43 ゴーレム
辺りが暗い。アリスとレイさんと思しき気配以外、この広い空間内に何も感じない。
ああ、前回もそうだった。
カツッ、と靴音を立て一歩進む。
ボウッ、と音を立てるのは、壁の燭台。
「わっ・・・」
「真ん中から出てくるからね!」
一気に明るくなった部屋の中央が、時間差で妖しく光る。
さあ、何が出てくる・・・!?
光る魔法陣から立ち上るのは、大きな煙。心なしか、前回よりも大きいような・・・?
というか、既にうっすら影が見え始めて・・・っ!?
デカい。
デカすぎる。
近づくまでもなくわかる体躯。
かろうじて人型を模したとわかるそれの体長は、優に3Mを超えているだろう。
レンガのようなブロックで構成された体は、鈍重な動きと引き換えに高い防御力と、一撃一撃が必殺になる圧倒的な質量を持つ。
動く石の像――ゴーレムか・・・!?
と、とりあえず{鑑定}だ・・・。
{ストーンゴーレム 主にダンジョンに存在する。正確には魔法生物であり、高名な魔法使いや錬金術師ならば人工的に作り出すことも可能。高い力と耐久力を持つ。討伐証明部位:コア}
{弱点:頭部の模様}
{種族 :モンスター}
{Lv :22}
{力 :125}
{耐久 :131}
{器用 :21}
{敏捷 :22}
{魔力 :23}
{スキル:自動再生}
{ユニークスキル: }
強い・・・!けど、思った通りスピードは遅いみたいだ。
弱点の情報も、珍しく役に立ちそうだぞ!頭部の模様か・・・よーし!
「って!どうやって狙うんだよ!!」
3Mはあるヤツの頭なんか狙えねぇよ!
「ど、どうかしたんですか?」
「あ、いや。あいつの弱点、どうやら頭にある変な模様みたいなんだけど、どうやって狙ったらいいかなって」
「それなら、ボクが魔法で狙います!」
「おぉ!そっかその手があった!」
俺の剣は届きそうにないからな。
よし!そういうことならまた俺が前線でヘイトを買ってる間に、レイさんの援護魔法でやる作戦だ!
「こっちだデカブツ!」
耳があるかわからなかったが、ゴゴゴと音を立てながらこっちを向いたので、ひとまずヘイトは買えたようだ。
「そらっ!」
効くかはわからないが、ひとまず右足を全力で斬りつけてみた。が――
カァン!と甲高い音を立てて跳ね返されてしまった。
いやまあ、そりゃそうか。石壁を斬りつけてるようなもんだしな。
刃こぼれしなかっただけ良かった。
「かってぇ・・・腕がジンジンする」
遅れてゴーレムの太すぎる左腕が迫る。
ドォオオン!と、1秒前まで居た地面が吹き飛んだ。
「あっぶねぇ!!」
砂埃を含んだ暴風から、思わず顔を両腕で守る。
片腕だけで俺の体よりデカいんじゃないか・・・?
あんなのまともに食らったら即死だ。
再びゴゴゴと音を立てながら、左腕が地面から上がる。
「ふぅ、遅いのだけが救いだ・・・ん?」
視界の右端に光が映る。
直後――
「はぁっ!」
ゴーレムの頭部へ向け、3本の矢が放たれた。
ヒュンヒュンと風を切る音と共に感じるのは、微かな冷気。
レイさんの魔法だ!今度は矢の形の氷か!
「いける!」
そう思ったのも束の間、地面から引き上げられていく左腕に、ついでのように防がれてしまった。
「くそ、惜しい!」
結局、腕の表面にかすり傷をつけただけか・・・ん?
かすり傷が、みるみるうちに再生していく。
そういえば、俺が剣で斬りつけた右足の痕も、いつの間にか消えてる・・・。
そうか、さっき{鑑定}したときにスキルにあったけど、自動再生があるのか・・・!
「ちょっとやそっとじゃ、実質無傷ってことかよ・・・!」
その後も同じように俺が隙を作り、レイさんが魔法で模様を狙う戦法を続けたけど、毎回すんでのところで防がれてしまった。
当然と言えば当然か。あの弱点さえ守れば、あいつはほとんど無敵みたいなもんだもんな。
「埒が明かない・・・!」
「手を貸したほうがいいかしら?」
苦戦する俺達に、アリスが参戦しようかと尋ねてきた。
「・・・いや、まだ手はある!」
「何か思いついたんですか?」
「うん!」
爆炎石だ。ちょうど買ったばかりの爆炎石がある。
かすり傷じゃすぐ直っちゃうみたいだけど、爆発のダメージはそう簡単には直せないはずだ。
これで腕でも足でも爆破すれば、模様を狙う隙が作れる!
「レイさんはさっきと同じく、隙が出来た時に模様を狙って!」
「わ、わかりました!」
よぉし、{アイテムボックス}から爆炎石を取り出して・・・ってあれ?
そういえばこれ、どうやって使うんだ・・・?
『天然ものと違って魔力を流し込まないと爆発しないから安全ね』
『魔力がないなんて聞いたことがないわ』
・・・・・・あれ?俺これ使えなくね?
「サイトさん危ない!」
「!」
レイさんの声で現実に引き戻され、咄嗟に後方へ飛ぶ。
そこに砂埃を含んだ暴風の力も加わり、予想以上に吹き飛ばされる。
「ぐっ、うわぁっ!?」
「サイトさん!」
みっともなく地面をごろごろと転がり、静止。
「だ、大丈夫!」
あっぶねぇ・・・!レイさんに呼びかけてもらってなかったら、今頃ぺしゃんこだった。
「爆炎石を使おうと思ったんだけど、魔力がないから使えなくて!」
「そういうことだったんですね!急に止まったからびっくりしちゃいました」
「ごめん、助かった!そうだ、レイさんに渡したマジックバッグにも爆炎石、入ってるよね?」
「あ、はい。入っていたと思います!」
「俺には使えないみたいだから、レイさんが使ってくれないかな?また隙を作るから」
「わかりました!」
結局ほとんどレイさん頼みになってしまった。
その分、ヘイトだけでも俺が買わないと・・・!
「こっちだ!」
再びヘイトを買い、ゴーレムの攻撃を誘発させる。
「遅いな!」
ゴーレムの太すぎる腕を、今度は余裕をもって躱す。
かれこれ数回は避けているので、単純な腕の叩きつけにはもう慣れた。
「サイトさん!」
「っ!」
振り向くと、光を帯びた爆炎石を手にしているのが見えた。
よし、今ならいける!
地面を思いっきり蹴り、ゴーレムから勢いよく離れる。
――直後、今日一番の大音量が耳を劈く。
「くっ・・・!!」
けたたましい爆発音に耳を覆いつつ、熱風から身を守る。
「どうだ・・・!?」
徐々に晴れていく煙の影に見えるのは、明らかに縮んだ体積。
「よし、効いてる!」
煙が晴れて現れたのは、下半身と左腕を失い変わり果てた姿のゴーレムだった。
しかし同時に、周りに散らばった石が、砂が、少しずつ体に集まっていくのも見える。
左腕を犠牲に、模様のある頭を守ったのか・・・!
「あいつはほっとくと再生する!レイさんは頭を!」
「はい!」
唯一残った右腕、あれさえ俺が抑えれば、模様はレイさんが狙える!
「らあああああ!」
右手に両刃短剣、左手にお古の剣を持ち、ゴーレムの右側から頭を狙うフリをする。
ほんとに当ててしまうと刃こぼれするかもしれないので、あくまでフリだけだ。
だが、それでもやはり効果はあるようで、必死に頭を庇おうと右腕をブンブンし始めた。
まるで蚊にたかられて払いのけている人間のようだ。
「はあああぁっ!」
ヤツの腕が最大限頭から離れ、左側ががら空きになった瞬間。
レイさんの氷の矢が、槍が、氷塊が、あられの様に降り注ぎ、ズドドドドドと怒涛の勢いで頭の模様が削られていく。
咄嗟に庇おうと動き出す右腕が、急激に失速する。
1つ、また1つとブロックが崩れ落ち、ついには瓦解してしまった。
勝った・・・!
「うおおおお!レイさんナイス!!」
「やりました!サイトさんのおかげです!」
「二人ともやるわね!」
はぁ、完全にレイさんのおかげだけど、なんとかなった・・・!