47 新たな魔王
「ち、ちん・・・は、生え・・・」
「うぅ、いたた・・・あっ、わぁっ!?み、見ちゃダメですっ!」
そんなこと言われても、時すでに遅し。
「み、見ちゃいました・・・?」
「えーっと、その、ごめん・・・」
誤魔化すか悩んで、断念。
「~~~!」
声にならない声と共に赤面し、丸くなるレイ。あっという間に目の前に大きな林檎が出来上がる。
風呂場には、タオルがはだけて真っ赤になっている美少女(男)と、全裸の俺。
あれ?これもし誰かに見られたらものすごく誤解されないか?
ガチャッ。
想像が現実になる音。
「何か物音がしたけどだいじょ・・・レイちゃん!?」
迫る破滅。
完全に誤解される状況。
終わった。
俺の人生は終わってしまったんだ。
「サイトちゃん・・・」
失望したような、蔑むような目を俺に向けるアリス。
「い、いや違!こ、これにはマリアナ海溝よりも深い訳が!」
「何わけの分からない事言ってるのよ!」
異世界人に伝わるわけのない弁解が、通るはずもなく。
「ぎゃああああああああ!!!!」
その悲鳴は宿屋中に響いたとか、響かなかったとか。
「へぇ、レイちゃん男の子だったのね」
「だから訳があるって言ったのに・・・」
タオル一枚で部屋の床に正座させられながら、なんとか誤解が解けた。
「ごめんなさい、ボクのせいで・・・」
「あら、レイちゃんは悪くないわよ。悪いのは全部サイトちゃんね」
「ひでぇな!!」
まあ実際俺が悪かったことはさっきわかった。
どうやらレイは石鹸に滑って転んだらしいんだけど、その石鹸というのが、レイが入ってきたことに驚いて俺が落としたものだったみたいだ。
「とりあえずお風呂入りたいんだけど・・・」
「そうね、じゃあいってらっしゃい」
結局お風呂には一人で入ることになった。ま、まあ男だってわかったし、別に寂しくはないけど?
・・・と思いつつ、横目で見るレイの顔は美少女そのもので、やっぱり少しドキッとしてしまう。
小さく可愛らしい鼻と口、大きくてクリクリとした空色の瞳に、銀髪のボブカット。間から見えるのは小さな黒い角と、ちょこんと尖った耳。
これだけ揃っていて男か・・・。
高校の時には居た数少ない友達なら、『こんな可愛い子が女の子のはずがない!』とか言うんだろうな。
どういう理屈だよ、それ。
残念ながら俺にそっちの趣味はない・・・はずなので、さっさとお風呂場へ向かった。
「レイの昇格と正式なパーティ結成を祝して、乾杯!」
「「乾杯!」」
順番にお風呂に入った後。
改めてちょっとしたパーティの開始だ。
「ターヴェイン王国?」
ジュースを片手に、アリスが教えてくれた情報へ返答する。
「ええ、石板に書かれていたというのは、おそらくそこでしょうね」
"大きな王国"、石板にはそう書かれていたけど、ターヴェイン王国って言うのか。
勇人さんが向かった王国だ。早く合流して、情報交換がしたいな。
「どんなところなんですか?」
俺も思っていた疑問をレイが投げかける。
「うーん。正直、冒険者からしたら、広いだけであんまりぱっとしない国かしらね。あの国にはダンジョンがないのよ、だから他国との交易や農業で栄えているの」
「農業・・・」
そういえば、お米が見つかるかもしれないとか書いてあったな。
俺もそろそろパンは飽きてきたころだし、見つかるといいな。
・・・ってあれ?ダンジョンがないんじゃ、勇人さんの手がかりをどうやって見つけよう・・・?
・・・まあ、行ってから考えればいっか。今度こそばったり出くわすかもしれないし。
「勇者さんはなんでそんな国に行こうと思ったんでしょうか」
「お米を探してるみたいだったから、それでじゃないかな?交易と農業で栄えてるなら、売ってる可能性も高いし」
「オコメってなんですか?」
レイの質問にドキッとする。
もしかしてこの世界にはお米が無かったりするんじゃあ・・・。
「穀物の一種ね、この大陸でも最近徐々に広まっているけど、元は他の島から渡ってきたものらしいわ」
「へぇ、そうなんですね!」
良かった、こっちの世界にもお米はあるらしい。
「いつも思うけど、ほんとアリスって物知りだな」
「・・・ええ、前にも言ったけど、昔は旅をしていたから」
そう答えるアリスはいつもと違ってどこか寂しげで、それ以上聞くことは憚られた。
「そっか・・・よし!ターヴェイン王国は地図で見た感じ、ヴァレッサからガムーザまでより遠そうだし、早めに寝ちゃおっか」
いつのまにか食べ終わっていた食べ物の片付けを始めながら、そろそろ休もうと提案する。
「そうね、そうしましょ」
「そういえばターヴェインまではどうやっていくんだ?まさかまた・・・」
片付けをしながら、明日の予定について話す。
またアリスに抱えられて、とんでもないスピードで運ばれることになるのか・・・?
「ええ、そのつもりよ」
「レイも居るのに・・・?」
「あら、大丈夫よ。腕なら2本あるもの」
そういうことを言ってるんじゃないんだが。
「勇者に会いたいんでしょう?なら、善は急げよ」
「そうだけどさ・・・はぁ」
「・・・?」
「あー、なんだ。朝ごはんはあんまり食べ過ぎないようにしようね」
不思議そうにするレイに、先駆者としてアドバイスをする。
「は、はい・・・?」
翌日の早朝。
宣言通り俺とレイは腹八分目で止めて宿を出る。
ここまでの宿屋代を払い終わった後の所持金は、20ゴールドと75シルバーだ。
ターヴェインに行く前に、お世話になったガイラスさんに別れの挨拶をしてから旅立つことにした。
ギルドへ向かう途中。
「なぁ、なんか今日の街変じゃないか?」
早朝だというのに、街の様子がなんだか騒がしい。
賑わっているというより、何かに驚いているような・・・。
「あら、やっぱりサイトちゃんもそう思うかしら」
「ボクもそう思います!」
二人も感じるものがあるようだ。
「なんだあんたたち、まだ知らねぇのか?」
近くに居たおじさんが話しかけてきた。
「何かあったんですか?」
「ああ。なんでも、新しい魔王が現れたんだってよ」
「・・・!」
新しい魔王・・・!きっと、過激派の魔族が取って代わったんだ。
「それ、どんな魔族かわかりますか?」
「さぁな?ギルドに行けば詳しくわかるんじゃねぇか?」
「ありがとうございます!」
ギルドならちょうど向かっていたところだ。
二人と目配せをして、走る。
「おぉ、来たか!」
平時より人の多いギルドで、いつものように出迎えてくれたのはガイラスさん。
「新たな魔王が現れたって・・・」
「ああ、そこに貼ってあるのがそうだ」
そう言いながら指を指した方向には、大勢の人だかり。
「はは、悪い悪い。あれじゃ見れないな。ほれ、これだ」
ガイラスさんがこっそり見せてくれたのは、新たな魔王が出したらしい声明の書かれた紙だ。
「1か所だけに張り出したんじゃ、ああなっちまうからな。この後、ギルド職員で手分けしてこのビラを配るのよ。お前さんらにも1枚やる」
「ありがとうございます!どれどれ・・・」
[人族の方々へ 私はモーゲンロード"元"公爵、現魔王である]
[私は人間との争いを望んではいない、穏健派の魔族だ]
[前魔王様の遺志を継ぎ、人族との交友を深めたいと考えている]
[だが、穏健派であった前魔王様を暗殺した犯人が、我々魔族内に居ることもわかっている]
[過激派の魔族と、そうでないものの区別がついていないというのが素直な現状だ]
[そこで諸君に頼みがある。過激派の魔族を見かけたら、私に連絡してほしいのだ]
[また、魔王様を暗殺した過激派の魔族が、人族の街まで逃げている可能性もある]
[そうした疑いのある魔族についても連絡を頂きたい]
[人族と魔族の共存のために、ご協力願う]
[現魔王 モーゲンロード]
どういうことだ、これ・・・?
めっちゃくちゃ穏健派の魔族が魔王になってるんですけど!?!?
これからは火曜と金曜の定期更新にしようと思います。
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