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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾参章 蠱惑の泥濘トリックスター/Chapter.13“RearrangeLifeWithMetherknoll”
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[#104-醜悪のギラーフ]

俺に振り向く回数が格段に減った。

[#104-醜悪のギラーフ]


メザーノールとの再会。何回も言うことになってしまい申し訳ないが、俺にとってはこれ以上無い好機のようなものだった。彼と一緒にいれば大丈夫⋯。とりあえず安泰だ。彼の近くに居さえすれば、周りも自分という影の薄い存在を容易に把握ができる。自分から自分の存在をサインしなくて済む。俺は無駄な動きは極力排除したい。

自分という記号を他人にサインするという、誰もが果たしている行為を俺は“無駄な動き”と解釈している事に関しては、何も言わないでほしい。俺は性根が腐っているからな。今にでも始まった事じゃない。

そんな俺を友達として真正面から向き合ってくれるのは、メザーノール。メザーノールはたくさんの友達を抱えているのに、定期的な連絡を取りあってくれる。デジタルでは収まらず、アナログ的な連絡もキッチリと行ってくれるのだ。直接メザーノールと会う⋯。同じ年齢の人間に少しばかり緊張してしまう自分が恥ずかしい。小二の時はこんなんじゃ無かったぞ。何回『落ち着け⋯』と言ったのはは判らない。メザーノールと会話する度に、汗が出てくる事もあった。同期に緊張なんて⋯いったい俺はどこまで落ちていくんだよ。


メザーノールを介して、新たな友達をフレンドリストに迎える事となった。その流れは至ってシンプルなもの。

「ティリウスって言うんだ。小二の時に知り合ったんだ。みんな、仲良くしてな」

こんな感じ。めちゃくちゃにシンプル。だがこの言い方も凄く優しかった。学校での授業と授業の間。たった10分の休憩時間なのに、メザーノール達は他クラスに在籍している友達とのコミュニケーションに夢中。メザーノールは俺を呼びつけ、友達に俺を紹介してくれた。

内心、緊張と不安が交錯し、どうにかなってしまうそうな程に、身体が蒸発。汗も止まらなかったし、いったいぜんたい、自分の身体に何が起きるのか⋯怖くもなっていた。極度の緊張で身体が破壊されかけた時、メザーノールの応援が俺を包み込んだ。

「大丈夫だから。俺の友達みんな優しいよ。ティリウスを迎えてくれるからさ。それに、俺も一緒だから安心して」

俺のためにどうしてここまで真摯に尽くしてくれるんだよ。小四、小五と、2年間もほとんど会話も⋯見向きすらもして来なかった男友達なのに⋯。これは俺が異常なのか?俺の感情は普通だよな。異常なのはそっちだ。

暴力的なまでに優しいメザーノールの言葉に俺は溺れてしまう。



一年後。小学六年生。小学校生活最後の年。この六年間、俺にとっては長いものだった。楽しい時間と楽しくない時間が混在し、心の浮き沈みの激しい日々だったからだ。

明日もあるのか⋯明後日もあるのか早く終わらないかな⋯と何度思った事か。

だが、去年のメザーノールとの再会は俺の生活を大きく変える出来事になった。ターニングポイント。横文字でまとめるとならば、こういう事になる。凄く、世話になった気がする。自分じゃ出来ない事を沢山経験できた。メザーノールが会してくれたから、クラスのみんなとも仲良くなれたし、なんなら、他のクラスとも分け隔てなく交流を盛んに。今までの俺の学校生活とは明らかに特異的な現象だ。友達がいなかったわけじゃないが、確実にコミュ力がある人間とは言えない。

俺は、メザーノールの友達と本質的な意味で仲良く出来たのかな⋯。メザーノールの友達とはいっぱい会話をした。これも、最初のコンタクトを取ってくれたのはメザーノールのおかげだ。メザーノールを含める複数人のメンバーを構成して、遊園地だったり、海浜だったり、アクティビティな施設に何度も足を運んだ。俺はその時、邪魔にならないように、良い感じの塩梅で彼等の輪に入っていく。そんな俺を気にしてか、メザーノールがボソッと俺にまで近づき⋯


「大丈夫?気にしないで。思った事あったら言っていいんだよ?」

と優しく囁いてくれた。そこまでの優しさに満ちた言葉を聞いてしまえば、男であろうとも彼を好きになってしまうのは当然じゃないか。これは、恋愛的な意味も孕んでいる可能性がある。俺も、複雑な気持ちに苛まれているが、多分これは、異常な方向性のものだ。

俺はまったく、苦に思わなかった。

甘えが、出始める。それは絶対に、表には出してはいけないものだ。表層的に映ったら、俺への認識が他者から見えたらそうなってしまう。

『ああ、アイツは、メザーノールが居なきゃ何も出来ない奴なんだな』⋯と。

メザーノールからの助言。

もしかしたら、俺の未来を暗示していたのかもしれない。そう思えてくる内容だったな⋯あの言葉は。

このままじゃダメ。

自分自身をこの世の中に、“自分の方から”見せていかないと。


そういった覚悟を持って、俺は小五の学校生活を送っていく。結果的にこれは成功した⋯と言ってもいいだろう。

今まで“メザーノールの友達”として、相手をしていた人達が“友達”として俺には見えてきた。これは凄く、自分の中で大きな成長を感じ取れた部分だ。自分の意識改革のおかげなのか判らないが、日に日に“友達”との会話が増えた気がする。

“気がする”の認識は、やがて、“絶対”へと変わっていく。この変化、嫌いじゃない。

もっと、もっともっと!俺を変えたい。自分を変えたい!

メザーノールの力が無くても、俺は⋯俺でいれる。

自分はこの世界の地に足つけて生きてるんだぞ⋯って、本格的に宣言したいんだ。



そして、小六へと進級。小五での成果は俺の今後の人生を変える分岐点となった。この一年で形作れた俺のキャラクター像は、多くの人間に認知してもらった。最初はメザーノールのおかげだったが、メザーノールの友達から、その友達の友達⋯また更にその友達を介して、違う友達と交流したり⋯と、伝染するように俺の波は伝わっていった。

小六へと上がり、当然の事ながらクラスも改変され、俺は⋯メザーノールと別れる運びとなる。それもそうだ。第205期生は5クラスもある。その中から、一つのクラスに一緒になる⋯それも2年連続。そんな奇跡のような事は中々に起きない。分かってはいた事だ⋯承知していた事だ⋯。そうだけど、なんだか俺は一瞬、不安に包まれた。新クラスはと言うと⋯去年に知り合った人間が多数を占めており、メザーノールの力無くしては交流を成立出来なかった人人間ばかり。俺は改めて⋯いや、もう何度目だろうか。彼に感謝するのは⋯。

それは忘れたくない。忘れたくても忘れられない。


メザーノールが、いない。小五を迎えるまで、そんな生活が当たり前だったのに、なんなんだよ⋯この気色の悪い感情は。やっぱ俺は、あの人が近くにいないと何も出来ないのか⋯。

6年C組。俺が在籍するクラス。先程も言った通り、去年に知り合った人間が殆どなのでさほど緊張感に包まれたような感じは無い。ただ、まぁ新鮮さはかなりある。去年は自分のクラスから一旦は外に出て、交流をする⋯というのが主にあった。だが今年からはそんなシークエンスがショートカットされ、クラス内で交流が完結する事となる。俺としては廊下に一旦は出て、他のクラスを訪問するという行為が好きだった。なんだろうね⋯イマイチ“これ”と言った理由は見つからないんだけど⋯“友達に会ってる”感が物凄く伝わると思わない?

だって、違うクラスに行ってまで、その人と遊びたいんだよ?なんかそういう関係性ってめっちゃエモいよね。まぁだからといって、小六になっても、他のクラスに行かない⋯って判断した訳じゃあるまい。ただ、俺のいるCクラスは、去年、濃厚な交流を育んだ男友達が多く存在する。

“ウマが合う”人間が、沢山いるのだ。

その中に一人。異彩なオーラを放つ者がいる。

男の名は、“ギラーフ”。第205期生のトップに君臨する生徒だ。他を寄せつけない圧倒的なオーラを兼ね備え、いつも軍団を従える⋯イケイケな男。

俺は、この男を小一の時から知っている。あまり好めないタイプの男なんだ。男女共に、彼を慕う人間は数多くいる。突拍子も無い笑いをカマす辺り、自分の笑いに自信を持っていると見える。確かに、ギラーフが繰り出す笑いには多くの仲間が賛同し、笑みを零していた。ただそれは、身内が優しいだけの内輪ネタ。まぁ学生なんだから大衆用のネタなんて作らなくて、いいんだけど⋯。ギラーフの笑いはかなり幼稚な作りなんだ。

俺は、面白くない。笑えない。だが、笑わないと、空気に亀裂が生じてしまうような気がする。だって、俺一人以外、全員が⋯クラスメイト全員が笑ってるんだ。スイッチボタン一つで、全員に電気信号が送信されているみたい⋯。でも、本心なんだろう。本気で⋯何にも忖度してる訳じゃなく、ギラーフの発言に感動を覚えているのだ。


発言の強さ。彼の言葉は強力だ。彼が言い放つ言葉が正解なのだ。ギラーフが面白い⋯と言えば、それは面白いになるし、面白くない⋯と言われれば、それは面白くない事となる。それは全ての物事に共通。

人を貶めてる行為。彼は気に入らない生徒がいれば、即効、その者を地獄に落とすナンセンスな感情を持ち合わせている。



要はイジメだ。“いじり”のレベルに相当する場面の方が多いが、“イジメ”という最悪の行為に及んでいる場面も、少なからず散見されていた。俺は、直接手を下したことは無い。と言うか、ギラーフを基本的に避けてる人間なので、彼に近づこうとも思わない。しかし、クラスは同じ。Cクラスの人間だ。否が応でも、会わなければかならない。顔を合わせず、学校生活をやり切りたい⋯小学校生活残りの一年間。俺にとって、酷な時間が断定された。


メザーノールの誘いで、昼休憩は教室を飛び出して、グラウンドを眺望できる大階段で過ごす事になった。別のクラスになってもこのようにメザーノールは度々俺を誘ってくれる。

携帯の着信で⋯

「ティリウス、今日一緒に食べよーぜ」

この文言が来る度に、俺は身が震えるほどの感情を呼び起こせられる。それは嬉しさの他に、複数の感情が混在している事で、芽生えるもの。

そうだ。決して、メザーノールからの誘いが“嬉しい100%”で済んでいないのだ。

何故かと言うと⋯⋯⋯そのメザーノールが誘ったグループには、ギラーフが参加しているからだ。当然と言えば当然。

俺よりも、メザーノールと関係性は深いだろうし。なんなら、俺ごときの人間がこの第205期生の一軍メンバー、ギラーフ、メザーノールを含める10人以上の大所帯グループにいる事自体、おかしなものなのだ。そんな中でもグループのみんなは、俺を迎え入れてくれた。これもそれも全部、メザーノールの力添えあってのもの。

だが、一人だけ俺の参加に気を示さないものがいるのも事実。その人物こそ、ギラーフだ。

昼休憩や放課後、一軍メンバーに参加する事が増えてきた頃から、ギラーフから向けられる視線が鋭利な事に気づく。たまに見てくる。俺はギラーフからの視線に気づき、直ぐにその場から退散。一軍メンバーは大所帯なので、一つの場所に集まっていても、ほんの少し離れた場所に離れてトークを交わしている事がある。俺は一軍メンバー全員と仲良くなれたので、自分の方から色々なグループに顔を出す事が容易。ギラーフの視線に気付くと、渡り歩くようにグループを転々とした。しかし、ギラーフは俺を追うように、俺が顔を出したグループに出向いていく。

やがて、ギラーフは俺に対して直接的な言葉を突きつける事となる。

──────────

「こっち来んなよ」

──────────


言われた。言われてしまったな。耳元でスパッと言われた。めちゃくちゃに傷つく言葉だ。今までの俺の努力が全部パーになった瞬間だった。

でも⋯⋯考えてみたら、そりゃそうだよな。ギラーフの言う通り⋯と言うよりも、俺自身前々から気にはなってた事だ。

“俺なんか、一軍メンバーなんかは性にあわない”。

何のオブラートも包まずに、一軍メンバーを束ねる最高権力者は言ってのけた。言い方も言い方だけど、正直に言ってくれたのは、なんだか気持ちが楽になるものだった。別に嬉しくは無いけど⋯。それにいい思いもできたし。こうやって一軍メンバーと一緒に居るだけで、人間としての“威厳”が格段にアップ。それに加えて、一軍女子もこちらに近づいてくる。だけど、女子は俺を求めてやって来たのでは無く⋯。俺は遠目で一軍男女の会話を見つめてるだけ。

だがそれも割り切って考えてしまえればどうって事ない。女子とは話が合わないだろうし、何せ、女子が可哀想だ。

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』

『⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯』

沈黙のループ。女子がこちら側にやって来ると俺は、自動的にその場から少し離れる。空気を読んで行動出来るのは俺の長所だ。


それなのに、『こっち来んなよ』と言われてしまう始末。調子に乗りすぎたか⋯。

気付いたら俺は、その場から立ち去るように足を動かしていた。意識的に行動した覚えが無いので、その足が重かったのか、軽かったのかを記憶していない。ただ、覚えているのは、俺が大階段から立ち去る際、誰からも言葉を掛けられなかった⋯と言う事。

別に、俺なんかが居なくても空気なんて変わらないんだ。

大階段から退去した時、振り返るような素振りをしていないので、視線を受け取る事も出来なかった。

“背後から視線を感じた”等と、抜かす人間がたまにいるけど、それはいったいどういう意味なんだか⋯俺には判らない。超能力者か何かなのか?

律歴5592年5月30日──。

一応、この日の事を記録しておこう。



ティリウスが居なくなった。5月30日。俺がいつも通り、大階段での昼休憩をするから⋯と呼んで、ティリウスはいつも通り来てくれた。概ね、楽しそうな雰囲気で場を和やかにしていたり⋯とティリウスは、この場に馴染んでくれていたようなイメージがあった。だけど、あの日以降、俺からの誘いを断る日々が続いている。

もう、1ヶ月が経つ。

この1ヶ月間。ティリウスとの携帯メッセージトーク画面をにらめっこしていたわけじゃない。俺なりに出来ることはしてきた。こう言うと、嘘っぱちのように聞こえてしまうけど、俺はCクラスにも出向いたし、ティリウスとも直接話した。するとティリウスは⋯

「ありがとうメザーノール。ちょっとしばらく、他の人と食べるわ⋯」

と言って、断られた。もちろん、ティリウスには他の友達がいる。俺以外にもたくさんの⋯⋯たくさん⋯⋯たくさん⋯⋯か⋯。


そこまで、、、いない。


彼にはそこまで、友達がいない。他の友達⋯と言っても、多分それは数限られた中でのティリウスの友達。俺との再会で、ティリウスは多くの人間と仲を深める事が出来た。

何度も何度も、俺に感謝を伝えてくれたティリウスの表情は忘却するには不適格な記憶だ。

「ありがとう⋯ありがとう⋯ホントにありがとう⋯」

「いやいや、ちょっとやめてよ。そんなに感謝されるような事してないよ俺」

「そんな事ないって。マジで⋯俺一人じゃ絶対に終わってたから⋯。本当に感謝してるよ。ありがとう⋯」

言葉だけじゃなくて、腰まで折り曲げられてしまった。相当、俺に感謝をしているんだな⋯と思い知った。やっぱりティリウスは面白い奴だ。益々好きになる。感謝をこんなにも伝えられると、自然に頬が火照てしまう。あの時の顔、ティリウスにはどう映っていたのかな⋯。

どうして、ティリウス。ティリウスにはティリウスなりの理由があるんだろうけど⋯⋯⋯⋯無視する事は無くない?


連絡した時だけ、ティリウスからの返しはしっかりと送られる。直接、学校で会う時、俺の方からティリウスに話し掛けようとしたら、何故かスルーされてしまうんだ。

その夜、『ティリウス今日大丈夫?具合悪い系だった??』とメッセージを送信。

ティリウスからの返信は20分程度のラグを置いてやって来た。やはり、携帯上での会話は許されているようだ。

そしてその返信内容というのが⋯⋯

───────────

『大丈夫。ありがとう。あと、もう俺に連絡して来なくていいから』

───────────


⋯⋯⋯⋯⋯⋯え。俺の思考は停止した。自室の机で、足を組みながら、ティリウスからのメッセージを黙読。それが終わると、組まれていた足は解かれていき、姿勢が一気に崩壊した。本当に、本当に、彼の体調が心配になった。

だって俺はティリウスの気分を害するような事はしてない。絶対に!絶対に!絶対に!してない。

突き放された感のあるメッセージに俺の震えは止まらなかった。その後、メッセージを送ったけど、特にこれと言って特筆すべき返信は無く⋯。


『大丈夫?なんか学校であった?』

『いや、大丈夫だよ。ごめんね、心配させるような文章になっちゃって』

『ねぇ、電話してもいい?』

『うん』


不安になって、直ぐに俺は電話を掛けた。今すぐにでもティリウスの声を聞きたかったから。俺の方から電話を掛け、コールを待たずしてティリウスは応答。携帯を握ったままだったように思えた。そりゃあ、メッセージの時点で『電話してもいい?』と言っているのだから、待機するのは考えの範疇にはあるのだが⋯現在のティリウスの状態を鑑みても、電話に出てくれない可能性も十分に有り得た。

取り敢えずは、第一関門突破⋯と言ったところだ。


「もしもしティリウス?」

「うん、どうしたの?」

「どうしたも何も⋯最近のティリウス変じゃない?学校で全然反応してくれないじゃん」

「そうかな⋯」

「そうだよ」

「寝ぼけてるのかもしれない⋯ごめんね」

「そうならいいんだけどさ⋯。でも顔すらも合わせてくれないよね?」

「⋯⋯⋯⋯⋯ごめんね⋯⋯申し訳ない⋯」

「⋯⋯さっきっから謝ってばっかだけど、本当に⋯」

「大丈夫だから。大丈夫」

声は大丈夫じゃない。ティリウスは確実に何かを心に抱いている。それも、“良くは無いやつ”。

「⋯そう?なら、、、いいんだけど」

良くない。だが、これ以上の言葉は受け取る事が出来ないように思えた。それに、ティリウスの心を侵食してしまいそうな気がして、自分の行動が怖くなる。人には人の時間の流れがある。きっと今は、自分の世界のみで完結させたいのだろう。あくまでも、俺はティリウスから見たら“他者”。ただの友達に過ぎない。だが、友達なのだから心配するのは当たり前。それでも、心に存在しているであろう闇を明かそうとしてくれない。このままティリウスと接触していても、得られるものは少ない⋯と感じた俺は、電話を終了させるに一票投じる。

「⋯⋯じゃあ、切るね」

「うん」

「何かあったら言ってね。俺、ティリウスの力になりたいから」

「力⋯うん。ありがとう、、、メザーノール」

「じゃあ⋯」

こっちから電話を切った。『ブロン』⋯という電話を切る際に携帯から鳴る音は毎度慣れないな。なんかやっちゃいけない事をやってしまった感がある。

ティリウスのテンションは低かった。決して、電話に向いている現在で無かった事は確かだ。電話という事もあり、ティリウスの顔面を出来ずに会話は終了。俺はここで、ティリウスとの距離感に暗雲が立ち込めてきた事を悟る。

気にすんな⋯。また明日⋯じゃなきゃ明後日。時間が経てば普通のティリウスに戻ってるだろう。

そうだ⋯⋯⋯“大丈夫”。



嬉しく思った。メザーノールがまだ俺の事を気にかけていてくれた事が嬉しかったんだ。あんなに⋯頑なにメザーノールから離れていったのに⋯。メザーノールの頭から、俺という存在が消えていなかったことがここに立証された。

とても複雑だ。

俺はメザーノールから逃れようとしていたのに、方や俺の体調を心配までさせてしまっている⋯。

振り向いちゃダメだ。振り向いたら⋯また俺は彼の助けを求めてしまうから。だからダメなんだ⋯。俺はもう、一人で戦わなきゃいけない。

戦う⋯そう、戦いだ。勝ち戦じゃない。負けに行く戦いとでも言えるだろう。


朝。教室。Cクラスの扉を開けると、一瞬にして俺の方へ視線が向けられる。席に着くと、視線は緩やかに、元々の方向へと戻っていく。俺はイヤホンを付けているので、周囲の声は一切届いてない。放たれている言葉の内容が判っているから、もう聞く必要性が無い。

────────────────────

「来たよ⋯」

「ねえ、ほんとなの??」

「いやマジらしいぞ」

「ティリウスってそんな人じゃないと思ってたのに⋯」

「人は見掛けによらない⋯ってぇのはまさにこの事だな」

「にしてもじゃない?」

「でも確かに、寄生感パないよね」

「うんわかる。なんか⋯急に学校でのし上がった感じ」

「俺は薄々嫌だったんだよなぁ」

「ティリウスのあの感じ?」

「そうそう」

「調子に乗ってんだよなぁ」

「周りのおかげなのにな」

「私、目立ちたがりな男ってキライ」

「ティリウスってパラサイトだね」

「周りがいなかったら何も出来ないタイプ」

「独立性が無いんだよ」

「自分じゃ何も出来ない」

「だから直ぐ、人に集る」

「人の元へ行く」

「それも、一軍男子の所でしょ?」

「私、ずっと思ってたの。『なんであんな陰キャがいるんだろう』って」

「んね。場違い感甚だしい」

「それにさ、なんか私とメザーノールとかとの会話聞いてる感じ出てなかった??」

「ええ!?」「ええ?!!!」「ええ?」

「何それ気持ち悪っ!?」

「ね!気持ち悪すぎだよね!!!『お前じゃねぇよ!』ってさ!」

「アッハハハハッハハハ!!ウケるんだけど!!」

「さっさと居なくなれって感じなんだけど」

────────────────────


ギラーフた。ギラーフが何かを吹き込んだに違いない。それしかない⋯と、思いたい。本当は、俺の知らぬ所で密かにこのような事が行われていただけなのかも⋯。それが明るみに⋯実体化されただけ。

⋯⋯⋯⋯前者だと思いたいな。やはりギラーフの言葉には大きな力がある。ありもしない噂を流されてしまい、俺は孤立状態になってしまった。小六の俺は、自発的にクラスメイトへの接触を決行していたが、最悪のコンディションになってしまった以上、そのような馬鹿な行動は慎んでいた。どうせ、俺が近づいたところで避けられるのがオチ。


『ねえ、あのさ⋯』

避けられる。

『ねぇねぇ⋯』

避けられる。

『今日天気悪いね』

避けられる。


じゃあ俺のやる事は決まっている。

“何もしない”。

動かない。ただただ着席して、時間が流れるのを待つ。その際に、飛び交っている罵詈雑言はイヤホンからの大音量サウンドで回避。それでも、五感のうち4つは機能しているので、肝心の“視覚”をどうにかしなければならない。

⋯⋯⋯机に突っ伏して、眠るフリをするしかないな。

こんな学校生活。メザーノールと再会するまでも体験してこなかった事だ。

最悪。嫌な毎日を送っている。ギラーフはいったい、俺のどこが気に食わないんだ。当然、他クラスに顔を出す行為もしなくなり、俺は座席にポツンと座り、学校での一日が終わるのを待つ。

こんな事、心の中だとしても思いたくなかったが、元から皆は俺に対してそう思っていたのかな⋯。そんなことを考えてしまうよ。俺は、今までの行動を全て改まって思い起こしてみた。

俺は変わった。自分で変えた部分もあるが、やはりメザーノールの存在は大きい。ゼロイチを作ったのは彼だが、そこから飛躍的な進化を遂げたのは自分の責任。じゃあまぁ結局は俺のせい。俺の立ち回りがクラスメイトを始めとするみんなには良く思われなかった。それに拍車をかけたのが、ギラーフの告げ口。勝手に“ギラーフのせい”だと決めつけているけど、これがもしまったく違う人間のせいだとしたら⋯⋯⋯それは無いな。ないよな⋯⋯⋯⋯⋯⋯。


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