44 2つ目の落書き
ガラガラと音を立てて崩れていくブロックが、今度は光の粒子になって消えていく。
{レベルが上がりました}
{Lv28になりました}
「ふぅ・・・なんだかどっと疲れた」
いつものレベルアップアナウンスに、緊張の糸が切れる。
「サイトさん大丈夫ですか!?」
その場に座り込む俺に、レイさんが心配そうに駆け寄ってきた。
「ん、ああ、大丈夫だよ。ちょっと気が抜けただけ」
「そうですか・・・って、お怪我されてるじゃないですか!」
「あれ、ほんとだ・・・」
手足には擦ったような傷が出来ていた。
多分爆炎石が使えなくて吹き飛ばされた時に、転げまわったせいだろう。
「ボクが治します!」
「え、そんなことも出来るの?」
「は、はい。多分・・・」
てっきり攻撃系の魔法しか使えないもんだと思ってたんだけど・・・。
目を閉じながら俺に杖を向けるレイさんの表情は真剣そのもので、つい見入ってしまう。
少しすると全身が蒲公英のような暖かな光に包まれ、痛みが引いていった。
「おぉ・・・すげぇ!ありがとう!」
「もう痛いところとか、ないですか?」
ぺたぺたと傷のあった箇所を触診しながらレイさんが尋ねてきた。
「え、あ、うん。も、もう大丈夫!」
突然のボディタッチという不意打ちに、変に上擦った声で返事をしてしまった。
「あ、ご、ごめんなさい!」
俺の様子で状況に気が付いたのか、お互い顔を真っ赤にしながら勢いよく手を離す。
レイさんの手、ちっちゃかったな・・・。
「なーにやってんのよ」
「「わぁっ!?」」
背後からかけられたアリスの声に、二人して飛び跳ねた。
「あ、いや。レイさんに傷を治してもらってて・・・」
うん、嘘はついてないぞ、嘘は!
「見てたわよ。まさか光属性まで使えるなんてね・・・」
「ん、やっぱ色んな属性の魔法が使えるのってすごいのか?」
確かに攻撃だけじゃなくて治療まで出来るのは、俺も驚いたな。
ゲームだと回復魔法を使うのは僧侶とか賢者のイメージだしな。
「それもそうなのだけど、魔族には光属性を扱える人が少ないのよ」
「そうなのか?」
「ええ。もちろん絶対使えないわけじゃないけれどね。例えばドワーフなら土が、エルフなら風が得意なことが多いのだけど、風と土、光と闇というように、反対の属性は苦手なことが多いのよ」
「なるほど・・・じゃあ魔族は闇属性が得意な人が多いのか?」
「そうなるわ。だから、反対属性の光が扱えるのは珍しいのよ」
「そうなのか・・・」
なんか、ジョブの候補といい杖のことといい、レイさんってほんとにすごいんだな。
決してそんなつもりで助けたわけじゃないけど、心強い仲間が出来て良かった。何より華があるし!
てか、そうだ。
「そんだけ魔法の才能があるなら、記憶を失う前はものすごい魔法使いだったとか、そんなことはないのかな?」
「ありえなくもないけど、それだとLvが1なのは妙ね」
「あそっか。それもそうだな・・・」
確かに、記憶を失っただけで、レベルが下がるわけじゃないはずだもんな。
「レイさんは何か思い出せないかな?」
「・・・・・・」
「レイさん?」
何かを深く考え込んでいる様子のレイさんに、再び呼びかける。
「ふぇ?あ、ごめんなさい・・・何も思い出せないです」
「そっか・・・」
まあ、そんな簡単に思い出せたら苦労はないよな。
「ま、旅を続けてればそのうち思い出せるよ」
「はい・・・」
「さて、傷も治してもらったことだし、行くか・・・って、なんだあれ?」
ゴーレムの残骸があった箇所に黄土色の玉が落ちている。
大きさは野球のボールぐらいだろうか。
「あら、あれはゴーレムのコアね。運がいいわね、ドロップアイテムよ」
「おぉ、ボスも落とすことがあるんだな!」
「ええ。中でもゴーレムは普通ダンジョンぐらいにしか居ないから、結構貴重なのよ」
「へぇ・・・宝箱のほうはイマイチだったけど、ドロップアイテムのほうは収穫たっぷりだな!」
「苦労したかいがありますね!」
そうだね、と返事をしつつドロップアイテムを回収する。
「それじゃ、そろそろ行こうか」
「ええ、ここも私は昔クリアしたことがあるから、また二人とは別ね」
「どういうことですか?」
「あの魔法陣に入って移動するのだけど、クリア済みの人と初めての人は別の部屋に飛ばされるのよ」
「そうなんですね!」
前回俺がされた説明を今度はレイさんが受けている。
「そういえば俺とレイさんは同じとこに出るのかな?」
「いえ、違う場所・・・とも言い切れないけど、一緒には居られないわ」
「・・・どういうことだ?」
「二人で同じ部屋に入ることが出来ないのよ。でも壁に傷をつけて実験した人によると、同時に他の人がいる部屋にも傷が付くらしいの。だから部屋自体は同一らしいわ。おそらく空間魔法の類でしょうね」
「なんだそれ・・・」
ただでさえ謎の多い異世界だけど、とりわけダンジョンだけ異質な存在に感じるな。
「よくわからないけど、同じ部屋を使い回してるってことかな?」
「使いまわし・・・そうね、そういう考え方はしたことがなかったけど、確かにそうかもしれないわね」
「そっか・・・まあとにかく、俺らは宝箱の中身を取ったらまた魔法陣に入ればいいんだな」
「そうね」
「わかりました!」
「じゃあ行こう」
魔法陣に入り、出た先はやはりシンプルな造りの小部屋。
まずは宝箱から・・・。
「どれどれ・・・お?」
箱から出てきたのは、白を基調とした柄と刃に金色の装飾があしらわれた美しいナイフだった。
「綺麗なナイフだなー、性能がどんなもんかわからないけど・・・あ」
そういえば、装備や道具に{鑑定}ってしたことなかったな。
本来こういう道具に対してするものな気がするし、やってみるか。{鑑定}!
{ナイフ}
「いや見ればわかるわ!!なんかもっとこう・・・性能を知りたいんだよ!{鑑定}!」
{ナイフ 性能:D}
「雑だなぁ・・・」
{鑑定}スキルって時々適当だよな。最初にそこらへんの草に使った時も雑草って出たし。
「ちなみにもともと持ってる中で一番良いナイフの性能は・・・」
{ナイフ 性能:E}
へぇ・・・一応こっちの綺麗なナイフのほうが性能は良いっぽいな。
雑な鑑定結果だけど、結局役には立ったな。
「よし、次は・・・」
石板のチェックだ。
[アハンツェのダンジョン、クリアおめでとう]
[初クリアの報酬を受け取りたまえ]
表は前回と一緒だな。ここのダンジョンはアハンツェって言うらしい。
本命はこの裏だ・・・。
[勇者の勇人様参上!そろそろお米が食べたいんだけど、仲間はお米なんて聞いたことないらしい]
[次に向かうのは大きな王国だから、もしかしたら見つかるかも!もし見つけたら教えてね!]
「やっぱりあった!」
内容は・・・なるほど。確かに俺もお米が食べたくなってきたんだよな。
「ただな・・・全部日本語で書いてちゃ教えてくれる人なんてそうそういないだろ・・・」
そもそもここ初回クリア者しか来れない場所だし。
勇人さんってもしかしてバ・・・天然なのかもしれない。
「でも次の行先のヒントがあったのはデカいな」
大きな王国か。俺もお米が食べたいし、次の行先は決まりかな。
候補が複数無いといいんだけど・・・。
俺は一応冒険者手帳に内容をメモしてから魔法陣に入った。
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