49 謎の子豚
ガムーザ出発から、数時間後。
「さ、そろそろ着くわよ」
「うぅ・・・」
「流石に俺もしんどい・・・」
レベルもずいぶん上がったし、ご飯も腹八分目で済ませたから楽になるかと思ったけど、全然そんなことはなかった。
いやまあ、確かに前回より楽ではあるんだけど、いかんせん距離がね・・・。
地図上では、ヴァレッサ、ガムーザ間の倍ってとこか。
大体4時間以上はかかったんじゃないだろうか。
「も、もうここで降ろしてくれないか?」
「そ、そうですね、ボクも自分で歩きたいです」
「しょうがないわね・・・」
こんな感じで、ここに来るまでにも何度か降ろしてもらって休憩を挟んだけど、それでもかなりきつい。
「次からはやっぱり馬車か何か借りないか・・・?」
「そ、それがいいです・・・」
「二人共情けないわねー」
「情けなくて結構!はぁ、あの木陰で休もう」
「賛成です・・・」
ふぅ、やっと休める・・・。
「ん、おぉ!あれがターヴェイン王国?」
木陰にしゃがみ込み、自分たちが向かっていた先を初めて見た。
アリスに抱えられてる時は後ろ向きだから、進行方向が見えないんだよな。
「ええ、そうよ」
「わぁ、おっきいですね!」
視界の端まで伸びるのは、ヴァレッサやガムーザよりも立派で大きな城壁。
さらに奥の台地に、これまた大きな城がそびえたっているのが見える。
王国っていうぐらいだから、あの中には王族が住んでいるんだろうか。
「今度こそ勇者に・・・」
「プゴフゴ」
「会えるといいわね」
「うん」
「フゴッ」
・・・・・・ん?
「なんだこの豚!?」
木陰に生えたキノコをフゴフゴ言いながら食べていたのは、ピンクのリボンをつけた子豚。
なんでこんなところに・・・まさか、モンスター!?
一応警戒し、剣を抜く。
「フガッ!?」
子豚は俺の声で初めてこちらに気が付いたのか、やけに驚いた様子だ。
「わ、可愛いですね!」
「あらほんとね、誰かの飼い豚かしら」
「あ、そうですね。ほら、リボン付いてますよ!」
え、二人共受け入れ早くない?
「モンスター・・・ではないか」
剣を仕舞う俺。
「何言ってるのよ、どう見てもただの子豚じゃない」
「そうですよ!」
「プゴ・・・」
子豚が俺から離れるように木陰に隠れる。
「もう、サイトちゃんが剣なんか出すからおびえてるじゃない」
「ごめん・・・」
「周りに誰もいないみたいですし、飼い主さんとはぐれちゃったんですかね?」
確かに、レイの言うように辺りに人影は見つからなかった。
「どうしましょうか」
「うーん・・・」
待てよ?子豚を飼う余裕があるなんて、飼い主は裕福な家庭の人か、名のある冒険者なんじゃないか?
ここでこの子を飼い主の元に送り届けたら、お礼にお金か勇者に関する情報を貰えるかもしれない!
「よし、連れてこう」
ひょいっと子豚を持ち上げる。
「フゴッ!?」
「ちょ、暴れんなって、うおっ!?」
ジタバタと暴れられ、離してしまう。
「わぁっ!?」
そのままぴょん、と飛びつくのはレイの胸。
「気に入られたみたいね。それなら、レイちゃんが抱っこするといいわ」
「なんだよ、俺は嫌ってか?」
「フゴフゴ」
「あはは・・・」
結局、レイが抱っこする形で落ち着いた。
全く、子豚のくせに人を選ぶとは!
でもまあ、これでとりあえず中まで連れていけそうだ。
自分の足で歩くこと数分。俺達はターヴェイン王国の城門に着いた。
「身分証明書か紹介状はお持ちですか?」
「はい」
3人で冒険者カードを提示する。
「拝見します。ふむ・・・3人とも冒険者、と。間違いありませんね?」
「はい」
そう答えると、なぜかもう一人の門番と目配せする門番さん。
「失礼だが、どのような用件でこの国に?」
目配せの相手である別の門番に、突然質問された。
「え・・・えーっと・・・」
え?こんなこと聞かれるの?そんなに冒険者が来るのが珍しいのかな・・・。
確かに今までの街と違ってダンジョンが無いとは聞いたけど・・・。
「人探しよ」
返答に悩んでいると、アリスがうまいこと話してくれた。
勇者を探してるー、なんて人前じゃ言えないからな。
「そ、そうそう!」
「ふむ・・・そうか」
一応納得してもらえたようだ。
「その豚は?」
安心したのも束の間、今度はレイが抱えている豚が気になるようだ。
「あ、街の外で見つけたんです。リボンがついているので、誰かのペットが逃げだしたんじゃないかと思って・・・」
「そんな届け出は出ていないが・・・」
「そうなんですか?」
「ああ。申し訳ないが、届け出が出ていない以上関税がかかる。それでいいな?」
マジか、子豚を連れてると金取られるのか・・・。
「仕方ないですね・・・」
「それぐらい私が払うわ」
レイが財布を出そうとすると、アリスが割って入った。
「え、でも・・・」
「いいの。いくらかしら?」
「10シルバーだ」
「これでいいかしら?」
「1、2、3・・・確かに」
アリスは優しいな。
「はい、こちらもチェック終わりましたよ。ターヴェイン王国へようこそ」
ふぅ、よかった。なんとか入れそうだ。
「くれぐれも問題は起こさないように!」
ほっとしていると、何かと質問してきた人に釘を刺された。
「は、はーい・・・」
「なんだったんだ・・・?あれ」
「わからないわ。いくらダンジョンのない国と言っても、冒険者ぐらい珍しくもないでしょうに」
「そう・・・だよな?」
なんだか少しピリピリしてたというか・・・。
「ちょうど冒険者が問題を起こしたばっかりとか?」
「かもしれないわねー」
「でもボク達は問題を起こすつもりなんかないですし、入れたなら関係ないんじゃないですか?」
「それもそうだね。とりあえず宿でも探そっか」
「そうね」
「はい!」
なんだか良くわからないけど、レイの言う通り俺達には関係ないかもしれないし、気にしててもしょうがないか。