ep.13:身も心も、溶け合って
災厄。
それは作らなければ生まれないもの。
じゃあ作らなければいいだけ?
いいや、そういう事でもない。
作ろうとしなくても、それは自然に作られる。
無鉄砲な迄に、何を目標にしているのか判らないまま、終息にまで至る。
[#13-身も心も、溶け合って]
「ネクローシス反応、ネクローシス反応。オリジナルユベルの遺伝子信号を検知。オリジナルユベルの遺伝子信号を検知。」
「なに?どこだ!どの区画だ!」
「第2区画シーウィードプラントです。」
「シーウィードプラント?レッドチェーンに潜んでいたか…」
「第2区画シーウィードプラントにて、サリューラス・アルシオンにオリジナルユベルの遺伝子反応を確認。識別信号がオリジナルユベルの数字情報に切り替わります。」
「《日本戦略自衛隊総本部》より、国際網にて送電します。応援を頼みます。至急全応援部隊はコンバットモードに転換!捕獲行動は禁止。生死は問わない。フェーダへの無条件殲滅行動を開始しろ。」
アドバンスドユダフォート全区画に緊急アナウンスが流れる。そんな放送を無下にするかのように、辻斬り状態で劣化の如く、他の区画に現れたサリューラス。サリューラスは第3第4区画を亜空間フィールドにし、その生成空間が区画ごと飲み尽くしてしまった。それにより、アドバンスドユダフォートの船体構造に異変が生じる。間に空白が生まれた事により、発生する事案は1つしかない。第1第2区画が第5区画に向けて、落下運動を引き起こす。海中に存在する第5区画に上層区画が、機械音を何も発さずにゆっくりと落ちていく。第5区画に直撃した瞬間の音と光景は、感覚器官のバイタル指数を停止へと追い込むレベルの、凄まじいカオスが展開された。海中に存在した第5区画は、更に下へ。海面から遠かった上層区画は、一気に面に近づく。
サリューラスが起こした大爆発と亜空間発現による区画消滅は、説明不要だが精鋭部隊アルマダにも衝撃波として伝わる。
「なんだ、今のは?」
「始まったかもな。」
「目覚めたぞ。」
区画消滅した弊害が発生する。第5区画の天蓋が無くなり、第5区画は水没の危機に陥る。メイア、ギリスが展開した防御膜により、第5区画を1つの空間とし再形成。潜水艦が浮上しているかのような状態となる。
「やりやがったな。」
「作戦は半分成功ってことか?」
「じゃあ、あとは、コイツを、ぶっ潰すだけだナ!」
苦戦を強いられているジャガーノートグレイブとの戦闘。これまで人類側との戦いで、こんなにも血と汗を流している事は一度たりともなかった。
「フッ、クソが…まさか、、、こんなモノを用意しているとは…。」
「苦い戦いしてんじゃん私達…」
「うるせぇな!オマエら!」
ユニゾン、斉射、一つの部位に対しての一点同時荷重、全員で強力な攻撃を浴びせ続ける。だがその全てをジャガーノートグレイブは断絶。比類なきアンチSゲノムブッシュの最補填兵器。
「もうコイツ嫌い!*********!!!!」
ニケが放つ攻撃を、まともに受け続けても尚、ダウンしない相手に罵詈雑言を無秩序に投げ飛ばす。
───
“****”は、守りだけでは無い。
───
上記に書いたように、アンチSゲノムブッシュ内蔵のパルスアーマーが最大の苦戦の理由だ。奴は全く避けない。避けようとしない。あえて受けているんだ。フェーダへの意思表示ともとれよう。
“まだ人類には余裕がある”。
とも言わんばかりの感じ。めちゃくちゃムカつく。
「お前たち!もう一回同時荷重攻撃だ…!」
「でも、隊長…もう…私…だめ…かも…」
「隊長…俺も…ヤバいです…」
「おい、メイア!ギリス!」
メイアとギリスが息切れ寸前になり、床に倒れる。ニケとフェイは辛うじて、立ててはいるが次の一歩が出ない様子。幹部以外のメンバーは全員瀕死状態。こんな事、フェーダにとって初めてだ。
───────
セカンドステージチルドレンが、人間に負ける。
───────┨
「すみません…隊長…」
「お前…たち……、、、、」
鼓舞しようとするスターセントも、限界に到達しようとしていた。
「こんなの、、、はじめて、、だな、、。ハア、ハア、ハア、ハア…ったく…なにやってんだわたし…もう…“2人はいない”っていうのに…。仲間も守れやしない…サリューラスの信号も消えた…起こりうる出来事としては…何となく予想がつくが…。」
倒れゆく、スターセント以外のフェーダメンバー。
「まずい…アタマが…ぼーうとする…なんだ…殴りかかってくるのか?、、アァ…もう…ここまで…か??ごめんね…パパ。」
スターセントに向けてジャガーノートグレイブの剛腕が直撃しそうになった時、轟音が第5区画全体に強く伝わる。そして、その音は一時停止ボタンを押したかのように、突如無音となる。
「なんだ…?」
その無音状態となった中に、残影を発生させながら現れたのは、サリューラス・アルシオンだ。
「サリューラス…、、、、、」
「姉さん、大丈夫?」
「フッ、、、、まァね……、、このとおり…、、、、新しい衣装似合ってるでしょ?ハア、ハア、フゥ…」
「あとは、俺に任せて…姉さんは、壁に。」
「あんた…の、、、遺伝子反応…さっきと違くない??何があったの?」
「2人のこと…」
「それは…言われなくても、わかる。お前…なにがあった?」
「、、、、、、、女に会ってきた。」
「、、そうか、、、そのランデブー、役に立てそうだね。」
「見ててよ。」
サリューラス・アルシオン。セカンドステージチルドレンには、伝わる謎の力。アルシオンの血脈伝道線には、深い所まで描写されている。サリューラスの顔、身体に行き渡る細胞が踊り狂っている。自制御が効く。あの時…二ゼロアルカナ暴走時を克服したような、進化している。
スターセントから見えたサリューラスは、正に神に等しき存在。遺伝子能力の臨界点を超えている。昨日今日出会った相手だけど、これは異常。セカンドステージチルドレンには、生き物に対して生育期の把握が可能。“現状の力から、この力までが限界値”というように、明確な成長のゴールを認識する事ができる。《ライファーズアイ》と言われる。
“光の輪”を発生させたサリューラスの姿に、獣を食らった天使を想起させるスターセント。サリューラスは、この機械が招いた第5区画での惨劇を残像させた。その残像には、手も足も出ない様子で突破口を見い出せずにいるフェーダメンバーが映る。
「こいつに、呆気なくやられたってわけだね?」
「調子のんなよ…、、、」
サリューラスから、超高電磁レールガンが展開される。その具現化に時間を要すことは無かった。元々所持していたかのように、一瞬にしてその姿を見せる。
「目標確認、“胎芽簒奪者サリューラス・アルシオン”、高エネルギー収束帯、超高電磁加速システムへ。大出力陽電子発射ホログラム、理論値を大幅にアップ。発射タイミングは、、目下のところ、不明。」
「発射。」
ジャガーノートグレイブの解析システムのによる報告アナウンスが終了したその直後、サリューラスはレールガンの発射を開始。予想外すぎたタイミング。ジャガーノートグレイブが思考する《軍事AI》機能では、理論上有り得ない速度での大出力放電加速段階だ。発射された《ハウンドキルキャノン》は、パルスアーマーを貫通。精鋭部隊アルマダが如何なる手段を用いても突破不可能だったアンチSゲノムブッシュを完全攻略。と言うよりも、圧倒的だった。精鋭部隊アルマダの最大火力をもってしても“害悪”を潰せなかったことに。
その訳は判明している。
◈
サリューラス・アルシオンと《“胎芽”ユベル・アルシオン》は、契約を交わした。
◈
オリジナルからのみ発せられる高エネルギー反応の識別信号を確認。ジャガーノートグレイブ視点のサリューラス遺伝子検知信号は、彼自身の遺伝子指数よりも胎芽の血液が多く確認した。そんな外敵排除のコントロール調整は無意味なものとなる。
ハウンドキルキャノンは目標を破壊。木っ端微塵に叩き潰した。粉砕されたジャガーノートグレイブには、アンチSゲノムブッシュが滴り落ちていた。
「凄い量だな…」
「こいつの…アンチエネルギー…すごかった、、んだよ、、」
「姉さん、大丈夫?」
「まぁ、私はいい。立ててるから。みんなを助けよう。」
「ツァーリ・ハーモニーは?」
「安心しろ…無事だ。小さくさせておいた。」
第5区画生産工場エリアに、倒れ込むフェーダメンバーへの応急処置を開始する。サリューラスは倒れているフェーダメンバーに対して、リペアをした。
「サリューラス、お前…?」
「ん?どうかした?」
「なんなんだ?その能力は…」
「《アロマセラピー》。使った事ないけど使えるんだよね。不思議だよね。」
サリューラスのアロマセラピーは、全メンバーを完治させた。
「私…確か…あのクソ機械に…」
「ああ、僕もそうだ…気を失ってたんだと思う…」
「隊長…ですか?」
「隊長が、我々を助けてくれたんですね?」
「いや、、、私じゃない。」
「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」「え?」………
「サリューラスだよ。」
一同の目がサリューラスに向けられる。
「サリューラス…ニーディールとヴィアーセントはどうしたんだ?」
幹部以下のメンバーは、まだ気づいていなかった。サリューラスの身に何があったのかを。
「俺は、もう“君達”が知ってる俺じゃない。今の俺には、胎芽の力がある。君達は、それに触れたんだ。“干渉”したんだ。だからもう一度目覚めさせた。みんなの力がいる…。胎芽…彼女の願いなんだ。彼女の願いを叶える事が、俺達の生きる意義…。」
サリューラスの、人格が変わったかのような風と共に流れる清らかな声色からは生気を強く感じる。
「、、作戦終了…さぁ、…帰還しよう。」
スターセントの号令で作戦は終了。スターセントの苦悶の表情で、アルマダ幹部らはある程度の察しはした。二ーディールとヴィアーセントの結末だ。血脈伝道線は他の血統には分別が不可能。アルマダ幹部らは、これ以上の詮索はやめた。サリューラスはずっと俯いている。“胎芽”とか“彼女”とか言っていたけど、アルマダ幹部らには理解ができなかった。
“《逃避夢》の中で出会う偶像は、他者にとっては、そこまでの価値は無い”と言われている。セカンドステージチルドレンが見るこの現象に果たして、価値は無いのか…。アルマダ幹部達は、今、そうは思っていない。サリューラスが見たのは…恐らく…。
「エゼルディ?こちらメイア、応答せよ。」
「OK、エゼルディ」
「作戦終了、作戦展開メンバーのリコール作業をお願い。」
「了解、これより飛行甲板に着艦する。」
メイアからの回収指示を受けたエゼルディは、アドバンスドユダフォート付近へ下降する。
───2時間前。
アドバンスドユダフォートから作戦展開メンバーが降下した。その後エゼルディは、アドバンスドユダフォートの高層空域へと姿を消した。
「アドバンスドユダフォートから緊急連絡。阻害電波を確認、状況不明。」
「周辺海域に航行しているフリゲート艦、駆逐艦はどうした?」
「恐らく、沈黙していると思われます。」
「こんなもの、敵なんて奴らしかいない。総員、第一種戦闘配置。地対空誘導ミサイル発射。ホーミングモニターの映像出ます!」
「第7方面軍からの爆撃航空船団が離陸しました。」
「第8方面軍も現在、無人観測航空機プレデターを発進させています。間もなく現着。」
「アドバンスドユダフォートは現在、セカンドステージチルドレンの攻撃を受けています。」
「プレデターの観測映像をモニターします。」
無人観測航空機プレデターが、アドバンスドユダフォートの現状に関する映像を《剣戟軍》の総本部メインモニターに出力される。映された姿は、異様。皆が知る母艦の容姿は完全に捨て去られていた。中枢部分がごっそりと無くなっている。海上30mを誇るアドバンスドユダフォートの巨大海上要塞の様はどこへやら。一同は言葉を失う。
「爆撃航空船団、間もなくアドバンスドユダフォートに到着します。」
ステルスモード展開中のエゼルディは、接近している敵機部隊を確認。統括指令所のオペレーターからは、《メインディレイ》に応援待機中の部隊に向けて排除命令が下る。
「メインディレイ、メインディレイ、こちら統括指令所。」
「はぁーい、なんかあった?」
「敵機接近中、敵機接近中。全翼機がアパッチロングボウを4機引き連れて並列飛行中。」
「了解ィ!さぁ〜てみんなぁ、オアソビの時間だよ?」
この声に合わせて、メインディレイに待機中の39人で構成された部隊の全メンバーは一気に奮い立つ。
「私が先に墜落させる!後はみんなに譲るよ。」
「《アスコウス》隊長、あの数では皆の殺しの人数に合いませんよ?少しずつ、皆で削っていきましょうよ。」
「そうですよ、《ザリア》も人間殺したい!」
「俺だって!」
「私だって!」
あまりにも少なすぎる人類側の航空部隊に、残念がるダストア部隊。
「うるさいだまれ。私があの、でっかい、真ん中の、なんかよく分からん、真ん中の、引き連れてるリーダーっぽいヤツを落とすんだ。あとは、キミタチでやってくれよ。」
「ワリニアイマセンヨ!!!」
「アスコウス、応答せよ。地対空誘導弾と敵機から発砲直前の銃身加熱エネルギーを確認。直撃推定時刻共に0003」
「ホーミングミサイルか…、いいじゃァーんんん!!撃ち落としてやるよ。」
アスコウスが、メインディレイの発着ドックを開ける。仁王立ちするアスコウス。
「アスコウス隊長、私が殺ってもいいんですよ?」
「おいよせ、もう無駄だよ。あーなった隊長は。」
「ふん、わかってるよ《パラッシュ》。」
アスコウスに込められた《魔槍“グングニル”》がまだ姿なきミサイルに向けて放たれる。雲の中へと轟速に放たれた魔槍は数秒後に、効果を発揮した。
「ミサイルシグナル、ロスト。アスコウスの放ったグングニルが命中しました。空域内、ナギ状態にリターン。」
「同時に航空部隊ロスト!依然、空域ニアーゾーンに異物なし。」
「アスコウスさん…?」
「多連槍よ。トライデントグングニル。やり方教えてあげる。」
以降、航空部隊と戦艦がアドバンスドユダフォート空海域に侵入したが、全ての外敵をアスコウスが虐殺した。この範囲の中に入れば、自動的に自機が爆発するかのように、人類側のミリタリー兵器は次々と海に沈んでいった。
セカンドステージチルドレンは、人を殺すのが好き?
人は、セカンドステージチルドレンを殺すのが好き?