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Lil'in of raison d'être/リルイン・オブ・レゾンデートル  作者: 沙原吏凜
第一章 夭折の叛逆/Chapter.1“Rebellion”
28/82

ep.19:さく裂!満点笑顔虐殺100%!!

怒号、奇声、嘆き、暴走、憤激、自我。

[#19-さく裂!満点笑顔虐殺100%!!]


第1波が相手の様子なんかお構い無しに攻撃を開始。


サリューラスから与えられた胎芽たるオリジナルユベルのセカンドステージチルドレンゲノムがコードメイア、コードギリス隊員らのステータスを極大に上昇させる。


跳躍力を上げて高さを生かし相手を翻弄する者、攻撃の手を緩めずに惨き一撃を乱発し続ける者、自身の毛髪から発現される細胞から《アサルトビット》という攻防ユニットを創造し現実離れした者、2人1組、3人1組等といったグループを作成し巧みなチームプレーで敵を薙ぎ払う者…予測不可能な行動の数々に陸軍兵は大混乱。


「サリューラス、凄いことになってるよ下。」

「残しといてほしいもんだね。よし、ニケ行くんだ。」

「わかったよ。」

「フェイもだ。行け。」

「うん、わかった…。」


第2波・《コードニケ》《コードフェイ》が《ツインサイド・イーストドラゴン》が降下シークエンスに入る。


北側に続いて、こちらの部隊は東側への進撃を決行した。

既に行われているノースタートルズでの戦闘は流石、メイアとギリスが指揮を執っていると言ったところ。各部隊員が2人1組となり、他の追随を圧倒する超絶コンビプレイが炸裂。アクロバティックな動きで、人類側の発砲を回避する。


「この…セカンドステージチルドレンめ!!すばしっこい!!どこにいるんだ!?」

「ここだよ、君…やり直した方がいいね。そう思うだろ?デオナ。」

「フィータ!あなたとのパフォーマンス、最高よ。」

「ああ、俺もそう思う。もっとデオナが綺麗になるように背景を美しく紅く染め上げなきゃ。」

「レッドカーペット…ってやつね!」

「そうだよ?“レッドカーペット”!」

「もうー!何このクソ野郎。私達のジャマするってーえのー??」

「んじゃあソレのお返スィっ」

「やーいやーい!!血だー!血だー!人間の血だー!!」

「クンクン、うーん、なんか違うね!私たちと」


阿鼻叫喚の嵐。怒号と悲鳴が飛び交うカオスなその場所は、ツインサイドの公園で近隣の住民が昼夜を問わず使用する広大な公共の場だった。


そんな緑と遊具に溢れた緑の世界が、鮮血な戦場と化した。鉄の匂いと人の異臭が辺り一面に蔓延。

強烈な匂いだが、フェーダにはそれを感じさせなかった。


ツインサイドには民間人も滞在している。

行政関係を纏める首府でもありながら、高層タワーが立ち並ぶ居住区と生活資材を支える港湾都市と商業施設、大手企業のビル群、更にはテーマパークも存在するロイヤルシティなのだ。


そんな民間人も、この戦争に巻き込まれた。


┠───────┨

「ツインサイド全域にお知らせします。現在ツインサイドはセカンドステージチルドレンの攻撃を受けています。軍が対処を行っていますが、いつまで現状を維持する事ができるか、即座の回答を致しかねます。従って民間の皆様には、安心安全に避難していただくため、地下鉄への、避難誘導を実施中です。直ちに、消防隊員の指示に従って、迅速な対応をお願いします。繰り返し、ツインサイド全域にお知らせします…」

┠───────┨


未だに月の臍から脱出できない首脳陣。

システムハックされた何重もの扉。

最重要機密情報を意思決定する場の外部遮断システムがこんな所で敵の支配下におかれてしまうとは…思うはずがなかった。


この突破、人間業では到底不可能。

人類に対して、逃げ道を与えない。選択の余地すら残さない。まるで線路を伝う鉄道のように決められたルートを進まざるを得なくなる。


東側イーストドラゴンに降下中のコードニケ、コードフェイ。降下中のポッドドングリ内から北側ノースタートルの惨劇を肉眼で確認した。


「もうやりすぎなんじゃないの?」

「2人らしいね。あ!ほらあんなに死骸あんのに、まだ出てくるよ。」

「えぇー、ニケやだな…あんまり人間に触れたくない。」

「そうか、わかったよニケ、僕がなんとかするよ。」

「いいわ、私もなるべく参加する。お気遣いどうも。」


第2波がイーストドラゴンに降着。

第1波の攻撃で人類側の戦闘指揮機能は不安定の域に達している。なんと、北側の制圧を任されていた第1波のフェーダメンバーがツインサイド北東西にまで、エネルギー衝撃波が拡散されていた。


セカンドステージチルドレンが戦闘の際に発現する《アズファイブ》という弾丸が四方八方に吹き飛んだのだ。これは銃弾のような形状をした小型射出体。

アズファイブは核エネルギーを搭載した超危険有機物。これが人間の身体に直撃すると、一つのアズファイブが風穴を開け、徐々に死へと負いやっていく。そんな悪夢が現実になる。


このアズファイブ大拡散で、多くの戦死者を出した剣戟軍。サリューラスは南側の占拠を予定していた第3波を急遽西側に変更。第3波の降下を開始した。エネルギーは急速旋回。スラスター急制動で目標の南側サウスバード降下地点へと向かう。


「さ、行け!第3波!」

「よっしゃあああ!行くぞゴラァ!おーーーい!今から死ぬんだから、今のうち人間らしいことしててよーー!!」

「あ、あ、僕、、、ここから降りるの…コワイ…かも。うん、でも、、、ユウチがいる、なら、、、、ヘイキかも、、うん、、、え、ボクいま、なにするの」

「本当にコイツらを統制官にして大丈夫なのか?」


第3波・《コードユウチ》《コードデッキ》が降下開始。

「サリューラスに任せてみよう。」

「確かに2人は問題児ではあるが…戦闘技法が完成しきってないんだ…ヘタしたらエゼルディまで壊しちまうぞ。」

「まぁ、そんときはそんときだ。」


航空部隊全滅。陸上部隊も残存する兵士は残り少ない。

「ねぇねぇねぇねぇねえ!なんで俺らの敵こんなに少ないの?南にぜんぜんいないんだけど!!」

「そ、そうだね、、、でも、ボクらの負担が、なくなるってら、ことだから、いいんじゃないのかな、」

「あぁあ、わかってないねぇ、デッキは。」

「んえる?」

「西に行けばいいんだよ」

「んえ?で、、で、、で、、でもサリューラスは、、ぼ、ボク、、ぼ、、ぼ、、僕たち、南って、、」

「いいんだよ、あんな新参者の“ルーキーさん”の指示なんか聞かなくて」

「で、でも、、、」

「行くぞ!ほら、お前らもコッチだ!」

「そんな、、、、ど、ど、どうしよう、、、ぼく、わかんない、、!」


コードユウチ、コードデッキの統制官を始め、隊員らは、本作戦系統を無視。

西側ウエストタイガーへの滑空を開始。


「おい、コードユウチ、コードデッキ。指示に従え!お前達は南側占拠のはずだ」

「はっはっーん!うるせえんだよ!俺は俺の生きたいように生きる!コイツらも俺に賛同してんだよ。なぁ?デッキぃ?」

「ぼ、ボクも、、人間、ころす、、うん、ヤッテみたいかも。」

「そーーゆーー事!!いちいち連絡してくんな!バーカぁ!!」

「おい!いい加減に──」

「いいさ、2人に任せてみよう。」

「サリューラス…」

「2人がこうなるのは、わかってたよ。血に飢えた者を止めることはできない。楽しい“ステージ”になりそうだね。」

「しかしだな…アイツらは…」

「理解はしている」

「見えたのか?」

「見えないものは無い」


第3波・コードユウチ、コードデッキが降着。

分隊規模の少数で構成された南側の武力とは違い、西側はユウチにとって理想の“処刑対象者規定人数”だった。

「なんだぁ、まだ人間っているんじゃーん。もうやめてよねぇ、ガッカリするところだったンだから。」

「ボクは、南側ぐらいの規模で、、ぜん、、ぜん良か、、よかったんですけど、、、、」




現在、オペレーションプラクセディス発動から3時間──。


「こちら、ウエストタイガー《剣戟機甲隊》。上空にてセカンドステージチルドレン降下中。」

「もうヤだ、、戦いたくない、、」

「おい!何を考えている!ここはもはや戦場だ。弱音を吐くな!」

「あんなに、人で賑わってたノースタートルが、、あんな、、血まみれになるなんて…ここもなるんですか?」

「隊長、、俺ら、、なにができるんですか?」

「奴らが降りてきた後に、、なにができるんですか?」

「友人がイーストドラゴンにいたんです。突然《中性子》のような核燃料が身体を貫いて即死でした。」

「大切な人を失った気持ちを今すぐに拭えとは言わん。だが、お前の職務はなんだ?民を守るために入ったんじゃないのか?生半可気持ちでは入隊などできようはずがない。お前には信念があったんだろ?それはそんな簡単に捻じ曲がるようなものだったのか?軍に入ったんだったら、お前の業務は一つだ。“ここから離れるな”。愛する者を失いたくないなら、尚更信念に没頭しろ。それを許せないパートナーなら、別れるんだな。そういう男と付き合う事の重みは、計り知れないぞ。」


その言葉を聞いて、立ち去る者はいなかった。100%その言葉を信用できる者がいるのか…と聞かれたら答えには苦しむが、どうであれこの都市は他の地域と分断された。上空から見下ろしたラティナパルルガ大陸は、ツインサイドの状況が史上最悪の戦禍である事を物語っている。



第3波・コードユウチ、コードデッキが降着。

「西側ヤッバ!めっちゃめっちゃいんじゃん!!」

「うん、、人いっぱいいる、、あんま、、殺る気起きない、、うん、、でも、、こんだけ、いるなら、一人は、、殺しても、いいよね?」

「そうだよぉ?殺してもいいんだよぉ?デッキの力見せちゃりなよ。」

「うん!わかったよ、、ボク、殺る。」

「俺もいーっぱい殺っちゃうー!!」

ユウチ、デッキ。二人の殺しの方法は他のセカンドステージチルドレンと一線を画すもの。まるで虐殺を楽しんでいるよう。フェーダ全員が虐殺を楽しんでいる…と人類から見受けられるかもしれないが実際の所、そうでも無い。虐殺に非協力的なメンバーもいる。

そんなメンバーはエゼルディのオペレーション業務を担当し、地上の攻撃部隊をアシストする任務に就いている。

メイア、ギリスらのように攻撃を得意とする“種の血筋”。彼等には殺しのラインは存在しない。自分達が相手方を“敵”として認識した場合、すぐさまノンシークエンスで殺しを実行する。

そんな中でも一際目立つ存在なのが、第3波のコードユウチ、コードデッキの面々。この二人を筆頭に構成された当該チームメンバーは特殊な血筋で遺伝子情報が組み込まれた特異な生体を持つ。


上空のエゼルディ。

「サリューラス、、嫌な予感が…」

「アイツら…止めた方がいいぞ…?サリューラス…」

「…」

鋭い視線で第3波の行動を監視するサリューラス。

ツインサイド・ウエストタイガーにて、コードユウチ、コードデッキの面々が攻撃を開始。統制官以外のメンバーも《拒絶連鎖反応病》にかかっている。


「最終波、行くぞ。」

「了解、最終波フォースラグーン降下シークエンスに移行。」

サリューラスの号令でフォースラグーンの降下が開始。

南側サウスバードに向けて飛び降りた。

ポッドドングリは使用しない。

このメンバーは飛行能力を有している。フォースラグーンとは、サリューラスが統制官に置いたフェーダ最強の部隊。

フォースラグーンは他の部隊と特殊な資質を持つ者が集っている。それは、サリューラスが分与した《オリジナルユベルの遺伝子細胞粒子》吸入に102%以上の成果を見せたメンバーで構成されたチームだ。こういった特別な血を持つ者は他の超越者とは違ったルートで作られている。


要は“完全体”というものであり、スターセントを初め、アルシオンの遺伝子を少なからず持つメンバーが成功体として該当する。サリューラス以外全員に統合末端攻撃統制官となる素質がある。

セカンドステージチルドレンの危険因子として名を上げられるアルシオン。だがアルシオン以外にも複数の家計が危険な血族として存在する。中には歴史が削除されている箇所もあり、現在フェーダが持つ《純血の書》にはアルシオンの他に《ジャセリア》という名前も記載されている。この一族がどんな家系で、どのような暮らしを経ていたのか。そして現在、生き残り或いは、跡継ぎは存在するのか…これはフェーダ果たすべき課題とも言える。他のセカンドステージチルドレン純血盟もいるはずだ。名前が書かれていないだけで…。


サリューラス・アルシオンが統制官を担う、フォースラグーン。

完璧と究極。

119年の歴史が紡いだ血統。

フェーダ最強の殺戮部隊だ。


未だ制圧下に置かれていない南側であったが、第3波の作戦無視の強行により戦闘が勃発。その場にサリューラスが降着した。

サリューラス以外のフォースラグーンメンバーは、浮遊状態を維持し中空にて待機。


「ユウチ、デッキ、これは一体どういう事だ?君達は、西側の占拠を担当されていたはずだ。僕がそういったんだ。」

ユウチ、デッキを筆頭に第3波は虐殺を続けている。サリューラスの声を全く聞こうともしない。自我を失ったかのように、人が苦しみ悲しむ顔を楽しみながら虐殺を続けている。その様を見るサリューラスとスターセントとフォースラグーンメンバー。


「てめぇら…!」

「姉さん。」


スターセントの激高の一瞬を止めたのはサリューラス。

サリューラスは《“直視覚映像”ダイレクトアイズ》で、ユウチ、デッキらの意識を強制的にフォースラグーン側に向けた。


「なんだよ、今やってんだろうが。」

「…」

「止めてんじゃねえよ」

「…」

「おいおいおいおい、あぶねえーぜー?今のオレら」

「…」


無言で2人を見続けるサリューラス。

送られる信号言語は彼等の攻撃面を極相当に引き上げた、危険レベルの内容。パンパンに膨れた風船を、ほんの少し尖った爪の先で突っつく。爪が触れる前から、少しの風きりで爆発する。

正に今の彼等がこの状態だ。どこで爆発するか判らない。自分達の意図していない所がトリガーとなり、暴走行為は段階を踏まず、一気にトップスピードで能力の極地へ到達。


「なんだよ?殺してんだろ?サリューラスぅ?あんたの望み通りじゃねえか。見ろよ、この光景。あんたの分も残しとこうか?おい…ウハッハッハッハッ!!!」

「…」

「何の目的で降りてきたんだよ。」

「…」

「もうちょっと待ってくれよ…まだアソコとかアソコとかに人間残ってんだよ…」

「しね」

「残ってるとさぁ、だめじゃん??残飯処理は嫌だけどよぉ、人間に対しての残飯処理班は喜んで引き受けるべー!アッハハハハッハハハ!!」

「シネ」

「あーあららららら、ほら、もう見てよ…あんたが俺らの行動止めちゃうから…萎えちゃったよ…もうほら、ビンビンだったのにさあ…でーーもん?」

「…ウザイ…」

「あれ、??どうやらデッキはそうでも無いみたいだな…」

「…」

「というか…なんだろうな…なんか、目線が人間じゃなくて、あんた…サリューラスの方を向いていないか??」

「…、、、、ジャマすんな」

「おい、今聞いたか?邪魔すんなって言ってんだよ」

「邪魔…だったかな?」

「当たり前だろ?俺らは言われた事をこなしてるだけ。そこで感情がオーバーヒートしてもう歯止めが効かなくなった。そんな事はフェーダにも伝えているはずだ。俺ら第3波メンバー全員はセカンドステージチルドレンの障害を患っている事をな。あんたは皇帝になったんだろう?メンバーの管理体制ぐらいはしっかり熟知しておくべきだぜー?」

「いや、それは把握済みだ」

「あー、そうかそうか。知ってたのか。じゃあなーんで止めるようなことするんだよ。あのな、やめてくれねぇかな?そーいうの。じゃないとな…」

「殺したくナるんだよ…」

「おっ、言っちゃったよー、フェーダの皇帝に向かって言っちゃったよー、デッキも男だねぇ…」

「僕に言ったのかな?そのセリフ」

「はぁ?」

「当たリ前ダ。お前いちいちうるさい」

「それは申し訳ない。気分を害したなら謝る。ただ、デッキ。君のその口調には少し嫌な気分になるな。謝罪してくれないか?」

「はぁ?」

「シャザイ?」

「そうだ、謝るんだよ。分からないかな…。それに僕はこのフェーダを指揮する最高の地位に立つ存在だ。それに対して、発言する言葉には十分気をつける事だ」

「…うるさい」

「ーん、あんまりわかんないかな…」

「あああああ!!!!!!ボクたちのジャマをすんんんなああああああああ!!!」


リミッターの外れたデッキの遺伝子能力がサリューラスに向けて光速で発現される。

自身の身体をサリューラスに対して突撃させる。

地走りがプラズマ状の刃風を形成。人間の肉眼では確認できないレベルの凄まじい速さでサリューラスに超急接近。並のセカンドステージチルドレンでは起こしえない恐ろしいパワーが、ツインサイドを“極エネルギー量”で包み込む。

「ウルサアアアアアアアイ!!!何様なんだヨォォォ!!!!」


デッキの遺伝子能力が爆発。臨界点を超えた超絶エネルギーがサリューラスを襲った。

「おっと…」

「逃げんなぁぁ!!!!」


サリューラスがいた所には爆風による砂塵の嵐。

でもそれは長く続く事は無かった。直撃地点から嵐を切り裂くように、土煙が立ち消えた。

その場所には、サリューラスがデッキの攻撃を右手の人差し指と中指と薬指の3本で止めて見せた。


────◇◇◇

「サリューラス・アルシオン、暴走超越者の攻撃を片手3本で終息させました。」

「あれが…胎芽の力だ…」

────◇◇◇


「なんでだ!!なんでボクの力が効かないんだ!!」

「噂には聞いてたけど、ここまで欠陥品だとは…もう恥ずかしいから、この戦場から出てってよ。」

「…、!!」


「ごめん、出てって…って言ったけど…むり。」

「なにぃ??」

「にげられないよ。」

「…!!?」

「不良品に、腥血あり」


────◇◇◇

「サリューラス・アルシオンに高エネルギー反応。主データベースコンバットログに同一の戦闘数値発見。政府機関襲撃時に発現した能力と同等のものが確認されました。」

「親殺しを、再演か…」

────◇◇◇


差し向けた3本の指が5本となり、手を広げたサリューラス。右手から発生する超高出力Sゲノム収束帯がレールガンに酷似した遠距離加速砲台を形成。


「なんだよ!?なんなんだよ!これは!!」

「くたばれ。」


零距離射撃を受けたデッキは、超遠方に吹き飛ばされ、数々の建築物を貫き続けた。

南側から東側イーストドラゴンまでレーザー光線のように、その身がゆく。デッキの身に直撃した民間人も多数。手や頭といった部位が吹き飛び続けるデッキにぶち当たり、部位破損にまで至ってしまう重傷者が多く発生した。中には、胴体を貫通した民間人もいた。


「お前たち、調子に乗るな。次僕に刃向かったら、、、アレじゃあ済まないぞ…。」

デッキは、東側にて戦闘を行っていたコードフェイの隊員によって発見される。


「隊長!デッキが…!」

「なんだ…これは…酷い怪我だ…人間にやられたんじゃないな。」

「おい!しっかりしろ!デッキ!!」

「なんだこれ…これ、、、繋がってんのか?」

「わからない…でも息はしてる。」

「やりすぎだ…仲間だろ?」


デッキの姿は朽ち果てていた。内臓裂傷、右足右手がもげている。身体に触っても反応が無いことから感覚器官が正常に動いていない。セカンドステージチルドレンがここまでの怪我を作るのは、戦闘歴に於いては前例無きこと。


フェイとニケは、サリューラスの行動に深い疑念を抱いた。


南側サウスバード───。


「さぁ、人間達!ここまで戦ってきてどうかな?君達に勝算なんてあると思う?抗わずに投降していれば、ここまでの規模にする事は無かったんだけど…。君達が“やる気”だったからさ…僕もすこーーし、力出しちゃった。でも、、もう遅いよ?もう、戻れないよ?それは、3時間前とか、4時間前とか、16時間前でも無い。119年前から全ては始まってたんだよ。君達先祖が仕組んだ最悪の行為が、僕達を生んだ。」

剣戟軍陸上小隊隊長の男が出てくる。

「そうだ、我々の先祖が犯した大罪だ。そうだ、、そうなんだ、、、頼むからもうやめてくれ、、これ以上民間人を巻き込むのは止めるんだ!」

フォースラグーンメンバーは笑う。

サリューラスが右手を上げて静止させる。


「触れないんだね。それが答えなんだね。」


サリューラスをSSC遺伝子圧縮飛翔体が纏う。回転数を徐々に上げていき、円環を形成する。残像であった円環がやがて、“円環そのもの”となりサリューラスを中心に浮遊する。


色は天使が冠するような光輪。


光り輝く神々しさの中には、似つかわしくない荒々しさを感じる。

《クローズドリング》が剣戟軍に迫る。

兵士達は、抗う事できず…。クローズドリングは、多方向に斬撃を発生させた。上半身と下半身が切り裂かれてゆく。“止める”という考えなんて、させてくれなかった。大量に配置された剣戟軍陸上部隊は、全てが沈黙。地上には構えていた武器、斬撃を受け爆破したカーゴトラック、迫撃砲。

皆の目がハッキリと見えた。恐れていた。震えていた。哀しがっていた。生きたがっていた。

僕は興奮した。楽しかったんだ。僕が嫌な対象となっている生物を殺すのが楽しいんだ。快楽なんだよ。もっと殺りたいってなってるんだよ。

楽しいんだよ。

だって、楽しいからだよ。

だって、いっぱいいるからだよ。

だって、たくさん殺しても何人も後からどうせ出てくるんでしょ。

じゃあ、ここで出し惜しみする必要ないよね?

だって、今ぼくのぜんぶを出せるから。

なんでだろうね。

なんで、集まるんだろうね。

帰る場所が無いからかな。

“還る”場所はあるよ。

虚空だよ。

何も無い、何も必要としない、何も無くていい。

そんなゼロの世界に連れて行ってあげる。

僕は行かないよ?

殺されないよ?

て、いうか誰が僕を殺すんだい?

──────

アナタハコロサセナ。アイ

ゼッタイニワタシガ、マモル

──────┨

久しぶり。なんで最近出てこなかったの?


うーん、めんどくさかった!

でもみてたよ、すごいね。たっくさんがんばってたね。えらいえらい!


君のためだよ。


ううん、これはもうあなたのかんがえよ。わたしのことはかんがえてない。もう自我をとりもどしてる。


え?


いつかは来るんだろうな、とおもってた。でもかなり早かったね。


なに、、


あれ、わからない?もう、だいじょう夫だよ。


おい!!待て!!!待つんだ!!!


┠┨

「サリューラス!!どうした!」

スターセントが力一杯に、サリューラスの身体を揺さぶる。

「お前、イカれてる顔してたぞ。殺りすぎたのか?」

「いや、、、、大丈夫だよ。彼女がよくわかんなくなっていたんだ。」

「どういう事だ?」

「成長してた。」


南側に再び現れる剣戟軍。

「懲りない奴らだねぇ、サリューラス、試してみる?」

「ああ、そうしよう姉さん。投擲体勢、番え。」

浮遊状態にあったフォースラグーンメンバーが、球体を形成し、投げの姿勢に入る。


雪崩込んできた新たな武勢は、その光景に臆すること無く進軍する。誰もが覚悟を決めたような表情を見せていた。それは“生きる”なのか、“死にに行く…”というもので片付けた方がいいのか。どちらであっても、セカンドステージチルドレンの攻撃受けに来る姿勢だ。


何故なのだろうか。


サリューラスは、迷う。

理解ができない。

容赦なく叩き潰す。


「やれ。」


サリューラスの号令で充填された投擲物が敵陣めがけてぶちまけられた。

着弾と共にそこは大爆発を起こした。


《グランドスイーパー》。


当該兵器はSSC遺伝子を多分に供給した指向性爆破光線弾道式グレネード。

投擲物ではあるが、投擲方向に沿って直進。ほぼ誘導ミサイルと変わらない持続力と飛距離を誇る。

スターセントを含めた6人のフォースラグーンメンバーが投擲したグランドスイーパーは、敵陣を壊滅にするには申し分無い破壊力をみせた。南側は完全に壊滅。

200を超える兵士は爆殺。

南側は商業施設であり、兵士では無いツインサイド避難民も多くがここに居た。無差別テロとも言えるこの凶行。今始まった事では無いのだが、ここまでの民間人を巻き添えに追い込んだ襲撃は…“久しぶり”だ。大虐殺。


「サリューラス、報告が入っている。」


スターセントがエゼルディの通信を受けてサリューラスに伝令する。


「サウスタートル、イーストドラゴンの制圧完了。兵士と重要施設は全て撃滅。民間人は殺していない。どうする?」


───────

「いや、いい。“転化させる”。」

───────


「フッ、面白いことするな。聞いたか?エゼルディ。」

「了解、ツインサイド全域の汚染濃度をレベル7まで押し上げろ。全外気逆式滅却処理を開始。」

「充満ポンプ、圧力弁解放。」

「バイオハザードY指数、規定値を突破。」

「了解、全ての《Sゲノムスモッグカプセル》射出開始。」

上空から撒き散らされるスモッグカプセル。異様な色を発生する煙幕。晴天には嫌な程によく目立つ。


北側と東側を制圧した第1波第2波の統制官が南側に集合した。他の高高度降下空挺攻撃部隊は、先にエゼルディへと帰還した。もう人間が抗ってくることは無い。

焼け野原となった花の都、ラティナパルルガ大陸の首都。

再起不能。計画通りの展開。


唯一、計画とは異なる人間の行動を上げるならば、“スフィアシュバルツの弱点を突いてきた”ということだろうか。

ツインサイドと他領域を分断し避難民を出さなくさせたスフィアシュバルツ。


「サリューラス、これはどういうことなんだ?」

フェイは、個体スフィアで包まれた電磁浮遊状態のデッキを拘引。

「デッキが…デッキが…大変な目に…これは、一体どういうことなんだ?」

「サリューラス?あなたがやったの?」


フェイとニケが、サリューラスに疑問を投げる。


「デッキはやりすぎたんだよ、あのままだと僕の晴れ舞台が台無しになっちゃってたからね。リセットさせる前までに収まって有難いと思ってね。」


ここからサリューラスの強権性が帯びる事となる。但し、理不尽さを持ち合わせている訳じゃない。理性はある。


慈悲がない。


一度でも、皇帝への“反抗”は許されるものでは無い。それは言わずもがな、フェーダメンバーには《逃避夢の使者“ドリームウォーカー”》として伝達された。何食わぬ顔でサリューラスは物事を終わらしていく。


おかしかった…そんな人間のような感情を抱きつつ、最終目的地である《ツインサイド・カリーシ》へ、フェーダ主力チームが行軍する。


「ユウチ…デッキとサリューラスに何があった?」


「サリューラス、、、、サリューラスの行動は間違ってない。あのままだったら、暴走の激化で地殻変動を起こすかもしれなかった。妥当な判断だよ。」


震えながら答えるユウチ。怯えている。そのレベルは異常だった。

ユウチのこんな表情は見た事が無かったフェイ。もしかしたら、裏では、誰も見ていない所ではこんな姿…無理をしていた?強がっていただけなのでは無いか…と、人格そのものに異変を感じる。


「大丈夫か?ユウチ。。」

「フェイ、、俺は、、サリューラスを頼ってみる。なんか、、サリューラスの力は、引き寄せられる。それが怖さでもある。だけど、統率する者には、そういうのが必要なんだよ。絶対的な異端者には、強烈な畏怖感がな。俺が昔、それを感じたんだよ。今の俺が本当の俺。もうやめた。やめたよ。」

「なにを?」

「“俺では無い”ことを。」

「デッキは殺さない」

「殺すとこだった」

「狙った」

「まぐれでしょ?」

「そう思わない」

「皆が恐怖する」

「それが皇帝だろ?」

「そうね」

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