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[#90-悽愴の号哭]

第十章 最終話。

[#90-悽愴の号哭]


伸びる2本のアーチが辿り着く上階の皇室から、教皇の姿が現れる。フラウドレスは初めてこの目で教皇の姿を視認した。

「本当に……子供だな…」

思わず、マインドスペースでは無く、口に出して言ってしまった。これがどれだけの人間に聞こえた声なのかは分からない。声にして出した…と言ってもさほど大きい声では無かったから…大丈夫…と思いたい。

ヘリオローザは反応した。アイコンタクトで返事をする。

教皇が姿を現すと、観衆からは拍手喝采、大声援で覆い尽くされた。教皇もそれに応えようと、手を振ったり、頭を横に振らしたり、ジャンプしたり、跳ねて跳ねて、バルコニー空間を最大限に使おうと左右に移動しまくったりをしている。


本当に、こどもだな…。漢字で表すレベルでもない至極真っ当な弩級どストレートの“こども”。こんなヤツが…帝都ガウフォンどころか戮世界の頂点に君臨する人間だって言うのか…?私は戮世界の社会性を疑った。

“コンクラーベ”などといった制度はあるんだろうか。“教皇”という肩書きなら、最低でも民からの“支持”が無ければそんな座には着けない…と思われる。まぁ原世界の教皇選挙システムが戮世界にも搭載されているのなら…の話だが。

反復横跳びのように左右を駆け巡る。観衆がいるのはこのエリアだけでは無い。教皇は出来る限りの観衆とコミュニケーションを取ろうとしている。その際も子供らしい純粋な行動は変わらず継続。ナリがいいから許されているだけであって、大人の男が教皇と同じ行動を取っていたら警察直行案件である。


「教皇様ァーー!!!!」

「いつもありがとう!!」

「我々民に心ゆくまでの愛護を!!」

「あなた恩恵で、戮世界の調律が保たれています!」

「感謝しております!」


観衆は思い思いの感謝を述べる。それぞれが大声で叫び散らかしている事もあって聞き取れない発言は何個もある。もうそれはとても数え切れない程にだ。教皇の表情を見ると、観衆の言葉をひとつひとつ受け取っているようにも見えた。そうも見えたし、ただ同じ表情を義務的に作業感覚で実行しているだけのようにも思えてくる。

所詮は子供。教皇という偉大な肩書きを冠しても、身体の中に流れてるのは人生経験の少ない単細胞群体で構成されて出来上がった人間に過ぎない。どうして子供がそんな大層な肩書きを持っているのかな…。この都市システムに疑いの目を持ってならない。とてもじゃないが“長居する場所ではない”…と思う。


教皇ソディウス・ド・ゴメインドの“出現”によって、奴隷祭壇贄人儀式の開催地である当該現場は、警戒網が高密度となる。上空の自立型ドローンによる巡視警戒。更には攻撃ヘリまでもが飛んでいる。攻撃ヘリ一機だったものが、遠方からのジェットエンジン音までもが聞こえてきた。

これだけでは済ませない…というサインのようだった。

「うるさいな…剣戟軍の野郎達は」

「ティリウス、うるさい」

「フン…、、、ホントの事じゃんか…」

ティリウスの苦言に注意するゼスポナ。ティリウスだけが口に出して言っていただけで、裏感情だと剣戟軍に対する想いは総意であった。

剣戟軍の奴隷帝国都市ガウフォンへの警戒網は、正直言って意味が無いものなのだ。戮世界テクフルの最高機関である大陸政府。彼等と剣戟軍の戦闘能力を比較してみると…その差は歴然。かといって普通人間によるテロ行為に対してだと剣戟軍レベルの防衛態勢で十分。

ここに大陸政府の中核戦士を招集した…という事は、予期せぬ出来事を想定しての事。

たとえばそう…異界からの招かれざる客…とか。



教皇ソーゴが口を開く。辺りの音は一気に消え失せた。ボリュームをゼロにしたかのようだった。

「みんな、ありがとう!きのうはみんな、このにゅーみつさい、楽しんでくれたかなー?」


【拍手が起こる。まばらでは無い。教皇の発言直後、激しい同意が確認出来た瞬間であった】


「ありがと。みんなやさしいねー。とってもやさしいからー。もうすっごいすっごいうれしい!改めて、みんなにはお礼をいわなきゃいけないかなーって思ってる。ソーゴをえらんでくれてありがとう!」


【拍手。内容は先程のものと同様。ソーゴが右手を上げることで、それは終わりを迎えた】


「やさしいー!みんなやさしいー!ソーゴみんなのこと大好き!!!きょうもいままでのもりあがりにひけをとらないぐらい!せいいっぱいもりあがろうねー!」


観衆はソーゴの発言全てに狂喜乱舞。完全に崇拝の対象として民には認識されているようだ。私にはこんなガキのどこが崇拝に値するのか分からない。だが、ヘリオローザの顔色を見るに、このガキのステータスは只者では無いんだろうな…とは思える。

まぁと言うか、ヘリオローザの視点映像を確認していたし、不必要な子供を食らったシーンを私は確認していたワケで……、ムカつく…今からあの方法で…教皇が起こしたウプサラソルシエールの魔術法で“奴隷”が消されるのか…?それとも違う方法か…。私は何も出来ないのか…どうして動けないんだよ。今、教皇を殺せばそれで済むのに。

ヘリオローザの言葉が忘れられない。

ビーレンビルト、アベルトーネの言葉が忘れられない。

2人の言動に思うところは多くあるが、こんな数時間前にであったばかりの短い関係性では2人を始めとする子供達の深層意識に潜り込めなかった。どうにも出来ないの…?もう…。


「乳蜜祭ふつかめー!と言ったら、みんなは何を思い浮かべるかなー!?」

観衆からの矢継ぎ早に叩き込まれる罵倒にも属する台詞が迸った。

「みんなみんな!あわてすぎ!ソーゴがちょ〜っとからかっただけだよ!ごめんゴメン!そうだよね!やっぱそうだよね!愚モン?だったやーつ!…、、やーつ!」


「やーーーつ!」


『コイツら、マジ狂ってんのか』

幼稚の発言に乗せられ続けている大の大人がみすぼらしい。大人だけじゃないのが、これまた戮世界の教育システムを疑いたくなる。大人がこんな状態だとそりゃあ子供だって真似するよな…。『やーーつ!』…だってよ。全員が全員で、ガキの説教紛いな事して。ヘリオローザの強ツッコミは私も同意見だ。隣に居る彼女に今すぐにでもハグしてやりたい。


「見て!みんな!」

と言い、アーチ上に直立する子供達“奴隷”を指差す教皇ソディウス・ド・ゴメインド。崇拝している対象が指し示す方向には高速的にリアクション。機械的な行動にも見えた。“観衆”、“民衆”…今となってはどっちが一番適した言葉なのか分からないけど、とりあえず凄い人間の頭が一斉に中空へと向いた…という事象がとても気味の悪い光景だった。

「ここにいるのは今回の奴隷たちだよ!みんなどーかな?ソーゴ的にはぁ、けっこういいかんじのひとたちが揃ってるんだぁ!ほら、見て!」

右のアーチを指差す。

「こっちのアーチにはソーゴと同じくらいの年のひとでいっぱいになっててぇ、んでえ〜、こっちの方は…」

左を指す。

「ソーゴとおなじぃーーーー!」

観衆は笑う。教皇のおちゃらけた姿が面白かったようだ。腹を抱えるぐらいに面白かったようだ。涙が溢れて溢れて…もうどうにかなってしまいそうなぐらい面白かったようだ。……………マジでラリってんのか?コイツら。

「今回はねぇ、、、ほら!見てよ!みてみてよ!」

さっきから見てるよ。気持ちわりぃ。クソガキが。ずうぅぅっとお前のナビゲーションに付き合わされてんだよ。

「ソーゴと同じ年だよ!この子!ねぇねぇ!」

教皇が浮遊能力を有す。バルコニーから浮遊能力を有し、アーチの元へと飛んでいく。すると教皇は立ち止まる。

「せっかくだから…」

何を言ったのか聞こえなかった。独り言か…。散々独り言で済ましても良かった言葉を大声で吐き散らしていたのに、ここに来て急な小声は何か勘繰ってしまうな。


「…、、、あれは…、、、」

フラウドレスは目を見開く。大陸政府、観衆、シスターズ&教信者、剣戟軍からは歓声が上がった。教皇は空中に大量の屍を用意した。その屍はダークマターエネルギーを含有しておりとてもいい気分になれる品物とは言えない。屍はこれから通ると思われる教皇に向けて、道を作成した。

屍と屍と屍と屍と屍と屍と屍と屍と屍と…

数え切れない程の屍が、“空中に”に山積みになっていく。空中なので屍を地面から観測することが可能だった。予想通りの汚らしい顔だ。屍らが両方のアーチと並行するよう道を作っていく。ダークマターエネルギー…つまりは黒色のエネルギーだったものが次第に白色を交えた混色道へとなっていった。白色が混じったことによって、弱冠ではあるが“目に映していいもの”には昇華された。


黒以外の色が混じってここまで歴然の差が現れるんだな。

「ンンンンンンンンンンンンンンンンンン」

屍それぞれの呻き声が重なり合うことで、随分もまぁ気色の悪い異形怪物の様を構築してきた。屍は人型のものもあれば、動物性の高い獣の姿を模様したフォームも形作っている。

「あれは?」

「あれは、“ヴィアドロローサ”だな。アインヘリヤルの朔式神族が持ち込んだ生命種の卵の成れ果てだよ」

異端審問執行官2人が話をしている。私は耳をそばだてた。

へぇー、ヴィアドロローサね………。イエス・キリストがアントニア要塞からゴルゴダの丘まで…磔刑に処されるまで“悲哀の道行”。それを“ヴィアドロローサ”と、“あっちの世界”では言っている。これもシェアワールド現象の一部と言う事か…。


生命種の卵の成れ果て。屍が作り上げた道を歩いていく教皇。その教皇の接近に奴隷の心は乱れ始めていく。

そんな錯乱した感情を全く関係無しに教皇は笑いながら接近。観衆から見て左側のアーチ。“舞台”、“ステージ”と称したのでここでは“下手”と称する事にしよう。下手のアーチ。ちょうど真ん中の部分にいる奴隷をターゲットに、教皇が近づく。その際、屍の『ンンンンンンンンンンンンンンンンンン』という呻き声は依然継続されたままだ。動物によって構築された道なので、凸凹感は否めない。屍から聞こえてくる声を楽しんでもいた。教皇が奴隷に最接近。


「ねぇねぇ」

「………」

奴隷の真横にやってきた教皇ソディウス・ド・ゴメインド。年齢差は大してない。10歳。そんな者同士が並ぶ。奴隷には悪いが“格差”というものをかんじた。


「ねぇ、あのさー、今からソーゴにたべられて、生贄としてしょり、されるんだけど…どうおもってる?」

「…なにもおもっていません」

「え?なにもおもってないの?」

奴隷の声も観衆の方まで届いてくる。スピーカーでも設置しているかのように。何故にそう思ったかと言うと、奴隷の女の子の声はさほど大きい声では無かったからだ。小声をスピーカーに通しても、小声というパッケージに変化は現れない。観衆は2人の会話に荒ぶる。“テンションが上がる”と捉えてもらって構わない。

「なにもおもってない…はちと違うんじゃない?だってソーゴが横にいるんだよ?ソーゴがよこにいてなにもおもってない…なんてことあっていいの?」

「いえ、それはちがいます」

「ちがうよね?じゃあなに?なんか言うことがあるんだったら言ってみて?」

「はい、大陸神グランドベリートの生贄になれて僕はとても幸せです」

「しあわせでシアワセでたまらない?」

「はい。幸せで幸せでたまりません」

「よーしっ!ありがとう!君はいい子だ。いい子いい子をしてあげよーう!………てかまぁ、ソーゴとあーたはおなじ年齢みたいだね。だから…ええっと、、、まぁ、、、、ね?そういうさ、深いところまではかんがえないでよ。だから、、、おねがい!ヨイショヨイショ…させて?、

、あ!いい子いい子だった!」

「はい、大丈夫です」

「よし!いい子いいこ」

「それじゃあ…」

教皇がその場から離れ、再びヴィア・ドロローサへと足を踏み入れた。

軽快なステップで持ち場の皇室バルコニーへと戻っていく。

「ルンルンるんるっるるーんるんるっるっるっルーん」

バルコニーへ戻ったルンルン気分な教皇。


─────────────────────

「じゃあ、殺しマース」

─────────────────────


高らかに、そう宣言した教皇。

「始まりますね。カリウス公爵」

「ああ始まるな。今回は誰が一番最初に選ばれるんでしょうな」

異端審問執行官である者が公爵という大層な肩書きを持っているカリウスに近づいている。異端審問執行官の中でもかなりの上級…幹部的立ち位置の人間とみた。


「………………ウ」

教皇は力を溜め込む。だがそれは決して長い時間継続されるものでは無かった。エネルギーを帯びた…その刹那、教皇の腹部と後背から異形の怪物が姿を現す。暴喰の魔女だ。黒色と白色を纏った獣人。獣の姿をしており四つん這いになって這うように行動している。

「ウプサラソルシエール…」

ロウィースが呟く。少々、慄いている。

暴喰の魔女が姿を現し、アーチにいる奴隷達にそれぞれ目を配っていく。品定めをしているようだった。ひとりひとりに目を配っていく時間はそれぞれで、急停止したり素通りレベルの目配りだったり、ジロリ…と睨んだり、奴隷によってその応対は異なっていた。そんな中で、一人の奴隷にターゲット絞り、立ち止まった。その奴隷と言うのが…


「ビーレンビルト……」

私が話し掛けた最初の人物であるビーレンビルトの前に暴喰の魔女は立ち止まった。

「この子にけってーーーーーーーーわーーい!」

歓声が上がる。

歓声が上がった次の瞬間、ビーレンビルトを包み込むように黒白のエネルギー波が優しく彼を撫でる。スローリーなペースでビーレンビルトを包み込んでいたが、そんな時間が長く続く訳が無く…ビーレンビルトはアーチから消失。アーチに消失したかと思えば、今度は中心。アーチとアーチの中心部である場所。私達がいる舞台のほぼ直上に相当する箇所にワープアウト。観衆へのパフォーマンスを見計らっての事なのか…教皇の狙いが分からない。だが、先程のアーチ上でのやり取りよりは、観測がしやすい場所であった。

教皇が笑顔を振りまく。その相手は当然ビーレンビルト。

子供が子供に笑顔を振りまく。

普通、こんな文言は微笑ましい光景が瞬時に想像出来るだろう。だが私が今、視界に映しているのはただの恐怖映像。教皇の笑顔に、ビーレンビルトは無表情で返す。ビーレンビルトは観衆から見ると顔面を確認する事が出来ない。観衆に対しては背中を向けている状態だ。

私達、舞台に立っている人間にしか彼の顔を見ることは出来ない。するとビーレンビルトはほぼ直下にいる私に意識を向けて来た。意識…というか、視線を向けて来たんだ。すぐ正面には暴喰の魔女がいるというのに…彼は私をみてきたのだ。

見てきたんだ…眼球が徐々に下を向きに行っている事が分かった時、私は薄々と“自分を求めているのでは無いか…”と予測を立てていたが、まさか当たるとは夢にも思わなかった。

その顔は…とても、、、これ以上見れるものでは無い。

間違いない…ビーレンビルトは言っている。

──────

『助けて…』

──────


「待って!!!」

ワープアウトした直後から暴喰の魔女“ウプサラソルシエール”には高エネルギー反応を検知した。ここから…生贄を大陸神グランドベリートに捧げるんだ。手段は分からない。だがとにかく得体の知れないイベントが発動する。もう、、あの子を救う手立てが無くなってしまう…私は思い立って『待って』という言葉を叫んだ。よりにもよって教皇以外、誰もが口を閉じている狭間のような時間の時に。

全員の注目が私の方へ向く。

「フラウドレスさん!…………」

ロウィースが私に顔を覗かせ注意する。大陸政府は私に怪訝な表情を浮かべて来た。観衆はと言うと…殺し屋のような顔をしていた。全員が私を不審者と識別した中、教皇が口を開く。

「よくないねー。よくないよくないよくないよくないよくないよくないよくない。どうして?なんで?なんで今、待って…なんていったの??」

「おかしいからよ」


カリウスが異端審問執行官を呼び、フラウドレスへの警告行動を発令。これは言わばフラウドレスに対しては“イエローカード”とも言える。


「うーん、、、、なんか、スッゴイつよきだね?あんまらりソーゴ、そういうけいけんしたことないから、ちょっとふしぎな感じがする!うーーん、あんたさぁ何者?」

「…………ビーレンビルトを離して」

どよめく観衆。大陸政府はフラウドレスを取り抑えようとする。しかし、それは遅い。既にフラウドレスはルケニア“黒薔薇”を地中深くに潜り込まれており、ルケニアの根が異端審問執行官の足を拘束。絡め取った。これは大陸政府中核メンバーにも同等の効果を齎していく。大陸政府が使用出来る天根集合知ノウア・ブルームどの能力を使ってもルケニア黒薔薇の包囲網から抜ける事は出来なかった。

舞台はルケニア黒薔薇の能力によって大混乱。観衆は逃げ惑う人間とその場で当光景を楽しむもので分かれた。避難を図る人間だが、会場は屋外なので収容人数に制限が無い。そんな状況で“人が避難を始める”というのは、押し寄せる人と逃げようとする人間が激突し、更なる大混乱を生むことになってしまった。

「あああああああああああああああああああ!!!」

喧騒するカナン城周辺の様子におかんむり状態となった教皇は怒髪天ボイスをカマシ、場の終息を図った。教皇の狙い通り、喧騒空間は一気に消え失せる。


「すこし、うるさいよ。みんな。はぁ。なんか。じゃま。したよね。じゃま。スッゴイじゃまなことをしたね。きみは。せっかくかわいいのに。ふつうにしてたら。将来はソーゴのよめちゃまにしてあげたってえのに。ええーーー。あーあ。もお。きみがわるいんだからね」

「……!!あぁぁぁぁぁァァァァアアアア…ーー!!!」

突然、フラウドレスを襲う謎の呪力。フラウドレスに痛みが生じると、それはヘリオローザにも訪れる。2人は立っていた場所に留まれないレベルの衝撃的な苦痛に襲われる。脳みそを直接ツンツンされているような感じ。しかもそれは突起物、鋭利な刃物で、等間隔的には触られているようだった。

「あれ。なんでかなぁ。どうしてかなぁ。どうしてかなぁ?なんで薔薇のおねえちゃんにも痛みが生まれてるんだろう。なんでだろうね。、、、、みんなー!この2人!原世界から来たんだってー!」


「え、、、ど言うこと?」

「え、マジで?」

「原世界から?あの二人が?」

「だから大陸政府と一緒にいるのか?」

「いや…だからって一緒の席に座るなんて許されんのか」


「そうだよねー。みんな色々とおもうことがあると思うんだけど…なんでこの2人が、こっちにいるかって言うと…ただの原世界住人じゃないから、なんだよね。“ヘリオローザ”なんだよ。んででぇー、こっちが、ラキュエイヌ」

2人の名前を呼ぶ順番で、双方には正体不明の激痛が襲う。


「…え、、、まじ…、、、ヘリオローザ?」

「あの、、伝説の薔薇の暴悪が?」

「嘘だろ…、、、」

「生きてるうちに見れるとは思わなかった…」

「やっぱり預言書と同様、人間の姿をしているんだな…」

「ラキュエイヌ…?」


「この2人、なんか色んなことに巻き込まれちゃったみたいだけど…何があったの?ちょとちょっとさぁ!みんなに発表してよ!!ねぇねぇ!発表してあげてよ!!」

激痛が止まる。教皇から発言の許可を得たフラウドレスは激痛から解放され口を開く。ヘリオローザも同様だ。激痛から解放された。

「私は…偶然ここに降りてきた…突然だよ。突然、あっちの世界に居たら…」

「おおおおおっとととととっとー!」

「はぁ?」

「嘘をついちゃダメだよ。大人は嘘をつかないはずでしょ?あ、ああフラウドレスはまだまだ“赤ん坊”だと思うんだけどぉ。大人の考えを持てる特別な子供なんでしょ?“赤ん坊さん”?」

このガキ…まさか……私の偽りの姿を見破っているのか…。

「もう一回チャンスあげる!次、ほんとうのこと言わなかったら…この子殺す」

「…!!」

依然継続されるビーレンビルトの空中浮遊。しかしそれは『この子殺す』という発言直後に終わる。空中浮遊能力は停止され、ビーレンビルトが地面に叩き落とされ掛けた刹那、教皇が歩みを進めていた“ヴィア・ドロローサ”が発現された。間一髪でビーレンビルトは地面に落下せずに済んだが、ヴィア・ドロローサに落ちた瞬間に再び同じ高度に戻される。そして眼前は暴喰の魔女。


既に獣人化を遂げている暴喰の魔女から、複数のウプサラシリーズ天使幼生体が出現。ビーレンビルトに迫る。ウプサラシリーズは、弩を装備している。その弩からは『炎』

『氷』『風』『砂』『雷』といった自然現象的攻撃プロトコルが組み込まれており、簡単に超常現象を引き起こす事が可能な兵器を持ち合わせていた。

「いう?いわない?いわなかったら、戮世界テクフルで出会った愛しのこどもとはおサラバになるとおもうんだけどー。どうするー?」

「………」

選択の余地は無かった。この子の未来を守れるのなら…私は私に置かれた状況を話せる。

「………私は…原世界から・やって来た。白鯨だ。メルヴィルモービシュの光輪に取り込まれたんだ」

「それが真実かい?」

今までカタコト…平仮名を用いた喋りだったのがここに来て急激な知能指数の上昇が行われた。子供の姿をした大人…教皇ソディウス・ド・ゴメインドの正体が更に分からなくなっていく。

「ああ、そうさ、真実だ。言っただろ?これが私の…」



「あーーー、ごめんね。ごめんごめん。せっかくウプサラシリーズ天使幼生体出したってぇーのに、活躍ナシだったぁ!やっべぇ!やっちまったよ!!これは…ゴメンなちゃい!許して?おねがい?おねがいお願いおねがいお願いおねがい!!……薔薇のお姉ちゃん」

教皇が目にも止まらぬ高速でビーレンビルトに急速接近。ビーレンビルトと暴喰の魔女及び、ウプサラシリーズ天使幼生体の間にワープアウト。

ビーレンビルトは驚いた。顔のパーツ全てが驚きに満ち満ちた感情を持ち、心に大きな揺れ動きを帯び始める。


教皇はビーレンビルトを殺した。これは『奴隷祭壇贄人儀式』の範疇を超えた行動。ただの教皇の鬱憤を晴らすために行われたものだ。


「薔薇のお姉ちゃん…ごめんね?殺しちゃった…ソーゴがいけないんだ…ごめんね…ごめん、、、ほんとに、、、ごめんなさァーーーい…!!!」

泣いた。泣くか…これでお前が…泣くのか?何故、、泣けるんだ…。きっも。マジでキモイ。年下相手に大人げない…なんてこのガキには一切無い。

「しねよ」

「え?」

「しねよって言ったんだよ」

「しね…?え?ソーゴに、、いってんの?」

「そうだよ。ソーゴくん、君にいったんだよ?」

「えええええ、きょうはイロイロおかしなできごとが起きるねー」

「言ったじゃん…私、真実を話した。なのに…」

「ああ、ごめんね。ほんんんっとにそのつもりだったんだけど…あの…ごめんちゃい!」


「許さない…」

『おい、フラウドレス!』

「許さない…」

「うん?」

「お前を…許さない…」

フラウドレスはルケニア黒薔薇を発動。暴喰の魔女に対して、そして教皇に対して、色彩豊かな花で創造された“戦闘馬”を形成。ただの馬では無い、多種多様な花で創られた戦闘兵器が4体発現された。その戦闘馬は2体に分離。暴喰の魔女&ウプサラシリーズ天使幼生体、教皇。この2組に4体が分かれ、攻撃を開始した。舞台に立つフラウドレスから発現された4体の戦闘馬は下から上に突き上げるように斜め急上昇。


「これで死ね」


突撃強襲を開始した4体の戦闘馬。直撃を回避しようとする暴喰の魔女とウプサラシリーズ天使幼生体だが、教皇は避けようともせず自身の結界を発動させた。

「…!!?」

「あーー、驚いているねー。メッチャ驚いてるー!かわいいいい!!スッゴイ可愛い!もっとその顔みせてみせて!いっぱいみせて!うんうん!!めっちゃ可愛い!ヤバばばばば!!!そんなかわいいかおできるならふつうにしてればいいのに…」

「うるせぇ!」

衝撃波がカナン城周辺に轟く。観衆の前に配置されていた結界にその衝撃波は中和され、なんとか観衆…そしてカナン城周辺以降の都市全域に被害がおよぶことは無かった。結界が張られていない場所への衝撃波は、全てが大陸政府と異端審問執行官によって掻き消される。

フラウドレスは必死になって4体の突撃エネルギーに荷重を加える。すると…

「…ヘリオローザ…?」

「あんたが死んだら、アタシも死ぬ!だから……ハァアアアア!!」

ヘリオローザの天根集合知ノウア・ブルーム、“加重修正”が発動。


フラウドレスとヘリオローザの攻撃を強制中断させようと、大陸政府が2人に攻撃を仕掛ける。だがそれは、ヘリオローザのルケニア“バロン・デ・バタイユ”と天根集合知ノウア・ブルーム“集中重火攻撃滅殺”によって全てがシャットアウト。天根集合知が外部からの攻撃を防御。爆煙が発生したところで、ルケニアが大陸政府、異端審問執行官を殺戮した。部位欠損を施し、人体のバラバラを主軸とした殺戮行動を展開。荊棘を武器に、痛々しい攻撃が確認出来た。


「ヘリオローザ…」

殺戮行動を展開したヘリオローザのルケニアに目がいくのは当然だった。

「アタシより前!!前!さっさとこの馬をソーゴくんにぶち込め!!」

「……うん。、、、、、ウワァァァァァァァアああああぁァああ!!!!」

フラウドレスの“花弁の戦闘馬”『シャルルマルラン』4体がターゲット2組に直撃したかに見えた……空中で爆発が起こる。煙が生まれた。

─────────

「………………」

─────────

煙の中から、蛇腹が飛び出してきた。それは突然の出来事…。何か攻撃行動があると必ず、“秒前の凶兆”が訪れる。これは生物から現像される不可避の事象だ。なのだが、蛇腹発動の凶兆は一切確認されなかった。しかもその蛇腹は迎撃行動を開始。フラウドレスが顕現させたルケニアの分身体である“花弁の戦闘馬”『シャルルマルラン』が負傷。空中での直撃は負荷計量など全く無かった。だが蛇腹による超速正面突破は比較にもならない異常な攻撃力を誇る殺傷兵器だったのだ。

ルケニア黒薔薇は、分身体が受けた大殺傷攻撃によって一時戦闘行動不能な状態に陥る。それに伴い顕現者であるフラウドレスにも同等の負荷が掛かってしまう。

「ううううううううううう…うううう…、、ぅぅううう」

「フラウドレスねぇ!ダメだって!ウソでしょ…フラウドレス…」

ヘリオローザの声掛けに一切の反応を示さない。


「薔薇のお姉ちゃーん!あーあ、」

「お前……フラウドレスに何をした!?」

「え、、、てっきりほめられるかとおもってたよー。シキサイシアの邪魔をするからさぁそのラキュエイヌが。だから排除したんだよ。お姉ちゃんはほめてくれるかと思ったけど、、、めっちゃ怒ってんね」

「…おまえ、、、」

震える怒り。満ち満ちた憤怒。


アタシは馬鹿だった。生贄に肯定的なのは本当。だが大事な存在を忘れていたんだ。自分では忘れてない…そう思っていたけど、実際はこの有様…。ラキュエイヌが死ぬとアタシも死ぬ。だけどそんな幼稚な事でアタシは深く考え込んでいるんじゃない。アタシは…ラキュエイヌの血統を途絶させるに値する行為を起こしてしまったのだ。それが何よりもの後悔。最悪。呪いたくなる。自分を呪いたくなる。だけど一番悪いのは…この……甘ったれた舌っ足らずな年齢不相応の男。教皇ソディウス・ド・ゴメインド。

一発締めてやらなきゃ、アタシの憤怒は収まりそうにない。

「おこ、、、、ってる?」

「当たり前でしょ」

「え、でもでも!この人が…シキサイシアの邪魔をしたから…」

「アタシがとち狂ってたんだよ。フラウドレスは合ってる。超越者には色々と思うことがあるけど、フラウドレスを傷つける行為とまた話が別になる。アタシはあんたを許さない」

「え、、、なんか…意見変えすぎじゃない?」

「意見は変えてない。アタシは超越者を許すつもりは無い。ただ、フラウドレスに危害を加えるのは別だっつってんだよクソガキ」

「クソガキ…って…ソーゴのこといってんの………ひどい、、ひどい、、酷いよ……ひどいよ…ひどいよォおおおおおおおおおおおおおおおおおあおおおおおおお!!!!」

紛糾する教皇ソディウス・ド・ゴメインド。現場には強風が吹き荒れる。これには結界の耐久制度的に不安定化は加速していき、亀裂が生じ始めてしまう。これを知った観衆が起こす行動、もはや語るまでも無い…。人口密度の高いカナン城周辺で避難回避の動きが始まる。全員がカナン城とは真逆の方向を進もうとするが、進行方向に中々進めない事象が発生してしまう。


やがて教皇の起こすハリケーンが結界を破壊。ハリケーンの影響がカナン城周辺の建造物と民間人達に直撃しかけた次の瞬間。

観衆と舞台の間にあった結界とは異なった物質で構成された結界が発生。更にそれは部分的な能力を持っていた。つまり、先の結界は一枚の超巨大防壁だった。今、言及している“異なった結界”というのは、その一枚の結界のサイズはとても小さい。正方形、長方形を基本的なフォルムにしており、結界が超多数。50、70、90、100⋯数えるのに相応の時間を要する程の数量が発生。今回新たに発生した“超多数結界”は観衆と建造物を中心に守護。被害は最小限に抑えられる。

何の兆しも無く上空に発生した超多数結界。これは大陸政府でもシスターズ&教信者でも剣戟軍の新兵器でも無い。もちろん、異端審問執行官でも無い。


大陸政府が唖然とする中、ハリケーンの衝撃波エネルギーに減少傾向が起き始めた。その刹那、舞台上に現れる4人の人影。特に煙幕が発生している訳でもない。

地面に映される影の中から姿を現した4人。ヘリオローザは人影の時点で判断出来た。

「フン、、、フラウドレスを起こさなきゃな」

倒れ伏せるフラウドレスに顔を向けるヘリオローザ。

「早く起きろ。我がカラダ、ラキュエイヌ。あんたの事が大好きで大好きでたまらない男達が来たよ」


──────────────────────┨

「ヘリオローザ、お待たせ」

サンファイア・ベルロータ


「お前の顔、そんなんだったんだな。もっとブッッッッサイクだと思ってたわ」

アスタリス・アッシュナイト


「あなたが⋯ヘリオローザ⋯⋯」

ミュラエ・セラヌーン


「感謝しなさいよ?この結界は、わたしとお姉ちゃんのおかげなんだからね」

ウェルニ・セラヌーン

───────────────────────┨

セブンス×アトリビュート連合が、乳蜜祭に殴り込み。倒れるフラウドレスを目にしたアスタリス、サンファイアは当然⋯。

セラヌーン姉妹がここでどんな動きを見せるのか⋯。


教皇ソディウス・ド・ゴメインド×大陸政府×シスターズ&教信者×剣戟軍×異端審問執行官

vs

セブンス×アトリビュート


よろしくお願いします。


虧沙吏歓楼

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