表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
“俗世”ד異世界”双界シェアワールド往還血涙物語『リルイン・オブ・レゾンデートル』  作者: 虧沙吏歓楼
第拾壱章 エリュテイア・ゲートウェイ/Chapter.11“AnotherDimension”
108/150

[#93-大天使執政官アークエンジェル]

架橋

[#93-大天使執政官アークエンジェル]


行く果ては決まっている。なのに、手段・方法が不明。アスタリスは正気を失ったように歩みを進めていた。

場所は決まってる。旗をセットした。ルートが判らないだけ。ルートさえ確保出来れば⋯そこまでの道程さえ判れば⋯なのに行けない。行こうと思うだけなら幾らでも思える。

サンファイアばどうやって、別次元世界を創成したんだ。俺にも出来るのか。

それって、どうなんだ。“世界を創る”。

それは簡単な事なのか?作業レベルのものなのか。

俺が⋯出来ない?サンファイアにできて⋯俺が出来ない?


アスタリスは別次元世界へ行きたいと願っている。だがそこが何処なのか、そもそも何なのかが判らず、立ち往生。しかしながら、自分の手でどうにかしようと必死になって道を探し求める。どうにかして、あっちの世界に行かなければ⋯⋯サンファイアが⋯⋯⋯⋯あのモニター、本物なら、危険な事態が待っている。


大陸政府の取り巻きだろう、あの兵隊達。分断世界にはいなかったはずの奴等がこちらの世界にやって来て、その上に別次元への侵入をも可能とした。仮にサンファイアが別次元の創成者だとしたら⋯⋯サンファイアは“アークエンジェル”の侵入を許した事になる。

いや⋯どうなんだろうか。侵入を許したのか、それとも教皇が介入し、大天使アークエンジェルと化したテルモピュライと異端審問執行官を引き連れて来たのか。

天使の名を冠している、アークエンジェルという存在。司教兵器2体の発言から考えると、後者の方が可能性は高いように思えた。


それと同時に、アークエンジェルからは現在、教皇の手を離れている状態。つまりはキューンハイトとチルペガロールのように自我を取り戻している事が⋯⋯⋯いや、そういう訳にもいかないか。キューンハイトとチルペガロールは、何故だか“自我”を取り戻したあとから、俺への攻撃を行っていない。

テルモピュライと異端審問執行官にもそれが通ずるのなら⋯。


「アスタリス」

「⋯⋯?」

「あー良かったぁ⋯。もう、何回もアスタリス!って言ってたのに、全然聞いてくれないんだから」

「あぁ⋯悪い⋯」

謝った。俺が⋯俺とアスタリスを殺しかけ⋯フラウドレスを沈黙させたヤツに⋯謝った⋯⋯?

「八咫烏!きて」

チルペガロールがキューンハイトを呼ぶ。アスタリスは、司教兵器2体に対しての激情が抑えられていた事を、思い知る。

「アスタリス、サンファイアを救え」

「⋯お前⋯⋯どうして」

「説明しても理解⋯信頼は持てないだろう。だが八咫烏、嫘姐の言うことを⋯“今は”信じてほしい」

「“今は”ね⋯⋯てことは、また俺はお前らに半殺しにされる羽目にあうってことか?」

「それは⋯⋯うん⋯否定は出来ない⋯」

チルペガロールが声を窄めながら、そう言った。アスタリスにはそれが哀しげな音色を帯びたように聞こえる。

「キューンハイト、チルペガロール」

「⋯⋯」「⋯⋯なに、アスタリス」

チルペガロールが言葉と共に応じる。

「お前らなら、つれていけるんだろ?」

「⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯うん」

司教兵器2体は互いに視線を合わせた。先程までそれについての話をしていたからだ。アスタリスをどうやって別次元世界に連れて行くか⋯。だがまさかアスタリスの方から言及してくるとは思っていなかった。チルペガロールはアスタリスに応じる。

────────────

「じゃあ⋯さっさと連れ⋯」

────────────


「消えた?」

「消えたな」

「はぁ⋯やっとだよー⋯⋯⋯つっかれた疲れたぁーー!いちいちめんどくせぇ男だったなぁ」

「嫘姐は近づきすぎだ。もう少しで本当にルールを違反するところだったぞ」

「あー、ゴメンなちゃいゴメンなちゃい!」

「まったく⋯誰に似たんだか⋯その喋りは」

「何を隠そう⋯宿主に決まってるでしょうが!」

「八咫烏はそこまで侵食されなくて良かったよ」

「ええ?違うよ、侵食とか⋯そんなまるであのガキの言いなりみたいな感じじゃない!」

「“言いなり”って訳じゃないけど⋯まぁ意味は似てくるな」

「そでしょ?嫘姐として、あんな子ガキみたいなヤツの言いなりになんかならないっつーの!」

「だけど八咫烏達は所詮、ウプサラソルシエール。司教兵器として宿主の命令に背く事は許可されていない。もしそれに違反でもしてみろ」


「『七唇律が黙ってないぞ』」「『七唇律が黙ってないぞ』」


「それ、決めゼリフ化させる気?流行らん流行らん!流行らんって」

「まぁそんなことはいいんだ⋯アスタリス、順調に別次元世界に行ってるとこか?」

「そだねー。もうそろ着くんじゃない?今頃、どんな想いでいるのかなー、サンファイアと再会出来たら第一声はなんて言うんだろうねー!モニタリングしたいなぁ!モニタリングぅ!モニタリング!」

「残念ながらウプサラソルシエールが教皇の手を離れた段階で、勝手な行動制限範囲は狭まっている。嫘姐の願いは到底果たされないものだな」

「そっか⋯まぁじゃあ⋯帰りの無事を祈るしかないね。ンヒシシシ⋯」

「嫘姐、嫘姐、嫘姐ー?」

「⋯んししンァエ?なに?」

「どうした?薄気味悪い笑みを浮かべていたが」

「だって別に、どうでもいいんだもん。アイツが生きてよーが、生きてまいが」

「生きてまい⋯」

「お、おん⋯引っ掛かるとこ?⋯どっちでもいいからさ⋯でもまぁ?男同士の友情ごっこは嫘姐的に惹かれちゃう要素があるんだよねー」

「だからアスタリスをサンファイアの元に行かせたのか」

「そそ!そゆこと。アスタリスもちょっとは嫘姐達のこと、信じてたじゃん?」

「なんか、そうみたいだったな。よく分からんが⋯」

「んね!なんで少しでも信じようと思ったんだろうね⋯教皇の配下として動いてた時はちゃんと真っ向から殺そうと思ってたのに」

「まぁ、無事を祈ろうじゃないか。そうでないと、ここから先のシナリオが進まんくなるぞ」

「そうね、嫘姐達のせいでシナリオを止めてしまったら、ドリームウォーカーにも悪いからね」

「まずそもそも、これに関わること自体、早いからな」



───Side:Sunfire


突如として、剣戟軍と異端審問執行官の大軍が別次元世界に来襲。教皇の手配なのだろう。だがここでサンファイアは剣戟軍と異端審問執行官の異姿に気づく。様子がおかしい。焦点が定まっていない。

人間のする行動では無い身振り手振りが何箇所か発見出来た。視点の不規則に動く不正確さ。黒目がギョロギョロと周辺を見渡している。何者かに取り憑かれように見えたが、全てを仕組んだのは教皇なのだろう。


「大天使アークエンジェルの様式美を採用。これより原世界よりの戮世界テクフル侵入者サンファイアを処刑する」

一人の剣戟軍兵士がそう呟いた。言語能力に変化は見られなかった。人間と同様の声色だったので、僕はそう思った。だが普通では無い事は確かだ。通常の人間⋯アトリビュートでは無い存在が、“天使の翼”を思わせるものを後背に背負えるものなのか⋯。

しかもその翼の色は赤紫。自身のことを“大天使アークエンジェル”と豪語していたが、普通の天使ってもんは“白色の翼”を備えているのでは無いか⋯。

そもそもが戮世界でのアトリビュートの定義が未だに理解出来ていない。もっと有益な情報を獲得しなければ、簡単に処理すべき事柄では無い⋯と考えている。


⋯クソ⋯⋯⋯どうやら、そんな悠長な思考を巡らせてる場合では無いみたいだな。

大天使アークエンジェルと自身を称している者たちが、サンファイアに向かって攻撃を開始してきた。その数は40名。あの時、舞台上とそのステージ周辺にいた剣戟軍と異端審問執行官の全てを別次元世界に召喚したのだ。

「兵隊を呼んで⋯僕の覚醒を止めようとしているのか?それは残念だよ⋯今しがた、覚醒兆候は既に僕の体内にインストールし終えた」

「⋯⋯⋯⋯我々は教皇の命によって行動を開始する。目標の戦闘ステータス向上は、作戦概要の変更に影響は無い。よって排除を実行する」

先程とは違ったアークエンジェルの人物が喋りを利かす。

「あーそう⋯そうなんだ。君達に恨みは一切無いんだけど⋯僕を排除するって?中々に難解なチャレンジだと思うけど、本気で言ってんの?」

「“本気”⋯本気とはなんだ。本気というのは、己の中に宿る魂が、それぞれの個体の中で生まれては消え、新たな時間の流れを解き進めて行くことか?」

無表情、そして最小限の口の開き。舌を口腔内で思いっきし使用していなければ、ここまでの口の閉じ具合で、喋る事は不可能だろう。無駄を削いだ発声がとても気味の悪い空気感を形成している。

「そこまで深く考えなくてもいい事だと思うけど、教皇さんに吹き込まれた?」

「目標とのコミュニケーションは最低限に設定されている。よってこれより“叩き直し”のシークエンスに移行」


サンファイアが悟る。

「くる⋯みえるよ⋯君らが今、どうやって僕を殺そうとしているかが」

大天使アークエンジェル群体が一斉にサンファイアを包囲。その包囲の手段は“ただ動いて接近したのでは無い”。刹那的な行動だった。素早い⋯というレベルの話でも無く、“そこから消え、ここに現れた”というレベルでも無い。


元々、“そこ”にいた。

元から、サンファイアの近くを包囲していたかのようだった。いつの間にか、近くに。遠くにいたのに、近くにいる。音も出していない。普通なら、それに気づける要素は皆無だ。

サンファイアには容易だった。簡単にアークエンジェル達の接近を視覚野で捕捉。残影が浮き彫りになっているだけでは飽き足らず、その足跡までもが、サンファイアには視認する事が出来た。

そうだ。“瞬間転移”はただの説明素材用語。アークエンジェル達が使用したのは、ただ単に“速すぎる足”。

瞬きをすれば、アークエンジェル達は瞬間転移にも相当する移動を可能としていたのだ。

アークエンジェルはサンファイアを追い詰めた⋯と思っていた。だがそれはお門違いだったことに気づく。サンファイアの顔面をアークエンジェルの複数名が確認し、動揺の色が発出していない事が攻撃行動の停止号令に繋がった。

しかしサンファイアは包囲したアークエンジェルを逃さない。

「にげんの?そんなの無しじゃんか⋯」

サンファイアは大樹3本に攻撃指示を命令。大樹から再び花弁が芽生える。異常に早い成長を遂げ、また花弁が大樹から離散するように地へ落ちる。

その花弁は地面へ落下する運動を起こしているが、地面に届くだいぶ前に、不規則な屈折を開始。大樹周辺に発生させた“透明な壁”を利用し、花弁が“反射光学攻撃”へと転化。

「⋯⋯⋯なに!?」

アークエンジェルの表情が一変。サンファイアの異変に気づいた時点でもう遅かったのだ。花弁は高速で反射攻撃を始め、サンファイア周辺から回避を図っていたアークエンジェル群体に命中。花弁は40名全員の人体に深刻なダメージを負わせた。

「血、、、出るんだ⋯」

出血。多量だった。“多量”⋯。どうして多量なんて言葉を使うかというと、40名全員に命中した花弁が、アークエンジェル全員の血液採取を開始したのだ。花弁がアークエンジェルに命中した際、人体へと侵入、血液採取のフェーズへと移行し、強制的にアークエンジェル元通常人間の遺伝子検査を始めた。

「なんだ⋯⋯⋯」

「わからない⋯⋯⋯おい⋯!」

「何が起きてる⋯⋯⋯」

「なんなんだこれは⋯!!」

「やめてくれ⋯!!」

「痛い⋯痛い⋯いたいぞ、、、⋯⋯!」

「取れる⋯とれる⋯!!」

阿鼻叫喚のアークエンジェル⋯いや、剣戟軍と異端審問執行官の連中ら。花弁が人体に侵入した事で何らかの異反応が発生、それによって何故か自我を取り戻したようだ。先程とは打って変わって異なった“人間言葉”を多用していた事が何よりもの証拠だった。

だが見た目は変わっていない。人型の姿をし、翼が生えている状態だ。アークエンジェルの異姿を継続させたまま、そんな言葉を吐き散らしているのはなんとも滑稽だった。


「痛い!!!⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」

40名の阿鼻叫喚は突如として停止。全員の声が同時に止まった。

顔のパーツを全使用し、激痛を表現していたのがバカバカしくなってくるほど、現在の顔が虚無となっている。

リカバリー。アークエンジェルがサンファイアからの人体侵食を克服し、“正気”を取り戻した。

「⋯⋯⋯」

全員が無言。何も発すること無く、サンファイアを包囲していた時の状態へと戻っていく。サンファイアは不意打ちを食らわせるため、次なる一手を繰り出した。

ルケニア『ラタトクス』に直接顕現を行い、臍帯なしでのコントロールで戦闘に挑むサンファイア。そんなサンファイアがラタトクスから繰り出したのは、アスタリスと同様の氷の遠距離攻撃。包囲段階に戻っていくアークエンジェルの行動を許さないサンファイアは、彼等のシークエンスに邪魔を入れるため、氷の強撃『イルリサット』をぶち込む。

同名の攻撃ファンクションだったがサンファイアVer.のイルリサットは球状の氷弾では無く、怪光線のようなものだった。

ラタトクスは影分身で複製体を生成、その複製体と本体のラタトクスが一斉に怪光線イルリサットを発射。口腔から高エネルギー粒子が造出され、次々と加速。それぞれのラタトクスにも同様のシークエンスが行われていくが、本体のラタトクス⋯つまりは“主幹”であるサンファイアが顕現しているラタトクスは加速シークエンスをすること無く、発射。攻撃中間作業である“収束行動”をショートカットする事によって、よりもっと強大なエネルギー衝撃波を携えて発射する事ができる。

ショートカットをしたからといって、先に主幹のみが攻撃を実行・発射をする⋯という訳では無いようだ。


「⋯回避行動!」

「それは無理だよ」

大天使アークエンジェルが一人の号令に従い、回避行動を実行するがそれは叶わず⋯その行動に移る前にイルリサットが直撃。アークエンジェルを戦闘不能状態に落とす。

しかし、その瞬間、別次元と現世を結ぶ“架橋”と呼ばれる場所から謎の素粒子が流し込まれる。

「させない⋯!」

サンファイアは即、素粒子の侵入妨害を決行。その素粒子が向かう先なんて最早、説明不要だろう。

「どうせ⋯教皇からのデリバリーなんだろ?だったらその贈り物⋯僕が頂いてあげる」

素粒子が別次元へ流れ込む。架橋を飛び越え、放物線を描くようにカーブ。その様子はサンファイアを避けているようでもあった。そして速い。今すぐにでも素粒子はターゲットである大天使アークエンジェル達へ辿り着きたいのだろう。そんな想いの募る放物線をサンファイアが切り裂いた。

特殊速攻。ラタトクスに顕現中のアスタリスが、空間を自由自在にコントロール、尚且つ一時的に空間と空間を切り分ける⋯。これが俗に言う“特殊速攻”と言われるルケニアの固有アビリティ。影分身で生まれた複製体らが次々と、無尽蔵に放物線を切り裂いていく。そうした中で、架橋から放物線がどこまでも流出し出す。

最早、出処である架橋を閉じた方が良いのでは⋯と思ってしまうが、サンファイアにそれは出来なかった。サンファイア自身、現世への帰還方法が判らないからだ。どうやってここに来たのか⋯自分でもよく分かっていない。

気が付いたら別次元世界。色彩を多色に使用した世界“サイケデリック”と、サンファイアの攻撃に呼応し世界が反転⋯。サイケデリックと“コラージュ”がドッキング。奇抜と現世の記録がパターン的に現像され、サンファイアのモーションに反応を示す。間違いなく、別次元との関連性を思わせる演出だが、サンファイアはこれを理解出来ていない。取り敢えず、“自分がキーマンなのだろう”⋯ということは漠然的に判断出来ているつもりだ。


だから架橋を破壊出来ない。手をつけられない。だが、放っておくとどんどんと増えていってしまう。自分の領域に異物が混入されていく現象をみすみす放ったらかしにする事なんてできようはずが無い。

せっかく、自分で見つけた大切な場所⋯。

自分しか、居ちゃダメな場所。

選ばれた存在。

サンファイアは自分を誇りに思っている。そんな現在の自分に驕り高ぶっている所に、また“線影”が飛来する。

放物線⋯と表せないのは、曲射しながらの素粒子がメインのフェーズだったからだ。その曲射をも複製体が切り裂いて行くのだが、その次⋯また次も⋯特異な手段を用いて架橋を飛び越えてくる素粒子達⋯。


サンファイア兼ラタトクスから出すルケニアの力は無限では無い。有限だ。

現実を突きつけられた。これは⋯サンファイアが教皇に勝てない事を意味しているんだ。無限に架橋から飛び越え、素粒子がアークエンジェル達に向かう。それをどうしても阻止したいサンファイア。しかしこれは叶いそうもなかった。

「ダメだ⋯もう、、、ムリかも⋯⋯勝てない⋯こんなに⋯⋯⋯やって来るとは思わなかった⋯」

想定外の事態が展開され、自分でも対応・処理能力に誤りが生じる部分が多発してしまう。複製体へのコントロール管制にバグが発生。これはサンファイアの頭脳によって全てが決定される重要な主幹システム。

当該システムが現実を突き付けられたサンファイアに準ずることが出来ず、崩壊の一途を辿ることとなる。その最中に、隙あらば⋯と素粒子が架橋から飛来。サンファイアの様子を鑑みたのか、いっときはやめていた放物線を描く様式が再開されてしまう。

「なんでだ!?どうして!?どうして!!なんで言うことをきかない!?僕の思うがままに動いてくれればそれでいいのに⋯!ルケニアだろ?ラタトクス!!僕の指示を聞くんだ⋯!そうじゃなきゃ⋯⋯そうじゃなきゃ⋯⋯」

放物線が⋯素粒子が⋯⋯各アークエンジェルに集まる。サンファイアはそれを許してしまった。

力尽きた訳じゃ無いのに⋯。単純な“MP不足”。

そうだ。まだ体力もあるし、他の攻撃手段だって残されている。それで戦えばいいんだ。サンファイアは完全に諦めたということでは無い。

一番戦闘に適した手段が損失しただけで、サンファイアの殺意は無くなろうはずが無い。


「姉さんを返せ⋯⋯」

アークエンジェルへの物理攻撃を開始。ルケニアの固有アビリティを使えなくなった事象を諸共せず、サンファイアの近接攻撃“乱れ引っ掻き”が命中していく。アークエンジェルは回避行動を取るが、ラタトクスからの攻撃を避け切れない。

「大したこと無かったのか⋯」

特段、ルケニアのアビリティを使用しなくても良かったのか⋯物理攻撃のみで排除可能な存在だったのか⋯と、思ってしまう。その意味の無い不安が、一蹴される。


「隊列形成」

「隊列形成」「隊列形成」「隊列形成」「隊列形成」「隊列形成」「隊列形成」「隊列形成」⋯⋯⋯。

一人の号令の直後から39名のアークエンジェルが一斉に『隊列形成』の文言を発する。

サンファイアはこれから起きる事を知らず、アークエンジェルに接近、攻撃を続行させる。それまで乱れ引っ掻きによって発生したソニックブームがアークエンジェルに命中した事で、多くの外敵を戦闘不能状態に陥れて来た。“生存の再生”が表現されているのは、”架橋”からの素粒子が原因だ。

攻撃しても攻撃しても外傷箇所は直ぐに応急処置が施され、元の傷跡無しの異姿へと戻ってしまう。どうにもサンファイアは自分の行動に意味なんてあるのか⋯と自問自答の時間が訪れる。しかしやらなければならない。だから攻撃を続けた。“自分らしさ”が損失しても、必ずや姉さんの敵を討つ⋯その意志のみで力を振るっている。

「隊列形成のフェーズを終了。中心に位置する目標・サンファイアの現ステータスを解析」

「了解。こちら任を承りました。⋯解析完了報告を致します。報告担当官の者へ委託すると共に、現在の立ち位置に不満を抱く者として皆様からのご承知を頂きたいと思っています」

「それは許諾出来ない。大天使アークエンジェルの天使位階でモノを言えた立場では無いからだ」

「ではどうでしょうか、守護天使の名前を借りている立場としてクーデターを起こすと言うのは?」

「今はそのような議論を起こしている暇は無い。原世界からの異物が入り込んでしまった事件をどのようにして処理するのかを託されたのだ」

「教皇からはどのような案件を提示されたか記憶していない者が多複数いると思うが⋯」

「それは地頭の問題だな。守護天使の力を借用しても尚、元ステが付与を上回るのなんて⋯」

「しぶといったらありゃしない」

「すこしでも危険なだと思ったら大天使としての行動は慎むんだ。最終力点を超えた時にカバーするのは自分だと言うことを忘れるな」


なにかの“トリガー”があったのか、大天使アークエンジェルの群体が開口。ひとり、また一人と言葉の輪を拡げていく。その様がサンファイアにとっては虫酸の走る情景だった。とても腹立たしく思い、ソニックブームを生成する乱れ引っ掻き攻撃を止める理由は無くなった。元からそんな結末を考えてる余裕なんて無かったが、今、外敵をピンポイントに攻めた思考を巡らせると改正の余地が皆無である事が判る。


「自分は間違っていない⋯」


「再生機能、架橋より素粒子が行き届かん」

「これより架橋への接近行動を開始する」

「全アークエンジェル群体、架橋への移動を開始」

「守護天使への背徳は許されない!すぐさまに受けた恩恵の回復を最優先事項として、自身のケアに努めよ」


「⋯⋯⋯ご丁寧に⋯」

サンファイアからの攻撃は直撃している。だがやはり、素粒子がアークエンジェルを“守護”しているので、負荷は早急に措置が成され、“無きもの”となってしまっている。

サンファイアの攻撃行動が無意味なものとなっているのだ。それでも止めないサンファイアにアークエンジェルから団体移動報告の指示が行き届いた。

サンファイアが、まるで“アークエンジェルの仲間”かのように、彼等は一切サンファイアに聞こえる事を警戒せずに大きな声量で言い放っていたのだ。

「⋯⋯どういう神経してんだ?」

サンファイアには理解不能。自分にあえて“聞かせている”ようにしか思えなかった。何遍も同じ攻撃を受けても、もう大丈夫だから⋯という余裕の表れだろうか⋯。それだったら⋯とサンファイアは違う方向からの怒りが込み上げる。

「馬鹿にしやがって⋯⋯」

サンファイアは乱れ引っ掻きではない、新たなる新コマンド攻撃を発動させる。連鎖的な乱れ引っ掻きによって、満たされていった戦闘経験値。特殊アビリティの発動条件である指定ゲージが枯渇し、思うような攻撃を出来ず⋯“近接攻撃”のみでやりくりしていたサンファイア兼ルケニア『ラタトクス』。それにも限界が表れ始めていたのだ。


無神経なまでにアークエンジェルらは、サンファイアなんてお構いなしに団体行動の指示が伝達されている。

遠の昔に我慢は通り越していたが、その時は攻撃の幅に余裕が無く、思い通りのファンクションが組み立てられなかった。


だが、今なら出来る。

今の自分になら、それが出来ると思う。


確かな確証がある訳じゃ無いけど⋯。

それにこんな状況に陥ったのも初めてだし⋯人生においてきっと自分は沢山のエネミーを相手にするんだろうな⋯とは思っていた。だけど勝敗の事なんてこれっぽっちも、頭に入れたことが無い。

考える意味が見当たらなかったから。

月に決まってたんだ。

そのビジョンしか無い。だけど⋯これが現実だ。自分のリミットを知らずに動き続けている。


「もう、やめた方がいい。原世界からの送還者よ」

「そう、そなたの行いは健全なものとは言えない」

「我々、大天使アークエンジェルに勝てようはずは無いのだ」

「ふん、そんなのまだわかんないじゃ無いか⋯」

「⋯⋯そなたのその顔面が現在引き出せる最大の力を存分に表しているのだと思うのだが⋯」

サンファイアを包囲するアークエンジェル群体。40名が素粒子を取り込んだ事によって、新たなるフォーム移行フェーズに突入している。攻撃内容はまだ判明していない。しかしここから何もせず、サンファイアを眺める時間がただただ流れていくとは思えない。

サンファイアはアークエンジェルへの新コマンド攻撃を企てる。だがその時、アークエンジェルのフォーメーションが変化。

「目標からの高エネルギー反応を確認」

「ここで仕留めなければ、生命維持に危険が生じるラインへと突入する確率78%」

「過半を占める数字である事は確かだ」

「了解。只今より目標への斉射を開始する。掛け声と共に、残天使39名は素粒子よりの教皇元素を排出。残量素粒子はゼロとする。全てを“攻撃”へ回すんだ。⋯⋯では、攻撃⋯⋯!」


「⋯⋯⋯なんだ、こんなみすぼらしい天使がこの世界にいるなんてな⋯お前だけが相手してるなんて、さぞお前はいい思いをしたんだろうな⋯?」

今朝、コンテスト側から評価シートが届きました。今年の3月に送ったやつが今、来たみたいです。全く覚えていません。

『違反』との事で、対象外でした。


まったく、覚えていません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ