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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾四章 ギンヌンガガプの使徒/Chapter.14“Finale:MilkyHoneyFestival”
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[#116-ラキュエイヌ一族の罪業]

[#116-ラキュエイヌ一族の罪業]


───Side:ヘリオローザ


「何処ーここーー」


「誰も居ないんですかあーーーーー?」


「アタシ、こんな風にしておおきお声、出しますけどーーー」


「どおせ聞いてんでしょーーー??」


「それとも何さ、さっきのポリゴンのヌシがここに居るってかぁ???」


「そうか、、たぶん、何となく分かったカモしんねぇ」


「アタシが探せばイインダナ??」


「アンタらは老人なんだよ。老人ホームで、介護してもらわなきゃもう生きてらんねぇぇってぇいう、生き紛いな人間」


「それだから来賓のアタシに、お茶の一つ、ショートケーキの一つも出しやしない」


「こんなところを徘徊するのは、ラキュエイヌ一族的に言えば⋯誰かなぁ⋯誰ぶりだろう⋯⋯⋯⋯千年の歴史があるからさぁーあ、、まぁでも忘れてないよ、一人もね。⋯⋯⋯“ハキラフィア・ラキュエイヌ”」


洋館の中を闊歩するヘリオローザ。その様は、傍から見ると完全に幼稚のそれ。所構わず、洋館内に配置されている部屋を“くまなく”チェック。その目的も特に無い。

『誰かが居れば良いなぁ』ぐらいの軽いテンションで、高揚感を高めながら、洋館をスキップスタイルでフワフワと歩く。もしかしたら、地面に足が着いている時間の方が少ないかもしれない。そのレベルで、彼女は現状を楽しんでさえいた。


ヘリオローザは一時的に囚われの身、となったものの、

それは単なるデコイ的な戦闘行動であり、バーチャリアルキューブサットとの戦闘に“実り”が無い、と感じたから、相手の術中に嵌ったような動きを“あえて”取った。


「ハキラフィアは、いつも独りぼっちでさ、ずっと図書館に行ったり、中古DVD屋に行ったり、公園で日向ぼっこしたり、昆虫を眺めては気に入らないような動きをしてたら踏み潰したりさ⋯暗ァい人間だったんだ。そんな彼女、図書館に入り浸ってたから、普通の人間よりも知識人ではあった。“速読”が彼女の特技でね。まぁ特技って言っても、アタシが寄生していたからハキラフィアの能力が底上げされただけだけど」


「いっぱいね、大事な思い出があるけど、誰かが出てくるまで、それは言わないようにしておくよ」


「だってさぁ、どうせ、アタシの徘徊ベシャリ、聞いてるんでしょー?どっかで⋯。なんだったら、もうすぐアタシの横とか!」


「縦とか!?斜めとか!」


「なんだったら〜〜〜〜」


「アタシの直下!とかね」


「んまぁいないか。いたらスグ気づくハズだしねぇ!」


発言と発言の間。行間が空けられているのは、ヘリオローザの空白時、不可解動作に専念しているからだ。先述した通り、ヘリオローザは恐怖の匂いがしてならない現フィールドに対して全く感情を沸き立たせていない。それどころか、現状を楽しんでしまっているのが本音。

特に、洋館側から仕掛けられる事もなく、ヘリオローザは着々と足を進めていく。⋯⋯いや、進めていく、との表現は通常人間のように聞こえてしまう。

だが、先述した表現として“闊歩”というのは、二度目なので使用しても仕方が無い。

⋯⋯⋯このポリシーを違反したとしても、今のヘリオローザは“薔薇の暴悪”としての威厳を、自らの知らぬ間に高めていっているので、最早“闊歩”のレベルとは言えないのかもしれない。


『悠々自適』

『我が家のように』

『暗闇ながら、街灯が五メートル等間隔に置かれた安心安全な一本道』

『孤高の存在である事の証明』

『この世の種生命すべての意識がヘリオローザへ強制集中』

『“見られている”という意識改革』

『一段上に立つヘリオローザ。我々はそれを見上げなければならない』


自由の象徴とも言える存在へと、自身のリズムで、自分の思うがままにのし上がっていく“薔薇の暴悪”を、近いようで遠い、“血戦者”の三人が監視していた。



「しかしまぁ広いよなぁー、この“廃旅館”」

“洋館”なのに、“廃旅館”と称してしまうヘリオローザ。当該洋館を管理する側の人間からしてみれば、溜まったもんじゃない発言だが、それは致し方ないだろう。そんなもの、ヘリオローザの耳に届くはずが無いからだ。

「誰も居ないのー?ほんとに居ないのー?⋯⋯アレでしょ?もうだいたい分かってんだけどさ、アタシをここに連れてきたのって、キューブ体と関係のある人でしょ?⋯⋯⋯なんだったら、その発現者とか」


この発言間も、動き続ける。歩みを止めず、自分のリズムで正直な今の感情を言葉に乗せて喋る。現在のヘリオローザから発せられている言葉は、一見するとノホホンとしており、無邪気な性格で戯言を喋っているようにも聞こえてしまう程、舐め腐った表現方法で“洋館”に語り掛けている。若しくは、“監視者”へ。


──────

「薔薇ァの暴悪」

──────


「ん?なんだぁー、やっぱ誰か見てたんジャーン。なになに?アタシに何か用でもあるわけ??」

ヘリオローザが陽気に聞く。

「俺ァが誰だか分かってんのか?」

「うーん、知らなーい」

「はい。薔薇の暴悪は我々の事を知らないのも当然かと思います」

「でもさ!でもさ!知っていてもおかしくないぐらいの認知度だと思うんだけど!」

「あーー⋯ット⋯⋯ごめんなさい、あなた達が誰なのか、、、アタシには分からない。有名人なんだろうけど、アタシはあなた達三人知らない。声も聞いた事ない。その上、顔の想像でしか三人との会話が仕上がらない事に、とてつもない不愉快さが満たされているわ」


「なんだァてめぇ。噂通りのキモい理念で動いてんだなぁ」

「“ウワサ”??⋯⋯⋯あ、ひょっとして、昔っからアタシの事知ってるファンの人??良かったらサインとか握手、なんだったらチェキ会も開催してあげよっか?他の二人ぃー?」

「はい、なんでしょうか?」

「呼ばれたよ!?呼ばれたよ!?」

「二人はさっきの“んァニキ”より、常人っぽくてマシだから、二人とベッチャクリたい」

────

「薔薇の暴悪。俺ァを無視するなんて、本当にその選択は合ってんのか?」

────


「うーん⋯」

洋館内。聞き馴染みの無い三人の声が響き渡る。ヘリオローザはそんな三人の声のみで、姿見の特定に掛かっていた。天根集合知ノウア・ブルーム、“未来予測演算”。本来この天根集合知ノウア・ブルームは、相手から繰り出される攻撃或いは、自分から与える攻撃数値の負荷を計測。主には戦闘でしか効果は得られない天根集合知ノウア・ブルームであったが、ヘリオローザの寄生機関パラサイト・エクスプレスは進化工程をラキュエイヌ一族の細胞へ提示。

未来予測演算を会得した当時のラキュエイヌ単体では成し得なかった、天根集合知ノウア・ブルーム能力の“拡大化”に成功したのだ。


「そんなに大事な存在な事を知らずに言ってしまって申し訳無いです⋯。でも、アタシの千里眼って結構当たるんだよね。こーいうガツガツで、自分の能力を過信してる者って、真っ先に死ぬ運命にある“フラグ立たせ系のチョイ役バイプレイヤー”。⋯⋯⋯⋯⋯アタシの読み、間違ってたら、今すぐアタシの真ん前に来なさい」


そこから、血戦者の声は聞こえなくなった。今まで、聞こえて来た声が幻だったのではないかと⋯と疑ってしまう程、静寂が貫かれていく。


「黙る⋯ってゆー選択肢を選んだって事は、アタシの発言は“合ってた”と解釈して大丈夫そう?⋯⋯なんだかそちらの方へ耳を傾けると、ブルブルブルブル震えるような煮え滾る声が聞こえるのだけれど」


「⋯⋯⋯はい、失礼を申し上げた事、心よりお詫び申し上げます」


「あなたは一番に礼儀正しい人ね。礼儀だけが取り柄のガリ勉根暗トンガリ黒縁メガネじゃないでしょ〜ね?アタシ偉い人のお膝元に着く女って嫌いなのよね。まるで自分の地位も上がったかのように話して来るでしょ?」


「ご安心下さい。先程不躾な態度を取っていた方とは同じ列位に着く人間です」

「あ、そうなのね」

何事も思わない。冷静沈着に物事を捉える、先程の男とは裏腹に丁寧な言葉遣いの当該女性は、主観と客観を交互に考え抜く軍師的な目線があるように思えた。声色は非常に尖っている。相手を本心では信用出来ない⋯と心の奥底で思うが、残念ながらそれはアタシ“薔薇の暴悪”に見透かされていますよ。

そうやって良い人間ぶって、アタシは、“自動的に”、残りの一名も二人と同列の権威ある人間である事を判断した。


「高みの見物ですか?⋯そう言っても、コチラからはお三人さんの姿、拝見出来て無いんですけどね。コッチに降りて来て四人で話しましょーよ」


「嬉しい!嬉しい!その提案、受け入れるンだけどさ!お願いがあるんだよね!」


「ん、なんですかー?」

ヘリオローザは周囲を見渡す。他の二人とはヤケに異なったテンション。非常にコチラの気分が不快になってしまう程のひょうきんな応対に、時を刻んでいくにつれ腹が立ってくるヘリオローザ。なんとかその感情を推し殺そうと、意識を周りに分散させながら、警戒を怠らない。

こういった初対面の人間相手に、ここまでの朗らかで、人懐っこく接し、男なんだろうが男女の隔てを感じさせない声域の広がり⋯。

一番、マンマークするに相応しいヤツは“コイツ”かもしれない。

──────

「協力してほしいんだよね!」

──────


ひょうきん担当のヤツ。言葉始めに同じ言葉を二回続けるクセがある男。そんなヤツから突然『協力』という言葉を聞いて、アタシは驚いた。ちょっとだけ頭部を後ろに揺らす程の驚き。

⋯と、言うことはそこまで驚いては無い。まぁまぁ⋯ってほどだ。


「協力?お三人さんとアタシが協力して何になるっていうの?こっから出してくれさえしてくれれば良いんだけど」

「お前はァ、我々の力が無くとも、こっからァ抜け出す事なんて容易いだろォ??」

「⋯⋯⋯⋯ほほう、薔薇の暴悪の実力。君達には熟知されているようだね」


アタシの“ポーズ”とも言うべき、洋館内を徘徊する時間。『まぁ一応誰かが居たらイイかなぁ』程度で動き回っていた事が、コイツらには見透かされていたみたいだ。


「はい。“薔薇の暴悪”を司教座都市スカナヴィアへ誘ったのは我々。今から薔薇の暴悪には、我々と協力して頂く必要が浮上しました。拒否権はありません」

「拒否権が無い???⋯何急に偉そうぶってんだよ」

「ぶってない!ぶってない!薔薇の暴悪に限らず、我々はずっとこの応対をしているんだよ!」

「君のその“嘘ほんだし”の香りがプンプンしてならないキャラ作りなのかなんなんか知らないけど、すっごい鼻につくんだよね」

「そうなの⋯⋯そうなの⋯⋯⋯」

「『そうなの⋯そうなの⋯』って、ウジウジしているように見せかけて、本心では自身のブランディングに憔悴し切ってる姿が、目に見えてわかるんだよなぁ」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


「三人とも黙っちゃったけど。⋯⋯いいの?アタシ、このまま洋館ぶっ壊してガウフォンに戻らせてもらうよ」


「薔薇の暴悪。お待ちを」

「まさかあんたが三人の中で一番マトモに話せる相手だとは思わなかったよ。他の二人に言っといてくれ、『人物修正に難アリ』ってな」


───────────

「間違ってたの!?間違ってたの!?」

「こいつァが、薔薇の暴悪でも無いヤツならァ、バラバラに砕き死なせてやってたぜ⋯」

───────────



「顔出しなさいよ。アタシに敬意が無いんじゃない?上から目線の感じがだいぶと腹立つわ」

「はい。申し訳ございません、薔薇の暴悪の要望にお答えする事は出来かねます」

「理由は」

「我々が姿見を明らかにする段階では無いからです」

「なにそれキッも。そんなにあんた達って偉いんだー」

もはやコイツらに構ってる時間がかったるくなってきた頃。一番マトモな受け答えが可能と判断出来たヤツからの真っ向拒否は、ヘリオローザとしても受け入れ難いものがあった。


「枢機卿船団、薔薇の暴悪は相対しましたか?」

「白装束のヤツら?⋯あーそいつらのせいでアタシら、戮世界に来たんだよ。もしかして知り合い??だったらアイツらに言っといてくんない?『黒髪の女の子、生きてるよー。てか、みんな生きてるよー』ってさ」


「あなたは、どうして自分達が戮世界に誘われたのか⋯分かっておられないんですか?」

「シェアワールド現象。アタシ呼んだからと言って、特異点にさせようとしてるのかもしれないけど、アタシはならないから」

「そこまで知っておられるとは⋯薔薇の暴悪、あなたはいったい、どこまで周知⋯」

「逆にさ、あんた達は何を知ってて、何を知らないのよ。アタシから共有出来る情報は無い」

「そんな理不尽な態度で物言いに回答するほど、我々は不完全な者ではありませんよ」

「なんかさっきまでの声から変わってきたね。もしかして、イラッとした?」


「していません。そのような感情は破壊されていますので」

「あんたら、、、何者?」


「薔薇の暴悪が原世界に転移して以降に、アインヘリヤルの朔式神族が戮世界テクフルに平和と安寧を齎し、秩序維持に伴い、創成された組織でございます」

「だから、アタシ知らないんだー。⋯⋯⋯⋯」


アタシが居ない間の戮世界テクフル。たとえアタシとはいっても、そこに居ない現場の状況は知る由もない。もしかしたら、アタシの知らない部分があるのかもしれないけど、今んとこアタシには他空間のイベントを把握出来る力は備わっていない事だけは分かってほしい。

てか、そんな能力があるならとっくに使って、戮世界から原世界へなんか、次元転移を起こしているはずが無い。


律歴4619年12月31日。

その時、アタシが寄生していたラキュエイヌ一族の名は“エリヴァマシュ”。彼女とアタシが紡がれ、そしてそれに華を添えるように飾られた“七唇律”の力。歴代のラキュエイヌ一族を継承し、多くの異能を堪能してきたアタシにとって、彼女・エリヴァマシュの存在は非常に偉大なものと言える。

結果的には、彼女を強く責め込ませてしまった要因でもある、アタシと七唇律聖教の戒律。


様々な問題が発生し、アタシは戮世界を去ることになった⋯⋯⋯。


─────

「あなたの母体・フラウドレスを救済したいとは思わないんですか?」

─────

「⋯⋯⋯なにそれ。まるでアタシがフラウドレスを救う事に立ち往生してるみたいな言い方」

相変わらず、姿を現さないで上から目線の物言いをしてくる事にイライラしてきたところだったが、当文言は食いつくトピックスとして良い題材となった。


「立ち往生していなければ、教皇から攻撃を防げたハズでは?」

「そんな早くから見てたの」

「そんなァ早くだァ??当たりめぇだろうが。薔薇の暴悪がァ思ってる以上に、こっちはオマエらに夢中なんだよ」

「そりゃあどうもね」

投げ捨てるように、ヘリオローザは言う。


「繋がりを、絶やさず⋯大いなる時代の変革にも抗い続け、他者への渇望に怯えながらも、必死に時間という海を漂ってきた、薔薇の暴悪。自己の現実を受け止め、数多ある異空間の中で、今回また戮世界テクフルを想像したのは何故なのですか?」

「アタシがここを自分で選択して降臨したと思ってるの??」

「違うのですか?」

「勘弁してくれ⋯ここにはもう、アタシが果たす事項は無い」

「んなもん、これからァどんどん出てくるさ」

「たとえば、アタシがアンタをぶっ殺すとかね」

「フン、笑わせるなァ⋯俺がどんだけの存在か、分かってねぇみてぇだ」

「分かりたくもないね。キッショい言葉遣いだし、人性的には“女”として識別される者に対しての文言は“聞くも耐えないわ”」

「そこまで言わないで!そこまで言わないで!」

「アンタもアンタだよ。たまに喋ると思ったら、おんなじ言葉の使い回しで、挙句の果てに誰もが吐けるフレーズの多用は耳が腐ってくる」


ヘリオローザは三人を罵倒。それは自分の現在を、どう慟哭しようか⋯の一部分に過ぎない行為だ。ヘリオローザ自身、現実に抵抗をする寸前であり、当該兆候が発生したのは、ヘリオローザの心に眠る“母体へ戻りたい”という意識の再出現。

現在の埋め合わせ。これでもかと、同じ歯車の焼き直しを目論んでいる自分自身が許せなくなって来た⋯。こうでもしなきゃ今までの輪廻から抜け出せない⋯。何か突飛な事をしなければ⋯と思い、実行へ移したのが、血戦者三名への罵倒。


これは、今までの薔薇の暴悪からは無かった人格シークエンス。新たに構築された人格を元に、肉付けをしていく事で、より強固かつ写実的な描写が生まれていく。そこには偽りも裏切りも無く、全てが平坦で再構築されたオンステージ。

薔薇の暴悪・ヘリオローザとしての威厳がここにて産出され始めた時、血戦者三名は彼女の想いなんて目もくれずに、“罵倒的フレーズ”への対応を思考する。


──────────

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯

──────────


そこに、答えは無かった。歴代ラキュエイヌ一族のデータは、戮世界から原世界へ次元転移した際に、謎の抹消現象が起きてしまいロスト。

サルベージ計画も施行され掛けていたが、ラキュエイヌ一族とヘリオローザに関する機密計画チームに加わった人間が、どのような末路を辿ったのか⋯。それについては大きな議論を呼び、『やはり、戮世界には薔薇の暴悪が棲み付いている』事が、世間一般的に拡散されてしまう。


アタシがこれまで、戮世界でどんな行動を取って、どんな人生の選択を選んで来たか、そして⋯選択して来なかった道はどんなものだったのか。

選択肢。アタシには、そんな余裕無かったんじゃないかな⋯って思う。追われる身でもあったし、悠々自適に暮らしている時間もあった。⋯。ただ、セカンドステージチルドレンとの時間というのは、アタシの記憶からは拭い切れない、鮮血な“刻み憶え”がある。

脳内にて残された、傷。それは絶対、癒えることの無い、痛くて、痛くて、痛くてたまらない。

治ったとしても、プックラと膨れて、それにちょこっとでも触れた瞬間に、血が滲むような流血が起き、少しの衝撃で破裂。またもやそれは、傷が出来た瞬間のシーンに巻き戻しとなり、『痛くて、痛くて、痛くて⋯』がカムバック。


コイツらと話していたら、どうしてか⋯過去の事を思い出さずにはいられなくなる。決別⋯それほどの事じゃないけど、アタシは⋯過去のラキュエイヌ一族を全面的に追憶したい訳じゃない。

フラウドレス。今のラキュエイヌの生き残りはフラウドレスのみだ。原世界に、フラウドレス以外のラキュエイヌが生存しているとは思えない。当然ここにも。

だからアタシは、フラウドレスの所へ戻らなければならない。


「⋯⋯⋯⋯⋯クソ⋯⋯⋯⋯⋯⋯ァあ⋯ァ⋯⋯ァ」

なんだ⋯⋯これ⋯⋯こんなヤツらと話しているから、気が狂ったのか⋯血相変えてまで、話し相手にする程のもんじゃ無いでしょ。


「薔薇の暴悪が、母体への救難信号を発信させましたか」


「⋯⋯⋯お前⋯⋯⋯」

「我々は、あなたの味方です。どうか、我々と協力し、双界を永劫の安寧へと抱擁しましょう」

「アタシ、、、戮世界で生きた⋯⋯データは全てブラックアウトさせたはず⋯」

「残念!残念!血戦者にとっては、あんなの造作もないコトだよぉん」

「なに⋯?」

「あなただけが、特別な存在では無いのですよ。薔薇の暴悪には薔薇の暴悪にしか出来ないことがある。だが、我々にだってそれは平等だ。この世界は不完全を一切に削ぎ落とした、最適化アルゴリズムの名のもとにあります」

「“最適化アルゴリズム”⋯⋯⋯」

「ええ。“パッチワークプロファイル”。薔薇の暴悪には、もっと上を目指していただく必要性があるように思います」

「アタシはアタシのままでいい。他人を介入させる程、落ちぶれてなんていないんだよ」

「ほぉ、じゃァ薔薇の暴悪には当洋館から抜け出す能力がある⋯という事か?」

「何を言ってる⋯アタシはヘリオローザだ。誰の能力にも拘束され⋯⋯⋯⋯⋯な、、、、、まずい⋯⋯」


「頑張り過ぎにも、限度ってもんがあるんじゃねぇかァ?なぁ?⋯⋯⋯薔薇の暴悪さん」

「⋯⋯⋯⋯クソ⋯⋯⋯ここは⋯」

「ユレイノルド大陸西方区域バーバートボードワーズ。ブラーフィ大陸南東区域ホースベースフィールドに所在している奴隷帝国都市ガウフォンからは、遥か遥か彼方に存在する集合都市になります。母体との繋がりには、距離も影響していること⋯我々がその情報を握っている事自体、『有り得ない⋯』と仰られるようなお顔ですね」

「てかさぁ!てかさぁ!その顔も作れないぐらいに、キマっちゃってる顔なんだけど!」


母体であるフラウドレスとの距離。ブラーフィ大陸とユレイノルド大陸では、両者間に生まれる距離は繋がりの絶縁を意味している。現在のヘリオローザは個体生命として完結した人体を模様しているが結局のところ、母体・フラウドレスから距離を離せば離すほど、“繋がり”に障害が発生する事が判明。過去のラキュエイヌ一族との繋がりに於いて、ここまでの規模で母体から離れた経験が無いので、ヘリオローザはリミットを把握し切れずにいた。その結果、こうして母体との距離に限界を超えるまでの数値を叩き出してしまい、神経動作に危険信号が発信されてしまう。


「我々の力があれば、薔薇の暴悪は今以上の異能を誇る事が出来る」

「それを受け入れるか、受け入れないかはァ、薔薇の暴悪自身の選択によって決まる」

「こんな状況で!こんな状況で!選択肢が二つ以上あること自体、おかしな話だと思ってはいるんだけどね!」


「⋯⋯⋯ァ⋯⋯あァ⋯⋯ンゥん⋯⋯ンァはァうん⋯」

意識が朦朧としてきたヘリオローザ。視界に雲行き怪しく、謎のチカチカが明滅しだして来た。それは自分の現在に対する呪縛の再開。どうしようにも抗い切れず、己の願望と直接的に向き合った結果、差異が生まれようにも中々踏み込めずにいる現実に嫌気が差していた、あの時。

過去のラキュエイヌ一族で、生まれたその感情⋯⋯。

あの日、あの時間、あの空間限りのものであったハズなのに、このタイミングでその全てが再生されてしまった⋯⋯。そうなっていくと、ヘリオローザ自身の身体に纏われる呪縛は、数多ある“心醒”に心を通わせる事になる。


「心醒⋯⋯⋯⋯。アタシの⋯⋯ラキュエイヌ一族の心醒⋯を⋯⋯⋯」

「これからも、これまでも、全ての超越者から羨望の眼差しとして対象の存在に指定された薔薇の暴悪は、こうなっていく運命なのです。そうして、あなたは次なる時代へと進んでいく。過去の流れでも、そうだったのでは?」


ヘリオローザからは既に、視覚が失われている。ほぼほぼ、視界は見えておらず暗黒の世界が辺りには広がっている状態だ。そんな中でもヘリオローザは、現実に抵抗を示す。攻撃手段を取ろうと、自分が発現出来る“司教兵器ニュートリノ・シリーズ”に神経を再接続させようと試みる。しかし⋯⋯⋯


「──────────」


出来ない。ニュートリノ・ヤタガラス、ニュートリノ・レイソが、今どこに居るのかが分からない。そんな理由、有り得ない。

『何処にいるのか分からない』

なんて、意味不明な疑問だ。ニュートリノ・ヤタガラス、ニュートリノ・レイソは自分自身の体内に住まうモノ。意識的にも、それは日常の中で、嫌でも思ってしまうもの。


『あ、居るな』⋯⋯と。


自分の身体の中にいるのが、当たり前なのだ。だって、、、、

だって、、、そうだもん⋯⋯⋯アタシから離れる⋯⋯宿主を離れるなんて⋯⋯そんな事⋯⋯出来ようはずが⋯⋯


「それがァ出来るんだよなァ」

「⋯⋯⋯なんだ⋯と⋯⋯⋯」

暗闇の中から、切り裂くように一つの文言が聞こえてくる。そして、音は“コトン⋯コトン⋯”と地面を震わすものへと変化。間違いなく、これは誰かが直接自分の元へと接近している事を意味していた。言葉じゃなく、完全に物と物が触れ合った瞬間の音曲を奏でていたので、それは直ぐに判った。


アタシの元に接近してくる人物なんて、このタイミングから考えて、“コイツら”しかいない事は事実。三人以外にも、誰かが当洋館に所在していたのなら⋯アタシの異能は視界障害が発生する前から既に機能損失を起こしている事になる。決してそうでは無い事が明らかなので、“スカナヴィア”の三名と断定して間違いないだろう。


見なきゃ⋯⋯見なきゃ⋯⋯見なきゃ⋯⋯⋯コイツらの顔、、、声だけのみで、一定の情報は掴めたものの、やはり肉眼での捕捉は今まで以上に情報を体内に落とし込む事が可能な絶好の機会と言える。しかし現在のアタシには、無理な事だ。視覚機能に障害が発生したかと思えば、力は時間を進ませるにつれて、損失していき、挙句の果てには直立する事すら困難な状況にまで陥ってしまった。


地面へ倒れ伏せ、必死になって這い蹲る。そんな姿は、血戦者である三名から見たら、非常に滑稽なものだった。


血戦者三名が、ヘリオローザの眼前まで攻め寄って来る。

ヘリオローザは音のみで三名の接近を見極めた。抵抗の意志はあれど、その手段を実行へ移すほどの力は余っておらず、次第にその力もゼロを下回っていく。


「協力しましょう。薔薇の暴悪に、我々の力を付与します」

『血戦者の中で、最も話の分かるヤツ』という位置づけであった彼女、“式セルジューク”。


「我々はあなたの力を存分に活かして、戮世界と原世界の戒律を均衡に保ちたいのです」

【各エピソード一万文字】を目標にしている『リルイン・オブ・レゾンデートル』。ですが、それはどうやら間違ったやり方みたいですね。

それでも私はやりますよ。だってあとから面倒ですもん。チェックして直したりの時があったりしますから。仕事がある(月)〜(金)でチマチマ千文字から二千文字を書いて、土日にバァーっと書く⋯。

そんなような日々が続いています。抗ってますね。

ビュー数が増えないのに。バカですよね。ほんと。

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