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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾四章 ギンヌンガガプの使徒/Chapter.14“Finale:MilkyHoneyFestival”
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[#115-プロセニアムアーチ]

[#115-プロセニアムアーチ]


───Side:フラウドレス・ラキュエイヌ。


まさかの出来事ね。ここまで叩き潰されると、私の箔が剥がれ落ちるも同然よ。

何が“ラキュエイヌ”なんだろうね⋯。


私、負けた。

ちゃんと負けちゃったから、今こうして、知らない海を漂っている。

そこには私しかいない。

⋯と、思っていたけど、

そもそもの話、私がここにいるのかどうかもまだ定かじゃない。

私の視点的には海の中を漂っているように見えているけど、

私の肉体が見えないし⋯

魂だけが、この海中を彷徨っているように思える。

これって、普通とは思えないし、何か、あの“クソガキ”以外の変な奴が絡んで来た⋯としか思えないんだよな⋯。

私達の戦いに、入り込んで来た奴って⋯そりゃあ考えてみたら、、、

考えてみたら、、、

あれ、、、考えてみたら⋯⋯⋯


そうじゃん⋯。

そうだったわ。

私、普通に考えた。

多分そうだよね。私いま、脳みそから色んなモノが抜け落ちてるんだ。


⋯⋯⋯⋯ヘリオローザ。


ヘリオローザがいない。今日と⋯昨日⋯⋯彼女の事を考えた事など、この二日間、一度たりとも無かった。

それなのに、失ったら失ったで、こんなにも喪失感に襲われるんだね。

てことは、知らない所で私、ヘリオローザにめっちゃ救われてたって事じゃん。


生きた心地のしない海の中をずっと漂っていると、次第に自分なんか世界のほんの僅かなピースに過ぎないことを思い知る。

きっとそれは私だけじゃない。

みんながみんなが、なにかのパーツに過ぎないんだ。

私の温もりをキメ細やかに、繊細に、巧みに、理解出来る人間なんて、いないと思う。

たとえ、サンファイア、アスタリスだって、私の全てを理解出来るとは思えない。


でも、考えてみれば、私は自分だけで一つの出来事をこなした事は無い⋯という事になるよね。

私がこれまでに達成してきた事には、全てヘリオローザが絡んでいる。

私の知らぬ間に、ヘリオローザは私を制御し、救済の一手を加えていた⋯。

それが私にとって、良い方向へ傾いていたのは事実だ。それが正解か、不正解か⋯そんな事を議論している余地なんて無い。

この世の問題の果ては、必ずしも道理に成る事とは限らないからだ。


「このままでイイかも⋯ずっとずっと⋯こんなことを考えらながら⋯時を刻んでいけたら、私への負担も無くなるしな⋯。私って、基本的には単細胞な生き物だから。複数の物事に思考を示そうとは出来ないもん。⋯⋯⋯ん?なんだ⋯あの光は⋯⋯でも、なんかどっかで見たことあるような⋯」


それは、原世界で見た⋯、、、、

“見た”と言っても、それに“襲われた”と表現するのが適切だろう。


「⋯⋯⋯⋯白鯨だ⋯⋯アイツ⋯どうして⋯」


「******11100000011000」

「お前、またそれか⋯お前のその言語、私には通じないんだよ⋯。もっと分かるように言ってくれないか」


通じるようで通じない言葉。

違和感があるようで、違和感を覚えない言葉。

私が本当は何処で生まれたのか、出生地が気になってしまう言葉。


私の魂だけが漂う海中に、ひとフレーズの言葉が掛けられた事で、少しばかり安心感は覚えて来た。

落とし込みたくないので、心の上辺で感謝の念は一応プカプカと浮かべて置くことにしよう。


⋯⋯⋯⋯⋯んでぇ、この状況、どうすればいいの?

取り敢えず、白鯨メルヴィルモービシュと同居している状況にある⋯というのは分かった。断定は出来ない。

だって、原世界⋯と言われている“私達の世界”にも、白鯨の“声”は聞こえて来たのだから。ここは一概に“白鯨の住処”として認識するのは早いのかもしれない⋯。


だがこんな亜空間的な構造を併せ持つ海を、いったいぜんたいどのような世界と区分したらいいのだろうか⋯。


普通じゃないぞ⋯こりゃあ、、、普通じゃない。


────---───────----───----──

「フラウドレス・ラキュエイヌ、マルチバースフィールドに侵入」

「どいつもこいつも、シナリオ統括の邪魔ばかりしやがる⋯」

「即座にフラウドレス・ラキュエイヌのシナリオ軌道修正を実行致します」


「いや待て」


二人が管理するシナリオサーバールームに一つの声が入る。それは機械的な音を放ちながらも、滑らかな声音を奏でていた。その存在は⋯⋯

「盈虚ユメクイさま⋯どうなさいましたか?」

「フラウドレス・ラキュエイヌがマルチバースフィールドに侵入因子として発見されたのは、偶然の虚像」

「⋯なんと⋯⋯それは、、、ほんとでしょうか⋯」


「書き紡いで来たシナリオに一筆のバグが何者かによって仕込まれた⋯と考えるのが自然な流れですね」


「盈虚ユメクイさま、誰がそんなことを⋯」

「盈虚ユメクイさまがそう仰っているのだ。虱潰しに探し出せ」

「御意に。元空間にて存在している筈のフラウドレス・ラキュエイヌはどのような処理方法で事を済ませますか?」


「大陸政府に絡ませるシナリオで構成する予定だったな。確か」


「はい、そのように盈虚ユメクイさまから原稿を頂いておりました故」

「盈虚ユメクイさま、このままシナリオを変更する方向でいるなら、なるべく早目に仰って頂いた方が宜しいかと思います」


「ほう、それはなぜだ?」


「ラヴ的な解答をここで主張させて頂ける機会を貰い、非常に光栄でございます。フラウドレス・ラキュエイヌは当該パートの主人公的立ち位置に付いている存在です。このままマルチバースフィールドに残すのは原軸テリングに大きな支障をきたす可能性が極めて高いです」


「そんな事は分かっている」


二人の前にいない盈虚ユメクイが、二人の脳内に揺さぶりを掛けるかのような鈍い音曲を奏でる。それは痛みを伴う振動を身体内に与えていき、この世の事象とは思えない異質な攻撃が繰り出されていく。そんな摩訶不思議攻撃を受けた二人のドリームウォーカーは、盈虚ユメクイに許しを乞う。


「慈悲⋯を!!!」

「誠に申し訳ございません!!!」


「─────────────────────」


二人のドリームウォーカーから轟く慈悲に、一切の目を配らせない盈虚ユメクイ。しかし、二人の眼前や空間範囲内に盈虚ユメクイがいる訳では無いので、傍から見ると、大空に酷く語り掛けているだけの異様な空間のようにしか見えない。二人は頭部を両手で抱えだし、穴という穴から血液と唾液⋯更には水分までもが流出を果たしていく。その多くは水分と溶け合っていき、“凍結”を果たしていった。ドリームウォーカー及び、幻夢人の身体を構成する特殊物質細胞が、幻夢郷の外気と触れたことで血液&唾液は衰弱を見せ始める。幻夢人の素体を構成している細胞粒子は元空間の人間と比較しても、明らかな違いが確認出来る。

そのデータを解き明かすには、未だ謎に包まれたプロファイルコードを解読する必要性がある。

その“プロファイルコード”というのは、幻夢人及びドリームウォーカー、そして戮世界その他の世界にも存在しない“ニルエナ記号”で記載された“ニルエナ語”と呼ばれるもの。


ニルエナ語を言語として持つ生命体。現出している段階では白鯨メルヴィルモービシュのみとなっているが、今後もニルエナ語を言語とする存在は現れるという。



⋯⋯⋯多くの“語り”をし過ぎてしまい、申し訳無い。他の語り部がどのような語り口調で書き紡いでいるのか、そこまで定かにしてはいない。だから、ラヴはラヴ自身の想いで語り掛けをしていこうと思います。


フラウドレスは当然。幻夢郷にて閉塞的な残虐が実行されていた事は知る由もない。


二人のドリームウォーカーが殺害された後、フラウドレスは当該空間から姿を消した。


フラウドレスは“海”⋯と呼称していた。

ドリームウォーカーによる語り部が、施した“仕掛け”のように見えて、あれは舞台役者に芽生えた本来の“息吹”が覚醒したようにしか見えないのだ。⋯⋯⋯だいぶ行き過ぎたシナリオに憤りを隠せない事が事実。

これまで通りの流れを継承していくのならば、ここでフラウドレス・ラキュエイヌを元空間に戻し、次なるパートに駒を進めていくつもり。


⋯⋯⋯それで行くか。

大して、創りも真新しくない展開になってしまう事で、多くの者が離れてしまいそうになってしまう事ぐらい目に見えている。


⋯⋯⋯⋯いや、もう既に、ユーザーはラヴの語り部によって離れている事だろう。


だって、先程からラヴの語り掛けの方がシナリオ進行よりも長い事にお気付きではないだろうか。

⋯⋯そうであろう。そして、誰かからの忠告があったかのように、謎の空白を空け続け、更には幻夢人特有の一人称を文章の始めなどに付け加える始末。ドリームウォーカー、ここにあり⋯とでも言わざるを得ない程の始末をラヴは実行しているのだが、こうなってしまったからにはそれなりの理由がある。

自分にだって、意味が分からないのだ。

こうして、“違うパート”のシナリオ進行を急に一任させられて、こっちだって溜まったもんじゃないぞ。

当該パートの名前は⋯『Part of Froudless』。


冠している通りなら、通常、こんな異空間にフラウドレス・ラキュエイヌが居ていい理由などない。元空間へ彼女を戻すのはまったくもって難易度の高いとは言えないので、今からでもドリームウォーカーとしての責務を全うしたい⋯そう思っている。

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯そうだ。

こうして、ラヴがフラウドレス篇書き紡いで居るのも、何事への問題発生に通ずる時間稼ぎのよう⋯。ラヴがどうにも、恐ろしい時間を埋め合わせする存在になった事を光栄には思えないので、盈虚ユメクイさまには後程、詰問でそれなりの応対はして頂こう。



「フラウドレス・ラキュエイヌ、元空間へのリターン完了作業しました」

「よし、ではこれよりフラウドレス篇の...」


「大陸政府は現在、生残者はどれほどいる?」


「盈虚ユメクイさま⋯」

二人には声が聞こえるのみ。姿かたちは見えずとも、ドリームウォーカーである二人には聴覚へ刺激を齎している。


「大陸政府はフラウドレスを初めとするアトリビュートとセブンスの猛攻によって死亡者が多数出ている状況。生残者は残り僅かとなっています」

「スカナヴィアが送還した七唇律聖教の特別班が大陸政府との融合を遂げている事象も確認されていますが、こちらは⋯」


「問題無い。フラウドレス・ラキュエイヌ、ミュラエ・セラヌーンが元空間から逸脱したパターン以外、シナリオ通りのストーリーテリングを歩んでいる」


「フラウドレス・ラキュエイヌ。元空間への転移完了しました。よってシナリオの進行が再開されます」

「今まで、フラウドレス・ラキュエイヌが多次元空間に存在していた事により、シナリオ進行に問題が発生していました。盈虚ユメクイさま、当該事案をどのように処理するおつもりですか?」


「このままで良い」


「⋯⋯⋯このまま、ですか?」


「このままで良い。今はフラウドレス・ラキュエイヌが全ての歯車として右往左往している状態。現段階では、彼女の中核的な部分がどこまで他の舞台役者に伝播していくのか明瞭にしていない。多くの人員をフラウドレス・ラキュエイヌの周辺に残置させる事は、これからの“全体シナリオ”に箔をつける切っ掛けに繋がるしな。⋯⋯始めて」

────---───────----───----──


フラウドレス、元空間へ送還。


彼女は元空間にて、“器”を残置させたまま魂のみを多次元空間にて漂わせていた。魂というの名の肉片が多次元の海に誘われた原因は、シナリオ統括に問題が生じてしまった為。

『Part of Froudless』の中心人部的な立ち位置であるフラウドレスを多次元空間に一時的な保存をしておく事で、シナリオ進行に“抵抗”を齎す働き掛けを実行してくれる。

フラウドレスとの関わりが無い、他の舞台役者はシナリオ進行が停止。人間として備わる全器官を強制的に停止させ、ドリームウォーカーが制作中のシナリオ以外にも、可能性として考えられる“アルゴリズムの不可逆的なバグ”。


要するに、舞台役者達による身勝手な行動。

“舞台役者”と銘打っているので、“アドリブ”と表現すれば妥当なとこだろうか。

我々の予測していた通りに上手く物事が進まないアクシデントは、当シナリオを書き紡いでいれば、いたって珍しい現象では無い。『Part of Froudless』以外にも、進行中のパートがあり、間もなく公開される予定でドリームウォーカーが制作シークエンスの最終段階に突入している。


フラウドレスが元空間に帰還した事で、停止していたシナリオが再開。再び動き出す舞台役者達には、ドリームウォーカーの人員を増加させ、それぞれにピンポイントマーキングを実施。ミュラエ・セラヌーンの幻夢郷出現事件を危惧しているドリームウォーカーは、これ以上のシナリオ逸脱をしてはならない。

これは、盈虚ユメクイさまからも強く注意されているし、盈虚ユメクイさま以前にも、ドリームウォーカー内々で特異点兆候シンギュラリティポイントの発生も、危険視する者が多数存在。

“多数”と言っている時点でドリームウォーカーの練度不足が否めないが、そこは追求しないで頂きたい。


近日、ドリームウォーカーの能力試験が開始される予定だ。

──────────

「⋯⋯⋯⋯アタシ、いま、フラウドレスを感じた⋯」


「何処に居るか分からない⋯けど、感じた」


「ほんんっと、、情けない⋯⋯」


「母体ラキュエイヌを守護する前に、アタシの方が囚われちゃったよ⋯⋯⋯」


黒と白。物量の高いエネルギー群体がこれでもかと、ヘリオローザの周囲を覆っている。これがヘリオローザの現在を重警備するシステムだ。

ヘリオローザを取り囲む黒白のエネルギー群体は、言うまでもなくウプサラソルシエールを形成出来るに値する高濃度な鴉素エネルギー、蛾素エネルギーの素体螺旋。畝りと屈折を伴い、徐々に形を変化させていき、それすらも禍々しく虚飾としてのコーディネートを完結する様。

大きな変化と小さな変化。

その二つは結果として、薔薇の暴悪・ヘリオローザという戮世界と原世界の“双界”を知る無二の存在を鳥籠として扱うに相応しいものだ。


だが、そんな重々しいシステム説明なんてお構いなしに、薔薇の暴悪・ヘリオローザは自身の能力をフル回転。体内に備わる細胞という細胞の中から、凝縮された鴉素エネルギーと蛾素エネルギーが暴走。

鳥籠としてシステム維持を任されていた鴉素エネルギーと蛾素エネルギーは、防衛機能を最大化。異常事態を検知した双方のエネルギーは、単独行動を開始。黒色粒子と白色粒子、各々が現段階で繰り出せる最大の種生命体を発現していく。

“ウプサラソルシエールの幼生体”。


黒色粒子と白色粒子は、ニュートリノ・シリーズの域に達しはしないが、そこまで脆弱な力とも言えない、中途半端な能力を有した種生命を薔薇の暴悪・ヘリオローザに見せつける。黒色粒子と白色粒子、各々は螺旋を形成していた際に、その中心部でウプサラソルシエール幼生体を発現。


「それ、、、どっかで見た事あるよーー。うんうん、どっかで⋯どこかの記憶⋯誰かの記憶⋯忘却無きアタシの“薔薇の暴悪”としての記録を、飛び越えて唯一抜け落ちたアーカイブ⋯“ロストアーカイブ”が存在するんだけど、どうやらそれに該当しているようね⋯⋯⋯」


過去のラキュエイヌ一族を殆ど網羅しているヘリオローザにとって、ロストアーカイブ現象が発生するのは痛手とも言えるものだ。ヘリオローザの武器である“ラキュエイヌ一族の記憶”は、これ以上に無い財産。

現在のヘリオローザを構成する異能物質の全ては、過去ラキュエイヌ一族から抜けとった特殊能力であるからだ。ヘリオローザ自身、その異能アビリティを底上げしたに過ぎない。

ゼロイチの産物者はラキュエイヌ一族。ヘリオローザは、それに対してプラスベクトルに機能する高次元ウイルスを流し込んでいるだけ。その多くも、ゆくゆくはニュートリノ・シリーズを発現出来る程にまで成長したり、目まぐるしい変化を与え続けているのは事実。

天根集合知ノウア・ブルームを筆頭に、ラキュエイヌ一族全ての異能アビリティを継承しているのは、ヘリオローザのおかげであるから、現ラキュエイヌ生存者のフラウドレスは、感謝しなければならない⋯と、他者から見れば判断出来るかもしれないだろう。


「アタシを負かそうとなんて、千年早いよ」


その台詞に負けず劣らず、ヘリオローザは“薔薇の暴悪”としての攻撃センスを解放。自身への鳥籠システムが機能しているウプサラソルシエール幼生体を全排除。これによって、鳥籠システムは無力化され、薔薇の暴悪・ヘリオローザは完全に自由の身となった。



黒色粒子と白色粒子が消失した場所。そこは何処かの建物内。視覚を下に落とせば石畳の床が広がっており、壁を見れば、城壁のようなレンガと石と泥を構造材に作成されているのが判明。


「ここは⋯⋯⋯何処だ⋯⋯」


先程までいた場所とは明らかに異なった空間。そこまで視点的にも不快にならない薄暗さなのが、これまた少し自分を不安にさせる材料となっている。


少しずつ、一歩一歩、足を緩め、耳を研ぎ澄ませ、自分以外の生命の兆候を探し出す⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんて、そんな怖気付きながら行動するほど、薔薇の暴悪の異名は廃ってしない。


「なんなのここ」


まるで、ベテランロケリポーターかのような、軽やかな歩幅。それだけではなく、全くの見知らぬ建物内を移動しているにも関わらず、堂々と自分の声を轟かせる始末。“薔薇の暴悪”として戮世界と原世界を生き続けてきた、生命の経験値が満ち満ちた結果とも言える所業だ。


「へぇー、変な写真。変な絵。変な階段、変な螺旋階段。変なロウソク立て。変な会議場。変なホール。変な天蓋の絵。変なエレベーター。変なエスカレーター⋯⋯つまんな。めっちゃここ、つまんなーーーーーーー!!!!!」


建物内、人間、ゼロ。

何処にも居ない。

だからこうして、ヘリオローザは建物内をあちこちに行き交い、オブジェクトの確認を実行。指差し確認を行い、オブジェクトの名称を吐き散らしていく。その姿は狂気としか言えない。


『変なエスカレーター』『変なエレベーター』『変なホール』『変なロウソク立て』『変な絵』『変な写真』


額縁にて壁面へ飾られている絵と写真は、基本的には人間達が集合したもの。人間が、ワッキャワッキャと騒いでいる非常に喧騒的なシーンを切り取ったものや、厳かな雰囲気のままシャッターを押されたものまで、レパートリーの幅が広いのは確か。中には、建物の前に人々が立ち並び、前列に並ぶ人間がとある掲示板を抑えている。それには日付が記入されており、【竣工】の文字も記載されていた。


「『律歴4836年12月12日』、まあまあ前だな⋯。こんなとこ、アタシ知らない。まぁそれも無理ないか。アタシが戮世界から原世界へ転移したの、律歴4619年だもんね。ここを知らないのも当然か。えっとぉ⋯⋯うーん⋯読めないな⋯読めそうだけど、虫食いになってるみたいね⋯。なんか、まるでアタシがこの写真を読み解こうとしているの事を予知していたかのよう⋯⋯まぁ、考え過ぎかな」

──────────



───Side:ミュラエ・セラヌーン。


イリリアス、パレシリア。

二人の存在は、どう解釈したらいいんだろう⋯。私があの場所で体験した全ては、現実なのか、虚構なのか⋯それすらも曖昧な境界として認識してしまっている自分に苦悩。


そんな考えの中、私を包み込む、謎のエネルギー物質量。


何事か⋯と思い、私は天根集合知ノウア・ブルーム、幻影空間真空の抽象を発生させ、黒影の鎧を装備。身体を弱体化させる副作用が、エネルギー物質量から確認されたので、天根集合知ノウア・ブルームは自動的に黒影の鎧に厚めなコーティングを施す。それが何処までミュラエの能力を高められか、そして、肝心なのが“防衛”出来るかは謎。

その訳は、ミュラエ自身、副作用がエネルギー物質量から機能している事など、把握出来ていないからだ。天根集合知ノウア・ブルームのみが、副作用の悪性ウイルスを認識している理由は、アインヘリヤルの朔式神族からの──────で、あろう。



─────---────---────----──

「ミュラエ・セラヌーン、軌道修正ポイントに配置完了」

「素体データの上書きをせず、多次元空間での記憶は全て削除しろ。元空間と多次元空間の間で発生した“架橋”問題は?」

「今のところ、サンファイア・ベルロータ、アスタリス・アッシュナイト方面のみに確認されています」

「多次元架橋戦闘警備艇の出現がシグナル!」

「なに?」

「ミュラエ・セラヌーンの素体データに急速接近中」

「次元裂溝の管理者がどうして舞台役者の脳内に侵入を試みる⋯?排除しろ」

「⋯ダメです!フェール・デ・レーヴ・トパーズからの信号を拒否しています。受信されません」

「シナリオからの逸脱許されん⋯ましてや、それは“知っている上で”このような迷惑を掛けてくるとは⋯我々としても、君達の動向は考えねばならないな⋯ラビウムの諸君⋯」


ミュラエに対し防御膜を張り、ドリームウォーカーからの軌道修正及び、これからの動きを書き換える異なったシナリオの埋め込みをインターセプト。これを行ったのはオービタルアサルト・ラビウムであった。

ドリームウォーカー、オービタルアサルト・ラビウム。


シナリオに変革を与えたいドリームウォーカーに対し、オービタルアサルト・ラビウムは現時点でのシナリオ進行を願っている。ミュラエを取り巻く事象は、当人には把握し切れていない。


「ミュラエ・セラヌーンにラビウムの羽衣が装着されました」

「⋯次元裂溝を住処にする君達が何故、我々のテリトリーを侵すのかね⋯これは紛うことなき、契約違反だ」

「*****111000」

「ニルエナ記号を用いずとも、我々ドリームウォーカーと会話する事は可能というのに、何故わざわざそんな真似をする⋯⋯もうよい。ミュラエ・セラヌーンに一極集中の軌道修正攻撃だ」


元空間と幻夢郷。その間の空間として、機能しているのはオービタルアサルト・ラビウムが棲む“架橋”と呼ばれる世界。

ミュラエ・セラヌーンが一時的なアルゴリズム要素に不可解な信号を送受信するバグである事を認めたドリームウォーカーは、彼女に対する軌道修正攻撃を仕掛ける。ドリームウォーカーが手掛けていくシナリオに於いて、ミュラエの存在が“邪魔”となってしまった事が遠回しに明らかとなった事象だ。


しかし、ドリームウォーカーから軋轢を掛けられる架橋空間でオービタルアサルト・ラビウムはミュラエに“羽衣”を着装させ、一切の攻撃を受けさせんとする。


「⋯⋯⋯なに、、、え、、何この感触⋯⋯」

オービタルアサルト・ラビウムからの状態付加で、ミュラエは意識を取り戻す。意識が戻った⋯と言っても、現在ミュラエが居る空間というのは、戮世界でも無ければ、先程まで居た幻夢郷でも無い。


─────---────---────----──


───────

「気づいたか?」

───────

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