51 姫様の行方
「おいラーベ!その豚、ほんとに姫様が飼っていらした豚で間違いないのか?」
「はっ、間違いありません!あのピンクのリボンは、姫様が手ずから結ばれた物かと思われます!」
「そうか・・・それで、その豚はどこで?」
ラーベさんの上官らしい、ガタイの良い騎士のおじさんがレイに質問する。
「えっと、街の外の木陰で見つけたんです」
「街の外・・・?」
「嘘をつくな!誘拐犯がわざわざそんなところで放すものか!」
ガンッ!とラーベさんの兜から再びいい音が鳴る。
「先走るな!お前が姫様に惚の字なのは皆知っている。だが慌てるな、情報を精査しろ」
なるほどね、それで焦って俺らを必要以上に疑ってるわけか。
てか、惚の字って言葉久しぶりに聞いたな・・・。
「な、なな何をい、言っているんですか!わ、私なんかが姫様にその、そんな感情を向けるなど、分不相応です!」
「今更隠そうとするな、皆知っていることだ。そんなことより・・・」
「え、なんで皆知って・・・そ、そんなことより?」
なんだかラーベさんの扱いが少しかわいそうになってきた。
「今の情報からある可能性が浮かんだ」
おじさんの顔が険しくなる。
「ホーレン!」
「はっ!」
「~~~」
「わかりました!」
ホーレンと言われた騎士はおじさんに耳打ちされると、足早に去っていった。
「我々は今回の姫様の失踪を、人間がやらかした誘拐事件だと決めつけていたが・・・モンスターの仕業かもしれない」
モンスターが・・・?
この世界のモンスターって、そんなことまでやらかすのか。
「!」
「近頃南の洞窟にオークが住み着いているという話は聞いたか?」
「は、はい。かなりの規模らしく、冒険者だけでは手に負えないため、近々我々騎士団も参加して掃滅作戦を行うと」
「フゴッ!?」
「わぁ!急にどうしたの?だ、大丈夫だからね。よしよし」
そんなことが起きてたのか。
この国にはダンジョンがないらしいから、冒険者が少ないのも原因なのかな?
話がシリアスになってきたからか、子豚もおびえているようだ。
怖がる子豚をレイがなだめている。いいなー、俺もよしよしされた・・・あ、いや、コホン。レイは男、レイは男・・・。
「ああ。今のところ被害は出ていないが、放っておくと危険だからな。ひょっとすると、姫様が最初の被害者になってしまったのかもしれない」
「そんなわけはありません!奴らが壁の中に入ってきていれば、すぐに騒ぎになります!」
「姫様が自ら外に出られていたとしたら?」
「!」
「その豚、よく脱走していたそうじゃないか。お前も姫様に言われて、街中駆け回って探したこともあっただろ?」
「それは、確かに・・・」
「今までは壁の中だけで済んでいたが・・・今回はたまたま壁の外にまで逃げだしていて、それに気づいた姫様が、お一人で外まで出られていたとしたら?」
なるほど、人間の仕業だと思ってこの国の中だけを探してたけど、外のモンスターに攫われた可能性も出てきたってことか。
「それは、あまりに当て推量が過ぎるのでは・・・」
「いや。ここまで情報が出てきていないところや、姫様と一緒に行方不明になっていたその豚が、平気で街の外に居たことを考えると、その可能性は高い。考えてもみろ。誘拐犯が人間だとして、わざわざ豚だけ放し、もう外まで逃げていると、我々に情報を残すメリットがどこにある?」
「しかし、それならば姫様が外に出るところを誰かが見ているはずでは?」
「姫様は王族の方だけが知る秘密の抜け道を知っておられる。幼少の頃はよくその抜け道を使って脱走し、陛下にこっぴどく叱られていらしたことを覚えている。きっと今回もそれを使ったんだろう」
おぉ・・・上官のおじさんの、年季の入った推理に納得させられてしまう。
「ダーリ隊長!」
さっきおじさんに耳打ちされていたホーレンさんが戻ってきた。
上官のおじさんはダーリさんって言うのか。というか、隊長なんだな。
やっぱり隊長になれるような人って優秀なんだなぁ。
「戻ったか」
「はい。隊長の言った通り、姫様は失踪される直前、あの豚を探していらしたようです」
「そうか、わかった。皆、聞いての通りだ!姫様はオーク共にさらわれた可能性が高い!これよりダーリ隊の者は私に続き、南の洞窟制圧作戦に参加しろ!事態は一刻を争う!」
「「「「おぉおおお!!!!」」」」
「ホーレンは団長と陛下にこのことを報告してくれ」
「はっ!」
なんだか事態が一気に進展したな。
俺達はどうしようか・・・というか、宿どうしよう?
「君たちは冒険者だろう?よければこの作戦に参加してもらえないだろうか」
悩んでいると、ダーリさんから意外な提案を持ちかけられた。
「え、いいんですか?」
「ああ。見たところ腕に覚えがあるようだし、来てもらえるとありがたい。洞窟の中は複雑でね、実力もそうだが、とにかく人手が欲しいんだ。もちろん、部下の失礼に対する詫びも含めて礼はする。どうだろうか?」
「どうしよう?二人が良ければ俺はそれでもいいけど・・・」
「ボクはいいですよ!この子の飼い主のお姫様が心配ですし!」
「うーん、そうねぇ。私も構わないけど、宿の確保が心配だわ」
「それならこの宿舎を使ってもらって構わない。3人分の空きぐらいはある」
なんだかとんとん拍子に事が進んでいくな。
「お風呂ってありますか?」
「ああ、ついているぞ」
「じゃあ、参加しよっか」
「ええ、いいわよ」
「はい!」
「心強い、助かる!」
よーし、お姫様を助けにいっちょ洞窟まで行ってみますか!
しばらくお休みします、申し訳ありません。