[#107-ケルティノーズ家×セフェイガ家]
ド派手な展開⋯もうちょい待ってください。
[#107-ケルティノーズ家×セフェイガ家]
驚かない⋯なんて言葉は嘘になる。俺が避けてた相手は、俺を想ってくれていた⋯。俺が勝手な解釈と独断先決でメザーノール追い詰めてしまっていたんだ⋯。なんて俺という人間は出来ていない人間なのか。
俺は俺の過去を呪いたい。そして今、こうして生きてる俺を叱ってやりたい。ただ、この叱り方というのも全く納得がいかないと思う。
起こってることが多過ぎる。
メザーノールが⋯超越者⋯⋯⋯。
あの⋯⋯⋯忌まわしき歴史に残る閉塞戦争の首謀者家系の血分け。俺はあまり超越者に関する正史を熟知している訳じゃないが、断片的には知っている。いや、知ってなきゃおかしいぐらいだ。メザーノールからはそんな、逆悪的な人間性を感じない。なんなら、俺なんかに優しく接してくれて、更には自分の立ち位置が失われてもいいような素振りで、俺のイジメ問題と向き合ってくれそう。
これも、なにかの騙し⋯⋯?
思いたくない。何故だが、彼だけは信用出来る。根本的な理由を言語化するにはまだ自分が、先程言及した『納得のいかない部分』というものに該当している。俺だって彼を“根から頂まで”信頼をしたい。
ただ、ごめん⋯。
君にはどう映っていたのか知らないけど、俺はまだメザーノールを100パーセント信じれる対象にはなれない。たぶんだけどこれはきっと、きっと⋯⋯うーん⋯⋯言いたくない。
言いたくないよ。
言いたくないもん。
あんなに俺の目を見て、
話してくれる存在なんて、もう⋯現れないんじゃないかな⋯。自分って臆病でもあり、こんな世界を望んでいたんだよ。ただもちろん、、限度ってもんはある。
急に後ろから蹴られたりさ⋯そんな世界は別に希望じゃない。どう足掻いても、この世界から脱却するのは困難だ。俺以外の全員が敵対視している。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯全員じゃない⋯とは言い切れないけど、そっちよりに相当しそうな男が一人いる。
震えながら眠る夜なんて、ほとんど毎日だ。
明日もあの世界に飛び込まなきゃいけない。
また⋯⋯⋯。
まただ⋯⋯⋯。
布団にくるまっても、包み込まれても、時間が経過する概念に変更の余地は無い。抵抗なんて出来ない。俺の気持ちの一切をドブに捨てる、時間と世界。
俺はちゃんと真っ当に生きてるだけ。
それなのに、世界とは窮屈。時間とは理不尽。
そして、不平等。
力が欲しい。
何にでも変え難い、力が⋯欲しい。
⋯⋯⋯メザーノールは、超越者。
力がある。
権力という意味でも、力を持つ。
メザーノールともっと関係を深くすれば、俺も超越者になれるのかな⋯。そもそも超越者にどうやったらなれるんだ。
血筋か⋯。なろうと思ってなれるものでは無いか。もし、なれる方法があるのなら、俺は即座に行動へ移すと思う。今の考えは恒久的なものであり、仮に超越者になれたとしても、損失されるものでは無い。超越者の力を行使し、自分は恐らく、後悔もする。
だって⋯きっとね、まだ判らないけど⋯どのような手段を用いて動けるのかも知れないけどね⋯でもやっぱり、今は俺を相手にイジメの限りを尽くしている人間達を、俺は殺そうと思ってる。他人の血液なんて見たくない。だけどそういった時になると、見なきゃいけなくなる。
その時、俺は俺の行為を許せるのかな。
許せもするし、許せないとも思う。
これってメザーノールに聞いたら、回答してもらえるものなの?
一般の家庭に生まれた一個人の小六男子が目指す対象では無いことも分かってるんだけど⋯メザーノールの正体を知ってしまった以上、俺の未来はほぼほぼ決定したように思える。許す許せないの問答を覚悟しつつ、今日流れた時間と世界の不可逆性について、脳内で処理していくことにする。
◈
律歴5592年10月31日──。
原世界ではこの日を“ハロウィン”と呼称しているらしい。俺にはそんな事、どうでもいいのだが原世界の文化から多分な影響を受けている戮世界でも、この日は特別指定が成されている。ハロウィン⋯か。最後に楽しんだハロウィンっていつなんだろうな⋯。良く考えてみれば、ハロウィンを純粋に楽しんだ日なんて一度も無かったかもな。表面では楽しんだ感じを見せておいて、小時間の狭間⋯みんなが思い思いに各々で楽しんでいる狭間のような空白を縫って、俺は大便器へ直行。腹ん中に溜め込んだ食物を出来る限り吐き出す。別にそのイベント内で食べた物が不味かった⋯とかそういう事じゃ無いんだけど⋯俺としてもこの感情は上手く説明が出来ない。
ごめんなサき。お腹の中に溜め込まれたモノを吐き出すには、この方法しか無いと見えていた。口腔奥へ、手をズッポリと押し込み、喉元への接触を果たす。とてもいい思いとは言えないけど、これで俺は満足する気分に達する。色んなモノが出てくるけど、その中に俺を侵す不必要なモノもあった。
全部出てくる。ありがたいことに、全部が容赦なく、ドバっと流れる光景に、俺は一種の快感さえも覚えた。
ハロウィンは、俺の口から不必要なモノを出すイベント。
この日がやってくる度にそう思っていたのだが、今年⋯新たな記憶が脳内へ深く刻印される事となった。
10月21日。あの日、メザーノールが俺を学校から抜け出させた日。そして超越者である事を明かされた日。他にも少しばかりの感情を起伏させる要点があったと思うが、今はこの2つだけをピックアップしていこうと思う。
ピックアップ⋯?ピックアップ、というか、“意識”していこうと思う。頭の中で整理して、念頭に置く。
意識しておかないと、不要な記憶と共に処理されそうになってしまうから。俺ってそういう人間。嫌な気持ちになるような思いしかここ最近は無かったから。メザーノールとの時間は凄く良かったけどね。でもそれも、結局は流されちゃいそう。⋯⋯⋯気をつけなきゃ。
小学校が終わり、放課後。俺は家に帰宅していた。メザーノールと帰ろうと思ったが、今日は用事があるらしい⋯。ここから先、俺には詮索するような自信が無かった。答えてくれなさそうだな⋯と思ってしまうんだ。
その2時間後。俺の携帯にこんなメッセージが届いた。
『終わったよ。もう全部。今から会える?』
メザーノールからのメッセージ。ちょっと怖かった。怖かったんだけど、なんか⋯この言葉の意図というものは薄々感じ取ることが出来た。俺は急いでメザーノールの元へ。メザーノールが場所を指定してくれたのは、駅近くの公園。学校からはちょっと遠いかな⋯と言った距離感。あの日の公園を指定しなかったのは、放課後だから⋯生徒の行き交いを考慮しての事だろう。
マイアスキード駅近くに行くと、メザーノールはまだ来ていなかった。
18時⋯。秋、この時間⋯俺らのような小学生は駅近くを彷徨かないよう、学校からは注意されている。それは単純だが、危険な人物が蔓延る時間に突入するから。
⋯⋯いや、18時は流石に早いだろう⋯とは思うのだが、実際マイアスキード駅のバスロータリーや、改札前を見てみると⋯何かと物騒な物事を吐き散らしたり、ずっと地面を見続けて正面を見ずに歩行したり、両手両肩に重い荷物を背負ってきつそうな表情を見せながら、改札へ向かったり⋯と、“危険”というか、『あ、今日頑張った大人たちがこんなにいるんだなぁ』と思わせられる光景だった。
特に嫌な気はしないけど、大人にはなりたくないなぁとは感じたな。
そういえば、超越者は20歳までしか⋯⋯
「ティリウス?」
「あ、、、メザーノール⋯⋯」
改札前、思考を巡らせていた俺は現実直視から離れていた。突然、自分の名前を言う人間が現れた事により、少しの驚きを見せてしまう。ちょっと恥ずかしかった。キモイ男の顔になっていないか、心配になる。
「ごめんな、急に呼び出したりしちゃって」
「ううん、今日なんか用事があったんでしょ?」
「まぁね。それが終わったからティリウスを呼んだんだ」
「あー⋯そうなんだ⋯⋯んでぇ、そう言われると、その用事っていうのが気になっちゃうんだけど⋯」
「うん、大丈夫。隠す必要がもう無くなったから」
「“もう”?それは⋯⋯」
「ティリウスには、今まで明かせなかったんだけど⋯というか、今日だね今さっき」
「⋯⋯?」
たどたどしい。今までのメザーノールからは感じ取れないものを帯びているような気がした。
「さっきね、ギラーフ達と話し合ってきた」
「え、、、、、」
「それでね、この前言ってたマザーテープ、これを使って『もう終わりにしてくれ』って言ってきたんだ」
「ちょっと⋯⋯」
「これでもうギラーフ達からいじめられる心配は無いから」
「いや⋯⋯」
俺は言葉を発している。発しているつもりなのに、メザーノールはどんどん話を展開させていく。聞こえてるのに、なんかぼんやりと⋯そして、声に残像が発生。その残像間によって伝わる音というのは、聴覚機関を刺激するに相当するものでは無く⋯。声というのはもっと明瞭に伝わるべきものなのに、全然聞こえなくなる。こう、俺が苦悩している中でもメザーノールは話を継続中。だが聞こえない。視覚はこんなにハッキリと彼を捉えているのに⋯。
「─────でね、俺はギラーフ達と決別したからさ」
「⋯⋯ん?」
何故かそこだけはっきりと聞こえた。
「ギラーフ達と、決別したの」
「え、それは⋯⋯⋯大丈夫なの?」
「うーん⋯⋯大丈夫か大丈夫じゃないか⋯って問われたら、大丈夫!」
笑顔のメザーノール。これが本心だとは今のところは思えない。
「ギラーフは⋯ここからメザーノールに何か悪巧みを仕掛けてくるとかは⋯」
「そんなの無い無い!別に友達をやめた⋯とかな訳じゃ無いから。ただただ縁を切った⋯っていうだけ」
「それが⋯“決別”なんじゃないの⋯⋯⋯」
「まぁ、そうかもね。アッハハハハッ!」
「メザーノール⋯本当に⋯⋯」
「だから、今日から俺はティリウスだけが友達」
凄く優しい言葉で、俺を包み込んでくれるメザーノール。
「ごめんなさい⋯」
「ん?どうしたの?」
「メザーノールの人生が⋯⋯」
「何言ってんだよー。人生なんてまだまだここからでしょ?まだ子供なんだから」
「ギラーフ達から嫌われた⋯と捉えても何ら問題無いよね」
「あーそうだねー。マザーテープを聴かせ始めた瞬間のみんなの顔は忘れられないね」
「それ⋯⋯本当に聴かせたの」
「うん!これがね決定打になった感じかな」
「ギラーフ達は⋯⋯」
絶対に何かやり返してくる。しかもその矛先は俺に向くだろう。俺のせいで、メザーノールとギラーフ達の関係性に亀裂が生じたからだ。それを言及しようとするが、メザーノールは俺の発言を遮って⋯⋯
「もういいの!ギラーフとは決別したの!俺が良いって言ったからもうそれでいいんだって!」
「⋯⋯⋯わかった⋯」
「よし。じゃあさ!今から夜飯、食いに行かね?」
「い、今から⋯⋯?」
急ハンドル。いきなり話が切り替わった事で、脳処理が追いつかなかったが⋯そんなのお構い無しにメザーノールは次々と夜飯の提案をしていく。
「何食べよっかなぁ〜〜〜」
めっちゃルンルン気分だな⋯⋯。メザーノール、ギラーフ達と決別したって⋯それがどんだけの意味を果たす言葉か分かってるのか。
「メザーノー⋯」
「ティリウス」
「!⋯⋯??」
「これからは、ティリウスは独りじゃないからな。俺が横に居るから。ギラーフ達を相手にしちゃ⋯⋯とか、考えてるかもしれないけど、それは安心して欲しい。大丈夫だから。この言葉しか言えないし、知らないから。だけど何度でも言えるよ?『大丈夫だから』」
◈
一生、忘れる事の出来ないハロウィンとなった今年の10月31日。メザーノールはその後、ギラーフ達との会合の時に話した内容や、決着の際に使用したマザーテープを使っての最終決議等⋯事細かく話してくれた。でも本来なら、俺もその場に居るべきでは無いのかな⋯と思っていた。だがまるで俺の思考を読み取ったかのようにメザーノールが、こう話を展開させる。⋯⋯まぁ、超越者だしな。人の心なんて簡単に把握出来るのだろう。勝手な解釈だがな。
「ティリウスをここに呼ぼうとは思っていなかった。ティリウスが危険な目にあうかもしれないからな。それに、ティリウスだってアイツらと対面して何を話せるんだ?」
それもそうだな。話をしたくない。なんだったら一生眼中に入れたくないし。
翌日の学校から⋯
律歴5592年11月1日以降──。
メザーノールの言葉通り。
俺は、メザーノールと一緒に過ごす時間が極端に増えた。『極端に増えた』
これって普通さ、『極端に“減った”』って時に使う言葉だよな。極端に増えた⋯ってちょっと耳障りが凄いする言葉の音だ。違和感が残る言葉の音色を奏でる時には、いつも俺はこうやって一歩後ろへ下がって、『ん??』となる。
まぁこれは独りだったからこそ出来ることであって、現在の俺にはその思考回路こそが不要なものであった。
それもそうだ。俺は独りでは無くなり、横に顔を向ければあのメザーノールがいつでもいる。
学校でも大きく生活が変化した。まるで俺を初めての人間として扱うかのような雰囲気・空気感を周囲から感じる。最初は異様なムードが流れており、ホームルーム前に俺が教室へ入ると、視線はこちらへ向けられる。それはちょっと嫌だった。だがそこから数秒経つと、再びいつもの雑踏感に戻る。
ギラーフの取り巻き達から、特に話し掛けられることは無い。ハロウィンの日に、何があったのか⋯俺は全てをメザーノール本人から聞いた。随分ともまぁメザーノールから色々と言われたみたいで、残念な事に⋯。それに加えてコチトラには“マザーテープ”という証拠もしっかりと持っている。これを教育委員会に持っていこうもんなら、確実にギラーフ達は七唇律への反逆として、家族ごと罰せられる。社会的抹殺も時間の問題だ。
⋯とまぁ、このように俺は今、メザーノールのおかげでちょっと脳みそに余裕ができる環境に移り変った。クラス内でも俺に接触してくる人が増えてきた。
こんな変化に気づかないはずが無い。だってハロウィンまでは話し掛けられるなんてこと無かったもん。いったいメザーノールはどこまで働き掛けてくれたのか⋯。これも後日聞いてみたが、
「みんなに声掛けしただけだよ。話してあげて⋯て」
いや、そんな“声掛け”だけで⋯⋯⋯?
⋯⋯⋯え???
マジで⋯?
ちょっと⋯⋯いやあの、一人二人とかなら⋯まぁ、分かるんだけどさ⋯あのぉ⋯何人も俺のとこに来るんだけど⋯⋯⋯。これについても、メザーノールに追求してみた。
「ん?ああ、ちょっと使いすぎちゃったかも」
つ、、使い、、過ぎた⋯⋯?使いすぎた⋯というのはなんだ⋯⋯。
メザーノールには不可解な言動がアレから増えたと思う。理解が出来ない⋯という事は、だいたい考えられるのは⋯超越者に関連するものだと考えるのが適当⋯だよな。
『使いすぎた』。超越者の力を使った⋯と思ってみて大丈夫なんだな。俺はあまりメザーノールに対して超越者についてのは話をしようとは思わない。少しばかり⋯ううん、違うな。きっとこれはメザーノールにも伝わってると思うが、俺は超越者に憧れている。物凄く憧れているよ。
力を持ってるからな。俺は普通の人間になりたくなかった。何か突出した才能が欲しかったんだよ。でも産まれたのは至って普通の家系。ぜんぜんいいんだけどさ⋯良いんだけど⋯、、、
つまんない。
つまんないし、俺はあんな感じの人生を歩むことになった。でも危なかったかもしれない。超越者の力を持ってたら、俺は容赦無くアイツらを殺めていたと思うから。メザーノールは超越者でありながら、全く自分の力を見せて来なかった。俺が、周りが気付いてないだけなのかもしれないが⋯。
俺の私物を持ってきていたのは驚いた。だがあんな力はまだ序の口だろう。力とは言っても、俺が言及している『力』というのは『直接攻撃』に相当するものと捉えて欲しい。そりゃあそうだろ。
俺を痛ぶる奴らを今でも許せない。
なんなら⋯
チェっ⋯あーー、なんだろう。なんかここに来てスっげぇムカついてきた。
アイツらから、なんんンンンンンンんの謝罪も無いんだけど。
メザーノールが俺へのイジメに関する議題を行って、それのおかげもあって、イジメは終息した。
全てはメザーノールの働き掛けの賜物。
それでもさ⋯⋯⋯当人よ。
当の本人にさぁ、ちょっくら話をするなりさぁ⋯それはメザーノールじゃないよ?もちろん。メザーノールじゃなくて、ギラーフ達に言いたいんだよ。何にも無いじゃないか⋯まるで何事も無かったように世界が、時間が進んでいくのが、どうしても納得いかない。学校内でたまに見かけるギラーフ達の姿。俺はほぼほぼメザーノールと一緒にいる事が多いので、クラスは違うんだけど⋯メザーノールが心配してくれてさ⋯なんか凄い⋯もうね⋯意味が分かんないレベルで来てくれるんだよね。寄り添ってくれるの。
そういった流れがある中で、ギラーフ達との遭遇が発生する。
俺に視線を向ける者もいれば、そうじゃない者もいる。ギラーフは後者に該当。だが視線を向けるのは一瞬で、その方向が逸れ、対象はメザーノールに移行。明らかに両者の間に深い溝が出来た⋯と見て間違いない。そうなると、先程俺が仮説として立てていた超越者の遺伝子能力を使用した可能性は低いように思えた。これは単なる、人間と人間による問題。遺伝子能力を介してまで行うなら、仮に⋯仮にの話だが、クラスメイトに使用した遺伝子能力をギラーフ達にも投与するのが“普通”ではないだろうか。
ギラーフ達の視線は俺にしっかりと向けられた。クラスメイトの反応とはかなり異なっているものだ。
クラスメイトは俺のところへ来てくれるようになったのに、ギラーフ達からの接し方というのはまるで変わってない。ただただ嫌なベクトルを向けられず済んでいる⋯といったところだ。まぁそのぐらいで十分良いんだけど。
◈
律歴5593年4月6日──。
この日から俺とメザーノールは中学生。
【中一】。この肩書きは早めに欲しかったものだ。その理由というのは、今までいた小学校からさっさと立ち去りたかったから。11月から今年の3月まで、俺はメザーノールを含め、多くの生徒と交流を深くした。こんなの久々でアドレナリンが出る時間が幾つも存在。嬉しいってもんじゃない。
本当に本当に⋯嬉しかったなぁ。だけど、俺が何故『この学校を早く離れたい⋯』と思うようになったか⋯と言うと、メザーノール以外の人間が信じられなくなったからだ。
⋯⋯おかしいと思う。ほんと俺は、自分の言うことに『???』を浮かべるシーンが多数あるな。本当にこれは自分の脳内から求められた答えなのか⋯俺はそんな悩みを抱えながら、いつもの生活を送り続けている。
⋯⋯今はそんな事を考えてる時間では無い。
メザーノール以外の人間を信じられない。
この問題を抱え始めたのは、メザーノール以外の生徒も交流を復活させていった“時間の流れ”が原因にある。これはどうやら、メザーノールの仕業だったようだ。
やっぱりな。絶対に⋯そうじゃないかと思ってた。だってギラーフ達だけが俺に寄ってかかって来ないんだもん。メザーノールには「今すぐそれをやめて欲しい」と言った。
「こめん、これ⋯もう俺にはどうする事も出来ないんだよね」
「え、、、どうして⋯⋯」
「これはもう、俺の意思決定の範疇を超えてるからだ。最初は、俺がこの遺伝子能力を使う際、このクラスメイトが向けるティリウスへの想いというのはゼロに等しかった。このままギラーフ達からのイジメ問題を克服しても、結局クラス内で孤立していく事には変わりないじゃん?だから、クラスメイトには俺からの改竄魔術を仕掛けさせてもらった」
「改竄魔術⋯⋯」
「俺が勝手にそう言ってるだけで本来の言葉とは違うんだけど、一応小学生としても理解出来るようにこう言ったんだ」
「⋯⋯⋯⋯⋯」
「ごめん、ちょっと怒った」
「うん、俺の事ナメてんか???」
「んプフ⋯⋯オモロ」
「おーーい、おもろくないぞ〜?超越者くん?」
なぁんてこんな絡みはいつもの事だ。たまにこうして彼の超越者に関する話になるけど、どっちかが絶対話を逸脱させるんだよね。統計的に言えば俺の方が多いけど、今回はメザーノールだったな。
⋯⋯⋯
⋯⋯⋯⋯いや、違うよ。
「そうやってもうすぐズラそうとするクセ、直した方がいいと思うよ」
「うーん?なぁんの事だか分かりましぇーん」
「メザーノール⋯⋯⋯お前なぁ⋯⋯⋯」
「大丈夫。ティリウスは俺が守るから。ティリウスはティリウスのやりたい事を叶えていこうよ」
「うん⋯まぁそれはありがたいんだけどさ⋯自分の事も考えてね」
「ん??自分の事??」
「自分のことだよ。自分の人生があるんだから、最優先するのは時分の人生にしてね」
「あぁ、、いや⋯オレはもう自分の人生とかは捨てたかな」
「いやいや何言ってんのさ⋯⋯人生まだまだぜんぜん終わってないでしょ」
「ううん、終わったと思ってるよ」
「なんでそんな事言うんだよ」
「俺、20歳で死ぬからさ」
「⋯⋯⋯⋯⋯え、、、」
「超越者だから。20歳で死ぬんだよ」
「それ⋯⋯“カースドローサ”でしょ?もう何年も前の呪縛で現代を生きる超越者には⋯」
「ご健在なんですよそれが」
「え、、、、、、嘘でしょ⋯⋯」
「ううん。嘘じゃない」
「え、、、」
言葉を失う⋯とはまさにこの事で⋯中学校が始まる一週間前にそんな事を突然暴露された。
それからというもの、俺は“メザーノールの人生を優先すべきだ”と当人に訴えた。メザーノールはずーーーーー!!ーーっと、『????なんで????』ってなってて⋯ちょっとばかりウザかった。
「あたりまえでしょ!!!メザーノール、20歳で死ぬのが確約してるんでしょ?」
「まぁそうだけどね⋯まだまだぜんぜん先だし!」
「先だし⋯って⋯⋯俺との時間はもう有限じゃなくなったんだよ?」
「それは嫌だね⋯⋯⋯」
「じゃあ!⋯⋯」
「けどね、俺は俺の人生を謳歌しようとは思わない。思えないんだ。ティリウスのことを思って、ケルティノーズ家を引越ししたんだ」
ここまでして俺を思ってくれるメザーノールとは⋯。単なる好意というか、そんな軽んじたものじゃない気がしてならない。俺にそこまでの価値は無いし、メザーノールの方が圧倒的に価値のある人間だ。超越者は横暴な人間⋯だと、思っていたけどそれは偏見だった。
この通り、メザーノールは優しいし、他人を思いやってくれる。それでいて現在の地位を捨ててまで、寄り添ってくれる。
これってさ⋯なんなのさ⋯。
コレッて⋯なんなの⋯。そもそも⋯⋯⋯⋯。
すっごい、時を遡る事になるんだけどさ⋯⋯⋯、、、、
まぁいいや。もう、どうせかえってくる言葉なんて決まってるからな。それに、その言葉⋯悪い気はしないし。
◈
メザーノールの発言からもあった通り、俺の家族は引っ越した。それと共にメザーノールの家族も引っ越しを敢行。メザーノールの家族はお金持ちで、なんと引っ越し代と物件を用意してくれる⋯というのだ。ただのお金持ちでは無い⋯事は、とっくに分かっている。ただ、俺の方からメザーノールの両親について追求する事はしなかった。まぁでも、こんな高待遇をされて、俺の父親と母親が黙っているはずも無く⋯。
「メザーノールくんのご両親とお話させて?」
そう、母親が言ってきた。
それ以降、こちらとあちらの両親は交流を深くし、互いの合意で一緒に引越しをして、物件も紹介してもらい、同じ中学に、俺とメザーノールを通学させる事にした。物件の内容というのも、とても素晴らしい。
要は家族4人、俺、妹、父親、母親。この4人が住むには十分過ぎる3LDK。
「これは⋯⋯すごいな⋯⋯」
「ほんとに⋯これを⋯⋯⋯セフェイガさんが払ってくれるって言うの⋯⋯」
「うん、、、俺もちょっと信じられないけど⋯」
「お兄ちゃん、とんでもない大金持ちの友達を持ったね!」
メザーノールに紹介された物件を家族に閲覧させた時の反応。そりゃあそんな反応にもなるよな。ただただ物件を紹介してくれただけでは終わらず、なんと家賃・税金も払ってくれるというのだ。
後日、メザーノールの両親と俺は初めて会合。
「メザーノールをいつもありがとうね。ティリウスくん」
「ティリウスくん、メザーノール、何か変なこと言っていないか?」
「あ、いや⋯それはまったく。自分なんかに寄り添ってくれる本当に素晴らしい人だと思います」
会合時にはメザーノールも当然同席。トーゼンドーセキ。
「そう⋯フゥ⋯良かった」
良かった⋯というのは、超越者として危険なサインでもあったのだろうか。俺の目の前、高級フレンチのテーブルの向こうには超越者が2人いる。横にはメザーノール。
その現実だけでも、異常だと思う。こんな人生をどうやって想像出来た?
俺の周りを囲うように、セカンドステージチルドレンが居るんだぞ。
「メザーノール、ティリウスくん、とても良い子ね」
「うん、そうさ。とっても良い奴だ!」
俺の肩へ手を回して、グイッと近づけられる。密着を強引に行ってきたが、お前の両親の真ん前なんだぞ⋯。それに、物件も用意してもらった上に、家賃まで支払ってくれるとかいう意味不明なオプションも付いてる。流石に気色の悪い素晴らしき提案だったので、一体どんな親が現れて来るのかと思いきや、めちゃくちゃにとんでもない美男美女じゃねぇか!!!
それもそうだよな。今のメザーノールを見ればわかるけど、そりゃあこんな遺伝子人体が産まれるわ。分かる判る。まったくもって、判る。
「ティリウスくんごめんね⋯。メザーノール、好きな人の前では、私達なんてお構い無しなのよ」
「お母様、大丈夫です⋯じぶんはもお⋯⋯かれのこういうのに耐えてるので⋯⋯⋯て、ちょっと!流石に両親いる前でこんなことするなよ!」
物理的にどうしてここまで俺に密着出来るんだよ。右手をこちらに回してきて、俺の腰に当てる。そしてなんと、その右手を思いっ切りメザーノールのいる左側へ。俺の身体は、メザーノールと接着するぐらいの距離に。
俺はメザーノールの両親との会合で、かなり緊張している。こんな真冬なのに、ここまでの汗が⋯止まらないんだよ。あんまり俺は大人と話した事がないから。それに、こんな美男美女だなんて⋯。
「アハハハハハハ!!」「ンフフフフフ⋯」
高笑い。上品な笑い。
余裕のある人間の笑い方って、嫌味が一切無くて⋯いいな。
久々の更新です。ここまで本篇を執筆出来なかったのは⋯初ですね。嫌ですね。でも書かなきゃいけないものがプロットとして出来上がってしまったので書かざるを得ませんでした。
12月で今の場所を離れる予定です。戻ります、元いた地に。
【物語シリーズ】を見ています。もしかしたら、影響受けるシーンが入ってるかもしれないです。BGVにしていますので。
あ、ちなみに『キミゼロ』を見ながら『Elliverly's Dead Ringers』のプロットが組み上がり、そのままの流れでシナリオ執筆を始めていました。




