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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾弐章 鮮血太極図ワルプルギス/Chapter.12“SisterhoodOfSeranoon
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[#102-セチアーピアの触激]

花の魔力。そして、謎のポリゴン。

[#102-セチアーピアの触激]



ポリゴン状遺伝子螺旋への攻撃を開始したヘリオローザ。遺伝子螺旋に花弁を植付け、即時的に体力を奪っていくドレインフラワーが放たれる。すると目標は機械的な雄叫びを上げる。嫌な音だ。聴覚のみではならず、口腔へも振動を巻き起こすほどのヴァイブレーション。舌が身勝手に震える。自分の意思とは反する部位の動きに、イラついてくるヘリオローザ。花弁はヘリオローザから放たれるものだが、実際にはその放出ルートなるものは形成されず。空間転移によって、ヘリオローザのスキル発動と同時に遺伝子螺旋の身体に植付けが始まる。花弁が目標の体力を奪っていく。するとそれを振り払いたいのか、目標の動きが過激なものになる。暴走がはじまった。


「無駄だ。お前なんかの力ではそれを払う事など出来ない」

ヘリオローザは宣言した。『お前なんかの力では』…。まるで相手の正体が分かっているように言い草だったが、現在のヘリオローザには不明な部分が多い。つまりこれは単なる予想の上での発言。だがこうして固まった答えを言うことで、自分は今慄いてなどいない…という事を表現しているのだ。ここで予想を立てた上で相手に語り掛けてしまうと、こちらの気が動転している事を分からせてしまう。戦闘は如何に相手へ自分の状況を隠蔽出来るかが鍵となる。

暴れるポリゴン状遺伝子螺旋。花弁は攻撃を続ける。徐々に花弁は目標から奪う体力を上昇させる。時間が経過する度に、花弁のサイズも拡大させていき、最大サイズになると繁殖を開始。より多くの花弁が目標の身体に寄生。その“寄生”の言葉通り、最初の花弁は外部へと接触だったが、繁殖後に発生した花弁は目標の体内へ侵入し内側からの細菌組織破壊を実行していく。ヘリオローザはここで勝ちを確信する。目標の動き…暴走の範囲が尋常ではないものとなる。教皇ソディウス・ド・ゴメインドが形成したウプサラの壁に何回も何回も自分の身体を激突させる。10秒、12秒、17秒、19秒、21秒、25秒…最初、ウプサラの壁に激突した目標が、上記の時間が経過する毎に身体がウプサラの壁へ当て続けられる。これは目標の意図的なものでは無い。ヘリオローザが送り込んだ花弁による意図的な動きだ。

花弁『セチアーピア』は目標の制御をほぼ奪取している状況にあった。視覚の88%を奪取中で、完全な制御に至る時間まで残り僅か…といった状況だ。

花弁が育ち、内部にて巨大サイズを構築して完全制御するのがオチか。

最初期に目標へ寄生した現在目標の外部にて未だ新体を繁殖中の『セチアーピア・マザー』が新体を作り続け、数で圧倒し制御するのがオチか。


どちらにしてもヘリオローザの勝利は決まっている。コイツをぶち殺せば、停止した時間を再生させられるだろう。確証は無いが…まぁ普通、そういうもんだ。どんなものにも弱点は必ずある。だが今のとこ、弱点と言える箇所は見当たらない。弱点…とは言えないが、この“時間凍結”との関係性は恐らくある。じゃあその発動主であるポリゴン状遺伝子螺旋を殺せば、時間凍結から解放、時の再生が始まる。


「何よ……“ポリゴン状”とは思ったけど…こうもポリゴンを発生させるの…」

目標の動きが次第に収まる。身体が貧弱になっていっているのだ。先程までの暴走していた勢いはどこへやら…過度に身体を動かすような素振りは無くなっていた…と思いかけていた時、突如として息を吹き返した目標。その後は暴走していた頃と同様の力を滾らせながら身体を縦横無尽に走らせていた。だが6秒ほど経過すると、また貧弱期に突入し、身体が鈍る。花弁の脅威は終わっていない。どんな状況におちようが花弁がその身体から離れる事は無い。外部に入植した“第一花弁群体”も同様だ。

そんな無敵の寄生体花弁に予期していなかった悪性事象が起きる。


等間隔に訪れる貧弱と暴走。これの逡巡が花弁の予測行動モニターに妨害を引き起こす。花弁は知能組織のよって学習的な思考を持ち合わせており、それはヘリオローザからのメッセージ受信も可能。ヘリオローザからの指示をどこにいようともダイレクトに受け取ることが可能なのだ。

ヘリオローザは2つの動作を繰り返す目標の動きに抑制が必要だと察し、花弁のドレイン効果リミッター解除を要請。しかし花弁は何故かそれを行動に移そうとしない。何回言っても、花弁から実行に移される様子も無い…。

ヘリオローザはここで判ってしまった。高度な学習的知能を備えている花弁にエラーが発生してしまったのだ。何故ここに来てエラーが起こってしまったのか…考えうる事象として上げられたのは、不用意な目標による“強弱リピート”。弱いは“花弁からの攻撃を受ける姿。強いは“花弁からの攻撃に抵抗を示し、暴走する姿”。

普通、これらを繰り返し行われると、そのシチュエーションを花弁が覚え、花弁もテンプレート的な行動に移し替える。しかしこのテンプレートの戦闘行動にエラーが発生。どこからか、別シグナルが時間凍結空間に送信されたのだ。

花弁のエラーはそれだけでは終わらず…。ポリゴン状遺伝子螺旋が暴走時はまた異なった“蠢き”を見せ始めた。時間凍結空間を這いずり周り、空間内の全ての空気と触れ合っている。そう捉える事が出来るのは、目標の身体のうねり方にあった。蛇だ。蛇すぎる。蛇が宙を舞えるような浮遊能力を有したら、きっとこのような動きになるのだろうな…と思える動きだ。

グニョグニョに這いずり、やがてそのポリゴン状の外皮が新たなフォームを形作る。ポリゴンが上空に向かい大量に放出される。謎の多角形立体図像は次第にその姿を変えていく。蛹から成虫になるように、元々備わっていた図像を脱ぎ捨てていた。図像から脱却していく時、分泌液のように小さい小さいマイクロサイズの立体図像が飛散。それは多角形でもあれば、円形だったり…と様々。

遺伝子螺旋から放出された多角形立体図像は、グレイ型エイリアンを想起させる姿へと変貌。その数は遺伝子螺旋が這う度に倍増させていく。100はとっくに超えている。

グレイ型エイリアンは形をその姿にさせた瞬間、一気に地面へ急落下するが、その落ちていく際に後背に羽根が形成され、地面への直撃を防いだ。

これをただただヘリオローザが眺めているなんて、そんな甘ったれた時間は存在し無い。

ヘリオローザはルケニア『エンプレス・オブ・インディア』、フラウドレスとほぼ同様の“黒薔薇”を顕現。大量に放出された多角形立体図像に対しての攻撃を開始。だが、多角形立体図像を死守する物体が出現する。同様の物体、多角形立体図像。ヘリオローザのルケニアが、薔薇の特有の荊棘を発生。黒薔薇⋯謳ったがヘリオローザのルケニアは黒薔薇の姿を顕現直後に変更。闇の力を纏い、人の血を混ぜ合わせた黒薔薇はもう一人の戦乙女を創る。

あエンプレス・オブ・インディアの戦乙女形態ヴァルキリーフォーム。ヘリオローザのルケニアは多種多様な形態に変化が可能。これはほんの一部に過ぎない。歴代のラキュエイヌ血統による特性。ヘリオローザはこれまでに入植した全てのラキュエイヌ血統を記憶している。記憶では済まず、それぞれの特色を昇華し、自分のモノに仕上げているのだ。その“自分のモノ”が表現出来る最大の場所というのは、“争い”だ。

争いは力を競う。弱い者は果てる。果てた後に、遺るものは無い。だって弱いから。“戮世界”を経験したヘリオローザは、自分の能力に“弱味”があると思っている。もっと高みへ⋯もっと⋯もっともっと⋯これだけでは母体を守る事は出来ない。ヘリオローザは母体の知らぬところでラキュエイヌに多くの恩恵を与えていたのだ。



エンプレス・オブ・インディア、その戦乙女形態ヴァルキリーフォーム。ヘリオローザのルケニアはそれに姿を変化させ、グレイ型エイリアンへと変貌を遂げた謎のポリゴン図像を攻撃。ルケニアの号令によって、背中から多くの剣が揃う。その剣たちが一斉に向かう。

“ソードビット”。幾数もの剣が唸りを上げ“ポリゴンエイリアン”の撃滅を決行。ルケニアのソードビットは、ポリゴンエイリアンを“別の多角形立体図像”によって、インターセプトされてしまう。剣戟の音色が響き渡る戦場。と同時に、ソードビットによって破砕していくポリゴンは、形象崩壊を遂げ、見る影も無くなっていった。予測していた未来とは多少違った⋯いや、かなり違う⋯。

ポリゴンを守るポリゴン。デジタル世界にでも迷い込んだみたいだ。

ネットワークが構築する広大な仮想空間。どの情報が真実で、どの情報が虚構なのかが判らない。曖昧な境界の中で生きる世界。結局、答えだけが判ればいい世界。導かれる道程なんてどうでもいい世界。何が起きたのかを取捨選択せずに済む世界。だってそれら全ては、人間の思考によって生まれた“虚実”でしか無いから。


そんなのは、ただの虚像。偽りの世界。


ポリゴンのインターセプトは厄介だった。ソードビットは現在、遺伝子螺旋から放出されている、羽の生えたグレイ型エイリアンの数とほぼ同等の剣数を用意していた。それら全てが“別個体ポリゴン”によって守護されてしまう。ルケニアは怒りで満ち溢れ、より多くの、そして正確さを重視したソードビットを生成。形象崩壊していった守護ポリゴンは地面にその欠片を残す。ヘリオローザがその欠片の現在を怪しんだ時点で時すでに遅かった。


「めんどくさ⋯」

ヘリオローザは嫌味を放つ。

ソードビットの攻撃から羽の生えたポリゴンエイリアンを守り切ったポリゴンは、欠片となった部分を繋ぎ合わせ再生を開始。ヘリオローザはルケニアへの指示では無く、自分で再生ポリゴンの対応処理を行う為、急いで欠片の排除に向かった。荊棘を後背から生成し、帯同させながらポリゴンの欠片に放出する姿は、ヘリオローザのソードビットと似て非なるもの。荊棘が次々と守護ポリゴンに命中。しかしその部分からまた新たなるポリゴンの素体が形作られていき、結局はポリゴンの数を増やすだけの作業となってしまった。

「ヘリオローザ⋯ねぇ、アタシ⋯ヘリオローザ。これ⋯どうしたらいいの?ハァハァ⋯あれ⋯どうして⋯?アタシ⋯疲れてんのか⋯⋯な、、疲れ⋯⋯⋯ハァハァハァハァ⋯やぁっば⋯⋯なにこれ⋯⋯⋯」

ルケニアの過分な使用。そして長く戦闘行動を取っていた疲労がここに来て限界値に到達しかけていた。ヘリオローザにとってこんな事初めての出来事だった。

「頼むよ⋯⋯お願いだ⋯こんな⋯⋯ところで⋯アタシ⋯終われないよ⋯⋯フラウドレスにどんな顔見せればいいのよ⋯⋯」

弱い言葉を吐きたくない。絶対に⋯まだ⋯⋯立てる。立てれる。だって、今、まだ、こうして、立てているから。だから戦える。


意志とは反して、身体を食っていく“疲れ”という名の地獄。自分でも一番判ってる。もう⋯⋯やばい⋯と。このまま決着をつけれずに終わってしまう⋯。ヘリオローザの前に広がる、夥しい数の多角形立体図像。先程までグレイ型エイリアンの姿をしていたもの達はいない。いない⋯のか、この夥しいポリゴン達が“それ”なのか⋯。多分、後者なのだろう。


こいつら⋯アタシをどうするつもりなんだ⋯。包囲して⋯⋯アタシを殺したりでもするのか?


ルケニア『エンプレス・オブ・インディア』のソードビットが炸裂していく。最後の足掻き⋯だとは思っていない。絶望を希望に変える幾数もの剣筋がポリゴンの形体を貫いていった。ソードビットが多角形立体図像ポリゴンへ接触し、貫通した際に殲滅エフェクトが発生する。まるでゲームのような描写。コンピューターで造られた敵性生命体を倒すと表示される表現方法にそっくりだ。ポリゴンがソードビットの攻撃を受けると、身体が一気に分散し、宙に舞う。その分散したらポリゴン達が、空気となり自然的に消失していくのだ。だがそれはゲーム作品だけの話で、当該ポリゴンは、消失した⋯と見せかけて地面にナノサイズのポリゴンが集合を開始。呼び掛けを行い、またそれぞれのポリゴンを作り、増殖を繰り返す⋯。ヘリオローザがポリゴンの増殖に加担しているようなものだった。


「アタシ⋯ここで⋯⋯⋯⋯」

ヘリオローザの視界が悪くなる。ボヤけてきた⋯。モヤがかかってきたみたいだ。一回瞬きをする。その後、何回か瞬きをした。その瞬きをする度に、体力が減っていくことを悟る。だが“瞬き”から避ける事は出来なかった。ヘリオローザは今、声も失われつつある。それが体力減少と連なる内容なのか⋯と言われればそうでは無い。

ヘリオローザ。視界に掛かるモヤが限界を超える。もはや瞼を閉じてるのと一緒だ。


彼女には見えていないが、現在ヘリオローザを取り巻く事象⋯。ポリゴンは多くの形体を結合させ、ヘリオローザに接触を図っている。その時、形体変化を遂行し、先程グレイ型エイリアンに姿を変貌していたポリゴン個体は、そのフォルムを再現。だがそれはただの中間形態だった。ヘリオローザの遺伝子を受信したポリゴンは、DNA配列を“クリスパーキャス9”を技用し、組み換え作業を開始。全ポリゴンエイリアンがヘリオローザの遺伝子を組み込まれていく。ヘリオローザは力尽きたのか、その場で身体を横に落とす。今、自分の身体に何が起こっているのか⋯。それが判っていれば、絶対に抵抗してくるはず。

──────────────

外敵が自分の遺伝子を奪い取ろうとしているのだ。

──────────────

ポリゴンエイリアンはヘリオローザの遺伝子を受信したことによって、身体に変化が生じ始める。

ヘリオローザのルケニアと同様の成分を蓄えたことによって、黒薔薇の能力が各自に付与される。身体は、黒薔薇を思わせる戦闘服を着装。羽根の生えていた個体たちには、羽根が再現され、上から下へかけて、薔薇の色に染められていく。羽根に関しては黒だけに限定されておらず、赤と青が確認出来た。ただし、その赤と青⋯というのも、ライト方向の赤色青色では無い。


血色を想起するブラッドな赤。

瑠璃紺を想起するネイビーな青。


明るい発色は無かった。ヘリオローザの遺伝子を再現させたポリゴンたちは、素体・ヘリオローザを回収。数体のポリゴン、ヘリオローザの遺伝子を受信し、フォルムを変えた存在だ。数体のポリゴンたちが素体・ヘリオローザを回収するために、キャプチャーを展開。それはポリゴン状で構成された立体図像。

ポリゴンたち各々がエネルギーを収束させ、キャプチャーフォームに形態を変化。ひとつひとつが発光体としてポリゴンを光り輝かせ、点となり、その点と点が結ばれていく。その結ばれていった線が“檻”を形成。檻に入れられたものはキャプチャーの中から出る事は許されない。

例外はある。それに該当する要素を持った生命体が、薔薇の暴悪だ。

今のヘリオローザにそのような余裕があれば、の話だが。


─────────────────

「とっ捕まえた!とっ捕まえた!やったねー!!ピースP-ーーす!!」

「ようやくだなァ⋯。長くかかりすぎたんじゃねぇのか?あぁん?」

「はい、長時間に渡って行われた戦闘は、こちらの予測をはるかに上回る結果を齎しました」

「こんなに被害が出るとはなァ、さすが薔薇の暴悪。戮世界の預言書に記載されるだけの事はある」

「違う違う!!戮世界の預言書、じゃないでしょ!?」

「はい、“トネリコの預言書”です」

「なんでもいいだろうが⋯って言いたいところだがァ⋯それを心に決めた時、始末されるのはこっちだからなァ。めんどくせぇ制度だ」

「判る判る。その気持ちだいぶと判るよ。もっといい世界構築の仕方があると思うんだけどね」

「はい、ですが、世界構築についての話は我々のレベルで話していい次元ではありません」

「そうだなァ、ここよりももっとでっけぇところでなら話せる話だからな」

「はい、ここ以上に“合っている場所”がありますので⋯後の処理はそちら方に任せるとしましょう。さて、薔薇の暴悪を捕獲しました」

「やったねー!やったねー!バンザーイ!バンザーイ!コイツけっこうイケイケだねぇん!ウザすぎてだいぶとちゃんとしっかりとマジメに腹が立ってたよ」

「お前が腹を立てる程なんだからァ、相当な奴って言うことだ」

「なになになになに!??いい事言ってくれるじゃん!」

「ァあん?何がいい事なんだよ」

「だってだってー!褒めるなんて事今まで無かったじゃん」

「俺ァ褒めたんじゃねぇんだよ」

「えー?え!?何そんな事で強がってんのさッ」

「⋯⋯⋯薔薇の暴悪。あのままにしておくのかァ?それとも⋯⋯有効的な利用はあんのか?」

「はい、今のところは上告するつもりです」

「上に報告したとして、連中が軽く薔薇の暴悪を収めるとは限らねぇ」

「でもさ!でもさ!上の人間たち⋯もう知ってるよね?」

「まァ、だろうな。知らねぇはずが無い」

「はい、薔薇の暴悪はスカナヴィアの方で一旦は預かっておきます」

「お前がァ責任持てよな?何かあったら」

「はい、当然です」


「ゾディアックの皆様にご報告を致します。ただ今、“バーチャリアルキューブサット”が到着しました。中をご覧になられますか?」

ゾディアックの3人にアナウンスが入る。


「はい、こちらに運搬をお願いします」

「かしこまりました」


ヘリオローザがキャプチャーされた、檻。“バーチャリアルキューブサット”と呼ばれるポリゴンだ。帝都ガウフォンから、司教座都市スカナヴィアに空間転移が施された。


「バーチャリアルキューブサット。天根集合知の逸脱者⋯か。“式セルジューク”、お前には似合わねぇ力だなァ」

「見せて見せて!!生モノ見るの初めてだからーん!へぇー」

ヘリオローザが捕獲されているポリゴンの檻を眺める。

「うーん⋯うーん⋯思ってたより⋯普通の女の子って感じだね」

「コイツは人間じゃねぇ。人間でも無ければァ、他の生物とも言えねぇ。ただの悪性ウイルス。戮世界、原世界問わず⋯“この次元”に生まれてきゃいけねぇ存在なんだよ」

「はい、薔薇の暴悪、ヘリオローザ。人の姿を模した悪魔。花を使って自分の能力を劇的に上昇させる行為は相変わらずですね」

「このとち狂った“異分子”を使って、どうするってんだァ?」

「はい、バーチャリアルキューブサットが彼女の遺伝子を蓄えた結果、進化生命の兆候が見受けられました。これをより良い方向に活用するのです。たとえば、原世界への移住計画とか」

「ほほぅ⋯移住計画ね⋯⋯。それ、うまくいくのか?」

「いくいく!絶対うまくいくよ!どんな奴らが来てもイチコロイチコロぉー!」

「はい、戮世界テクフルのアタッカーを総動員すれば、接収は可能かと。ただし、油断は禁物です。フラウドレス、サンファイア、アスタリス。彼等はセカンドステージチルドレンの血盟。原世界版アトリビュートと言ってもいい存在。こちらが天根集合知を扱えるように、“ルケニア”と呼ばれる超異能を備えています。オリジナルユベルが受けた小惑星落下の原液。それは今でも絶えずに⋯。1604年前の血はいつまでも引き継がれる」

「ほんとほんと⋯厄介な女の子だよねー。アトリビュート、セブンスの中には彼女の魂が宿ってる。ユベル・アルシオンは生きている。いつまでも。根絶するまで」

「ヘリオローザはァ、原世界での戦争時に使用された無差別殺人バクテリアが突然変異を起こした結果だ。フラウドレスの中に寄生し、偶然、その突然変異を発生させた身体の中に、超越者の血が有った。ホント⋯こんな事ってあんのかよ⋯」

キャプチャーされたヘリオローザにゾディアック達が触れる。バーチャリアルキューブサットは檻の中へ幽閉したヘリオローザのデータを調べ上げた。バーチャリアルキューブサットがヘリオローザの今までの遍歴を調べ上げたのに、ゾディアック達は自分の力でヘリオローザへの接近を実行。これまでのヘリオローザが経験してきた全てを、この身で知った。


「薔薇の暴悪・ヘリオローザは、スカナヴィアが管理する。では帝都へと、意識を向け直そうかァ」

─────────────────



───Side:ミュラエ・セラヌーン



幻影空間。ミュラエが創った世界。だが今やその力に翻弄されてしまっている。ラージウェルが発現した禍天の魔女“マズルエレジーカ零号”。竜の姿を模した魔女だ。


黒輪はミュラエの天根集合知ノウア・ブルームの一つ。それなのに悪用されてしまう始末⋯。あー⋯自分を呪いたくなる。どうしてこうなってしまったんだよ。諦めてない⋯諦めてないけど⋯⋯コイツ⋯自分よりも取り扱い方が上手いじゃないか⋯。黒輪を出すタイミングが絶妙だ。マズルエレジーカ零号と私。今は白鯨ゲブラー等級の姿を借りて、戦闘に出撃している。

簡単に言ってしまうと、“竜と鯨”の戦い⋯と言ってもいいものだ。白鯨は素早い。私にもそれなりの特性がある。しかし⋯どう足掻いてもこの戦闘下でスキル向上は見込めない。そんなシチュエーションに置かれていないからだ。だがマズルエレジーカ零号⋯(やけにコイツ⋯名前がカッコいい⋯)。

竜は私との戦闘を続ける度に、自分の能力に磨きをかけていった。

その前に⋯。私とマズルエレジーカ零号がどんな戦闘行動で互いの実力を見極めていたか、と言うと、これがまた単純なものだ。引っ掻きに、ブレス波動⋯それに、体当たり⋯。これだけの異形生命体ティーガーデンによる戦いで、場所が場所だって言うのに、こんなにものアナログな戦いになるんだな⋯と自分の事なのにそう思ってしまう。じゃあ現在白鯨である私が、白鯨らしく光柱を発動させればいいじゃないか⋯。

⋯⋯⋯⋯それが出来たら、とっくにやっている。天根集合知“幻影空間真空の抽象”で発現された幻影空間は、異形生命体ティーガーデンからは“劇薬的な効果”を発揮する。多くのスキルが封印されてしまう副次的な効果を孕んでいるのだ。マズルエレジーカ零号が創った当該幻影空間。私のバージョンでは無い。⋯なので、私にはほとんどの白鯨的能力が使えなくなっている。だがこの真理だと、何故発現者であるマズルエレジーカ零号も私と同様にスキルが使えていないのか⋯?

もしかすると、ただただスキルを使っていない⋯と考えに至ってもいたが、それは無いだろう。お前が相手にしているのは白鯨だ。いくらゲブラー等級と言っても、白鯨なことには変わりない。『ルシェキナ等級』、『イェソド等級』、『ホド等級』の下位に相当する白鯨とは訳が違う。

そんなことを分かっていないような冷遇視を直感的に行う存在とは思えない。と、なるとマズルエレジーカ零号だって私を即殺したいはずなのだ。でも、やらない。やらない⋯では無く、“やれない⋯”のだ。

マズルエレジーカ零号の黒輪に誘われる形で、この空間に来た私。可能性として有力視できるのは、未だに“黒影”の天根集合知を最大限に活用出来ていない⋯と見た。もし完璧に扱えるのであれば、黒影の特性を“自分以外へ有効”に設定するはず。それなのに、マズルエレジーカ零号はこの空間全域に設定してしまっている。だから、マズルエレジーカ零号自身もスキルを発動出来ずじまいにいる。

マズルエレジーカ零号の戦闘行動は、時間が経つにつれてパターンが追加されている。引っ掻きが行われた次は、翼による旋風の切り刻み。ハリケーン級の竜巻へ進化した旋風は、戦闘による学習の結果だと思われる。奴は自分に搭載されていた攻撃と私の天根集合知ノウア・ブルームを掛け合わせた合体技も編み出していた。火焔ブレスに黒影を混合させ、深紅の炎へとモデルチェンジ。それが幻影空間の地面へ“あえて”直撃させることで、誘発効果が発生。単一的な攻撃行動では終わらせず、様々なオプションを追加させ、私を追い詰めていた。


それに⋯奴は喋らない。だからこっちがいちいち言葉を口にしても一切の返答が無い。ちょっとぐらいは意志の交換をしてほしい。敵ながら⋯。私は完全孤独になるのが嫌なんだ。不気味な敵を相手している⋯と思いたくない。これは魔女⋯ただの魔女。竜の姿をした魔女。その竜の背に乗る人間モドキがいるけど、あれはただのホログラム。あそこに攻撃を向けても全く意味は成さない。

「あんたの宿主、今、どうなってんのさ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「あんたを見捨てて、何してんのさ」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

言葉が返ってこない事は分かっている。だが、勝手に自分が断定してしまっただけかもしれない。しつこく言葉で迫れば、奴は口を開くかもしれない。

「宿主は近くにいるべきだ。そんなこと魔女のあんたが分かっていない訳が無い」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「あなたは分かっていないようだけど、黒影をまだマスター出来てないみたいね。自信にも封印術式が発動してしまっている。強がって、『自分にも加えているのだ』なんて、訳わかんない事言わないでねー?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

「⋯っていうか、なんか言ってくれないかなぁー?!」

険悪な空気が漂っていた中で、それをぶち壊す声がマズルエレジーカ零号に掛けられる。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

ん?なんだ⋯私の声色が嫌だったのか?今少しだけ、息を吸い込んでいたな。息の吸い込みは、発声の兆候だ。鼻の形もほんの僅かにモーションが生まれており、両穴が微かに開いていた。これは奴を注視していなくとも、普通に観察していれば気づく動きだ。

何か、しかけてくる⋯。

そう思った時、幻影空間に突然、穴が発生する。その穴が開いた刹那、吸い込まれるようにミュラエ白鯨は穴へとその身を近づけてしまう。穴はターゲットをロックオンし、一気に仕留めにかかる。穴の吸引が急激に強まった事で、ターゲットは“自分だ”と思ったミュラエ。穴への抵抗に掛かるがその瞬間、白鯨の力が弱まっていき、ミュラエの身体が幻影空間に露呈される。吸引は白鯨の力を消失したミュラエに一極集中を企て、バキューム式に強制吸引。ミュラエが必死に抵抗を示す中、マズルエレジーカ零号がこちらを見ている。

竜と竜騎士。竜騎士は背から降りて、騎竜をしていなかった。

竜騎士がその兜を取る。取ろうとした瞬間に、吸引力は格段なパワーアップを遂げた。今まで抵抗していた力が一気に削がれていく。足を引っかけたり、地面に手を差し出して取っ手となる部分を探してもいたが、終始自分の体重を吸引とは逆方向に傾けているだけだった。そのかい空しく、穴へと連れて行かれてしまう。ミュラエはその時、久々に穴の全体を見た。吸い込まれた時にだ。するとそれは“穴”の形を呈していないものとなっている。“穴”では無く、“渦”だった。渦巻。穴の輪郭はそのままに、渦巻の急速回転が吸引力に増加に繋がっていたのだ。結局竜騎士の素顔を見れなく終わり、私は渦巻の中へと連れて行かれてしまった⋯⋯⋯⋯。


ありがとうございました。

今日から、頻度激減します。チャプター13以降、本当に減っていきますが、生きてますので。

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