[#118-裂け目より来たりし【2】]
◈
大地へ、無差別に降り注がれる光柱はみるみるうちに力を増幅させていき、ノアトゥーン院長が放ったウプサラソルシエール幼生体でも対処が出来なくなる領域にまで急成長。
学習能力があるのか、大地をどうやったら短時間で“我がモノ”にする事が出来るのかを模索しているようにも思えてきた。
ギィシャスとネラッドは無数の光柱により亡き者とされ、その肉片はおろか、出血すらも確認できなかった。大地は光柱の絶大な威力を受け、掘削状態と化したエリアが時を経たせるにつれ出現。
大陸は常に進化をしている。
その進化過程を阻害するものがあるとするならそれは、神に匹敵する末なき恐ろしい傑物と言えるだろう。
そんな非現実的現象が、常日頃起こり続ける戮世界テクフルにおいても、このような光柱降下なんて事はこの世にいる誰もが経験したことのない事態だ。
「あれはなんだ⋯⋯⋯」
ベルヴィーが空を指差す。彼女が差した方向を一点に見上げる乳蜜学徒隊の修道士。ウプサラソルシエール幼生体を技巧に使い、乳蜜学徒隊を護衛してみせたノアトゥーン院長は、彼女らよりも先に天空にて起きる不可思議現象へ、眼差しを灯していた。
「ノアマザー、あれはいったい⋯」
「“次元裂溝”よ⋯⋯」
「何故このタイミングで?」
「“アッチ”で色々あったみたいね」
『アッチ』⋯。
ノアトゥーン院長が言い放った言葉の先に見えるは⋯、ウプサラの壁の向こう側。サンファイアとアスタリスが、教皇ソディウス・ド・ゴメインドと戦闘中の場所だ。この時、こちら側にいるセラヌーン姉妹とヘリオローザ達は、サンファイアとアスタリスに降り掛かっている現状を知らない。
ノアトゥーン院長は、次元裂溝が上空より発生した事によって、最悪な展開が始まりつつある事を予期する。
次元裂溝から降り注いだ光柱はギィシャスとネラッドの生命反応を虚無にすると、役目を終えたように降下運動が停止。しかしそれだけでは終わらず、次元裂溝はみるみるうちに天空への“切り裂き”を拡げていく。規模の拡大は留まることを知らず、次元裂溝の裂け目が地上からは良く視認する事が出来た。
色素は“紫”を基調とし、その中に黒と白の二色がアップテンポなリズムで点々と移動。『点と点を結んだら線になる』とはよく言ったものだが、まさにその役目が“紫”にあるように思えた。
光柱降下が終了し、少しの時間が経過。沈黙とした時間が続く事で、乳蜜学徒隊とノアトゥーン院長は、より警戒を強化した。ノアトゥーン院長の号令によって、乳蜜学徒隊は戦闘態勢へと移行。
特筆するような態勢では無い。それぞれの天根集合知を即座に展開出来るよう、エネルギーの充填を行ったり、単縦陣ながらも特色が活かされるようにして展開が作業が終えられていく。
白鯨の発現も当然だ。
「次元裂溝が戮世界に出現して、これだけの事で済むはずがない」
「ノアマザー、それはどういうことですか⋯⋯」
フレギンの問い掛けに、ノアトゥーンはこう答えた。
「多次元架橋戦闘警備艇だ⋯」
〖*──────────────────*〗
次元裂溝からの叫び。耳を覆いたくなるほどの強烈な痛みが感覚器官を刺激する。ウプサラの壁にも障害が発生。亀裂が生じ始めていく。だがその亀裂は五秒も経たないうちに修復作業が成されていき、特に何も無かった状態に戻る。次元裂溝からの叫びは修復作業中にも行われており、傷つけられては修復⋯傷つけられては修復⋯のサイクルが、ウプサラの壁数箇所にて確認する事が出来た。
乳蜜学徒隊は白鯨を発現。ギィシャスとネラッド、二人の白鯨はロビィナ等級。次元裂溝が二人を狙った理由は白鯨位階が上位級である事も理由の一つにあるのだろうか。二人が位階的にも上位の白鯨であるロビィナ等級を発現可能な人間だから。
次元裂溝から覗き見る悪魔なら、俗世の人間が備える異能なんて、簡単に見破る事が可能だ。たとえそれを表面化させていなくとも、内面から浮き出るエネルギーが当該ターゲットのステータスを全て表している。
乳蜜学徒隊が白鯨を発現させると、ウプサラの壁縁側にて傍観する存在を維持していた奴隷達が突然行動を開始。これまで全く、微動だにしていなかった奴隷が突然動き出したのだ。
「ノアマザー!これはなんですか!!?」
パレサイアの嘆きが木霊する中、ベルヴィーとナリギュが臨戦態勢をとる。二人は
「教皇はいったい何を考えている⋯⋯」
ノアトゥーン院長は真っ先に視線を、カナン城皇室へと移す。
────────────────
「だってぇ〜、さっキィっから、おもんしんろくないんだもーん」
────────────────




