[#117-虚飾光柱【4】]
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ウェルニの嘆きにレピドゥスは抵抗。だが宿主の制御を奪取出来る程、暴喰の魔女・レピドゥスの力は強くない。
どんなに強靭な異能を持ち合わせていたとしても、超越者であり宿主でもあるウェルニから、主幹制御を乗っ取るような事は不可能。一番の要因として上げられるのは“超越者”という異種コンテンツがオプションされている事がデカいだろう。
ウェルニの葛藤。それに対してのレピドゥスによる抵抗。
二つの衝突は、それを見届ける乳蜜学徒隊のメンバーとしては非常に好機と言える時間。
レピドゥスの暴喰がもう間もなくで発動しかけた途端、ウェルニが暴喰を停止させようと神経回路にノイズを走らせる。超越者の体内で流れうる“遺伝子細胞粒子”が、レピドゥスを基幹とする回路に侵入を果たしたのだ。レピドゥスの魂はウェルニの器にて完結していることから、ウェルニのマザーウイルスである細胞粒子に、逆性的な行動を起こす事は出来ない。
次第に満身創痍となっていくレピドゥスは、暴喰を完全停止せざるを得なくなり、乳蜜学徒隊は自由の身となる。あと三歩程度の暴喰能力解放で、ベルヴィー、ウェルニを始めとする、アリギエーリ修道院の乳蜜学徒隊は戮世界から抹消され、暴喰の魔女・レピドゥスの管轄下に置かれていた。
ウェルニの身体は一時的に地面へダウン。暴喰の魔女と超越者、二つの能力が体内で衝突し合った事で、瞬間的なドローフェイズに陥ってしまった。ウェルニはここで勝手に、ベルヴィーとナリギュが介抱してくれるんじゃないか⋯と予測。膝を着き、荒い息を吐き続ける友達を目の前で見て、不動を貫くとは思えなかったのだ。
だが、彼女の願いは虚しくも簡単に散っていく。
ベルヴィーとナリギュは近づきもせず、ウェルニの身体を拘束。ウェルニに抗う術を与えず、暴喰の魔女・レピドゥスの思考域には“こうなる事”が見えていたようだ。
しかし、それをウェルニは聞き入れようとはしなかった。自分の意見は最優先にし、暴喰の魔女の意見具申を全て排除したのだ。一つの身体に二つの魂が回遊していると、主幹制御を任されている魂に責任が問われるとは当然だ。
「ウェルニ、そこまで私達を殺したくないのか?」
ベルヴィーの問い掛けに応えようとするが、ウェルニは“自我境界”で遍く理の定義に打ち勝つ事への意識に集中している。その対象となる存在は、言うまでもなく暴喰の魔女なのだが、“遍く理の定義”と称したのには、暴喰を展開した際のレピドゥスに降り掛かったかつての宿主の存在が大きく影響していた。
七唇律聖教のノアマザーから、超越者へ。宿主の移植を実行した事は、これまでの魔女定理において事例の無い出来事だ。
アリギエーリ修道院の乳蜜学徒隊と共にカナン城へ降臨してからというものの、一切の挙動を見せないノアトゥーン・フェレストル。
そこに疑問が生じるのは至極真っ当な事だ。どうして彼女はここに降臨してからというものの、戦闘に加担したりせず、傍観者としての立場を全うしているのか⋯。
乳蜜学徒隊を指揮するノアマザーとしての責務を遂行しているだけに過ぎない⋯というそんな軍隊的な意味合いを持ち合わせているのかもしれないが、言葉を発さずにただただ、ウェルニ&レピドゥスと乳蜜学徒隊の睨み合いを見届けているのは、だいぶ違和感のある所業。
ノアトゥーン院長が、両者の再会を何も思わないはずが無い。さらにはレピドゥスとの再会にも焦点を当てない時点で、明らかに彼女の意識が不安定な状態にある可能性があった。
暴喰の魔女・レピドゥスは、元宿主であろうとも“現在”に思考を働かせるタイプのようでノアトゥーン院長に対しては全く何事の感情も抱いていない様子。だからノアトゥーン院長を取り巻く事象が、全く無いのだ。
白鯨を発現させた時、ノアトゥーン院長は両者『乳蜜学徒隊』と『ウェルニ&レピドゥス』から距離を取った。対立構造が発生した中でも、介入する事をせず傍観者の立場を貫いたのは、どういった意味が込められているのか⋯。七唇律聖教に呼び出され、この戦場と化したガウフォンに空間転移。
特筆すべき動きがあった場合のみ、ノアトゥーン院長に触れていく事にしよう。




