40 魔法
道具もそろったことだし、次はレイさんの装備を買いに行こうかな。
っと、そうだ。
「レイさん!はい、これ」
「は、はい!なんですか、これ?」
「マジックバッグだよ。レイさんまだ{アイテムボックス}のランク低いでしょ?俺はもうスキルでだいぶ収納しておけるようになったから、これはレイさんが使って」
売るのももったいない気がしてなんとなく残してたけど、これが一番いい使い道な気がする。
「そんな、ボク貰ってばっかりじゃないですか!」
「いいっていいって。それに、仲間同士で物資を共有するのは当然だよ。毎回そんな調子だと疲れちゃうし、遠慮なく貰ってよ」
「わ、わかりました・・・」
「うん、中身もあるから必要な時は出し惜しみせずに使ってね」
中にはポーション5本、臭い袋3個、爆炎石(中)1個、爆炎石(小)2個が入ってる。
これだけあればもし何かあってもなんとかなるだろう。
「は、はい!」
ふふ、サイトちゃんたらすっかり先輩顔ね。と思うアリスだった。
「さて、それならいよいよダンジョンへ向かいましょうか」
「え、レイさん用の装備も買ったほうが良くないか?」
「あら、大丈夫よ。武器ならさっき杖を貰ったし、防具も彼女が着ているワンピースが魔力糸製だから心配要らないわ」
「え!?」
魔力糸って、アリスの道着に使われているっていうなんかすごいヤツだよな。
「魔力糸はもともと魔法の得意な魔族やエルフ達が作り出したと言われていてね、彼らの着ている服にはよく使われているのよ。もちろん戦闘用にデザインされたもののほうが好ましいけど、ここのダンジョンに挑むくらいなら問題ないわ」
「そ、そうなのか・・・」
「そうだったんですね!」
レイさんも知らなかったらしい。
「その様子じゃ使い方がわからないでしょうから、魔法と一緒に教えるわね」
「はい!」
そういうことなら装備はこれで大丈夫か。
ダンジョンの入り口に着くと、今度はちゃんと門番の人が居た。
よーし、今回はきちんとカードを見せて、記録してもらった上で入れるな。
「さて、ここならいいかしら」
ダンジョン内を少し進み広めの部屋に出ると、アリスがそう言って立ち止まった。
魔法の使い方と魔力糸について説明するようだ。
「まずは魔法からね。ギルドでも言ったけど、魔法は術者のイメージが大切なの。イメージを高めるために目を瞑ったり詠唱を行う人も多いわ」
「ん?その言い方だとどっちも必要ではないみたいに聞こえるけど・・・」
「ええ、そうよ。イメージさえしっかりしていれば詠唱は必要ないし、目も開けていたほうがいいわね」
「そうなのか!」
「イメージが大切・・・」
カマセーヌさんの仲間の人は詠唱してたけど、しなくても使えはするんだな。
「ええ。まずはそうね、使える属性はわかっているかしら?」
「えーっと・・・はい、わかります!」
「試しにイメージしてみて。炎なら燃え盛る火を、氷なら液体の水が瞬時に固まるところを想像するといいわ」
「固まる・・・氷・・・」
「名前を与えるのもいいわ。よく言われているのは火の玉を出す魔法をファイアボールとか、氷の刃で切り裂く攻撃をアイシクルエッジとかね」
なるほどなー、この世界の魔法は術とそれに対応する詠唱が存在してるタイプじゃなくて、魔法使いが自分のイメージで作り出すんだな。
ってことは規模とか効果とか、やりたい放題なんじゃないか?・・・あぁでも、カマセーヌさんの仲間の魔法はなんというか・・・改良の余地アリって感じだったな。
そう簡単な話でもないのかな。
そんなことを考えながら見守っていると、レイさんが両手を向けている先から小さな氷の粒が出てきた。
「おぉ、すげぇ!」
「上手くできたみたいね」
「わぁ・・・!で、出来ました!」
なんか、結構簡単そうに見えるな。
「俺もやろうと思ったらできたりしないかな?」
「うーん、魔力が強ければ出来ないこともないけど、スキルの補助が無いと難しいわよ」
「一応出来はするんだ?」
「ええ・・・ほら」
そう言って、アリスが何もない空間に少量の土を生み出した。
「私も一応土属性が扱えるから、これぐらいの規模なら使えるわ。でも、この程度じゃ実戦で役立てるのはほぼ不可能ね」
「へぇ!でもすごいな。あと扱える属性とかってどこでわかるんだ?」
「あら?ステータス欄で見られないかしら?」
「え・・・見れないけど」
「おかしいわね、普通表示されるはずよ」
「んー・・・?」
試しに扱える属性について見たい!と思いながらステータスを表示してみる。
{サイトウ サイト}
{種族 :ヒューマン}
{Lv :25}
{ジョブ:盗賊}
{力 :59}
{耐久 :51}
{器用 :77}
{敏捷 :85}
{魔力 :0}
{スキル:鑑定(S) アイテムボックス(S) 気配感知(C) 忍び足(D) 剣術(C) 観察眼(C) 罠感知(C) 鍵開け(D) 急所突き(C) 罠師(D)}
{ユニークスキル:言語理解 成長加速 モテスキル(男性用)}
{獲得可能スキル: }
{使用可能スキルポイント:22}
「ダメだ、やっぱ見れないぞ」
「魔力とスキルの間に出てないかしら?」
「出てないな・・・あ、でも・・・気になってたんだけど俺、魔力が0のままなんだよな。盗賊だからしょうがないと思うけど」
「魔力が0!?そ、そんなのありえないわよ!?」
「え・・・」
「盗賊なら確かに上がりづらいでしょうけど、全く上がらないというのは変よ。それに、そもそもジョブに関わらず魔力はあるはずよ。たとえジョブに就いていなくてもね」
「マジで・・・?」
じゃあ俺、もしかして一生魔法には縁が無いのか・・・?
「魔力がないなんて聞いたことがないわ・・・レイちゃんも、多分まだLv1でしょうけど、あるわよね?」
「は、はい!23って書かれてます」
「高いわね、流石魔族といったところかしら。とにかく、魔力がないなんて少なくとも私は聞いたことがないわ・・・。特に体調に問題はないかしら?」
「う、うん・・・」
「そう・・・ならいいのだけど。あまり人には話さないほうがいいかもしれないわね」
マジか・・・。やっぱり俺が異世界人だからなのかな?
「えーっと、た、例えばなんだけどさ、異世界から来るっていう勇者なら、魔力が無かったとか、そういうことはないの?」
「ないわね。そもそも勇者のジョブは魔法も使えるらしいわ」
「そ、そうなのか・・・」
え、じゃあ本当に異端じゃん、俺。
「まあそうね・・・魔力が無くてもそんなに困ることもないと思うから、そこまで気にしなくてもいいと思うわ」
「そ、そうですよ!魔力がなくてもサイトさんはその、優しいですし!」
「う、うん・・・ありがとう」
二人の気遣いが逆に心苦しい。
「本題に戻りましょうか」
「あぁうん、そうだね。そうしよう」
少しもやもやしつつも、レイさんの魔法コーチに集中することにした。
まあ、俺は見てるだけだけど。
「は、はい!」
「今度は貰った杖に魔力を流し込んでみて。そのままさっきの要領でもう一度氷を出すといいわ」
「はい!」
少しすると、杖の先からさっきよりも大きな氷が出てきた。
「わ、さっきより大きく出来ました!」
「それが杖の力よ。魔力が術者のイメージによって、炎や氷に変換される際の触媒になるの。特に、その杖には意思があるから、魔力を通じてレイちゃんのやりたいことをサポートしてくれるはずよ」
「え、めちゃくちゃすごくないかそれ?」
「ええ、とても貴重な品よ。普通の杖とは比べものにならないわ」
いいなー・・・なんで俺だけ魔力がないんだ・・・。
嬉しそうに両手で杖を握るレイさんが羨ましくて、ちょっぴり嫉妬だ。
「これで魔力の扱い方はなんとなくわかったわね?」
「はい!」
「同じ要領で服に魔力を流し込めば防御力を高めることが出来るわ。固まれ!とか、自分を守れ!ってイメージしながら流すのがコツよ」
「わかりました・・・むむむー!」
「ふふ、力んでもダメよ」
「は、はい・・・!」
手や杖から物質を出すよりも少し抽象的だからか、なかなか上手くいかないようだ。
力が入って顔が赤くなっているレイさんもかわいい。
しばらく眺めていると、レイさんの服が薄い光を纏いだした。
あれは・・・アリスがやってた技に似てるな。
「いいわ、そんな感じよ」
「やった、できました!」
「ええ、おめでとう。レイちゃんは筋がいいわね。もう少しかかると思っていたわ」
「アリスさんの教え方がわかりやすかったからですよ!」
レイさんはそう言いながら破顔した。
「ふふ、ありがとう。あとはそうね、光が見えるぐらい魔力を流し込むのは、攻撃を食らう瞬間だけにするともっと効率的よ。普段は光が見えない程度の魔力を流しておくのが基本ね」
「そうなんですね!」
「ええ。私の道着を触ってみて?魔力が流れているのがわかるでしょう?」
「わ、ほんとだ。すごいです!」
「普段からこれぐらいの魔力を流しておけば最低限の防御力は確保できるし、急に大きな攻撃が来てもすぐに対応できるから便利よ。ずっとたくさんの魔力を流しているより疲れないしね」
「わかりました!」
レイさんの服の光が徐々に落ち着いていく。
どうやらもうコツをつかんだようだ。
なんか・・・また俺蚊帳の外だったな。
次回の投稿は少し遅れます。
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