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“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾弐章 鮮血太極図ワルプルギス/Chapter.12“SisterhoodOfSeranoon
113/150

「#97-天根集合知と天根集合知」

セラヌーン姉妹側の視点。

「#97-天根集合知と天根集合知」


教皇ソディウス・ド・ゴメインドが分断壁を発現。


『サンファイア&アスタリス』

『セラヌーン姉妹&フラウドレス&ヘリオローザ』


6人は2つに分断され、壁を挟んだそれぞれのエリアにて戦闘を展開する事となった。サンファイア&アスタリスのセブンス組は教皇ソディウス・ド・ゴメインドとの戦闘を。


そして、セラヌーン姉妹は⋯。



分断壁発現──。


「何よ⋯!これ⋯!」

「さすが教皇ソディウス・ド・ゴメインド。こんな巨大で厚みのある壁をウプサラで作る事が出来るのね⋯」

「お姉ちゃん⋯サンファイア達は⋯!」

ウェルニは突然のエリア分断に困惑する。“サンファイア”だけを心配しても、今までのウェルニとアスタリスの関係性なら十分に有り得たが、“サンファイア達”とアスタリスを含む言い方をした。ここにウェルニの優しさを感じる。

「分断されたようね⋯私とウェルニ、そして⋯あそこにいるフラウドレスと⋯薔薇の暴悪」

「アイツが⋯薔薇の暴悪⋯⋯⋯」


─────────

「アタシになんか用?」

─────────


「あなたが⋯⋯薔薇の暴悪⋯ですか?」

ミュラエが丁寧に問い掛ける。ヘリオローザは倒れているフラウドレスを介抱していた。その邪魔をしない方が良い+怒りの沸点が何処までなのか判らない。様々な危険性を鑑みて、かなり丁寧に切り込む形となった。

「そだけど?んなのどうでもいいから、さっさとアイツら殺して来て」

「⋯⋯⋯ああ、なるほどね⋯アイツらって、今、私たちのことをジロジロジロジロ見ている⋯変態上級民さんのことね」

大陸政府、ノアマザー、シスターズ&教信者“乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカ、更には多くの奴隷が4人を包囲していた。

「これは⋯いったいどういう意味?私らをどうしたいワケ?」

「そんなの決まってるだろう」

ロウィース侯爵。テクフル諸侯の人間だ。


「アトリビュートであろう?どうしてアトリビュートがそこにいるんだ」

「テクフル諸侯側の人間だったら、アトリビュートの内情を深く知ってるんじゃないの?」

「それなら話が早い。どうして君達は、我々の手に捕まって無いのだ」

「何その質問キンも。センス無いんじゃないの?私らが強いからに決まってるじゃなーい!」

「剣戟軍、何人殺したのだ」

「数えた事は無い」

ミュラエが冷静に応対する。ウェルニは既に激情していた。大陸政府とウェルニを接触させる事。ミュラエには決断が迫られていた。この地で、聖戦を繰り広げるという事の意味が、どれだけ深い役割なのかを承知だったから。


「君達は⋯セラヌーン姉妹だな?」

カリウス公爵。テクフル諸侯の上位階級に相当する偉方だ。

「カリウス公爵」

「公爵と付けて呼んでくださるのは、感銘に値しますよ。ですが⋯ここでアトリビュートを相手するのは、なんという運命と言いますか⋯必然と言いますか⋯」

「はぁ?なにいってんの?」

「何⋯とは、、これまた面白いご冗談を⋯。昨日、教会にいる七唇律聖教の信者を虐殺したのはあなた達でしょう?逃げたと思いましたが、どうもこうしてそちらから来てくださったのは、捜す手間が省けたと思っています。喜ばしい限りですよ」

「私達は、お前らに捕まりに来たんじゃない」

「はてさて⋯そうじゃなければ⋯いったいぜんたいなん御用でカナン城にお越しになったのでしょうか?」

────

「とぼけないで!」

────


「ほほーぅ⋯これまた中々なボイスですね⋯ボイスと共に熱い天根集合知ノウア・ブルームを感じました。なにかの天根集合知ノウア・ブルームをぶつけようとしている気概が感じてなりませゆが⋯もしかして⋯我々と戦闘を交えようという魂胆でおいで?」

「そんな直接的な表現をしよう前から、あんたらとはやり合いたかったんだよ」

「ふふんーん!アトリビュートなんて前時代的!もうあんたら超越者血盟の時代は終わったのよ!見てご覧なさい!この奴隷の姿を!」

ゼスポナ。七唇律聖教の幹部だ。大陸政府は七唇律聖教とテクフル諸侯の統合議会評議員にて構成されている。この4人の他にも複数の大陸政府が、セラヌーン姉妹達を囲っている。しかし発言をする気は無いようだ。発言権が得られていない⋯簡単に、発言する事は許されていない⋯。多くの人員が存在する中で、言葉を一つの場所で重ね合わす事は、特異点兆候シンギュラリティポイントの発生に関連する可能性があるからだ。無駄な部分で特異点兆候を発生させると、またも危険な有害物質が、原世界から同期される切っ掛けを作ってしまう。なるべく少人数で、物事を完結させたい⋯それは、戮世界テクフルが創成されてから現在まで、語られ続けている事だ。


「このアトリビュートの大群を見て!もう最高じゃない!凄く⋯こう⋯性感帯を刺激されたような感じになるのよ!」

「ヤリマンか⋯しょうもな」

ウェルニの言葉に猛反撃するゼスポナ。

「アァん?“穢れた血”のくせに調子乗ったこと言ってんじゃねぇぞ!!!」

「あぁん?!!」


「まぁまぁ待ちなさい待ちなさい」


カリウスが間に入る。物理的に入ったのでは無い。2人は衝突した。しかけた⋯のでは無く、完全に2人の天根集合知が激突していたのだ。ウェルニは暴喰の魔女を出す寸前だった。しかし、出せなくなった。どういう訳か、急に能力が引き戻されたような感じだった。ウェルニは困惑する。それと何故か⋯ゼスポナも困惑した表情を見せていた。

「どうして!?カリウス!なぜ私も止めるの!?私はいいじゃない!いかせてよ!殺させてよ!」

「⋯⋯⋯⋯分かっておる。分かっておるわい。このまま、天根集合知ノウア・ブルームを持つ人間が全面戦争を引き起こしたら大変な事態を招いてしまうぞ?」

「そ、それは、、、、、」

「“ツインサイド戦争”、忘れたわけではあるまいな?」

「は、はい⋯⋯⋯もちろんそれは忘れて無いけど⋯」

「では理解は出来るな。この歴史ある由緒正しき帝国都市ガウフォンで、全面戦争等起こしてはなるまい。だから教皇は分断空間を形成した。ウプサラの壁を作り、オービタルアサルト・ラビウムが監視しているすぐ真横で⋯」

「ラビウムがいるのか⋯お姉ちゃん⋯⋯」

「うん⋯だいぶまずいかもしれない⋯⋯⋯ウェルニ、準備はOK?」

「当たり前でしょ?薔薇の暴悪さん?」

「なに」

「フラウドレスを頼んだよ。私とお姉ちゃんで、このクソどもを何とかするから、薔薇の暴悪さんは、フラウドレスの回復に努めて。いい?」

「⋯⋯分かった。ありがとう⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯」


──────────────

私⋯薔薇の暴悪と会話出来た⋯!!普通に嬉しいんだけど⋯!何この感じ⋯!思ってたよりも可愛いし、気品のあって⋯さすが!黒薔薇を司る方ね。どんな天根集合知を使えるのかな⋯修復機能に似た天根集合知とかあるのかな⋯でも、そうでもしなきゃフラウドレスは助かりそうにも無いし⋯サンファイアが言ってた。すごい尊敬してるって⋯。フラウドレスが勝てなかった相手って事か。教皇ソディウス・ド・ゴメインドは。そんな相手にサンファイアとアスタリスは⋯勝てるっていうの?勝敗⋯を分けるのも精一杯なんじゃないのかな⋯。

あーダメだ。ダメだダメだ。弱気でいる前に、前を向け。絶対に前を向くんだ。そうすれば、一応の道は出てくる。あとはその道を開拓すればいい。よし⋯。

──────────────


「私はカリウス公爵。大陸政府の核となる存在にして、戮世界テクフルの政治背景を統括する主人であります。天根集合知の激突。アトリビュートのお2人。知っておりますでしょう?」

「ええ、知ってるわ。それがなにか?」

「ミュラエ・セラヌーン。だったかな」

「あら、知ってるのね。どうもこんにちは。いつの間にか人気者だったみたい。いつからなのかなー」

「昨日の事件よりもっと前から、セラヌーン姉妹はマークさせていただいておりました故、お2人の存在はかなり多くの大陸政府関係者に知れ渡っていましたよ」

「ふーん」

「おや、自分達が置かれた状況をそれほど深く考えておられないというような雰囲気も醸しておられますが⋯それはどういう意味ですか?」

「あんたさ、言葉の使い方がギトギトしてて気持ち悪いよ?なんか棒立ちで台本読んでるみたい。ロートルの退役軍人は、こんな大層な場所にいてないで老人ホームでも行ったら?」

──────────

「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」「貴様!」etc

──────────

剣戟軍テルモピュライと異端審問執行官、それに乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカの少数がウェルニの罵倒に対しての戦闘行動の兆しを見せた。銃を構えたり、魔術解放の詠唱態勢に入ったりと、普通人間と天根集合知の連合軍だからこそ見える光景が包囲陣に染まっていく。


「待つんだ」

天根集合知、普通人間の戦闘態勢の兆しが一旦は後退。

「あんたさ、それしか言って無いじゃん。待って⋯とか、待って⋯とか、待てー⋯とか、つまんない軍師だね」

「私は軍師では無い。公爵だ。公爵は公爵なりの法規というものがある。いつも外界から逃げて、怯えた生活を送っているアトリビュートの諸君には判らないだろうが、こちらだって日々の仕事で忙しい。正直言うと、君達の相手をしている暇などないのだよ。本来はね」

「なになに、急にウザイ言い回しになってきたじゃん。結構ムカついてきたわ⋯殺し合いする?」

「私はしない。私はラスボスだ」

「ははーーん!!?ラスボス?あんたが?私のラスボス??笑わせるんだけど!!アッハハハハッハハフハハハ!!」

「⋯⋯⋯⋯」

ミュラエは笑っていない。中心地。大陸政府らが囲む中心地でウェルニだけが笑っていた。ミュラエ、ヘリオローザ、フラウドレスが笑っていなくとも彼女は笑い続けた。無理して笑っているのでは無い。本気で彼女は、大陸政府を見下しているのだ。

「おもしろ。おもしろいね。もうさ。やろうよ。でなに?天根集合知の衝突でぇ?なんだっけ?」

「戮世界テクフルを織り成すトネリコの預言書より伝わる伝承記の中に、天根集合知ノウア・ブルームに関する記文がある。知らぬならそのままでも良いが、これは戮世界の決まりだ。よって、天根集合知を分散させ、各々の対立構造を作ろうでは無いか。では⋯」


ウェルニが先制攻撃。包囲陣へ一気に自身の能力を解放。解放と共に暴喰の魔女・レピドゥスがそれに力を貸し、リミットを軽々と超越。これがとてつもない波動エネルギーを胎動。収束した波動エネルギーを纏ったまま大陸政府らの包囲陣へと突っ切っていった。そのターゲットというのは、単体。ゼスポナだ。

「あらあら⋯ウェルニ・セラヌーン⋯とかいったわね?まだカリウスが話してる途中じゃないのー?」

包囲中心地から急加速を遂げたウェルニを、“これも”軽々と受け止めてしまうゼスポナ。いや、受け止めると言うよりも、元々張られていた黒色のバリアだ。黒色のバリアは、ウェルニが身体を使って猛撃を仕掛けた時、直撃を見せた瞬間に黒色である事が判明。色は見えなかった。

ウェルニの身体がゼスポナに直撃しかけた瞬間に、バリアがある事に気づいたのだ。ウェルニは、瞬時に『このままだとコイツへ攻撃出来ない⋯』と察した。


しかし、ここで攻撃をやめまい⋯これは私達からの宣戦布告⋯として、攻撃を継続。エネルギーを一切休ませず、弱まらせないままで、ゼスポナへの猛撃を決行。

「これ⋯中々簡単に破るのは出来ないんだけど⋯」

バリアに亀裂が生じだした。その時、亀裂の間から黒色螺旋が発生。その螺旋はウェルニの身体へ向かい、攻撃を開始。黒色螺旋から粒子が放出され、“虚像弓兵”を生成。その数は6体。6体もの虚像弓兵が、粒子によって生成され、矢を放った。ウェルニは弓兵に対して暴喰の魔女・レピドゥスの捕喰を展開。弓兵から繰り出された攻撃を全て食べ尽くした。

「へぇー⋯やあああっパリー、あんた、、アリギエーリ修道院の子ね?」

「⋯⋯⋯⋯だったら?なに?」

今だにバリアへの猛撃を止めないウェルニ。

「どうするの?無駄話してる間に、私、これ⋯突破しちゃうかもしれないよ?」

「あなた⋯こんだけの包囲陣がいて、何もしてないとでも思ってる?」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯!」


ゼスポナへの直接攻撃に及んでいるウェルニに対して、乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカは白鯨を発現させる。シスターズ&教信者の頭上には、それぞれが宿す白鯨の『ルシェキナ等級』の姿が現れた。ルシェキナ等級は白鯨の中でも、一番下のクラス。とは言っても白鯨は白鯨だ。それにこの16体もの白鯨が一気に掛かってくる⋯となれば、相当な火力がウェルニへ叩き込まれる事になる。

ウェルニは歯軋りをする。

「⋯く、、、、、」

「このままこれ、、続ける?」

「⋯⋯⋯」

「あら、残念。もう既に白鯨は動いてましたー」

「⋯!」

2人の高速的な会話。この会話にコンマレベルのハイスピードな会話が交わされていた。

その間で既に巻き起こっていた白鯨からの怪光線。そしてニードルスピアーと呼ばれる白鯨の、畝と胸びれと背びれから発動される“粒子針”。粒子針はその場で伸びやかに成長。白鯨から原液を注がれたまま、粒子針は伸びに伸び、ウェルニの背後を襲った。怪光線はその名の通り、ビームだ。眼球から発動する白鯨もおれば、口腔内から発射する白鯨もいた。これは育成方法と宿主性格による差異だと思われる事象だ。

白鯨“ルシェキナ等級”16体が一斉に攻撃を実行へ移し、ウェルニにその攻撃が迫る。しかし、それはすぐさま塵となって終わりを迎えた。

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯妹が、まだ話してる途中でしょうが⋯⋯」

往年のセリフと酷似した文言で言ってのけたミュラエが、白鯨からの攻撃を全てブロック。更にはミュラエの天根集合知“幻影空間真空の抽象”で、乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカを異空間へと強制連行。乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカは包囲陣形から姿を消した。これには多くの大陸政府が慄いて言葉を無くしてしまう。それは、ウェルニからの直接攻撃を受けているゼスポナも同様だった。

───────────

『ウェルニ』

『わかってるよ。お姉ちゃん』

───────────

「あれ、これ⋯いっちゃってイイ感じっすか?」

「⋯!しまった⋯!」

一瞬生まれた隙を見逃さなかったセラヌーン姉妹。ウェルニが気づいていないかもしれない⋯と姉のミュラエが教示しようとしたが、当然のようにウェルニにも分かっていた。ゼスポナは転移された乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカの消失風景。そして、ミュラエ・セラヌーンの天根集合知ノウア・ブルームに戦慄を覚え、畏怖した。次の瞬間、身体から生まれた“空白”。

針に糸を通す。難しいようで案外簡単なソーイングスキル。セラヌーン姉妹にとって、人間に生じた一瞬の空白を見つけるのは、これほどの事なのだ。


フランクに回答を求めるウェルニ。その様子は余裕綽々⋯と言った感じだ。ミュラエが当該行動に及ぶ事も分かっていた。狂乱の姉妹が暴走する。

ゼスポナのバリアが失われる。一瞬、気を抜いてしまったゼスポナの完全なミスだ。ゼスポナに直撃する寸前で、ウェルニは自身の身体を反転させ、その場から空間転移を開始。しかし自身が纏っていた波動エネルギーは、ゼスポナの眼前に残置させたまま。“残置”というよりも、火力は健在。攻撃濃度の息吹を残したままなので、ウェルニがその場から離れていても火力が低減することは無い。

ゼスポナに大爆発が走る。辺りは立ち込める煙でいっぱいとなり、肉眼での捕捉が不可能となる。


しかしどうして乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカ以外の大陸政府議員が、ゼスポナの守護に回らなかったか⋯。

それはヘリオローザの呪印にあった。いつ発動したのかは判らない。包囲陣形を整えるまで、拘束なんてされていなかった。ヘリオローザにとって、“一瞬の隙”なんてものは関係無い。全てを虚無にし、全てを自分のモノとする。

時間と空間。静と動。光と影。プラスとマイナス。

薔薇の暴悪ヘリオローザの恐るべき能力が開花したが、これを一切アピールしないのもヘリオローザたる所以。ヘリオローザは現在、フラウドレスの介抱に全身全霊を尽くしている。ヘリオローザの周辺には強力な太極図的渦巻が発生しており、部外者の侵入を許さない絶対領域が展開されていた。だから、大陸政府らは近づけない。近づこうにも命を失ってあの世行きだ。あの世から戮世界へ、どのような死に方をしたのかを伝えるメッセンジャーがいれば、話は別なのだが、そうもいかないのが現実だ。



「くそ⋯おまえ⋯⋯ゆるさない⋯⋯」

「なにぃ?息絶えた声で言われても何言ってんのかわかんないよー。あれ?すごいね!お姉ちゃん!いつの間に相手の足を奪う天根集合知をゲットしていたの?対価の受取方法がアップグレードされたからと言って、なんでかんでも貰いすぎじゃない??」

「いや、違う。これは⋯私じゃない⋯」

「え?でも⋯、、みんなは動けてないのってじゃあ⋯誰が⋯⋯」

そう、2人は未だに気づいてない。それに大陸政府もそうだ。2人の会話に驚愕している。ということは⋯

「薔薇の暴悪さん」

「ん?なに?今ちょっと忙しいんだけど⋯」

忙しい⋯と言っても、表面的にはフラウドレスの臍をグリグリズポズポしているようにしか見えない。

「大陸政府の動きを封殺してるのは、あなたのおかげ⋯だよね?」

「ミュラエ・セラヌーン。後ろ」

「⋯⋯!?」

「遅いのぉ」

ミュラエ、そしてウェルニ、セラヌーン姉妹2人に急激に距離を縮めて来たのは、カリウスだ。

「全員に拘束結界を施したはずなんだけどなぁ⋯」

「残念だが私には効かなかった故、今こうしてアトリビュートの眼前にまで迫ることが出来た。だが⋯薔薇の暴悪ヘリオローザさま。2人を守護するような愚行はやめて頂きたいのですが⋯」

セラヌーン姉妹は、カリウスが急接近してきた事に全く気づかなかった。2人の意識がヘリオローザとフラウドレスに向けられていた⋯としても、ほんの僅かな微小たるエネルギー体の接近は、絶対に判断がつくはず⋯。それなのにも関わらず、カリウスの接近にはこれっぽっちも反応出来なかった。セラヌーン姉妹は焦る。

「お姉ちゃん⋯⋯」

「うん⋯このおじさん⋯⋯けっこう、、、やばい⋯」

「グフくくくく⋯ありがたい言葉ですよ。それは。ただの年寄り扱いされる事が多かったんでね⋯。薔薇の暴悪ヘリオローザ様が展開した拘束状の結界、中々に制御が奪われる代物でしたが⋯なんとか!苦労して解除に成功しました。ですが⋯これは、、、突破出来ようにもありませんね

⋯」

そう、カリウスはセラヌーン姉妹に急襲をしかけようとした。カリウスの白色、つまりは蛾素エネルギーを使用した武器・“蚕銃剣”。剣の形もした近接武器だが、その名の通り散弾銃にも変形が可能な蛾素エネルギー搭載の特殊ウェポンだ。カリウスは自身に漲らせた超エネルギーをそのまま、セラヌーン姉妹へ突撃させようとした。だがその前に立ちはだかる障壁を確認し、即座に攻撃手段を変更。蛾素エネルギーで蚕銃剣を展開。

「ヘリオローザ様⋯こちらを退けて頂けませんか?」

ヘリオローザはニュートリノ・ヤタガラス『ゲリィノート』を発現。ヘリオローザはフラウドレスへの介抱をしながら、ウプサラソルシエールを発現させていた。倒れるフラウドレスを見つめながら、後背で巻き起ころうとしていた異変を察知し、ウプサラソルシエールの発現態勢に出た。しかし、ヘリオローザはその体制を一切変えずに、臍帯を露出させ、ウプサラソルシエール『ゲリィノート』を直接コマンドにて防衛行動を開始させた。

「あなたが、黒色で来るなら、アタシは白色で行く。ヤタガラスで来るなら、アタシはレイソで行く。ごめんね、後出しジャンケンってズルいけど⋯ずるくても⋯勝ちは勝ちだもんね。結局は勝てばそれでいいんだ」

「く⋯く⋯⋯こちらをどけて⋯くださいな⋯⋯く、、」

カリウスは歯軋りする。自身の武器を振りかぶり直撃したかに見えた刹那に発現されたゲリィノートの防衛。カリウスは必死になってゲリィノートの突破を試みる。しかし、ゲリィノートはうんともすんとも言わない。

獣人形態のゲリィノートは、黒色の身体から、複数のアンカーランチャーを生成。これは当然、黒色粒子によって生成されたものだ。ゲリィノートはアンカーランチャーから発射された無数のアンカーワイヤーで、防壁を作る。バリアとは異なった“防御行動”とは思えない手法で防ぎ切った。

「これ、テクフル諸侯の人間には無理だと思うよ。そうだな⋯これを突破出来る人間がいるとするなら⋯⋯皇室貴族かな?教皇をこっちに連れてくればラクゥに突破出来るだろうね」

ヘリオローザは一切目線をカリウスに合わせない。カリウスは諦めなかった。その様子に嫌気が差したのか、ゲリィノートは次なる一手を企てる。

「⋯?」

カリウスが反応した。なにかに反応を示した事を悟ったミュラエとウェルニは、ヘリオローザにサインを送る。セラヌーン姉妹とヘリオローザは、見えない絆で繋がれた。3人のマインドスペースが組成され、新たなコミュニティが立ち上がったのだ。

3人は会話を交わすことなく、ただ“サイン”送るだけで、最初のコミュニケーションは幕を閉じた。その際、ヘリオローザはまだセラヌーン姉妹に眼前へ飛来したカリウスに目を向けていない。もはや、相手にしていない⋯と断言出来る内容だ。

カリウスから、謎の極エネルギーが収束されている事がセラヌーン姉妹からヘリオローザに伝達された。ヘリオローザもセラヌーン姉妹が気づく0.91秒前に分かっていたが、2人の気づきに、感動を覚える。


『安心して。そこのアトリビュート。アタシが守ってあげる』


カリウスから生じていた現今とは特異的なエネルギー。それはゲリィノートが次なる攻撃の一手を企てようとした瞬間に、内側から秘められた魔術弾だ。ゲリィノートが生じさせた攻撃への移行シークエンスの弱波長。カリウスにもヘリオローザには及ばないが、“空白”を読み取る事が可能⋯という事だ。それに気づけたセラヌーン姉妹。アトリビュートの特性⋯として今は捉えることを勧める。



ヘリオローザの言葉通り、カリウスからの魔術弾発射を回避し、いい加減攻撃を中断してほしいカリウスの蚕銃剣攻撃を強制排除。カリウス自体をセラヌーン姉妹から遠ざけた。しかもその“遠ざけ”の方法というのはかなりの乱暴なもので、ただ単にこの場から違う場へ飛ばしたのでは無い。ゲリィノートは、粘着式の空間転移システム搭載の黒色粒子をカリウスに接着させた。これによって、カリウスは遥か彼方の遠方まで強制的に飛ばされてしまう。だがそれには限界というものが存在した。現在、セラヌーン姉妹、ヘリオローザ、そしてフラウドレス達がいるのは教皇ソディウス・ド・ゴメインドによって作られたウプサラの壁。これを破壊するのは不可能だと言われている。ウプサラの壁によって分断されたエリア。つまり、今いるエリアには“果て”が存在するのだ。


強制的に遥か彼方へと飛ばす空間転移システムの粘着⋯。

そうだ。カリウスは遥か彼方へ飛ばされる。しかし、限界がある⋯。


遥か彼方へ、強制的に、自分の意思とは関係無しに、障害物を無効化させて⋯。

分断壁の存在する“果て”が決められたエリア⋯。


カリウスが分断壁にまで行き着いた。その時、空間転移システムが修正起動。これまで分断壁に直面するまでカリウスは、半透明状態となっていた。“空間転移”と言っているが“瞬間移動”的な要素も複合されている当該システム。

カリウスにはそのシステムが乗せられていたので、半透明状態のまま、分断壁に直撃。それによって当該システムに若干のエラーが生じてしまう。だがそれで終わらないのが、ウプサラソルシエールが生成した最凶兵器。


空間転移システムは、そのまま務めを果たそうとする。半透明機能が失われた今、カリウスは分断壁に身体を当て続けられてしまっているのだ。硬い素材で完成されている分断壁にこれでもかと、身体を⋯顔面を当て続けられるカリウス。空間転移システムは役割をまだまだ果たそうとし、機能停止に及ばない。カリウスの顔面が崩壊寸前の酷い形相へと変化していく。身体はもう既に、

ボロボロ。硬い硬い分断壁に身体を無意識に打ち込め続けられ、大量の出血が凄惨さを物語っている。壁に打たれて打たれて、空間転移システムは動きとやめまい⋯と、一回後退をして、一気に力をつけてから分断壁への体当たりを実行。先程までは速度の決まっていた“擦り”が成されていたので、この力の込められた行動は非常に痛々しいものであろう。

カリウスからのリアクションは一切無い。なにせ、口周りの怪我が酷く、発声器官にも多大な負荷が生まれていたからだ。歯は全て砕け落ち、顎の骨が露出していた。骨の露出が酷かったのは肋骨部分。“地獄のされこうべ”は、このような姿かたちをしているのだろう⋯と思える光景だ。

空間転移システムは自ら課せられたミッションを果たそうとしているだけ。単純に、遥か彼方へカリウスというターゲットを連れて行きたいだけ、なのだ。

この純粋無垢な気持ちが、悪夢を生む。


「おい⋯カリウスを何処へやったんだ!?」

「ロウィースさーん、心配は自分たちの状態を鑑みてからしたらどうですか?」

「⋯!」

大陸政府、乳蜜学徒隊カナン・ヴェロニカ、剣戟軍、異端審問執行官、ノアマザー達を拘束結界で固定したヘリオローザは、セラヌーン姉妹とフラウドレス以外の分断エリア内全ての人間に対して、蛾素エネルギー搭載の白色粒子をばら撒く。一人の頭上に、分量が不特定な白色粒子が撒かれていった。

「⋯えーと、何から話していけばいいのかな⋯」

フラウドレスの介抱を続けるヘリオローザ。まだ、顔面を起こそうとはしない。まるで背中に目があるかのように、周囲に起きている事象を確認していた。

「先ずは⋯大陸政府が尊敬?している、カリウスは凄あいたいへーんな怪我を負って地面にぶっ倒れてしまいました」

分断壁に“めり込む”まで、打ち続けられたカリウス。その惨い攻撃に終焉が訪れたのは粘着式空間転移システムのエネルギー切れにあった。分断壁突破に使用したウプサラが相当な使用量となり、通常よりも早く“終わる”形となった。

そう、“終わる”形、となった。

────────────────

「なんだって⋯⋯」

「そんな⋯⋯⋯」

「どうしてだよ⋯⋯どうして薔薇の暴悪がそんなことを⋯!」

「こっちの味方じゃないのか!?」

「そうだ⋯!薔薇の暴悪は我々大陸政府に協力しているんじゃ無いのか!」

「奴隷制度だって⋯」

「肯定派の意見を述べていた!」

「そうだ!薔薇の暴悪は、アトリビュートに恨みがあって⋯それなのに⋯⋯」

「アトリビュートに協力してるじゃないか!??」

────────────────

「ごちゃごちゃとうるさいなー雑魚どもが」

異端審問執行官、剣戟軍を中心とした通常人間から数多く寄せられるクレームに、一言罵倒の言葉を添えるヘリオローザ。今までの大陸政府らに対しての応対とは明らかに違った様相に通常人間達は困惑する。


「でも⋯安心してよ。カリウス、多分死んでないから。まぁこんなんで死んでたら大陸政府戦はアタシが出る幕でも無くなっちゃうけどね」

「⋯⋯⋯⋯」

ヘリオローザは、遠方を見ようとおでこ付近に右手をやり、ジロー⋯と遥か彼方を眺望した。周りから見ると何を見ているのか分からないが、恐らく空間転移システムの餌食にあったカリウスを観察しているのだろう。とは言っても、そんな感じで見れるほど近くにカリウスの倒れ様がある訳じゃない。ヘリオローザによる特殊能力で眺める事が可能となっている。

「ええっとね⋯君達はぁ⋯見えないだろうけど⋯⋯うん、生きてるよ。生きてる生きてる。良かったね!ね?良かったじゃん!」


「⋯⋯⋯⋯⋯⋯薔薇の暴悪⋯」

ゼスポナは怒りを滲ませる。しかし、現在もヘリオローザによる拘束結界は実行されている。現時点で、大陸政府らはヘリオローザの魔の手から逃れられていない事態を、どのようにして克服するのか⋯。大陸政府らの天根集合知の実力が試される時が来た。



大陸政府どもからの攻撃が無い中、セラヌーン姉妹はヘリオローザとフラウドレスの元を訪ねた。呑気に。戦闘中の状況とはとても思えないような、不思議な空間だった。

「ヘリオローザ⋯」

「なに?褒めてくれるの?」

ヘリオローザはフラウドレスへの看病に当たっている。未だに⋯彼女はセラヌーン姉妹たちの顔を覗こうとしない。

「あの、、ありがとう⋯⋯」

「ありが、とう⋯⋯」

「うん」

ミュラエに続いて、ウェルニも感謝を述べた。ミュラエは、今、彼女に感謝の言葉を伝えても良いものだろうか⋯と空気感を読みながら発した。ウェルニはヘリオローザの動きを警戒しながら発している。ヘリオローザは、過去の歴史で超越者から執拗なコンタクトがあった⋯という伝説がある。それを知らぬアトリビュートはいない。

今にもヘリオローザがセラヌーン姉妹を攻撃してくる可能性だって考えられた。しかしこうして彼女のおかげで、セラヌーン姉妹は窮地を脱している⋯。とても不可思議な現実だ。ウェルニが警戒するのも無理は無い。

薔薇の暴悪ヘリオローザは、超越者を憎み、恨み、殺したいと思っているから⋯。


素っ気ない返し。え、、、そんなもん⋯と私は思った。歴史が違っていたの⋯?いいや、そんなはずは無い⋯。ヘリオローザが⋯目の前にいる⋯。そもそも、これが本当にヘリオローザなのかどうかさえ疑いの眼差しを向けざるを得ない。そのぐらいにアトリビュートを守護する行為に疑問を抱いた。ここは私が冷静になって、接触しなければ⋯。薔薇の暴悪ヘリオローザをこちら側に置けば、確実に戦況は有利になる。


「ヘリオローザ⋯⋯⋯」

─────────

「ちょっと2人とも、こっち来て」

─────────

じっくりコツコツと。

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