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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾参章 蠱惑の泥濘トリックスター/Chapter.13“RearrangeLifeWithMetherknoll”
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[#111-脆く散りゆく刻世]

時間と世界。

[#111-脆く散りゆく刻世]


「“ゼルトザーム”」

ピーチカが発現させている黒色粒子の球体から、多弾頭光子砲が発射。発射直後、黒色粒子球体は戦艦上空から消失。球体から流れ出た黒色粒子エネルギー全ての物量が、現行の光子砲に注がれた事を意味していた。


浜辺にて、結界が張られてしまい身動きが取れなくなったティリウスとメザーノール。ティリウスは必死こいてここからの脱出を画策する。考えを働かせるだけでその感情が抑制されるはずも無く、メザーノールは通常人類・ティリウスがいる目前で遺伝子能力を発動。結界に向けて、遺伝子粒子を身体から発出させ“魔宝珠”を生成。溜め込められ、遺伝子粒子が外部に集結し、魔宝珠の形が正八面体を模様した時、魔宝珠から浜辺を包囲する結界に向けて四方八方の攻撃を開始。メザーノールの頭上にて魔宝珠は所在を移し、結界への攻撃が開始されると共に、外敵からの攻撃信号を受信し、迎撃行動を並行。

大陸側には結界への攻撃を。

海域側には異能者から放たれる光子砲攻撃への迎撃を。

攻撃と防御。後者はもちろん、海域側から放たれようとしている光子砲攻撃だが防御だけで済まさず、魔宝珠は戦艦三つへの“宣戦布告”と題し、加粒子砲攻撃を開始。


ピーチカとメザーノール。それぞれが放つ極エネルギーの衝突は、海面上にて発生。ハリケーン規模の反動災害が誘発を起こし、天高く大きな悪影響が大陸に及ぼされる。結界にもハリケーンによる障害が生じる事によって、亀裂が浮き出る。メザーノールは結界がそれほど強固なもので作られていない事を把握し、自身の遺伝子能力にて結界への物理攻撃を始める。遺伝子粒子を両腕と両足に注ぎ込み、遺伝子エネルギーを身体パーツに装着。体内に搭載しているエネルギーの殆どを外部に送出する事は、かなりリスキーな行動だ。超越者にとって、遺伝子粒子は命を繋ぐ要であり、身体を流れる血液と同等の意味合いを持っている。体内へ残る遺伝子粒子を最小限に抑え、生命力を継続させつつ、結界をぶち壊す⋯。しかし遺伝子粒子を纏ったストレートパンチとミドルキックは、一切の亀裂を浴びせる事が出来ない。つまりこれはSSC遺伝子能力を無力化する結界。その仮説が通るなら、先程ハリケーンによって発生した亀裂が矛盾してしまう⋯。

ハリケーンが発生したのは、あくまでも自然的現象の摂理。起源はピーチカによる光子砲攻撃だが、その後の現象は災害に区分されているようだ。


────────

「ハロー!」

────────


「この人は⋯?」

ティリウスとメザーノールの前に二人の女が現れる。ティリウスは二人を初めて確認するが、メザーノールは初見では無い。光子砲攻撃を浴びせたのは、右に位置する女。左にいる女と顔、体型が瓜二つ。恐らく双子なのだろう。

「はぁ〜あい。こんにちは、お二人さん。あ、もう夕方だからこんばんはぁ〜って感じかな」

「俺に何の用だ」

「えぇ〜、それ、聞く意味あんの??お姉ちゃん、コイツ笑っちゃう事言うんだけどぉー」

「あの魔宝珠、見事だった。貴様はまだガキだ。これから多くの物事を経験する上で、大切な通過儀礼があるんだ。良かったらワシらの勧めるコンテンツへの参加をしてほしいんだけど⋯」

「断る」

「⋯⋯⋯そうか。断る⋯ねぇ。さっきの攻撃を見て思ったんだけど、既に軍事的訓練は多時間に渡って実行していると思われる。⋯⋯メザーノール・セフェイガ。貴様は七唇律聖教の修道士として何年間在籍しているのだ?」

「それ言って何になる?俺は何も言わない」

「そんなの調べれば余裕シャクシャクでヒットするんだけどさ、あいにくワシらって七唇律聖教ではドブみたいな存在として、捨てられてるんだよね〜」

「あーしはめっちゃおかんむりなんだから!!」

「あ、妹のラッチ。ワシはラッチって言ってるけど、貴様らは“ラチルゼル”って呼んだ方がいい」

「こんな外道な男どもにあーしの名前呼ばれたく無いんだけど」

──────────

「何が目的なんだ」

──────────

「あー、ごめんゴメン。結界を張らせてもらった。そして⋯あそこ。メザーノールにとっては、うんともすんとも無さそうな艦隊だと思うでしょ?実際、そうでも無いんだけど⋯上を見てごらん」

ピーチカが上空を指さす。二人はピーチカに言われた通り上空を見上げた。その光景に度肝を抜かれるティリウス。メザーノールも時間差で視界に広がる光景に、目を見開いて驚く。何故なら、二人はシスターズ・プリミゲニアが浜辺に空間転移する前に、上空を確認していたのだ。

その時の空というのは、結界が張られ、天気を確認出来ない状態。晴れなのか、雨なのか、曇りなのか⋯。

結界が発生する前の天気が記憶されているので、その事前情報のみで勝手に理解が進行していた。しかし、ピーチカの指差した方向を見上げると、それはまったく違った世界が形成されていたのだ。

空には亀裂が⋯。亀裂、亀裂、亀裂、亀裂、亀裂⋯。

結界で始まり、次は天空にも⋯。夕闇の空を黒と白の溝が襲っている。一本の浅い線と太い線。二つの線が交わる事で、互いの能力干渉が発生。溝からの軌道線は能力干渉を引き起こし、溝の深さと拡がりを壮大なものに仕立て上げていく。溝は、時間経過でその壮大さを増しているのだ。


「何⋯!!?あれ⋯⋯⋯⋯⋯」

「通常人類が、このように驚くのも無理は無い。ワシらからすれば何のレアモンとも思えない状況だからね。⋯⋯修道士メザーノール?」

「⋯⋯何故、次元裂溝が起きている⋯?」

「さぁ?ワシには判らん」

「あーしにも判らん」

「だが事態がどうであれ⋯今回の作戦展開には特に関係無い。ワシらは、貴様に用があるんだよ。メザーノール」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

メザーノールはシスターズ・プリミゲニアをみつめる。

「あと、おい⋯そこにいるお前」

「⋯は?⋯俺??」

「そう、お前⋯お前⋯はぁ⋯⋯なんなの?」

「は?何⋯⋯メザーノール知り合い?」

「⋯⋯いや、違う」

「なんかメザーノールと仲良いみたいな感じなんだ?二人とも」

ラチルゼルか馬鹿にするような声音の変化を見せる。ムダに声域を高くし、ふざけた口調で言ってのける女の姿にティリウスは怒り奮闘となる。

「何こいつ⋯⋯」

「女に『コイツ』とか言わないでもらえる??あーし、七唇律聖教だよ?」

「え、、、、七唇律聖教⋯?⋯どうしてそんなのがここに⋯」

「はぁ、やっと分かってくれた??ワシらは七唇律聖教。ちょいと色々あって、半分聖教、半分野良⋯みたいな感じなんだけどね〜ん」

「お姉ちゃん、やっぱしこの男もやった方がいいんじゃない?」

「ワシもそう思ってた」

「だよね〜。やっぱしお姉ちゃんとは気が合うわん」

「と、言うわけで、用がある人数が増えました。あなたとあなた。超越者兼修道士のメザーノールと、通常人類のティリウス。あんたたちには今から死んでもらおっと思います」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯は」

眼差しが固くなる。これから巻き起こる戦闘事態に備えて意識を集中。呼吸と脈拍のタイミングを一定的なリズムに置き換え、緊急時に対応出来る即座な救済遺伝子粒子の搭載とリザーブコンテナの装備を完了させる。血液がメザーノールの体内を激流。普段流れる血液のスピードより八倍の規模で速度が上昇。遺伝子粒子は、身体の穴という穴から漏れ出てしまうほどに、高濃度かつ潤滑油的な滑らかさを併せ持つ、攻防に優れたレパートリーの多用さを最優先とした。

メザーノールがこのような行動に追われているのに対し、ティリウスはただただ困惑している。まったくの赤の他人から、突然『死んでもらう』⋯と言われてしまえば、怒りの前に困惑が訪れるのは至極真っ当なこと。困惑がある程度の思考回路を逡巡していくと次の来訪してくる感情というのは、激情。つまり、怒りだ。


「何言ってんだお前⋯。急に死んでもらう⋯とか馬鹿言ってんじゃねぇよ」

「アレ、そのつもりだったんだよねー?メザーノールさん?」

「⋯⋯?メザーノール⋯⋯⋯??」

ティリウスがメザーノールの顔を見る。メザーノールの表情に雲行き怪しい表情が顕となる。それはとても、分かりやすすぎるものだったので、通常人類であるティリウスにも余裕で気付く事が出来た。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「あーしが言ってあげよっかぁ?、、、ティリウスくん?君ね、メザーノールに騙されてるんだよ?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯な、なに⋯⋯⋯黙らされてる⋯⋯?」

メザーノールの顔を覗き込む。一点を見つめる彼の姿。そして、執拗に迫るとメザーノールはようやく視線をティリウスの方へ向けた。しかしそのメザーノールの眼球というのは、異常なまでに逸脱し、焦点が何処にフォーカスさせているのか⋯特定ができない状態。簡単に言ってしまうと、悪魔にでも取り憑かれてるような、違う人格に乗っ取られているみたいだった。

「ティリウスがここに連れて来たのは、浮遊大陸ニムロドを観測したいから⋯そうだね?」

ピーチカがティリウスに問い掛ける。その声音は、普通のお姉さん。優しく、隣人に居ると挨拶を必ずしてくれそうな予感がする程の心が透き通った表情も加味されている。

「ああ⋯そうだけど⋯」

「メザーノール。貴様はティリウスをどうしたかったのか⋯自分の口で説明なんて出来そう??⋯⋯⋯まぁ無理だよね。ティリウスを喰おうとしていた⋯なんて、言える訳無いよね⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯ん、、、な、なに⋯⋯え」

ティリウスはメザーノールの真ん前へ。正面に直立したティリウスへ、意識を向ける事にしたメザーノール。先程までの表情とは異なった種類の動揺が窺える。

「ティリウスくん。君は人間。普通の人間だね」

「うん⋯。メザーノールは⋯超越者」

「自分の素性、どこまで説明したのかまでは理解のしようが無いから判らんけど⋯メザーノール。あんたメッチャ最低な事してるって自覚あんの?」

ラチルゼルがメザーノールの真横に空間転移。ティリウスの真正面に立っていたティリウスはラチルゼルによる空間転移に恐怖を覚える。目の前で異能者同士が、対立している姿を、通常人類が目撃しているのだ。更に言えば、ラチルゼルのメザーノールへの切迫と睨み。眼光の鋭い視線が良く目立ち、ティリウスの脳裏に深く刻まれる事となる。


「最低⋯?」

「⋯⋯⋯⋯⋯」

無言を貫くメザーノール。何も発さない。何も抵抗しない。それが、一番相手をムカつかせる原動力になることを理解しての行動だということを知った上での現行なのか。


【多数兵士のワープアウト反応エフェクトが発生】


「な、、、、なに⋯」

「ティリウスくんを保護する為に、ワシらが要請した剣戟軍。あの、海を航行中の戦艦三つから空間転移を起こしたの。安心して。剣戟軍だから。善良な人間の味方よ」

「お前⋯お前だよ。メザーノールくん?」

ラチルゼルがメザーノールの身体へ最接近。それと共に剣戟軍兵士がティリウスを拘束。「何するんだ!?」と突然の拘束に理解が出来なくなり、むやみな抵抗反応を示すティリウス。剣戟軍がティリウスを抑える。ティリウスの抵抗は全て無力化されてしまい、蹂躙するしか無くなってしまう。

「おい!安静にしろ!」

「離せコノヤロウ!!メザーノールに手ぇ出してみろ!俺が殺してやる!」

「ほほぉ⋯メザーノール、あんたどんだけ信頼させる為の努力をしてきたというんだい?」

「⋯⋯⋯ティリウスとは友達だ。固い絆で結ばれている」

「そんなかっったぁい絆を、あんたは簡単に引きちぎろうとしてたよね?」

「⋯⋯⋯お前らは⋯七唇律聖教の人間⋯」

「正しく。ワシと妹のラチルゼル。二人で鶏鳴教会の主宰者を務めている。まぁ今はそんなことどうでもいいんだ」

「ねぇ、あんた相当キショい事してるの分かってるよね?超越者として産まれたんだから、他人を巻き込む事は絶対にやめようよ。そう教わんなかった??」

ラチルゼルはメザーノールの左肩に、自身の左腕を回す。顔面も自然に近くなり、メザーノールの耳元へ囁く。

────────────

「ティリウスを暴喰して、超越者を卒業しようとしたんでしょ?」

────────────


「⋯⋯⋯メザーノール⋯⋯⋯⋯⋯」

「ティリウスくん、この人はね、あんたのことを友達だとはこれっぽっちも思っていない。あんたのことはただのオカズ。自分が超越者としての存在を掻き消す為に必要なマテリアルとしか思ってないんだよ。そんな時にちょうど、ティリウスから誘いがあったんでしょ?⋯⋯えっと⋯?『浮遊大陸ニムロドを見に行きたい』??ティリウスくんは、そう言ったんでしょ?」

「⋯⋯どうして⋯⋯⋯⋯」

「ワシらは七唇律聖教の人間。修道院や他の教会で言うところの“教母様”レベルの女よ。通常人類の思考・記憶を読み取る事なんて容易なの」

「⋯⋯⋯え」

「まぁいいわ。そういう反応になるのも容易に把握出来てたから。ただいい?これだけは言っておくけど⋯超越者を簡単に信じない方がいいよ。超越者の歴史⋯知らないなんて事は無いよね?」

ピーチカが迫る。拘束されているティリウスに迫り、後退りするティリウス。⋯だが、そうしようにも拘束されているので、一定の距離しか空けることが出来ず⋯。

「⋯⋯⋯当たり前だ。知らないはずが無い」

「じゃあどうして、メザーノールを信用にた値する人物だと認識しているんだい?」

「それは⋯友達だから。俺を守ってくれたから⋯。俺の人生を、晴れやかにさせてくれた唯一の人だから」

「それ、単なる俳優さんごっこに過ぎないから、ねぇ⋯メザーノール」

ラチルゼルの囁きボイスは既に終了している。ティリウス、周囲から武器を構える剣戟軍兵士にもその声が聞こえるような大声で言ってのける。

「⋯⋯メザーノール。そうだよね?俺が言ったことがあってるんだよね?⋯⋯⋯⋯友達⋯だよな?⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ティリウス、ごめん」

「え、、、、」

ティリウスの目を見る。

───────────────────

「俺は、ティリウスを友達だと認識した覚えは無い」

───────────────────


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は」

「すまない⋯本当に⋯⋯⋯」

「あとは自分で言えるね、メザーノールくん」

ラチルゼルがメザーノールから離れる。

「おい、解け」

ラチルゼルの指示によって剣戟軍がティリウスの拘束を解く。拘束していた剣戟軍兵士は包囲形態に移行。メザーノールに対しての攻撃を行う最終フェーズに突入した。

「⋯⋯ティリウス。俺は⋯ティリウスの器、、、肉体が欲しい」

「にくたい⋯⋯?うつわ⋯⋯」

「さっき、ティリウスは横になっていただろう?あの時、この浜辺には超越者の屍たちがいたんだ。超越者の中でそれは“叛贖体”と呼ばれている。叛贖体が二十六出現し、その全てがティリウスを“器”として認識し、身体の奪取を図った。俺はティリウスの身体を全力で阻止したよ。それは、ティリウスを救済したい⋯守りたい⋯っていう、正義心に溢れたものではなくて⋯。『盗られる』、『俺の肉体が盗られる』、『俺が奪う肉体、器だ』、『お前らなんか死に損ないの連中に盗られる筋合いは無い』。そんな気持ちだった。ティリウスの命を第一に考えての行動じゃなかったんだ。俺は、ティリウスを形作っている“器”が欲しい。俺のような超越者に憧れを抱いている⋯と小六の時に言っていたけど、俺は超越者が嫌なんだ。俺はティリウスの身体を頂く。魂はそのまま土に還る事になるが、ティリウスは俺と共に成る。この戮世界で、二人で一つの存在になれるんだ」

「ちょっと⋯⋯」

「ティリウスの身体が、何故、俺以外の超越者に人気なのかは分からない。恐らくは⋯確実視出来ないけど⋯恐らくは⋯、、、黄道十二星座が影響しているのだろう。ティリウスの誕生日星座は双児宮。俺の誕生日星座は宝瓶宮。一緒では無い、ゾディアックサインが功を奏する場合の方が確率的には多い。屍たちも、ティリウスと被らない誕生日星座だったんだろう」

「メザーノール!!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「友達⋯じゃないの?」

「友達⋯だとは⋯⋯」

「思ってなかったんだ⋯⋯俺の事は、ただの道具でしか無かったの?」

「違う⋯」

「違くないじゃん。友達じゃない⋯友達だと思ったことは無いって、言ってたの⋯アレ本意気の言葉じゃん⋯」

「ティリウスの肉体“器”を奪い取れるのであれば、とっくにやっていた。⋯⋯出来なかったんだ⋯。時間を共にするにつれて、ティリウスとの友情は強固なものになっていき、本当の友達のように思えてきた。いつしか自分の本来の目的を忘れかけていた時期もある。ティリウスの言動が、俺の性格と完璧にマッチングした事には、少なからずの感動はあった。それの影響で、ティリウス⋯。ティリウスとの時間は楽しかった」

「⋯⋯⋯何それ⋯⋯裏では、複雑な気持ちで俺と一緒に居たってこと⋯⋯?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「答えれない⋯回答拒否?」

「本当にごめん」

「んで、俺をどうしたいの?」

「⋯⋯⋯⋯ティリウスの器を⋯」

──────────

「上げる訳無いじゃん」

──────────

メザーノールの発言を遮るようにティリウスは言う。


「⋯⋯⋯ティリウス、お前の運命は決まってるんだ」

「はぁ?何、決まってるって。俺の人生に勝手に介入してくんじゃねぇよ⋯」

「ティリウス⋯お前は死ぬ訳じゃない。俺の身体の中で生き続けるんだ」

「もしそれが本当なら、お前の内側から細胞組織を爆散させて壊死させてやる」

「残念ながらそれは出来ない。ティリウスの魂は、器を俺が得たその瞬間に破棄されるからだ」

「さっきっから言ってることが意味わかんない」

「そうだよな。だから手っ取り早く、事を終わらせる必要があるんだ。それなのに⋯⋯⋯剣戟軍と七唇律聖教がお出ましとは⋯」


「お話中、申し訳ないけど、こっちも暇じゃないんでね。メザーノールがティリウスの器を奪い取ろうとするなら、ワシらは全力で阻止させてもらう」

「あなたたちは、味方⋯なんですか?」

「あったりめぇでしょー?ティリウスくん☆」

ラチルゼルはティリウスに手を差し伸べる。


「さぁ、こっちへいらっしゃい、ティリウス」

「⋯⋯⋯はい」

「ティリウス!だめだ!!」

ラチルゼルの手に触れようとした刹那、メザーノールがティリウスの行動を止めに掛かる。しかし、その姿を確認した姉・ピーチカがメザーノールに空間凍結魔術遺伝子を仕掛ける。

「残念だけど、ティリウスとの会話を終了させた貴様に、もう用はない。ここで貴様には死んでもらう」

「⋯⋯⋯しぬ⋯⋯⋯⋯ちょっと待ってください」

ラチルゼルの手に、自身の手を掛けたティリウスがピーチカの動きを止める。

「ん?ワシにか?」

「はい⋯。死なせるのは、やめてください」

「どうしてだ?メザーノールは超越者だ。戮世界にとって不要な存在」

「あーしも、ティリウスと同じ意見だよお姉ちゃん!」

「ん?ラッチも⋯⋯⋯」

「冷静になって考えてみなよ。せっかくの超越者をこうも簡単に殺してさぁ、ちょっと勿体ないなぁって思わないの?」

「たしかに、そうだな」


『シスターズ・プリミゲニア』

「あん?なに?今、ワシら取り込み中なんだけど」

海面にて待機中の突撃型戦闘艦パエトンの通信班が、シスターズ・プリミゲニアへの交信を開始。

『超越者は生きたまま捕獲。シキサイシアへの生贄として使用する事が決定した』

「おお、なるほどね。そう言えばその手があったか⋯」

「お姉ちゃん、あーしは分かってたよ」

「じゃあサッサとシキサイシアについて言えや妹が」

『シスターズ・プリミゲニア、捕獲だ。いいな?』

「上から目線で言うんじゃねぇ」

交信はピーチカの方から切られた。


「⋯と、言うわけで、メザーノール。お前はグランドベリートへの生贄として近日開催されるシキサイシアへの奴隷参加が決定された。良かったな、延命だ。延命」

「シキサイシアって⋯⋯⋯」

「ティリウスくん、君の友達は残り少ない人生を辿る事になる。ここからは別行動だ。メザーノールは奴隷帝国都市ガウフォン行きが決定。君とはここでさらばだ」

「グランドベリート⋯⋯メザーノールは、生贄に⋯?」

「ああ、そうだ。シェアワールド現象への生贄として扱うには持ってこいの人材だな。あーしは優しい判断だと思うよティリウス」

ラチルゼル、この女は感情の変化が激しい人間だ。喋る度に人格が増えたり減ったり⋯を繰り返し、増減だけで無く、その感情から派生する姿まで描かれていく。

「ティリウスは⋯⋯⋯死ぬ⋯⋯」

「撤収だ。てっしゅー」

シスターズ・プリミゲニアの空間転移によって、剣戟軍兵士は戦艦へ戻る。メザーノールがここまで全く、身動きもせず、浜辺にて沈黙していた訳は、ピーチカによる時間凍結と猛毒攻撃にある。時間凍結が成されているメザーノールの元へ、一本の軸線を通し、メザーノールの身体へ突き刺す。それだけでもメザーノールへは鋭い画鋲が突き刺さったような微小な痛さが伝わる。

痛さは、それだけで終わらない。『猛毒』という言葉にある通り、軸線から猛毒が流れ込まれ、メザーノールに突き刺さった胴体へ猛毒が侵入。立っていられないほどに、猛毒効果はメザーノールの身体を侵していき、細菌が滅殺していくような内側からの攻撃意図を感じ取る。メザーノールは内側にて引き起こされている細胞破壊の順列を次第に理解していき、内側にて遺伝子粒子の発出を開始。先程のシスターズ・プリミゲニアからの攻撃を相殺させた時は外部への放出によって砲撃を生成。だが今度は自分の体内を破壊しようと画策中の細菌レベルのナノサイズに対する攻撃。

こんなの産まれて初めてやる事⋯。メザーノールはどうしたらいいか分からずだが、やってみない事には、ここから自分の身体が内側から破壊されるのも待つのみ⋯と思い、異分子の殲滅を開始。



「じゃあ、一緒に行こうか、ティリウスくん」

「⋯⋯⋯はい」

メザーノールが拘束されていく姿を横目で確認。剣戟軍兵士が戦艦から持ってきた⋯というより、ワープさせて運搬してきた、特殊キャプチャー。これでメザーノールを戦艦まで運搬。剣戟軍兵士が時間凍結と猛毒に悩まされているメザーノールをキャプチャーにて固定しようとしている中、剣戟軍兵士の一人が時間凍結を受けているメザーノール側からの刺突兵器を浴びる。その兵士の心臓部分には風穴が開き、大量出血を起こす。刺突兵器はその兵士に開けた風穴から引き戻る。その際に尖端が兵士の胴体下腹部を狙い、一気に下降。胴体は真っ二つに引き裂かれ、更なる出血が焦点が生じてしまう。現場は大パニックとなり、急いでウェポンモジュールをコンバットにチェンジ。

「捕獲中止!!捕獲中止!!」

「目標が行動を再開!」

「繰り返す!目標が行動を開始!」

だが、そんな時間を与えず、メザーノールからは多数の刺突兵器を生成。戦闘態勢になる兵士、一定の距離を取り遠距離攻撃を試みようとする兵士。二つのどちらかに属する兵士達に向けて、刺突兵器が身体を貫通。

浜辺は鮮血の大地となり、酷い血液の匂いが漂う。ティリウス、シスターズ・プリミゲニアの二人には、刺突兵器の攻撃は一切浴びせられていない。兵士達各々の血液が飛散した事によって、非常に惨く、惨憺な浜辺が形成された中、三人にも多量の出血を浴びていた。だが直接的な攻撃は無い。


「やってくれたなぁ⋯あのクソガキ⋯⋯」

「お姉ちゃん⋯あーし⋯⋯こんなに人の血浴びたの⋯久しぶりだよ⋯⋯」

「ワシもだ⋯⋯」


「⋯⋯⋯殺ス、殺ス⋯、死んじゃエ⋯⋯」


「セカンドステージチルドレン。まさに、悪魔の再生か⋯あーしの嫌いな人種だ」


「メザーノール⋯なの、、、、」

メザーノールの元から高次元エネルギー波が発生。超速スピードで、自身の能力であるSSC遺伝子と白鯨ダイェソ等級、二つの異能が融合。赤紫と白色がティリウスの身を纏い、異種生命の予感を多分に感じさせる。


「メザーノール!」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」

メザーノールの元へ近づこうと試みる。案外、メザーノールに向かう道程というのはそこまで障害があるものではなく、浜辺は赤く染め上がり、所々に肉片と骨が裂け砕け⋯足元を注意すれば行けるようなものだった。


「ティリウスには、道を開けようとしているつもりなのか⋯あのガキ⋯」


SSC遺伝子と白鯨ダイェソ等級。二つの異能を掻い潜るにはそれ相応の技巧が必要と思われる。しかしティリウスはそんな障害を何のその、メザーノールから放出されているエネルギーを全く受けずに当の本人へ接近。最初、ティリウスはメザーノールに近づこうとした時、僅かな躊躇が確認出来た。


メザーノール。苦しいんだよね、そこに居て、俺がそっちに行くから。

俺を⋯友達と思ってない⋯?

そんなの、有り得ない。

メザーノールが俺を救ってくれたのに。

じゃあ今までの時間は?

世界は?

紡ぎ上げてきた物はなんだったんだ。

俺はもう、脆弱な人間じゃない。

⋯⋯⋯⋯⋯ほら、こうして、メザーノールにどんどん足を進めているけど、他の人間は全然近づこうとしてない。これってそうでしょ?

そういうことなんでしょ?

求めてるからだよ。

俺しか求めてないから。

今度は、俺がメザーノールを救済する番だ。


他サイトでも、投稿を開始しました。見て欲しいからです。

『リルイン・オブ・レゾンデートル』が全てだから。今の私にはこれしかありません。

私の人生そのものです。

是非よろしくお願いいたします。

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