?」
「そうだよ」
「どんなヤツらだったんだ」
「僕らと同じだよ」
「また内乱か?」
「いや、内乱じゃないよ。時を超える使者」
「時を超える使者…?」
「僕達の先祖は、物凄く立派に慈善活動を行ってるみたいだ。だが、ある時を境にそれが途切れている」
「途切れる……?何かあったのか?」
「姉さん、手を出して」
「わかった」
「どう、見えたでしょ?」
「同じ血だ。お前のじゃない血を感じるのに…お前みたいな血を感じる…」
「向こうから来るよ…もう少し長く待つかもしれないけど…」
ト書きが無い台詞は、読み手の皆様が自由に受け取っていただいて結構なゾーンです。




