41 初めての連携
お待たせいたしました。
数日前、魔族領のとある城にて。
「魔王様を襲った犯人について、まだわからないのか?」
「ただいまモーゲンロード様を筆頭に調査隊が全力で動いておりますので、それについてはもうすぐ正式な発表があるかと」
「そうか・・・。くっ、なんたる失態だ・・・!やはりあの時、無理を通してでも魔王様にお仕えするべきだった!」
「そうご自分をお責めにならないほうがよろしいかと存じます、レナード卿」
「だが・・・!」
「おっと、始まるようですよ」
「む・・・」
視線の先には、魔族達の権力者が一堂に会するこの場で、今まさにお立ち台に上がろうとする魔族が一人。
「私はモーゲンロード公爵である。諸君らの協力で迅速なる情報収集が出来たこと、感謝する。集まった皆には正しい情報を共有しよう。誠に遺憾ではあるが、魔王様がご逝去されたと確認が取れた」
「まさか・・・!」
「なんということだ・・・」
「犯人は!?いったい誰がそんなことを!」
発表を受け、ざわざわと波紋が広がる。
そんな・・・魔王様が亡くなられたというのか!?あり得ない!あの方は魔族の中でも天才と呼ばれる、希代の魔法使いだぞ!?
「静粛に。諸君らの疑問は尤もだ。我々の調査によると、魔王様を暗殺したのは魔族であると確認が取れた。かの者は、こともあろうに魔王様を魔法により暗殺し、また魔法によって逃亡したと判明した」
「バカな・・・!あの方を超えるほどの魔法の使い手だとでもいうのか?」
「そもそもなぜ魔族が魔王様を?過激派の仕業か?」
――過激派。確かに最近きな臭い噂を耳にすることが増えた。
表向きは穏健派を装い、魔王様と親しくしている連中がいると。
中には金のために人間と結託していたり、王位簒奪のため暗殺を目論んだりしている者もいると聞く。
まさか、そんな私欲に塗れた下衆共に、あの優しく力ある魔王様が・・・?
「犯人の詳しい同行は未だ掴めていないが、魔族領内で魔力が感知できないことから、既に魔族領を抜け人間達の街まで逃げている可能性も考えられる」
「人間達の街に・・・?そうか、人間共と結託して魔王様を・・・!」
「戦争だ!戦争を起こすのが狙いに違いねぇ!」
様々な憶測が飛び交う中、私は事実確認に駆け出した。
そして現在、ガムーザのダンジョン1階。
「うん、いい感じね」
「はい!ありがとうございます!」
アリスのコーチングがようやく終わりそうだ。
「さて、一通りできるようになったようだし、いきましょうか」
「はい!お待たせしてごめんなさい、サイトさん」
「全然平気だよ、聞いてて結構面白かったし!」
俺は一生魔法には縁が無さそうなことが分かって、ちょっと悲しいけど・・・。
ともかく、レイさんが思ってたより戦えそうで一安心だ。
2階層までは特訓も兼ねて、戦いはレイさんメインで進むことにした。
この前来た時はモンスターがほとんどいなくなってたけど、アリスによるとここもゴブリンが出るらしい。
冒険者ともよくすれ違うし、前回がどれだけ異常な状態だったのかよくわかるな。
っと、早速{気配感知}に反応が・・・。
「あの曲がり角の先に2匹いるね、いけそう?」
「だ、大丈夫です!」
「無理はしないで大丈夫よ、いざとなれば私がいるから」
「はい!」
さーて、レイさんの初陣だ!
まず俺が先に角を飛び出してゴブリン2匹の気を引こう。
「こっちだ!」
「ゲゲッ!」
「ギャッギャッ!」
今更ゴブリンぐらい倒そうと思えばすぐに倒せるけど、特訓のために攻撃はレイさん任せだ。
「当たって!」
「グギャッ!?」
「ゲェッ!」
攻撃をひょいひょいと躱していると冷たい風が二筋通り、それに連動するように吹き飛ぶゴブリン達。
俺の背後から飛んできたこぶし大の氷塊が、正確にゴブリン達の頭部を撃ち抜いたようだ。
「おー、すげぇ!」
「やるわね、レイちゃん!」
「えへへ、ありがとうございます!」
あんな短時間の練習でこんなに上手く扱えるようになるなんてな。まるで最初から魔法が得意だったみたいだ。
女神様から授かったスキルが強いだけの俺と違って、ホントに才能あるんじゃないか?
その後もガンガン進み、あっという間に3階まで来てしまった。
あの狼達と戦った階層だ。
「全部レイさんだけで片付いちゃったね」
「そうね、でもそろそろ出現モンスターが変わるはずよ」
「お、そうなのか」
「そうなんですね!」
「何が出るんだろ・・・ん、{気配感知}に反応だ、確かにゴブリンとはちょっと違う気がする」
「行きましょ」
前のダンジョンでもそうだったけど、あの狼達やボスを除けばずっとゴブリンばっかりだったからな。
何が出るのかワクワクしつつ、反応のあった場所まで移動する。
「お、あれは・・・?」
柱と石像のある広場には、前にボスとして戦ったコボルト・・・を子供サイズにしたようなモンスターが居た。
そうそう!コボルトと言えばこれぐらいのサイズのを想像してたんだよ!早速{鑑定}だ。
{レッサーコボルト 森やダンジョンに生息するモンスター。嗅覚と聴覚に優れ、高い俊敏性を持つ。討伐証明部位:耳}
{弱点:胸、頭}
{種族 :モンスター}
{Lv :4}
{力 :13}
{耐久 :11}
{器用 :15}
{敏捷 :21}
{魔力 :2}
{スキル: }
{ユニークスキル: }
なるほど、俺が想像してたサイズのコボルトはこの世界じゃレッサーコボルトって言うのか。
俺の感覚だとこっちがコボルトで、前に戦ったボスのほうはジャイアントコボルトな気がするけど・・・。
ステータス的にはゴブリンとコボルトの間ぐらいか。
「ちょっと素早くて狙いづらそうだし、俺もそろそろ戦ったほうがいいかな?」
「そうね、そうしましょ」
「はい!」
素早いといっても、今の俺からしたら誤差の範囲だ。
相手を選ぶ知能はないようで、一番近い俺にがむしゃらに爪を振ってくる。
「そらっ!」
「ギャッ!」
今更そんな単調な攻撃に当たるわけもなく、反撃として足に剣を見舞う。
ここは通路と違って広いし、この"敏捷"で駆け回られたらレイさんが狙いづらいだろう。
「やぁっ!」
「ガフッ!」
狙い通り、動きが止まったレッサーコボルトにこぶし大の氷塊が3つ飛んでいく。
ゴツッと鈍い音を立てて倒れ、動かなくなった。
「ばっちりだね」
「サイトさんが動きを止めてくれたからですよ!」
「二人ともいい連携だったわ!」
誰かとまともに連携して戦うのは今日が初めてだけど、なかなか悪くないな。
レイさんの魔法もどんどん威力と正確さが増してるし、今後の旅が楽しみだ。