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Lil'in of raison d'être/リルイン・オブ・レゾンデートル  作者: 沙原吏凜
第一章 夭折の叛逆/Chapter.1“Rebellion”
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ep.3:魂への回帰と報せ

俺が、、、やった、、、?

お前らが、やった?

俺は、、やってない、、?


#3-魂への回帰と報せ


7年後──。

サリューラスの意識が完全に復活。

それまでは昏睡状態で廃人化していた。発語能力もままならない。植物状態というのが適切だと言えた。

食事は《カテーテルワーム変異人対応型》を身体に通して、強制的に与えた。

一切の運動もしていないのに、サリューラスの体格はみるみる大きくなっていく。見かけは普通の少年だが、筋肉質な体型、時と場合に拠れば、攻撃性の高い形態に姿かたちを変える…という研究班による解析結果が出た。

サリューラスの意識が復活する兆候が、10分前に数値化された。これは《カルジオタコメータースコープ》、いわば、超々マイクロ対応望遠脳波測定顕微鏡にて確認する事ができた。脳波の僅かな微振動を感知。それに呼応するかの如く、二ゼロアルカナ施設員が儀式の準備を進める。

目覚めた、サリューラス・アルシオンの公開裁判だ。

“セカンドステージチルドレンの新原種を捕獲した”というニュースは大々的に報じられ、メディアの注目の的となった。そんなメディアを通じて、一般的にも認知されたサリューラス。この裁判では、サリューラスの生死を問う意見交換の場として、開廷された。


サリューラスが復活した直後、檻から出され連行されたのは巨大なドーム空間。

4本の杭で繋がれた鎖が、それぞれの四肢を拘束。ドーム空間のセンターにX字の形で磔にされている。


「はぁ、はあ…なんだ…ここは…」


ようやく言葉を発する事ができた。自分自身では久々の発生とは思わなかったが、実際にサリューラス自身の肉声が聞けたのは7年ぶりだ。


「ころしてやる…。」

見渡すと完全武装の兵士が、サリューラスを囲む。


「おい、今…殺すって言ったよな…。」

「うん、聞こえた…。」

「そうだよ…殺すって言った。ある程度は、覚えてる。断片的にだ。うん、、、、お前らだよなァ?覚えてるぜ…。」

「まずい…形態変化するぞ。」

「アンチエネルギーを展開しろ。」

「もうしています。」

「最大出力。」

「了解。」

SSC遺伝子能力物理的封印システム《レッドチェーン》。その名の通り、SSCの力を封じ込める装置。

レッドチェーンは、《アンチSゲノムブッシュ》内蔵ガジェットの一種に過ぎない。

特定の兵器に含有させる事ができたら、その兵器がセカンドステージチルドレンへの唯一の対抗策となる。人類がセカンドステージチルドレンと対等にやり合える科学の粋が結集した絶対的な物。レッドチェーンが身体に着けられている事により、セカンドステージチルドレンは能力を失う。

身体にも力が入らなくなり、直立すらもままなら無くなる。能力者から自由を奪うアンチSゲノムブッシュ。そのはずだった。だが、そんな理論はサリューラスには無効のようだ。能力は封印できているが、ただ単に能力が取り除かれただけ。皆の前に映るのは、野蛮で暴君さを荒々しく表現する7年前と同様の顔つきなサリューラスの姿。

取り囲む兵士達を睨みつけるサリューラス。今でも鎖が引き裂かれそうになるほどの獣だ。


「怯えてんじゃねえか…ハッハッハッハ!!」

地鳴りがする。ジャリジャリと響音する鎖が地面と根元のチェーンストッパーを振動させる事で、嫌な音が全体に伝わる。


「何故だ、なぜサリューラスはここまでの動きを可能にするのだ。」

「やはり、特別な血を持っています。」

「オリジナルとの遺伝子データを比較してみました。こちらです。」

「98%適合している…だと。」

「はい、サリューラスにはオリジナルの血が、何らかの原因でサルベージされています。」

「眠っていた血が…掘り起こされた…?まさか…。」

「はい、サリューラスの親は、どちらもセカンドステージチルドレンです。更に、複数家の血が混じっています。」

「そうか、セカンドの血と血が混ざり合う事で、母なる集合地を見つけたという事か。」


昏睡状態のサリューラスから採取された生体細胞の解析が二ゼロアルカナ本部長に報告された。

判明された混血児の存在。

施設員達は処遇を熟考する。

現世に存在するするべきで無いとし、アンチSゲノムブッシュを含ませた強撃兵器での死刑か…研究対象としてこのまま隔離施設での保有権取得を政府へ提案するか…。

判決の時間が迫っている。

その刹那、二ゼロアルカナに突然の爆音が起きる。施設内には警報音が鳴り響き、警戒態勢をとる。騒々しくなるドーム空間。オペレーターの声がクロスし合いながらも、一糸乱れぬ緊急事態への対処を行っている。

「いるの?」

「なんだ…?」

今何かが脳裏に語りかけてきた。女の人の声だ。小さな声で、少し掠れたような覇気の無い様子。

「着いていって。」

また聞こえてきた…。なんなんだ…どこかに導こうとしているのか…意図が全く判らない…。

次の瞬間、サリューラスを拘束している直上の天蓋が全壊。何者かの爆撃を受ける。

轟音と降り注ぐ鉄の破片が兵士を襲う。サリューラスには全く、害は無かった。サリューラスの周りには円形状の薄膜シールドが発生。そのシールドが害悪副産物からサリューラスを守っていた。

天蓋から現れたのは、大翼を広げた巨大航空機。

「光学迷彩コンタクトアウト!《エゼルディ》出現!」

「クソ…やはり現れたか…。」

陽光を前に、射す光を落とすように姿を現したエゼルディ。

「能力者部隊、天空より多数出現!特殊部隊ラスターパージ、交戦中。」

「ダメです!小隊ヘリ次々と撃ち落とされます!」


ドームに2つの飛翔体が空から舞い降りて来る。

「SSC遺伝子反応を確認。《マスターコマンド・攻撃コネクト》移行準備。」

「了解、交戦部隊以外は速やかに《コンプレックスドーム》へのワープを開始。仮設ワープポイントは設営済み。」

超高速の速さで空から一気に落ちてきて、地面スレスレの間一髪の所で浮遊状態へと移行。その飛翔体から、目を覆わなければ失明するかもしれない程度の光明さを見せる。そして光は終息し、閉じていた…伏せていた視覚を復活させた頃には、2人の男と女が立っていた。

「その子を、こちらに渡してもらおう。」

2人の内の男の方が、迫ってくる。

「お前は…。」

施設本部長が震わせながら言う。

「こっちへ…。」

女の方が、サリューラスを導こうとしている。


ここで拘束中のサリューラスは気づいた。

───

「2人は…セカンドステージチルドレンだ…。」

───

数秒間サリューラスの現状を理解した後に、施設員に向けられた鋭い眼光。冷静さを保っている男に比べて、女は憤怒の想いで満ち満ちている。

「離せ…このクソ野郎共が…その子から離れろォォォー!!」

研究化学班から施設本部長と軍事対策本部長に一つのメッセージが届く。

「あいつらを殺せ!サリューラスのみでいい!これ以上無いサーチマテリアルを絶対に奪われるな!」

「了解。排除命令が出た。施設員及び研究班、《ウェポンモジュール》を《リサーチ》から《コンバット》に変更。」

「光線銃ヘルブリンガー装備!全部隊一斉射撃開始!」

容姿を変えた施設員及び研究班のメンバー10名が、来訪者めがけて発砲。その様に、男と女はビームガーターを展開。

ビームガーターの副次的な攻撃作用が発動。

ビームガーターの放つ光波壁が受けた光弾を瞬時的に真反対化。その光弾は研究班に向けられ、回避の隙も与えずに対象となる研究班に命中。殺戮した。

「来訪者に高エネルギー反応、陰マイナスがサークル状となりドライブ軋轢を発現中。」

女が黒の爆風波を発生させ、コンプレックスドームを滅却。ただ一人サリューラスのみは、バリアで抱擁。爆風で生まれた土煙が崩壊したコンプレックスドームから無くなった頃には、もう既にサリューラスと来訪者は消失していた。

「来訪者は《オリジンブラッド》サリューラスを強奪。追跡の是非を問う。」

「追跡に意味は無い。やめておけ。Sゲノムの新規細胞を採取できた。取り敢えずはよしとしよう。」

「了解、コンプレックスドームの応急処置を急げ。」

「Sゲノムブッシュ内蔵の兵器製造も同時にな!」

───

「悪魔の末裔、セカンドステージチルドレン。この星において最も不必要な異分子…人類が生んだ大罪だ。この贖罪はどうするべきなのか…。」

「やはり、行くべきだと思われます。」

「オリジンの世界か…。」

「宙域反応は?」

「先程、第一宇宙速度にて高速移動中だった小惑星を確認。観測衛星からの中継観測データが届きました。」

「シグナルを示す《反物質》はあったか?」

「いえ、研究データ対象外の個体数値のみが検出されました。」

「そうか……判った。」

世界を壊した。その元凶を作ったのは、あっち側だ。

私達は受け入れたのに。

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