[#96-グラビティ磁束クロック]
第拾壱章、フィナーレ。
[#96-グラビティ磁束クロック]
「サンファイア⋯⋯だめ⋯待って⋯」
「え、、、、、」
ミュラエがサンファイアの足を握る。ミュラエは地面に倒れ伏せている状態だ。きっと身体もう限界に達している。サンファイアの足を握るのも精一杯⋯最後の力の振り絞りなのだろう⋯。アトリビュートがそこまでの限界値にまで到達させてしまう⋯外敵の正体⋯。ミュラエのこんな状態を見て、サンファイアは黙っていられるはずも無かった。
「いや⋯ウェルニと一緒に戦うよ」
「⋯⋯⋯⋯ウェルニは⋯ウェルニは⋯⋯⋯うん⋯⋯⋯ダメかも⋯しれない⋯」
「え?どうして⋯」
周辺から戦闘音が聞こえてくる。肉弾戦を繰り広げている音だ。それに何かがエネルギー光線が発射される音も聞こえていた。司教兵器が使用していたニュートリノ・ヤタガラス&レイソと同様のものだと推測できる内容だ。
「ウェルニは今⋯自我を無くしている⋯」
『無くしている』⋯。この文言に引っ掛かったアスタリス。
「『無くしている』っつうーのは、自分の意思でって事か?」
「そう、あの子は、特別なの。修道院長の“暴喰の魔女”を宿している唯一無二の存在。“レピドゥス”がウェルニを守護している。それにプラスして白鯨も搭載されていて⋯妹には複数もの“守護聖獣”がいる⋯ウェルニは、それを一気に解放させてしまったせいで、自我を消失し、自らのコントロール方法を見失ってしまったの⋯」
「え⋯⋯⋯じゃあ⋯いま、、、大陸政府と戦っているのは⋯」
「暴喰の魔女・レピドゥスの魂が、ウェルニを完全に操っている。だけどこれは、ウェルニも望んでいる事なの」
「望んでいる⋯ウェルニと⋯その、、レピドゥスには、深い関係性があるんだな」
「そうよ⋯本当に本当に⋯切っても切れない⋯ぶっとい縄で繋がれた義理の姉妹みたいな仲よ」
───────────
「死んじまえヨォォォォアアアァオオオおおお!!!」
───────────
煙が切り裂かれ、ウェルニが現れた。
「ウェルニ!」
「レピドゥス!一回止まって!そうじゃなきゃ⋯!ウェルニの身体が持たなくなっちゃう!!」
「なに⋯!?」
ウェルニの身体を制御しているレピドゥス。レピドゥスのコントロール下に置かれたウェルニの外見は特に変更点は無かった。一見するとウェルニの容姿を整えているだけに見えた。だが、煙を切り裂き、周辺の景色を一変させた彼女の攻撃と戦闘スタイルは、ウェルニの攻撃パターンとは異なるものを感じた。
僕はまだウェルニ、そしてミュラエの2人と一緒に時間は短い。だが、彼女達のパターンはほとんどを読み取った。ウェルニは主に、感情に身を任せて動くタイプだ。無理に行動したり、自分のリミッターを超えてしまい動きを次々と発動させてしまう。だがそんなリミッターを軽々しく超える動きを発動させても一切、身体に傷をつける事が無いのは、アトリビュートたるえ所以の一つなのだろう。
煙が切り裂かれ、ウェルニ兼レピドゥスへの言葉を投げ掛けたサンファイアとミュラエ。しかし2人の声を聞き入れないウェルニ。サンファイアの言葉ならまだしも、肉親であるミュラエの言葉でさえ無視してしまっている⋯。
切り裂いた直後は、飛んでくるエネルギー光線を受け止めたり、弾き返したり、口腔を大きく開き飲み込んだり⋯多様な戦闘スタイルを見せている。
「あんなの⋯ウェルニの戦い方じゃない。あれが暴喰の魔女の“ウプサラ”の使い方よ。外見を変形させ、新たな生命体への形態変化を遂げている」
「声ぇ、届いてんだよな?」
「さぁアスタリス⋯判らない⋯でも、私が私だって事は、把握出来ているみたい。一応、そこら辺の記憶は抹消されてない。でも⋯見ての通り⋯」
シスターズ&教信者のコミュニティ“乳蜜学徒隊”が宙を舞っている。地に足を着けているウェルニに向けて、一斉光線が発射される。ウェルニの周辺には大爆発が発生し、辺りは再び大きな爆煙に包まれた。
「あーやって、わざと攻撃を受けているようにも見える。戦闘を楽しんでいるのよ。レピドゥスは。そしてあの煙が視覚野を削ぎ落とす有害物質だと判断し⋯“切り裂かれる”」
爆煙が切り裂かれる。切り裂かれた瞬間、乳蜜学徒隊が総攻撃を仕掛ける様子が捕捉された。しかしウェルニはそれを予知していたかのように、周辺にバリアを張る。総攻撃というのは突撃だった。学徒隊がその身体に高エネルギー粒子を取り巻き、その身体を相手に直撃させる。飛行を果たし、地面に存在するウェルニへ突撃を果たすその姿はまさに『特攻部隊』そのもの。その乳蜜学徒隊の攻撃を未来予知していたウェルニはバリアを張り、学徒隊からの攻撃を完全防御。更には特攻を果たそうとしていた学徒隊を捕らえようと、衝突したバリアが学徒隊を飲み込もうとする。学徒隊はそれから逃れるため、必死こいてその場からの逃走を画策する。しかしそれは失敗に終わる。中にウェルニがいるバリアの外縁部には複数の乳蜜学徒隊の姿が。残りの学徒隊も存在していた。その残メンバーが、バリアに飲み込まれそうになる仲間を引き戻そうと試みている。ウェルニはその光景を中から見て、バリアへの指令を下す。
バリアは肥大化。現在のサイズから更なる大きなサイズへと急激に成長。直径10mの半円球を描いていたバリアは、救援車をも飲み込むために13mの姿に変貌。半円球は拡大。プラス3mの大幅な拡張は、見た目以上に最悪の結果を招いた。バリアに張り付いた学徒隊メンバーを救おうと試みた残メンバーを全て“喰らい尽くし”、乳蜜学徒隊はゼロとなった。
「凄い⋯あれが⋯⋯レピドゥスの力なのか⋯」
「サンファイア、あんなもんじゃないわ、レピドゥスの力は⋯。喰らう対象が人間で良かったわ」
「人間以外に⋯喰らう対象って⋯⋯⋯そんなの⋯他に何があるんだよ⋯⋯」
ミュラエが言葉を失い掛けながら、レピドゥスについて知ってる事を話そうとしている。普段のサンファイアなら、ミュラエを気使ってここで、話をストップさせているだろう。だけど、現在のサンファイア⋯及びウェルニの緊急事態から察して、ミュラエの健康状態を危惧しても尚、聞いておきたい事が山のようにあった。
「⋯⋯⋯⋯⋯ゆめ」
「ゆめ⋯?ゆめって⋯“夢”⋯の事か?」
「そんなもん“人間”の中にあるもんじゃねぇか。人間を喰ったら“夢”も無くなる。どうして夢が人間カテゴリーに属さねぇんだ⋯」
「原世界の住人には⋯⋯知らないのかな⋯⋯こっちでは、、、とても有名なンだけど⋯⋯⋯」
「ミュラエ⋯?頼む⋯⋯頼むよ⋯お願いだ⋯!!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
ミュラエは目を閉じた。脈がある事に安心するサンファイア。そして、自分の責めたようなミュラエへの誤った口調を自省した。
「なんて⋯なんて⋯無自覚な事をしてしまったんだ⋯僕は⋯⋯⋯」
「サンファイア⋯俺もだ⋯⋯」
「ボクに触るなァああ!!!!」
サンファイアの肩を触ったアスタリスに、酷い言葉と酷い声量で振り払う。アスタリスは、警戒・出し惜しみ無きサンファイアの所業に戸惑う。苛立ちなんかは無い。彼の状態もミュラエ同様、劣悪なコンディションにあった。アスタリスはそれが分かっている。だからこうして、“らしくない”行動をとったのだが、それが裏目に出てしまったようだ。アスタリスも、自省する。
「すまない⋯」
一言、そう謝ると⋯サンファイアは、思い立ったのか、アスタリスの方を向いて、弱った眼球を見せる。うっとりとした⋯今にでも顔面から零れ落ちそうな、トロっとした眼球だ。そんなサンファイアの弱った姿を見てしまうと、アスタリスはどう対応していいか判らず、途方を向いてしまった。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
サンファイアは、何も言わない。何も言い返さなかった。
◈
バリアによって飲み込まれた乳蜜学徒隊。するとウェルニはこちらの方へ意識を向けた。目線が向けられると、次は左手を振り振りさせる。左腕を曲げ、左手は自身の顔面と平行位置に据え置き、振り振りさせた。可愛い感じに。その振り振りの速さたるや⋯左手のアピールが激しかった。
サンファイアの失われた左手を表しているかのようだったが、その思想に落ち着いた途端、ウェルニは笑った。笑ったんだ。サンファイアが、自身の左手を見る。最初は腰部分にあった“無き左手部位”は、胴体、鎖骨部分、首元⋯と順番に身体を通っていき、顔面にまで持ってこられた。
サンファイアとしてはあまりこの状態を見たくない。忌まわしき記憶では無いのだが、自分の失策だとは感じている。無意味な事象が、自分を⋯そしては、セラヌーン姉妹まで巻き込んでしまったからだ。大きな汚点。自分の人生の中で、こんな事が特筆性のある事象として語られるとは⋯。それもストーリーテラーは自分だ。誰も読まない、誰も描かない、誰も⋯歩まない。
手をフリフリするウェルニが、サンファイアとアスタリスのいる場所にやって来た。空間転移。場所と場所を一瞬の速さで紡ぐ、ワープ能力。ウェルニはサンファイアに近づく。それに連なって、姉であるミュラエの状態も視認した。
「“ミュラエ”は、このままの状態にしておこう」
「レピドゥス⋯⋯ウェルニは⋯」
「安心して。ウェルニは、わたしが全責任をもって管理してあるから。絶対に彼女を死なせない。そのために、わたしは全てを尽くして、彼女を守る」
暴喰の魔女・レピドゥス。まさかこのような勇姿的な一面を垣間見る事になるとは思っていなかった。サンファイアとアスタリスは驚く。アスタリスでさえ驚いているのだ。まったく予想と違った人間像に度肝を抜かれた⋯まではいかないが、そう思わせる感情を抱いているのは確かだ。
「ほほう、お前⋯ウェルニの守護者的立ち位置なのか⋯そうか⋯じゃあ⋯俺がウェルニと対立した時、どう思ったんだよ」
「殺そうと思ったよ。ウェルニを傷つける者誰であろうと殺意の対象に選定される」
「はー、良かった良かったよ。こんなものを相手になんかしたら、俺はぶちのめされていたに違いないな」
「⋯⋯⋯⋯アスタリス、あなたは変わった。ウェルニと対立した時のあなたと違う」
ウェルニの声色で、レピドゥスはそう言う。それは今までも同様だ。だが口調だったりが特異的な性質を持っていたので、ウェルニだとは思えない。アスタリスとサンファイアの前には、初見の“暴喰の魔女”⋯それがいた。
「⋯⋯⋯そうか⋯まぁ、分かってくれれば⋯それでいい⋯⋯⋯」
「レピドゥス。そう呼べばいいのかな?」
「サンファイア。そう呼んで」
「分かった。⋯レピドゥス。姉さんは⋯」
サンファイアの疑問が投げ掛けられた刹那、周辺に落下する流星群が現れる。
「なんだ⋯?」
「“原色彗星”だ⋯原色彗星ビオレット。『秩序』を司る紫の原色彗星だ」
「それがどうして、俺らに落下するんだよ?」
「決まってるでしょ?攻撃に決まってるじゃない」
「⋯⋯⋯!」
「でーも、2人⋯安心して。普通だったら、もう、当たってるから。ここに。4人にね」
レピドゥスの後背から、獣の姿をした“白影”が出現。その白影が原色彗星ビオレットの落下軌道へ侵入し、左側面を喰らった。それによって落下軌道の“修正”が可能となり、落下直撃ポイントを未然に防ぐ事に成功したのだ。
「“臨界の捕喰者”。わたしの天根集合知。他にもあるけど⋯今はこれが使い時だと思った。だから使った。褒めていいんだよ?」
「まただ⋯また、落ちてくるよ⋯」
「おい⋯原色彗星ってこんな頻繁に落ちるもんなのか?」
「まぁアスタリス、これは⋯大陸政府の誰かの⋯天根集合知だね」
レピドゥスが覚醒。後背からだった“臨界の捕喰者”が今度は腹部から出現。白影の色彩を放っていた物質獣も、“赤”をメインカラーとした姿に変貌。レピドゥスは一瞬、サンファイアとアスタリスの方を向いたが、直ぐに原色彗星が落下する方向へと視線を向けた。その際、レピドゥスがこの言葉を残し、原色彗星の軌道修正を開始させる。
「ニルエナ記号は使える?」
そう言い、身体を反転。原色彗星の軌道修正のため、“緋き獣”を向かわせた。原色彗星の色は紫から“黄色”へと姿を変えていた。
「原色彗星の色も自由に変えることが出来るって言う事ね⋯分かったよ⋯そんなズルい天根集合知を持ってる奴は、どんだけ朔式神族に媚び売ってんだろうねぇー。ほんとイライラするよ⋯イライラしてイライラして⋯わたしはいてもたってもいられない!だから、こっちも本気出すよ」
レピドゥスから、2つの異なるエネルギーを感じ取ったサンファイアとアスタリス。その2つの中に、“臨界の捕喰者”は入っていない。
落下する原色彗星へ放たれる“緋き獣”とは違う2つのエネルギーサークル。収束量子を持ち合わせたサークルが落下運動を停止させない原色彗星の動きを完全に止めた。原色彗星それぞれの落下軌道にそのサークルは待ち構えていた。サークルが直撃した瞬間、サークルの効果が発揮され、落下が停止する運びとなった。
「天根集合知、“時間遡行領域”。『希望』だって?しょうもない⋯。希望を失い掛けてる今のわたしに⋯一番不要な彗星だよ!」
原色彗星ビオレットの完全停止に成功したレピドゥス。しかし原色彗星ビオレットのエネルギー質量は、レピドゥスのビジョン以上に複雑なものだった。完全停止を果たしていたのは、原色彗星ビオレットそれぞれの“第一層”。第二層第三層第四層とある原色彗星ビオレットの質量コアが、第一層に直撃した時間遡行領域サークルを抱擁。それ即ち天根集合知を無効化されてしまう。しかし、これで時間遡行領域サークルを終了させるような野暮な魔女では無い。
「これで終わりだと思ってた?多層を構成しているぐらい、わたしの頭脳には備わっていたわ。だから⋯もう一回もう二回もう三回⋯なんならもうn回!!やっちゃうんだから!!」
時間遡行領域の収束量子サークルが多弾頭ロケットを形成。サークルがロケットの姿に姿かたちを変えたのだ。原色彗星ビオレットへの“迎撃”を思わせる行動を開始させ、再び原色彗星ビオレットは、サークルの餌食になってしまう。どうやらこの互いの衝突から察するに、原色彗星の軌道は、あちら側からは変更出来ないようだ。
ただ単に、“舐められている”だけの可能性もあるが⋯。暴喰の魔女の能力を甘んじるような、大陸政府は存在しない。
原色彗星ビオレットの軌道上にロケットが激突。そう、“軌道上”だ。つまり、原色彗星ビオレット自体に直撃していない。レピドゥスの発射タイミングに誤差が生じてしまった⋯という単純なミスでも無い。これは暴喰の魔女・レピドゥスだからこそ成せる技だ。
軌道上⋯これから原色彗星が辿り着くゴール地点までの経路。当該ルートを妨害する事が可能な、この天根集合知“時間遡行領域”。更にこれにプラスアルファとしてもう一つの天根集合知が⋯
「“重力磁界”。時間遡行領域にて軌道スピードが激減速した原色彗星ビオレットに、この天根集合知をセットオンする。そうするとね⋯あら、不思議⋯原色彗星ビオレットが、わたしじゃなくて、発射元の方を向いてるじゃなーい。これは対象物の重量と引力を自由自在に操り、エリアに属している全ての磁場を総集合させて、原色彗星に送信する。“重力磁界”で、この世界の原動力はわたしのものとなった!」
重力磁界。この天根集合知によって、時間遡行領域サークルを受けた原色彗星ビオレットが、反転。軌道修正⋯いや、その次元を遥かに超えた、軌道“改正”が提示されていく。原色彗星ビオレットの尖端は、レピドゥス、サンファイア、アスタリスの方角を示していた。衝突すればこの地殻ごと木っ端微塵だったであろう。それを防ぎつつ、リフレクトさせた。今や尖端部分は、発射元にある。
実行されていた時間遡行領域サークルは、重力磁界の効果が発揮、され終了。その任務を果たしたとして時間遡行領域は退き、後処理を重力磁界に託す。時間遡行領域が終了すると、時間の流れが通常速度に戻る。
しかし、これで終わらないのが、天根集合知の超越点。時間遡行領域は、対象を遅くも出来るし、速くも出来る。重力磁界が終了した後に、実行されたのは時間遡行領域の“高速化”。マッハスピードを帯びた原色彗星ビオレットが発射元である大陸政府議員に直行。いつの間にやら原色彗星ビオレットは、レピドゥス達の真ん前から消失。
正確には、消えたのでは無く、超高加速の強制移動によって瞬間転移を果たしたのだ。その証拠に、原色彗星ビオレットを操作した大陸政府議員への直撃信号が伝わる。レピドゥスは信号の殲滅点灯を見て、歓喜した。
「やったー!当たったねー!ちょっくげきィ!当たった当たったしてやったリィ!!」
ウェルニの姿でこのような狂った歓びを見せているので、大した乖離性を感じない。サンファイア、アスタリスは、彼女⋯つまり“ウェルニ自身”が喜んでいるようにも思えた。
「サンファイア!見た?見たよね?」
詰め寄る。迫る。近づく。これでもかと、前に来る。サンファイアは、後ずさりしてしまう。いや、そうでもしなきゃ、顔面と顔面が異常に近づき、キスにまで発展しそうだったからだ。
「あ、ああ⋯見たよ⋯凄いね⋯うん⋯⋯凄い凄い⋯」
レピドゥスはサンファイアからの感想を聞き終えると満更でも無い顔を見せ、今度はアスタリスの方へと向かった。アスタリスはルケニア『ニーズヘッグ』となり、彼女の詰め寄り行為を妨害。しかし、レピドゥスにそれは一切効果無し。妨害を軽々と突破し、レピドゥスはアスタリスの真ん前に現れた。アスタリスはとにかく驚いた。自分が放ったルケニアの顕現がこうもあっさり突破されてしまったのだ。
しかも戦闘状態では無い。普通の会話程度の交わりで、このぐらいの規模の能力を容易く発動させてしまったのだ。
「アスタリス!やったね!⋯てえ、言いたいところだけど⋯あんたには言いたいことが山ほどあるんよねー」
「はぁ?なんだよ。⋯あー」
「あー、じゃないわよ!あんた、ウチのウェルニに何言ったか覚えてんの?」
「あーまぁ、そういうのはもういいじゃねぇかよ」
「良くない!良くない良くない良くない!ウェルニは強い女よ。強い女で、失われた仲間のためだったら容赦無く力を屠れる女。だけどそれを無闇矢鱈に扱ってしまう事があるの。それをあんたが目覚めさせてしまった⋯これがどんだけの罪か判ってんの!?」
「あー⋯すまねぇって⋯悪い悪い⋯」
「ねぇ!思ってんの!?ねぇ!どうなのよ!」
あの、アスタリスが⋯他人から迫られて、困惑している。僕は、理解が及ぶのに多少の時間が必要だった。先ずこれは現実なのかどうかを、問う必要があったのだ。
「レピドゥス⋯」
「なに」
怒っていた。プンスカプンスカ、頭から煙が上っている。今、レピドゥスの頭に手を添えたら、骨が見えるまで、皮膚が丸焦げになるな。
「何か⋯天根集合知を出してくれ。それをぶつけてくれ」
「わたしのを?サンファイアに?どして」
「いいから」
「⋯⋯わった」
レピドゥスは腹部から、赤色に染め上がった獣人を表出させる。獣人は表出した直後から、エネルギーを収束。それを一気にサンファイア目掛けてぶち込んだ。あまりの攻撃量の多さ。それに比例しない攻撃範囲の狭さ。攻撃の範囲は、一定以内に絞り込められ、サンファイアにのみ収束光線が命中するように設定されていた。サンファイアはそれを回避せず、誠心誠意受け止めようとした。
受け止めれきれなかった。そして、サンファイアは答えを導き出せた。今、自分が体験している世界が虚構か現実かどうかの解答が出たのだ。
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯現実だ。
「だいじょぶ?サンファイア、やりすぎたかな⋯ごめん」
サンファイアのみに命中することを前提に発射したので、エネルギー収束が重点的になった。これによって無駄な範囲を削ぎ落とし、一極集中型として昇華する事に成功。案外、このような一極集中攻撃は経験がなかった。なのでこの機会を設けてくれたサンファイアに感謝を述べようと決めた。
「いや⋯僕の方から言ったんだ。大丈夫だよ」
「うん、、、てか、ありがとう!サンファイアのおかげで新たな自分の能力が開花したんだ!ありがとね!」
「あ、う、、うん⋯それは何よりだよ⋯⋯」
「うへへへ。ンでぇ⋯フラウドレスだよね?」
「うん、そうだ。姉さんは⋯?姉さんと⋯」
「イカレ女はどこだ」
「イカレ女って⋯あんた、ヘリオローザにしっかりお礼言いなさいよねぇ?ヘリオローザがいなかったら、フラウドレス、大変な事になってたんだから!」
「うん、そうだよ⋯ヘリオローザは宿主の姉さんを助けてくれてるんだ。アスタリス、会ったらありがとう言わなきゃね」
「フン!誰があんな奴に⋯」
「まぁ、コイツの性格を矯正するのは後にして⋯今は、フラウドレスを助けよう」
「助けよう⋯⋯⋯って、何処にいるの?」
「その⋯⋯サンファイア、ごめん⋯わたしとミュラエと⋯ウェルニで、大陸政府らを相手にしていたんだけど⋯結構⋯相手強くてな⋯⋯最初はミュラエとウェルニが余裕で相手していたんだけど、大陸政府の天根集合知が強力も強力で⋯」
「そんな⋯⋯姉さんは⋯!姉さんは何処にいるんだ!」
サンファイアは叫ぶ。レピドゥス⋯いや、ウェルニの両肩を思いっきり掴み、自身の想いを力強く伝える。レピドゥスはウェルニの顔面を介して、フラウドレスの現状を教えた。
「フラウドレスは、大陸政府の制圧下にある。わたしが悪いんだ⋯彼女の存在をもっと⋯重要視していれば、こんな事にはならなかった⋯」
「そんな⋯姉さんが⋯⋯⋯」
「ここにいるんだよな?」
アスタリスはレピドゥスに視線を合わせず、彼方を見ながらそう言った。フラウドレスの信号、それとヘリオローザの信号を逆探知しているのだ。
「うん、だけど⋯ここじゃない。教皇のせいで、かカナン城周辺は分断された。そしてそれを上書きするかのように大陸政府が、面倒な事をしでかしやがったんだ⋯。わたしとミュラエ、ウェルニはそれへの対処に尽くしていた。だけど、迫り来る別の敵生命が邪魔して来て⋯⋯多くの時間を浪費してしまって⋯⋯それで⋯⋯ウェルニは戦意損失、わたしに戦闘制御の全権を委譲。ミュラエと共闘を始めたんだけど⋯⋯奴ら、、、思ってたよりも強くて⋯⋯」
「もうイイ!簡潔に言うと⋯“予想外に相手が強かったから、フラウドレスも奪われ、敗北寸前⋯てことだな”?」
「そう、、、、だね、、、、、レピドゥス⋯⋯⋯」
「ミュラエ!」
「ミュラエ、もう休んでいて」
「ダメよレピドゥス⋯⋯私も⋯戦うから⋯⋯」
倒れていたミュラエは力を振り絞り、直立運動を始める。しかし足もガクガクと震え、膝を真っ直ぐにする時も、両腕による補助が必須だった。一応、最終的には直立する事が出来てはいたが、交戦が十分な時間可能な状態とは言い難いもの。
「何言ってんのよ⋯。ウェルニはここにいるから。わたしが守護するから」
「そうじゃなくて⋯!!」
「⋯!?」
レピドゥスが彼女の眼前に迫り、強く言う。
絶対にダメだ⋯。その覇気が必死になってミュラエの戦闘再参戦を止めている。その覇気をかき消したミュラエ。レピドゥスは困惑した。困惑と共に、彼女はまだ戦える余力がある⋯と確信した。だけど⋯⋯本当にそうなのか⋯?ただの偶然⋯そう思いたかった。だが⋯⋯彼女から、放出される封殺力が、レピドゥス願いを無くしていく。
「ウェルニも大事。大事だよ⋯大事なんだけど⋯⋯フラウドレスだ」
「姉さん⋯?」
「サンファイアとアスタリスのお姉さんは、ただの異能者じゃない。戮世界と原世界を繋ぐブリッジだよ。メルヴィルモービシュが戮世界へ連れて来た理由が、分かった気がする」
「なに⋯?」
「あの白クジラが?フラウドレスを?」
「そうよ。2人だってそう。特別なのよ。偶然、メルヴィルモービシュはこの3人を見つけれたの。その中に、“薔薇の暴悪”も宿されていて⋯この3人なら、戮世界を変えてくれる⋯と思ったんじゃないかな?」
「変える⋯?」
「俺達が??こんな、いい思い出のねぇ場所にか?」
「今はね。いずれアスタリスにも、多次元の共生が判るよ」
「はぁ?」
「“架橋”のこと?」
「サンファイア⋯架橋のことを知っているのか?」
「うん⋯レピドゥス、僕らさっきまで⋯架橋っていうところにいたから」
「ラビウムと対峙したんだね⋯だったら尚更だよ。3人は戮世界に不可欠な存在となった。原世界を生きる生命じゃなきゃ、戮世界の法規を覆すことは出来ない」
「ねえあのさ⋯ちょっと待ってよ⋯僕⋯全然意味わからないよ。レピドゥスとミュラエはさっきからなにを言ってるの?ずっと、何を言ってるのか全然分からない。話が前に進んでいるのか、後退しているのかも分からない」
「そうか⋯そうだよね。ミュラエ、あとはわたしと2人に任せてくれ。さぁ、わたしの中へ」
「うん⋯」
ミュラエは、レピドゥスが腹部から発現した巨大透明管に取り込まれる。ミュラエを吸収すると、管はレピドゥスの腹部へと収納され、姿無きものとなった。
「これで怪我人の確保は完了。ごめんだけど詳しい話は後で。なんなら、“出来たらする”って感じになると思う。今、酷い状況だから」
「姉さんは?」
「分かってる。今からそこに行くよ。君達のお姉さんが待つ、天根集合知の戦禍へ」
40分前──。
Side:Seranoon
セラヌーン姉妹、瀕死状態のフラウドレス、薔薇の暴悪ヘリオローザ。4人は、サンファイア、アスタリスと別れてしまった。
ありがとうございました。
では、次参ります。とにかく書きます。今は、それだけ。生きがいなので。




