37 レイの事情
魔族の女の子はレイって名乗ったけど、なんだか自信がないようだ。
「もしかして貴女、記憶喪失なのかしら?」
「実は、そうなんです・・・」
なんてこった。記憶もない、仲間もいない、そんな状況であんな目に遭ってたなんて・・・。
「参ったわね・・・誰か頼りになる人のことは覚えていないかしら?」
「ごめんなさい、全部思い出せないんです・・・」
「そうよね・・・身寄りがあるのならそこまで送り届けようかと思ったのだけど・・・」
レイさんの置かれた過酷な状況に、何も言えなくなってしまった。
どうしよう、こういう時なんて声をかけるのが正解なのかわからない。
「なぜこの街に来たのかは覚えているかしら?」
「えっと、この街には冒険者になりに来たんです。もともと他の街で仕事を探していたんですけど、魔族のボクを雇ってくれる所なんてどこにも無くて・・・。それで、冒険者が集まるこの街なら、ボクでもなれるかもしれないと思って来たんです」
「なるほどね・・・」
そっか・・・深い事情なんて何も考えず、あの場だけ助けてはい終わり、ぐらいに考えてた自分を殴りたい。
よし、決めた!そういうことなら・・・。
「それなら、一緒に冒険者として旅をしませんか?」
「え・・・」
「またいきなりそんなこと言いだして・・・」
「今回は俺なりにちゃんと考えたんだ。要は、なんだかんだ助かったとは思うけど、頼れる人も仕事もなくて困ってるってことだろ?もともと冒険者になりに来たならちょうどいいしさ。記憶だって、世界中を旅してたら何かのきっかけで戻るかもしれないだろ?」
「それは確かにそうだけれど・・・貴女はそれでいいのかしら?」
「それは・・・だ、ダメですよ!」
あれ・・・やっぱり俺嫌われたのかな。
「お気持ちはすごく嬉しいんです。でも、これ以上お二人にご迷惑をおかけするわけにはいきません!それに、ぼ、ボクなんかじゃお二人の旅についていくなんてとても・・・」
「うーん・・・」
確かに、俺には{成長加速}のユニークスキルがあるし、アリスはもともと人間離れした実力だ。
今はとりあえず勇人さんを探してるけど、最終的には魔王を倒すことになるかもしれない旅に、か弱い女の子を誘ったのはまずかったかもしれない。
レイさんは良い子そうだし、もし魔王がほんとは悪いヤツだったら協力してくれそうではあるけど・・・。
「それなら、私たちの役に立てるようなジョブに就けたら加入ってことで、どうかしら?」
悩んでいると、アリスが提案を出してくれた。
「役に立てるようなジョブ、ですか?」
「ええ、私は魔拳士、サイトちゃんは盗賊なの。もう少し仲間が欲しいと思っていたところだったのよ」
確かにいい考えかもしれない。ジョブにさえ就ければ、戦えないってことはないだろうし。
でも・・・
ちょいちょい、とアリスの肩を叩いて耳打ちする。
「もしジョブに就けなかったらどうするんだ?」
「大丈夫よ、魔族は大抵魔力が高いから、おそらく魔法使いのようなジョブが出るはずよ」
「そうなのか」
良かった、それなら安心だ。
「お二人がそれでいいのなら・・・」
「ええ、もちろんよ」
「うん、大歓迎だよ!パーティにもう少し華が欲しいと思ってたんだ」
「ちょっとそれどういうことかしら?華ならもう十分あると思うのだけれど?」
「あ、いや、えっと・・・ほら、りょ、両手に花って言うだろ?」
「ふーん・・・サイトちゃんたら意外と欲張りさんなのね」
「あ、あはは・・・」
そういうわけで、とりあえずレイさんと一緒に才能の試金石に触れに行くことになった。
紅茶と焼き菓子を堪能しギルドに着くと、ギルドマスターのガイラスさんが慌ただしくしていた。
「こんにちはー」
「おぉ、お前さんは昨日の!ん?その子は・・・」
「は、はじめまして。レイといいます」
「魔族の少女・・・もしやお前さんらがさっきギルドの前で発生したっていう騒ぎを解決したのか?」
「ええ、そうよ」
もしかして、ガイラスさんが慌ただしくしてるのってそのせいなのかな・・・?
「そうか、また助けられちまったな。実は最近魔族を奴隷にしようと狙ってる連中が多くて困ってるんだ」
「あらそうなの?でも妙ね、そんなに大々的に行動を起こしたら、流石に目を付けられると思うのだけど」
「そうか、お前もまだ聞いてないのか」
「あら?何かあったの?」
「ここじゃなんだ、お前らこっちに来い」
ガイラスさんに言われ、奥の個室に案内された。
「それで、何があったのかしら?」
「ああ・・・実はな、魔王が暗殺されたらしい」
・・・・・・!?!?
「ええええええええ!?」
「なるほど、そういうことね。だからあんな連中が現れたのね」
いやアリス受け入れ早!
「ああ、混乱を避けるために、まだ正式に発表はされていない。だが、広まるのは時間の問題だろうな。目ざとい連中は"黙認"されるだけの後ろ盾がなくとも、奴隷商売で金儲けするチャンスだと魔族を狙ってやがるんだ」
は、話が急すぎてついていけない。
え、俺の役割は?勇人さんは?
「誰にやられたのかはわかっているのかしら」
「それはまだなんとも。人間による仕業かもしれねぇし、過激派の魔族によるものかもしれねぇ。だがそのどちらにしろ、次の魔王は過激派の魔族がなる可能性が高いだろうな」
「そうよね・・・」
どうなってんだこの世界は・・・魔王を倒せって言われて来たのに、俺と同世代の勇者が先に来てるし。
かと思えば魔王は穏健派のいいやつで、既に暗殺されてるって・・・。
もしかして、女神様はこの事を知ってて俺を異世界に飛ばしたのかな?
それなら辻褄は合うけど・・・もう勇人さんが来てるはずなのになんでだろう?もしかしてもう亡くなってるとか・・・?
だー、わからん!ってそうだ、レイさん!レイさんだってかなりショックなんじゃ・・・。
そう思ってレイさんのほうを見ると、声こそ上げていなかったものの、不安そうにも辛そうにも見える、かなり苦い顔をしていた。
そりゃそうだよな・・・さっきの話の通り過激派の魔族が新しい魔王になったら、レイさんが守られる理由がなくなっちゃうし。
もしかしたら、レイさんが記憶を失った理由とも関係があるかもしれない。
とにかく、きっと不安なはずだ。俺達だけでも味方になってあげないと。
「大丈夫ですよ、レイさんは俺達が守りますから」
「ふぇ、あ、はい!」
いきなり話しかけたからか素っ頓狂な声で返されたけど、レイさんの表情は少し明るくなった。
「話してくれてありがとう、ガイラス」
「おうよ。まあ、あの嬢ちゃんのことでなんかあったら頼ってくれ。ギルドマスターとして力になることは出来ないかもしれないが、個人的になら力になれるからよ」
「ええ、助かるわ」
ちょうど向こうの話も終わったようだ。
まだまだわからないことだらけだけど、強くならなきゃいけない理由が増えたことは確かだな。
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