4 冒険者登録
「おぉ!ここがギルドかぁ!」
門番さんに言われた通り、門からまっすぐ進んだところにその建物はあった。かなり大きな建造物で、周りの家々やお店と比べても数倍はある。
外観は中世ヨーロッパ風だが、入り口は西部劇の酒場でよく見かけるようなスイングドアになっており、自由に出入りができるようになっていた。
いかにもな雰囲気に俺は期待と緊張で胸を躍らせながら、中へと入った。
中は冒険者らしい武装した人々で溢れており、かなり賑わっていた。正面には受付らしき窓口があり、受付嬢と思われる美人なお姉さんが立っている。うおおおお!初の異世界美女!!
金髪ロングにモノトーンを基調とした清潔感のある制服は、まさにゲームやラノベでよく見る受付嬢のイメージそのものだ。
そうだ、試せなかったモテスキルの効果がこれでわかるんじゃないか?これからしばらくはこのギルドのお世話になるんだし、受付嬢さんとお近づきになっておくのは都合がいいはずだ。
「すいません、冒険者になりたいんですが キラッ」
出来るだけイケて見えるようにキメ顔をしつつ、声を作って話しかけてみる。ついキラッまで口に出してしまった気もするが、きっと彼女は俺にメロメロで気が付いていないはずだ。
「あ、はい。冒険者登録の方ですね、身分証はお持ちでしょうか」
あれー?おかしいな、至って普通のリアクションだ。もしかしてモテスキル発動!とか念じないと効果がないんだろうか。
試してみよう、受付嬢さんにモテスキル発動!好感度よ上がれ!
「あの、身分証はお持ちでしょうか」
「え、あ、も、持ってないです!」
おかしいな、全く効果がある気がしない。まさか・・・これが受付嬢としてのプロ意識というやつなのか!?
そうか、仕事中だから、内心『キャーなんてかっこいい人なのー!好き!結婚して!』とか考えてるのに、必死にそれを抑えて平静を装っているんだな!
そういうことなら仕事中にアピールするのはやめよう。それがモテる男としての最低限のマナーだ。
{モテスキル(男性用)}の効果がない理由を盛大に勘違いしながら、才人は冒険者登録に集中することにした。
「それでしたらこちらの用紙に必要事項をご記入ください。読み書きが難しい場合は代筆も可能です」
「わかりました。読み書きは・・・出来ます」
書くことも出来るかは検証していなかったが、すぐに知らない文字が頭に浮かんできた。
{言語理解}ってスキルはすごいな、知らないはずの文字が当たり前のように浮かんでくる。少し変な気分だけど、文字まで書けるなら言語で困ることはなさそうだ。
「書けました!」
「お預かりします。・・・はい、特に不備も無いようですので、奥の部屋へ行きましょうか」
「まだ何かあるんですか?」
「ええ、奥には才能の試金石と呼ばれる石があるんです。それで素質を計ったら、能力に応じたジョブに就くことが出来ます」
「おお!なんか急にファンタジーっぽくなってきたぞ!」
「?」
「あ、いや、えっと、こっちの話なのでお気になさらず!」
「そうですか・・・」
興奮して思わず口に出してしまった。ちょっと変な目で見られたけど、これはしょうがない!不可抗力というやつだ。
だってジョブだぞ!ゲームやラノベの知識から考えるに、きっと魔法使いや戦士みたいな、かっこいい職に就けるんだ!
やっぱり前線で勇ましく戦う戦士かなー、いやいや、ド派手な大魔法で一気に敵を殲滅!ってのも捨てがたい!
モテスキルとジョブの力があればきっと美女、美少女にもモテモテで・・・くー!夢が広がりますなー!
実際は男性にばかりモテることになるのだが、才人はそんなことなど露知らず妄想に耽っていた。
「着きました」
そうこうしているうちに才能の試金石?がある部屋についたらしい。
「おお、あれが・・・才能の試金石!」
「はい。あれに手を置いてください」
正方形の部屋は全体的に薄暗く、あまり広いとは言えなかった。特筆すべきは部屋の中央に鎮座している大きな石碑で、身長170cmの俺よりも高さがある。
石碑自体は楕円形で、下のほうが台座に食い込む形で置かれている。台座は手前に突き出しており、いかにも手を置いてくれと言わんばかりに手のひらが描かれていた。
「それじゃあ早速・・・」
台座に手を置くと体が青白い光に包まれた。おそらく俺の潜在能力を読み取っているんだろう。少しすると光が消え、入れ替わるように石碑に青白い文字が浮かび始めた。
いよいよだ!戦士か、魔法使いか・・・間を取って魔法剣士なんてのもいいなぁ!
「・・・あれ?」
「盗賊、ですね。おめでとうございます!」
盗・・・賊?戦士でも魔法使いでも魔法剣士でもなく、盗賊・・・?
いや、確かに何のジョブにも就けない可能性もあったし?ジョブに就けるだけありがたいのかもしれないけど・・・俺の、敵をバタバタとなぎ倒す夢が・・・
「盗賊・・・」
「どうかされましたか?」
「えっと、もう少しかっこいいジョブが良かったなー、なんて・・・」
「あぁ、そうおっしゃる方、結構いらっしゃるんですけど、私に言わせれば贅沢な悩みですよ」
「そうなんですか?」
「ええ、私を含め、何のジョブにも就けない方は多くいらっしゃいますから。それに、盗賊はかなり当たりのジョブなんですよ?」
やっぱり何のジョブにも就けないこともあるのか。
「ほんとですか?」
「ええ、盗賊のスキルは確かに地味なものが多いですが、罠の解除や宝箱の鍵開け、モンスターの気配の察知など、一人はパーティに欲しい便利なものが多いんです。だから、盗賊ならパーティに入れてもらいやすいですし、実力が付けばソロでも活動しやすいんですよ」
「なるほど・・・そういわれると確かに悪くないのかも・・・」
「それに、めったにないことですが、後天的に新たなジョブに就けることもあるんですよ。複数のジョブが選択肢に出た方は、この石に触れればいつでもジョブを変えられますから、そう落ち込まないでください」
「そうなんですか!?やった、まだかっこいいジョブに就ける可能性もあるんだ!」
「え、ええ・・・まあ、かなりレアなケースですけどね・・・」
良かったー!完全に才能だけで決まるわけでもないんだ!とりあえず今は盗賊に就いて、定期的にこの石に触れに来よう!
「あ、この石って他のギルドにも置いてあるんですか?」
ここは結構大きな街のようだし、たまたまこのギルドに置いてあるだけかもしれない。
しばらくはこの街にいるつもりだけど、他の街のギルドには石がなくて転職出来ない、ってことも考えられるから、ちゃんと確認しておかないと。
「ええ、私が知る限り、全ての街のギルドに置いてあるはずですよ」
「良かった、じゃあいつでも新しいジョブが出てないか、試せますね」
「そうですね。それから、噂程度の話ではありますが、戦士であれば体を鍛えたり、魔法使いなら魔法学について学んだりすると出やすいと聞きます」
「なるほど、ありがとうございます!」
確か女神様に貰ったスキルに、{成長加速}とかあったよな!きっとそのスキルがあれば、すぐに他のジョブも選択肢に出てくるはずだ。
勉強はちょっと嫌だけど、これもかっこいいジョブに就くため、女の子にモテるためだ、頑張ろう!
「それでは、能力チェックも済んだので、冒険者カードの発行をいたします」
「冒険者カード?」
「はい。冒険者のランクやジョブ、達成した依頼などが記載されるんです。まあ、その冒険者がどんな人物なのかを証明する証みたいなものですね」
「なるほど、冒険者の身分証みたいなものなんですね」
「ええ、発行はすぐに終わるので少しお待ちください」
そう言われた俺は、ドキドキしながら近くにあった椅子に腰かけた。なんだかこういう役所仕事みたいなのを待ってる時間って、妙にそわそわしちゃうんだよな。
周りの人はみんな窓口の人と話し込んだり、忙しなく動き回ったりしてるのに、自分だけボーっとしてるっていうか・・・。
そんなことを考えながら数分間待っていると、受付さんがカードを手に現れた。大きさはクレジットカードより少し大きいぐらいだろうか。
生成り色のカードはかなりシンプルなデザインで、黒い文字で名前やジョブが書かれていた。達成した依頼が書かれるはずの欄は、当然ながら空白だ。
「お待たせいたしました、こちらがサイトさんの冒険者カードです」
「おぉ、ありがとうございます!これで俺も冒険者の仲間入りだ・・・!」
「はい、おめでとうございます!」
よぉし、ここから俺の異世界冒険者ライフが始まるんだ!やってやるぞー!」