表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Lil'in of raison d'être/リルイン・オブ・レゾンデートル  作者: 沙原吏凜
第一章 夭折の叛逆/Chapter.1“Rebellion”
13/77

ep.4:血脈の永続

風が吹いていた。だがそれにはそこまでのウザさは感じなかった。抵抗感が無い。俺は何かを感じない者になったのか?

[#4-血脈の永続]



サリューラスは、来訪者に連れられコンプレックスドームを脱出。巨大航空機の中にいた。


「なんだ…ここは…」

どのくらいの時間が経過したのか…定かではない。拘束状態は継続のまま。2人の遺伝子能力により、サリューラス周辺の4本の杭をサリューラスごと掘削。半径4mの逆円錐形大地と共に、空挺に連行されていた。

未だに身動きはとれない。

空挺の中には、セカンドステージチルドレンが複数いる。いや…複数では無い…。

「レッドチェーン着装のはずだ。何故ここまで動ける?」

「皇帝の言う通り…アイツが…?」

「おい、俺らとは濃度脈の波形が違うぞ…。」

「ああ、平行線じゃない。」

「厄介なンが来やがったな…。」

何か、サリューラスを指し示す疑念とも受け取れる言葉が四方八方から発せられる。

中にはサリューラスを“異物”のような目線で睨んで来る者も。ここにいる全員がサリューラスを歓迎し切っていないアウェイな状況。

仰向け状態のサリューラスが担架で拘引された先は、作戦統括指令センター。数多くのセカンドステージチルドレンが臨戦態勢をとっている。睨む者、怯む者、怖気付く者…マイナス方面の表情を形成する人が9割。対する1割はその者達の過剰な動きを静止するような者。結果的にサリューラスを100%の形で受け入れる者はいない…という事。

その内のほんの少ない者が、笑顔…というか完璧に100%適切な言葉では表せないような…近い言葉で例えるなら、嬉しがっている…とも思えるような顔を作っている者もいる。

「笑顔に隠された偽りの狂気になど、俺は騙されない。」

言葉を投げかけるわけでも無く、ただ単に拘引者を凝視し続けるセカンドステージチルドレン達。

「やめるんだ。」

セカンドステージチルドレン達から攻撃性を解除させた男の声。男がサリューラスに近づいてくる。

「お前達、ここにいる男に手を出すんじゃない。」

男は眉間に皺を寄せ、驚愕の表情を浮かべる。


「サリューラス…なのか?」


名前を知っている。

俺の名前を、こと男は知っている。

俺はこの男を知るのは初見だ。自分の中に、なにか歪な空間が形作られたような気がする。元々この異変は感じ取っていたかのように、阻害するものが存在しない。備わっていて当たり前のもの…といった解釈が自然だった。自身で整理するのにはあまりにも空間。

何処で聞いた情報なのか…何故そんな表情を作りながら名前を問いているのか…。

そして、女も現れた。

男は老体。女は若い。年の差。

二人がどういった関係性なのか。

先程、コンプレックスドームに現れた2人とは違う。でもなんだか、さっきの2人とは違うオーラが感じ取れる。オーラ…というか、自分と一緒というか…何故だか身震いがするような気持ちの悪い感覚に包まれる。



「サリューラス・アルシオン。」

女の方が、俺の名前を言った。

声色で、先程の違和感はより強さを増した。目蓋が見開きになり、直接脳を触られてるように思考が巡らされる。体内で血流濃度が上がり、記憶の編集が高速的に周期する。

「大丈夫…!?」

声を掛ける女。

「誰だ!?」

ようやく、声を出せるまでに自我を取り戻した。

口から発される最初の文言はこれに決まっていた。誰かも判らない男と女に勝手に連れてこられて何の説明も無いまま謎の場所に縛られて羽交い締めにされ、全く俺の意思を真に受ける気が感じられない。更には赤の他人から向けられる無数の眼光の刃。繰り返される男と女の登場。パターンは同じかと思いきや、何故か同一のオーラを感じる。

ふんだんに盛られた君の悪すぎるオプションの数々に嫌気が差していた。のに、それすらの解放をも与えられない。尊厳を無くさせたコイツらにまず一発、身体に残る全ての力を口腔に集約された一言。

どうしたもんか身体が沸騰するように熱を帯び、自分の算段では制御し切れていた筈の力が、何故か極大な変化を遂げた。たった一言。威圧の言葉を発そうとしただけなのに、魂を削ったかの勢いで体力が大幅に削られた。

俺の叫びのターゲットである全方向で武器を構える兵士達。叫びに対してのアンサーは、無だった。何も感じておらず、ただ単に男が殺意を向けただけ。この行動により一層の警戒を強めただけだ。

──

「ペンラリスの子だな…?」

──

俺は…どう答えていいのか判らないぐらいに、驚いた。

「そうだよね…そうなんでしょ?」

「私達は、アルシオンだ。ペンラリスは私たちの子だった。」

崩れるように、膝をついた。違和感が確信になる材料だった。

男の名は、ニーディール・アルシオン。

女の名は、《ヴィアーセント・アルシオン》。

アルシオンは、僕らだけじゃなかった…。生き残りがいたんだ…。両親からは聞いた事が無い事実だった。会えた。涙が止まらなくなった。この、老い先短そうな男が…ニーディール…。

「大丈夫…大丈夫だよ。」

優しく背中を摩ってくれるヴィアーセント。レッドチェーンを解除。大広間の中心。統括指令所の真ん中で、泣き崩れる様を周辺で臨戦態勢だった能力者達が見据えている。

「もういい。みんな。」

彼等は、サリューラスのその姿を見て、ゆっくりと武器を下ろした。

「サリューラスを連れてきてくれたのは、私の部下だ。男の方は《コースタース》。女の方は《ディーニャ》。皆、優れた知性と特別な力を宿している。とっくに気づいてると思うが、ここにいる者全員セカンドステージチルドレンだ。」

ニーディールが、周辺にいるセカンドステージチルドレン達を一人一人目を合わせるようにして、サリューラスへ紹介する。その様子を見るからに、彼等はニーディールに対して敬意を表している。

反人類対抗組織フェーダ。そのメンバーよ。」


セカンドステージチルドレンのみで構成され、様々な境遇を経て来た者達が集うグループ。

世界の情勢を見据える裁定監視者。

世界のありとあらゆるキーパーソンとなる物資の強奪、人類がより良い世界を創造する度に成功の阻止をする。今回の《サリューラス・アルシオン奪還作戦》のような襲撃を行うテロ組織として国際指名手配されているが、ステルスモードを搭載する当該航空艇の影響で国際刑事警察機構は、フェーダの捜索が停止状態にあった。

フェーダは世界各地に点在、監視者として世界中で起こる“転換”となる場面を都度共有。フェーダにおいてプラスとなる出来事ならばその場に介入し、我が物にしていく。

フェーダの活動内容は、物資強奪による生活拠点の充実化の他にも多数の成すべき事がある。主な軸となるのは、2つだ。

一つ目は、各地に点在中の前線基地に所在する《イドフロントフェーダ》の回収。昨今、国際的な面において停止状態にあったフェーダの捜索が再開されている。


それに理由については、《アンチSゲノムブッシュ》の開発成功にある。これを開発された事により、我々フェーダへの戦況は一変した。《トゥーラティ大陸》の《ゼレネフ》にかまえるイドフロントフェーダが剣戟軍からの攻撃を受けたのだ。その際に使用された武器には、アンチSゲノムブッシュが含有されていたという。人類は、我々に対しての対抗策を完成させてしまった。セカンドステージチルドレンが人類からの攻撃を真っ向から受けてしまったのだ。


これにより生まれる2つ目の成すべき事は、《アンチSゲノムブッシュのマザーコピー破壊》。

アンチSゲノムブッシュが精製されている母なる遺伝子を人類は持っている。

それは、アルシオンの血だ。セカンドステージチルドレンの中核、胎芽たる生命の源、高濃度なSSC遺伝子レベルを保持するアルシオンの血を人類は持っていた。それを応用した遺伝子兵器を製造。

能力者には、能力兵器を。

イドフロントフェーダは、忽ち壊滅され全員が抹殺された。これはフェーダへの宣戦布告と捉えてもおかしくない。そこでフェーダは、全世界のイドフロントフェーダの回収作業に向かい、フェーダ総合軍事力の低下を阻止。

その回収作業には、強化人間隔離施設ニゼロアルカナの支部(この世界に点在する)といった所も対象にある。人類に確保されたセカンドステージチルドレン達の回収だ。本部の回収対象者は、サリューラスを始めとする能力者計14人。中でもサリューラスは特別だった。その理由は、答えるまでも無くアルシオンの血統だからだ。

もうアルシオンの生き残りはいない。

ニーディールの子供だった者達は半分が死んだ、と言える事では無い。殺した…というのが適当だと言える。かつて起きてしまった“フェーダ内での反乱事件”が原因で、《エレリア・アルシオン》《デュルーパー・アルシオン》《マディセント・アルシオン》らは死んだ。彼等は、ニーディールの子供。エレリアに関しては妻だ。

そんな者達を殺すまでの事件《超越の帝劇》。

律歴4092年10月30日──。



元々フェーダという集団に、アルシオンはいなかった。ある時を境にフェーダメンバーが、セカンドステージチルドレンの血盟一族を求め、唯一生存していたアルシオンを仲間に加えた。それが上記の日付。

戦力はと言うものの、セカンドステージチルドレンの能力を完全に消去する直前まで、遺伝子を書き換えていた為、そこまでの戦力アップにはならなかった。その時、フェーダにはセカンドステージチルドレンへ進化させる促進剤である《強制アンプル》を保持していた。エレリアは強制アンプルに興味を示し、注射を決意する。ニーディールは、妻の行動に猛反発。子供達も反発したが、反対する者が全員では無かった事がこの先の地獄を暗示した。


第一子のデュルーパー、第三子のマディセントらが、エレリアの意見に賛成した。この対立によって家族は二分され、更にフェーダメンバーがそれぞれの傘下に加入。アルシオンの子供達とフェーダメンバーは、《ニーディール派》《エレリア派》に分かれ、何回もの衝突を起こす。時には武力での制圧も起こした。かつては二人で協力し、生きる為に死ぬ気で生存本能を覚醒させながら、奮闘してきた二ーディールとエレリア。このフェーダの内乱は、一つの島を舞台にした戦争に発展。

エレリア達が強制アンプルを投与した事で、対等に戦わなければ勝てない…と判断し、二ーディール達も仕方無く能力を覚醒させた。最終的にはこうして意見の合致が着いたのだが、戦争が終結するに値する行動ではもう既に無かった。

内乱発生から実に、8年と半年が経過。

戦争はニーディール派が勝利し、エレリア派はフェーダメンバー傘下の一部メンバー以外が死亡。エレリアを含むアルシオンの子供達も死んだ。ニーディールは、こんな事をして良かったのか…と現在も苦悩しているという。愛していた妻と子供達を葬ったのだ。闇からの一手に差し伸べる事を止めようとしたのに、実際今、自分達がアンプルの力を使っている。二ーディールは、妻達の価値を模索するために今を生きている。

律歴4102年7月18日…“超越の帝劇”、終局。


サリューラス及び、セカンドステージチルドレン奪還作戦は世界各地にて行われ日に日に、フェーダの軍事力は増していた。活発化するセカンドステージチルドレン達の犯罪行為に、捜索網は拡大せざるを得ない。だがそれをしても、ステルスモードをされてしまっては全くの意味が無い。防戦一方で、本格的な攻撃姿勢を見せる余地も無い。

当然ながら、サリューラス収容時は細心の注意を払いつつ隔離施設内外には、特殊部隊が蟻のように大量配置された。だがステルスモードの当該航空艇搭乗中のセカンドステージチルドレンによる遺伝子能力を行使した強力なジャミングで妨害電波を発生。各部隊師団を設定された中域に集中吸引。人と人とが、引き寄せられるように高速的に集められた。自分の意思を全く受けること無く、ただただその吸引を受ける事しかできなかった。当該攻撃バースサイクロンには、個体差があり一極集中させて沈黙させるのが常にある。だが、《七唇律》の《暴虐》を司る者が発動させればそれは別の話。バースサイクロンは敵の人体を破壊するまで吸引は終わらない。その人と人とが摩擦し合う事で想像する以上にグロテスクな出来事が起きる。骨が砕け、他人の血液が絡み合う。主に胴体が寄せ付けられるので、頭と足は損壊せずに済む。バースサイクロンにより浮遊状態にあった数名の人体が地面に落ちた時の足と頭が、異常なまでの惨劇を物語る。《暴虐》とは、人間全員の心の深淵に眠る怒りの最頂点。セカンドステージチルドレンにもなれば、それは幾倍かのヒューマニズム限界を軽く突破する。

よって、配備されていた特殊部隊全滅。

更に、不可侵透明防御膜スフィアインビジブルを展開。スフィアインビジブルにより隔離施設の各エリア、コンプレックスドーム、作戦指令所、連絡ブリッジ、道という道が見えない壁で分断される。そして運良くバースサイクロンを免れた特殊部隊一人一人に、小規模なスフィアインビジブルが生成される。完全孤立状態にした。これをマザーコピーから最低2時間前に精製されたアンチSゲノムブッシュが含有された兵器が必要とされる。


サリューラスは、能力者回収活動の中に入る最後のターゲット。コンプレックスドーム、つまりサリューラス以外の面子は全員回収。

「サリューラス…君には話さなければならない事が沢山ある。」

「そうだね、こっちよ。」

2人はサリューラスを誘導し、航空艇の案内を始める。

俺だけじゃなかった。

生きてる。

家族は生きてた。

反乱か…。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ