[#119-現実の残滓【2】]
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超越者はそれに怯えながら、一日一日を過ごさなければならない。私も、お姉ちゃんもそうだ。
トシレイドとアッパーディスがアスタリスに殺された今、セラヌーン姉妹の私たち以外に、超越者がそもそもいるのかどうか⋯。私とお姉ちゃんは、ガウフォンに超越者が集合し、奴隷超越者生贄儀式“シキサイシア”を止めさせる動きができると思っていた。数の力で圧倒すれば、テクフル諸侯と七唇律聖教で編成された大陸政府の戦士達を打ち負かす事が出来る⋯と確信を持っていたから。
超越者は強い。だが、戮世界テクフルには超越者以外にも、多くの人間が異能者として存在している。超越者がこうして、“奴隷”として通常人類に家畜扱いされているのは、時代の成長が大きな原因として上げられる。
人間は進化する生き物。
しかし、超越者は既に進化し過ぎた。
“セカンドステージチルドレン”の次。
そこから連想される表現とするなら、アトリビュートは“サードステージチルドレン”とでも、言うのだろうか。
サードステージチルドレンを猛追する影として、通常人類の進化の足跡がある。
通常人類が天根集合知、白鯨、司教兵器を活用出来るようになってしまった以上、超越者が必要とされるのは、大陸神に捧げる為の道具として使用する他無い。元々は異分子として戮世界テクフルに蔓延したダスゲノム、通称・SSC遺伝子悪性ウイルス。
律歴4119年12月7日に起きた、戮世界テクフルを混沌に貶めた人為的大災厄。フェーダが核爆弾“ツァーリ・ハーモニーで都市型巨大フィールドバリア“レッド・テラフォーミング”を突破し、侵入。
その後、テルモピュライと冠がつく前の“剣戟軍”がセカンドステージチルドレンのみで構成された軍団“フェーダ”と交戦、ツインサイドを壊滅。都市機能喪失、人口99%死亡、廃墟化(Ground Zero)。民間人大量虐殺的惨状を生み、乞食すらできない荒廃にせしめた。
大量に使用されたSSC遺伝子搭載兵器は、ツインサイドの大地を侵食し、根を辿り、ラティナパルルガ大陸全土に拡大。やがてそれは海をも越え、他の三大陸にまで拡がった。
⋯⋯⋯⋯私の先祖って、もうめちゃくちゃ⋯。
そりゃあ戮世界テクフルの人間から異分子扱いされて当然だ。その報いとやらが、今の時代に生きる過去の正史とは無関係な超越者にまで及んでいる⋯⋯⋯。
私は呪う。
友達との絆を断絶してまで、自分の人生を愚かにしたいのか。
だがもう良い。
私の血は穢れている。七唇律聖教の修道士に狩られるのならば、それは本望だ。ベルヴィーとナリギュは、私の命を狙っている。ならば⋯それだったら⋯私は、喜んで、自分の命を捧げよう⋯。
そうしたい。それなのに⋯⋯⋯
『ウェルニ、あなたの命はそんな単純な願いで捨て去ることが出来るほど、簡潔に出来上がっていない』
『分かってるよ。分かってるけど⋯ほら⋯私見てよ。ベルヴィーとナリギュが私に向けるあの顔を⋯⋯もう、友達って言えない。友達という境界線が、彼女達なりの“正義”で消失した。私は⋯この戮世界の為に、身を捧げなきゃ⋯』
『本当にそれでいいのか?』
『いいよ、、、レピドゥス、あなたも一緒に死んじゃうけど、これも私の元に移植して来た宿命だと思って』
『わたしの事は考えるな』
『そんな⋯そんなの無理だよ。レピドゥスは私にとって大事な存在だもん』
『では、わたしの望みを聞いてほしい』
『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』
『決断を早くしても、未来が変わる事がある』
『⋯⋯⋯え?』
『⋯⋯⋯もう一人の使者がご帰還するぞ』
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『お待たせ、ウェルニ』
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ウェルニの視界が良好になる。すると、目線の先には乳蜜学徒隊が空間裂傷を直接受けてしまい、大地に倒れ伏せる様が映った。
ベルヴィーとナリギュが、直立した私に目線を向ける。どういう事か、二人は私の顔を見て、睨みをきかせるような反応を見せた。
⋯それもそうか、私はもう、二人のフレンドリストには入っていない。一方的にこちらが“友人”と認識してしまっている。
その友人達が見つめる中で、私の脳裏にどう考えてもお姉ちゃんにしか聞こえない声質の持ち主が、呼び掛けてきた。レピドゥスが私に対して行動制限を掛けるような障害を神経接続を通じて“ノイズ”を発していたが、レピドゥスも姉の存在を確認し、私への行動制限を解除。
すると、姉の声が鮮明になって聞こえてきた。だが、鮮明になった肉声は何故か、無機質な音質の邪魔が発生し、聞き取りずらくなってしまう。ウェルニのレピドゥスは、姉・ミュラエの声を辿ほうと、大陸や上空に意識を向ける。乳蜜学徒隊とノアトゥーン院長が、奴隷超越者と戦闘を行っているシーンが確認出来たが、今やそんなことはどうでもいい。今一番に取り組むべき事項が目の前に転がってきた以上、ウェルニが成し遂げる事は一つしか無い。
「お姉ちゃんの⋯⋯隣に戻る!!」




