50 宿探し
街に入ると感じるのは、やはりピリピリした雰囲気。
「なんか、ガムーザの時みたいな空気を感じないか?」
「そうですね・・・」
「やっぱり何かあったのかしらね」
「単にここも新しい魔王のニュースでこうなってるだけだといいんだけど・・・」
少し気にはなるけど、それは宿の人にでも聞けばいいし、とりあえず宿探しを優先しよう。
流石にこの国にはアリスも来たことがないらしいから、その辺の人に聞かないとだな。
えーと・・・あの人はなんだか忙しそうだし・・・。
あっちの人は・・・なんだか怖い顔してるし・・・お、あの人なんかいいんじゃないか?
のんびりと散歩している優しそうなおじさんだ。
見た目からしてこの国に住んでいる人だろう。
「すみません、宿屋について教えてもらえませんか?料金は少し高くてもいいので、お風呂に入れるところがいいんですけど・・・」
「それと、子豚を預けられるところがいいわね」
付け加えるようにアリスが話す。
そっか、小型犬ぐらいの大きさとはいえ豚だしな。普通の宿屋に入れるわけにはいかないか。
「お風呂があって、その子を預けられる宿屋かい?悪いけど知らないねぇ・・・」
「そうですか・・・」
残念。まあそんな変わった条件で宿を探す人なんていないだろうし、無理はないか。
「でも、君のような可愛い子がいるならおじさんの家に泊まっても構わないよ」
「え?」
一瞬レイに向かって言っているのかと思ったけど、おじさんの目線は完全に俺に向いている。
「お金も要らないよ。ただ代わりにちょっとこの服を着てほしいんだがね・・・」
おじさんの大きな鞄から出てきたのは、メイドさんが着るような白黒でフリルのついた可愛らしい服。
「あ、いやえ、遠慮しておきます!」
サーッと血の気が引いていくのを感じながら、咄嗟にノーの返事をする。
「そうかい?残念だねぇ」
あっぶねぇ・・・また{モテスキル(男性用)}の効果か。
てか、なんでメイド服なんか持ってるんだよ!
最近なんともなかったから忘れかけてたけど、これどうにかならないのかな?
「モテるわね、サイトちゃん」
「勘弁してくれよ!」
「・・・?」
状況がよくわかっていないレイだけが俺の心の癒しだ。
「君たち、宿を探しているのか?」
「えっ?」
急に話しかけてきたのは、通りすがりの騎士のような恰好の男性。
門番の人と同じような甲冑を着ていて、なんだかかっちりとした雰囲気だ。
「は、はい!そうです」
「それなら私が案内しよう。ついてくるといい」
ラッキー、直接案内してもらえるなんてついてるな!
5分、10分、15分。
次第に城のある台地が近づいてくるも、一向に宿にたどり着かない。
「あの、宿ってどこなんですか?」
「もうすぐだ」
「そうですか・・・」
俺達騙されてたりしないだろうな?と、3人でひそひそ話す。
とりあえずついて行きましょ、とアリスが言うので、そうすることにした。
「着いたぞ」
「おっ!」
ちょっと心配になりながらもたどり着いたのは、紋章の掲げられた大きな宿舎。
近くには馬や牛が預けられている獣舎もあって、すごく立派な建物だ。
あれ?でもなんかこの感じ・・・
「疑わしき者達を連れてきたぞ!」
「え?」
建物の中からぞろぞろと現れるのは、案内してくれた人と同じ甲冑を着た人達。
「やっぱりこうなるのね・・・」
「え、アリス?」
「あの紋章、この国の入り口にあった旗にもあったし、彼らが着ている甲冑にもあるでしょう?門番も同じ紋章の鎧を着ていたし・・・」
「・・・ってことは?」
「多分、この国の騎士団よ」
なんで、俺達が騎士団に疑われなきゃいけないんだ・・・?
「どうしてボク達が騎士団に疑われてるんですか?」
やっぱりレイもそう思うよな。
「姫様が飼っていた豚を抱えて、よく言えたものだ」
騎士はレイが抱える子豚を指さしながら、糾弾するように言った。
「プゴ?」
この豚のせいかー!!!!
でもそれなら、すぐに誤解を解けそうだ。
「あ、この豚はさっき街の入り口の近くで」
「問答無用ッ!」
「ちょ話聞けって!?」
騎士が大きく振り下ろす剣を咄嗟に躱すも、前髪が数本剣筋に舞っている様子に肝が冷える。
あっぶねぇ!?ほんとに殺す気かよ!?
「おいラーベ!話ぐらい聞いてやったらどうだ?」
宿舎から出てきた人の中でも、特に体格の良いおじさんに指摘される、ラーベと言われた騎士。
「こいつらが姫様を攫った犯人かもしれないんだぞ!?」
「だったら今姫様がどこに居るのか聞かないといけないだろ?」
「うるさい!私が姫様をお助、けェッ!?」
辺りに兜と手甲のぶつかるガンッ!という音が響き渡る。
「上官に向かってうるさいとはなんだ!」
「う、あぅ・・・も、申し訳ありません」
兜越しだけど、いい音してたな・・・。
てか、姫様が攫われたって言ったか?なんだかピリピリした雰囲気だったのはまさか・・・。
「この国の姫様って、攫われたんですか?」
「ああ、そうだ。ラーベが悪いことをしたな、すまない」
「あ、いえ・・・」
なるほど、だんだん見えてきたぞ。
なんとこのお話もこれで50話です!皆さんの応援のおかげでなんとか続けられてます。
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