ep.9:滅界改竄
OverTheRainbow??
[#9-滅界改竄]
今までフェーダは数々の世界経済のハブターミナルとも言える拠点を襲撃、破壊活動を行い続けてきた。
自分達の力を地球人全員に見せるためだ。その行いをフェーダは“正義”だと自負している。人間が積み上げてきた功績をこれでもかと、粉々にしていく。
快感だった。
破壊を司る神にでもなったようだ。
人間が私達にしてきた事に比べれば、こんなのは比較の対象にもならない。虐げられてきた先祖の悪夢が、攻撃をする度に蘇る。
先達は「もっとやれ。」「ありがとう。」「私にはできなかったことだ。」「きみたちは強い。」
と言った喜びとも受け取れる声を送る。
アドバンスドユダフォート。
海に浮かぶ要塞。
世界一の空母艦でもあり、SSC遺伝子生産工場の中核を成す研究施設とメインライン工場でもある。レッドチェーンはここで開発された。アンチSゲノムブッシュは、超越者の唯一の天敵だ。
人類がSSC遺伝子を何者かから採取して完成させたアンチSゲノムブッシュ。その代表格である対フェーダ制圧兼拘束兵器レッドチェーン。
だがその採取元は、今から119年前のセカンドステージチルドレンの血液。
サルベージしてきて幾数年、その遺伝子は腐乱の一途を辿っていた。
更にその血液は特別なもので、各国のニゼロアルカナ収容員達のSSC遺伝子では“相反するもの”という解析結果が下された。故に119年前のセカンドステージチルドレンは特別だったと言える。
そして、現在。
エゼルディの《ロレンチーニサイト》がSSC遺伝子の所在地を特定。世界中に複数個の展開を確認した。
レッドチェーン以外の《SSC遺伝子細胞粒子》内蔵のサブユニットもロレンチー二サイトは捕捉。
ロレンチーニサイトマーキングエリアは、フェーダが攻撃した。ニゼロアルカナの総本部である日本も対象だ。
その理由は、サリューラスの回収と共に、サルベージ元である《オリジナル》がある…と踏んでいたからだ。
しかし、無かった。
だから今彼等は、アドバンスドユダフォートを狙っている。
オリジナルでは無く、マザーコピー。
◈
“サルベージ元の第一段階”への干渉と破壊。
◈
ニーディール、ヴィアーセント、サリューラスは第1区画コントロールブリッジ、第2区画シーウィードプラントへの侵攻を開始する。
様々な思惑が葛藤する中、サリューラスはこの母艦に何かの異変を感じ取っていた。その異変というのは、なんとも形容し難い苦痛そのもの。心の中に眠る新たな生命が開花する瞬間を今か今かと待ち望んでいるよう。その異変が自分のためになる事なのか。
はたまた自らを侵す危険因子なるものに成長するのか。全く定かでない。
サリューラスに宿るモノがどうであれ、ここから逃れる事は出来ない。可能性として上げるならば、逃避夢。ドリームウォーカーの援護が優先順位的にはかなり上の方になる。他に考えられない事では無い。
俺は、7年間もの間、眠りについていたんだ。
この7年間で世界が一体どういった展開を迎えているのか…。
今の自分には推測出来ない。こんなにも予想だにしなかった出来事が眼前で連鎖的に生じているのだから、無理もない。
フェーダメンバー。フェーダの皆はドリームウォーカーを見た事があるのか…。ドリームウォーカーと対話した時、セカンドステージチルドレンは《紡場》を構成すると言われている。
紡場というのは、言葉と感覚と機転の部屋。生物の中で唯一の言語能力を持つ人間。その器を借りているのが我々超越者。そうだ、超越者は神が生み出した器を借りているに過ぎない。
紡場が我々に齎すのはセカンドステージチルドレンが人の器を借りる為に必要な全てのパーツ。セカンドステージチルドレンは人の器を借りなければ生きてはいけない。人を滅ぼそうとしているのがフェーダの目的にも関わらず、こんな事を裏で行っているんだ。
我々は結局、人類をどうしたいんだ…。救済でもしなければ、人の器を破壊する切っ掛けにもなりかねない壮絶な戦争へと突入する事も一理ある。人類を根絶させながら、人の器を借りる。
次第に“借りる”という枠に囚われずに、我々セカンドステージチルドレンが本来の主。これは人類の魂が入っていた器では無い。元からこの器は私達のモノだったんだ…と歴史の改竄を実行する。
逃避夢…ドリームウォーカーにはそれが可能だ。
だがドリームウォーカーを蝕む謎の勢力がいる事を俺は周知済みだ。ドリームウォーカーを敵対視しているのか、俺の記憶と未来に接触し悪事を働こうとする“ヤツの影”。いつかこれの正体を露わにする日が来るんだろう。
もうそう遠くない日に…。
俺が気づかないだけでもう既に他のセカンドステージチルドレンを蝕んでいる可能性だって十分に考えられる。個性を維持しつつ、人間性を隔絶させ、己の方向性に従わせる。逃避夢の改竄には、記憶の他にも、個人の能力を底上げさせる特殊引力も存在する。能力底上げを強制的に実行させられ、宿主を破壊する。
破壊というのは物理的なものでは無い。精神面を侵食するのだ。個体生命としての形を完結させたまま、新たな情報を書き加える事で、確かな変革を与える。元より生まれた完結は、時間の流れで成長の速度は増大。最早、この進化は誰にも止めることは出来ない。宿主は勿論、第三者もそれに該当する。唯一この動きを止める事が可能なのは、実行を選択した影。現段階ではこの影の事は《改竄異性体》と呼称する。宿主を遺伝子構造を把握し、結合の順序を全て計算した中で、実行に移す。
改竄異性体。
覚えておかなくてもいずれ、向こうからやってくる。
干渉ちゃんには正規の接触を。




