ep.11:自覚症状の誤作動
侵入者確認、侵入者確認。
排除命令に問わず、識別信号オールレッド。
胎芽保護を最優先。
アルシオンを除く、
セカンドステージチルドレン抹殺行動開始。
[#11-自覚症状の誤作動]
第1区画コントロールブリッジに向かうニーディール、ヴィアーセント、サリューラス。サリューラスよりも先に、少しの距離ではあるが先頭を走っていた2人。2人は速さそのままに、ドアを破壊。
その破壊されたドアからは、白い煙幕が立ち込めていた。その時、ニーディールとヴィアーセントが溶けるように消えていった。何か異変を感じたサリューラスは、直ぐに白い煙幕の中へと進む。
「ニーディール!ヴィアーセント!」
声高らかに叫ぶ。
「サリューラス!逃げろ!」
「サリューラスこっちに来ないで!」
2人の声が聞こえる。でも重苦しい。やがて、悲痛な叫びが同方向から木霊する。2人に何が起きているのか。その答えは、ようやく晴れようとする白い煙幕が晴れる事により明らかとなった。
眼前に見えたのは、レッドチェーンに拘束されている2人の姿。その周辺には、大勢の武装した兵士がいる。その兵士達は、マスクを着装している。
「なんだ…これは…?」
「これは…ドロップミストか?」
「なんで…?!なんで人間達がドロップミストを使えるの?」
奥から男が現れる。
「第5区画で、君達のお仲間さんは頑張っているよ。私はここの総司令官・バルギルだ。レッドチェーン、効き目は良い感じのようだね。」
「腐れ外道が!」
「それはどっちなのかな…。君達は我々人類を無惨に殺し続けている。特にこの3人の血族は筆頭じゃないか。知らないとでも思ったのか?『混血』が…。」
憤怒の顔を浮かべるニーディールとヴィアーセント。
「君達は恐らく、マザーコピーを破壊にしに来たんだろ?そうだろうな。我々人類は遂に、君達と対等にやりあえる手段を確立させたんだ。せっかくなんだから、やり合わせてくれよ。」
「うァァァァああああ!!!!!」
ニーディールが絶叫する──。
レッドチェーンから発生する高出力アンチSゲノムブッシュがニーディールを纏う。触れている箇所から強撃される激痛は、身体の内側へ深刻なダメージを与える。
「お父さん!!この…クソ野郎が…!!」
「サリューラス・アルシオン。君に用がある。君は特別だ。生かしてやろう。もう間もなく、君のおじいちゃんは死ぬ。お姉ちゃんも死ぬだろう。」
「アアアアアアァァァあぁ!!!!」
ヴィアーセントにもニーディール同様の攻撃が加えられる。
「貴様…ヤメロ…。」
「条件がある。人類のためになってくれ。このマザーコピーは、劣悪な状況にある。何年も前に採取された遺伝子情報だからだ。今日まで持っているのも、流石だが…もう終わるだろう。賞味期限だよ。そこで、君の血が欲しい。一滴でいいんだ。そうすれば、マザーコピーは再生し、向こう100年、軍事力の増強が約束される。君も人類の為になれ。君は他の超越者よりかは、人を殺していない。周りが殺しすぎているだけだがな。許してやる。陸軍大臣にしてやろう。早く…決断しろ。このままだと、この2人から、内臓が出るぞ?」
サリューラスは、今までに無い圧迫感に包まれる。
「ダメだ…よせ…サリューラス…逃げろ…私達は…置いて…い、、、け。」
「サリューラス…いいのよ、、、、いって。」
過呼吸になったように、目眩がする。ボヤけてきている。2人の姿を見ようとしても、どこに何があるのか判らない。そして、あの時の事を想起する。
あの、、、光景だ。
ボヤけていた2人の姿が鮮明になった時、現れたのは、ペンラリスとペイルニースだ。あの時…お父さんとお母さんは、どんな顔をしていたんだろう。無我夢中になっていたから、全く気にも止めて無かった。
周囲が黒くなり、2人の姿にだけ、赤のスポットライトが当てられる。
目と耳を襲う、苦痛しか感じない負の力が主制御とも言える感覚を攻める。
自分はあの時、何をしたんだ?何を果たしたんだ?それは親の命令?自分の力で動いてない?自分ってなんなんだ…。自己完結した事なんて生まれてからあるのかな…。生きてから今まで、ずっと親の言いなりだったのかな。自分の人生はこれまで全くの実の無い出来事だった。だって覚えて無いんだから。思い出が無いんだ。
愛されてたのかな…。
俺は、二人から愛されていたのかな…。記憶の海をどう足掻いても、回答が出てこない。あっちから来ないのならこちらから接近するしかない。それでも一向に答える気にならない。
嫌われてる…?
嫌われてるのに、俺は二人に従ってたのか?
二人は、これで良かったのか?
俺の行動に満足しているのか?
────────────
「お前は、殺したな。」
「そうよ、私達を殺したのよ。」
「お前を道具としか思ってない。」
「何故あなたはそれしかできなかったの?」
「もっと考えれば、打開策はあったはずだ。」
「そうやって育てた覚えはないわ。」
「何ができるんだ?」
「何をしてくれるの?」
「ダメだったんじゃない?
「お前には教育すべき事が沢山あったな」
「あなたがどうして生まれたか」
「何を果たすために生まれたのか」
「意義を」
「憎悪を」
「タマシイを」
「穢れを」
「受肉を」
「拒絶を」
「受け入れろ」
「受け止めろ」
「お前の物語はまだ終わってない」
…
「お前は…産む意味があったのか?」「あなたを…産む意味があったの?」
───────────
「サリューラス…?あああああ!!!」
サリューラスは膝を着いて倒れ込む。
「サリューラス!?どうした、、、、の、、、??」
ニーディールとヴィアーセントは、レッドチェーンからの拘束攻撃を受けながら、サリューラスの状況を見ているしかできない。ヴィアーセントは、怒りの雄叫びをあげる。
「サリューラス…聞いて…あなたは良い子よ。弟に変わって、、、そう言うよ。アルシオンは…2人になっちゃうね…、、、、あなたが世界を変える瞬間を見たかったよ。人間に…殺される…なんてね。もうほら、お父さんは…だめだ…私もだめ…悔いの無いように生きなさい。自分の力でも無理なら他人を頼りなさい。ペンラリスの子だもんね。アルシオンは…“父親の性格を多分に継承する”と言われている。お母さんは…うん、凄い血を引いたね。“価値”を見つけなさい。見つけられなかったら、価値を付与される事をしなさい。あなたなりでいいわ。他人の脳を使わせちゃダメ。そしたら、あなたの価値じゃ無くなるからね。“現実と虚構”は全ての事象に対して残酷な迄に生物を突き動かす。生物に与えられた生と死は等しいものよ。だけどアルシオンは違う…呪縛の解放と果てなき力の創造がある。いい?アルシオンは、スターセントとサリューラスだけになった。お父さんとお母さんが施設から逃げた時と殆ど同じ構図よ。必ず…この血は絶やさないで。ぜったいよ。約束して。」
「お前ら…ぜったいに、、ぜったいに、殺してやる…。」
「サリューラス・アルシオン、君に全てが懸かっている。といっても、もうこの2人は死ぬがな。」
「サリューラス!逃げろ!!…にげ、、、るんだ、、」
廃人化したサリューラス。その声を全く聞こうともしない。
「もういい、レッドチェーン圧縮、殺せ。」
「了解、緊急事態モードを解除、アンチSゲノムブッシュ最大数へ。」
足掻き続ける2人。
「やれ。」
2人に非情な裁きが下る。
その瞬間、サリューラスから高エネルギー収束帯が発生。
「なんだ!?これは!」
「分かりません!強力な自己防衛シールドが発生しています!」
コントロールブリッジの制御システムが次々に警報アラートを鳴らす。
「《ポリソーム》出撃!」
「了解、ポリソーム出力最大、アンチレーザー発射!」
「ダメです!効果なし!サリューラス・アルシオンからのオリジナル遺伝子反応を検知!」
「なんだと!?」
高エネルギー収束帯が消失。
「もういい!こいつも殺せ!レッドチェーン放て!」
「サリューラス・アルシオンの自我データが次々と書き換えられて…いや、、書き加えられていきます!」
「どういうことだ!」
「つまり、サリューラス・アルシオンでは…無くなっていく…。」
「まさか…!」
何かを悟ったバルギル。
「おいまだか!早くレッドチェーンを出せ!」
「発射します。」
第3のレッドチェーンが発射された。だがレッドチェーンはサリューラスの高エネルギー収束帯を抱擁することが出来ず、それに異分子間に発生した遺伝子引力によりレッドチェーンが破壊された。
「これは…」
「まずいぞ…」
サリューラスから発生した収束帯は、コントロールブリッジを壊滅に追い込む大爆発を起こした。そのイレギュラーすぎる事態に、呼応した二ーディールとヴィアーセントのレッドチェーンが緊急事態時の自律稼働により起動。2人を圧縮し、爆殺させた。
サリューラスはその光景を見て、あの時の記憶と照らし合わせる。
「まただ、またこれだ。また、俺のせいか?」
感情…大丈夫。制御は…効く。能力は…違和感。
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「全員殺す。」
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境界の海。
界面で待ってる。




