[#86-根を辿れば血族]
楽しく書けたシーンと、すっごい楽しく書けたシーン。
[#86-根を辿れば血族]
12時40分
奴隷帝国都市ガウフォン──。
サンファイアは、ミュラエ、ウェルニのセラヌーン姉妹と共に、帝都ガウフォンにやってきた。目的はフラウドレスとアスタリスとの再会ではあるのだが、セラヌーン姉妹から聞くに、この帝都ガウフォンが今いる大陸の目印だという。ランドマーク的な存在である都市なら、二人もその情報を何処かから聞いて、ここにやって来るかもしれない。
可能性はある。僕は二人にナビゲーションされ、この都市を訪れた。しかし、二人との会話をしていくにつれ、フラウドレスの家系である“ラキュエイヌ”の逸話を聞くこととなった。
そんな話が展開されていく中で、僕達3人は目的地として指定した“奴隷帝国都市ガウフォン”へと辿り着く。
「やばいね⋯⋯ここ⋯」
「そうだね⋯⋯凄い人だね⋯ウェルニ、サンファイア、絶対に離れないでよ」
「分かってるよ!お姉ちゃん。お姉ちゃんの方こそ、こんな時に限って方向音痴なんてやめてよね?」
「ウェルニ!⋯⋯」
あああ⋯ウェルニ⋯やめてよ⋯サンファイアの目の前で、恥ずかしいこと言わないで⋯私がいつ方向音痴なんてしていたのよ。私、そんなキャラじゃないし⋯。⋯⋯て⋯、、
「⋯⋯ミュラエ⋯方向音痴なの?」
「⋯⋯え、、、違うよ!違う違う!⋯あははは、ウェルニったらぁ!もうそんな嘘ついちゃってぇん」
ミュラエはウェルニをはたく。表面上はかなりソフト目に加えられた一撃だったが、実際の所はそんな生易しいものではなかった。
「!!⋯、、、、イッッッッッダアアアアアイ!!」
ウェルニが絶叫する。ガウフォンへやってきたのは民間人が使用するゲート。外部から連行して来た奴隷を審査する監査ゲートとは、かなり異なる仕様で、一切の審問が無かった。サンファイア、セラヌーン姉妹は帝都ガウフォンの住民では無い。だが、容易く侵入する事が出来た。
これも本日行われる乳蜜祭のおかげなのかもしれない⋯。
⋯⋯⋯いや、普通は逆じゃないか⋯?乳蜜祭が帝都ガウフォン全体を巻き込んだお祭りイベントなら警備員を民間人御用達ゲートにも配置するはず。帝都ガウフォンとしては、アトリビュートの侵入等、緊急事態を考慮していない⋯とも考えられる事案だ。
「⋯お姉ちゃん!!」
「⋯あ、、、」
ミュラエは自身の考え事によって、ウェルニの苦悶の叫びが一切聞こえていなかった。
「お姉ちゃん痛すぎ!!」
「え、、そんなに痛かった?全然音出てなかったけど⋯」
サンファイアには分からない。ミュラエは一切の音と激しいモーションを行わずに、超打攻撃を実行。ミュラエはとぼけた表情で、ウェルニに迫る。
「えぇ〜?どうちたのかなぁ〜。ウェルニちゃんはこんな事に痛がっちゃうのかなぁ〜。可愛いねぇ可愛いねぇー。ポスン⋯ってやっただけなんだけどなぁ〜。可愛いねぇ〜そんなんで痛がっちゃうんだから〜」
馬鹿にするような口調で、ウェルニを嘲笑うミュラエ。
「ク、ク、、クククククククク⋯ムカつくくくくく。ムカムムカムカムカムカ⋯」
「あの⋯お二人さん⋯」
「なに!?」「なに!?」
「あの⋯ほら⋯⋯」
いつの間にか、街の中心地にいた3人。そんな3人を見つめる帝都ガウフォンの人達。少々、目立ちすぎてしまったようだ。
「あ⋯⋯ごめんなさーい⋯⋯」
ミュラエが謝る。ウェルニにその様子は無い。サンファイアはミュラエに行動を合わせた。
「なに見てんだよ!オマエら!」
「バッカ!あーごめんなさいねー、ごめんなさいねー、ごめんなさいねー⋯」
足早に3人はその場を後にする。颯爽と走り去り、気づけばその場から姿を消していた。決してアトリビュート、セブンスの能力を使用した訳ではない。ただ単に、ミュラエの二人を引く力が強過ぎただけ。ウェルニは意地でもここから離れず、見世物のような扱いをした帝都ガウフォンの民との衝突を画策していた。そんな馬鹿な真似はさせまい⋯とミュラエはウェルニを引っ張った。異常な強さで引っ張った。ついでにサンファイアも引っ張る。これはミュラエの無意識なものだった。
◈
しばらくミュラエの引っ張りが続き、帝都ガウフォンではあるものの、随分と目的とは違う場所にやって来てしまった。一旦、ウェルニの感情を引っ張って抑えなくては⋯とミュラエが思ったからだ。
作戦展開⋯つまりは乳蜜祭が開催されるのは『カナン城』とその庭園広場。なるべく近しい場所で、更には人目に晒されない場所。ミュラエは二人を引っ張りながら即座に思考を巡らせ、自身が思い描いていた場所を発見した。複数の思考回路を同時間で走らせ、その複数回路にて算出された回答を一つに統合。それによって様々な多方面に寄り添った回答が、究極的なものとして完成する。
それが、3人のやってきた“人目の無いところ”だ。
「お姉ちゃんもういいでしょ!」
「⋯ウェルニ、あんた馬鹿なの?ここが何処か分かっておいて、どうしてあんな目立つ行動ができるのよ!」
「ヘン!どうせ今日私達はお尋ね者になるんだ。だったら時間なんて気にせずにパァーと殺っちゃえばいいんだよ。パァーと」
「馬鹿。無辜な民間人を巻き添えにはしないのが約束のはずよ!」
「そんなの⋯レピドゥスが許さないもんねー」
ウェルニは胸に手を当て、レピドゥスに語り掛ける。表面上、レピドゥスが呼応するようなモーションは感じられなかったが、ウェルニには感じられるものがあるのだろう。ウェルニは、ウンウン⋯と頷き、レピドゥスの声を感じていた。
「レピドゥスにも言っといて。絶対にまだ、動かないで⋯って。私だって、今回の乳蜜祭を吹き飛ばしてやりたいんだ⋯。その為にも、今は身体を温存しておかなきゃ⋯」
「お姉ちゃん何言ってんのよ。ここは敵のアジトみたいなもんでしょ?そんなところで小休止する時間なんてあると思ってる?それこそ本当に馬鹿の極みよ!」
二人が言い合っている。この間に自分が入れば、解決する事なのだろうか⋯。帝都ガウフォンに来るまで、ある程度の作戦概要は教えてもらっていた。先に帝都ガウフォンへ訪れているはずの、トシレイド、アッパーディスが乳蜜祭の状況調査と剣戟軍及び七唇律聖教の攻撃部隊の兵数。そして、乳蜜祭の要とも言える、奴隷候補者の総数。
二人が先遣隊として調査を実行しているようだ。更には帝都ガウフォンへ、他のアトリビュートも集結する予定であり、かなりの戦闘が予見される⋯。
「2人ともさ⋯」
僕は2人の口喧嘩に介入した。異物と思われても構わない。というか、2人の言い合いによってこの場所が人目に晒される場所になる危険性がある⋯と判断したまでだ。
「喧嘩はやめようよ。ほら、せっかくこんな人気のない所に来れたんだから」
「⋯う、うん⋯そうね⋯サンファイアの言う通りだわ」
サンファイアの願いを直ぐに受け入れたミュラエ。サンファイアが言うなら⋯と、ミュラエは自身の行動を戒める。
「ごめんね、サンファイア。私達⋯ちょっとバカしてた⋯」
ウェルニも受け入れた。案外、直ぐにサンファイアの申し入れを飲み込んでくれたので、サンファイアも安堵している。
「ううん、大丈夫だよ。それで⋯ミュラエ。他のアトリビュートは何処に?」
「うん、それなんだけど⋯」
ミュラエが神妙な顔持ちでこちらを見つめる。その後、ウェルニと顔を合わせ、再びサンファイアに顔を向けて来た。二人の可愛らしい見た目からは聞きたくも無いないような、マイナス思考を感じさせられた。
「アトリビュート⋯いないよね⋯お姉ちゃん⋯」
「うん⋯それに⋯⋯トシレイドとアッパーディスの反応も未だに確認できない⋯」
それは僕としても同じだ。フラウドレス、それにアスタリスの反応も確認出来ない。二人に関しては、『ここにはいない』という考えで収まりが着く。ほんとうは嫌だけど⋯。
ただ、アトリビュート側のミュラエ、ウェルニに限ってはそうもいかない。帝都ガウフォンに集結している⋯と、断定出来た上でのこの結果だ。他のアトリビュートだったら、『まだ着いていないだけ』で済まされる部分はある。
しかし、先遣隊として帝都ガウフォンへ向かっていたトシレイドとアッパーディスの反応が無い⋯。
当状況に不安が募るセラヌーン姉妹。
「お姉ちゃん、、嫌な予感がする⋯」
「うん、ふざけていられるのはここまでのようね。二人とも、私についてきて」
「えぇ!?私がリーダー!私が先に行くの!」
「あんたこっからの道、知らないでしょ?」
「ぶぅーーーー、ミュラエとアッパーとトシレイドが三人で勝手に進めてたから知らないの!」
「またそれだよ⋯あなた⋯死んだようにいつも先に寝ちゃうから知らないだけ」
「起こしてよ⋯ねぇ!そん時に起こしてくれてたら良かったんじゃないんですかぁ?えぇ?言ってごらんなさいよ!こっからお姉ちゃんが勝てる見込みあるわけぇ?えぇ??ええ???」
移動中もこの言い合いが続いた。まぁ、正直に言い合える程、仲がいい⋯という事にしておこう。にしても、こんな大きい声量で大丈夫なんだろうか。なんだか心配になってくる⋯。
⋯⋯一瞬、二人の強烈な口喧嘩で忘れそうになっていたけど、フラウドレスとアスタリスの反応が検知出来ないのは、帝都ガウフォンの広大さを意味していると考えた。きっと何らかの異常でシグナル発信に障害が発生しているんだ。⋯⋯なぁんて、そんな無限にも考えられてしまう事を、巡らせてしまっている。少しでも自分に希望を持っておきたいからだ。
◈
「ミュラエ、何処に行くんだ?」
「乳蜜祭が開催されるカナン城の近くよ。前もって場所は把握していたの。“この子が寝てるウチにね”」
「うっサいわねぇ」
「それにしても⋯人が多いな」
「サンファイア、しっかりと目に焼き付けておいてね?」
「どうしてだ?ウェルニ」
「サンファイアはこの世界にまだ慣れてないでしょ?もしかしたら魔障病に掛かっちゃうかもしれないからよ」
「違う次元への介入によって元いた次元と異なる重力の影響を受けて、心身が加圧的なダメージに見舞われる事象。原世界からやってきたサンファイアにとって避けるべき病と言えるわ」
ミュラエの説明で、魔障病の概要をある程度は把握出来た。
「わかった。だけど、、、見てるだけ⋯でいいのか?」
「うーん、ほんとはコミュニケーション取るのが一番最適なんだけどね。色んな人種とよ。だけど、今はそんなことしてる暇ないから、なるべく視覚面で完結させた方がいいわね。あとは⋯私達のコミュニケーション!」
ウェルニが急に近付いてきた。密着が激しくて、ウェルニの胴体⋯いや、それよりももっと柔らかい弾力性のある身体の一部が接触して来た。僕は思わずウェルニを注意する。
「ウェルニ!ちょっと⋯やめてよ⋯近いって⋯」
「えぇ〜、なにぃ?サンファイアぁ。こういうの恥ずかしくなっちゃうタイプなのん?」
ウェルニの誘惑を見たミュラエは、ウェルニの顔面にビンタを叩き込む。ウェルニは一瞬にして気を失い、倒れ伏せる。トポン⋯と身体が地面に落ちたとは思えない擬音が聞こえて来た。
─────────
「サンファイア、いこ?」
─────────
「あ、ああ⋯」
ミュラエはさきほどのウェルニよりも、距離をわきまえた上で接近を講じた。サンファイアの腕に自身の腕を入れ、巻き込むように近づいた。
なんだかウェルニとやっている事が同じじゃないか⋯とサンファイアは思う。ミュラエの顔を見ると、弾けるような可愛い笑顔が出迎えた。その笑顔にサンファイアは、失神寸前の攻撃を受けたかのようにに面食らう。
少しでも油断していたら完全にノックダウンしていた攻撃力だった。
「サンファイア、、、大丈夫?」
「あ、うん⋯大丈夫だけど⋯ウェルニは⋯どうするの?」
「あーいいのいいの。たぶんもーそろ来るから」
「え、、」
ミュラエのその言葉通り、ウェルニは後方からとてつもないスピードで近づいてくる。
「あらー期日通り。偉いねー」
「何が期日通りじゃ!お姉ちゃんだってサンファイアに近づいてるじゃない!近づいてるどころか⋯なんなのそれ!なに腕グルグル巻きにしてんのよ!!タコみたいじゃん!タコ!おいタコ!メスタコ!エロメスタコ!」
「エロってなんだゴラァ⋯あぁん?」
ミュラエは更にサンファイアとの距離を縮める。そんなミュラエの姿を見て、サンファイアの左側にウェルニが身を置く。
「もうズルい!お姉ちゃんばっかりぃ!」
「ウェルニはさっきっからずーーーー!っと密着してたじゃない!」
「いいじゃん別に。サンファイアも満更でも無かったし!、、、ね?」
「えぇ⋯う⋯いや⋯あ、ああ、あの、、、乳蜜祭は⋯」
「サンファイア!」
「はい⋯」
右側に位置しているミュラエが、サンファイアの名前を言う。ただ名前を言っているのでは無い。その場だけに聞こえるメガトン級の“声の圧”⋯。ボリュームが大きいとか、叫んでいるとか、そんな常人が吐き出す言葉とは全く異なる現象だ。風が靡く事も無ければ、空気の変動が発生するという異常でも無い。説明のつけられない⋯まさに“アトリビュート”たる所以の声の力が、『サンファイア』という名前に乗せられた。
「私とウェルニ、どっちがいいの?」
「え、、、、、」
「どっちどっち!?どっちがイイのー!?」
右側のミュラエ。左側のウェルニ。
それぞれが両腕を取り、自身の側に寄せようとしている。傍観者も増えてきた。一人の男を二人の美少女が取り合っているような構図は、客観的に見たらただのハーレム。
「ちょっと⋯人、増えてきてるから転生やめようよ⋯」
人気の少ない場所を求めて最初はここを訪れ、乳蜜祭が開催されるカナン城の近くを目的地として指定していた筈なのに⋯何故か、セラヌーン姉妹に誘惑されるという謎の現象が発生してしまった⋯。
サンファイアは、戸惑う。戸惑いまくる。こんなの今までの人生で経験した事も無い出来事なので、どうやって対処したらいいのか分からない。
『姉さん⋯こんな時、、、どうすればいいの⋯⋯』
「サンファイアー」
「サンファイアー」
「サンファイアー」
「サンファイアぁ?」
「サンファイアー。こっち向いてよー」
セラヌーン姉妹が交互に僕の名前を言う。名前では飽き足らず、身体に接触するパターンも追加されて来た。
────────────
「間もなく、14時を迎えます。乳蜜祭奴隷祭壇贄人式は1時間後の15時に開始の予定です」
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帝都ガウフォンに備わるスピーカーから、アナウンスが流れる。帝都ガウフォンに来た時、スピーカーからは多種多様な音楽が流れていた。祭りが始まる事を都市全体で賑わう姿勢な所が窺えたオプション。そんなスピーカーからのアナウンスだったので、大音量で聞こえて来た。これを無視するなど不可能だろう。
二人の密着はアナウンスによって停止。
「⋯⋯んはぁ!ごめん!サンファイア!ごめんなさい⋯わわわわ私ってば⋯なにやってんのよ⋯」
ミュラエは正気を取り戻したようだ。しかし、その言葉だと、自我を失っていた⋯と、取れるのだが⋯体調は大丈夫なのだろうか。
「ミュラエ⋯大丈夫か?」
「う、うん⋯大丈夫⋯です⋯」
「お姉ちゃァ〜ん」
「な、ナニヨ、、、、」
「急に恥ずかしがっちゃってー。ほら、見てみなよ」
「え⋯?、、、え、、、、」
ミュラエは気づいていなかった。いつの間にやらサンファイア、セラヌーン姉妹の密着を見ている人間が数多く存在している事を。
──────────────
「男が一人で女が二人⋯アイツいいなぁ⋯あんな可愛い女と一緒にいれてよ〜」
「ちょっとイチャイチャしすぎじゃない?」
「ああ、全くもって同意見だ」
「彼女が二人ねぇ⋯まぁ最近の世相にも合ってるからいいんじゃないのー」
「公共の場っていうのは分かっておいた方がいいな」
「男が案外その気なんじゃねえの?」
「オープンな方が、興奮するっていうパターン?」
「あれだとおっぱいめっちゃ当たってんじゃん。近すぎだろ⋯」
「なにあれ、、見せびらかし?」
「変態じゃん。何あの三人」
「もしかして、なんかの撮影?」
「あれワンチャン、AVの撮影じゃねぇーの?」
──────────────
次々と向けられる不名誉な言葉の数々。
ミュラエは更なる地獄とも言うべき“恥ずかし”を受ける。
「恥ずかしい⋯⋯マジ⋯こんなに⋯人、集まってたの⋯」
僕はミュラエの発言に唖然とした。
『え⋯⋯やっぱり⋯こんなに人が集まって、僕らに注目していたこと、気づいて無かったんだ⋯。いや、ある意味凄いけど⋯結構それって怖いな⋯。そんなに僕を求めていたの⋯?周りの人間なんてお構い無し状態だったんだ⋯。凄い複雑だな⋯嬉しい反面、、、どうやって応えていけばいいのか分からないから⋯ああ、こんな時、姉さんがいてくれたら⋯全部答えてくれるんだろうなぁ⋯⋯姉さんに会いたい⋯姉さんに会いたいよ⋯⋯』
人集りは未だに出来たままだ。僕達がこの場所から退かない限り、人集りが無くなる事は無さそうなので、なるべく早くここから立ち去りたいと思っている。
「ミュラエ、行こう?」
「あ、、、あ、、、あ、、、、あ、、」
「お姉ちゃん!泡吹いてんじゃん!」
まさか⋯そこまでのダメージがあったとは思ってもいなかった⋯。
ミュラエは上の空を向き、ブツブツと何かを発している。それがいったい何を話しているのか、僕には分からない。肉親である妹・ウェルニだったら分かるのではないか⋯と、ウェルニの方に注目してみたが⋯そうでも無いみたいだ。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん、お姉ちゃん⋯」
優しくポンポンと背中を叩き、喪失した自我を救済しようと努力している。先程まで口喧嘩、それもかなり激しみのやつを行っていたとは思えない。まさに“姉妹ならでは”と言えるような光景だ。
だが、そんな妹の努力も虚しく、一切姉・ミュラエから生気が取り戻されるシークエンスを感じれない。
「サンファイア⋯けっこう⋯ヤバいかも⋯」
「え、、、マジ⋯?ヤバいの⋯、、?」
「うん⋯⋯お姉ちゃん⋯かなーーーりの、人見知りだから」
「あ、そう、、なんだ⋯」
にしては僕とはいっぱい積極的に話してくれていたけど⋯。ミュラエは頑張ってくれてたんだな。⋯普通に⋯⋯嬉しい。嬉しいよ。
「ミュラエ。ミュラエ。ミュラエー?」
サンファイアが3回、名前を吹き込む。同じように継続させていても無駄なように思えて来た。ここは変化をつけていかなければいけない⋯と思ったその矢先。ウェルニがサンファイアの思考回路を読み取ったかのように同じ意見を述べる。
「サンファイア、もっと『ミュラエ』って言ってみてくれない?」
「もっと?」
「そう!もっと!それにプラスアルファで、色々な言い方で言ってみてよ!⋯例えば、耳許で名前を囁いてみたり⋯」
「そ!そんなの不必要だ!⋯⋯もう⋯ウェルニはどうしてこんな緊急事態の時もそんな素っ頓狂な事を言えるんだよ⋯」
「素っ頓狂じゃないよ。私はいつも本気だよ?ちょこっとだけ“おふざけパート”が入ってるだけで、基本私はいっつも“マジモード”だから」
「おふざけパートだったり、マジモードだったり⋯ミュラエはどうやって今まで君を相手してきたんだか⋯」
「そんな悩みの対象である女の姉。簡単に言うと、私の姉が、サンファイアにどんな想いを馳せているかわかってる?」
「え、、、どういう意味だ?」
本当に分からなかった。ウェルニは急に顔の色を変えて、彼女の言う“マジモード”が本格的に目覚めたのだ⋯と思えた。彼女曰く、ずっとマジモードらしいが⋯。
「はぁ⋯、、やっぱりね⋯。サンファイアは気づいてないんじゃないかぁと思ってたよ」
「もったいぶって無いで教えてくれよ」
───────────────
「ふふーん。お姉ちゃん、サンファイアのこと好きなんだよ」
───────────────
「え、、いや⋯まさか⋯」
「私がサンファイアに密着した時、激ギレしてたでしょ?めっちゃくちゃに嫉妬してたんだよ?そして、今のこの状態。これはただの人見知りが理由で沈黙している訳じゃない。あんな惚気けた姿を好意を寄せる男に見られたのが耐えられなかったのよ。まぁ言っちゃあ、“軽い女”と思われた⋯って思ってるのかもね」
「ミュラエが⋯僕のことを⋯?」
「サンファイアは全然気づいて無かった?」
「うん⋯⋯まさか⋯ミュラエがそんな風に僕を思っていたとは⋯微塵も感じて無かったよ⋯⋯」
「私にもそんな話してないよ」
「そうだよね。だって⋯君達姉妹が二人っきりになった時なんて⋯僕が家にお邪魔して以降無いもんね⋯」
「まぁ、そんなんしなくても、脳内で交信出来るけどね」
なるほど⋯姉さんと僕達が交信する時のような機能がアトリビュートにも備わっているのか⋯。
「そんなちょー便利機能があるにも関わらず、私にすら好意を教えて来なかった⋯。これは『マジ』よ。相当⋯マジよ」
「マジ⋯⋯はぁ⋯そうか⋯」
「嫌なの?サンファイア」
「いや⋯そんな事は無いよ⋯」
一人、女の子が倒れている中で、ウェルニとサンファイアの会話は続く。まさか見知らぬ大都市の真ん中で恋バナが始まるとは思わなかった⋯。しかもそんな恋バナの相手とも言うべきが、“自分”なのだ。上手く状況を飲み込めないし、ウェルニのテンションにもついていけない。自身の姉が恋心を抱いている⋯と知ったらこんなにも歓喜の表情を浮かべるんだな。
「そんな事無いんだったら、応えてあげてよね。あ、でも、別に気にしなくても大丈夫だから。正直に答えてあげた方がお姉ちゃんもきっと諦めがつくと思うしね」
「まるで、ミュラエが次目覚めた瞬間、告白が来る⋯と分かっているような言い草だな」
「ううん、多分無いよ。お姉ちゃんからの告白」
「⋯あ、まぁ⋯」
なんか僕⋯ちょっと上から目線じゃ無かった?それにミュラエに失礼なことを平気で言ってしまったような気がする。
「お姉ちゃん、恋愛系で勇気が出ないタイプだから⋯」
「そう、、なんだ⋯」
少し安心した自分がいる。それは⋯ミュラエの想いに応える事が出来ないからだ。ミュラエからの告白⋯多分、本当にそんな状況が来たら、嬉しくて思わず泣き出してしまいそうになるだろう。だけど、僕は⋯そんな器じゃない。
ミュラエに合うような男では無い。だから告白をされたら、本当は拒否を選択するつもりだ。
ミュラエに『否定』の文言を告げる勇気が僕には無い⋯。ウェルニは『正直に言って大丈夫だから』と補足していたが、僕にはそれが信じられなかった。
「取り敢えずさ、サンファイア、お姉ちゃん起こしてみてよ。ほら、さっき言ったように」
「⋯⋯だいじょうぶ、、なの、、?そんな事して⋯⋯」
「大丈夫だから!絶対に大丈夫だから!⋯⋯言葉決めよっか!えっとねー⋯なんだろうなぁ⋯好きな人に言われて嬉しい言葉⋯⋯あるっちゃあるんだけど⋯それは、この状況と上手く合ってないしなぁ⋯⋯うーん⋯」
随分と悩んでいる。別に『ミュラエ、起きて!』とかでいいんじゃないか?⋯いやというか、僕がまっさきにその行動に移っていたらいいのだ。しかし、そのような行動を実行に移せないのが、現在の僕の悪いところ。
いいじゃないか。
妹が『大丈夫』って言ってんだから。
それにしても、ウェルニはかなり迷っているな⋯。そこまで迷う必要性は感じられないんだけど⋯。ベタに⋯(こんな状況下で“ベタに”なんておかしいと思うが⋯)、『起きて!』とかで収める程度でいいんじゃないか⋯。
だいたいウェルニが悩んでいる事は予想がつく。きっとミュラエが飛び跳ねるぐらいの言葉を考え抜こうとしているんだろう。
⋯⋯⋯⋯⋯なんか、自分で自分の事を“上げている”思考に至ってしまったのがとても恥ずかしい⋯。これが表面に、出ていない事を祈るばかりだ⋯⋯⋯⋯⋯。
「え、、、、サンファイアも、、、?どした???」
「ガッ!────」
「え??」
「あ、、、、、あの⋯⋯⋯」
うわ⋯ヤバい⋯やっぱり⋯⋯出てた?やっぱり⋯出てたよね⋯なんか異常に額から暑い雫を感じたんだ⋯。それが髪の根元から生まれ、滴り落ちようとしていた事が容易に感じれた⋯。あまりにも分かりやすすぎる焦りの表現となってしまっていたんだ。
「どしたの??サンファイア」
ウェルニは本当に純粋だな。そんな目をパチパチさせてこちらを覗かないでくれ。今僕は⋯かなりのナルシシストになっていたんだ⋯。仮にミュラエが本当に自分へ好意を寄せていたら、こんな男、軽蔑するに違いない⋯。
─────────
「え、、、サンファイア⋯そんな事思ってたの?」
「うん、私ね、絶対そうだと思うよ。お姉ちゃんがサンファイアの事好きだからって、調子乗ったんだよ!」
「違うって!別にそんなんじゃ無いよ!僕はただ⋯ミュラエが目覚めてほしいから⋯」
「サイテー⋯サンファイアって⋯案外、男のキモイ部分結集させた人間だったんだね。なんか残念だよ、、、」
「だから違うって!!僕は本当にそんな男じゃないって!!」
「お姉ちゃんは確かにあんたのこと好きだよ?ただ⋯踏み込み過ぎるのは違うよねーーーー。せっかく好きだったのに⋯ゲンメツだよねーーー」
「違うよ!違うよ!違うんだって!!!」
「サンファイアって、鏡見て溺れる系の男なのね」
「ちがうんだよーーーー!!!!!!!」
─────────
「違うってぇ!!!!」
「ええ!?」「ウエっ!!?」
「ミュラエ!ウェルニ!違うんだって!僕は、ミュラエが目覚めてほしいがために!!⋯⋯⋯⋯⋯え」
「うん?⋯⋯サンファイア⋯、、、、大丈夫?」
「え、、、ミュラエ⋯⋯君の方こそ⋯」
「うん⋯私は大丈夫。この通り。ごめんね、ちょっと迷惑掛けちゃった⋯」
「お姉ちゃんは直ぐに目覚ましたよ?そんな事よりサンファイアの方が、気絶したみたいに急な眠りに掛かってたよー?大丈夫なん?」
「うん⋯⋯」
ああ、、なんだ⋯夢かよ⋯。ビックリした⋯⋯。自分らしくない⋯この姉妹に会ってから、振り回されている気がする。自分が⋯自分じゃないみたいだ⋯。この姉妹のせいなのか?戮世界⋯この世界は僕に合わない。元いた場所が、僕のいるべき所なんだ。
だけど⋯この⋯人の多さ。大都市だ。日本もかつてはこのぐらいに⋯これじゃあ収まりがつかないぐらいに、人口が多かった事だろう。戮世界、僕には受け付けられない正体不明の“何か”を感じる。しかし、原世界に戻ったとしても⋯あの荒廃した場所に何の未練もない。やる事も無いし、新しい人との出会いも無い。
姉さんとアスタリスと一緒にいれるだけで十分。
そう思うのは、もう終わりなのかもしれない。もっと未来を見なければならない。生きていくためには⋯。二人に再会したら⋯戮世界に移住する事を具申してみよう。ミュラエとウェルニの二人も一緒に説得してくれたら、きっと受け入れてくれるはずだ。
◈
周辺を見渡す。少し視界がボヤけているのを感じた。そこまで自分は視力が落ちる経験をした事が無い。⋯と言っても、僕はまだ0歳。12歳の皮を被っている。
このボヤけた視界でも断定出来たのは、さっきまで場所とは違うところにいる⋯という事。これに対しての疑問が多く浮かび上がって来るが、そんな事よりもミュラエが自分の視線より上にいる⋯この構図が謎過ぎた。心配して、倒れていたミュラエを見ていた構図から逆転したかのようなものだ。なんなんだろう⋯この気持ちの悪い感触は⋯。
なんか⋯誰かに弄ばれてる感がする。自分って⋯こんなに弱い人間だったかな。
セブンスだよ?普通に人間とちがうんだよ?どうしてなんだ⋯⋯自分を失いそうな気がしてならない。
「サンファイア体調はどう?どんな感じ?」
先程まで倒れていたミュラエにそんなことを言われてしまう始末⋯。
「うん、ぜんぜん大丈夫。自分よりもミュラエの方が⋯」
「まぁもう大丈夫かな。30分ぐらい経ったし⋯」
「え、、、そんな経ったの⋯」
「うん。そうだよ」
「少し心配だからねー?死んだように目瞑っちゃってたし⋯」
「そっか⋯ごめん⋯」
起き上がるサンファイア。そんなサンファイアの背中を支えようと背中に自身の手を伸ばすミュラエ。
「謝らなくていいの」
身体起こしをフォローしたミュラエが、サンファイアの両手をギュッと包み込む。その手の温もりは、ほんわかな⋯遠くから感じるストーブのように⋯ちょうどいい熱を帯びていた。そんなミュラエの高濃度な接触に動揺を隠せない。確実に二人は今、互いの愉悦を刺激していた。
「サンファイア⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯ミュ⋯⋯」
──────────────────────
「あんよぉ、イチャついてるとこ悪ぃけどな、ここはどこなんかさっさと教えてくんねぇか?」
──────────────────────
「⋯⋯⋯え、、、、、、」
「久しぶり。兄弟⋯」
まさかだった⋯。僕はあまりの出来事に言葉を失った。それが先程までの倒れ込みによる疲労の溜まりが一因なのかもしれない。だけど、その大半は⋯“歓喜”。嬉しくて⋯嬉しくて⋯やっと会えた⋯。時間的に言ってしまえば、たかだか一日一緒にいなかっただけ。
なのに、この24時間が体感で言うと⋯もう⋯⋯100時間⋯言い過ぎか⋯、、、、ううん、ぜんぜん言い過ぎじゃないよ。そのレベルで感じ取ってしまう。
「⋯あ、ア、⋯⋯アスタリス⋯⋯⋯」
「サンファイア!」
歓喜が次第に表出化していき、身体を一気に起こす。しかしながら、身体は未だにガタが来ている状態⋯。それでも尚、アスタリスに抱き着きたい⋯。そんな感情が僕を責め立てる。
今、この感情をドブに捨てたら、絶対に今後、こんなシチュエーションは訪れない。
僕とアスタリスは犬猿の仲みたいなものだ。仲が良いのに、絶対に表面化させない。いつも姉さんを取り合ってる。ライバルみたいな存在だから、互いを睨み合う状況が、よくあった。
相互の力を高め合う存在でもあった。そんな大事な“友達”が欠けた事は、今までの人生で初めての出来事。だから耐えられなかった。ミュラエとウェルニが、その飢えを満たしてくれてはいた。
それでもやっぱり、違うんだよな。
アスタリス、君からしか得られないパワーがある。
今、それを久々に感じ取れて、僕はとても嬉しい。
「サンファイアー!」
「アスタリス!」
二人はそれぞれの力が衝突し合い、軽い衝撃波が生まれた。その衝撃波によって、周囲の建物には微風が直撃。被害を生むほどの負荷は無かったが、少年規模の二人が互いの身体を寄り添い合っただけで、ここまでの影響を与える⋯ミュラエとウェルニは二人の力に、更なる興味を持つ。
「サンファイア!やっぱりここにいたか!!もう心配してたんだぞ⋯!お前は俺が居なきゃやっていけねぇからな!」
「それはこっちの台詞だよ。良かった⋯本当に本当に良かった⋯」
サンファイアとアスタリス。二人がこんなに身体と身体を寄せ合った事は一度もない。初見の時から、フラウドレスを取り合った存在だ。今の二人には、今までの犬猿さは一切感じられない。ただの⋯“親友”。
親友の久しぶりの再会⋯としか表現出来ないものだ。二人の固く強い抱擁は、長くは続かなかったが、濃密な時間となり、互いの記憶に深く刻まれた。
「それで⋯フラウドレスは?」
「⋯いや⋯⋯⋯僕とは一緒にいなくて⋯アスタリスが一緒に居るもんだと⋯」
「そうか⋯やっぱり⋯フラウドレスが先に行っちまったからな⋯⋯この世界にいる事すらもままならない」
「“この世界”⋯アスタリスは⋯知ってんの?ここのこと」
「ああ、まあな。色々とサバイバルしてたんだぞ?お前みたいにあんなべらぼうに可愛い女とつるんでた訳じゃねえんだ」
「あ、違うって!!二人は⋯救世主だよ」
「その話は色々聞いたよ。なぁー、ミュラエー、ウェルニー」
「え⋯」
「アスタリス、良い奴だな!」
「サンキューな、ウェルニ、ミュラエも」
「え、、、」
「うん!サンファイアのお友達っていうから。当然だよ」
僕が沈黙している間、3人は邂逅を果たしたようだ。
「アスタリスから色々聞いたよ!」
「俺も、このセラヌーンシスターズから色々聞いたぞー。お前、どんだけのハーレム気分だったんだか⋯」
「ドゥアぁぁぁ!ガラァ!!!アスタリス違うって言ってんでショーがァ!!」
「おい⋯妹さんよ⋯、、アンタの姉貴なんなんだよぉ⋯。言ってる事がチンプンカンプンじゃねえか」
「お姉ちゃん!?だって本当の事じゃなーい!お姉ちゃんは⋯サンファイアの事がだーいすきなの!」
「違うって!!!サンファイア!違うんだよ?本当に!本当に!ほんんんんんとうに!!!」
「⋯⋯あははははははははは」
「ナニソノカワイタワライカタァァァァァァスッゴイツキハナサレタカンアル⋯⋯」
ミュラエは固まる。モアイ像みたいに。途方の彼方を真っ直ぐと向き、一切の視線を傾ける事なく⋯ただただ、自己を一時的に破棄していた。
「お姉ちゃん死んじゃう!死んじゃうって!⋯⋯ええっと⋯こういう時は⋯あ!!サンファイア!!」
「え、、な、なに⋯」
「ミュラエにキスして!」
「はァァァァ!???な、なんで!???」
「ドゥあああがらァァァァ!!!言ってるでしょーガイ!!お姉ちゃんは!アンタの事が好きなの!王子様のキスを受ければ、呪いが解かれる⋯。よくある御伽噺のヤツよ!⋯⋯さ!ほら!早く!!」
「え、、、いや⋯でも、、、」
【アスタリスのジト目】
おまえぇぇ⋯⋯『マジでやんの??』みたいな目を送ってくんじゃねぇよ⋯⋯⋯⋯。
アスタリスに見られながらキスなんて⋯そんなの恥ずかし過ぎるって⋯⋯⋯マジで⋯?⋯ウソ⋯いやいやいや⋯僕⋯無理だって⋯⋯
「サンファイア!このままだとお姉ちゃんショック死しちゃうよー!!」
ウェルニが芝居がかってきた。間違いなく、ベースに“誰かが”いる。何者かを憑依させているようなパフォーマンスだった。安直過ぎる方法だし、それによって自分がミュラエに接吻する可能性がある⋯と本当に思っているのか⋯。
いや、、ウェルニは単純にこの状況を楽しんでいるだけだ。
『キスが見れるなら、まぁこのぐらいしとこうかなぁぁ』
⋯ぐらいの気概で当該演技を実行しているのだ。
────────
「あ!!サンファイア!やばいよ!お姉ちゃんが!このままだと!王子様ー、おうじさまあー、早くしないと王女様が死んでしまわれますーーーーーー」
────────
なんて酷い大根演技なんだ⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯。もっとやるからには基盤を作るものだろうが⋯。
だが、それにしても⋯本当に、ミュラエは気を失っているように、途方に暮れている。
────Murae:now/stop-emergency-call/please←Sunfire────
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
─────────────────────────────────────
たまに口をパクパクさせて、何かを言おうとしているけど、音に出ない。そんな状態が繰り返されていく。
とてもじゃないが、正常とは言えない。
そんな見ているだけで心苦しい状態の彼女を救ってあげたい⋯。それは僕も同じだ。しかし⋯こんなところをアスタリスに見られたら⋯
───────
『おい!フラウドレス。聞けよ〜、あのなぁ、フラウドレスと会う前に2人の女がいたんだけどよぉ。その内の1人にィィ⋯なんと!なんと!なななななななんと!!!セップン!そう!セップンしやがってさぁ!!』
『え⋯サンファイア⋯⋯⋯⋯⋯え、、、』
『サンファイアはなぁ?それで止まらずゥ、あれやこれやイローンナことをちゅぱちゅぱしやがってよォ〜』
───────
コイツならやりかねない⋯⋯。
「サンファイア?、、なにしてんの??」
阿呆な声色で、僕の身体をツンツクツンツクツンツクしてくる。神経集中が途切れそうだ⋯。
「⋯⋯アァ!もうなに!?」
思わず我慢出来なくなり、僕は感情を解放させた。溜まりに溜まった感情が多層を形成し、一気に爆発。ほんの少しの些細な出来事が切っ掛けとなり、解放されるのは時間の問題だった。
「なによ⋯サンファイア」
「⋯⋯⋯あ、いや⋯ゴメンなさい⋯⋯」
ウェルニの冷めきった表情。『キスぐらいすりゃあいいのに⋯』と言わんばかりの顔面だった。
するとその直後、ミュラエが解き放たれたかのように静止状態から再生を開始。まるで映像鑑賞の一時停止ボタンが解除されたみたいなシークエンスだ。
「お姉ちゃん!!」
「ミュラエ!大丈夫なのか?おい」
アスタリスがいつの間にか、軽々しく名前を言うような仲となっている事が、歪に感じた。僕が沈黙していたたかが30分で、いったいどれだけのエピソードが逡巡したのか⋯。
ミュラエ・セラヌーン。ウェルニ・セラヌーン。アスタリス・アッシュナイト。
この3人の鼎談が異常に気になるところの⋯我、サンファイア・ベルロータ。
────Imaginary:ThreeChildren/“BokuJida”─────
『いやいやいや⋯まさかこうやってサンファイアが知り合った女と話せるなんてな!』
『そうだな!アハッハッハッハッハハ!!これホントに持ってんのか?画ぇ!』
『案外持ってるんじゃないのー?私⋯ミュラエが一番の絵ヂカラの持ち主よ』
『はぁ?お姉ちゃんバッカ言ってんじゃ無いよー!私が!この番組の絵ヂカラ担当なの!』
『おいおいおいこんな場で姉妹喧嘩はやめてくれよ展開せっかくのスリーショットが台無しじゃねぇーかぁ』
『そ、そうね⋯アスタリスの言う通りだわ』
『うん⋯私も⋯⋯ンでさ!アスタリスは⋯サンファイアとどういう関係なのん?』
『俺のことは良いんだ。なぁミュラエ』
『え、なに?私に一点集中?』
『そうだ。お前に一点集中ダァ⋯。ウチのサンファイアとヨロシクやってるみたいだけど⋯コイツのどこが良いんだよ』
『えぇ⋯そうだなぁ⋯先ず⋯⋯⋯⋯⋯』
─────────────────────────────
⋯⋯バカか僕は⋯。何故そこまで考えられる⋯⋯。兎に角⋯!3人の会話の内容が気になっている⋯という事だけ!伝えておきたい⋯⋯!(なにそこまで思考が回るような、自分に落ち着いてるんだよ⋯ほんとうのバカじゃん⋯)
────Reality:ThreeChildren/“BokuJida”──────────
サンファイアが気絶していた30分間──。
「え⋯⋯どしよ⋯⋯」
ミュラエだけでも大変なのに、サンファイアまでも謎の気絶が発生。2人が眼前で急に気絶してしまう現状に、ウェルニは戸惑う。こんなの初めて置かれた状況。
今までの姉とは明らかに“人間”が特異な方向に傾いている。違う人間と相対しているかのようだった。
もう⋯ちょっとふざけた事言っただけなのに⋯なんでサンファイアまでも魂が抜けた感じになっちゃうわけぇ⋯。はぁ⋯。
人集りは収まらない。なんならさっきよりも多くなっている気がする。このままだと帝都ガウフォンの異端審問執行官に注目が上がってしまう。乳蜜祭阻止の前にあれだけ『人気のないところを⋯』とか言ってたアンタが、コレだよ⋯。あーあ、何やってんだか⋯。
四方八方から3人への視線・発言が飛ばされる。筆舌に尽くし難い内容な上に、先述した内容と気色の悪い程に酷似している為、ここではログを省略する事とする。
「はぁ⋯⋯どうしよう⋯」
気絶する2人をどうするべきか⋯。簡単な方法が一つある。レピドゥスを発現して、2人をまとめてここから持ち上げて⋯スタコラサッサ〜とどこかへ行く⋯。
⋯⋯まぁこんな事やったら、確実にお姉ちゃんに殺されるし⋯他のアトリビュートに見られたら⋯『あいつ⋯乳蜜祭の前に⋯何やってんだ⋯』って⋯最悪の視線向けられる⋯。そして殴られる⋯怒られる⋯⋯ああ⋯“やりやがったの多重セット”。
レピドゥスを発現するのはNG。それと共に天根集合知を使用するのもNG。要はアトリビュート兼“暴喰の魔女”の使用NGだ。
ゴメンね⋯レピドゥス⋯。あなたの出番⋯もうちょっと後かも⋯。⋯⋯んん?なにレピドゥス?
『何かが来る⋯』
え?なに⋯来る、って⋯⋯
レピドゥスの言葉通り。誰かが私達3人の前に現れた。
「はいーちょっと退け!退けよお前ら⋯退けって⋯。どけどけ!シッシッ、俺に道を開けろ」
かなりの人数が私達を包囲する中、切り裂くように突き進む男の姿が次第に近くなる。ズカズカと歩く姿が何とも⋯只者では無い感をヒシヒシと伝えていた。
一つの道が形成され、その一本道を歩く男が私達の前にやって来た。男は目を細め、じっくりとこちらを見続けている。しかし⋯私とミュラエに対しての視線はそこまで長い時間向けられず⋯長くターゲットとして指定されたのはサンファイアであった。
「あんた⋯」
「⋯⋯?」
話し掛けてきた。一人、男がこちらに近付いてきたのは、私達に用があったから。ただ単に私達のいる方向に、何か別の用事があった訳では無い。
「⋯⋯そいつと、どんな関係なんだ?」
「え、、、この人とは⋯⋯友達よ。友達」
「へぇ〜友達ね〜⋯」
ウェルニは倒れているミュラエとサンファイアに合わせ、腰を下ろしている。そんな中、接触を敢行した男。その男が、私達と同じ高さに目線を合わせに来た。ウェルニは流石に警戒心を強くした。今すぐにでも、暴喰の魔女・レピドゥスが発現出来る程に能力発現を可能とするシークエンスに移行。
「⋯⋯ちょっといいか?」
「⋯え?」
距離を詰める男。その男が一言⋯
────────
「サンファイア、お前何やってんだよ」
────────
「サンファイア⋯⋯名前!知ってるの!?あなた!」
「あぁん?当たりめぇだろ。俺はコイツと一緒に原世界からやって来たんだ。ああ、まぁ“やって来た”って言うと、トラベル感覚になるな⋯つまりは、、、“強制連行”!だな」
「⋯⋯サンファイアが探してる人⋯⋯」
「あ、俺の事話してた?うん、多分俺の事じゃね?俺じゃなかったら怖いだけど」
「あともう一人探してるんだよね、フラウドレスって⋯」
「まぁな。結構コイツ話してんだな。あの⋯アンタに⋯」
「私はウェルニ。よろしく!」
「ああ、よろしく。俺はアスタリス。サンファイアが世話になってるみたいだ。感謝するよ。、、、ンでぇ、もう一人のこの女はダレ?」
倒れているミュラエを指す。
「この人は私のお姉ちゃん、ミュラエ」
「へぇ〜、サンファイアは姉妹に救われたのか」
「アスタリス、あなたも⋯白鯨に⋯」
「⋯まぁな。てか、原世界から来たっていう事には特に驚かねぇんだな」
「⋯まぁね。⋯あ」
「⋯うう〜んん⋯んうァァンんん⋯」
あくび。
「え、、お姉ちゃん寝てたの、、、」
もしその予想が的中しようもんなら、お姉ちゃんを激叱りしてやろうかな⋯と思った。だけどお姉ちゃんからその素振りは感じられなかった。
「寝てないよ」
それにしては目覚めても尚、眠そうにお目目をグリグリとしている。
「なによ⋯まだ観衆がいるじゃない⋯」
「ちょっと離れた方がいいね」
そう言ったはいいものの⋯ここでお姉ちゃんをおんぶしようにも“通常能力”じゃ、持ち上げられない⋯。私の筋力は天根集合知と暴喰の魔女を出力させた時に初めて効果を表す。
現状から抜け出せる打開策が見つからず熟考する中、アスタリスが一発の大砲を撃ち放つかの如く、道を切り開いた。
「お前らー!見せもんじゃねぇーぞ!さぁほら!行った行った!行け行け!おら!!おい!そこの警備員!」
「⋯⋯」
「お前らなにボーッと突っ立ってんだよ。人の流動が悪くなんだろ?こんなワンポイントに人が密集してたらよ。増援でもなんでもして、人の動き!ちゃんと管理しろ!」
「⋯⋯フォローソルジャー、呼べ」
「はい」
近く⋯とも言えないが遠く⋯とも言えない。そんな距離感の帝都異端審問執行官に対し、そう言い放った。言ってる事は正論なのだが、こうして執行官にそのような口調で言う奴はあまりいない。いるとするなら⋯泥酔者。現在のアスタリスは正常な段階による執行官への口利きとは正直言えない。単純にリスキーだからだ。
七唇律の名のもとに逮捕される。
しかし今回、あのような強めの口調でも執行官はアスタリスを警告しなかった。それどころか、『フォローソルジャーの増援』を部下に命じていたのだ。
私からは特に彼からプレッシャーを感じなかったが、あの執行官には何かを感じたのだろうか⋯。いや、恐らくそうだ。アスタリスは、セブンス。
サンファイアと同様、超越者の正統なる分岐進化。
アスタリスは、サンファイア以上の能力者の可能性が高い。
「じゃあ行くぞ」
「え、、?」「うん?あなた誰?」
「説明はあと。行くぞ」
アスタリスは私達セラヌーン姉妹とサンファイアを、両腕で持ち上げ、大跳躍。左腕にセラヌーン姉妹。右腕にサンファイア。
建造物の煉瓦状屋根へと足場を移した。筋力の凄まじさ⋯とかのレベルでは無い。確実に超越者の後継一族である事は十分な分かりよう。
私達は当該行動に心が⋯ヒュクン⋯となった。簡単に言うと⋯少し、、驚いた。
「アスタリス!高いって!」
「アスタリス⋯?あなた、アスタリスって言うのー?」
「説明はあとって言ったろ?何処に行きゃあ良いんだ?」
「⋯えっと⋯とりま、人気のないとこ!」
「OK」
アスタリスに身体を持ち上げられている時、一切痛みを感じなかったのが印象的だった。だが、急に高くジャンプするは、ハイスピードになって空中を走るか⋯で、油断も隙もあったもんじゃない展開が断続的に行われた。
跳躍時の着地、高速移動後のブレーキ。これに関しては素晴らしいの一言。受身を考えた技巧なものだった。
そして、私達はアスタリスのおかげで人気の無い場所に行き着いた。
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ここからペース上げます。『Elliverly's Dead Ringers』のペースを落とします。
『鬼滅の刃無限城1』いいっすね。『わたなれアニメ』めちゃくちゃいいっすね。『ヤマトよ永遠にREBEL3199』を作っている会社とは思えませんね。振り幅。そういうの大好きです。
今夏は、まだまだ作品との出会いを大切にします。外出したくねぇんで。マジで。無理。ほんとむり。
では、また5日後くらいに。




