33 帰還
「ハァ・・・ハァ・・・へ、へへ。や、やりやがった・・・」
「お、終わったのか・・・?」
「助かった・・・!」
才人の{急所突き}によりダークウルフが倒され、倒れていたカマセーヌ一行に活力が戻った。
「あいつは・・・気絶しちまったか」
「ってこたぁ、チャンスじゃねぇか?今のうちにマジックバッグをよ・・・」
盗賊のアルセーヌが当初の目的について触れる。
「バカ野郎!たった今命を救われた相手から盗みなんざ出来るか!」
カマセーヌにも一応は小さなプライドがあるらしく、マジックバッグについては諦めるようだ。
「そ、そうだな。わりぃ・・・ところで、ポーションってもう無いのか?」
「俺の分は全部、馬車に乗る時に御者に渡しちまったよ。金が足りなかったからな」
「俺もこの前使い切っちまったぞ」
「・・・どうすんだこの怪我で。ガキものびちまってるし」
「あのガキが持ってんじゃねぇか?」
「「「・・・・・・」」」
「よし、盗るか」
小さなプライドはどこへやら、結局ポーションだけは盗むことに決めたようだ。
「マジックバッグに5本入ってるぞ」
「んじゃあ俺達で1本ずつ、ガキには2本やろう」
「ふぅー、生き返った」
「ああ、ガキがポーションを持っててくれて助かったぜ」
「助けられちまったな・・・」
「ああ、だが油断は出来ねぇぞ。まだあの狼が居やがるかもしれねぇからな」
「!そ、そうか・・・」
「今のうちにガキにも飲ませちまおう、街まで担いでいくのは御免だしな」
気を失っている才人に少しずつポーションを飲ませていく。
特に酷い左腕の怪我には直接ポーションを振りかけた。
「誰か居ますかー?居たら返事をしてくださーい!」
そうこうしていると、どこからか声が聞こえてきた。
「!」
「もしかして、救助隊じゃねぇか!?」
「ああ、助けが来たんだ!」
「おーい!こっちだー!」
「こ、これは・・・」
駆けつけたのは、Cランクの冒険者が4人と・・・
「サイトちゃん!?」
アリスだった。
「ここで一体何が・・・まさか、あなたたちが全部倒したのですか?」
「あ、ああ。一応な・・・」
狼達の死体が転がり、煙の臭いが残る有り様に驚くのは、ギルドが手配した対応部隊のリーダーだ。
「サイトちゃん!サイトちゃん!助けに来たわよ!」
「ん、んん・・・」
なんだ・・・?俺を呼ぶ声がする・・・?
俺は一体・・・そうだ、確か狼達を倒して・・・それから・・・
「サイトちゃん!」
「うわぁ!?!?」
目を覚ますと、アリスの顔面がド至近距離にあった。
びっくりして起き上がったら危うくキスしそうになったので、慌てて後頭部を地面に叩きつけるように回避した。
痛ぇ・・・なんで起きてそうそう頭を怪我しなきゃいけないんだ!
・・・あれ?怪我といえば、左腕がひどいことになってたはずだけど、治ってるな。
寝てる間に治してくれたのかな?
「良かった、目を覚ましたわね。もう!何があったのよ」
「あー、まあそれはかくかくしかじかで・・・」
「口でかくかく言ってもわからないわよ」
「ちぇー・・・」
仕方ないので、いつのまにか居た冒険者達にも事情を説明した。
「というわけなんだ」
「なるほどねー、それにしてもよく勝てたわね・・・シルバーウルフはともかく、ダークウルフまで居るじゃない」
「ああ。それはほら、昨日ダンジョンで手に入れた爆炎石を使ったんだよ。あれが無かったら多分全滅してた」
ほんと、運が良かったよな・・・。
こういうアイテムはいっぱい持っておいたほうがいいな。せっかく{アイテムボックス}のスキルもあることだし。
「それはそうと、アリスはどうしてここに?」
「街で騒ぎになってたからよ。ダンジョンにとんでもないモンスターが出たー、ってね。それで、サイトちゃんが巻き込まれてるんじゃないかと心配して、対応部隊に混ぜてもらったのよ」
「そっか・・・」
そんな騒ぎになってたなんて知らなかったな。この人達以外には誰とも会わなかったけど、誰かが知らせたのかな?
「心配かけちゃったな、ごめん」
「ほんとよ!でも無事でよかったわ」
「うん・・・。来てくれて助かったよ、これで安心して街まで戻れるな」
倒した狼の死体はギルドに運ばれることになった。
灰になってしまわないよう、持ち帰って調査するらしい。死体が残るということは、この狼達はダンジョンの産まれではないからだ。
「ふぅー!なんだか久しぶりの地上って感じだー!」
帰り道では特に何もなく、無事に帰還することが出来た。
「それでは、このままギルドに行きましょう。皆さんには事情聴取と、討伐報酬が待っているはずですから」
「報酬だって!?俺達にもあんのか!?」
"報酬"という言葉にカマセーヌが食いつく。
「え、ええ。もちろんです」
「いやっほー!わざわざガムーザに来たかいがあるってもんだぜ!」
「やったなぁ!」
みんなさっきまであんな死闘をしてたとは思えないほど、大声で喜んでるな。
「元気いいですね。えーっと、カマ・・・」
「カマセーヌだよ!カマなんとかって言いやがったから、斧ぶん投げた時にも名乗っただろ!」
「ああ、そうでした」
カマセーヌさんか。よし、覚えたぞ。
「ったく、カマ野郎はアリスだけで十分だっての」
「あ゛あ゛!?」
「あ、いや、いい意味で!」
「あらそう?ならいいわ」
・・・それでいいのか?
「彼らが狼達を倒したようですね・・・。ふむ、どうやら勘違いだったようです」
才人達を影から見つめる謎の男。黒衣に身を包んだ彼がそう呟くと、強い風が吹いた。
風にあおられ、フードから覗くのは長く、先の尖った耳。
「他をあたりましょうか」
そう言うと、あっという間に人込みに紛れてしまった。