34 事情聴取と報酬
わちゃわちゃと話しながら歩くこと数分。俺達は時計台兼ギルドに着いた。
遠くから見た時は時計台の部分しか見えてなかったけど、下のほうはヴァレッサとそんなに変わらないデザインだな。
ヴァレッサの街のギルドに、ビッグベンの時計塔部分をくっつけたといえばわかりやすいだろうか。
時間を見て驚いたけど、ダンジョンに入ってから4時間ほどしか経過していなかった。
時間帯は・・・お昼をちょっと過ぎたとこか。
そういえばおなかがすいたな・・・これが終わったら宿屋に戻ってご飯にしたいな。
なんて思いつつ、救助隊こと対応部隊の人たちに連れられてギルド内へと入った。
「おぉ、第3部隊!無事に帰ってきたか!報告してくれ!」
「はい、我々が発見したのは件の狼達の死体と、彼らです」
俺達を出迎えてくれたのは、ガタイのいいおじさんだった。アリスといい勝負なんじゃないか?
第3部隊と呼ばれた対応部隊のリーダーが俺達を手で示しながら、おじさんに見てきたことを報告している
「んん?おぉ金碧の!ガッハッハ!そうか、お前さんが狼どもを倒してくれたんだな?」
のだが、おじさんの視線は俺達の後ろに立っていたアリスに吸い寄せられてしまったようだ。
「いえ違うわ。倒したのはサイトちゃんよ」
「おいおい!俺達も忘れんなよ!」
俺が倒したと主張するアリスに、カマセーヌさんが補足する。
「なに!?そこのちんちくりんが倒したってのか!?」
「ち、ちんちくりんって・・・」
確かにこのおじさんやアリスと比べたらそうかもしれないけど、心外だな!
「あぁ、悪い悪い!昔からつい思ったことが口に出ちまう性質でな!」
「相変わらずね、ガイラス」
「ん?知り合いなのか。というか、この人は誰なんだ?」
「んん?あぁ、名乗っちゃいなかったか。俺はガイラス!このガムーザのギルドマスターをやってんだ、よろしくな!」
ギルドマスター!?そういえば、ヴァレッサの街でも会ったことがなかったな・・・。
よくみたら確かに、男性のギルド職員がよく身につけている緑を基調とした制服・・・に似た服を着ている。
普通の職員が着ているのとはちょっとデザインが違うし、何より筋肉が凄すぎて胸のボタンが閉まってないから気付かなかった。
「よ、よろしくお願いします」
「ああ。それで、一体どういうことなんだ?」
「はい、実はかくかくしかじかで・・・」
「口でかくかく言ってもわからんぞ」
どこかでしたようなやり取りの後、部隊のリーダーが詳しい事情を報告し始めた。
「・・・というわけです」
「ふむ・・・他の部隊が保護した冒険者の証言と照らし合わせるに、おそらくその3体のシルバーウルフと、1体のダークウルフで全てだろう。よくやった!」
「はい。いえ、倒したのはそちらの方々ですが」
「あぁ、そうだったな。しかし、名簿にある情報からして、とてもあの狼達を倒せるとは思えないが・・・」
ガイラスさんは手元の資料を見ながら、考え込んでいるようだ。
「名簿?」
「あぁ、ダンジョンの入り口で門番と話すだろ?そこでどんなヤツが入ったか記録してんだ。ところで・・・確かサイトって言ったか?お前の情報は名簿に載ってないんだが、どういうことだ?」
やべ!言われてみればここのダンジョンに入る時、誰とも話さなかったぞ!?
そういえば前のダンジョンでは入り口で冒険者カードを見せて入ったよな・・・。
「君ら3人も、名前を聞こうか」
「お、おう・・・えーっとだな・・・」
カマセーヌさん達も名前を聞かれて焦ってる。もしかして、俺達不正にダンジョンに入ったんじゃあ・・・。
「どうした?言えないのか?まさかお前らがこの騒動の犯人ってわけじゃないだろうな?」
まずい、疑われてる!ほんとのことを言わないと・・・。
「い、いや違いますよ!俺が入ったときは門番の人が居なくて・・・」
「そ、そうだそうだ!確かにいなかったぞ!」
俺の証言にカマセーヌさん達も同意してくれた。
「門番が・・・?少し待ってろ、確認してくる」
うぅ・・・なんだか空気がピリピリしてきた。ガイラスさん、すごい迫力だ・・・。
張り詰めた空気の中、数時間にも思える待ち時間の後、ガイラスさんが二人の職員を連れて戻ってきた。
「すまない、確かに新人の職員が空けていた時間があったようだ」
「このバカ!だから持ち場を離れるなと言ったんだ!」
「す、すみません・・・!」
良かったぁ・・・なんとか誤解が解けそうだ。
「とはいえ、勝手にダンジョンに入ったのは褒められたことではないがな」
「う、ごめんなさい!」
「サイトちゃんはまだ冒険者になって間もないから、門番が居なくてもあまり疑問に思わなかったんじゃないかしら」
俺がガイラスさんの正論にたじたじになっていると、アリスがフォローしてくれた。
「何?そういえば君たちの素性をまだ聞いてなかったな。冒険者カードを出してくれるか?」
「あ、はい!」
「お前ら早く出せ!」
「あ、あぁ!」
「おう・・・」
ガイラスさんは俺達4人の冒険者カードを受け取ると、真剣な面持ちで見始めた。
「バカな、本当にお前たち4人で倒したのか!?」
「え、は、はい」
「まあほとんどそこのガキが倒したようなもんですけどね」
「バカ!余計なことを言うな!報酬の取り分が減ったらどうする!」
「す、すまねぇ・・・」
情報を補足した仲間にカマセーヌさんが怒った。
やばいな、今度はカードの偽造とでも言われるんじゃないか・・・?
それでなくとも、かなり目立ってることには違いないし、どうしよう。
「そっちの3人は知らないけど、サイトちゃんの実力は私が認めるわ。倒せたのは爆炎石を使ったかららしいけど」
「ふむ、そうなのか?」
「はい、確かにダークウルフを含め2匹の死体には焼け跡がありました」
「金碧の意見もあることだし、事実、か」
良かった・・・!アリスとリーダーのおかげでなんとか信じてもらえそうだ!
「わかった。門番の許可無しにダンジョンに立ち入った件に関しては、ギルドの落ち度もあるので不問としよう。それとは別に報酬についてだが・・・」
「報酬!」
再びカマセーヌさんが"報酬"の2文字に食いつく。さっきまで疑われて縮こまってたのに、調子のいい人だな。
「君たち3人とそこのサイトという青年は別のパーティか?」
「あ、ああ。そうだ」
「それなら、サイト君には16ゴールド、君たち3人には一人当たり5ゴールドずつ出そう」
「おぉ・・・お?なんでこのガキ一人のほうが俺ら3人の取り分より多いんだよ!」
「それは当然だろう、聞けばほとんど彼一人で倒したそうじゃないか」
「うぐ・・・くそ、仕方ねぇか・・・」
16ゴールド・・・!?ものすごい額じゃないか!命がけで戦ったかいがある!
「それからサイト君、君は俺の権限でDランクに昇格させてもらう」
「「「「Dランク!?」」」」
カマセーヌさん達と綺麗にハモった。
俺今、Fランクなんですけど!?一気に2つも昇格なんてアリなのか!?
「ちょ、ちょっとまてよ。俺達は?」
あまりに突然の話に、カマセーヌさんが疑問を投げかける。
「君らにはポイントの付与だけだ」
「嘘だろ・・・俺らだってまだEランクなのに・・・」
どうやらカマセーヌさん達のランクを追い越してしまったようだ。
「本当は最低でもCランクにしたかったんだがな。急激に上げすぎるのも良くないだろう」
「それにしてもDって・・・ほんとにいいんですか?」
「ああ。お前さんがFランクというのはあまりに不相応だからな」
「あ、ありがとうございます!」
そんなこんなで、16ゴールドという多すぎる報酬を貰った上、いきなりDランクに昇格してしまったのだった。
ちなみに他の対応部隊の報告によると奇跡的に死者は出ておらず、狼達も俺らが倒したので全てだと確認が取れたらしい。良かったー!
その後、細かな事情聴取を受け、宿屋に戻る頃にはすっかり夕方になっていた。
「腹減った・・・倒れそうだ・・・」
「お疲れ様ねー。もう夜ご飯の時間ね」
「ギルドに着いた頃にはもうおなかすいてたのに、結局こんな時間だよ・・・なんでもいいから食べたい!」
待ちに待ったご飯はヴァレッサで食べたものに似ていたが、あちらよりも野菜が多めで美味しかった。
空腹が一番のスパイスってのはほんとだな。
でもそろそろお米が食べたいな・・・。こっちの世界には無いんだろうか。
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