48 いざ、ターヴェイン王国へ
2日前の魔族領、某所。
「先に魔王になるだと!?」
「ええ。過激派の考えていることは恐らくこうです――穏健派の魔王様を暗殺し、自分たちが魔王の座に取って代わる。であれば、先に穏健派の者がその椅子につくべきでしょう」
「それはそうかもしれないが、しかし・・・!」
「幸い私の爵位は公爵。レナード卿の後ろ盾があれば、誰も文句は言わないでしょう。魔王様の理想は人族と魔族の共存、いわば世界平和です。今こそ我々がその遺志を継ぐべきではありませんか?」
「っ・・・!」
そして現在、ギルドにて。
「新しい魔王が穏健派・・・?」
アリスが俺と同じ疑問を口にする。
「ああ、俺も驚いた。てっきり過激派のヤツが台頭すると思ってたからな。だが、俺達にとっては有難い話だ。この声明が出て以降、魔族を奴隷にしようとしやがる奴らがぱったりと姿を見せなくなった」
「それは・・・いいことね」
また謎が深まってしまった。俺や勇人さんがこの世界に来てるのに、なぜことごとく魔王が穏健派のいいヤツなんだ。
もしかして、悪いのは女神様のほうとか・・・?
それとも、ほんとは魔王じゃなくて、暗殺犯の魔族を倒してほしかったとか・・・?
多分アリスだけじゃなく、レイも俺と同じ疑問を抱いているはずだ。俺が勇者を探していることは昨日話したからな。
「ま、そういうわけだから、魔族の嬢ちゃんもちょっとは安心出来るんじゃねぇか?」
「は、はい。そうですね・・・」
確かに、レイのことを考えればこれでいい、んだけど・・・。
なんかもやもやするよな・・・。
俺、何のためにこの世界に来たのかだんだんわからなくなってきた。
いや、違う!そうだ才人、ここはポジティブに考えよう!
大層な使命なんか果たさなくたっていい!このままこの世界で強くなって、女の子にモテモテになろう!
そのために{モテスキル(男性用)}まで選んだんだし!・・・思ってたのとは違ったけど。
「どういうことなのかしら」
アリスが小声で耳打ちしてきた。
「俺にもわからない・・・とにかく、勇者と会えば何かわかるかもしれないし、やっぱりターヴェインには行きたい」
俺も小声で返す。
「そうよね・・・ガイラスにも勇者のこと伝えていいかしら?」
「あー・・・いいよ」
そうだな、ギルドマスターなら勇者に関する情報も入ってくるだろうし、伝えておいたほうがいいか。
まあ・・・どうやって勇者の情報を伝えてもらうのかは考える必要があるけど。
そういえば、魔王の声明がこの街にまで届いたってことは、何かしらの伝達手段があるってことだよな。
どうしてるのか聞いてみようかな。
「ガイラス!」
「ん、なんだ?」
「実は私たち、これからターヴェインへ向かうつもりなの」
「ほう、冒険者があの国に行くとは珍しい。どんな用なんだ?」
「実は・・・」
アリスがガイラスさんに耳打ちする。
「・・・なるほどな。その話を聞くと尚更この声明は不可解だ」
「ええ、だから情報が欲しいの、集めてくれるかしら?」
「ああ、わかった。スペクルムはあるな?」
「ええ、何かわかったら伝えてちょうだい」
ガイラスさんが協力してくれるようだ。
良かった、ターヴェインにはダンジョンがないから、手がかりをどう集めようか心配してたんだ。
「ガイラスも協力してくれるわ」
「うん、聞いてたよ。でもどうやって集めた情報を聞くんだ?」
「ええ。これで連絡するのよ」
そう言ってアリスが見せてきたのは、小さな鏡。
「これは?」
「スペクルムと言って、対になる鏡同士で双方向にやり取りが出来る代物よ」
「へぇ!」
要は異世界版の電話みたいな道具か。
なんだ、この世界にもそんな便利なものがあったのか。
あれ?そんな道具があるなら、ヴァレッサの時もアリスに連絡が付いたんじゃあ・・・。
「いえ、それは出来なかったと思うわ。言ったでしょう?"対になる鏡同士で"って。ガイラスは私の持ってるスペクルムと対になる物を持っているけれど、フローナちゃんは持っていないはずだもの」
気になって聞いてみると、もっともな返事がきた。
「そっか・・・」
「ええ。複数の相手ともやり取りできる、より上位の魔道具もあるけれど・・・そっちは高すぎて私でも手が出せないわね。このスペクルムもかなり高価な物なのよ?」
「なるほどね」
あっちの世界の電話ほど便利じゃないし、普及もしてないってことか。
でも、ガイラスさんからいつでも連絡が貰えるってのはありがたいな。
「それなら、そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
「じゃあ私たちそろそろ行くわ」
「おうよ、情報が集まったら連絡する!」
「ええ、お願いね」
「「ありがとうございましたー!」」
みんなでお礼とお別れの挨拶を済ませて、次の街・・・というか国?に出発だ。
ガムーザの街を出て、ターヴェイン王国へと続く道へ出た俺達。
「さ、二人共準備はいいかしら?」
「はぁ、またアレで行くのか・・・」
「準備?アレ?何のことですか、って、わぁっ!?」
右手で俺を、左手でレイを担ぎ、ダッシュの体勢に入るアリス。
「それじゃ、行くわよー」
「行くってっ、ア、アリスさんっ!?」
「喋ってると舌噛んじゃうよ、レイ!」
「~~~っ!!!」
足に光を纏いながら弾丸と化すアリス。
スポーツカーにでも乗っているかのような速度で、ガムーザが遠ざかる。
二人担いでこの速度って、ほんとどうなってんだか・・・。