46 レイとお風呂
「そういえばレイさんのほうの報酬はなんだったの?」
さっきは俺が部屋で何をしてたかの話になったから、聞きそびれちゃったんだよな。
「あ、ボクのはこれです」
そう言って見せてきたのはピンポン玉ぐらいの大きさの玉。
「煙玉ねー、地面に叩きつけると煙が出るわ。持っておいて損はないわね」
解説してくれるのはいつも通りアリス。
「へぇー!そういえばさっきの道具屋さんにも売ってたっけな」
いまいち使い道は思い浮かばないけど、確かに持っておいても損はなさそうだ。
「サイトさんはどんなのだったんですか?」
「俺のはこのナイフだったよ。装飾がしてあって、性能も悪くないみたい」
「わぁ、綺麗ですね!」
結果的に旅の目的についても話せたし、なかなか良い収穫だったな。
一通り情報の共有を終えた俺達は、門番の人からメダルを受け取りギルドへと向かった。
「あ、流石に3人で同じ窓口使うのはマナー悪いかな?」
ギルドの窓口にみんなで向かおうとしてはっとした。
「そうね・・・」
ヴァレッサではフローナさんの気遣いでアリスと二人同時に更新してもらったけど、3人は流石に負担がでかそうなんだよな。
やっぱり別々の窓口で更新してもらうしかないか・・・。
「そちらの方々は同じパーティの方ですか?カードの更新と精算ならこちらが空いていますよー」
悩む俺達に話しかけてくれたのは受付嬢のお姉さんだ。
「あれ、同じパーティなら3人いっぺんに見てもらえるんですか?」
「はい、そうですよ。事前にパーティ登録をされておく必要がありますけどね。パーティ登録はお済みですか?」
「え・・・登録なんてしてないよな?俺ら」
「ええ、そうね」
なんだ、パーティ登録なんてあるのか!
でも確かにそうか、俺もレイさんも、アリスとはずいぶんランクがかけ離れてるしな。
これでやたら強いモンスターの討伐証明部位なんか個人で持っていったら、またヴァレッサの時みたいに疑われるよな。
パーティ登録してればそこらへんの問題がなくなるわけだ。
・・・あれ?でも俺や記憶喪失のレイさんはともかく、なんでアリスまでそんな大事そうなこと言いださなかったんだろう。
「なんだアリス、まーだパーティ登録に躊躇いがあるのか?」
俺が疑問に思っていると、声をかけてきたのはギルドマスターのガイラスさんだ。
ヴァレッサの時と違ってギルドマスターによく会うな。
「・・・はぁ、そうよ。別に、関係ないって頭ではわかっているのだけどね」
「いい加減過去に縛られるのはやめな。冒険者なら、パーティ登録のメリットぐらい知ってんだろ?」
「ええ、そうね・・・じゃあ、3人で登録するわ」
「おうよ」
よくわからないけど、何か登録したくない理由があったらしい。
ちょっと気になるけど今は更新と精算のこともあるし、聞かないでおこう。
正式にパーティ登録を済ませた俺達は、ダンジョンクリアの報告とドロップアイテムの精算を済ませた。
討伐証明部位がドロップアイテムとして出てたから気になったけど、どうやらはぎ取った物とダンジョンでドロップした物はしっかり区別されているようだ。
一番わかりやすい違いは、はぎ取った場合のはギルドで買える特殊な袋に入れないと灰になるってところだな。
外ではぎ取られた物は危険なモンスターを討伐した証拠になって、その報酬としてポイントとお金が貰える。
ダンジョンでのドロップ品は灰にならなくて装備品の素材とかに使えるから、ポイントとお金で買い取ってもらえる。と、大体そんな違いらしい。
「俺の取り分は3ゴールドか。ポイントは157で・・・次のランクまでは2843か」
ガイラスさんに一気に昇格させられたせいというかおかげというか、俺のランクは現在Dだ。
DからCに上がるには3000もポイントが必要なのでかなり遠い。
ってあれ?お金もポイントも全部山分けにしたから・・・。
「もしかしてレイさんもう昇格?」
「あ、はい!Fランクになりました!」
そう言ってレイさんが嬉しそうに見せてきたカードのランク欄には、確かにFと書かれていた。
「おー、おめでとう!」
「おめでとうー!」
俺の時もそうだったけど、GからFって結構すぐだな。
多分本当はもっと時間をかけるんだろうけど・・・。
そんなことを思いつつ、3人で宿屋に向かった。
寝るにはちょっと早いけど、お風呂に入ってからレイさんの昇格と正式にパーティになったお祝いをすることになったので、ちょうどいいだろう。
「ほんとに俺が一番最初でいいの?」
「ええ。私たちはちょっと二人で話したいことがあるから」
「はい!ゆっくり入ってきてください!」
今回の宿屋のお風呂は部屋に備え付けだから、同じ部屋の俺達は一人ずつしか入れない。
一番風呂を貰うのはちょっと気が引けるけど、ここは二人の厚意に甘えよう。
「さ、女子会よ女子会」
「女子会って・・・」
お風呂場に向かう傍ら、聞こえてきた単語にツッコミを入れる。
「何かしら?」
「イエ、ナンデモアリマセン・・・それじゃお先にー」
半ば逃げるように洗面所のドアを閉める。
いやー、一人でお風呂に入るなんて久しぶりだ。
まだそんなに日は経ってないけど、この世界に来てから毎日色々あるから体感時間がすごいことになってるんだよな。
「えぇ・・・れはちょっ・・・」
「さっきの・・・」
「・・れはそ・・・」
二人も女子会に花を咲かせているようだ。
洗面所で服を脱ぎ、お風呂場に入る。
ボディソープはないので、タオルで石鹸を泡立てて体を洗う。
「~♪」
周りに人が居ないからのんびり出来ていいな。
ガチャッ。
「ん!?」
背後から聞こえてきたドアの開く音に、思わず振り返る。
まさかアリスが入ってきたんじゃあ・・・。
「あ、えっと、その・・・」
「レイさん!?」
入り口に立っていたのは、薄布一枚で胸から膝までを隠したレイさんだった。
白く透き通るような美しい肌は、風呂場の熱気のせいか、はたまた緊張のせいか桜色に色づいていて、ひどく艶めかしく思えた。
ごくり、と生唾を飲み込む音が、レイさんにまで届きやしないかと心配になる。
よく見れば、神様のオーダーメイドと言われても信じるような相貌は、ちょこんと尖った可愛らしい耳と一緒に赤くなっていた。
これは夢か?こんな美少女が、なんで俺が先に入ってるってわかってるお風呂に一人で入ってくるんだ!?
「え、えっと・・・アリスさんが、背中でも流してあげたらどうかしら、って・・・」
うおおおおおおマジか!!アリスグッジョブ!!!!
今俺はお前を仲間にして、心の底から良かったと思っているぞ!!!!!
コホン、よし、ここは冷静に・・・『こんな状況、全然慣れてますよー』って感じでいくぞ!
「あ、そ、そそそうなんら!で、れもしょんな気を使わなくへもよよ良かっらのに!」
おっけ噛んどいた!
「ボ、ボク、もっとサイトさんと仲良くなりたくて・・・それに、勇者を探してるって言われた時、急に詰め寄っちゃったから・・・それで・・・」
「ああ、あれ気にしてたんだ、全然気にしなくていいのに!むしろ俺のほうこそごめんね、デリケートな問題なのに急に話しちゃって」
確かにいきなり問い詰められたのはちょっとびっくりしたけど、悪いのは俺のほうだしな。
「いえ、いいんです!サイトさんが良い人なのはわかってたのに、取り乱しちゃったボクが悪いですから!」
「そんなことないよ!って・・・これじゃ無限にこのやり取り続くな」
「あはは、そうですね」
前にもどっかでこんなやり取りをした気がするな。
仲良くなりたい、か・・・それなら。
「じゃあ、レイさんのこともアリスみたいに呼び捨てにしていいかな?」
「はい!いいですよ!」
「良かった。じゃあ改めてよろしくね、レイ」
「はい!よろしくお願いします!サイトさん!」
「そこは呼び捨てじゃないんだ・・・」
「ボクはこっちのほうが落ち着くので!」
「そっか・・・」
ちょっと気まずい沈黙が流れる。
「・・・えっと、じゃ、じゃあ背中流しますね!」
「あ、うん。それじゃお願いしよっかな」
そう言いながらレイに背を向けた。
「はい・・・わぁっ!?」
すてんっ!と転ぶような音に、再び振り返る。
「だいじょう・・・ぶっ!?」
ぽろんっ、と可愛らしい音が聞こえてきそうな勢いでまろびでたのは、ヤシの木一本ココナツふたつ。
ヤシの木と言っても、生い茂る葉は一枚も無い。
あー、懐かしいなー、俺も小学生の頃はこんな感じで・・・ってえええええええええええええ!?!?!?
う、嘘だろ・・・レ、レイって・・・・・・男だったの!?!?!?
男の娘ヒロインを期待する声があったんですけど、実はもう出てました。
というわけで(少なくとも体は)男3人の旅が始まります。
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