ep.10:はじめての心のかたち
血が反応する。
体内でウズウズと血液の流動が早くなる。
ここだ。ここにいる。
[#10-はじめての心のかたち]
精鋭部隊アルマダは、階下。目標物ツァーリ・ハーモニーが格納されている第5区画ハンジャールデッキに到着。
「よし、じゃあ行くぞ…捕獲班装備形態へ移行開始。」
「了解、装備モジュールをコンバットからキャプチャーへ。エレクトロキャプチャー装備完了。」
フェイ、ニケの上級官を含めた5人が、エレクトロキャプチャーの装備を完了。5方を固めて、確実的な捕獲の実行へと移る。
作戦第2段階。
ハンジャールデッキには、誰もいなかった。恐らくもう既に非戦闘員に含まれる科学特殊班は、空間転移による待避を行っていたからだ。
「まぁ、体力使わなくてよかったんじゃない?薄汚れた奴らを見るのはウンザリよ。」
メイアが燦爛と言う。
「そうだね…メイア。メイアの視界を汚すような分際が居ない…それだけでこの光景は晴れ晴れだよ〜!」
ギリスが言う。
「アンタら、ほんと気持ち悪いんだけど。」
ニケが呆れて言う。
「さぁ、ニケやるよ。」
フェイが淡々と言う。
個性が炸裂している精鋭部隊アルマダの幹部達。だが一番のヤバい奴は隊長のスターセント。目に入った人工物は所構わずぶっ壊す。
「隊長、人間が現れませんね。」
フェイが先導するスターセントと並行しながら言う。
「怖気付いたんだな。サッサと逃げやがれカスどもが
ァ」
「隊長、目標物回収予測地点に到達しました。」
ハンジャールデッキの巨大ポッドに、ツァーリ・ハーモニーがあった。見た目は普通の爆弾で、大きさもそこまででは無い。だがこれが間違いなく水素爆弾だ。ツァーリ・ハーモニーのキャプチャーに成功。特に戦闘は行う事は無く、作戦第2段階が終了。
その刹那、異音が轟く。フェーダメンバーの前方に位置する連絡通路の開閉扉がアンロック。
◈
「侵入者を確認、侵入者を確認。対象、セカンドステージチルドレン複数名。その中に、“オリジナル”の遺伝子反応検知。生死と攻撃開始の承認を願う。了解。《カタパルト式自律稼働型限定兵器・ジャガーノートグレイブ》、最終防衛ラインでの、攻撃行動開始。」
◈
「フッ、来やがったな…。」
ジャガーノートグレイブ。《電磁波帯電ゼロ距離突撃兵器パイルバンカー》《リニアレーザキャノン》《多連装ミサイル》といった重装備を携えたアドバンスドユダフォートの最後の切り札。この巨大な機械構造物は、見る者を圧倒し、持ち主の意向に忠誠を誓う。コックピットは無い。AI機能を搭載する自律型で、ありとあらゆる攻防パターンを予測しながら戦闘を行う。戦闘経験を豊富にさせながら学習し、敵への攻撃プロトコルを再構成。精鋭部隊はアルマダは苦戦する。打撃と所持するアンプルバレットの効果が発揮されない。
それもそのはず、ジャガーノートグレイブには、《パルスアーマー》と呼ばれる対SSC遺伝子無力化特殊装甲を装備している。
「全然効かない!」
「隊長!こいつの装甲に触れると危険です!一気に力が吸入されます!」
「メイア、ギリス!煙幕弾発射!」
「了解!」「了解!」
「行くぞ!フェイ!」
「了解!!」
フェイが持つ大剣をジャンプ台に、空高く舞い上がるスターセント。煙幕が広がる視覚を奪われた空間へと突入する。だがこれは、遺伝子能力を含有させた《ドロップミスト》と呼称される兵器。ドロップミストは、SSC遺伝子を持つ者以外の者から視覚機能を奪う性能を持つ。相手にダメージを与える攻撃技では無い、フィールド変化の技。これであればジャガーノートグレイブに対して、有効な手段だと思った。
広大な空間のハンジャールデッキ。その天井にまで跳躍したスターセントは、メイン武器である双剣を持ち、ドロップミストへ。突入した瞬間、ドロップミストは、突入口から消失していく。まるでドロップミストを切り刻んでいるようだ。豪速回転で切り刻まれ、その回転数が目で追えない速さとなりジャガーノートグレイブに突撃。いくら特殊装甲を携えていたとしても、スターセントのこれほどの落下エネルギーを使用した回転斬りは威力絶大なはず。誰もがジャガーノートグレイブの沈黙を予感した。
フェーダメンバーには、回転斬りが直撃した様が見える。だがその後に目の当たりにした光景は、信じられないものだった。やがてドロップミストの効果は消え失せた。
そこには、ジャガーノートグレイブがスターセントを握り潰そうとしている姿だった。その姿を直視する前から、フェーダメンバーは、救出行動を開始。
この上記のシーンは、“10秒間”の内に行われている事だ。
あれを受ければ、こいつに勝てるか?




