[#98-ラティメリアはアストロロジックに背を向ける]
[#98-ラティメリアはアストロロジックに背を向ける]
「え、、、」「え、、、、、」
「何してんの、早く来て」
「は、はい⋯⋯」
「お姉ちゃん⋯⋯」
衝撃的な台詞だった。アトリビュートをヘリオローザが呼んでいる。しかもその言葉の音色というのが、なんとも⋯“家族同士で仲のいい隣人のお姉さんが、お菓子買ってきたから食べる?”ぐらいのテンション。あまりにもな気さくな対応にセラヌーン姉妹は困惑する。ウェルニは戸惑い過ぎて『お姉ちゃん⋯』と口にしてしまう始末。
恐らくヘリオローザにこれは聞こえている。だがヘリオローザは、特に気にしたような素振りを見せず⋯。とにかくセラヌーン姉妹を呼びつけた。
ここでようやく薔薇の暴悪ヘリオローザと本格的に接触する事となる。
「フラウドレス・ラキュエイヌ。原世界で生きている現在のラキュエイヌ。最後の生き残り⋯のはずよ」
「この人が⋯今のラキュエイヌ⋯なんだね?」
ミュラエの言葉が固い。もっと楽に、落ち着いた感情でヘリオローザとコミュニケーションを取りたかったが、無理なようだ。完全に緊張している。そんな姉の姿を見てウェルニがヘリオローザへ切り込もうと試みる。しかしその瞬間、ミュラエからマインドスペースを通してメッセージが吹き込まれた。
『余計なことしない!』
はぁ⋯、、、とウェルニは思ったが、その時のミュラエの表情を見ると殺伐な顔が形成されており、今からでも妹の口を引き裂くつもりだった。姉の恐ろしく、狂気的な感情を観測した事で、ウェルニの行動は表面化されずに済んだ。
「そう、この子がラキュエイヌ。可愛いよね。アタシ、ずっと最初っからいたから⋯彼女のこと全部知ってる」
「ヘリオローザ⋯それは歴代のラキュエイヌ全てに当てはまる事なのでは?」
「そうよそうよ!その言い方だと、赤ちゃんの時からじゃなくて生きてて途中で“寄生”した事になるじゃない」
「ウェルニちゃん?寄生とはまた人聞きの悪いことを言うね」
「あー、、、、すみません⋯⋯」
「まぁいいわ。確かにアタシはラキュエイヌのパラサイト。ラキュエイヌの身体に1000年以上は棲み付いてきた。ラキュエイヌが死んだらアタシは死ぬ。だから性行為の時に転々と“宿主”を入れ替えてきたわ。フラウドレスは今までのラキュエイヌとは格別なの」
「セブンス⋯ですか?」
「そうよ。セブンス。戮世界で言うところの“アトリビュート”。あなた達と同じ“胎芽ユベル・アルシオン”の茎進化ね」
薔薇の暴悪ヘリオローザの口から、“アトリビュート”の名前が出て来た。セラヌーン姉妹は背筋を伸ばし、凍り付いたように身体を硬直させた。今から何が起きるのか⋯普通なら⋯歴史が正しいものなら⋯ここで、ヘリオローザは復讐を決行する。歴代のアトリビュート達がヘリオローザに執り行った数々の制裁。贖い切れない多くの罪を背負って来たアトリビュートと大陸政府に裁きが下る瞬間移動だ。
「⋯⋯⋯2人とも。アタシに怯えてるでしょ」
「⋯⋯⋯」「⋯⋯⋯いや」
「ウェルニ!」
ウェルニは強がってヘリオローザの発言に反論。それを注意するようにミュラエが、急いで訂正させた。
「薔薇の暴悪。私達、戮世界の先祖があなたにして来た事は許されるべき行為ではありません。先程、この人間達の言葉を聞いて改めて思い出されました。あなたは戮世界を憎んでいる。特に、私達アトリビュートを⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「そんなあなたが、どうして⋯私達アトリビュートを助けるような真似をしたんですか?」
「⋯⋯⋯」
「お願いです。教えてください」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ヘリオローザは、ミュラエの願いを無視し、フラウドレスへの看病に当たっていた。必要の無いことには関心を示さないようだ。にしても、ミュラエが願いの言葉を掛けた直後にフラウドレスへの看病に再専念したことは疑問に残る。やはり、ヘリオローザとしては触れてほしくない部分だったのか⋯あまりにも常識的には考えられないアトリビュートに対するアシスト行為。
「⋯⋯⋯⋯アタシは、サンファイア、アスタリスの味方。2人の傍にあなた達が居たから助けた。仲間なんでしょ?サンファイア、アスタリスの。だったら助けるのは当然よ」
「⋯⋯⋯あ」
答えてくれた。一応、書き記しておくが、この時もヘリオローザは2人に顔を覗かせていない。セラヌーン姉妹がヘリオローザにもっと近寄れば、簡単に彼女の顔を見る事はできる。しかし、セラヌーン姉妹はその行動が出来なかった。ただ単に“失礼”だからだろうか。応急処置に当たっている人物の顔を不用意に覗く行為なんて当人からしたら不愉快極まりない事だ。
「ありがとう⋯⋯⋯嬉しいよ、そう言ってくれて」
「そ。そこに突っ立ってるままだったら協力してくんない?フラウドレス、普通に大変なんだけど」
「わ、、わかった⋯ウェルニ」
「う、うん⋯⋯」
2人、緊張の色が拭えない。青ざめた表情が如何にもな現実だ。偽りきれない2人の今。ヘリオローザと本格的に相対する。
◈
セラヌーン姉妹がヘリオローザ及び重体のフラウドレスに最接近を遂げた。
「こ、、これは⋯⋯⋯」
ミュラエとウェルニが、近づき教皇の攻撃を受け絶命必至の狭間を彷徨うフラウドレスの重体を観察。観察しても何も出来ないのに⋯。セラヌーン姉妹はそれしか出来ないと思っていた。だが、その時ヘリオローザがセラヌーン姉妹に顔を合わせ、接触を示す。そう、ヘリオローザの方から。
「ミュラエは、フラウドレスの両腕を。ウェルニは両足を揃えて固定して。あ、ミュラエも固定して」
「ぁうん⋯分かった」「⋯⋯⋯⋯⋯」
ミュラエは恐る恐るヘリオローザの言われた通り、行動に移す。ヘリオローザの顔を見た。
『綺麗⋯』
⋯⋯⋯心の中に留めただけでも褒めて欲しいものだ。
こんな人を攻め立てるような連中が過去にいた⋯と思うと、私は異常な世界だな⋯と思ってしまう。綺麗な人にほどトゲがある⋯とか言ったかな⋯。レピドゥスとも交信したんだけど、ヘリオローザへの警戒は不必要⋯との回答が来た。私はレピドゥスを信用している。ヘリオローザは、レピドゥスが認めた存在だ。だから私は、ヘリオローザの言う通りにする。それに、フラウドレス。この人はラキュエイヌだ。ここで死んでもらったら困る事が山ほどある。
セラヌーン姉妹は、指定された部位に居座り固定。ミュラエはフラウドレスの両腕、ウェルニはフラウドレスの両脚。フラウドレスからは力は無い。植物人間のような状態だ。生きているが、動かない。
「周りの人間⋯これはヘリオローザがやったの?」
フレンドリーなウェルニが、旧友に接するかのように問い掛けた。ミュラエがウェルニの行動に危機感を覚え、発言を制そうとするが、その行動に至る前にヘリオローザはアンサーを提示。
「そう、アタシがやった。無様だよね。ほら、見てみなよ」
ヘリオローザは包囲陣形を整え、拘束結界を施されている大陸政府らに注目した。
「アタシの能力が解かれることは無い」
「⋯⋯言い切れる⋯の?」
「なに、ウェルニ?アタシの力を疑ってるの?」
「⋯⋯あなたが戮世界のいない間にここは変わりました。薔薇の暴悪ヘリオローザが知らない存在が、戮世界テクフルにはいます。その者達への対処は出来ているんですか?」
「うーん、出来てないね。まぁその時はその時。君達が答えてやってよね」
「⋯⋯はぁ、、、、」
ウェルニは呆れた声を出す。それを“まずい⋯”と思い、ミュラエは彼女の心を正させた。
「ヘリオローザ、ごめんなさい。私の妹が無礼な事を言ってしまいました」
「お姉ちゃん!」
「ウェルニ。この人はヘリオローザなんだよ。無駄口叩く行為はやめなさい。ね?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯ふん!」
ウェルニはそっぽを向く。両脚の固定は行ったまま。
「ウェルニちゃんが言及した、何者かの存在に警戒しよう。その為に、フラウドレスを復活させるよ」
「⋯⋯⋯教皇からの攻撃を受けたんだよね?フラウドレス、大丈夫なのかな⋯」
「大丈夫だよミュラエ。フラウドレスは凄く強いから」
ミュラエとウェルニがそれぞれの箇所を固定。それによってフラウドレスは一本の太い軸のように、ピーン⋯と張り詰めているよう。
セラヌーン姉妹は、今から何を施すのか⋯ヘリオローザの行動が不確かな状態。
『フラウドレスを復活させる』と言っていたが、ヘリオローザには復活の呪文のような天根集合知を所持していたのか⋯と思う。しかし、実際復活をさせようとするヘリオローザには、天根集合知の能力は漲っておらず⋯。
いったい何をしようとしているのか⋯不可解になったその時。
ヘリオローザは、自身の指をフラウドレスの臍に当て、グリグリと何周をかき回した。服の上から先程まで、当該行為を行っているのは見えていた。これはその延長上のものか⋯?と思ったが、臍グリグリは新たなフェーズへの中間地点に過ぎなかった。
ヘリオローザは着装していた服を半分脱ぎ、腹部が露出されている状態となる。この格好で色目を使われたらきっとヘリオローザの存在を知らぬ男はイチコロだろう⋯と思ってしまうぐらいに中々のエロさを彷彿させていた。腹部を顕にしたヘリオローザは、臍から臍帯を出現させ、なんと
その臍帯をフラウドレスの臍に繋ぎ合わせてしまった。ウェルニは思わず声を漏らしてしまう。この光景を遠目から見ていた拘束中の大陸政府らも驚きを隠せない。
「ヘリオローザ⋯これは⋯⋯⋯⋯」
「うーん、、、だからみんなから視力を奪うようにしようかなって思ってたのに⋯。なんでか面倒になっちゃってさ。説明もダルいし、長ったるい話になっちゃうから⋯」
つまり、ヘリオローザは当該行為に対して、何も言及したく無い⋯ということ。
ヘリオローザの臍から出現した臍帯がフラウドレスの臍に繋げられ、更には“固定”の意味を含んでいるのか、フラウドレスの臍部分で固結びを思わせる事象が確認された。
「裁縫の最後は玉止めでしょ?」
ヘリオローザが、そう言った。“玉止め”が施された臍帯は、フラウドレスとヘリオローザの神経を直結させた。ヘリオローザはここから多くを語らず、ただただフラウドレスの顔を凝視。
────────────────
『フラウドレス、聞こえてるよね?聞こえてるはずよ。あなたの意識に直接語り掛けている。それが聞こえていないようじゃ、あなたは命を落としている事になる。だけど安心した。いや、安心“して”。フラウドレスは死んでいない。アタシが保証する。あなたのお友達のお友達が助けに来てくれたよ。お友達は⋯あなたがぶっ飛ばされた教皇によって離れ離れ。あなたは信じていたよね。サンファイアとアスタリスと再会出来るって⋯。それが叶いそうだったのに。フラウドレスって人は⋯なんでかな⋯。なんで一人で行動しちゃったりしたのかな?アタシがいるって言うのに⋯それなのに自分だけで教皇との戦いを挑むなんて⋯。それに負けてんじゃん。情けないねー情けないよ。これが本当にラキュエイヌなのかい?これがアタシの見込んだ歴代最凶のラキュエイヌなのかい?セブンスの押し上げはこんなモノ?アタシは知ってるよ?もっとも、あなたはこんな攻撃を受けただけでは死なない。⋯⋯⋯⋯さっきっからアタシばっか喋ってるけど、本当は返せるでしょ?⋯⋯⋯⋯⋯怒ってるんでしょ?怒ってて、言葉を選別してるんでしょ?そんなのしなくてもいいのに。アタシがあなたのぜんぶ、受け止めてあげる。アタシはあなたのぜんぶなんだから。ラキュエイヌが死んだらアタシも死ぬんだから。たぶん、フラウドレスは繁殖行動を起こさないでしょ???ねぇ、これで⋯ラキュエイヌの血族、ジ・エンド⋯だもんね。アタシには判るよ。フラウドレスは恋愛感情、無いもんね。性欲も無いみたいだし。セックスする気にもならなそう。まぁあなたの“本来の姿”だと、セックスなんて出来ないし、最低でも10年ぐらいは時を必要とするけど⋯性欲はあった方がいいよ。絶対にね。あなたに性欲が無くて、ラキュエイヌの血を残そうとしなくても、その時はアタシが良い男とっ捕まえて、セックスするから。男がへたばっちゃうぐらいの気持ち良すぎなセックス披露して、フラウドレスに性を目覚めさせる!だからそん時は、アタシに意識を主幹制御させてね。ラキュエイヌの血族を終わらせたりなんか絶対にしないんだから⋯。フラウドレスは、“裂溝”って知ってる?歴代のラキュエイヌ⋯アタシが棲み付いて人限定なんだけど全ての天根集合知を掌握出来ているの。その中に次元と次元を往還することが可能な天根集合知を持ってたラキュエイヌがいたんだけどね、その人の記憶を最近見たんだ。預言者だったの。“薔薇の暴悪”であるアタシは、この身体で生きている事が多くあった。フラウドレスに姿を見せたのは最近だけど、実は歴史的背景ではアタシの姿は数多く観測されてる。だから連中はアタシにキモイぐらい反応をした。その預言者ラキュエイヌと久々にいまさっき記憶領域で会合したんだけど⋯“フラウドレスの旧友が危ない⋯”って言ってたよ。天根集合知“高次元式架橋裂溝”。これ、預言者ヴァンショット・ラキュエイヌの天根集合知。七唇律聖教の修道士だったよ彼。“裂溝の監視者”と交信が出来たから、崇拝されていた。彼の言葉は信頼出来る。ねぇ、2人に会いたくないの?2人と、もっとお話、したくないの?これでフラウドレスが死ぬとは思えないよ。フラウドレスは、ラキュエイヌ史上、比類なき生命体。もっと魅せてよ』
──────────────────
『ねぇ、お姉ちゃん⋯ヘリオローザ何してんの?ずっとフラウドレスの顔を見てるけど⋯』
『そうね⋯なにかやってるようには見えないんだけど⋯臍帯が繋がってることぐらいしか、こっちからは分からない』
『臍帯を繋げる⋯てさ、そんなの見た事無いよね?』
『もちろん、見たことも聞いたこともない。自身のウプサラソルシエール以外のモノと接合を可能にしてしまうなんて⋯考えても絶対しない行為よ』
◈
「⋯⋯ふぅ」
ヘリオローザからの嘆息。セラヌーン姉妹はそれに反応する。
「⋯ヘリオローザ」
「何してたの?」
「フラウドレスと、、お話、してたんだ。良かったよ。大丈夫そうだ」
「マインドスペース的なものか⋯」
「そうだね。アタシの神経とフラウドレスの神経が臍帯によって繋がった。一方的ではあるけど、アタシの想いは伝わったと思うよ」
「“想い”?想いって⋯⋯え、、単に⋯気持ちを伝えただけ?」
「そうだよウェルニ」
「何も⋯なんかこう⋯さぁ、、あるじゃん?力でフラウドレスを立ち上がらせる!⋯とか、、、」
「いや、そんなのは所詮“ガワ”に過ぎない。気持ちだ。アタシの気持ちを伝えれば、それが彼女の復活になる」
「あー⋯⋯⋯そ、そう、、、」
「なにウェルニ、もしかして疑ってるの?」
「イヤイヤ!いや!別に⋯!そんなんじゃ無いけど⋯気持ち⋯ねぇ⋯⋯」
ウェルニは間違いなく疑っていた。というか無意味な行為だと思っていた。ウェルニはヘリオローザが臍帯を通して執り行った真実を知らない。だからこんな楽観的な事が言えるのだ。ヘリオローザは今やるべき最大限の項目を終了させた。
「あと、フラウドレス自身の戦いだ」
「この機会に、ヘリオローザ、あなたの正体はなに?私達の味方⋯と捉えて大丈夫なの?」
「そうよ、あとから裏切って私達に復讐を果たそう!⋯なんて魂胆だったら承知しないんだから!」
「そうだね⋯周りの人間はこんなんだし、今だったら色々と詳しく話せるかもしれないね。分断壁の“向こう側”では今、何が起きてるか⋯君たちセラヌーンには判断がつくかな?」
「⋯うーーん、、、わかんなーい。お姉ちゃんは?」
「⋯分からないわ。サンファイアとアスタリスの現状を把握出来るって言うの?」
「そんなの簡単よ。2人⋯教皇に押されてるわね。司教兵器が、サンファイアとアスタリスを隔てたようね」
「隔てた?」
ウェルニが問う。
「要するに、向こう側でも、“分断”が発生したって言う事ね。なんでかな?それはちょっと分からないんだけど、サンファイアの姿が無いわ」
「え、、、そんな⋯⋯⋯」
「なに?ミュラエはサンファイアに気があるの?」
「う⋯!ううう⋯⋯⋯」
「え、、、そうなの?ウェルニ」
「うん、お姉ちゃんは、サンファイアのことが好きなの」
「やめてよ!今言うことじゃないでしょ!」
「ンフフフ、いいじゃない。アタシもサンファイア、良い男だと思うよ。アスタリスもね」
「アイツはサイテー」
流れるようにツッコミを入れるウェルニ。
「そう?⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯」
プンスカプンスカ⋯ウェルニの頭から沸騰の湯気が立っていた。ヘリオローザはウェルニの表情を見て、何となくだが問題が4人の中で発生していた事を悟る。
「何か、あったのね」
「うん⋯まぁ⋯そうね。でも、、、、、!!」
一瞬ヘリオローザから目線を逸らしたミュラエ。『でも、、、』と真実を言うまいか途方に暮れたほんの僅かな時間。僅かな時間が終わり、ヘリオローザへ目線を戻したが、そのヘリオローザとの距離が縮まり過ぎていた。
眼前。さっきまでそこまでの距離感で話してはいなかった。フラウドレスへの両腕固定も終わっていたので、そこまで密接な距離感でも無かったのだ。⋯⋯⋯⋯とにかく、ビックリしたミュラエが表される。
「教えて。アスタリス、なんかしたの?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯言えば?別に、こっちは1ミリも悪くないんだから。これでヘリオローザが怒るようじゃ、“薔薇の暴悪”の異名もそこまでって事ね」
「ウェルニ⋯⋯あんたね⋯⋯」
「だってそうでしょ?あなた、薔薇の暴悪は、その異名とは相反する“聖人君子”っぷりを轟かせていたんでしょ?その異名の由来も、“真逆の行為で名声を得た”から⋯とか?イカした理由ね。日頃行っていた行為とは、あえて“真逆”の言葉を選ぶセンテンス。“薔薇の暴悪”なんて異名を聞いたら大虐殺者だと思ってしまうもの。アルシオン王朝の人間とも思われたりしたんじゃないの?」
「ウェルニいい加減にしなさい」
「⋯いいよミュラエ。面白いねウェルニ」
「ありがとう、もうね今私⋯バグってんのよ。何せレピドゥスがあなたを警戒しているの」
「レピドゥス?」
「レピドゥスは私の、暴喰の魔女」
「暴喰の魔女?ウェルニが持っていて良いものでは無いだろう?」
「そうだけど、これには色々とわけがあってね⋯ヒュリルディスペンサーで気に入られたのよ」
「ヒュリルディスペンサー⋯⋯⋯」
「私が天根集合知を対価として受け取った時に、私は修道院長の暴喰の魔女に献上の儀式を執り行ってもらったの。それでね⋯」
「ちょっと待って⋯」
「なに?」
「?」
「⋯⋯⋯いま、、、ヒュリルディスペンサーって⋯行ったのか?」
「え?ええ⋯そうよ?ヒュリルディスペンサー」
「ミュラエも⋯ヒュリルディスペンサーを受けたの?」
「ええ、ウェルニとは違う修道院でだけど⋯受けたわ。⋯⋯ああ、献上部位のこと?」
「⋯⋯⋯⋯」
「ウェルニは“記憶”。私は⋯子宮を献上したわ。これで子孫を残せなくなったけど、セックスが出来ない訳じゃ無いし、そこまで日常生活に害もないしね。問題ないわ」
「⋯⋯⋯⋯嘘でしょ?」
「何言ってんのよヘリオローザ。嘘じゃないわよ。私も記憶を失ったけど、なんでか家族の記憶とかは残ってたの。ごっそり無くなった記憶は⋯学校とか、家族に無関係な情報。『友達だよ?友達だよね?』って面倒な相手もいたけど、たぶん友達だったんだろうね。全然覚えてないんだけど⋯。部位を無くすより圧倒的にこっちの方がいいよ」
─────────────────────
「⋯⋯⋯ヒュリルディスペンサーは⋯⋯廃止されたはずよ⋯⋯」
─────────────────────
◈
「え、、、、」
「⋯⋯⋯⋯どういうこと?何それ⋯何の冗談よ⋯⋯」
「それはこっちの台詞だよ⋯」
ヘリオローザが今までに無い表情を見せた。それは驚愕の感情を超えた“理解不能”の域に達した表現。
「こっちの台詞って⋯なにそれ⋯⋯変なこと言わないでよヘリオローザ。なんなの?私とお姉ちゃんをバカにしてるの?廃止?何それ」
「アタシが戮世界から姿を消した日を知ってる?」
「ええ、律歴4619年12月31日。エリヴァマシュ・ラキュエイヌが消失。七唇律聖教から白鯨メルヴィルモービシュに聞いたところ、そこにはヘリオローザも帯同していた⋯って」
「うん、ミュラエの言った歴史は正しいよ。それより前の律歴4582年7月29日。アタシが戮世界から原世界へ渡る37年前よ。その日に、ヒュリルディスペンサーの改正が実行された事を知らないの?」
「⋯⋯⋯改正?」
「ヒュリルディスペンサーの制度は消えた訳ではない。ただ、身体の一部を朔式神族へ献上する⋯という行為は廃止になったんだよ?」
「え、、、、、え、、、、」
動揺。
「あなた⋯ウェルニは記憶を献上した⋯と言ってるけど⋯⋯アタシは驚いてる。あなた⋯騙されてるわよ?ミュラエもそう。2人の行った修道院のせいとは思えない。何か強大な力が働いてると見て間違い無いと思う⋯」
「え、いや⋯あの⋯ヘリオローザ⋯あのさ⋯⋯⋯え、、?え、、なんなの⋯さっきから⋯⋯」
「動揺するのも無理は無い⋯ウェルニの記憶は、部位欠損じゃないから良かったけど、ミュラエは⋯⋯」
ミュラエは身体の中の一部を献上してしまった。ヘリオローザは絶句する。
「ヘリオローザ、ありがとね。教えてくれて⋯」
ウェルニとは違って冷静なミュラエ。当該問題を何とも思っていない様子だったが、実際は違った。
「騙されてたんだね⋯私達⋯」
震えていた。ヘリオローザに隠そうとしているようだったが、頭部に沸き立つ微小な汗と心臓の鼓動が早く鳴っている状態を見て、“平常”だとはとても言えない。
「ミュラエ、ウェルニ。これは由々しき事態だ。有り得ない。普通はこんなこと有り得ないよ。何者かのバックボーンの指令が下っているとしか思えない。それにその修道院2つが巻き込まれたんだ。ウェルニはアリギエーリ修道院。ミュラエは⋯?」
「カタベリー修道院よ」
「アリギエーリ修道院とカタベリー修道院。ここに超強力な改竄が掛けられたようね」
「そんな⋯⋯カタベリー修道院は私も一緒に行った。アリギエーリ修道院とは内装は同じだったけど、全く文化も異なっていたよ?ヒュリルディスペンサーの儀式内容は同じだったけど⋯」
「そうね、とても⋯嫌な空間だった事を覚えてる⋯以外にみんな⋯部位欠損を容易に決断していたから⋯」
「⋯⋯⋯⋯恐らくその人間達も被害者だろう」
⋯
⋯
⋯
───────────
「⋯⋯アスタリスは、私達の仲間を殺した」
───────────
話の切り替えがあまりにも酷過ぎた。もっと流れるように⋯そして、話の流れを汲み取った上で、話をスタートさせれば良かったのに⋯よりにもよってそんな殺害の話を⋯こんな脈絡無く、ウェルニは話を切り出した。
とにかく、今の話を終わらせたかった⋯。私とお姉ちゃんが修道院⋯修道院では無く、何か背後に大きな組織がいる⋯そいつらが操っている⋯と言っていたけど、そんなことはどうでもよかった。騙されたのが私は一番ムカついている。ヘリオローザが弩級の暴露をしたのなら、こっちだってしてやる。私の今を収めるには、それ相応の情報を相手に伝える事で、自分の飢えが保たれた。自分勝手な事は分かっている。急ハンドルの急激回頭。だけどこれに関しては完全にそっちが悪いこと。ヘリオローザはアスタリスを“仲間”だと言った。私はまだ、アスタリスを許せないでいるのだ。
「ヘリオローザ、あなたの仲間は私達の仲間2人を殺したの。それも、私達の知らぬ間にね」
「知らぬ間?2人とは一緒にいなかったの?」
「ええ、そうよ。もしそこに私がいたらアスタリスを殺してたわ。けど、今は殺していない。お姉ちゃんに愛想つかされるからね」
「⋯⋯⋯アタシに、理不尽な感情を抱け⋯そう言ってるの?」
「解釈が早いね。さすが薔薇の暴悪」
「アスタリスが、殺したの?アトリビュート2人を」
「そうよ」
「白鯨ね」
「うん、アスタリスは2人の白鯨を見て、メルヴィルモービシュと同系統だと勘違いしたの。“勘違い”だよ?これは不適切な虐殺よ。こんなこと許されるはずが無い。それにメルヴィルモービシュと人間を宿主に持つ白鯨等級は、ぜんぜん⋯姿が違うじゃない!アスタリスの野蛮な性格が窺える証拠よ」
「んでぇ?それをアタシに言ってどうしてほしいのよ」
「⋯別に何も、ただただ話を変えたかっただけ」
「そんだけの理由で話していい内容では無い気がするけど」
「ごめんなさいヘリオローザ。ちょっと妹は⋯パンクしちゃったんだよね?急にそんな事言われたらさ⋯嫌な思い出を吐き捨てたくなるよね⋯そうじゃなきゃ釣り合わないもん⋯⋯⋯うん、、、」
「お姉ちゃん⋯」
ミュラエが泣く。大粒の涙が頬を伝う瞬間を見て、ウェルニは自分の言動がバカバカしく思えて来た。ミュラエだって、辛い。ウェルニと同じ以上に辛い想いをしている。簡単に無くしていい存在じゃない。それに、いなくなる瞬間すらも見ていない。だから、死んだのかどうかもあやふやな状態だ。アスタリスは『殺した⋯けど中にはいる』。この言葉を信じて、今を歩むしかない。
ミュラエの両手を手に取り、ウェルニは顔を覗かせる。
「ごめんなさい。お姉ちゃん⋯ちょっと⋯自分勝手過ぎた⋯お姉ちゃんもこうなんなはずなのに⋯私だけ苦しんでるみたい⋯恥ずいよ⋯お姉ちゃんも言ったら、良い感じの姉妹愛で映えるじゃん⋯」
ウェルニのユニークな言葉に笑みが零れた。涙が出ていたが、泣きじゃくる手前。笑いが生み出された瞬間、ウェルニは姉の笑顔を見れて嬉しくなり、抱擁を求めた。
ミュラエは妹の求愛に応えようと、その胸に抱き着いた。
「私達で何とかしよう」
「うん⋯⋯⋯ありがとうウェルニ。私⋯ウェルニがいなかったら⋯持たないかも⋯」
「もお、お姉ちゃん案外泣き虫なんだよね。いっつもクールでキメた雰囲気出してんのに。詐欺オンナ!」
「や!やめてよ!そんなの!」
「詐欺オンナ詐欺オンナ!正体を表わせえー!」
「詐欺オンナじゃないよ!!もうー!!これ!離して!もうヤダ!ウェルニから離れたい!」
「嫌だヨーだぁ。泣き虫女はずっと私のもんだ!これからもずっと一緒だからね」
ウェルニの勇ましい“戦乙女顔”がミュラエの瞳に映る。
“ウチの妹はこんなにカッコよかったのか⋯”。
そう思うのも無理は無かった。
◈
「いやぁお3人方。とても面白いステージプレイを鑑賞させていただきました。矛盾点は特にありませんでしたが、やはり暴君にも程がある、台詞の応酬でしたね」
ロウィースが動けていた。ヘリオローザの拘束結界から解き放たれていたのだ。3人はロウィースが自由を手にした事で、戦闘態勢へと移行。ロウィースから拘束が解かれた直後から、次々に行動を再開させる包囲陣形を組む大陸政府達。
「アスタリスという男がキーマンとして働く構成を作ったのは、良い動きをしているなぁ⋯と思いました。ですが⋯アスタリスに殺された事をぶっちゃけた後のね、エピローグ部分が“空白”って⋯⋯⋯。もっと上手いように転がせられたでしょう!?『あなたの力で蘇らせなさい!』とか『責任取ってよ!』ぐらいのインパクトある尾ひれを付けないと!あれじゃあただの当たり屋として終わっちゃうだけだよ。理由も無くキャラクターがズカズカと土足でブルドーザーかましちゃダメなんだから⋯」
「黙れ」
ヘリオローザが再び、ロウィースに拘束結界を装着させる。しかしロウィースを始めとする全ての包囲陣形陣に対し、拘束結界の効果が発揮されない事態が発生。これにはヘリオローザは少々驚いたリアクションに見せるが、真相は直ぐに判明した。ヘリオローザが兼ねてより予測していた“背景”の存在に注目した。
拘束結界を何度やっても弾き返されてしまう。何か強大な力が大陸政府らを防衛している。
「ヘリオローザ⋯⋯どうしたのよ⋯あいつら⋯どんどん近づいてるんだけど⋯⋯」
「ミュラエとウェルニはアタシの後ろにいて」
「嫌だ!何一人でカッコつけようとしてんの!?」
「え⋯ウェルニ、あなたが戦って勝てるような相手じゃないかもしれないのよ⋯⋯」
「私も戦うよ。ヘリオローザ」
「お姉ちゃんは、私以上に曲げない女よ」
「ふんーン!」
「2人とも⋯⋯はぁ⋯⋯もう、、、だからアトリビュートは面倒なやつばっかなのよ。いいわ、その代わり負けるんじゃないよ!⋯⋯アトリビュート」
───────────────────
「概ね、予定通りだったなァ⋯」
「はい、やはり預言書通りの動きを白鯨は遂行したようです」
「これだとさ!これだとさ!もっと人がいっぱい死ぬ展開が待ってるんじゃないの!?」
「そうだなァ⋯やっぱし絶望ってモンは深く長く味わわせてやりてぇよなァ」
「はい、血戦者の番はまだですか?」
「まだまだまだまだ!こっからの戦いは大陸政府に任せるんだよね?」
「そうだァ、まだ出番じゃあねぇんだ。残念ながらな。ホントならァ、今すぐにでも締めに行きてぇんだけど⋯後々面倒なことになるからな」
「はい、ではこちらで手を打ち、大陸政府に行われている拘束結界の解除を行いましょう」
「薔薇の暴悪ヘリオローザ。こいつァとんでもない異物を潜り込ませやがったな白鯨メルヴィルモービシュ」
「白鯨はさぁ!白鯨はさぁ!何が目的なのかなぁ!」
「はい、それは決まっていますでしょう。戮世界テクフルのリセットですよ。前々から、白鯨メルヴィルモービシュとフェール・デ・レーヴ・トパーズの次元断層関係には負のエネルギーが循環していました。2つの歯車が狂った時、戮世界と原世界の機軸は大きな転換点を迎えるのです。白鯨メルヴィルモービシュは、2つの世界の均衡、そして虚無ロードを防ぐために、原世界から、超越者の遺伝子を搭載している3人を送り込みました」
「そん中に、まさか薔薇の暴悪ヘリオローザがいるなんてなァ。これ、白鯨メルヴィルモービシュは狙ってたと思うか?」
「どうなんだろうね!どうなんだろう!?もしそうなら天才じゃん!マジでマジで!天才過ぎてもうヤバいよ!!」
「はい、その可能性は十分に有り得ます。原世界からの使者3人プラスのヘリオローザは、東京都羽田空港にてニーベルンゲン形而枢機卿船団と交戦履歴がございます。白鯨メルヴィルモービシュはその様子を多次元世界から監視していたのでしょう。コミュニティの対立ですが、白鯨メルヴィルモービシュは中立的な立ち位置。そのはずが⋯」
「白鯨メルヴィルモービシュは、原世界の人間どもを助けやがり、挙句の果てには戮世界へ送還しやがったァ!!!これは許されることでは無い!」
「正しく正しく!その通り!絶対に忘れられない恐怖を植え付けよう!」
「はい。教皇ソディウス・ド・ゴメインドが、セブンスとアトリビュートの混成チームを分断しました」
「ウプサラの壁。教皇の発現したんだな?」
「はい。なので破壊される確率はゼロに等しいかと」
「等しいどころのもんじゃねえだろ。絶てぇに無理だなァ」
「教皇さすが!さすが教皇!戮世界の住人と、アトリビュートの2人で上手いように分かれてくれたみたいだね!」
「“セブンス”とか言ったよなァ?あのサンファイアとアスタリス⋯とか言うガキども。そいつらには礼を言わなくちゃならねぇようだ」
「⋯⋯⋯??なんでなんで?なんでなんで??」
「アトリビュート側。大陸政府の奴らは⋯とんでもねぇ奴を捕まえてくれたみてぇだぞ」
「アレって⋯そうだよね?そうだよね!?嘘!?ウッソ!!」
「これはァ教皇⋯気づいていたみたいだな」
「はい。『あとはお前達に任せる』と言われているようなものですね」
「教皇からメッセージは来ていないのか?⋯まぁ、そういう柄の御人では無いからな」
「教皇と会いたいなぁ会いたいなぁ!シルウィア皇室の一人でも会いたいなぁ!!」
「うるせぇぞ。おめえがシルウィア皇室と会えるような玉の人間だと思ってんのかァ?」
「ちょっとちょっと!ちょっとそれぇ、言い過ぎじゃないのぉ??」
「お2人、アトリビュートがラキュエイヌ及びヘリオローザと接触を果たそうとしています」
「セラヌーンの姉妹か⋯。こいつらには色々と借りがあるからな。大陸政府と教皇には頑張ってもらわねぇと」
「去年の4月⋯だったね。あれさぁ今でも今でもせんめぇに記憶に残ってるよ!メタメタのギタギタに殺されちゃうからさぁ⋯ちょっとあれは困ったもんだよね」
「はい。セラヌーン姉妹が引き起こした行為は七唇律聖教への反逆とみなされるに値します」
「大陸政府への拘束結界を永続的に無効化。薔薇の暴悪からの攻撃に注意しつつ、こちらからも攻撃を開始する。オマエらァ、こっからはタダじゃ置かねぇからな」
─────────────────────
「ヘリオローザ!奴らへの動き封じ込め!ぜんぜん効いてないじゃん!」
「ウェルニ、ちょっと黙っててくれ。アタシにだって考えがあるんだ」
「じゃあその考えとやらをさっさとやって見せなさいよ!」
包囲陣形をとりつつあった大陸政府らの行動が再開される。大陸政府は何者かからの援助があり、拘束結界の解消に成功。それが乳蜜学徒隊や、剣戟軍、異端審問執行官、ノアマザーにも伝達され、全員の拘束結界が解かれる。さらには、ヘリオローザが再び拘束結界を試みるが、なんとこれに効果は得られず⋯。
解消どころか“克服”事態にまで陥ってしまった。
「こんなことが出来るのは⋯⋯」
「そう。こんなことが出来るのは⋯“血戦者”だけ。そう言いたいんでしょう?薔薇の暴悪」
「やはりか⋯」
「血戦者⋯誰よそれ⋯⋯」
ミュラエとウェルニは知らなかった。ここではヘリオローザと大陸政府の会話が進行していく。
「司教座都市スカナヴィアを束ねる最高責任者よ。七唇律聖教とテクフル諸侯の統合議会である大陸政府の管理機構運営元として、鎮座する方達のこと」
ゼスポナが現れ、セラヌーン姉妹への説明を果たした。
「薔薇の暴悪ヘリオローザが起こした行動は、スカナヴィアの御3人様によって守護されました故、これから我々大陸政府が封殺される事はありません」
カリウスの流暢な上に、老人であることを改めて提示するような喉を潰している声。
「どうやら、スカナヴィアの御3人はあなた達に興味があるようです。薔薇の暴悪ヘリオローザ様とラキュエイヌは例外として⋯アトリビュート2人にね」
ロウィースはアトリビュートへ接する時と、ヘリオローザへの接し方が全然違う。アトリビュートに対してはゴミを見るような目でコンタクトを図ってくる。アトリビュートという存在の価値の低さを感じた。実際に言うとアトリビュートの価値は低い訳ではない。“下に見ている”と言えば一番に適切だろうか。『さっさと奴隷になれ!』と言いたいのであろう。
「ヒュリルディスペンサーの件が3人で交わされていたが、あれはスカナヴィアの御3人様が計画したものだ。最初はウェルニ。特段あなたをターゲットとして捉えていた訳ではなく、あの時アリギエーリ修道院にいたシスターズランカー・マイントスの修道士全員をターゲットに指定。ヒュリルディスペンサー改正前の儀式にどれほどの価値があるのかを調べるためだった。結果的には大成功。多くの子供達が部位欠損を起こし献上品として捧げた。対価もしっかり払われたはずだ。ウェルニの“記憶”を献上する行為は、スカナヴィアから高い評価を得ている。ミュラエは、カタベリー修道院。ラティナパルルガ大陸の海浜で起きた放射線事件。セラヌーン姉妹はそこに居た。違うかね?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
「あー、ちなみにだが、今喋っているのは私、ロウィースなのだがロウィースでは無い。ロウィースの身体を通して、司教座都市スカナヴィアの代表が薔薇の暴悪の相手をしている」
「司教座都市⋯⋯」
「知らないのも無理は無い。薔薇の暴悪が離れてから設立された機関だからな。アトリビュート、セラヌーン姉妹にこっちは用があるのだ」
「え、、、」
「私達に⋯?」
ミュラエがロウィース改め、スカナヴィア代表の発言に応える。ウェルニもその様子を見ていた。フラウドレスの体調快復を窺いながら。ウェルニが一番にフラウドレスの快復を願っているようだった。
─────────
「ヒュリルディスペンサー」
─────────
「⋯!?」
「君たちはヒュリルディスペンサーが改正される前の儀式を受けてもらった。ウェルニは記憶を。ミュラエは子宮を献上していたね。ありがたくこちらとして受け取らせていただいた。しかし、他の天根集合知を持つ人間は、どこもかしこも部位欠損などの状態が確認されてないようね?それは⋯⋯なんでだと?」
「さっき言っていた⋯⋯ヘリオローザ⋯!」
「⋯⋯⋯うん⋯⋯⋯アタシがさっき言った通りだよ」
「そう、薔薇の暴悪が先程、君たちセラヌーンに言及していたヒュリルディスペンサー改正前の儀式。それを計画したのは我々、司教座都市スカナヴィアだ」
「⋯⋯⋯どうして⋯どうして⋯そんなことを⋯!!」
「お姉ちゃんと私が、お前達に何をしたって言うんだ!」
「君たちを特別に指定ターゲットとしてロックオンしたという事では無いんだ。ほんと偶然なんだよこれも。実験の一種だった⋯ヒュリルディスペンサー旧式執行。実験台としてアリギエーリ修道院が選定された。その中にウェルニ・セラヌーン、君もいたね。多くの子供達が旧式ヒュリルディスペンサーの餌食となり、献上品も届いた。我々は、現在の子供達がどこまで自身の能力向上を図るためには自分の身を捧げるのか⋯それを確かめたかったのだ。それの最初のターゲットが⋯アリギエーリ修道院のシスターズと教信者。その後、律歴5602年8月17日、ラティナパルルガ大陸のシーサイドにて発生したSSC遺伝子ダスゲノムのグラウンドゼロより感染拡大の警報が鳴ったあの事件。そこに、セラヌーン姉妹、君達2人がいた事が後に判明され⋯翌年律歴5603年4月2日。セラヌーン家宅に剣戟軍テルモピュライが、アトリビュート確保のため出動。剣戟軍内のアトリビュートが裏切り、兵士を殺害するというイレギュラーな事態も発生したが、セラヌーンはそのアトリビュートを殺したな。⋯⋯⋯クレニアノン」
「やめて」
「⋯?」
「やめて⋯彼の名前を⋯出さないで⋯」
「ほう?それはなぜだ?いったい、どうして?家族をやつに殺されたからか?」
「違う⋯⋯違う⋯⋯⋯違うんだよ⋯」
息遣いが荒くなる。ウェルニだけ、彼女の心の内が分かっていた。それは肉親だから⋯なんてそんな簡潔に表現出来る意味では無い。それに、たとえウェルニだろうと、ミュラエが過去にクレニアノンの事を暴露していなければ、きっと理解出来ていない事だ。つまり、これは妹・ウェルニへの信頼関係によって、唯一話せた事。“姉妹の絆”だから特別な思想を理解出来る⋯という事では無いのだ。
「クレニアノンの事は、良く覚えてる」
「一回?たかが一回だけ会った男の事をか?」
カリウス。今までそんな荒くれた言葉遣いでは無かったが、スカナヴィア代表のエッセンスが乗っているのか、弄んでいるような喋り方だった。聞き手としては非常に苛立つ内容だ。
「すごいムカつく言い方だね⋯なんか、、けっこうイライラしてきたよ。スカナヴィア⋯とか言ったっけ?さっきのお兄さんの声の方が全然良いから戻してくれない?」
「そか、じゃあ戻そう⋯⋯⋯⋯」
外見から人格が変更された様子は確認されない。しかしスカナヴィアの要素が消えた箇所は第一発言によって判明した。
「スカナヴィアの人格が消えても、私はスカナヴィアと同じ意見。セラヌーン、あなた達への問答は続けさせていただきますよ」
喋り方が違った。全然こっちの方が良い。
「その問答、言葉で交わす方法以外にも良いやり方があるんだけど⋯おじさん知ってる?」
ウェルニが、ロウィースに問い掛ける。そのアンサーの内容問わず、これからウェルニが起こす行動は決まっていた。
『こいつらを、ぶっ殺す』
「知っていますよ。今あなたが心に留めている言葉をそのまま行動に移すと⋯私達の命は危険に晒される」
「へぇー、分かってんじゃん。お兄さん良い男なのに残念だなぁ⋯私、かっこいい男嫌いじゃないのに」
「そうですか⋯なら手加減していただけませんか?暴喰の魔女・レピドゥスにもそのことを伝えてください」
「⋯⋯!」
「レピドゥスの事を知らないとでも思っていましたか?セラヌーン姉妹の情報はだいたい握っているんですよ」
「レピドゥスは私の元に来てくれたの」
「そんな事を⋯ノアトゥーン修道院長が望んだ事だとでも言うのですか?」
「ウチにはそんなことどうでもいい!レピドゥスは私を信じて、ついてきてくれた。レピドゥスと私は互いに通じ合ってる。信頼がお互いを強くしていく。お前らみたいな人殺しの文明を継承する猟奇迷信集団には分からねぇ事だよ!!」
ウェルニが戦闘を開始。ロウィースはそれに対し、見事なまでの対応をしてみせた。ウェルニは彼の戦闘フォームに驚く。暴喰の魔女レピドゥスの力はまだ直結させていない。自分の⋯アトリビュートとしての、シンプルな自能力だけで、戦いに挑んだが、どうやらそれだけでは勝てない⋯ということが大陸政府ロウィースとのファーストコンタクトで判断出来た。
「ウェルニ!」
「お姉ちゃんは⋯!残りの⋯⋯」
ミュラエがロウィースとの戦闘を開始させた。ウェルニは、ミュラエに他の敵との交戦を指示しようとする。しかし、セラヌーン姉妹に間に入る“魔の手”があまりにも強大な力だった事で、アトリビュート2人には一気に緊張感が張り詰める。
「お前は⋯⋯」
「私の存在、忘れてもらっちゃあ困るんだよねー。アトリビュートさん?」
七唇律聖教ゼスポナ来襲。
白色粒子蛾素エネルギーを搭載したミニガン級の高加速連射機関砲を生成し、それをセラヌーン姉妹にぶちまけた。その手法、投げやりのように見えたが、他の大陸政府を中心としたゼスポナの味方には着弾判定がノーカウントだった。ミュラエとウェルニは、謎の現象が発生した事に驚きを隠せない。
「2人とも!スカナヴィアの援護アシストが多方面に向けて放たれている!ゼスポナの攻撃着弾判定が無かったのは、天根集合知“AX防護”。スカナヴィアの奴らの能力がここまで飛んで来てるんだ!」
「薔薇の暴悪さーん、ちょっと黙っててもらえますかッ!!」
ゼスポナは白色粒子を瞬間的に生成、多様な攻撃武器を展開。テレビリモコンでチャンネルをザッピングするようは速さで次々と武器が白色蛾素エネルギーによって変化。全ての武器はさほど珍しいものは無かった。だが多くの武器を展開出来る守備範囲の広さは要警戒すべき存在だ。
ヘリオローザへの急接近。ゼスポナは2丁のカービンライフルを装備し迫って来た。装いは遠距離武器だったが、カービンライフルの銃口部分には短刀が装着されており、これが近接武器として役に立つものだと分かった。ゼスポナの容赦ない上空からの急降下攻撃に反応したヘリオローザ。そのヘリオローザの近くには未だ、生死の狭間を彷徨うフラウドレスが横たわっている。
「ラキュエイヌ、生かす訳にはいかない」
「何故?どうして?大陸政府がラキュエイヌを生かしたく無い理由は何?」
「フン、敵と分かった以上、薔薇の暴悪に言うことは無い!」
ヘリオローザは即座にゼスポナの戦闘行動に対応。ヘリオローザが発現したのはニュートリノ・ヤタガラス、ウプサラソルシエール『ゲリィノート』。通常形態の水棲生物“イッカク”フォルムから人型となり剣士の様相が黒色粒子によって形成される。剣士は両手で持つような巨大なシールドを片手で持ってみせ、ゼスポナの急降下攻撃を受け止めた。ゼスポナはそこに一点突破を試みており、中々攻撃行動から降りようとはしない。だが、シールドと急降下攻撃が直撃している時に、新たな攻撃の示しが発生した事によって、ヘリオローザはその場から後退せざるを得なくなる。
ゼスポナの攻撃をアシストするシスターズ&教信者で構成された乳蜜学徒隊からの天根集合知・内暈陽光入射。夕陽になりつつある太陽の光を使った遠距離攻撃。光輪を描くように“内暈”を形作り、その内暈が円周回を実行。周回速度が2週目から加速化を遂げ、中心部分に向かって、光量子エネルギーが収束。それが光線へと昇華され、弾丸状の遠距離武器を完成させた。16人の乳蜜学徒隊全員が内暈陽光入射を放ち、ヘリオローザへ一斉攻撃を仕掛ける。このままゼスポナからの攻撃を防御していると、ハローマグナムを直に食らってしまう⋯。
「逃げた方がいいんじゃないのー?」
ゼスポナが煽る。
「⋯⋯アタシが?逃げる?ちょーウケる」
「⋯?」
ゼスポナは眉間に皺を寄せ、ヘリオローザの反応を疑った。まさか⋯と思ったが、その予想が的中してしまう。ヘリオローザから黒色粒子の次に、腹部から白色粒子が発現された。白色粒子は現在接近中のハローマグナムの弾丸を全て握り潰し、無きモノにせしめた。白色粒子は蛇のようなクネリを集合体となった直後に披露し、ニュートリノ・レイソへと上方修正が速やかに実行される。腹部から発現された際にニュートリノ・レイソへの直行が可能だったのに、あえてヘリオローザは白色粒子⋯つまりは蛾素エネルギーの原液で天根集合知攻撃を防御。ニュートリノ・レイソで止めるにも満たない⋯と遠回しに言っているようなものだ。
ゼスポナは動けない。何も圧力が加わってる訳じゃない。ただ、ここから動いたとしても⋯自分に待ち受ける運命はだいたい予想がつく。
「⋯諦めてる?」
「⋯⋯⋯クソ⋯⋯⋯」
「アタシが誰だかわかってて⋯こーんな上からズドーンアタックを仕掛けて来たんだよね?ねぇ?勇気のいる事だなぁ⋯。アタシの力を知っていて、こうも多趣味な武器まで作れることをアピってさぁ。もぉホントに、戮世界の住人って面白くてクソ低脳⋯⋯!!」
ニュートリノ・レイソが急加速進化。上空にて蛇の形を見せ、クネリクネリ踊り狂っていた姿から、ヘリオローザの合図を聞きつけ形態変化を開始。
こちらも水棲生物の様相を象ったウプサラソルシエールがお目見えとなる。しかし黒色粒子のイッカクとはまた異なった姿。落ち着いた⋯のそりのそりと上空を這うように動くその姿はまさに⋯深海古代魚・生きる化石“シーラカンス”。
ハローマグナムを握り潰した、素早い行動が印象的だった白色粒子だが、ウプサラソルシエールになるとその印象は皆無。何かを起こすような素振りはまったく感じられず⋯。だがしかし、ヘリオローザに落下攻撃を継続させているゼスポナには、物凄く注目していた。凄く⋯凄く⋯ファンが憧れのアイドルを見るかのごとく、ずっと⋯一瞬たりとも気を抜かず⋯ただただゼスポナを見続けた。
「なんなの⋯コイツ⋯⋯⋯ねぇ!薔薇の暴悪!あんたのレイソ、言う事聞かないの?」
「⋯⋯⋯⋯いいや、アタシは信じてる、、、彼女を」
「フン、笑わせる⋯そのまま私の勇ましき姿をとくと見ているがいい!⋯⋯⋯!!?なに!」
「あーあ、アタシ⋯まだそのままでいてって⋯命令したはずなんだけどなぁ⋯まぁいっか」
ニュートリノ・レイソ『イヴァンリッピ』、戦闘行動開始。発現以降、まったく動き素振りを見せていなかったイヴァンリッピが突如行動を始めた。しかもその動きというのが白色粒子の時よりも圧倒的な差のある速度で暴れ回る様。とても平常だとは言えなかったが、これがヘリオローザのもう一つのウプサラソルシエール、イヴァンリッピだ。
「あんた、本当に死んじゃうね」
「⋯!?」
イヴァンリッピがニュートリノ・ヤタガラス『ゲリィノート』が相手をしているゼスポナの降下攻撃に殴り込みを仕掛ける。そこに乳蜜学徒隊のハローマグナムが加えられるが、イヴァンリッピは“羊水”を口から放出。胎児から身を守るような守護的なハイドロカノン級の水ブレスだ。全てのハローマグナムは“羊水”によって防護され、乳蜜学徒隊に向かって、ゲリィノートの巨大角が待ったをかける。一切の油断を与えず乳蜜学徒隊のいる付近まで上空を加速航行したゲリィノートは、巨大角を振り払い、一閃の黒光りを発生。その黒光りは、対象物の感覚器官を虚無にするという恐ろしい効果が付与されている。乳蜜学徒隊に“イッカク”の角のような大きい巨大角が迫る。乳蜜学徒隊には現在、次なる攻撃である天根集合知の装填中だったが、黒光りが熾す“渦”に飲み込まれ、現世とは隔絶された世界に強制連行されてしまう。
「そんな⋯⋯⋯」
あまりの光景に言葉を無くすゼスポナ。
「自分の心配した方がいいんじゃないの?」
「⋯!?しまった!」
ゼスポナが油断をヘリオローザに与えてしまった。乳蜜学徒隊が、このエリアから隔絶された時にゼスポナの意識は完全に、ニュートリノ・レイソ『イヴァンリッピ』へ向いてしまう。
現在、ゼスポナが直面している相手のニュートリノ・ヤタガラス『ゲリィノート』が、即座にゼスポナ付近へ帰還。その帰還方法にはイヴァンリッピがサポート補助を実行。黒色と白色。鴉素と蛾素を技巧に扱う、薔薇の暴悪ヘリオローザ。通常、人間は2つの“色”をマスターする事は不可能だ。黒色か白色。七唇律聖教への入教で、どちらかを教母に通達されるのが普通。だが戮世界テクフルには、黒色と白色、強大なパワーを誇る2色を補える“素体”が存在する。教皇ソディウス・ド・ゴメインドやヘリオローザがそれに該当する。
ヘリオローザは、2つのウプサラソルシエールを巧みに利用する事で、戦況を完全に我が物とした。ゼスポナはその術中にハマってしまい、思うような行動を取れなくなってしまう。
「薔薇の暴悪め⋯⋯」
「アタシを打ち負かすなんて不可能なんだよ。それが分かっていないようじゃ、英才教育が必要かな」
ゲリィノートの巨大角が、ゼスポナを襲う。ゼスポナは白鯨を発現し、間一髪で巨大角からの攻撃を防ぐ。
「『ツァニア等級』。白鯨等級位階制度で言うところの“7”って感じ?そんなヒョリヒョリの白鯨でなぁにが出来るって言うのかなぁ」
「舐めないでよね⋯⋯⋯」
「そう言ってるけど⋯もうボロボロじゃん」
白鯨を発現したのは最後の足掻きだった。ゼスポナは負けれない。負けたらそこで終わり。自分の位に大きな亀裂が生じる。簡単に引き下がれない。
「ボロボロだけど⋯私の白鯨はこっからなの⋯」
「そんな、裂溝次元の生命じゃあるまいし⋯」
ツァニア等級の白鯨が、ゲリィノートの巨大角を限界ギリギリのところで受け止める。しかしここに、白色ウプサラソルシエール『イヴァンリッピ』がサポート攻撃を実行。イヴァンリッピは、ゲリィノートの現能力を極界にまで引き上げる攻撃力アップのウプサラエンハンスを発動。よって、白鯨との打ち合いで発生していた“相殺”の行方が、判明する。言うまでもなく、能力の“極界”が発生した事でゲリィノートの戦闘力は拡大化を遂げゼスポナは叩きのめされてしまう。
「ゼスポナ様を援護しろ!」
「遅いんだよ、ばーあか」
ゼスポナの窮地に剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官が本格的な戦闘行動を開始。と言っても、所詮はただの通常人類。端から勝敗は決まっているようなものだ。ゼスポナを戦闘行動不能に貶めた2体のウプサラソルシエールへ、剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官が仕掛けたのは、単なる攻撃兵器を利用したものでは無く、特殊兵器を使った特殊作戦展開だった。
「⋯⋯?来ないの?」
『援護しろ!』と息巻いていたのはどういう事か?一向に攻撃する意志を示して来ない剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官たち。
「じゃあ、アタシの方からイかせてもらおうかなッ!!」
ヘリオローザが急変。心優しき表情で風が靡くような風鈴の音色を奏でるに相当する麗しき顔が変貌。猟奇的で見る者全ての感情を動揺させる気狂いが、そこにはあった。
ゼスポナが倒れる中、ヘリオローザはそっぽを向き、剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官に攻撃対象を定める。その時、上空から超多数の発砲を確認。ヘリオローザは黒色白色のウプサラソルシエールに対し、防衛行動を指示。ゲリィノートとイヴァンリッピは、ヘリオローザの指示に応え、その通りに行動。
「?、、、何故⋯ウプサラの壁をすり抜ける弾丸なんてこの世に⋯しかも人間が作った兵器だろう?」
「言ったであろう」
「?」
剣戟軍テルモピュライの兵士一人がヘリオローザの疑問に答える。
「“ゾディアック”は見ている」
「ゾディアック⋯⋯?」
───────────────
「はい、我々の力が現在セラヌーン&ヘリオローザ分断エリアに注がれています。教皇のいる分断エリアにも注がせますか?」
「んな事やったらァ、シルウィア皇室が黙ってねぇだろうが」
「なんかさなんかさぁ!そういうとこさ!けっこう慎重だよね!」
「うるせぇ。黙ってろやァ。通常人類はこのままだとヘリオローザのウプサラソルシエールに怯えるだけで終わってしまう。シキサイシア開幕の際に飛行警戒させている巡視艇があったはずだ。俺らの天根集合知を使って、ウプサラの壁を乗り越える。巡視艇にも同様の天根集合知を授けてやる」
「そんなことそんなこと!できるの?!」
「はい、可能です。我々スカナヴィアの天根集合知はシルウィア皇室に許可が下っていますので⋯」
「お前はァほんと、何も知らねぇんだな」
「だって!だってぇ!こんな下等生物に興味が湧く時間が1秒も無かったんだもん!!」
「ま、俺もそうだけどなァ」
「はい、それでは⋯ウプサラの壁を乗り越え、我々の力を剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官に注入しましょう」
「これで、どこまでステータスを上げられるか⋯。俺らの血が濃すぎて、通常人類には堪える⋯なんて事ねぇよなァ?」
「それ有り得るって有り得るっ!!そんなの普通に考えて有り得るに決まってんじゃん!!」
「はい、可能性として有り得ますが⋯その時、大陸政府へ注入するとしましょう。今は、通常人類に任せてみてもいいと思います」
「実験台かァ?俺らの得意なやり方だな」
─────────────────
上空から謎の指向性レーザーが放たれる。そのレーザーが剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官の頭上へと直撃し、脚部まで貫通。しかしこれは人間の命を奪う絶命兵器などでは無く、スカナヴィアからのエンハンスサポート。更に上空からの攻撃が止まらない。帝都ガウフォンで開催されるシキサイシアの警戒を行っている巡視艇と駆逐艦から、陽電子砲塔の砲撃が始まる。
「なに、、どうして⋯ウプサラの壁を乗り越えるなんて」
「スカナヴィアからのアシスト。ゾディアックは見捨てなかった⋯」
「とりま⋯“やな奴”ね。そのゾディアックとかいう連中」
剣戟軍テルモピュライの兵士に降り注ぐ指向性レーザー。スカナヴィアが起こした能力エンハンスは、相対しているヘリオローザとゼスポナの戦闘に介入。ゲリィノートが、それに反応。周辺に位置する全ての通常人類へ、攻撃停止信号を発信。イヴァンリッピは更にその攻撃停止信号の強化を実施。もはや、その停止信号は攻撃行動の停止に留まらず、各兵士と各異端審問執行官の生死を問う内容だった。聴覚器官は破壊され、耳から多量の血が流れ落ちる。最初、イヴァンリッピの強化プラグ発信時、ステータスへの障害拡大が確認され、第一次出血が発生。耳の穴から血飛沫を上げ、その模様は非現実的。それからイヴァンリッピの強化は勢いを増し、非常に危険な状態に陥落する生命維持危険域へと強制的に突入させる程の、とち狂ったゾーンに入る。その結果が、多量の出血に繋がった。
ウプサラソルシエール2体の特殊攻撃を受け、周囲の通常人類は一斉に倒れ伏せる。当たり前だ。耳穴だけで無く、目からも流血が発生していた。光景はかなりのグロテスク。ヘリオローザはその光景に微笑んだ。悪魔の微笑み。トネリコの預言書に書き記されていた伝承の通り、彼女の笑顔へ結実する出来事に“流血”は欠かせない。
ヘリオローザの笑顔が、当該景色に花を添える。
◈
「終わり⋯じゃないよね?スカナヴィアさん?」
「⋯⋯⋯」
ヘリオローザの真ん前には、ゼスポナがいる。ゼスポナは既に戦闘を行える状態から外れ、無理して直立を果たしていた。こうして、両足をまっすぐ、健気に、両腕両足を複雑骨折、内臓衝撃破裂⋯を受けていようとも、それがなんら問題無いかのように⋯。
「⋯⋯薔薇の暴悪⋯あなたのやっている事は⋯七唇律の反逆だぞ⋯」
「息荒っ⋯⋯⋯すごいね、、、引くんだけど⋯。そんなに無理しなくてもいいのに⋯喋れないなら喋らずに、ゆっくりしたら?ほら⋯ね?」
─────サイド:ウェルニ・セラヌーン。
「ハァハァハァハァはぁ⋯⋯」
「なぁにぃ?疲れた?もう、、つまんないよ⋯レピドゥスが言ってる⋯なになに⋯?うんうん⋯うんうん⋯、お兄さんつまんないって言ってるよー」
「調子に乗りやがって⋯」
ロウィースとウェルニ・セラヌーンの戦闘。戦況は⋯ウェルニが圧倒している状況が続いている。どうしても、ウェルニが放つ驚異的な暴喰の魔女の力を制圧出来ない。
暴喰の魔女・レピドゥスの天根集合知“不定形態”。これにより様々な生態系の遺伝子を再現し、自身にコーティング加工する事が出来る。獰猛な肉食獣、素早く動ける荒野のハンター、海中を上空航行に見立てた水生生物⋯等、主に空を生息域にしている生物以外の生態系はほとんど網羅していた。ロウィースは、攻撃に属する天根集合知“高次元式相転移溶解液”を展開。これを直接食らった相手は、外皮硬度に関係無くダイレクトダメージを与えられる。“当たれば”の話だが⋯。
ロウィースの攻撃は、全て暴喰の魔女・レピドゥスが止めてしまう。中には、弾き返された場面もあった。その時、レピドゥスは天根集合知“不定形態”を使用。亀を思わせる巨大な生物に変形を遂げた。ちなみに、ロウィースとの戦闘中、ウェルニは人格を捨て、全ての行動制御をレピドゥスが行っている。操作系統の全権をレピドゥスが握ったのだ。これはもちろん、レピドゥスが力づくでコントロールを奪った⋯というようなことでは無い。ウェルニとレピドゥスの信頼関係だからこそ成せる、絆の力だ。ウェルニはレピドゥスの動きを高く評価。それにレピドゥスだって、ウェルニの想いを汲んでいる。
『ウェルニが言うなら⋯』
『レピドゥスが言うなら⋯』
双方が互いを思いやってるからこそ、ウェルニは人格を一時的に捨て、レピドゥスに任せているのだ。
「貴様⋯⋯⋯暴喰の魔女・レピドゥスを⋯こうも簡単に展開手駒にするとは⋯⋯」
「てごま?なにそれ⋯テゴマて⋯なに⋯?もしかして、ウェルニがわたしをオモチャみたいに扱っているって言いたいんわけ?」
「レピドゥス、お前は⋯アリギエーリ修道院のノアトゥーン院長が宿主のはずだ⋯。宿主以外の人間に寄生する事は⋯」
「『七唇律への反逆』、もうそれ飽きた、ダッルイ台詞だわー」
ウェルニの人格が復活。この発言時のみ、ウェルニの声色が発出された。気ダルい感じで、少々酔っ払っているような声色だ。弱冠、女の味を思わせる色素も入っており、色気付いた表情も形成されつつある。そんなウェルニの人格は発言が終わると直ぐに終幕。自らが後退した⋯と言うよりも、レピドゥスが退かせたように見えてならない。
───────────────
『レピドゥスぅ⋯⋯いまぁ⋯どんなかんじなの、、、』
『いま?え、、?はぁ?、、あんた⋯見てなかったの?わたしが華麗にバカ男をしっぺしっぺするところ』
『見てないよ⋯⋯』
『え?見てないの?ちょっと、、、わたし、、まぁまぁしっかりと動いてたんですけど、、』
『だってぇ⋯ちょっと疲れちゃったしぃ?どうせレピドゥスならちゃちゃっとやっつけちゃうのかなぁって思ってたんだけど、、、んでぇ?終わったの?』
『まぁ、、、ほぼ終わったようなもんかな⋯。⋯⋯見ててくれない?』
『いーーーーぃだ』
『なんそれ⋯⋯この期に及んで、そんなガキンチョのリアクション見せるの?わたし怒るよ!』
『レピドゥスが怒っても、表に出るわけじゃ無いから怖くないモーン!』
『あららら、表に出ないからと言って、わたしの恐怖が矮小化されるとでも思ってる感じ?』
『んぇ、、、うそ、、、マジで??』
『まじよ』
『そんなああああああああああぁぁぁ!!!契約と違うじゃーーーん!!』
『そんな契約してません。わたしとウェルニ・セラヌーン。両者の相互的な素体利用の平等化。あとは食事制限、生活準拠、運動機能の差異に関する一定化⋯。この中のどこに恐怖の表面化無し⋯に該当するのよ』
『生活準拠!!』
『あんた、バカなの⋯⋯⋯呆れた⋯なんかもう疲れたわ。ウェルニ、色々あるのは判るけど、ぜんぶをぜんぶ投げやりに任せられてもわたし、困っちゃうんだからね。この身体はあなたの身体』
『ハイハイ⋯分かりましたよー分かりましたよー!』
──────────────────
2人だけの情報通信が終了。人格と人格。異なった異種的人間性を一つの身体に備えるのは、厄介なものだ。
「レピドゥス、そこから出て来い」
「わたしは出ない。ウェルニ・セラヌーンを始めとするアトリビュートと一緒に新世界を創るんだ」
「新世界を⋯?フフフ・・・面白いことを言うな。それがウェルニ・セラヌーンの人格なら良かった物を⋯どうやら暴喰の魔女・レピドゥスの人格で言っているみたいだな」
「ええ、そうよ」
「ノアトゥーン院長のところには戻らないのか?」
「そうね、戻らない。今更戻ってもわたしの居場所なんてないだろうし」
「どうしてアトリビュートに力を貸している?暴喰の魔女とて分かっているはず⋯自分が行っている行動がどれだけの醜いことかを」
「ええ、分かってるわ。あと、ちなみに言っとくけど⋯“醜い行為”とはこれっぽっちも思っていない。わたしはわたしの行動に誇りを持っているからだ」
「フン⋯何をキメたように言っているんだ⋯。実験台として選定された事への腹いせか?暴喰の魔女・レピドゥス」
「⋯⋯⋯⋯それも、あるかもしれない⋯⋯⋯⋯⋯と思ったが⋯どうやら、違うみたいだ」
「はぁ?」
ロウィースが首を傾げる。
「今、ウェルニからお叱りを受けた」
『なに!?レピドゥス⋯⋯もちかちて⋯⋯私と一緒にいるのって⋯⋯⋯復讐がぱーせんてーじいっぱい占めてるかんじ⋯??』
「違うよ⋯我が愛しの姫君」
「ひめ、、、ギミ??」
「あー、これはわたしがウェルニに使うラブフレーズだ。彼女も気に入ってくれているから、わたしは良く使っている」
『いや、恥ィいってそれ』
「そうなのか?⋯⋯⋯まぁ、いいじゃないか⋯。我が愛しの姫君に言った通り、お前達の実験台として選定された時の復讐を果たすためにアトリビュート側に付いたのでは無い」
「なら、もっともらしい理由は無いな」
「いいや、ある。それはウェルニ。彼女と虚想空間ウプサラにて、初めて干渉を遂げた。その時⋯ヒュリルディスペンサーが行われた⋯」
「そんな説明、必要あるか?それにだいたい予想がつく。ヒュリルディスペンサー時に、彼女の姿に目がいった⋯なんてそんなくだらない理由だろ?」
嘲笑った。ロウィースが、レピドゥスの想いを踏みにじるように、これからの話の展開を予測し、嘲笑へ繋げる⋯。レピドゥスにとって、彼の言動は許せないものだった。
「わたしの想い⋯バカにしないでくれる?」
ウェルニの身体から、レピドゥスの獣人化が発現される。腹部⋯即ち、臍帯を伸縮させる。ただ臍部分から臍帯が伸びて、獣人が発現されるという簡単な説明で行くようなものではなかった。その“伸縮”という言葉が適切なように、臍部分から発出された臍帯が、伸びてや縮んで、伸びてや縮んでを繰り返し、徐々にその臍帯の長さを伸ばしていく。異様な光景だった。その臍帯の色も、ウプサラソルシエールでは無いので、黒色でも無ければ白色でも無い。ウェルニのカラーと混合⋯“混血”となった事で、色にも変化が現れた。ノアトゥーン院長を宿主としていた頃とは、纏っていた色も大きく異なり、“赤”を新機軸のカラーに設定。そんな赤色の臍帯がウェルニの臍部分から伸縮を遂げている光景は、長々しく直視出来る出来事とは言えないもの。現に、ロウィースは最初の3秒間以降、視線を逸らしている。
「う、、、う、、、ゥぅぅぅぅうぅぅぅぅぅぅイタぃ⋯⋯⋯いいいい、、いいあ、いい、イイああぁぁアァんアァんんんん⋯ンンんんアァん⋯」
喘ぎ声。ウェルニから発せられる喘ぎ声は、ロウィースの性楽に刺激を与える性質を持ち合わせていた。それにプラスアルファで、ウェルニの顔面もまた、中々に色気付いた表情を形成。ロウィース自身、ウェルニの表情で自分の性欲を満たそう⋯だなんて、そんな事をしてしまったら、大陸政府としての威厳が廃る。だが⋯抑えられない情欲がロウィースを襲う。
ウェルニから目を逸らしていたロウィースは、いつしか彼女の虜になったかのように見つめ続けていた。完全に、ウェルニの術中にハマっている状態だ。ウェルニは、両手を広げる。広げた直後、ロウィースが吸い込まれるように彼女へと近づく。少しずつ少しずつ、ゆっくりと足を一歩一歩進ませる。一歩一歩のストロークで、ロウィースは一瞬、自我を取り戻したかのように、彼女への意識を消失させようと試みた。何度も、自分の視線を逸らそうと努力⋯努力⋯⋯⋯何度も何度も⋯繰り返し⋯やっとの思いで遂に、彼女の情欲する姿を脳内から消し去る事が出来た。しかし、それは過去の記憶が脳内から抹消されただけ。今、近くにいるウェルニから最新の情欲を見せられたら⋯⋯⋯⋯。
「アァんん⋯ンンンんん⋯、、んぁんはぁい⋯んんやばァイイぃぃ⋯んうん⋯⋯うんんん⋯」
また、始まった。自我を取り戻したと思っていたのに、またもや始まってしまったロウィースの心を飲み尽くす、性欲の影。遂にロウィースの深層意識を掌握したウェルニ改めて、レピドゥスは、彼の行動をコントロール。ゆっくりとこちらに近づいていた先程のロウィースは完全に抹殺され、ロウィースは、レピドゥスの身体を求めるようになる。ロウィースは颯爽と走り、レピドゥスの元へと駆け寄った。レピドゥスは両手を広げ、彼が抱き着いてくる受け入れ態勢は万全。ロウィースが最接近。もう止まらない。彼女の胸にダイブして思っきり彼女の“情欲の海”にこの身を溶け込ませたい⋯。ロウィースの自我は、彼女に集約されつつあったが、実際には根幹の部分は未だ、ロウィースの意識が残っていた。だが、これはロウィースの計算に値する部分であり、“あえて残置させた”と解釈するのが妥当なところだ。完全に彼からの意識を100%奪取してしまうと、後々に彼は自我を取り戻そうとするフェーズになった時、自我の捜索を開始する。しかし脳内と心⋯どこを探しても“自分自身”を発見する事が出来ない。そうなると訪れるのは“認知症”の関連障害だ。ウェルニはこの危機を察して、最低量の自我を残していた。後遺症を残らせるほど、ウェルニは悪魔では無い⋯。彼を見捨てていないのか、快楽の道具としてロウィースを扱っているだけなのか⋯。
心の内は彼女にしか判らない事だが、きっと彼女なりの“優しさ”なのだろう。
◈
ロウィースがレピドゥスを求め、軽やかな足で近づく。距離が“眼前”にまでレベルを上げたその時だった。上空から極大エネルギー波が降り注ぎ、2人の接触を妨げようとする。そのエネルギー波は一本、ぶっとい棒状のもので、その後、何発か降り注ぐ訳でも無く、“一本”で完結された攻撃だった。レピドゥスは上空を見る。しかし、分断エリアを作るウプサラの壁が張られている。誰からも外側から内側へ攻撃する事は出来ない⋯そう思ったが、スカナヴィアの“ゾディアック”という文言を、“ヘリオローザ対ゼスポナ”の対立で耳にしていた。
『スカナヴィア⋯』
わたしは知っている。ユレイノルド大陸、司教座都市スカナヴィアのゾディアック。七唇律聖教の幹部に相当する人物。シルウィア皇室の次の次くらいに位の高い存在と言われている。滅多に表に顔を出さない事で有名な存在だから、本当にこの世にいる事すら、不思議に思われている。いつしか民間人からの興味は薄れ、スカナヴィアは七唇律聖教、テクフル諸侯を始めとする大陸政府機関の関係者の中だけの存在となってしまっている。まさかそんなヤツらが、ここに来るって言うのか⋯?見た事ないぞ⋯。というか⋯ヘリオローザを攻撃するよう通常人類たちを仕向けたのも、ゾディアックの仕業っつうことか⋯?
2人ともに、エネルギー波の攻撃を受けなかったが、それは計算された行動であった。接触寸前だった2人の間を割って入るように、一つの影が上空から急降下。地面に降着した速度は周辺の瓦礫が、強風を発生させてしまうレベルの降下スピード。レピドゥスは、スカナヴィアのゾディアックとの関連性を予測した。ロウィースはレピドゥスの術中にある状態。未だ彼女を求めて歩みを進めていた。その様子にレピドゥスは口角を少し上げ、喜びを噛み締める。
「⋯⋯⋯⋯⋯んあ、、んん、んあ、、んあわわわんんんんん、、んんくんくんくんくんふぁんにゃあんふむふくわふわふわふあみあみあむあなあね⋯」
ブツブツと小声を零しながら近づく。レピドゥスへと接触を果たそうとするそのルート上には、降着物体があった。ロウィースの感情は、既に彼女へと集約されていた。レピドゥスがロウィースの感情を制御していると言っても過言では無い。彼女の表現し難い、その包容力やカリスマ性、美麗な体格に感覚器官を刺激する多くの要素を兼ね備えた表現のバイタリティ。ロウィースが何故にここまで、レピドゥスに心酔し切ってしまったのか。これはロウィースが特殊な例⋯として識別されてもおかしく無い事なのかもしれない。
ミュラエ
ウェルニ
ヘリオローザ
3サイドでお送りします。




