ep.7:逃避夢
お前は、俺に何を齎す者だ?
[#7-逃避夢]
サリューラスは、自室に着く。そして深い眠りについた。
───
夢の中…俺は両親の存在を視認した。俺を愛してくれていた両親。いや…違う。父親は俺を兵器として見ていた。ただの道具として、自分の復讐に使用する駒に過ぎなかった…。母親からは愛情を感じていた。名前は今でもたまに口に出すんだ。そのぐらい気に入っている。
父親は…自分の嫁をも洗脳したのか?
俺がどのように産まれたのか、何も聞いてなかった。こんなのが普通に産まれた訳が無い。
なにかを隠している。
今更そんな事を思ってもどうしようも無い。
親は死んだんだ。
俺が、殺したんだ。
あの《彼女》以外に、俺の《像夢》に出てくる両親の影。その影は彼女と違って深い場所、何層にも覆われた皮を破るかのように傷を抉る。
酷い頭痛にも襲われる。脳みそを直接ツンツンと触られているような、刺激の強い連打だ。
心的外傷後ストレス障害。
サリューラスは、7年前の《アルシオン家政府機関襲撃事件》からPTSDを患っていた。あの時の記憶が突然降りかかる。現実世界の映像を飲み込むかのように、襲ってくるんだ。まるで、それが本当に眼前に映っている映像かのごとく。
世界は鮮明に描写されている。広場に出た3人の周辺に大量の兵装部隊がいる。背後の政府機関は、火災で建築物としての機能を成していない。兵装部隊から見れば、俺たち3人の背後にその決壊しようとしている政府機関があるのはかなりのインパクトを伝えていたと思う。
両親の死骸が頭から離れない。自分が発した理解不能の爆散した高出力飛翔体は全集域を薙ぎ払った。敵は全員木っ端微塵。骨も残っていない。血液だけが、惨状を物語る。だけど、両親は形がそのままの状態で焼け爛れていた。至近距離に居たにも関わらずだ。
これも、セカンドステージチルドレンの力。
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灰にもならない、溶けることもない、劣化することもない。短命だから容姿の変わり映えも全く無い。
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だけど生命維持は、20エンドの阻害機能に含まれていない。
ニゼロアルカナ連行後に、この悪夢は枷となった。再生される悪夢には忌まわしき害獣が暴れ回っている。その害獣は、雄叫びを上げ、飛翔体放出後に現れた上空の攻撃ヘリに対して、跳躍、殴り壊した。目に入ったものを全て敵をみなし、なぶり殺しにしている。その最中に映る親の姿。政府機関を血に染めあげた、害獣…それは紛れも無く自分。
あの時、俺はどうしようも無い…と思った。だって自分の意思とは違った動きをしたんだ。こんな事は求めてなかった…って思った。自分だって2人の襲撃に最初から加担していたのに…それまで両親からは“人間は敵”と教育されていた。その言葉を信じる…いや、そんな信用みたいな言葉で片付ける以上に、単純な理由だ。
“そうなんだね”。
この世界の決まり事みたいな風に捉えていたんだ。だから人間との関わりは絶ってきた。だから俺には、生物としての性が存在しない。セカンドステージチルドレンは人間じゃない。だけど、人間の器に魂が宿っている。周りからは人間として扱われる。アルシオン家は混血だから街の《シグナルセキュリティフェンス》に引っ掛からない。
“アルシオンは人間に化けて生活する事が可能。”
でも、人間らしい態度は避けてきた。
それが重なった事で、俺の事を嫌なように扱う奴らが出てきた。人間というのは愚かだ。自分よりも下級の生命体と認識すれば、やる事は皆同じ。
惨めに扱い、隷属させる。上に立つ人間は社会の統率を行う。下の人間は、刃向かえない。議論をすることを許されない。するとどうなる?人は退化していく。
虐めを経験している人間が、上に立つ未来が必ず訪れる。だけどその者達には、過去の追憶現象が開始される。それにより、上の人間と自分を照らし合せる。
“自分は…こうはなりたくない”てね。
でもそれが人の心を縮小させる。子供は成長すると大人になる。大人っていうのは、常に様々な感情を介在させている。その感情コントロールが人間らしさを形作るスパイス。そのスパイスの中でも、人間らしさを大きく物語っている感情こそが《悪性“ダークネス”》。
悪性は大人の心にあるべきもの。
人が人であるべき本当の姿には悪性が伴うのは普通の事。
欠点は補うべきではあるが、悪性は違う。
嫌な事をされたり、自分のルールとは反した行動をされたり、犯罪まがいな事をしたり、他人の認識とは特異な生活様式の経験で異常な環境下で育ったり…悪性という一つの感情ではあるが、分岐が山ほどある。元々存在するルートと新造されるルート。
そんなルートを熟知した。人として認識する街のシグナルセキュリティフェンスは“アルシオン”には効力は無い。
人類とセカンドステージチルドレン。
似てるようで…似てない。
人なのかな…。人に近い生物、だと推測の域は出ないけど容姿は人類と瓜二つ。どちらかが超越者…なんて問いを出されても疑う者はいない可能性もある。
ねぇ、そんなことかんがえるんだ?
お前は…
うん、わたしだよ。げんき?
うん、まぁ…いや、、、嘘、元気では無い。
んん〜?なんでー?
判らない…。
もうすぐあえるね。
え?
きみがねがわなくても、わたしがちかづくから。
俺を欲してるのか?
ホッしてるよ?フフフ…ホッしてるよ?フフ。
なんで笑ってるんだ?
へんだなぁとおもって。そんなこときくなんて。
変なのか?
へんだよ。だって…当たり前じゃん。
サリューラス、あなたも見えてるんだよね。
ほんと、嘘のつけない男の子。
父親そっくりよ、そういうとこ。
母親の事はどこまで知ってるのかな。
多分、私達の方が彼女を知っている。
バッターコール…思い出したくないな。




