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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾参章 蠱惑の泥濘トリックスター/Chapter.13“RearrangeLifeWithMetherknoll”
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[#108-浮遊大陸ニムロド]

[#108-浮遊大陸ニムロド]


律歴5595年9月2日──。


今日も今日とて中学校が終わりを迎えた。いつも通りの日常。いつも通りの匂い。いつも通りの人の賑わい。相も変わらず、俺はメザーノールとの時間と世界を楽しんでいる。こんな自分の価値観と合う存在、今後果たして現れるのだろうか⋯。俺は将来を不安になりつつも今をしっかりと楽しもうと思っている。何せ、メザーノールに残された時間は無限では無いから。決められた時間の中で俺は、メザーノールとの約束を果たし続ける。メザーノールが『いいよいいよ、俺は。ティリウスがしたい事をやっていこう!』と言っても、俺の意志が納得いかないんだよな。

メザーノールがどう足掻いても、俺の気持ちは変えられない。

⋯という訳で⋯


「はーい、ストップ!」

「ん?ど、どうしたの?」

「今日はちと俺のやりたい事に付き合ってもらおうと思う!」

「うん、いいよ!今日何しよっか。お母さんからいっぱい小遣い貰ったから色んなとこ行けるよー」

「いや、お母さんのお金は使わない」

「え?どっか行くんでしょ?」

「メザーノールのお母さんには頼りっぱなしだ。この前だって超高級ビュッフェのお金を払ってもらってさ」

「それはいいんだって。いつもお母さんは『ティリウスくんに』ってなってるんだから。お母さんは感謝してるんだよ?ティリウスに」

「それはもう十分伝わったから。今日はお金を“そこまで”使わないことをしよう」

「ん〜、、、まぁティリウスがそう言うなら良いんだけど⋯」

「うん、ありがと」

「ンでぇ、どこ行くの」

「浮遊大陸見に行こう」

「⋯⋯⋯⋯⋯マジでぇ?」

「うん!行こう!」

「え、、、いま、、から?」

「うん!行こう!」

「ティリウス⋯⋯⋯何時間掛かると思ってんの」

「ざっと2時間とか?」

「もうそん時夕方になっちゃうぜ⋯?」

「だから、でしょ?浮遊大陸の瀑布を一度でもこの目で見たいんだよ」

今いるブラーフィ大陸の南西区域に位置する“シャバルキュール”に俺のお目当ては存在する。浮遊大陸“ニムロド”。原世界とのシェアワールド現象の確立化によって、様々な地形変化を発生させてきた戮世界テクフル。時には環境問題に発展しかねないものも存在するのは事実。そんな中でも、原世界からの同期によって美しい景観を生み出すパターンがあるのも事実なのだ。

それの一種に上げられるべきものというのがニムロドであろう。その名の通り、浮遊大陸というのは現在足を着かせているブラーフィ大陸から離れ、海の上に浮遊している大陸の事を言う。戮世界テクフルとして、シェアワールド現象によるものだ⋯と論ずるものも居れば、これは古代アインヘリヤル降誕時代から存在しておりテクフル環境の平穏化によって視覚化出来たものだ⋯と提唱するものも少ないがいる。だがまぁきっとこれは原世界からのシェアワールド現象であろう。俺は、そう思ってる。

ニムロドからブラーフィ大陸海域には、滝が流れ落ちている。当該現象が『瀑布』として認識してもいいものなのかは、よく分からないが、光景的に言えば⋯滝が700m以上の天空から流れ落ちている姿を見れば『瀑布』として認識してもいいのかもしれない。


「あれ、凄いじゃん。瀑布。綺麗だと思うよ⋯肉眼で見たらより感動するだろうね」

「まぁそうだね⋯⋯⋯行ってみよっか!」



こうして、西方区域“バシメス”から南西区域“シャバルキュール”へ。

俺とメザーノールは電車に揺られ向かった。シャバルキュールはかなりの田舎。ここまで何も無い、所謂、平地的な場所に降り立ったのは初めてだ。車窓から見る景色はこれまたすごいものだった。

「ティリウスティリウス!見てよあれ!」

「あ⋯⋯あれかな⋯」

「ニムロドってもしかして⋯アレ?」

「うん、雲海でちょっと見えないけど⋯⋯」

え、車窓からもしかして見えちゃった⋯?まだまだニムロドの観測ポイントまで距離あるんだけど⋯。浮遊大陸ニムロドを観測出来るポイントは、インターネットで調べれば簡単に出てくる。要は皆既日食、観測衛星接近⋯のようなイベントだ。複数の特定条件が出揃い、重なった場合にのみ訪れる至福のとき。今日を選んだのはその、偶然の一致が生まれる⋯とネットに記載があったから。

「地上700メートルとかじゃなかったっけ⋯」

「うん⋯けっこう、上にあるね」

雲海。特に真新しい光景では無い。だが、何か異質な雰囲気を漂わせているのは事実だ。まるで浮遊大陸ニムロドを警戒巡視しているように、ニムロドを囲っている。

あ、さっきっから、ニムロドを肉眼で確認できている⋯ような言い方をしているが、俺とメザーノールが視覚しているのは雲海によって生まれたニムロドの影像のみ。

「ここから⋯見れるけど⋯間近で見たらもっと凄そうだな」

「ティリウスは、こんなんじゃ満足しないもんな」

「もちろん。こんなのネットで調べて出てきた画像と一緒だよ」

「曇りガラスの向こうあって、それもまだまだ遠い場所にあっちゃあ、肉眼視覚なんて呼べないもんね」

「そうよ。そういうもんよ」



そして、行き着いた浮遊大陸ニムロドが見えるポイント近く。


ブラーフィウエストライン ジャリアベル駅──。


「人、あんまいないな」

「そうだね⋯でもまぁ電車の中も、そこまで混雑してなかったし。それに運が良かったよ」

「ティリウスさ、事前に調べてたんでしょ?他にニムロドが見える観測ポイントってあるの?」

「うん、あるね」

「あ、、そうなんだ。じゃあみんなそっちに行ったのかな⋯」

「その可能性もあるね」


先程、車窓から観測出来たニムロドの影像だが、最寄りの駅を降車したら見えなくなってしまった。電車の接近に伴って、浮遊大陸も移動しているのだろうが、影像すらも視覚不可能に陥るとは思わなかった。事前準備段階なら、あの時に見えていた影像を頼りにニムロドを追おうと思っていたけど、これは観測方法を変えなきゃいけなくなるな⋯。

そんな悩みに包まれた中で、メザーノールは俺を心配してくれる。

「あれ、ティリウスくん、ひょっとして〜」

「ごめん、思ってた感じと違って⋯こりゃ簡単にニムロドを抑えるのは厳しいかもしれない」

「えぇ〜〜〜ちょっと〜隊長、マジっすかぁ」

「ごめん⋯⋯⋯」

「んプフ⋯ウソウソ、ぜんぜん気にしてないけど、、、だいじょぶそ?」

「正直分からない⋯。俺は車窓から見えてた影があったじゃん?それを追うつもりだったんだ」

「それ以外に方法は?」

「その他の場所に移動する⋯しか⋯⋯」

「げっ!?それってちなみにどこ?」

「ブルーノンティのブレックバロック⋯」

「北方区域!?!さすがにこの時間からブルーノンティ向かうのはキチィなぁ⋯⋯」

「ごめんな⋯自分から誘っておいて⋯」

「いやいや、それはぜんぜん問題ないよ。俺もけっこう楽しみにしてたし、残念だなぁ⋯うーん⋯でも、諦めるのは違う気がするんよ」

「また、、、今度⋯かな」

「いや!ティリウス、まだ行ってみようよ」

「行ってみるって言ったってさぁ⋯」

「せっかくここまで来たんだし⋯それにニムロドって確か移動すんじゃなかったっけ?」

「うん、それが原因で今、見れなくなったんだ⋯」

「じゃあ歩いてる途中で急に出てくるかもしれねぇって事でもあるわけだ」

「んンンン〜⋯」

考えられない事では無い。実際観測衛星基地局が定期的に発信している浮遊大陸ニムロドの行動パターンを模擬的にシミュレートした実験内容が都度一般公開され、それを見るに多種に渡る移動様相が成されているのが判る。

確かに俺は狭く考え過ぎていた。別に今日だって、過去の行動パターンが重複されるとは限らない。今日新規の移動形式を行う可能性だって捨て切れないし、なんならデータに無い情報を自分達の足で掴めるのは、なんだか嬉しい。すごい満足感が、多幸感がありそうな予感がしてきた。

「うん、分かった。このまま雲海を辿ってみよう!」

「そう来なくっちゃだな!」

なんかメザーノールに誘われてニムロドを目指しているみたいな感じになってしまっているな。

そうじゃないぞ。俺が浮遊大陸ニムロドを見よう!⋯と誘ったんだからな。

頼むぞ、俺。

しっかりと、その立場だけは危うくなるなよ。メザーノールは直ぐ、自分のものにしたがる癖がある。そこに異議あり!とかそんなんは無いんだけど、せっかく俺側からの提案なんだから、今日だけは⋯“今日だけは??”⋯俺のプランで行動して欲しいなぁ⋯とは思う。


「あ!ティリウス!団子屋さんあっぞ!軽食しね?」

「⋯⋯うん!食べよっかなぁ!」

言ってる傍からじゃねぇか⋯⋯。


「すみませーん」

「はいはい、いらっしゃいませ」

白い割烹着を着装したお姉さん。めっちゃくちゃに綺麗な人だな⋯。髪も後ろに纏められていて、なんというか天空⋯うん、可愛いとしか表しようが無い。パッと一瞬、これを見たメザーノールの反応が気になったので、ちょっと前方にいるメザーノールの表情を覗き込んでみた。

「すみません、団子以外にも色んなのありますけど、何が人気なんですか?」

めっちゃ平静保ってる⋯⋯⋯!!それプラスアルファで、眼差しもキンキラだよ⋯⋯⋯。

なんか俺の反応がバッカバカしくなってくるわ。いや俺の反応正常よな。普通にこの人綺麗すぎて失神する価値すらもあるぐらいの女性なんだけど⋯。

「スイートポテトが人気ですね」

「スイートポテト⋯⋯ティリウスはスイートポテト好きか?」

「⋯⋯あ!う、うん⋯ごめん、あの、、、なに?」

「もお、なんだよティリウス。ちゃんと話聞いとけよな。ここは団子屋さんだけど、スイートポテトが人気なんだって」

「あ、そうなんですね。すみません⋯」

「いえいえ、大丈夫ですよ」

こっちは全然大丈夫じゃない。ちょっと普通に見惚れてしまう綺麗さだ。

「スイートポテト以外にも、豆大福、いちご大福、シャインマスカット大福、あとこの変わり種でフルーツサンドも、女性の方に特に人気ですね」

「フルーツサンド⋯⋯これ、凄いですね⋯⋯えぇ?なにこれ⋯ティリウス知ってるか?」

「うん、まぁ知ってるかな。いっぱいホイップクリームが中に入ってて、ジュワーって果物が溢れてて、ドバアっと、出てくるんだよ」

「なんか擬音が入れ替わってる気がするんだけど⋯」

「え?」

「『ジュワー』が『出てくる』。『ドバア』が『溢れる』⋯じゃねぇか?」

「いやいや違うでしょ。俺が言ったことの方が合ってるよ」

「いやいやいやいや、それは無いな百ない。百絶てぇ無い」

「じゃあこの方にキメてもらおうや」

「おうーいいじゃねぇーーかぁ、女性票がちょうど欲しいと思ってたんだよ」

ティリウス、メザーノールは女性スタッフへ瞬時に顔を向ける。どうしたらいいか、一瞬狼狽えた居様を見せたが、

「私は、『ジュワー』が出てくる。『ドバア』が溢れる⋯だと思いますよ」と言い、メザーノールに一票が入る。

「ティリウス、女性が言ってるんだ」

「たった一人の票で何事も判断してはいけないと思うぞ」

「⋯⋯⋯どうすんのさ。ここ⋯⋯」

メザーノールが店舗を出る。


「誰も!!!どこにも!!人の姿が!!!無いンだけドゥうぉ!?」


店舗を出て、右、左、前、そして、店舗入口。多方向に目線を向けながら、ハイパーボイスにて展開された、メザーノールのユーモア溢れる表現に、女性スタッフからは笑みが零れる。それと共に、『何事⋯ですか、、』と言わんばかりに、奥の方⋯厨房からもう一人二人⋯と別の女性スタッフが近づく。こちらの両者もとても綺麗で美しい方だ。


そんな女性スタッフの困惑した表情を見て、俺は現実に引き戻されたようにティリウスとの“投票劇”を終了させる為に動く。

「メザーノール!うるさいって!迷惑になってるから!」

「え、、、、あ、、、、、、ごめんさい⋯⋯」

「お客様⋯⋯⋯⋯

───────

何をご注文ですか?」

───────


「豆大福と!みたらし団子!それにフルーツサンドも!お願いします!」

「はい、かしこまりました〜」

笑顔で対応してくれた店員さん。きっと心の中は『コイツらなんなんだ⋯』と思われてるに違いない。ここは少し店舗に迷惑になってしまった為、なるべく多めに注文する事にした。まぁ、直ぐにニムロドを発見出来るわけが無いだろうし、気楽に歩きながらバクバク食べる事にするか。

「店員さん!」

「はい、どうされましたか?」

俺らが注文した商品を紙袋に入れている中、メザーノールが店員さんに声掛けを行う。

「あの今見えてる雲海の向こうに、浮遊大陸ニムロドあるんですよね」

「そうですね。あ、もしかしてお二人はニムロドを目指してここまで来られたのですか?」

「そうです!バシメスからやって来ました」

「あら⋯それは残念だわ」

「え、どういう事っすか?」

メザーノールのテンションが急落下。

「浮遊大陸が姿を現すことはもう無いと思うわ」

「え⋯⋯⋯⋯いや、、そんなことは⋯」

「ティリウス、マジで?」

「えでもネットで調べても⋯⋯」

調べ上げた携帯に表示された観測衛星によるホームページを見ても、そこには浮遊大陸ニムロドが“本日観測可能”と記載されている。

「これはいったいなんですか?」

俺は店員さんにその画面を見せる。

「うーん、、、でまかせじゃないの?それ」

「そんな⋯⋯⋯」

「よくいるのよ。その情報を信じて、ここに来る人。この店の窓を通る人が増えてくると、『あー、今日情報出てるんだねー』ってみんなで話すのよ」

「ティリウス⋯⋯⋯どうする?」

「⋯⋯⋯⋯参ったな⋯⋯⋯」

「地元の人が言ってるんだから、そうなんじゃねぇの?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

悩む⋯。店員さんが言ってるしな⋯ただ、観測衛星による接近情報が不確かな情報だとはとても思えない。

大陸が運営してる衛星だぞ?そんなあやふやなデータを公開するものなのか?

「ただ、たまにだけど、本当にニムロドが地上から見える日はあるわ。本当に確率は低いけどね」

「本当ですか?」

ティリウスの目が覚めたように、店員さんへ迫る。

「ええ、そういう日に限って店舗前を通る人がいないのよね。きっと観測衛星からの接近情報が無かったのね。なんでだろうね、観測衛星が接近情報を出さない時にはニムロドが顔を出して、情報が出た時にはニムロドは顔を出さない事の方が圧倒的に多い⋯」

「メザーノール、行こう」

「⋯まぁ、俺はティリウスが行くって言うならどこへでも行くつもりだけど⋯⋯⋯」

「最終的に決断するのは君達だけど、気をつけてね。夜になるとここは危険だから」

「何が危険なんですか?」

ティリウスが問い掛ける。

──────────

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

──────────

「放射能汚染が拡がってる地帯の近くだからよ」



団子屋で和菓子などを購入した。店舗を出て、雲海に沿って俺達は歩みを進める。雲海は海の真上に位置している。もちろんそんな場所を歩ける訳が無いので、海浜まで行き、なるべく近くで雲海を眺望しながら進める場所にやってきた。別に天高い場所に雲海はあるので、少し遠い所からでも見えるっちゃ見える。だがニムロドが隠れる遮蔽物的な自然環境というのは、周りを見渡しても、雲海しか存在しない。本日は天気も良く快晴だ。

それでいて、この地帯の特定部分のみに雲海が拡がる⋯。もう完全に浮遊大陸ニムロドを隠している⋯としか思えなかった。

俺達は進んだ。色々と紙袋から取り出し、団子を食ったり、スイートポテトをかじったりしながら。

「あ、スイートポテトめちゃ美味しい!」

メザーノールの感想が飛び交う中で、俺は食べやすい⋯かな⋯と思っていたフルーツサンドに手を挿頭す。しかし俺の予想とは反して、かじった瞬間に大量のホイップクリームが飛び出して来た。知らない訳じゃなかった、こういう商品⋯こういう商品こういう商品⋯だということを把握していたにも関わらず、ホイップクリームの奇襲を迎撃する事が出来なかった。口の周りはホイップクリームで溢れ、その顔面を見て、メザーノールは待ったナシに笑い転げる。


こんな事をしていたら、海浜の果てまで来てしまった。外観を気にしていなかった訳じゃ無いけど、ちょっと2人だけの世界に入り浸り過ぎた。この間にもし、ニムロドが姿を現したら大変だ。まぁ、さすがにそれは無いだろうな。

⋯無かっただろうな。メザーノールだって一緒に、並行移動していたんだから。中学生2人が歩いていて目的のものに気付かず、そのまま歩行を停止させない⋯なんてそんな馬鹿な事があり得ると思うか?

⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ごめん、有り得そう⋯⋯⋯。

ヤバいかも。

「メザーノール⋯⋯⋯」

「うん?海浜までの端っこまで来ちゃったな」

「あ、うん⋯⋯そうだね」

メザーノールが話を展開してくれたのでそっちに話を合わせる事にする。今、俺が聞こうとした事は、大した問題じゃない⋯と考えているからだ。本当に、浮遊大陸ニムロドがこの集中力が切れていた中で現していたら⋯⋯アレ⋯なんだけど⋯。

「あれって⋯なんだ?」

「ん???な、なに?」

「あそこだよ」

「え、、、どこ?」

メザーノールは指を指す。それは海浜の端っこまで来ていた俺らより向こうの⋯壁の奥を指さしていた。

「メザーノール⋯壁だけどこれは⋯⋯」

「え、、、、ちょっと、この壁越えよう」

「越えるって言ったって⋯⋯あ、あの道⋯」

海浜を渡っていた俺ら。行き止まりとなっていた壁の近くに、もっと奥に進めそうな道無き道を発見した。

「この道からなら、壁を越えられそうだな。スイッチバック方式」

「あっち行ったり、こっち行ったり⋯面倒だな⋯」

「ティリウス、これを進めたらその先にニムロドが待ってるかもしれないぞ?」

「はぁ?いや、空にあるんだぞ?ニムロドって。浮遊大陸なんだから、見えてるんだったらここからでもとっくに見えてるよ」

「浮遊大陸と言っても、高度的な問題はどうだ?」

「あ、、、、」

「海面から近くを浮いてても、実質それは“浮遊大陸”になるわけだろ?じゃあここから見えなくても何ら、不思議な事じゃない」

「浮遊大陸⋯別に、天高いところにある訳じゃない⋯とでも言いたいの?メザーノールは」

「戮世界テクフルは、全ての事象に対して違和感を感じる事が大事なのだよ」

「一丁前に言いやがって」

「アハハハハハハっ!さっ、どうすんの?面倒な道を歩いて未開拓の土地を歩むのか、ここでギブアップして、30分間かけて駅に戻るか」

「はぁ⋯タクシー呼べばいいだろうが⋯⋯わかったよ。最初に言ったやつに賛成だ」

「そう来なくっちゃな」



道無き道。良くもまぁこんな所を歩いているなぁと思う。草木が生い茂り、最低限の轍的に整備された泥の道が、進んでいくと見えてきた。もうちょっと前から整備して欲しかった。まぁそれぐらい、ここを通る人間が少ない⋯という事か。ちょっと進んで整備された歩道が現れた⋯という事は、本来この道は入口からも歩道が整備されていた可能性がある。しかし、入口だけ途絶え、中間地点とまでも言えない部分から道が見え始める⋯。

「これさ、入口で諦めて帰ってる人が多いってことだよね?」

「ティリウス、間違いなくそうだね」

「それってさ⋯⋯⋯なんなんだろうね」

「なんなんだろうな。変な空気感じるか?」

「ううん、俺は感じないけど」

「そうか、俺はもうプンプン感じるんだがな」

「え、、そうなの」

「ああ、さっき、指さした方向があるだろ?その方面にから俺と同一の魔力を感じるんだよ」

「は⋯⋯⋯⋯それ、どういうこと」

「超越者がいるっていうことだよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯えちょ⋯」


「落ち着いて聞いてくれよ。ティリウス」

「⋯え、、あの⋯⋯⋯⋯⋯ん?え、、なに⋯⋯」

困惑。それしか今の感情が芽生えない。ティリウスの歩みが止まる。

「今から俺らは超越者反応が検知されている場所に向かう。最悪の場合があるかもしれないから、その時は直ぐに逃げてくれ。俺が合図するから。ティリウスには悪いけど、あの時、指を差した時点で逃げてももう無駄だったんだ。『さっさと教えといてくれよ』なんて言わないでくれ。思っとくだけなら幾らでもいいから」

「え、、あ、、、、、わかった⋯⋯分かったけど⋯メザーノールは?今から何をする気?」

「超越者を見つける。仲間を救済出来るかもしれないからだ。だが、その超越者の感情臨界によっては無関係の人間を巻き添えに及ぼす危険性・有害性を帯びる事も十分に有り得る。絶対にその時はティリウスを守る。俺がその超越者と戦闘を展開し、仮に死に至る負荷を負った時⋯俺はティリウスを守れず殺されてしまうかもしれない」

「ちょ、、、そんな⋯いや待ってよ⋯⋯そんなつもりで俺は⋯」

「わかってる。俺だって浮遊大陸を見に来たつもりだ。なんだけど俺の目的は途中から変更された。今ではニムロドを確認する事よりも優先すべき事案が発生している。敵か味方か⋯。その全てを俺が判断しなければ⋯戮世界テクフルの未来が決まる重要なイベントが起きようとしているんだよ」

「⋯⋯⋯⋯⋯メザーノール⋯⋯⋯俺は⋯⋯メザーノールの近くに居たら⋯いいわけ?」

「ごめん、取り敢えずは近くにいて欲しい。遠くにいても、結局見つかってしまうだろう。かと言って、今から逃走なんて不可能だ。もう既に、向こうにいる超越者が俺らの反応を察知しているはずだからな」

「嘘でしょ⋯⋯⋯」

「肉食動物。遭遇してしまった場合、急いで足を動かし、その場から離れようとすると、肉食動物は獲物を捕らえようとする為に、襲撃を実行する。しかし、大人しく何もせずボーッと突っ立っていれば、肉食動物は襲って来ない。⋯これ、聞いた事あるだろ?正しくそれだよ。超越者の警戒神経を刺激させちゃダメなんだ」

「わかった⋯メザーノールに⋯⋯⋯し、、し、ししししだかう」

震える声。状況を上手く飲み込めないまま、メザーノールの発する言葉に呼応し続けるティリウス。

「ありがとう」

歩行を再開させる2人。


3分経過──。


辺りは夕方。海浜には等間隔に街灯が設置されているため、それで何とか視覚的には問題無くエリアを把握する事が出来た。なのだが、メザーノールは身体から光源体を発生させ、それをメザーノールに随行指示。光源体は照明の役割を果たし、ティリウスとメザーノールが歩く範囲を大きく照らしてくれた。

「すごいね⋯超越者って」

「凄くないよ。そんなに、、」

「出来ない事なんて、無いんじゃないの?」

「どうだかな⋯それは、今の自分だと分からない。先代の超越者は規模的にも大掛かりな能力を保持していた⋯と聞いた事がある」

「へぇー⋯それはどういった類のものなのか判る?」

「殺戮兵器さ」

「⋯⋯⋯⋯⋯さつりく、、へいき」

「“超越の帝劇”。知ってるだろ?」

「うん⋯もちろん。戮世界テクフルの住人に知らない人間なんていないよ」

「あの時代から継承される遺伝子エネルギーは異常値を示していた超越者が何人もいたらしい。何かドーピング的な、危険な人体実験を行い、人工的な進化を実行したんだろうな。戦争に勝ちたいから」

「内乱⋯だよね。セカンドステージチルドレン同士の」

「ああ、玉唇派・ニーディール。桜唇派・エレリア。夫婦の対立。⋯⋯⋯⋯グロいよな」

「うん、まさに伝説⋯って感じのお話だけど、やっぱり未だに信じられないんだ。今から約1500年前に起きていた事とは⋯」

「ティリウスは、1500年前を最近⋯だと思ってるの?」

「うん、俺は、その感覚かな」

「そうか⋯俺はけっこう昔だと思ってる。この違いってなんだろうね」

「え?別に人間なんだから、違う価値観によって生まれた回答じゃないの?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯超越者と普通人間の差異⋯」

「ちょっと⋯そんなこと言うのやめてよ」

「ごめん⋯勘違いしないで。通常人類の思考に欠陥があるとかそういう事を言いたいんじゃないんだ」

「⋯⋯⋯分かってるよ、そんなこと。メザーノールが他人を傷つけるような事、言わないっていうのは分かってるけど⋯あまりにもな“刺し”だったからさ、言葉の」

「ごめん⋯ティリウス。⋯⋯あ、道が無くなった」

「え、、でもまだ続きが⋯」

ティリウスの肉眼からは、まだ歩道が続いている。泥の道。まだそれが見えているのだが、ティリウスは『道が無くなった』と言及。

「⋯⋯⋯メザーノール?」

「⋯⋯⋯ティリウス。俺の後ろにいて」

「う、うん⋯分かった」

メザーノールが右手を胴体と平行になるよう、真っ直ぐ前方へ差し出す。

すると人差し指が、何かに接触した反応を示す。直後、今まで見えていた世界とは一変したものが移ろい変わる。自然的な光景が今までは見えていたのだが、メザーノールの接触によって、六角形の模様が発生。その六角形は次々と現れていき、新世界の創出に躍り出た。

「ティリウス、俺と同じ匂いがする奴を発見した」

「そいつは、敵?味方?」

「⋯⋯⋯⋯言っても未来は変わらない」

こっからです。

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