[#114-元空間軌道修正]
[#114-元空間軌道修正]
───Side:ミュラエ・セラヌーン。
「この女の人、知らない!」
「えぇ⋯?あら、ほんとだね〜、ちょっと!この方をお連れしなさい」
「ラヴやらない!」「ラヴがやる!」
「じゃあお願いね」
「はーい」
「なんだよ、ポイント上げようって魂胆か?」
「あら違いますけど、ラヴはこの女が何故ここに降着したのかが知りたくなっただけです」
「へぇ〜、あっそ。好きにしたらいいんじゃなーい?」
とある次元。
とある時間、とある世界。
何もかもが不明。
アンノーンな現状に対して、思考することも出来ないままミュラエは意識を失っている。禍天の魔女・マズルエレジーカ零号に敗北してしまった⋯。その記憶は、彼女の記憶領域を垣間見る事が出来れば、容易に分かる事だろう。そんな行為に及ばずとも、“見れば分かる”といったものではあると思うが⋯。
ミュラエ・セラヌーンは、黒渦の中に吸引されてしまい、不可解空間にその身を預けてしまったようだ。ここがどういった所で、何をする場所で、何が出来る場所で、戮世界とどのような関係性なのか⋯。ミュラエが目覚めた後からは様々な問題点を解消しなければならない時間に突入する為、ここではショートカットの名目も込めて、先行して大部分の情報を伝えていくことにしようと思う。
新たな世界を構築する上で、必要不可欠な存在は人々だ。人間の行動原理、言語⋯この二つを特定する事が出来れば、大体の予測が出来る。
今、私は⋯現実を生きているのか、虚構を生きているのか。
理解不能な世界、言動が目立つのなら、そこは知らぬ空間として認識する事が出来る。しかしそれを直ぐに判断していいのだろうか。ミュラエ・セラヌーンには、そこまでの余裕が今は無い。何せ、まだミュラエは現実と相対する事が出来ないぐらいに、金縛りのような状況に陥っているからだ。そんな身動き取れぬ状態のカカシまがいなミュラエを保護しようと試みる謎の二人の子供。
男の子と女の子。女の子の方が、男の子を指導するような対応を見せている事から、二人の関係性が特定の最終行程まで行き着きそうだ。手っ取り早く予測を立てるならば、『姉と弟』⋯といった所だろう。
人間の動きは何となくではあるが、複数の予測が立てることが出来た。その中で、未だ多くの謎を抱えているのが⋯“世界”だ。場所がまだ、どうしても特定の域に達する事が出来ない。家があるのは判る。家がポツン⋯と設置されており、その周りには⋯⋯⋯緑、小規模な池、家を囲う堀。
この世界の構造について、ミュラエ・セラヌーンは一切視認出来ていない。こうして“説明”が出来ている以上、ミュラエ・セラヌーンに知っていてほしい⋯分かってもらいたい⋯と“こちら”としては、思うところではあるのだが⋯残念な事に、未だ彼女は目覚める様子が一切感じられない。禍天の魔女・マズルエレジーカ零号ってそこまで強大なヴィランとして、設定した憶えは無いはずなんだけど⋯。
⋯⋯⋯⋯⋯申し訳ない。てっきり、干渉に値するような文言を口走ってしまった。
世界の構築があまりにも、テキトーで大雑把。なんでもないエリアとまでは言えない⋯が、ただの一軒家⋯とも表現出来ない、非常に中途半端な雰囲気を醸し出している。そんな家から、再び二人の女の子と男の子が姿を現す。随分と気持ち良さそうに、背伸びをする女の子。その女の子を見て、男の子も背伸びをする。年齢は⋯七歳ぐらい。小学一年生になったのかな⋯今年。
「ねぇ!」
男の子が、女の子を呼ぶ。
「何よ」
「この女どうすんのさ」
「ドリームウォーカーに引き渡す」
「ちょっと!ラヴ達が動かしてみようよ!」
「はぁ?あなた何言ってんのよ。そんなの許される訳ないじゃない」
「えーでもさぁ、ラヴ達にも、それをする権利はあると思うんだよね」
「無い」
「ある!」
「無いの」
「ある!!」
男の子と女の子の言い問答は軽く、八巡はあった。
「どうしてよ。どうしてドリームウォーカーにそんなすぐに渡そうとするわけよ」
「あなた⋯⋯⋯本当にバカなんじゃないの?ドリームウォーカー以外の幻夢人が、元空間の人間に干渉する事すら、禁止されてる行為なの」
「でも、今こうして真ん前に、ラヴ達は立ってるよ」
ミュラエ・セラヌーンの前に立つ二人。これを『干渉していない』と表現するのはあまりにも酷なものだ⋯と主張する男の子。
「これは別」
「なんだよー!それ!そんなんズリィッ子してんじゃんか!」
「ズリィッ子なんてしてません。だいたいなんだよ『ズリィッ子』って」
「ひょっとしてさ⋯自分だけで楽しもうって魂胆じゃねぇだろうな??」
「違いますぅ。ラヴはあんたと違ってマジメなんですー」
「あーあ、、それはホントなんかなぁーあ」
「じゃあ、ドリームウォーカーんとこ、持ってくわよ」
「いやいや!それちょっと早過ぎ!!」
「だーめ。なるべく早めに対処してもらわないと。だいたい、ラヴ達が処理出来るような事態じゃないのよ?、幻夢郷に、“舞台役者”が降りて来たのよ?」
「だァかぁらァ!!それが気になっとるから、言うてんでしょーが、『もっといじくり倒そうよお』って」
「あんた、、、んなこと一言も言って無かったでしょ、、、」
呆れる女の子。それでも男の子は、何とか説得して女の子からミュラエ・セラヌーンの制御権限を得ようとする。
「痛ってぇなぁ⋯なにこんなとこで力使ってんだよ!」
「あなたがそこまでこの元空間の人間に固執する理由は何?」
女の子の力。幻夢郷に住まう人間のみが、その異能を行使することが出来る。それは、相手の意識を瞬間的に奪取し、いとも容易く神経を封殺する。天根集合知とは根幹的な部分で、性質が異なっているものだ。
幻夢郷の人間“幻夢人”が幻夢人に対して使用するというケースは、特段珍しいものでは無い。だがその全ては、戦いであったり、権力構想だったり⋯人と人が啀み合う事での利用では無いのだ。
アピール。
相手より、自分の方が強い⋯強者である事をアピールする際に、幻夢郷の人間は各々の異能を発揮する。たとえそれがどんなアビリティであるかは、各々の遺伝的現象と才覚的なもので個体差は生じてくる。ざっくりと言及するならば、盈虚ユメクイさまを筆頭に、現空間を制御コントロール、シナリオの制作統括を実行しているドリームウォーカーの面々は、恵まれた才能を持っていると言えます。
こうして、二人の物語を書き紡いでいる“ラヴ”だって、ドリームウォーカーの一員です。ラヴは、多くの同胞たちに囲まれて、育って来ました。その中で、出会いと別れを繰り返し、選び抜かれ、散っていき、また新たなる才能が溢れ、その才能が枯渇したところで散っていく⋯。
幻夢郷で生命を宿した身として、ドリームウォーカーになる事は、“勝ち組”も同然なのです。
ラヴが先程から二人の物語を書き紡いでいますが⋯どうでしょうか、現今のラヴを眼球で、上から下に⋯右から左へ⋯ユーザーの皆様によりけりの手段で、ストーリーラインを追っているかと思います。
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二人の物語⋯まだここから気になるでしょうか
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ええ。なかなかにグサッと刺しに来る言葉を吐いたかと思います。きっと当人達が聞いたら驚く事間違いなし。これは時間の問題でしょう。幻夢郷に住まう人間が、ドリームウォーカーの書き紡いだ書記物に興味を示さないわけがありませんから。
ましてや、幻夢郷の中でもスラム街に住む人間でしょう?どうしますか⋯ここでラヴの勝手な判断で、二人を消す事も可能なんですよ。ラヴに掛かればそんなことおちゃのこさいさい。
⋯⋯⋯今のこの『おちゃのこさいさい』という文言。
ラヴは、『おちゃのこさいさい』と書き紡ぐつもりはありませんでした。シナリオ制作統括をするコントロールセンターに問い合せた所、“おちゃ”と書くと予測変換に『おちゃのこさいさい』が出てしまうみたいです。
⋯⋯⋯はて、これにはラヴ、『くりみつてんぎょのいたおどろ』ですね。
⋯もう、辞めますね。違う人に変わります。
◈
「⋯⋯⋯なに」
「え、、、、」「⋯言わんこっちゃない」
「なにここ⋯⋯⋯」
一瞬、記憶のフラッシュバックが行われた。どうやら私は、禍天の魔女によってどこか遠くの場所へ吹き飛ばされたようだ。
だが、“吹き飛ばされた”との解釈は本当に適切なものであろうか⋯。ミュラエは自身に置かれた状況に思い悩む。何せ、自分の目の前には、二人の小さい男の子と女の子が居るから。しかもその二人は、私をジロー⋯と凝視している。止める気配は今のところ無い。私が目覚めてから、外気を身体に取り込んでから、既に十四秒は経過。にも関わらず、二人の視線はずっーーーっとこちらにて送られている⋯。
普通に、結構怖い。
それに、この場所⋯。
ここは⋯いったいどこだ⋯。
空を見上げると、そこに広がるのは真紫と赤と青が、入り混じった混色的な大空。戮世界テクフルには、まだ知らない所がある事を、ミュラエは噛み締めた⋯⋯⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯⋯ッテェェ!んなグリム童話みたいな納得で〆れるワケ無いでしょ!!
なんだよここ。知らないよ⋯知らない知らない⋯。
ここが戮世界テクフルだなんて、思えるはずが無い。仮に戮世界テクフルだとしたら、こんな異空間もっと有名になってるよ。原色彗星とか、他だと⋯そうだな⋯宙に浮いてる大陸が見えたりする場合があるんだけど、それだよ。それ級にポピュラーなエキゾチックエリアとして噂が広がってるに違いない。
⋯⋯え、私が世間の反応を知らないだけ⋯??
いやいや、そんな訳ない。
⋯⋯⋯んうん。そんなのは無いね。
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「ねぇあんた」
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「⋯⋯⋯なに⋯」
女の子から、話し掛けられる。表現の仕方に異質性が孕んでほしいものだ。このまま何も言葉の肉付けを行わずに、ベースの味を保持させた状態が伝わってしまうと、非常に良くない表現として受け取られてしまう。
“敵対視”
そう捉えるのが必然。だが、彼女の表情はそこまで怪訝な顔を作ってはいなかった。しかも、私の着衣している服を“サワァン”⋯と引っ張っているのだ。白鯨の衣を着装していたので、少々格好のいい白ドレス調のカジュアルな戦闘服に包まれている現在の私。見る人によって、その様相に対する価値観は変わってくるだろう。
白鯨の力を人間に注ぎ込む事が可能な事を知っている、七唇律聖教の人間、テクフル諸侯などを始めとする異能者なら、私の現在に剣戟軍一個師団を投入するだろう。しかし、この二人はそのような攻撃意思を見せるような反応は無い。これからあるのかもしれないが⋯。
未だ“警戒”で済んでいる二人とは、物理的な距離が生まれている。
「ここに、どうやって来たか⋯憶えはある?」
「いいえ。無いわ⋯あなた達は⋯」
「ラヴ達が誰なのか⋯それを伝えるつもりは無い」
ラヴ⋯。一人称⋯として受け止めておこう。女の子しか、今のとこ喋っていないが、男の子は私が目覚めてから一貫して、自動小銃らしき武器を向けているな。
「ねえ、あなたのお仲間さん、私にずっと銃口向けてるんだけど、何か意味があるのよね」
「そこから一歩も動くなよ⋯」
「ようやく喋ってくれた。ねぇ⋯」
ミュラエは一歩近づく。男の子の指示を無視した形だ。銃口だけで“自動小銃”と判断したのは、ミュラエの先走った考えによるもの。実物を見ずに判断したのは、前もって相手が兵装している武器を読み取る事で、自己防衛エネルギーを拡充させる為。
現実を見てからじゃ遅い。何もかも。
だから私は今、見知らぬ大地に足を着いている。誤った選択という虚構の海の中で、這いつくばりながら必死になって自生命を存続させるために、もがく。足掻く。食らいつく。
「動かないで⋯。そう、ラヴは言ったはずだよ」
「言うことを聞いて。痛い目にあわせたりはしない」
男の子からの視線は鋭い。今にも引き金を容赦無く引きそうなぐらいだ。それに比べて女の子の方は、冷静さを保っているのが窺える。話せば理解してくれそう⋯と、思っては見たものの所詮は子供。子供に銃口を向けられ、Hands Upを促されるシチュエーションとなってしまった以上、普通な会話が出来る状態とはあまり思えない。
単に家族、若しくは彼等が通っている教育機関から、部外者への対応を教わっている可能性も考えられる。戮世界テクフルだったら、各大陸の学校によって教育方針も異なるし、仮説としては十分有り得るものだ。
⋯なのだが、戮世界テクフルとは思えない、なんとも異質な大空。“青空”と呼べないのは、先述した通りの異様さが未だに継続されているから。
「分かった。分かったよ⋯」
こんな子供二人に手を上げるなんて⋯私が、アトリビュートである事は、理解していないのか?いや、そう思われてるから、警戒しているのか⋯⋯。でも、後者ならこんな銃口を向けるような対応を果たすのかな。
アトリビュートよ?そんな大層な域に達してない部類に属する兵器で私を負かせられるとでも思っているの?
だがまぁ、ここは一旦キッズの言う事を聞いてみる事にするか。懐に上手いように入る事が出来れば、何か情報を零すかもしれないしな。
「“パシリ”、ラヴはこいつを良いように組み込める」
「ラヴ達に許可されてない行為は禁止。あと、その呼び名やめて」
「あのさぁ⋯」
ミュラエが言い合いに発展しかけている二人に接触を試みる。しかしそれを遮るように“パシリ”と称されていた女の子が、やってくる。
「あなた、どうやってここに来たの?」
「⋯⋯⋯ここ、、分からない」
「こんなの、前代未聞なんじゃないの??」
「そうね、有り得ないわ⋯」
「ん??なに⋯?前代未聞って⋯⋯⋯」
「いいや、あなたには関係のない事だから、気にしなくて大丈夫」
“パシリ”と呼ばれていた女の子が、私を遠ざけるような言い草でそう言った。何とも、これ以上の距離を縮小させるのは不可能なようだ⋯と思われていたが、そこに男の子の影が伸びる。
「ラヴ、“イリリアス”、よろしく」
「あ、、うん、よろしく⋯⋯イリリアスくん、その銃を下げてほしいんだけど」
「あー、“パシリ”いい?」
「⋯⋯⋯⋯ええ、いいわ」
良い回答は得られないかと思っていた。ここで言う“良い回答”というのは、安易拘束からの解放。この二人の術中から抜け出すのは容易なもの。だけど、騒ぎを起こしてより警戒心を強くさせたくない。その為には、二人からの了承を確実に受けた上で、自由の身となった方が絶対にプラス。
そもそもこんな七歳程度の幼い子供が、自動小銃に酷似した武器を平気な顔して所持し、その照準を外敵として者へ定めているのは、ちょっと普通では無い。剣戟軍の士官学校という例も考えられたが、年齢規定は当然ある。七歳周辺の年齢なんて、まだ応募要項を満たしていないはずだ。
この子達は⋯⋯いったい⋯⋯
「お姉チャン」
「お、おネエちゃん??!」
「グヒィ」
なんだその笑みは。“ンヒィ”とかなら分かるけど、“グヒィ”て⋯。嫌な笑い方だな⋯如何にも、子供って感じ。私は好きじゃない。
「お姉チャンは、元空間でどういう存在??」
「⋯はぁ?」
「イリリアス、聞いた所で分かる訳無いでしょ」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ジロジロと“イリリアス”が見つめてくる。すっごい近くで見たり、少々顔を離して全体像をギョロギョロさせたり⋯そこまで私の姿見に興味があるの??
「ねぇ、ここはどこ?私、戻らなければならないところがあるんだけど」
「うん、その場所知ってるよ。元空間でしょ?」
「げん、、なに?」
「パシリ、この人にそんな用語じゃ通じないよ」
「そうね⋯ラヴとした事が⋯もっと元空間の人間に身を寄せるべきだったわ」
一人称⋯と思われる“ラヴ”という単語がやはり鼻につく。げんくうかん、と先程から飛び交っている言葉。“用語”という表現にも多少なりとも気にはなってしまう。
「あなた、戮世界の住人でしょ?」
「え、、ええ、⋯そうだけど⋯」
変な言い方だ。まるでここが『戮世界テクフルじゃない』とでも、この次の次の次のターン位で言ってきそうなフレーズ。
『あなた、戮世界の住人でしょ?』
「あ、紹介が遅れたね」
「イイわよ⋯別にラヴの紹介なんて⋯」
「ええ?でもラヴだけが紹介してたら、シナリオ的にも問題になって良からぬ方向に転がっちゃうんじゃない?なんでイリリアスは名乗ったのに、この女は名乗らなかったんだ⋯ってさ」
「まぁ⋯それは確かに⋯。『幻夢郷に出現した戮世界住人と、それを発見した幻夢人』、この物語が始まってしまった以上、ラヴ達が、変に逸脱したパターンを創作するのもおかしいものね」
「凄いよなぁ⋯ラヴ、ドリームウォーカーのシナリオに入ってるんだよー!」
「知らず知らずの内にね」
「あのーーー?」
「⋯あー、、、ゴメンちゃいお姉チャン!、、、あ、紹介するね、こちらラヴの姉のパシメリア」
「よろしくお願いします」
「あ、、はい⋯よろしく⋯」
“パシリ”⋯⋯あー、なるほど。パシメリア⋯⋯はいはい、酷い魔改造アナグラムを弟から施されたもんだな。
「なぁにぃ?戮世界住人さん、ラヴに引いてんの??」
「え、、、『引いてる?』?なんでそんなように見えてるの?」
「別に引いてない感じ??」
「イリリアスくん、私は何も引いてないけど。てか、目覚めてから急に銃を向けられたら、そりゃああなた達に驚いたりするのが普通でしょ?」
「でも、あなたは全く動揺していなかった」
パシメリアが会話に参加。二人の間を割って入ってきたような感じをイメージをしてもらえたら、私としては嬉しい。
「そうね、二人が私に警戒してるのは十分に分かり切った事だったから、現実を直視するのは無意味だと判断した」
「え!?それってどういう意味??」
イリリアスがミュラエの発言に注目。
「先のことを考えていたのよ。現在に思考を巡らせるよりも、次に発展する物事へのシークエンスに脳を働かせる」
「さすが、戮世界の住人」
「パシメリアがここまで感嘆するなんてなぁ、さっすがー!お姉チャン、まだまだラヴ達に秘密にしてるものッ、あるんじゃなぁいのぉ?」
「⋯⋯⋯ちょっと、弟さんどうにかしてよ」
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「おい、何故ここに元空間の人間がいる」
「不明です。禍天の魔女との戦闘の際に、不用意な攻撃がミュラエ・セラヌーンに仕掛けられたと思われます」
「対処は可能なのか?」
「今、実行中です」
「早く対処しろ。シナリオの逸脱は許される事案では無い」
「それにしても、どうして元空間の人間がここに⋯⋯」
「禍天の魔女は、宿主から離れて戦闘を行っていた。そこには何の問題も無ければ、シナリオ通りの流れ⋯。いたって辺鄙な創りでは無いのだが、ミュラエ・セラヌーンによる白鯨が大きな特異点になったのでは⋯と考えられます」
「禍天の魔女の軸線を歪に捻り曲げる白鯨の力⋯」
「やはり、人間に白鯨の力を授けるのは、アンタッチャブルだったのでは⋯?」
「だが、そうしなくてはならなかった。白鯨を付与しなければ、通常人類は超越者に立ち向かう事は出来ない。インフレーションを引き起こす可能性もあったが、今までそんな事態に発展する事は無かった」
「だけど、今こうして、シナリオ統括に問題が発生しているの。我々ドリームウォーカー『Part of Floudless』の首が飛ぶ大問題よ」
「では直ぐにミュラエ・セラヌーンを在るべきはずの元空間へ戻そう」
「現在、幻夢人二名と邂逅を果たしているようです」
「幻夢人二名の神経接続をドリームランドサーバーに切り替えろ」
「御意」
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ミュラエはイリリアスとパレシリア、二人の子供に助けられた。ここは何処なのか、何故ここに自分はいるのか⋯多くの疑問が浮かんだので答えを得られるかどうか分からなかったが、一応二人に問い掛けてみた。しかし、二人は私からの質問に回答しようとはしない。イリリアスが口を開きかけたが、パレシリアのガードによって発言は絶たれた。
どうして二人は何も吐かないのか⋯。
ミュラエは特に、二人から拘束されぬまま自由の身となっている。いつでもここから遠くへ⋯二人との距離を一気に引き離しても大丈夫だろう⋯と安心し切っている。それもそうだ。相手は子供。ましてや、超越者である自分の存在を脅かす対象とは思えなかった。だが、それはミュラエのイマジナリーのみで完結する事になってしまう。
◈
「⋯⋯」
「⋯⋯」
突如として、イリリアスとパレシリアの行動が停止。何事か⋯と思い、ミュラエは辺りを見渡した。二人に顔を覗かせるのは、周囲を見渡した“後”だった。特にミュラエ的には何もそこに深いこだわりは無く、ただ単に、周りへの警戒を強める切っ掛けに過ぎなかった。
「⋯なに⋯⋯⋯⋯」
身体が凍えるような⋯
“凍てつく炎”と“燃え盛る氷晶”。
大空は依然として、複数色の色彩が刻み込まれたキャンパスの如く世界を形成。周囲を見渡しても、景観が変わらない事は三人で歩いていて疑問に思っていた。何となくだが、その時にミュラエは『戮世界テクフルでは無い空間なんだ⋯』と心の中に留めている状態だったのだ。二人にこれを打ち明けるのは、肌感的に危険⋯。そう思ったミュラエだったが、どうやらそれは正解だった様子。
「⋯⋯⋯ミュラエ・セラヌーン」
「⋯⋯⋯ミュラエ・セラヌーン」
二人とも、同じ文言を吐く。声音もほぼ同音。女と男という性別の垣根はあれど、周波数レベルで数値的データの概算を取った場合、二人から発声される音に違いは無いように思えた。
違和感が無いところが違和感。
「⋯⋯」
私は、二人の動向を窺う。二人の様子は明らかに先程とは異なったオーラを放っている。私が彼等の雰囲気が変化した⋯と判断した瞬間で周囲を気にしたのは、“なんとなくそう思ったから”なんて気安いものではなかった。これは、今⋯後から分かった事だ。自分自身の行動を褒め称えたい。
「ミュラエ・セラヌーン。今すぐ現空間に戻す」
ロボット⋯とまではいかないが、明らかに自分の意思で動いてるようには思えない言動に、気味が悪くなる。パレシリアの発言だけが、私の耳を通り過ぎたけど、イリリアスは視線を固めたまま、もう金輪際、喋る事を許されなくなったのか⋯と思わざるを得ないぐらいの、お口チャックマンとなっている。
「あの、、げんくうかん⋯っていうのが良く分からないんだけど」
空気が変わった二人の雰囲気。だが、それに臆する事無く、私は先程までと同様の形で二人との⋯実質的にはパレシリアとだけなようだけど⋯会話を始める。
「元空間」
あ、イリリアス喋んのね。
「ミュラエ・セラヌーンが元々いた場所の事をそう言うのだ」
「『のだ』⋯って、なにそれ。随分と人が変わったよう語尾ね、イリリアス」
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「このまま出力最大」
「御意、ゲインを上げます」
「ミュラエ・セラヌーンを元空間へ戻せ」
───---─────----─────----──
「なに、、、これ⋯⋯⋯」
二人はそれぞれに異なったエネルギーを発現させ、その各々のエネルギー螺旋が、ミュラエの身体に注がれていく。ミュラエの頭上へ直結するまでの道中、エネルギー螺旋は、空中で融合を遂げ、一つのエネルギー螺旋を形作った。ミュラエはそれに回避する事が出来ずに、エネルギー螺旋の餌食となってしまう⋯⋯⋯。
ミュラエは二人からの攻撃と思い、即座に迎撃を決断していた。だが、結果的にはこのような結末となってしまっている⋯。
自分でも分からなかった。ミュラエ自身、パレシリアとイリリアスからの謎のエネルギー螺旋を受け止めるか、撃ち落とそうか⋯思考を急速回転。攻撃が自身に直撃してからでは遅い。しかし、そこまで⋯“当たらなければ”、自分に害は一切無いのだ。
ミュラエは限界ギリギリまで、当該攻撃?までの時間に多くの予測を立てる。
それがどうであれ、彼女の考えの一端に触れる事すら無いという、無慈悲な現実を、ミュラエはその時、知る由もなかった。
エネルギー螺旋に包まれたミュラエ・セラヌーンはこの世界から姿を消した。地面に埋め込まれた?天空へ引っ張りだされた?消息不明となった行先は判明しているが、そうなる迄の道程は誰も分からない。当該行為を実行に移した存在が、器と魂を完備した者なら容易に分かる内容だ。しかし今回は、幻夢人を利用したマスターコマンド方式を採用したシナリオ統括修正指令。ドリームウォーカーが幻夢人の脳内へ侵入し、シナリオの修正をする為に一時的な神経の奪取を図ったのだ。
パレシリアとイリリアス、二人はドリームウォーカーから行動制御を奪取された事に対する意識はある。幻夢人は皆、ドリームウォーカーからの指令には従わなければならない。
「パシリ、ラヴ⋯初めてだったんだけど⋯」
「ラヴも初めてよ⋯こんな感覚なのね、、、ドリームウォーカーに制御されるって⋯」
「ラジコンの車側ってこんなんなのかな⋯」
「ん?イリリアス、その悲哀に満ちた感情はどうしたの?あなたの憧れ、ドリームウォーカーからの制御を体験出来たのよ?滅多に出来ない良い経験なのよ?」
「わかってるけど⋯なんか⋯複雑だわ」
「複雑?」
「うん、ミュラエ・セラヌーン⋯って言うんだな。あの元空間の人間⋯ラヴが元空間に連れて行ってあげたかったのに⋯」
「あなたがやらなくても、ドリームウォーカーがやってくれるの」
「そうだけど⋯ラヴにもできるし⋯」
「出来るけど、イリリアスにはまだ許可が得られて無いでしょ?」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「あ、その顔」
パレシリアがイリリアスの頬を抓る。
「いたっ、、何すんだよ⋯」
「ヒクヒクと頬が動いた。企みを隠そうとした一秒間」
「⋯⋯⋯⋯⋯あーあ、せっかく元空間の人と会えたのにーい。また会えないかなぁーーああ」
イリリアスの嘆き。パレシリアにしか、直視的には聞こえていないが、これはドリームランドサーバーに全て保管されている。幻夢人を始めとする全ての“舞台役者”のワードを書き記している保管庫。
まさか、幻夢人ですら、シナリオの対象としてドリームウォーカーから認識されている事を、二人はまだ知らない。
───Side:ウェルニ・セラヌーン。
かつての友人であるベルヴィー、ナリギュを始めとするアリギエーリ修道院の仲間達が、乳蜜学徒隊としてウェルニの前に立ち塞がった。
口内炎により、口を開けない状態です。でも腹は減るので何かを摂取しなければなりません。そんなコンディションでチャプター14を書いていきます。
寒い。12月からの新生活でバタバタ。仕事はヤル気なし。
辞めるんで。
辞めるから、今やってる作業とか頭に入らない。
そんな最近です。




