[#118-裂け目より来たりし【3】]
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「ほら!こうやったら、せんきょくがわからなくなった!やっぱソーゴってテンサイかも!!」
「教皇、これでは勝敗に皇室の人間が介入してしまいますよ」
「もぉー、姉様はわかってないなぁ!」
「ん?」
レアネス・シルウィア。七唇律聖教最高位に位置する“樋嘴者”の一人だ。二人の周りには、ゲルマニカ・シルウィアの存在も確認できるが、レアネスと教皇ソディウス・ド・ゴメインドの会話には参加していない。分厚い神話本を読書中のようで、あまり邪魔されたくない様子を醸し出している。
レアネスは、教皇の物言いに反応。『ん?』と口が開いたのは、教皇との距離感を一気に詰める良い役割を果たす。よって自然な流れで、レアネスは教皇に接近。
レアネスとしては教皇への“色目使い”とでも言うような仕草の一端を披露したつもりだろうが、特に教皇は気にも止めず、レアネスとの会話を再開させる。
「特異点兆候をこちらでつくるのです!」
「シンギュラリティポイントを⋯?」
「うん!特異点兆候になりやすい出来事と言えば、ソーゴのようなつよつよの人間がよわっちぃニンゲンにからむのがいいんでしょ?それをやってみたいの!なにごともじっせんあるのみ!」
「それはそうだけどさ⋯ほら、見てみなよ」
「えぇ?なに??」
レアネスの指差す方向に視線を向ける。カナン城皇室のバルコニーからは、ウプサラの壁が確認出来、その中では異能者と異能者の戦いが繰り広げられている事がわかる。だがそれは、教皇ソディウス・ド・ゴメインドを筆頭に、特定の人間しか中の様子を視認することは許されない。
ウプサラの壁を生成した教皇ソディウス・ド・ゴメインドと同等の力、若しくはそれ以上の能力を持つ存在しか、ウプサラの壁を見透す事は出来ないのだ。
シルウィア家の人間はウプサラの壁内部の戦いを視認可能。よって、ウプサラの壁の中を指差した。
「奴隷、あのままだと死んじゃうよ?」
「ええええええ、、、せっかくあんなにあつめたのにぃ!」
「いくら超越者アトリビュートと言っても、SSC遺伝子能力を封じ込めた状態が長時間継続されていてしまうと、もはやそれは通常人類と同等の存在となる。教皇、生贄を戦闘事態に放り込むのはやめておいたほうが良かったね」
「兄さま⋯」
ゲルマニカからの忠告が“効いた”のか、教皇ソディウス・ド・ゴメインドはその場で身体をヨネヨネと地面へ落とす。力が抜け、自立が不可能とはなってしまったようだ。
まさに子供。年齢が上の人間。普通の民なら、こんな言葉に耳を貸すような事は無いが、“樋嘴者”が言っているのだからその重みは計り知れない。
七唇律聖教を束ねる、“教皇”ソディウス・ド・ゴメインド。
七唇律聖教の最高位に君臨する、“樋嘴者”シルウィア家。
彼等が戮世界テクフルを統括する最高責任者達。その三人が見守る中、次元裂溝から新たな“特異点兆候”が発生。
教皇ソディウス・ド・ゴメインドが起こした行動がトリガーとなり、新たな分岐点が作成されたのだ。
特異点兆候を作成した張本人である教皇ソディウス・ド・ゴメインドは、そのような事態に発展した事を把握していない。




