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ep.14:狂撃の皇帝

生まれたのが我々だけだと思うな。

この世界は多元なるもの。

多種多様な生命体が作り出すこの世の理に限界は無い。

限界を定めても、向こうは異なった針路へ。

これが本当にベストな選択だったのか。

聞こうと思えば聞けるのだが。

 [#14-狂撃の皇帝]


 アドバンスドユダフォート脱出開始から1分後───。


 二ーディールとヴィアーセントが消えた。

 フェーダの皇帝として君臨する2人がいなくなったのは、フェーダメンバーからしてみれば、深刻な問題だった。二ーディールとヴィアーセントは、要だった。


 指揮系統の最終選択、セカンドステージチルドレンの特性である逃避夢への専属マネジメント…そして特筆すべきなのは、やはり強大な力だ。他の超越者とは比べ物にならない能力で、襲撃作戦をクリアさせてきた。

 アルシオンの力を2人も失った事で、多少なりとも気持ちの変化はあった。この状況を見て、サリューラスは先立って態勢を命令し出した。まるでそれは、人格が変わったようだった。


「君達の実力はよくわかった。その力…俺には及ばない。そして、今まで信仰してきた俺の血統上人はもういないんだ。するとどうだろう…もう俺しかいないんじゃないの?ハハッハッハッハッ、そうだよね。姉さん。」

「…、、、いいよ。」


 一同は驚く。あのスターセントがいとも簡単に他者の意見に乗るなんて…。メイアとギリスは、サリューラスの異常なまでの掌握さに心配までする。だが、何故だか引き込まれてしまうそうな彼の目が、自身の遺伝子に激しく扇動される。それは2人だけじゃ無い。皆がそれぞれの感覚器官で同一の“戦慄”を覚えていたんだ。

 スターセント、そしてアルマダはここで確信する。

 ────

 “次の…皇帝、新皇帝は、サリューラス・アルシオンだ”と。

 ────

「メイア、応答せよ。エゼルディ、アドバンスドユダフォートに着艦。可及的速やかに飛行甲板に来るんだ。」

「緊急事態発生、緊急事態発生。」

「どうしたの?!」

「アドバンスドユダフォートが沈没を開始。飛行甲板への着艦を解く。現在ホバリング“垂直離着陸”モードに切りかえ、浮遊中。」

「だってさ、“皇帝”、どうする?」

「《エスケープシリンダー》は?」

「なんで、、、それを知ってるの?」

 フェイが真っ先に、驚いた表情を見せる。

「私もエスケープシリンダーを思いついたが、突撃兵器なんだ。これ以上この母艦を傷つけるワケにはいかない。」

 ニケも一度は、考えたエスケープシリンダーの使用。


 エスケープシリンダーとは、エゼルディに搭載されている円筒型脱出兵器。このような緊急時の際に、その場所からエゼルディへの脱出経路を確保する…というのがこの兵器の使用目的。

 今現在、エスケープシリンダーの使用目的に準じてはいるが、当該兵器はエゼルディから圧縮させた空気をフル回転させ、その噴出したパワーで一気に目的地までぶっ飛ぶ。

 またの名を“突撃脱出兵器”。

 加減というものを知らないし、パワーの調整もこの短時間では不可能なのだ。だが、しかし今の作戦展開メンバーには、これ以外でエゼルディへの到着は不可能。ジェットパックも無くなり瀕死状態から生還したとはいえ、遺伝子能力はフルに行使できなかった。

「作戦展開メンバーに告ぐ。エスケープシリンダー、発射シークエンスに移行完了。いつでも発射可能です。」

 スターセントを始めとする、アルマダメンバーは、選択を強いられる。

 ──────

「必要ない。」

 ──────

 サリューラスが言った。

「わかったよ、必要ない。ムリなんだね?わかった。じゃあ、、、」

 アルマダメンバーは、サリューラスに目を向ける。一体何を考えているのか。思考が読めない彼の動向に安心できるはずが無い。次第にアドバンスドユダフォートが、メインローターを含むダブルエンジン搭載の船尾に傾く。このままでは倒立し、真っ逆さまに海に沈降する。

「サリューラス!お前!どうするんだ!?」

 サリューラスは、無言になる。その時間は決して長くはないが、この現状に置かれていると体感時間という感覚は非常に生物を追い詰めるものになる。


 ねぇ、聞いてよ。


 うん?なに?


 分かってるだろ?


 ごめん!、いわれなくてもわかってる。



 サリューラスから遺伝子能力が発生。

 アルマダメンバー一人一人に形成されたスフィアホールドが、メンバーの身体へと接触。

 接触前はシャボン玉のような、フワフワとした球状であったが、身体に触れた途端に薄膜となる。

 スフィアホールドが完全に、アルマダメンバーを取り込むとその薄膜は強固な鉄壁のシールド膜に変化を遂げた。スフィアホールドは浮遊能力を有し、アルマダメンバー全員をエゼルディへ送還。サリューラスだけ、そのスフィアホールドを使うこと無く、そのままの状態でエゼルディに帰還した。


「帰還完了、エゼルディ出せ!」

「了解、エゼルディ発進します。」

 エゼルディはステルスモードを起動させ、アドバンスドユダフォート空域からその姿を消した。

 作戦参加メンバーは、統括指令所へと行く。そこにはフェーダメンバーが全員集っていた。

「スターセントさん、、、二ーディール皇帝とヴィアーセント皇女は?」

「それは、、、こいつに聞け。」

 スターセントは、サリューラスに振った。

「しんだよ。俺の前で。レッドチェーンに圧縮された。どうする事もできなかった。」

 無表情のまま、つらつらと話し続けるサリューラスにフェーダメンバーは納得がいかなかった。

「お前、何もしなかったのか?」

「…」

「何もしなかったのかって聞いてんだろうが!!おい!お前ふざけんなよ!」

 《ガルエル》はサリューラスの胸ぐらを掴む。投げ飛ばされるサリューラス。

「この状況にキレてるわけじゃねえんだよ…お前が何も…2人の姿を見て、何もしなかったことに苛立ってんだよ!!」

「ガルエル、それは私達にも問題がある事だ。アドバンスドユダフォートには、強力な人工兵器が設置されていた。アルマダはそれに苦戦していた。応援に迎えなかった我々にも反省すべき点なんだよ。」

 ニケがサリューラスを庇う。


 静寂。


「いいよ、ありがとう。ニケ。」

 サリューラスが、開口。

「君は、ガルエルだったね。僕がここに来てから、一回も話した事もないし、目もあってない。だけどなんだい?その僕へのツラは。恨んでるのかい?憎んでるのかい?ちょっとセカンドが死んだぐらいでムキになってどうする?仕方ないじゃないか。君達には僕が必要なんだろ?じゃあいいじゃないか、ボクが生きてるんだから。」

 サリューラスは途中から不敵な笑みを浮かべ、次第にその笑みが小爆発する。

「テメェ!舐めてんのか!!」

 怒りの沸点に達したガルエルは、サリューラスに掴みかかり、拳を作る。その刹那、サリューラスが姿を消し、統括指令所の2階から顔を覗かせる。2階にいたフェーダメンバーは、驚愕する。

「ソルジャーデータ個体No.185、ガルエル・ワイヤード。律歴4116年、二ゼロアルカナ・ラティナパルルガ西方中継施設支部収容者。施設拘留前は、裏社会との密会を繰り返し、遊びに明け暮れる毎日。レイプ魔としても有名。落とし子を多く孕み、君が住む街には、セカンドステージチルドレン予備軍が多くできた。その全ては中絶されている。家族関係にも問題ありで16歳の時に両親を自身の手で殺す。その時、君は遺伝子能力を使わなかった。その時に口にした言葉…「俺を産んだのは、間違いじゃない。」近隣の通報で、日本剣戟軍が出動。何十人もの人間を殴り殺したが、その反動による加重能力損傷で一時停止。結果レッドチェーンの拘束により、君は捕まった。後に二ゼロアルカナへ、僕のおじいちゃんが奇襲を仕掛けて救出される。それが原因で、二ーディール・アルシオンには感謝の念がある…そういうことだ。」

「お前…、、、、」

「他にもガルエルと酷似した境遇を持っている者がいるね。ビショップ、サーラス、ネジスト、フェンマルク、ダラス、スロースト、マギルガル…」


 その後も、名前を上げ続けるサリューラス。


「きみたちはなんだ?君達はなんだ?なぁ。なんでそんな“人間”ぶってるんだよ。いい?そんな愛情だとか、感謝だとか、嫉妬とか、情欲とか、そんな人間みたいな感情は捨てろ。セカンドステージチルドレンである事を誇りに思えよ。神に選ばれたんだ。お前達は、何を見てるんだ?何が映る?何が生まれる?何を求める?その全てのポイントには、必ず人間がいるんだ。俺達は、人間の手によって作られたんだよ。そして、今も尚、その呪縛から逃れる事はできない。人間は“これ”を“大罪”だと言う。そんなもので片付けやがって…。大罪なんかじゃない。神の贈り物…いや、もっと上だ…俺らを創造したのは、もっと上の奴らだ。」

「それは、、誰なんだ?」

 ◈

「宇宙だよ。」

 ◈

「宇宙が俺達を創造したんだよ。俺はこの目で見た。いや、モニターされた。何故お前らがアルシオンを必要としているのか…ようやくわかったよ。」

「サリューラスは、なにをみたんだ?」

「降ってきたんだ。それだけ言っておく。」

 沈黙。

「フェーダの新たな皇帝は僕だ。ツァーリ・ハーモニーを手に入れた。今世界では大々的にアドバンスドユダフォートの事件が報道されている。これは明日の大ネタになる確定のサインだ。チャンスだ。このタイミングがな。計画時以上の最高の襲撃に関連するサブイベントだよ。この、、“混沌”はね。人類は恐れている。敵意剥き出し?ハハッ…きっとビビってるに違いない。だけど、ある程度の迎撃はしてくるだろう。アンチSゲノムブッシュ。この兵器が如何に我々への極大なダメージを与えるという事が、よくわかった。だから、今までの君達じゃダメだ。」

「だけど、マザーコピーはもう無い。人類には俺達と対等に戦える武器なんて無いはずだろ。」

 「そうかもしれないけど、もっと人間達を震えあがらせないと。恐怖を与えるんだよ。畏怖。僕の力を付与させる。」

「そんなもん、私らには必要が無い。元々の力で十分だ。」

「足りない。足りないよ。そんなんじゃ人間は懲りないよ。自分達、人間にどこまで追い詰められたと思ってるの?あんな醜態晒して。《アイズ“目”》できっと剣戟軍は見てる。ガッツポーズでもしてたんじゃない?」

 沈黙。

「だーかーら、最強にしてあげるよ。もう絶対に負けない。倒されない。膝が床につかない。タワゴト、ザレゴトを言わない。無窮なるエネルギー機関。《ユベル》だよ。」

「やはりか。」

「サリューラス、あんたユベルの力を授かったの?」

「そうだよ、僕の身体には今、“胎芽”がいる。もう止められない。止まる気も無い。君達も望んでいただろ?これで終わらせるんだよ。僕達を無下に扱い、蔑み、身勝手な判断、自分が望んでた“代物”じゃ無ければ人身売買に出す、能力者との一緒の生活なんて苦しいから…。皆がされてきた事は、全てインプットされた。全部だ。《ロストアーカイブ》。全てのセカンドステージチルドレンの記憶を追う事ができる。でも、あまり使わないことにするよ。あと、言わない。」

「サリューラス…」

「ん?」

「お前に託す。」

 スターセントがサリューラスの目の前に立つ。

「選ばれたんだ。何故ユベルがお前を選んだのか…パパがお前をマザーコピーに干渉させたかった理由が。お前に、フェーダの運命を託そう。ただし、重いぞ?私はそういう柄じゃないからやってこなかったけど、ママだって嫌で辞めたんだからな。」

 スターセントのこの言葉で、他のフェーダメンバーにも戦いの灯火が点る。そしてサリューラス・アルシオンへの忠誠を誓った。

「ユベル?みんなに分けてあげて。」


 ころしてくれるのね。だいじにつかいなさいよね!


 サリューラスとの融合を果たした“胎芽ユベル”のエネルギーが、具現化される。迸る稲妻と熱炎がその超絶パワーを物語る。その具現化されたエネルギーは、遺伝子の二重螺旋を描くように捻じ巻かれる。フェーダメンバーが見守るその様。やがて、二重螺旋はフェーダメンバー全員の身体に取り巻く。一人一人に二重螺旋は周回行動を続け、未知なるエネルギーを分け与えられる。各々の身体で次第に効果を表す二重螺旋の分与。形成される強靭な肉体と新たなサイコパワー。今までのセカンドステージチルドレンを凌駕する段違いのSSC遺伝子を感じた。

 全員への分与が終了する。

 ─────

 「さぁ、戦争が始まるよ。」

 ─────

 フェーダメンバーが雄叫びをあげる。

目に見えるまでに漲る位相空間の波長膜がお互いに交差し合い、色彩豊かなカラーを発現させている。

この現象、最初は赤、青、緑、青、黄、水色、と光明な配色が目立ったが、時間経過でそれは陰が中止となるカラーに変色される。

最終的には黒からワインレッドの間を自分達の都合のいいようなペースで循環される。

漆黒を彷徨う錯綜エネルギーが、ラティナパルルガ大陸最重要地点ツインサイドに猛威を振るう。

パパが帰って来ない。最近はそんな日が続いている。緊急招集が掛かって、帰宅ができずにいるんだ。

攻撃が過激化している。

緊急対策本部が設置され、慌ただしくなっているんだ。

何にも起こらなければいいんだけど…。

私は怖くなる。怖いよ。

パパ、帰ってくるよね?

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